クラロワ   作:青空 優成

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第6話 分裂の操作

ここでひとつ、皆さんに想像してみてほしい。

まず右手と左手を用意してくれ。

そして右手と左手をグーの形にする。

右手の親指と左手の小指だけを上げる。

次にまたグーに戻し

今度は右手の小指と左手の親指だけを上げる。

それを交互にだんだん素早くやってみてほしい

どうだ?

段々と右手と左手がゴチャゴチャになってしまわないか?

そう、人は何かと不器用な生き物でこんな些細な事すら満足に出来ない。

では、もし右手が3つ、左手が3つの計6つあったらどうだろうか

もう無理だ、お手上げだ…

───そんな状況に今の俺は置かれているに等しい

「ヨウッ!」

「ぐはぁっ」

ズキンと後頭部分が痛む。

どうやら俺の分身の一体が死んでしまったらしい

──マスケット銃士(マスケ)とアーチャーの放った弾丸と弓が当たり、俺は死んだかに思ったが、意識は途切れず、なんと俺は6体の小さな俺になっていた

その6体全てが俺の意思で動く、つまり身体が6つに増えたのだ

感覚で言うと、巨大な俺がこの小さな俺をマリオネットの如く操っている…そんな感覚。

勿論最初からうまく扱えるはずも無く、精々2体が限界だった

残り4体は完全に適当に動いている、無意識の内にああやって動かしているのだろうか──

この俺の今の名前はラヴァハウンド(溶岩の犬)なんて大層な名前じゃなくラヴァパピィ(溶岩の仔犬)と言ったところか

 

────6体の小さなユニット。

ラヴァハウンドが死ぬと登場する。

【攻撃力/45】【体力/179】

【攻撃速度/1秒】【射程/2】───

 

既にもう5体死んでしまった

自分自身を操作というのも変な言い方だが、まだ上手く扱えない、

これは慣れが必要だな。

リオやナイト、こちらのマスケが敵のマスケを狙う盤面を空から見下ろしながら、俺は目の前に迫っていた弾丸を顔面で受け、体力ゲージ(HP)が尽きた

「あ、ヨウおかえり」

「ってて…、あ…ここは神殿か?」

死んだ記憶はハッキリしているが、すぐさまに意識は覚醒する。

どうやら死んだら元の場所、神殿へと戻ってくるらしい。

手足がしっかりとくっいている事、顔面がボコボコになっていないかなどをペタペタと触って確認、うん大丈夫なようだ

この世界に鏡という道具があるかどうか分からないが一応あるなら後で買っておこう

もしかしたら、触って確認出来てないだけでヤバイ事になってる箇所があるかもしれない…いやそんな事になってたらアリサが教えてくれるな。でもとりあえず買っておこう

アリサの目の前に表示されてる画面(モニター)を見ると、結構やばい状況になっていた

リオはもう死にそうだし、マスケとナイトも死にそう、対してアレス陣営はメインタワー後ろからジャイアントを展開してきている…おっといけないこのままでは…。

アリサにアドバイスしなくては、と思った刹那─────

「ヨウお願いねっ!」

──────自陣のサイドタワー(左)手前に召喚された

…俺も俺を召喚しろとアドバイスしようと思っていたところだから丁度いいが、アリサおまえもしかして…。

いや、今考えても無意味な事だな。

さてとりあえず先行してタワーを落としに来ている敵のマスケット銃士…いちいち()()ってつけるのもめんどくさいな…こちらのタワーの色は青、相手(アレス)は赤だから、敵のマスケ(赤マスケ)とでも呼ぶ事にしよう…

を止めなくては。

そして、もうそろそろ本格的にタワーを落としに行くとしよう。

「アリサ、今燃料(エリクサー)はどのくらいだ?」

「今は6だね…言ってなかったけど最大10だよ」

「最大10か…これも一緒だな」

「ん?なんか言った?」

「いや…なんでもない。それより赤マスケ…つまり敵のマスケが橋を渡りきりそうだ、とりあえずタワーにダメージは入れないよう俺がターゲットになる。だが受けてるだけじゃ倒せない(こともないが)から俺を赤マスケと赤アーチャーが撃ち始めたらナイトを出してくれ」

