世界に痛みを(嘘) ー修正中ー   作:シンラテンセイ

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先月、『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』を数年ぶりに見直しました。
相変わらず"リリー・カーネーション"が怖ろしかったです(汗)

まあ、普通に面白かったのですが('ω')
これもこれでワンピースの映画としてアリかなぁ、と
この映画は"ワンピースらしくない映画"、"ルフィ達らしくない"、"トラウマ製造機"などの意見もネットで見かけますが、作者は普通にこの映画は好きです

ただ、小学生の時に映画館で見るべきじゃなかったなぁ、と……
普通にトラウマでしたし、テーマや内容は面白いのですが、如何せん大人になってから見るべきだったと思います。
結論として、ワンピースは原作も映画も壮大なるテーマがあるんだなぁ、と再実感しました。

では、本編をどうぞ


400年の時を超え

 三丈鳥フザはエンジェル島より飛翔する。

 クリケット、ショウジョウ、マサラをその背中に乗せ、フザは生贄の祭壇へと帰還していた。

 

「いやー、すまねぇな、お前達」

「俺達もこの鳥に乗せてもらって」

「世話を掛けるな」 

 

 クリケット達はフザの背中に乗り、神の地(アッパーヤード)全土を見渡す。

 クリケットは終始、神の地(アッパーヤード)の大地を何かを探る様に見下ろしている。

 

「……」

「クリケットさん、ずっと神の地(アッパーヤード)を見下ろしていますが……」

「おやっさん、さっきからずっと神の地(アッパーヤード)を見渡してんだ」

「俺達は空気を読んで、黙ってんだよ」

 

 恐る恐るといった様子でビビはマシラとショウジョウに尋ねる。

 

「やはり空島に何か感じるものがあるのでしょうか?」

「ああ、多分な」

「おやっさんが追い求めてきた"黄金郷"が存在しているかもしれねェからなァ」

 

 ビビの髪が風になびく。

 

「まあ、少し寂しいがなァ」

「おやっさん、早く戻ってきてくれェ~」

 

 マシラとショウジョウは寂し気にクリケットを見詰め、いじけた様子を見せた。

 彼らはクリケットのことが大好きなのだと感じ、ビビは笑う。

  

 クリケットは胸の前で腕を組み、真剣な眼差しで眼下の大地を見下ろしている。

 どんな些細なことでも見逃してなるのものかと言わんばかりの様子で神の地(アッパーヤード)全土を見渡している最中、大きく目を見開いた。

 

「……!」

 

あれは、まさか……

 

いや、見間違いなどではない……!

 

 クリケットは不安定なフザの背中を急ぎ足でアキトの下へと詰め寄り、眼下を指差した。

 

「すまねェ、アキトの兄ちゃん!あそこまで高度を下げてくれるか!」

 

 クリケットの指差す方向を見据え、アキトも彼が言わんとすることを即座に理解する。

 アキトはフザを操り、神の地(アッパーヤード)のとある場所へと急降下を行った。

 

 

 

「こんなことが……」

 

まさか、こいつは……

 

 クリケットは覚束ない足取りで眼前に佇む廃墟に近付いていく。

 その廃墟はみすぼらしく、今にも崩壊しそうな程に老朽化が進んでいる。

 

 植物の茎と大樹の幹が絡み付き、外壁には罅が現れている。

 そして、特に目を引くのはそのみすぼらしい廃墟が奇妙な形で真っ二つ(・・・・)に割かれていることだ。

 廃墟の向こう側には空の海が広がっている。

 

 クリケットはこの光景を知っている。

 自分はこの廃墟をかつて幾度も見続けてきた。

 何故なら、この廃墟の片割れは今では自分達の別荘なのだから

 

 400年の呪縛に縛られ、幾度も海底に黄金郷を探索し続けてきた。

 周囲に馬鹿にされ、過去の先祖の因縁に苦しめられ、黄金郷を求め続けてきた。

 

 明確な証拠など存在しない。

 "噓つきノーランド"が見た黄金郷を見た者も存在しない。

 

 だが、一つだけ確かなことがあると信じてきた。

 ”黄金郷”も”空島”も過去、誰一人として”無い”と証明できた者は存在しない。

 

 馬鹿げた理屈だと笑われようが構わない。

 笑いたければ笑えばいい。

 

 かつて"うそつきノーランド"は言った。

 

"私は6年前、ジャヤという島で巨大な黄金都市を見た"

 

"偉大なる航路(グランドライン)に黄金郷は存在する……!"

