これから続く一年が二人にとってはっぴーにゃっぴーな。はっぴーすまいるのような笑顔に包まれる日々になる事を。
切に、切に、私は願ってますッ!
そして、いつも私に癒しを、元気を届けてくれて…だんだん (←ありがとうの意)
4.
「…姉様、今日は何処を探検する?」
ギュッとあたしの右手を握りしめて、廊下の中央に立ち止まり、いつものように見上げてくる
というのも理由も分からず。過去に戻ってしまってからというもの、あたしは"情報収集"、そして"妹と共に行動を共にするための口実"として"寝泊まりしている建物とその周辺の探検"を日課というには大げさだが、行なっている。
だが、その"探検"も日数を重ねれば、二重になってしまう箇所が多くなる。
只でさえ
妹のあまりの可愛さについつい可愛がりすぎてしまうのもやむおえまい。もしやするとこれを人は過保護というのだろうか?
(でもでも。こんな可愛い子を可愛がらないなんてお姉ちゃん失格デスし、何よりも––––)
「––––…えへへ…」
頭を撫でてあげるだけでここまで愛らしい笑みを浮かべられるものなのだろうか。
可愛いってものじゃない。カワイイ曰くKAWIIだ。ううん、そのKAWAIIも何億回も上限解放して、KAWAIIでは言い表せないほどだ。
きっと妹は"大袈裟"と言うと思うがあたしにはそんな彼女が天使に思えるし、彼女の姉に生まれてきて本当に良かったと思える。
だから、その感謝を伝えるためにあたしは全力で妹を可愛がるし、甘やかす。
過保護なんて単語はとっくの昔に頭の辞書から引き抜いた。
「今日は歌兎の行ってみたいところに行きましょうか」
「…ほんと?」
「ええ、本当デス」
妹の目高さまで腰を折り、小首を傾げる歌兎にコクンと首を縦に振ってから手を差し伸べる歌兎の掌に自分のを添えようとした時に角から見知った黒髪が姿を現す。
「ここに居ましたか、切歌。それに歌兎も」
「…マム。どうしたの?」
あたしから離れ、角から現れたマムへと駆けていく妹の後を追いながら、自動車椅子の近くまで駆け寄る。
駆け寄ってきた歌兎の両手を優しく握っていたマムはあたしを見上げると優しい表情から真面目な表情へとシフトチェンジする。
「数日前に話した事を貴女のお姉ちゃんと話し合いたいと思いまして…切歌を探していたのです」
"こう言えば、もう要件は分かるでしょう? "と見上げてくるマム。そのマムに両手を握られて、形良い眉を八の字にし、小首を傾げる歌兎を交互に見た後にあたしは意を決するとマムに提案する。
「マム。その話し合い、この子も一緒でいいデスか?」
マムと歌兎の両目が丸くなるのを感じながら、一歩前に出てからとんとんと歌兎の頭を撫でる。
「マムのその表情からその話し合いの内容をこの子にも伝えるべきだと思うんデス」
「…?」
「本当にいいのですか?」
マムの問いかけに『もちろんデス』と答える。
マムが険しい表情をするのだ、きっとロクでもない話だろう。だが、今は少しの間でもこの子と離れるのが怖い。ちょっと目を離した瞬間にドクターに唆され、左腕に《完全聖遺物・ベルフェゴール》を装着され、その先にあの
そういう気持ちがあるから、あたしは妹と日々探検をしているのだろう。
ずっと彼女の側に居るために…。
5.