「あ…ごめん、今ナイト手札に無い…!」

「まぁ、そういう時もある…じゃあ今何があるか教えてくれ」

クラロワでも同じことが言えるが、手札を見ないで戦おうとしても無理がある。闇雲に出すしか無いからだ…、酷い事になる。

「『ファイアーボール、アーチャー、ジャイアント、リオ』があるよ!」

アリサに手札を教えてもらった俺は、即座にそれで城を落とす算段を考え始める…

クラロワではリオよりもトロフィーが低い『ヨー』というアカウントで普段プレイしていたが、それでもトロが低いなりには頑張っていた

なのである程度、どうプレイしたら良いのかは分かっている。

「よし」

俺は()()()()算段を思い付いた

それを実行する為に必要なのは

「忍耐力」

…だ

ここで忘れてはいけないのはこの『バトル』のルール

今回は『サドンデス』なわけではないのでサイドタワーを落とした所で勝利が決まる訳では無い。

今回勝利が決まる条件としては

・メインタワーを落とす

or

(タワー)を一つでも落とした状態で3日間という時間が経過する

のどちらかだ

もしこの2つが3日間経過しても満たさなかった場合(メインタワーを落とせなかった&城をどちらも全く落とせずに時間経過してしまった場合)は

・城を先に1つ落とした方の勝利

という条件に移行するわけだが。

そんな長いことこんな寝る場所も、気安く休める場所も無いような所に居るつもりは無い

初心者で慣れていないからいつ俺とリオのストレスがピークを迎えるか分からない…それはアリサも同様。

人は退屈な空間に長時間居るとストレスを感じ始め、終いには発狂し始める…

この6つ城がポツリと佇んでいるフィールドも見ていて退屈なものだが、アリサが居る神殿も何もなくて退屈だしな、

それにアリサは女の子だ、早くお風呂に入ったりもしたいだろう

勿論俺もだが。

だが今俺達初心者軍団が、一応手馴れたアレスからメインタワーを落とすのは大分キツイだろう…俺とリオという部兵人形(ユニットドール)が居たとしても…。

先程の感じから慣れるまでは上手く戦え無いということが分かったしな

さて、そうなると一番手堅いのは─────

「アリサ、ジャイアントをこっち側のメインタワー後ろから出してくれ」

「うん!分かった!リオはどうする?メインタワー後ろから?」

ジャイアントが召喚され、俺を撃っていた赤マスケの体力もこちらのサイドタワー上の狙撃手によって倒れる

「いや、リオはまだだ…ディガーは相手フィールドに出すことが出来る…それを上手く利用しないとな」

「あ、うん!分かった!温存しとくね!」

「アリサ、少し戦いには全く貢献できない様な動きを今から俺はするが、決してふざけている訳ではない…勿論タワーにダメージが入りそうになったらしっかり動く」

「え、うん?よく分からないけど、まぁヨウが言うならそれでいいよ!」

「しっかり説明すると、俺は部兵人形としてバトルに参加するのは初めてで色々とまだ不慣れなんだ、だから慣れるために動きたい…今は慣れるために専念して、慣れたら一気に勝ちを取りに行く。無意味な事では無いはずだ」

「うん、分かった!」

さて、今の状況はというと相手のフィールドにはジャイアントが居てこっちに来ようとしている。対してこっちは俺が居るだけ。

「アリサ、ジャイアントを止める為にアーチャーを俺の近くに」

アーチャーが召喚される。俺は立ち止まったままだが、アーチャーはテクテクと相手のタワー目指して歩んで行く

「それで、何が手札に回ってきた?」

「えっと、矢の雨が来たよ」

「………、仕方ない、リオを俺の近くに」

ジャイアント、ファイアーボール(ファイボ)、矢の雨、リオの手札で敵のジャイアント(赤ジャイアント)を倒すには必然的にリオを出すしかない…。

理由としては『攻撃目標』対ユニットであり、『ユニット』である事が必要だからだ…勿論『防衛施設』というのもあるのだが、それは今はデッキに入っていないので置いておく。