 

「おい、こいつは……」

「おやっさん……」

「そうだ、間違いねぇ」

 

そうか、そうだったのか……

 

「なァ、マシラ、ショウジョウ、俺達は間違ってなんていなかった……」

 

 "噓つきノーランド"は嘘などついておらず、彼は類まれなる正直者だったのだ。

 

なァ、"ノーランド"よ

 

「“黄金郷”は、ジャヤはずっと空にあったのか……」

 

 地殻変動による遺跡の海底沈没ではなく、ノーランドが見たとされる黄金郷は存在していた。

 400年前のあの日から、ずっとこの空の世界に存在していたのだ。

 

"大人になることだな、ジジイ"

 

"黄金郷なんざ空想上の物語が生み出した幻想だ"

 

"新時代の海賊になりたきゃ覚えておけ" 

 

"幻想(・・)は所詮幻想に過ぎねェってことだ!"

 

「……」

 

黙れ、夢を見ることも出来ねェ、若造が

 

人は夢を見る生き物だ

 

幻想に喧嘩を挑む気概も持たねェヒヨッ子が海賊を名乗るんじゃねェ

 

「なぁ、マシラ、ショウジョウ……」

 

 煙草を吸いながら、クリケットは重々し気に煙を口から吐き出す。

 煙草の煙が宙に漂い、虚空へと消える。

 やがて、口元に笑みを浮かべ、クリケットはマシラとショウジョウを見据えた。

 

「これこそがロマンだ!!」

 

 万感の思いを込め、クリケットは心からの笑みを浮かべ、両腕を広げ、天を仰ぐ。

 マシラとショウジョウは小躍りをしながら、互いに抱き合う。

 長年追い求めてきた"黄金郷"への確かな証拠を目の前に彼らの胸の高まりは最高潮に達していた。

 

「良かったですね、クリケットさん」

「……」

 

 そんな中、ビビはとても嬉し気な様子で彼らの様子を眺めていた。

 この場へ彼らを導いたアキトはそんなビビの言葉に相槌を打ち、神妙な面持ちで今も高笑いを続けるクリケット達の姿を目に焼き付ている。

 長年、夢を追い求めてきた男の姿はアキトにとってとても輝かしいものに見えた。

 

 彼らの心から喜ぶ姿を見れたでけでもクリケットさん達と共に空島に来て良かったと思う。

 つい先日、仲間に加わったロビンも形は違えどこの世の真理を追い求めているのだと聞いた。

 彼女もクリケット達と同じく、己の人生をかけるに値する譲れない信念があるのだろうか。

 アキトは今だ謎多き女性であるロビンのことを頭の隅で考えずにはいられない。

 

 そして、自分は今、己の信念を貫いて生きているのだろうか、アキトは不意にそんな漠然とした疑問を抱いた。

 ナミ然り、ビビ然り、クリケットさん然り、この世界の人々は自身の確固たる信念の下に生きている。

 

 ナミは愛する故郷の奪還のため、ビビは愛する祖国のため、クリケットさんは先祖との決着のために人生を駆け抜けてきた。

 ナミは世界地図を描くべく旅立ち、ビビは祖国を己の意志の下旅立ち、クリケットさんは今や空島へと辿り着いた。

 そんな彼女達の姿は自分にとってとても輝かしく、偉大であり、眩しいものだ。

 それに対して自分は確固たる信念を己の胸に有しているのだろうか。

 

 勿論、自分にも譲れない信念はある。

 彼女達を支える柱になること、それが自身の嘘偽りない本心だ。

 弱気を助け強気を挫く、ナミ達を支え、彼女達の信念を貫き通すための柱となる、それが己の信念であることはナミと出会った当初から変わらない。

 

 それならば、人生を駆け抜け、追い求めるものが自分にはあるのだろうか。

 自身が本心から欲するモノとは何なのか、アキトは自問自答を繰り返す。

 

"生きてこの世界を見て回るために"、本当にそれが自身の本心なのか?

