世界に痛みを(嘘) ー修正中ー   作:シンラテンセイ

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全能なる神

 神の地(アッパーヤード)の一角で爆発が起き、大気が振動する。

 爆炎と爆煙が立ち昇り、神の地(アッパーヤード)の大地を揺らす。

 周囲には特大の玉が無数に宙に浮き、不規則に動いていた。

 

「クソ……ッ!」

「生きてるか、ウソップ?」

「な、何とか……」

 

 身体の所々に火傷と怪我を負い、ルフィとサンジ、ウソップの3人が立ち上がる。

 コニスから善意で譲り受けた"カラス丸"は既にこの場からかなり離れた場所まで搭乗者を乗せずに雲の道(ミルキーロード)を進んでいる。

 

 此処は禁断の聖地である神の地(アッパーヤード)・"迷いの森"

 今、生存率10%にして"玉の試練"がルフィ達を苦しめていた。

 

「おい、ルフィ」

「ああ、分かってる」

 

 サンジの言葉の意図をルフィは即座に理解する。

 

「恐らく、あの玉野郎が遣っているのは"覇気"ってやつだ」

「アキトが言ってた"覇気"ってやつか」

「あいつは"心綱(マントラ)"って言ってやがるがな」

「それに、衝撃(インパクト)っていう奇妙な力も遣ってるぞ」

 

 スカイピアの神官"森のサトリ"に苦戦しながらも、ルフィとサンジは戦闘を続行する。

 油断することなく、次に取るべく最善策を模索し、相手の力の正体を推測していた。

 

「アキトは"覇気は大別して3種類"存在するって言ってたな」

「恐らく、あのサトリって奴が遣っているのは"見聞色"で間違いねェだろう」

 

 ルフィとサンジは神の地(アッパーヤード)に足を踏み入れる前に、アキトとの修行を通して大まかにだが"覇気"について学び、その身で体感している。

 アキトが使用していたのは見聞色のみであり、武装色は使用していなかった。

 アキト曰く、アキトは覇王色の覇気は有していないらしい。

 

「だが、幸運だったのはあの玉野郎がアキトと比べ、機動力とパワーが圧倒的に無かったことだ」

「それに、アキトレベルのスピードもねェ」

 

 それだけではない。

 アキトの様な理不尽な能力も有していない。

 

 視認不可能の衝撃波に加え、空中でも自由自在に移動出来るわけでもない。

 圧倒的な攻撃力と防御力を巧みに遣い、攻防一体の攻めを行ってくるわけでもない。

 

 奴が現在、此方よりも有利に立ち回っているのは周囲の予測不可能な"びっくり雲"の存在と、この場の地の利だけだ。

 

「サンジ、数十秒だけ時間を稼いでくれ。ウソップはカラス丸を頼む」

「勝てる見込みはあるのか?」

「当然!」

 

 サンジは時間稼ぎ及び陽動、ウソップはカラス丸を確保すべく走り出す。

 

「頼むぜ、船長!」

「カラス丸は俺に任せな、ルフィ!」

 

 ルフィはその場に止まり、精神を統一する。

 思い出すのはあの瞬間、アキトとの戦闘の間際に感じたあの感覚だ。

 

 戦闘力が爆発的に上昇し、身体の力が一気に上がったあの力を引き出すことが出来れば奴に容易に勝つことが出来る。

 それだけの力をあの時の自分は引き出していた。

 

 原理は大まかにだが、理解している。

 上空から迫るアキトの拳を受け止めた瞬間、自身の身に起きたのは恐らく体内の血液の流れの爆発的な上昇

 あの瞬間、アキトの攻撃により自分の体が潰れたことにより体内の血液の流れが上昇したのだろう。

 

 ゴムゴムの実の特性を最大限に活かし、血液の流れを通常時より上げ、身体能力を急激に増加させる。

 本来ならば体内から自爆してしまう荒業だが、全身がゴムならば耐えることが出来る。

 

「いくぞ……!」

 

 ルフィは右膝に掌を当て、右足をポンプ代わりに血液を急激に上昇させる。

 身体から湯気が上がり、皮膚が急速に流れる血液の影響で赤くなる。

 呼吸が荒れ、心臓が爆発しそうな痛みを感じながらも、ルフィはサンジと戦闘を繰り広げるサトリへと照準を定めた。

 

 

 

「手前ェの相手はこの俺だ!」

「ほっほほーう、何か良からぬことを企んでいるな」

 

 サンジの特攻に神官であるサトリは笑みを浮かべながら、玉の上で踊る。

 

あの玉野郎の"心綱(マントラ)"は厄介だが、アキトのような爆発的な機動力は無い

"見聞色は相手の動きを先読みする"ことが可能ならば、先読みしても反応不可能な攻撃(・・・・・・・・)をすればいい!