フロールリジ計画。
その計画を初めて耳にしたのは"白い孤児院"と呼ばれたF.I.S.の研究所だったように思える。
セレナが偶然アガートラームとの共鳴を果たし、F.I.S.初めての装者となった時、レセプターチルドレンの中で同一の者は居ないかと調査が行われ、その調査でマリア、調とあたし。そして、もう一人が選抜された。
選抜されなかった者はあたし達とは別にとある計画へと秘密裏に参加させられていた。
それがフロールリジ計画。
フロールリジ…それはとある女神の別名。
此方を見つめ、懸命に説明する正面のマムからチラッと隣に座り、真剣に話を聞いている妹の横顔、そして右下腹部へと視線を向ける。
過去へと舞い戻ったあの日、妹の現状を知るために一緒にお風呂に入った時に見たのは彼女の下腹部に痛々しく残る手術痕で。
あたしはそれを見た時にこの世界は間違いなく過去であることを突きつけられる。出来れば、その手術痕は無かったことにしたかった。妹だけは、妹には普通の女の子としての人生を歩んでいってほしかったから……。
だが、現実はいつも残酷で。
泡を洗い流す際にそっと手術痕を触った時に柔らかい肌の感触から刺々した固い感触へと変わった。
つまり、其処にはミョルニルの欠片が埋まっているのだと思い知った。
ミョルニル。それはフロールリジと別名で呼ばれた女神。トールが使っていたと言われている槌。
神話の一節ではロキと呼ばれる悪戯好きの神により取っ手の部分を短く切り落とされて握りにくくなり、不恰好なままになってしまったとかいつも焔に包まれており、素手で握れないためにトールはいつもミョルニルを使用するために"ヤールングレイプル"と呼ばれる籠手を必要にしたとか言われている。
そしてもう一つがマムやドクター、当時の研究者達が血眼になって研究していた、このフロールリジ計画の要。その名をメギンギョルズ。
女神トールの神力を倍増させるために着用していた力帯。
その聖遺物を秘密裏に入手したF.I.S.はミョルニルと共にそのメギンギョルズも研究していた。
数多く行われた研究目的を端的にいうと力や能力を倍増させる性質を持つメギンギョルズを装着者の願いで変化させ、あたしや調、マリアがギアを纏う際に使用しているLiNKERの代わりをさせようという研究内容だった気がする。
マムの説明を聞きながら、顎に親指。下唇へと人差し指を添えながら、考え込む。
「……」
LiNKERを打たないでもギアを纏えるように。そして、メギンギョルズの倍増の力でギア、適用者の能力を強めることが出来れば…その研究結果は世界的な偉業として轟くことだろう。
だが、その偉業を成し遂げるために何人のレセプターチルドレンが。子供が。人が犠牲となった?
目先の偉業に目をくらませ、 人をモノのように扱う研究者達が当時から嫌いで、あたしはそのフロールリジ計画の参加者として妹の名前が挙げられた時、マムや研究者達に猛反発し、騒動や問題も起こしたことがある。
あたしのそういった活動のおかげか、メギンギョルズを発動出来る子が居なかったのか……いつの間にか、フロールリジ計画の名前も効かなくなったのだが……。
(まさか、性懲りも無く。こんな事をしているなんて……)
「…この腕輪がそのメギンギョルズなの?」
「ええ」
妹の目の前に置かれた腕輪へと視線を向けながら、思わず大きなため息をつきそうになる。
この腕輪は計画が停止になった時に少数の諦めが悪い研究者達が作り出したものらしい。この腕輪作るために一体何人の犠牲があったのだろうか……考えただけで吐き気がする。
「それでこの腕輪をなんであたしに見せたんデス?」
「…実際に使用してみて、効果を知りたいと向こうが言ってましたね」
なるほど。その少数にとってあたし達装者は彼らが作り出したオモチャの能力を知るために必要な実験動物ってわけだ。
マムには悪いと思うが、やはりあたしはフロールリジ計画の内容もこのメギンギョルズの腕輪を使用することに関しては反対だ。況してや、それらに妹を関わらせることも。
だが、あたしのそんな想いとは裏腹に。妹はジッと腕輪を見つめていたかと思うとそっと自分の掌に乗っける。
「歌兎?」
妹の行動に眉をひそめるあたしをゆっくりと見上げる眠そうな黄緑の瞳には強い意志が灯っており、嫌な予感が身体中を駆け巡り、喉がヒリつくのを感じる。
「…僕、この腕輪を使いたい。使って、マムの。姉様やねぇや達の力になりたい」
小さな唇から流れた物静かな声音に乗せた決意を聞いたあたしは呆然と妹を見下ろし、マムが『歌兎、ありがとうございます』とお礼を言う声も掠れて聞こえ、ゆっくり運命の歯車が狂い始めているのをひしひしと感じていた。
次回 とある日の探検
食糧を買い求めるために少女達は見知らぬ地へと赴く。
黄緑の
ひとときの安らぎの中で彼女らは何と出会う…?
お知らせデース。
次回の後くらいに、改めて"切ちゃん・歌兎"の誕生日エピソードを書いていこうと思ってますので、楽しみにしててください!
また、タグの方の書き直しを行おうと思います。
そして、これも予定ですが……【うち姉ひろば】ってのを活動報告の方に作りまして、裏話等を自由に、適当に載っけていこうと思ってます。
興味がある方はそちらも含め、ご覧ください。