本当に自分が欲しているモノとは一体……

 

「……アキト?」

 

 そんな答えの見つからない思考もナミの此方を気遣う呼びかけにより中断される。

 

「ちょっと大丈夫?さっきから心ここにあらずって感じよ、アキト」

「……大丈夫だ、問題ない」

 

 アキトの生返事にナミは眉をひそめ、身を寄せてきた。

 真剣な表情でアキトの額に己の手を当て、顔を近付ける。

 

「熱は、ないわね。もしかしてこれまでの連戦の疲労だったりする?」

 

 ナミの問いにアキトを首を横に振り、否定の意を表す。

 ドラム王国から続く連戦による疲労はほぼ完治しており、恐らく残り数刻程で完全回復するだろう。

 

 ナミは悩まし気な様子で唸り、アキトの瞳を覗き込む。

 彼女が真剣に此方の体調を気遣ってくれている状況下で、物思いにふけていたとは言えず、アキトは暫くナミの瞳を見続けた。

 純粋な善意である故に、余計に弁明の言葉が続かない。

 

『……』

 

 アキトの紅き瞳とナミの琥珀色の瞳が交錯する。

 暫くアキトとナミの2人は時間を忘れ、お互いに見詰め合っていた。

 

 ドラム王国のDr.くれはの医務室ではアキトがナミの体調を確認するべく、顔を近付けたことを覚えている。

 しかし、ナミの顔をこれだけの近距離で真剣に見たことは無かった。

 

 強き意志を宿した琥珀色の瞳、綺麗に揃った眉毛、造形とでも言うべき美しき素顔

 鮮やかな紅き唇、肌越しに感じる吐息

 女性特有のきめ細かな指の感触が額を通して感じられ、女性特有の甘い匂いも感じる。

 

 そんな2人を現実に引き戻したのはマシラとショウジョウの歓声であった。

 

「やりましたね、おやっさん!」

「一生、ついていきやすぜェ、おやっさァん!」

「馬鹿野郎、喜びすぎだ、お前ら」

 

 見ればクリケットはマシラとショウジョウの過剰な喜び様に嘆息しながらも、微笑している。

 今、自分が陥っている状況を理解し、ナミは即座にアキトから離れる。

 

 あはは、私ったら何をしてるのかしら、とナミは両手を胸の前で慌ただしく振り、頬を赤く染める。

 彼女が羞恥を覚えていることは一目瞭然であった。

 

「アキトさん、クリケットさん達の下へ向かいますよ」

 

 頬を膨らまし、少しばかり不機嫌な様子のビビが状況の理解が追い付かないアキトの右手を握り、クリケット達の下へと向かう。

 ナミをこの場に残していくわけにはいかないとアキトはナミの左手を握り、ナミも引っ張る。

 

「アキト、ち、違うの、今のは……」

 

今のは……?

 

「そ、そう、治療よ、治療……!アキトの様子が変だったから、体温を測ろうとして……!」

 

体温を測ろうとして……?

 

 頬を赤く染めたり、言葉足らずになったりと、落ち着かない様子でナミはアキトに弁明を続ける。

 

「……大丈夫か、ナミ?」

「だ、大丈夫よ、問題ないわ」

「早くクリケットさん達の下へと向かいますよ」

 

 ビビのアキトの手を握る力が更に強まり、ビビは力強くクリケット達の下へと歩を進めた。

 彼女達の様子をクリケットは愉しげに見詰め、マシラとショウジョウは落ち着かない様子で見守っていた。

 

 

 今ここに、過去と現在が繋がる。

 モンブラン・ノーランドの末裔であるモンブラン・クリケットが400年の時を超え、遂に空島へと辿り着いた。

 

 モンブラン・ノーランドの末裔、モンブラン・クリケット

 大戦士カルガラの子孫であるシャンディアの戦士ワイパー

 

 彼らが邂逅する時も近い。

 