 

 サンジはびっくり雲を駆け巡り、サトリへと一息に迫る。

 

「くらいやがれ!」

 

 サンジは眼前のびっくり雲を力の限り蹴り飛ばす。

 

「ほほーう、無駄無駄」

「悟ってんじゃねェーぞ、このサトリ野郎が!」

 

 眼前へと迫るびっくり雲を焦ることなく回避し、サトリは背後から迫るサンジへと向き直る。

 

「このびっくり雲は陽動、そして、本命は背後から奇襲。安い手にも程があるぞ」

 

 サンジはサトリの言葉を無視し、そのまま突貫する。

 無論、こんな安い手が通じるとは思ってなどいない。

 

「"首肉(コリエ)"……!」

「右足上段の蹴り……。ふん、同じ技とは芸がない奴だ」

 

 既に破った同じ技を放つサンジに呆れ、サトリは思考を放棄した。

 慢心し、思考を中断してしまった。

 先程サンジが蹴り飛ばしたびっくり雲が周囲のびっくり雲にぶつかることで別のびっくり雲が自分に飛来してくることに気付くことはなかった。

 

「アイイイイイ、イ"イ"!?」

「"シュート"!!」

 

 サトリが意識の外から飛んできたびっくり雲に漸く気付き、攻撃を躊躇ってしまう。

 平静を欠き、心綱(マントラ)を見出し、衝撃(インパクト)を外してしまう。

 無論、サンジがその好機を逃すはずも無く、自身の必殺の一撃を叩き込んだ。

 

「サンジ!」

 

 ルフィの準備が整ったことを理解したサンジは即座にその場から離脱し、後始末をルフィに任せた。

 

「ゴムゴムの……」

「馬鹿め!その距離からの攻撃を避けられないわけが……」

 

 体中から蒸気を発したルフィがサトリへと掌をかざす。

 サトリは蹴られた痛みに呻きながらも、ルフィを嘲笑う。

 

 サトリは遠距離からの攻撃など脅威ではないと判断してしまった。

 遠距離からの攻撃など回避することなど容易だとサトリはまたしても慢心してしまった。

 近距離からの攻撃はいとも簡単に心綱(マントラ)で避けることが出来たのだ。

 故に、この距離など問題無いと無防備にも、彼に回避行動を選択させなかった。

 

「"(ピストル)"!!」

「アイ"イ"イ"!?」 

 

 顔面にルフィの拳が炸裂し、サトリはピンポン玉の様に何度もバウンドしながら吹き飛ぶ。

 だが、ルフィは容赦しない。

 確実に次の一撃でサトリを潰すべく、両手を背後へと勢い良く伸ばした。

 

「ま、待て!俺達"神官"に裁かれない罪は"第一級犯罪"に値するんだぞ!それは全能なる"(ゴッド)・エネル"への反逆に……ッ!」

「知るか!!」

 

 だが、ルフィにとってそんな些細なことなど関係ない。

 痛みと蓄積したダメージで身動きが上手く取れないサトリへと肉薄した。

 一息にサトリへと肉薄し、全力の一撃をお見舞いする。

 

「ゴムゴムの……」

 

 

 

「"バズーカァ"!!!」

「アイ"エ"エ"エ"!?」

 

 爆発的な身体能力を上乗せしたバズーガがサトリの腹へと炸裂する。

 肥えた腹が凹み、サトリは血の放物線を描き、大木へと激突した。

 

 サトリは許容量を超えたダメージを受け、血反吐を吐き、倒れ伏す。

 焦点が定まらず、身体を痙攣させながらサトリは無様に地を這いつくばった。

 その様子がルフィの新たな技のダメージの強大さを物語っている。

 

 サトリは動かない。

 今度こそ迷いの森の神官は沈黙し、ルフィ達は勝利を収めた。

 

「おー、凄い威力だな」

「疲れたぁ……」

 

 湯気が収まり、ルフィは脱力する。

 爆発的な身体力の上昇の代償にルフィは力なく倒れ込んだ。

 

「それにしてもあの技は一体何なんだ、ルフィ?」

「まだ技名は決めてねェんだけどよ、凄ェ威力なんだぜ」 

 

 息を荒げながらも、ルフィは満面の笑みを浮かべる。

 

「アキトとの闘いで偶然発見したんだ」

「成程ねェ」

 

 興味なさげに返事をしながらもサンジはルフィの新技の威力に感嘆する。

 戦闘力の上昇も然ることながら、身体能力・攻撃と移動速度の全てが急激に上昇していた。

 

