うちの姉様は過保護すぎる。   作:律乃

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一話で終わらそうと思ったら、思ったよりも筆が乗ってしまった……(汗)

ということで、皆さんお待ちがねの……いいえ、お待たせしてしまったお風呂回の前半戦です!

作中にて登場する装者のみんなのホクロ場所は私のオリジナルとなっております。

それを踏まえた上で……本編をどうぞ!!


006 シュレンディンガーのキス~(しょう)~

眠りの海原の上にプカプカと浮いている僕の身体を右、左、右、左、と心地よいリズムで波が揺らすのに任せ、身体に広がる優しい暖かさ……そう、まるで木漏れ日のような温もりへと縋るように自分の方へと手繰り寄せながら、僕はスヤスヤと深い眠りへと付いていた。

 

「……う、歌兎」

 

そんな眠りの中、上下の揺れと共に見知った声が聞こえ、ゆっくりと意識が覚醒していく。

 

「…ふぁ?」

 

まず目に入ったのは、襟首が黒く、肩が✖️(ばってん)型に露出している黄緑色の長袖でそこから顔を上げると寝起きの僕へと雲の隙間から優しい光を大地に注ぐ太陽のような優しい笑顔を浮かべている姉様が出迎えてくれる。

 

「おはようございます、歌兎。お風呂についたデスよ」

 

涎が垂れていたのか、僕の頬を拭った後にキョロキョロと辺りを見渡している僕へと小首を傾げる。

 

「…え……でも僕、了子お姉さんにメディカルルームへと顔を出せって」

「その用事ならさっき済んじゃったデスよ。了子さんの質問にしっかり答えていたのに、あの時からもう寝てたんデスか?」

 

"困った子"というようにクスクスと笑った姉様は僕を深い桃色の絨毯に静かに下ろした後に辺りを素早く見渡してから入り口付近の横に設置してある団欒コーナーに設置してある紙コップ式の自販機で水を押して、水が入った紙コップを僕へと差し出すのを素直に受けると紙コップへと唇を付けてからゴクゴクと程よく冷たい液体を体内へと取り込む。

 

「はい、さっきまで寝てましたからね」

「…ありがと、姉様。…ごくごく」

 

使った紙コップは自分でゴミ箱へと片付けてから、トコトコと豪快に私服を脱いでいる姉様の隣で僕もゆったりと私服であるパーカーのファスナーを下へと下ろしてから肩から外して、目の前にある籠へと入れると続けて、Tシャツを脱ごうとして、隣にいる姉様に話しかけられる。

 

「歌兎、一人で出来そうデスか?」

「…ん、できーー」

 

隣を向いて答えようとした時には既に上半身を脱ぎ終えていた姉様がいて、僕は半裸状態の姉様に絶句する。

 

「ーー歌兎?」

 

絶句する僕に心配そうな表情を浮かべる姉様の顔を見ることが僕には出来なかった。

理由は露わにされた上半身で……僕には似ても似つかぬ同い年の人よりも大きな実りをつけた双丘が織りなす谷間から視線を下に下ろすと細身なのに日頃の訓練や毎朝のランニングによりしっかりと縦線に割れた筋肉に同性で家族なのについ見惚れてしまう。

 

(だがしかし)

 

前々から思ってたけど、姉様って全然プニってなんていないよね。過去の姉様がやらかしてしまった数々が綴られ、イガリマによって歌にされたアレの一節には"プニったお腹も"的な事を言っていたものがあったけれども……。

 

(縦に線が入ってるんだよ!? しかもこんなに細っそりしている上に少し身動きするだけで揺れる大きな胸まで……)

 

なんかイラってしてきた……。

 

「ちょっ……歌兎っ!? なんでいきなり、あたしのお腹を突つくんデスかぁ!? やめっ……本当にやめて……擽ったいって……っ」

 

姉様のお腹に両手を添えて、摘んでみても僅かに肉が挟めるくらいでこれは脂肪ではなく皮ではないだろうか? こっそり僕のお腹も触ってみたけど僅かどころじゃなかった……。

 

「…摘んでもほんの少し。これでプニっているなんて可笑しい」

 

これでプニって太っているって認識されているのなら、僕なんて子ブタさんじゃないか。胸も成長期に入っているかすら分からないし、身体つきは華奢とか言われているけど……簡潔にいえばスットンだよ? 何も凹凸もないから病衣着た時に虚しくなるんだよ!? なのに、姉様ときたらーー。

 

「な、なんで怒ってるのっ? 歌兎」

「…怒ってなんてない。姉様が贅沢者だから戒めてるの」

 

そう言いながら、くびれの部分やお臍の辺りへと指先を這わせて、むにむにと姉様の皮を摘む。

 