 

 

 

 

 一方、生贄の祭壇

 

 サトリによる玉の試練を突破し、生贄の祭壇に到着したルフィ達はメリー号へと乗り込んでいた。

 時を同じくして、空島探索を終えたロビンとゾロの2人の姿もあった。

 

「アキトからの伝言よ。"クリケットさん達を迎えに行く間、メリー号を開ける"そうよ」

「すれ違いになっちまったかー」

「良かったぁ、メリー号は無事だ」

「ん、何だこれ?」

 

 目立つ外傷なくメリー号が顕在であることにウソップが安堵し、ルフィはメインマストに立て掛けてある槍を持ち上げる。

 

「槍なんか船にあったけか?」

 

 その槍が熱貝(ヒートダイアル)が仕込まれた"熱の槍(ヒートジャベリン)"であることを知らず、自制という言葉を知らぬルフィは"熱の槍(ヒートジャベリン)"を振り回す。

 

 振る、振る。

 振って、振って、振り回す。

 その危険性を理解もせずに、好奇心という名の誘惑に負け、無茶苦茶な軌道で熱の槍(ヒートジャベリン)を振り回す。

 

「あと、アキト曰く、ルフィが持っているその槍は刺さると燃えるらしいわ」

「うおおおい!そういう大事なことは早めに言ってくれ!」

「今、言ったわ」

「あ、やべ」

 

 熱の槍(ヒートジャベリン)がメインマストに突き刺さり、メリー号のメインマストに火が広がる。

 

「おい、ルフィ。何してんだ、手前ェは……?」

「いや、違うんだよ。この槍が勝手に燃えちまってよ」

「だから、その槍は燃えるってロビンが言ってたよな?」

 

 ウソップは眼前の光景に静かに怒りをあらわにし、ルフィへと詰め寄った。

 

「な、何だよ、ウソップ、俺が悪いって言いたいのか……?だって俺はこの槍が独りでに燃えることを知らなかったんだぜ?」

「そもそも槍を振り回さなければいい話だろうが!」

「こんなことになるなんて知らなかったんだよ、ウソップ……」

「ルフィ、何か弁明はあるか?」

「だから、俺は悪くねェ!」

「……」

 

 ウソップはルフィの余りの言い訳に言葉を失い、放火犯であるルフィは責任追及から逃れようとする。

 

「そもそもこの槍は何で燃えるんだ?」

「そりゃ、ルフィ、お前……。何でだ?」

「アッハハハ!お前も分かってねェじゃねーか、ウソップ!」

「ええい、笑うなァ!」

「アキト曰く、その槍には熱貝(ヒートダイアル)が仕込まれているらしいわ」

「だから、そういう大事なことは早めに言って欲しかったなぁ」

「今、言ったわ」

 

 ああ、ロビンのこの達観した様子はアキトを彷彿とさせるなぁ、とウソップは嘆息し、ルフィへと詰め寄る。

 ルフィとウソップが言い争っている間にも、メリー号のメインマストは燃え続ける。

 そんな彼らの傍でサンジが必死に火を鎮火させようと奮闘していた。

 

「おい、アホ共!モタモタしてねェで火を消すのを手伝いやがれ!」

「おい、ウソップ!メリー号が燃えてるぞ!」

「だから、それはお前のせいだって言ってんだろうが!」

「消化ァ!消化ァ!」

「無視するなァ!」

 

 メリー号から煙と火の粉が立ち昇る。

 メインマストにこれ以上火が燃え広がらないようにルフィ達は必死に消火作業に取り掛かる。

 

 そんな彼らの慌ただしい様子を楽し気に見詰めながら、ロビンは甲板で眠りこけるゾロの下へと歩み寄る。

 見ればメインマストに背中を預ける形で居眠りをするゾロの頭髪は僅かに燃えていた。

 

「剣士さん、今すぐ起きないとマリモになっちゃうわよ」

 

 ロビンは手元のタオルでゾロの頭の火を鎮火させ、読書を再開する。

 ゾロの頭は僅かに焦げ、毛先が丸みを帯びていた。

 