「俺もうかうかしてられねェな……」

 

 ルフィの急速な成長にサンジも負けていられないと密かに対抗心を燃やす。

 アキトとの戦闘では手も足も出なかった。

 今後の冒険で生き残るにはより強くなる必要があるだろう。

 

「ルフィ、サンジ!カラス丸の捕獲が完了したぞ!」

「了解だ、ウソップ。ほら、行くぜ、ルフィ」

「それなんだがよぉ、力が入らねェんだ、サンジ」

「カッコつかねェなぁ、おい」

 

 そう易々と強くなれるわけねェか、とサンジは嘆息し、ルフィを引きずりながらカラス丸へと向かった。

 

 禁断の聖地神の地(アッパーヤード)・"迷いの森"

 スカイピア神官"森のサトリ"撃破

 

 同時刻、生贄の祭壇にてスカイピアの神官"スカイライダー・シュラ"がアキトの手によって撃破されていた。

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 神の地(アッパーヤード)が業火に包まれ、焼け落ちる。

 先程まで、戦場の至る場所で戦闘音が鳴り響き、ワイパー率いるシャンディアと神官達が戦闘を繰り広げていた。

 

 既に彼らの戦闘を終わりを告げ、神官達は神の地(アッパーヤード)・"神の(やしろ)"へと集結している。

 

「"サトリ"に"シュラ"、神官を2人まで倒されたか。これは序盤から番狂わせだな、ヤハハハハ!」

 

 この場に集う神官は"スカイブリーダー・オーム"と"空番長ゲダツ"の2人のみ

 シュラはアキト、森のサトリはルフィ達によって撃破されていた。

 

「奴らもまだまだ甘い。どうやら青海人達の実力を見誤ったようだ」

「まあ、神の加護がなかったのだろう、ヤハハハハ!」

 

 神殿の御前にてスカイピアの唯一神である(ゴッド)・エネルが実に愉快気に笑う。

 

「それでは我ら神官をお呼びになったのは……」

「その通りだ。少しばかり予定を早め、お前達に神の地(アッパーヤード)全域を解放しよう」

 

 神官の一人オームの疑問の声に対して、エネルは得意げに応える。

 

「実は既にほぼ完成している、"マクシム"がな」

 

 神隊に囲まれ、侍女を侍らせながら、エネルは残る神官であるオームとゲダツを試す様に見据える。

 

「気張れよ、お前達。神である私を失望させてくれるな」

「明日、再びシャンディアを迎え撃ち、長きに渡る闘いに終止符を打とうじゃないか」

 

 全能なる神、(ゴッド)・エネルは笑う。

 実に愉快気に、楽し気に高笑いを続けた。

 

 

 

 

 

エンジェル島

 

「……」

 

 エンジェル島へ残ることを決意したクリケットは終始、神の地(アッパーヤード)を見据えていた。

 己の部下であるマシラとショウジョウの存在も今は意識の外に置き、彼は真剣な眼差しで眼前の大地から目を離さない。

 

 この島が祖先である"うそつきノーランド"が見た黄金郷の秘密を握っているのかもしれない。

 明確な根拠があるわけではない。

 

 だが、自分の体に流れるノーランドの血が疼くのだ。

 この空島に巨大な黄金都市が存在しているのだと。

 

「……これが正真正銘の最後だ」

 

 かつて海賊としての航海の果てに辿り着いた場所が"うそつきノーランド"が見たというジャヤなど存在しない孤島だった。

 そして、今、自分は伝説で語られた空想上の"空島"にいる。 

 

決着(ケリ)をつけようぜ、ノーランド」

 

 クリケットは静かにこの空島探索を己の生涯にて最後の祖先との決着の場と決意した。 

 

 

 

 同時刻、森のサトリを撃破したルフィ達が生贄の祭壇に無事到着し、時を同じくしてその場に帰還したロビンとゾロの両名との合流に成功していた。

 生贄の祭壇にはアキト達の姿はなく、ルフィ達と入れ違う形で祭壇から姿を消していた。

 ロビンとゾロに一つの言伝を残して

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃、生贄の祭壇に連行されたアキト達は……

 

「凄ぇな、俺達、空を飛んでるぞ」

 

 生贄の祭壇にメリー号を残し、空を移動していた。

 チョッパーが興奮の余り、目を輝かせながら眼下の神の地(アッパーヤード)を見下ろしている。

 

「ねえ、トニー君、この鳥は何故、私達に従順なのかしら?」

「……多分だけど、アキトのことを怖がっているんだと思う」

 