「いまし……って本当に擽ったいのっ。やめっ……歌兎ってば」

「こら、歌兎。切歌が困ってるだろう、やめないか」

「…翼お姉ちゃん」

「珍しいな、姉妹喧嘩なんて」

 

右肩を後ろへと引かれて、トンと柔らかいものにぶつかり、凛々しい声が聞こえて上を見上げると普段はサイドテールにしている青い髪を下ろして、胸元にタオルで隠している翼お姉ちゃんが見下ろしており、その後ろから赤いロングヘアを揺らして僕たちへと近づいてくる奏お姉ちゃんがいる。翼お姉ちゃんの助けにより僕の擽り地獄から逃れられた姉様は息を整えながら、今だに怒っている様子の僕に困惑している様子だった。

 

「はぁ……はぁ……、あたしは喧嘩しているつもりはなくて……よく分からないデスが、歌兎がいきなり怒ってきたんデス」

 

そのセリフを聞いて、青い瞳と赤い瞳がこっちを見ているのを感じて、頬をプク〜と膨らませるとふて腐れたように理由を言う。

 

「…姉様が贅沢者だから戒めてたの。世の中には僕みたいなちんちくりんもいるんだから。安易にプニってるって言葉を使って欲しくない」

「にゃ?」

「…くっあははっ」

 

僕の動機に姉様は黄緑色の瞳をまん丸にし、奏お姉ちゃんに至っては数秒フリーズしてからお腹を抱えて笑い出す。

 

「奏っ。歌兎は真剣な話をしているんだから笑うべきではないわ」

「いやー、可愛いもんじゃないか。要は歌兎は切歌のプロポーションが羨ましくて嫉妬しているだけなんだろ? 歌兎の年頃なら誰だって悩む可愛らしい悩みじゃないか」

「そういうことなのか?」

「………」

 

プイと無言で横を向く僕に奏お姉ちゃんの言っていることが肯定である事を察した翼お姉ちゃんは微笑ましそうに僕の頭を撫でると奏お姉ちゃんと共に浴室へと颯爽と入っていた。

翼お姉ちゃんから預けられた僕の目の高さを合わせた姉様は今だに不機嫌な僕に頬をかくと優しい口調で話しかけてくれる。

 

「ねぇ、歌兎。お姉ちゃんは今の歌兎の身体つきでもいいと思うよ」

「…ちんちくりんなのに?」

「ちんちくりんなんてことないデスッ! 歌兎の小さくて腕の中に収まるサイズがあたしは大好きで毎日抱きしめてないと悪い夢見てしまうほどなんデスよ! それに小さいからなんだっていうんデスッ! 小さいなら小さいなりの良さがあるってもんデスッ! そう、例えば 自分の手でそだーー」

「ーー姉様、もういいっ。もういいからっ。姉様の熱意も愛も伝わったからそれ以上はやめよ」

「妹にドン引き気味に止められ、諭されたデスっ!?」

 

喚く姉様の目を真っ直ぐ見つめると騒いでいた声も小さくなっていく。

 

「…いつか、姉様のようになれるかな?」

「なれますとも! もしかしたら、あたしよりも素敵な女性になってるかもしれませんよ」

 

ニカッと笑う姉様につられるように薄く笑うと残りの私服を脱ぐと姉様に手を繋がれながら、浴室へと入っていく。途端、垂れ目がちな黄緑色の瞳と眠たそうに半開きしている黄緑色の瞳がだんだんと大きくなっていく。

 

「ふわぁ……」

「…大きい」

 

浴槽は温度毎に分かられているようで、恐らく右端にある小さな円が一番温度が低く、そこから左側に行くにつれて円も温度も上がっていくと仕様なのかもしれない。

 

「まずは身体を洗いますよ。椅子に座ってください」

「…ん」

 

ゴシゴシと前を洗っている間に背中を洗ってもらい、頭を洗ってもらった僕はさっき迷惑をかけてしまったお詫びとして姉様の背中をゴシゴシと誠意を込めて洗い、髪をザザッと洗った後に円が小さな浴槽に向かって歩き出す。

 

「タイルが濡れているんで騒いだりしたらメッデスよ」

「…ん」

 

手を引かれるように浴槽に近づいて分かったことは円周は椅子のようになっており、円の真ん中はその一段下がった場所にあるようだった。

 

「…シラねぇとセレねぇだ」

「あ、本当デスね」

小さな円に近づくとそこには既に先客がおり、一人は長い黒髪を後頭部でお団子にして白い肌をほんのり赤く染めているシラねぇで、もう一人はそのシラねぇの隣に座り、茶色の髪をシラねぇと同じくお団子にして肩へとお湯をかけているセレねぇだ。

 

「隣にお邪魔するデス」

「…おじゃまします」

 

と歩いてきた方向から近かったセレねぇの隣へと断りを入れてから腰を落とした姉様とその膝の上にちょこんと座る僕を交互に見てからセレねぇとシラねぇが話しかけてくる。

 