 その後、シャンディアと神官達の戦闘に加わるべく上空を飛翔していたガン・フォールがその様子に気付き、相棒のピエールと共に降下してくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 神の地(アッパーヤード)・神の(やしろ)から神官達が立ち去って数刻

 スカイピア神兵長"ヤマ"は己の部下である神兵達に指示を飛ばしていた。

 

「指示は以上だ。エネル様のご期待に応えるべく、シャンディアを含む青海人達を一人残さず殲滅するのだ!」

 

 ヤマの言葉に"スカイピア神兵50(メ~)"が雄たけびを上げ、賛成の意を示す。

 

 

 

「その必要はない」

 

 しかし、突如、その場に(ゴッド)・エネルが僅かな放電と共に姿を現した。

 エネルの登場にヤマを含める全員が膝を折り、こうべを垂れる。

 

「青海の猿共が此方に敵対の意志を見せない限り、放っておけ」

 

 青海人は極力無視しろ、それが神であるエネルの意志だ。

 ヤマ達が対処すべきはシャンディアの連中であると言外にエネルは語る。

 

「もっとも奴らが我らにとって障害になる存在だと感じれば、即刻始末しろ」

「承知致しました。しかし、エネル様がそう仰る理由とは?」

 

 ヤマの疑問の声に対し、エネルは尋常ではないプレッシャーを放つ。

 ヤマの部下の神兵達は震えあがり、ヤマとエネルの遣り取りを見守ることしか出来ない。

 

 

神の地(アッパーヤード)は奴ら、神官に任された地だ」

 

「此度の青海の猿共の件は、神官である奴らの不手際が招いた事態に他ならない」

 

「奴らの不手際は奴ら自身で刈らせろ!!」

 

 神官であったシュラとサトリの存在など不要、エネルは敗北した部下に一切の期待などしていなかった。

 スカイピア神兵長ヤマはその非情さに身震いし、自分も見限られることことがないように一層身を引き締める。

 

「私はこれから取り掛からねばならぬことが山程あるのだ」

 

 方舟マクシムの完成、それが目前にまで迫っているのだ。

 長年の待望が成就する時は近い。

 加えて、此度の青海人の中には予想外の珍客がいる。

 正に神の思し召しかの如く運の悪い時に空島観光に来訪したものだ、エネルはそう思わざるを得ない。

 

いや、私にとっては正に僥倖か……

 

「遠慮などいらん。一匹も逃すことなく、徹底的に破壊しろ」

 

「この"神の(やしろ)"の様にな」

 

 エネルの背後の神の(やしろ)は哀れにも倒壊し、元神・ガン・フォールの部下である"神隊(しんたい)"が無残な様子で倒れ伏していた。

 既にかつての神の(やしろ)としての面影など存在していない。

 

 エネルの命を受けたヤマ達は即座にその場から立ち去り、周囲に静寂が満ちる。

 一人残されたエネルは夜空を綺麗に彩る月を見上げ、嘆息した。

 

 

 

 

 

「しかし、幾ら油断や驕りがあったとはいえ、青海の猿共などに無様に負けるとは……」

 

 不甲斐ない己の部下であった神官達に呆れ果て、次なる行動を起こすべく立ち上がる。

 

「サトリとシュラもまだまだ甘い……」

 

 エネルは最後に既に見限った元部下の甘さに失望し、雷と化してその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 深夜の神の地(アッパーヤード)の森林にてキャンプファイヤーの火が迸る。

 アキトの戦利品である熱の槍(ヒートジャベリン)を組み木に突き刺す形で火が灯されている。

 

 この場の者達は酒を飲み、心から笑い、雲ウルフ達と共に踊る。

 ナミはクリケット達と共に神の地(アッパーヤード)の地図とロビンがジャヤで手に入れた地図との照合に取り掛かっていた。

 

「この2つの地図のおおよその比率を合わせた結果……」

「400年前のジャヤの姿が見えてくるわけというわけだな、嬢ちゃん?」

 

 "髑髏の右目に黄金を見た"、それが噓つきノーランドが遺した言葉だ。

 それはつまり、こういうことだったのだろう。

 