 三丈鳥フザはアキトを含む、ナミ、ビビ、チョッパーを背中に乗せ、空を突き進む。

 首の付け根に座るアキトに終始恐れをなすかのように、体を震わせている。

 

「アキトさんを……?」

「うん、アキトはこの鳥の主人をぶっ飛ばしただろ?それで、恐らくこいつは本能レベルでアキトに屈服しているんだ」

 

 成程、ビビはこの巨大な鳥が異様に従順な理由を理解した。

 強いものには巻かれろ、この鳥はその言葉を体現しているのだ。

 

 ビビはチョッパーを腕の中で抱き締め、アキトの下へと向かう。

 生贄の祭壇を飛び立って以降、ナミはずっとアキトの隣に座っている。

 羨ましい、実に羨ましい。

 

 フザは翼を羽ばたかせ、神の地(アッパーヤード)上空を通り抜け、更に突き進む。

 アキト達の次なる目的地はエンジェル島

 

「エンジェル島に戻る目的は何なの?」

「クリケットさん達と合流するためだ」

 

 フザの首の付け根に座り、アキトは前方のエンジェル島を見通す。

 アキトの右腕に背中を預けながら、ナミが疑問の声を上げた。

 

「クリケットさん達と……?」

 

 何故、クリケットさん達を迎えに行く必要があるのか、ナミは疑問に思ったが、聡明な彼女は即座にアキトの考えを理解した。

 

「ははーん、分かったわよ、アキト」

 

クリケットさん達に空島を案内するつもりなんでしょ?

 

 アキトの身は一つだけであり、クリケットさん達全員を抱え上げることはかなりの重労働だ。

 ならばこの三丈鳥を利用し、クリケットさん達を運ぼうとアキトは考えたのだろう。

 

 ナミは得意げにアキトの瞳を見詰め、アキトへと接近する。

 対するアキトは図星だったのか、瞳を少しだけ見開き、動揺を見せた。

 

「優しいのね、アキト」

「……」

 

 ナミの心からの賞賛に照れたのかアキトは頬を掻きながら、そっぽを向く。

 そんなアキトの様子が可愛いと感じ、ナミは楽し気にアキトの頬をつつく。

 肩越しにナミは身を乗り出し、アキトに密着する形でこの時間を誰よりも満喫していた。

 

「隣、座りますね、アキトさん」

 

 そんな彼らの様子に我慢が出来ないビビがアキトの左隣へと腰を下ろす。

 腕にチョッパーを抱え、肩が触れ合う近距離でビビはアキトの傍に座った。 

 

「ここは少しばかり狭いので失礼します、アキトさん」

 

 3人では手狭なフザの首の付け根から転がり落ちないように、ビビはアキトの左腕を自然な動作で自身の腕と組む。

 何故か、不必要に身体をアキトの方へ寄せていたが

 

「アキトにちょっとばかしくっつき過ぎよ、ビビ」

「私は何と言われようとアキトさんから離れませんからね、ナミさん」

 

 突如として始まったナミとビビの視線による謎の牽制が勃発する。

 彼女達の間に火花が散っているように見えるのは錯覚であろうか。

 アキトはナミとビビの現状に困惑することが出来ず、頭にしがみ付くチョッパーとの会話に専念するしかない。

 

「空が綺麗だなー、アキト」

「そうだなぁ」

 

 チョッパーは無邪気に空の旅を楽しんでいる。

 少しは此方を労って欲しい。

 

「今度、一緒に空の旅に行くかぁ」

「本当か!約束だぞ、アキト!」

「良いぞぉ」

 

本当、本当、アキトさん、嘘つかない

 

「私、こうやって世界を旅することに昔から憧れてたんです」

「そうなのかぁ」

「……」

 

 ビビは王女時代から胸の内に抱き続けてきた願いが叶い、ご満悦の様子だ。

 

 そんな中、ナミだけが状況に付いていけない。

 ナミは自分一人だけが駄々をこねる子供の様に感じ、怒るに怒れなかった。

 

何よ、何よぅ……!

私が間違っているというの……!?

アキトも普通にビビを受け入れちゃって……!

 

「……」

「つーん……」

 

 この時、ナミが出来たのはアキトの空いている右腕をビビと同じく絡めることであった。

 つーんとは何ぞや、と口に出すことは勿論出来ず、アキトはナミを黙って受け入れる。

 

 そして、フザは変わらず懸命に翼を羽ばたき、遂にエンジェル島へと辿り着いた。

 エンジェル島にはクリケットさん達の姿が見え、此方に手を振っている。

 

 こうしてアキト達は生贄の祭壇から脱出し、エンジェル島へと帰還した。




クリケットさんはやっぱ空島に行くべきなんだよ

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