もしも織斑一夏が現実的だったら 作:舞波@現在進行形ゴールデン
あとたったニ話でお気に入り100人になるという驚き。ありがとうございます。
意味知らぬ者達の巣窟
新学期が始まる3日前。俺と円夏はIS学園の正門に立っていた。それにしても昨日は色々と大変だった。思わずふぅ、と息を吐く。
「お兄ちゃんの今のため息って、やっぱり昨日の?」
「まあな。仕方ないが、多少は疲れる」
束さんはストレスを溜め込む性格である。ましてや自分の夢たるISによって現在進行形で苦しむ人がいるのなら当然だ。数カ月に一度の爆発がきてしまったらしく、俺に抱きつきながら世の中への怒りをぶちまけていた。まあ、円夏もクロエも見ていたのだが。何であれ束さんの為にできる事なら何でもする。
それと俺には夢が無い。だが束さんの夢は兵器として使われてしまっている。俺と円夏のISは束さんが『唯一』完全戦闘用に作った物。ISを兵器だのスポーツだの言ってる奴らは許せない。
そんな事を考えていると1人の男性が出てきた。この学園の学園長にして知り合いの轡木十蔵氏である。
「どうも一夏君、円夏さん。ようこそIS学園へ」
「お久しぶりです、学園長。今回の件の協力はありがとうございます。ほら円夏も」
声には出さないものの真面目な顔でペコリと頭を下げる。ちゃんと挨拶ができたのでスリスリと頭を撫でる。
俺達と学園長が知り合いになったのは元々束さんの知り合い…というより相談役だったらしい。かつてISは学会にて否定されたが、唯一肯定してくれたとの事。その縁あって表に出れない束さんの代わりに俺とクロエで訓練用ISの修理をしに来たのだ。そのツテで部屋割りの方も兄妹一緒だ。
「俺達のクラスの担任は誰ですか?」
「申し訳ありません…、織斑先生のクラスに…」
「気にしないで下さい。この時点でかなり融通を利かせてもらっているのは分かります。文句は言いません」
「えっと、学園長先生。あんなの蝿と変わらないですから」
頭を下げられるのには慣れていない。そもそも今の俺達なら奴すら雑魚だ。
「しかもまだ報道されていませんがあなたの兄の…」
「あの道化が?まあ血筋的なものですかね。俺は元々乗れる事を聞かされて訓練していましたし」
「ISを力とか思ってるだろうね、バッカみたい」
「それはそうと食堂はまだ開かないんでしょう?荷物纏めたら買い出しに出掛けたいんですが、許可貰えますか?」
「どうぞ。まだ職員達も詳細は聞かされていないのである程度自由にしてくださって平気です」
「了解しました。行くぞ円夏」
「うん!」
渡された地図を頼りに寮に向かい、部屋に入る。元々2人部屋のようだがそこそこ広い。流石無駄な税金の塊・国家機関。部屋に着くと荷ほどきをし、どちらのベッドを使うか決める。
「窓側はお兄ちゃんが使っていいよ!」
「なら御言葉に甘えるとしよう。と言っても、どうせ夜2人で寝るつもりだろう?」
「テヘペロ♡」
悪戯がバレた子供みたいな顔で認めた。まあ、結局いつも通りだ。荷物からいくつかの小瓶を取り出し、机に並べる。
「それって香辛料?持ってきたんだ」
「うちの麻婆の味はこれでなければ出ないからな。夕飯は何にする?」
「激辛麻婆‼︎」
「分かった。じゃ、行くか」
この辺り一帯の地図は既に渡されている。学園内で食材も買えるらしいが今は開いていない。最寄りのスーパーへと向かった。手を繋いで歩いていると円夏がふと疑問を口にする。
「そう言えば今日は訓練するの?」
「まだ目立つわけにもいかないからな、始まるまでの三日間はゆっくり休むつもりだ」
「ならこの辺りがどうなってるのか見に行こうよ!」
「偶にはそう言うのも有りか。ならそうするかね」
買う物は麻婆の材料と米だけだったので買い物自体はすぐに終わった。部屋に戻って早速麻婆を作る。
「私これ好きだけど食べる度に運動しなくていいんじゃないかなって思うよ」
「この辛さで堪えるようではまだまだだな」
これでもこの麻婆、円夏が食べれるギリギリまで辛くしている。まあこの辛さを食べられるなら充分辛党だろう。俺は超辛党だ。こんな感じで汗をかくので風呂は麻婆を食べた後。今年で12歳になる我が妹は俺と風呂に入るのを止めようとはしない。
「ほら、目を瞑れ」
「ん」
わしゃわしゃと頭を流してやる。果たして世間一般から見たこれはかなり危ない絵面なのかもしれないが、円夏はこれがお気に入りなのでそれを止めるように言ってくるのを想像できない。その後はこっちが背中を流してもらい、湯船に2人で浸かり、同じベッドで寝た。
学園長の協力を得る…これ学園内だと割と重要。