「そうか、成程なぁ。これじゃあ、見つかるわけがなかったわけだ……」

 

 また一つ、先祖の無実が証明されていくことにクリケットは嬉しさを我慢し切れなかった。

 ナミが比率を合わせた地図を掲げ、目頭を押さえ始める。

 

「……」

 

 ナミは空気を読み、その場から静かに立ち去る。

 自分がいてはお邪魔無視になってしまうだろうとクリケットから離れ、ルフィ達の下へと向かった。

 

 そして、ふとした拍子に周囲を見渡せば、アキトがビビと楽し気にダンスに興じていた。

 アキトがビビと2人で踊っていた。

 アキトとビビが2人きりでダンスしていたのだ。

 

「……」

「んナミさァ──ん!お飲み物持ってきたよ!」

「ありがとう、サンジ君」

「ナ、ナミさん、ちょっと怖いよ……?」

 

 目にハートマークを浮かべながらナミに飲み物を持ってきたサンジはナミから発せられるオーラが只事ではないとに気付き、冷や汗を流す。

 この人間怖い、雲ウルフは不機嫌オーラを醸し出すナミに戦慄し、我先にとその場から離れていく。 

 

「浮かない顔ね、航海士さん」

「……」

 

 そんなナミに妖艶な笑みを浮かべたロビンが声を掛ける。

 

「王女様と踊っているわね、彼」

「……」

 

 ナミの不機嫌な様子など我関せずと言わんばかりの口ぶりでアキトとビビへと視線を向ける。

 

「彼のことが気になるんでしょ?」

「……そんなんじゃないわよ」

 

 ナミはそっぽを向き、ロビンから顔を背ける。

 あら、可愛い、とロビンは呟きながらも、彼女の言葉は止まらない。

 

「確かに彼カッコイイものね」

「……!」

「クロコダイルと渡り合うぐらいに強いし、普段から落ち着いていて、とても素敵だと思うわ」

 

 突如のロビンの独白にナミは瞠目し、勢いよくロビンの方へと顔を向ける。

 

「彼とは馬が合うと思ってるの、私」

 

「私の話も真剣に聞いてくれるし、真面目に受け答えてくれるから、つい話し込んでしまうのよね」

 

 彼女の真意が分からない。

 ナミはロビンの突然の告白に理解が追い付かなかった。

 

「今度は私が彼と踊ろうかしら」

「だ、駄目よ……!」

 

 それなら私が躍るわ、と言いたげな様子でナミはロビンへと懇願する。

 ロビンはそんなナミの必死な様子に優しく微笑み、冗談であることを告げた。

 

「なんてね、冗談よ」

「……」

 

や、やられた……!

 

 してやったり、と言わんばかりにロビンは面白げにナミを見詰める。

 ナミはロビンの稚拙な誘導に引っ掛ってしまった自分を恥じ、そっぽを向かざるを得ない。

 キャンプファイヤーの傍ではアキトが変わらずビビの指導の下、ビビと踊り続けていた。

 

 

「アキトさん、ダンスのご経験は?」

 

 アキトはたどたどしく体を動かしながら、首を横に振る。

 拙いステップを踏み、必死にビビの手を握りながら、足を動かす。

 

「私に身を預けてください」

「……こんな感じか?」

「そうそう、上手いですよ、アキトさん」

 

 ビビの指導を受けながら、アキトはステップを踏む。

 どうやらアキトはダンスは得意ではなく、ダンスを一通りこなすにはまだ時間を要しそうだ。

 ビビはそんなアキトの新たな一面を見れたことに嬉しさを感じながら、アキトとのダンスを心から楽しむ。

 

 ビビは生まれて初めて王族としてダンスを幼少期に学んでいたことに心の底から感謝した。

 ダンスを踊ることが出来る自分を褒めちぎりたい気持ちで一杯である。

 

社交界に出るためにダンスを学んでいて良かった……!