「よっと!」

俺のちょっと前らへんの地面からリオが飛び出してきた。

俺も何か登場モーション欲しいなと思ったり思わなかったり。

「いちいち穴掘ってるのか?それとも自動で掘られてそこを自動で通ってきてるのか?」

そんな疑問をリオに質問してみる

「自動だよ、多分目を瞑っててもここには登場するはず、今度目を瞑っててみようかな」

「目を瞑るのはなんか怖くないか?」

目を閉じたまま地面を輸送されるリオの姿を想像すると少し笑ってしまう

「あっ…、そんなことよりジャイアント倒さないと」

「じゃあリオ、頼んだ。俺は少し別の行動をとる」

「え…?」

そう言って俺はこちらの陣地に踏み込んできてるジャイアントを無視して無鉄砲にも、敵陣へと身を投げ出す

相手サイドタワー(左)上の狙撃手が俺を狙って来た─────

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

体力という概念はあるものの、スタミナという概念は無い筈『バトル』だが、不思議なもので息が切れる

きっと動き回ると息が切れてしまうのは人間としての本能なのかもしれない。

「残り時間は…1日と18時間と26分か…、もうそろそろ疲れが見え始めることだな…俺とリオは動いているから勿論だが、アリサはアリサで画面をずっと見つめ続け無ければならない…」

それに、初心者だしな。

もう既に1日以上経過しているんだ…徹夜で。

「ヨウ、どう?身体には慣れてきた?僕は結構慣れてきたよ〜」

と、リオが話しかけてきた

今俺は自分フィールドの真ん中でストレッチをしていた

アレスが何も仕掛けて来ないのだ。

この1日に何度かアレスが何もしてこない事があった

だがその隙を付いていざ攻めようとするとアレスは固い防衛をしてきて突破が出来なかった

俺の隣にリオも来て一緒にストレッチを始める

「ん、まぁそうだな、何度か死んで6体に分裂したからな…大分慣れてきた」

「どんな感じなの?分裂するって」

「いや、言葉に出来ないな…強いて言うならゴチャゴチャな感じだ…いや、うん、やっぱ言葉には出来ないな…」

「あと相手のサイドタワー左の体力は1280だからね、頑張ろう」

「こっちのサイドタワー左の体力は1008だがな…」

「……そうだね」

この1日、色々と攻防を続けてきたがまだお互いに城を落とせてはいない、ただ若干こちらの城の体力が少ないが。

「(まぁ、サイドタワー左は落とされても問題無い、守るに越したことは無いが。だが俺が狙っているのはメインタワー(中心塔)破壊だ…)」

さて、頃合もいい感じになった頃だ。

そろそろ壊す(やる)とするか

「リオ、アリサ…そろそろ終わらせよう。俺とリオも身体に馴染んできたところだし、アリサももう俺の令無しで大分動けるだろ?」

「う、うん…まぁ、多分…?」

「別に変な所に出したりしても怒らない、今のはここに出した方が良いよとかそんなアドバイスをするくらいだ」

「分かった!やってみる」

この1日で分かったことがある

それは部兵人形(ユニットドール)の『スキル』を上手く使うと超強い。って事だ

例えば俺の『飛行』を使ったとする

普通に使うだけならただ俺が5分間空を飛べるだけの普通のスキルに見えるのだが、

使い方を変えると化ける。

だが今回はその使い方をせずに真正面から戦って勝つ。

それが俺の為になるからな

だから今回はその特殊な使い方の説明は省かせてもらおう

何はともあれこの1日で得たものは少なくない

「アレスは相変わらず動き無しか」

平で障害物などが何も無い見通しの良いフィールドだから相手のフィールドも良く見える。そこには何も居なかった

「でもヨウ、いつも通り行ったらまた防衛されて止められちゃうんじゃない?」

心配そうな声でまた同じことの繰り返しになるのではないかと危惧するアリサ

「まぁ、防衛はしてくるだろうな…だがパターンは毎回一緒だった」

「え?」

「アレスは俺達が城を落としに攻め込むと、まず体力の多いジャイアントやナイトでターゲットを取ってくる、そして後方から遠距離攻撃出来るマスケやアーチャーで殴ってくる」

「うん、そんな感じだよね?」

「だが肝心なのはここからだ、(アレス)()()()()なんだ」

そう、奴は燃料(エリクサー)を使いまくって防衛してくるから突破出来ない。だが逆を返せば

「その間に、逆サイド…つまり右のサイドタワーを落としに行けば体力が間に合わず防衛が出来ない、そしてそのままメインタワーにも進撃できる」

「分かった、じゃあ準備はいい?」

「ああ」「うん」

俺は腕を前に伸ばし、手をポキポキと鳴らす。

リオは深呼吸をする。

勝負はここに賭ける

さぁ勝負だ────────


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