「暁さん、歌兎ちゃんのメディカル終わったんですか?」

「えぇ、さっき終わったのでお風呂に入りにきたんデスよ。でも、あまり長くお湯に浸からない方がいいかもしれないデスね……。歌兎、さっきまで寝てたので」

「そんなんだ。なら、あまり長湯しない方がいいかも」

「…さっきお水飲んだから大丈夫」

「大丈夫じゃないから言ってるデスよ」

 

トンッと頭へと手刀を落とされ、頭を抑えた僕はそこからは姉様へと身体を預けて、湯にゆっくりと浸かることで疲れを取っていく。

 

そんな僕をギュッと抱きしめながら、姉様は楽しくシラねぇとセレねぇと他愛ない会話を交わしていく中、僕はふと気になるワードを見つけてしまう。

 

「調の二の腕のところ、ホクロがあるんデスね」

「え? どこ?」

「ここだと思いますよ、月読さん」

 

(……ホクロ?)

 

その三つの文字がなんで、こんなにも気になるんだろう……。

 

考え事をしていく中、段々と顔が水面へと下がっていく僕に構うことなく、姉様達の話とスキンシップは続いていく。

 

シラねぇの左二の腕にホクロをつんつんと指で突くセレねぇによってホクロの存在に気づいたシラねぇは驚いたような顔をする。

 

「こんな所にあったんだ。気づかなかった」

「分かりにくい所にありますもんね」

「そういうセレねぇは鎖骨の下にあるんデスね。小さくて可愛いデス」

「ホクロが可愛いってなんだか複雑です」

「なっ!? そういう意味で言ったわけじゃなくてデスね……」

「なら、そういう切ちゃんにはホクロないの?」

「あたしデス? あたしはどこにあるんでしょうね?」

 

シラねぇに尋ねられ、自分の身体を見下ろす姉様と同じように僕も水面に映る僕自身の顔を……正確的には僅かに空いている桜色の唇越しに朝の出来事を思い出そうとしていた。

 

(あの時……トイレでハンカチを顔にかけられて、"誰か"にキスされた時……僕はキスをしていく際に身動きをして僅かに動いたハンカチの隙間から"胸元に隠れるように並んでいる二つのホクロ"を見たはずだ)

 

そう、ホクロ。

 

なんで今まで忘れていたのだろう、そのヒントをッ!

そして、今こそそのヒントを元に"僕にキスをした誰か"を探し出すベストタイミングじゃないかっ。

 

「…!」

 

"こうしては居られないッ"と姉様から突然立ち上がった僕に楽しく雑談していた仲良し三人娘はピタリと動きも会話も止めて、僕をまじまじと見上げてくる。

 

「歌兎? どうしたデスか」

 

と沈黙を破った姉様の質問に僕は頬をかくと二番目に大きい浴槽の方へと視線を向ける。

 

「…折角だから、全部の浴槽に入ってみたいなぁ〜って思って」

「そうなんデスか。でも、浴槽は逃げないんデスから……そんなにあわてなくてもいいのに」

 

クスクスと笑う姉様と"あまり長湯しない・姉様が呼びにきたら素直に上がる"の二つを約束してから、僕は真ん中に位置する浴槽へと近づいていく。




完全に銭湯感覚で書いちゃったけど……S.O.N.G.が用意した施設ならありそうだよね? いや無いのかな………(不安)

上の歌兎ちゃんが切ちゃんに襲いかかるというよりもプロポーションに嫉妬するシーンは私が歌兎ちゃんの立場なら間違いなく嫉妬するなぁと思い、書いたものです。
彼女も思春期の女の子ですからね……他人のプロポーションと自分のを比べて、もっと成長したいと思うことがあると思うのです。
なのでね、嫉妬歌兎と切ちゃんとのやりとりが思った以上に楽しすぎて筆が進んでしまい、二つに分けることになりましたが……思春期の女の子ならではの可愛い悩みを入れてみました(笑)


最後に、明日7/17にいよいよ切ちゃんのキャラソンと水樹奈々さんのXVのOPが発売されますね!!!!(うおおおおおおおおおッ)
どちらも是非ゲットして聴きまくりたいものです!! というよりも切ちゃんのキャラソンは予約しているので、色んなところで聴きまくろうと思います(ニヤニヤ)

また、遅くなっちゃいましたが……XVキャラソンのクリスちゃんとマリアさんのジャケットイラストがかなり前ですが発表されましたね!!!
クリスちゃんの横顔かっこよすぎで、凛々しい顔立ちのマリアさんもかっこよすぎでしょう……(ジーン)
そんなかっこいいお二人のカップリング曲がね……特にマリアさんのがヤバい……(既に涙目)

私、響ちゃんのカップリング曲【キミだけに】でも号泣したのに……(滝涙)

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