 

「ふふ、もっと私に近付いてくれますか?その方が指導し易いですから」

「わ、分かった」

 

 普段の頼もしい姿とはかけ離れ、今のアキトはビビの指導を理解しようと必死に踊っている。

 その姿からはアキトの学ぶことへの真面目さが表れていた。

 そんなアキトの在り方はビビにとってポイントがとても高い。

 

「それでは、次は私の腰に手を回していただけますか?」

 

 アキトはビビの腰に手を回し、より密着しながらダンスを続ける。

 ここで遂にナミの我慢の限界を迎え、アキトの下へと向かう。

 それと同時にサンジがとても悔し気に、まるで懺悔するが如く両腕を地面に付ける形で崩れ落ちた。

 

「う、羨ましいィ……!ナミさんとビビちゃんと踊るなんて、クソ羨ましいィ……!」

「……難儀なものね」

 

 サンジの心からの叫びについロビンが呆れに近い言葉を呟く。

 彼女の言葉には少しばかりの哀れみの気持ちも混ざっていた。

 

「でも……!」

「……?」

「アキトだから恨めねェ……ッ!!」

「……」

 

 ロビンはサンジに対してツッコむのを止め、読書を再開した。

 向こうでは今や、アキトとナミがキャンプファイヤーの炎を背景にダンスを踊っている。

 

 ビビは驚く程素直に引き下がり、アキトとのダンスの相手をナミに譲った。

 善意故の行動ではない、それは心ゆくまでアキトとダンスを踊ることが出来たことへの余裕の表れであった。

 少なくともナミにはそう感じられた。

 負けていられない、ビビ以上にアキトとダンスを踊り続けてやる!、ナミは不屈の闘志でそう決意した。

 

「ビビにダンスの指導を頼めば……」

「駄目よ」

「いや、一緒にビビに教えてもらえば……」

「駄目よ、アキト」

 

今は私と踊っているのにビビに教えを乞うとは何事かぁ!

 

 アキトの提案を一蹴し、ナミはアキトの手をより一層強く握り、ダンスを続行する。

 

「あ……」

「……っ」

「ご、ごめん、アキト」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 だが、初心者同士であるため、ステップに失敗し、ナミはアキトの右足の小指を踏み付けてしまう。

 鍛えようがない部位を踏まれたアキトは内心で悶絶しながらも、平静を装う。

 

「じゃ、じゃあ次は私の腰に手を回して」

 

 素直に首肯し、アキトはナミの腰に手を回す。

 それだけのことでナミは多幸感に全身を包まれ、先程のビビに対する対抗意識は吹っ飛んでいった。

 

 我ながら単純だとは思うが、それ以上にナミは空島という幻想的な島でアキトと踊ることが出来ているこの状況が嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

 しかし、そんな彼らのキャンプファイヤーへと招かれざる客が姿を現していた。

 

 

 

「青海の"しちゅー"という食べ物と言ったか……」

 

 美味ではないか、とその男は豪快な様子で残りのシチューを平らげる。 

 異様な長さの耳朶を誇る謎の長身の男は空となった鍋を乱暴に地面へと放り投げた。

 

「美味であるが故に、特に神への献上を赦そう」

 

 その男は頭に白い水泳帽の様な帽子を被り、背中からは太鼓が生えている。

 アキトはナミとビビを庇う様に彼女達の前に立ち、ルフィ達もそれぞれが臨戦態勢の一歩手前へと移行していた。

 特にガン・フォールの豹変が凄まじく、眼前の上半身の男を親の仇の如く鋭い視線で射抜いている。

 

「そう殺気立つな、ガン・フォール」

 

 しかし、その男はガン・フォールなど眼中にないとばかりに無視を決め込み、笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「私はこの場に争いに来たのではない」

 

「少しばかり話をしに来ただけだ」

 

 突如、ルフィ達の前に現れた長身の男、エネルは両腕を大袈裟に広げ、クリケットを見据えた。

 

「空島へ歓迎するぞ、ノーランドの子孫よ」




>「だから、俺は悪くねェ!」 ドン!!!

正直、ナミやビビ、ロビンの傍にいると自分が矮小な存在だと感じざるを得ないと思う(小並感)
勿論、作者も(壮大な夢は)ないです

活動報告も更新しております。
テーマは『リリー・カーネーションと穢土転生』です↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=219497&uid=106542

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