世界に痛みを(嘘) ー修正中ー   作:シンラテンセイ

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幕間の物語
─ナミの心象Ⅰ─


 ココヤシ村が突如海賊による襲撃を受けた。

 

 私が丁度10歳の時であった。

 

 アーロンという名の魚人海賊団が突如ココヤシ村を支配すると豪語したのである。

 魚人、人間とは異なる種族の生物であり、人間である私達よりも数倍の身体能力を有していると言われる種族だ。

 

 何故、このココヤシ村に来たのか。

 疑問は尽きない。

 

 魚人共の頭であるアーロンは奉納金を献上すれば命までは奪わないと述べる。

 

 その額、大人一人が10万ベリー、子供一人が5万ベリー。

 私達の家にそこまでのお金は存在しない。

 無論、村の皆も。

 

 どうすれば…

 

 どうすればっ…!?

 

 私の親であるベルメールさんは既にアーロンの手によって満身創痍の状態に陥られてしまっている。

 

 ゲンさんの提案によりベルメールさんは私とノジコの分を除いた奉納金を渡そうとするも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ノジコ…、ナミ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 大好き 』

 

 

 

 

 

 私達のことを見捨てることが出来なかったベルメール母さんは無惨にも殺されてしまった。

 

 当然、村の皆はアーロン達魚人達の蛮行に反対し、抵抗を試みた。

 だが魚人共は強大な力で瞬く間に此方を無力化してしまう。

 

 一人、また一人と地に伏し、その体を血で濡らしていく。

 

 そんな…

 

 そんな……

 

 

 ただ目の前で広がる凄惨な光景に対して言葉が出なかった私は測量士として目を付けられ連行されていった。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 アーロン一味に加わった。

 優秀な測量士として、半ば強制的な形で。

 

 私に拒否権など存在せず、村の皆を少しでも助けるためにアーロン一味の刺青まで刻むことになった。

 

 結果、ゲンさんを含む村の皆に追い出されてしまう始末。

 

 本当に笑えない。

 だが挫けてしまっては駄目だ。

 

 

 

私がこの村を、皆を救うんだ…

 

どれだけの月日が要されようとも…、私が必ずっ! 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 幾度もアーロンを暗殺しようと企てたが何度も失敗した。

 

 暗殺、毒殺、奇襲。

 

 全てが無駄に終わった。

 

 理解せざるを得なかった。

 私に残された選択肢は素直に1億べリーを集める以外にないのだと。

 

 1億べリー、途方もない金額だ。

 だが集めなければならない。

 ココヤシ村を買い、村の皆を救うためにも。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 今日も海賊泥棒として海賊共から金目の物を盗むことに成功した。

 

 あと少しで目標金額の1億ベリーを揃えることができる。

 やっと私の故郷であるココヤシ村を救うことができるのだ。

 

 今思えば長いようで短い8年間であった。

 魚人共にココヤシ村を支配されて今年で8年。

 アーロンの指示により海図を書き、奴ら魚人共の仲間になることでココヤシ村の皆を守ってきた。

 

 故郷であるココヤシ村を救うために泥棒稼業に手を付けてきたのだ。

 

 大嫌いな海賊に取り入ってでも自分の村を救うべく奮闘した8年間。

 必死に、身を粉にし、心を鬼にしてまで目標金額である1億べリーを稼ぐことを第一主義としてきた。

 

 心休む暇など存在せず、神経をすり減らす毎日。

 心底嫌悪する海賊に媚びへつらう自分に嫌気が差す日々。

 だがそんなことしかできない自分に怒りを覚えてしまう悪循環。

 

 無論、決して楽な道のりではなかった。

 多少航海の知識を有していようが所詮は一介の村娘。

 一度に莫大な金を稼ぐことなどできはしない。

 

 貞操の危機を感じたのも一度や二度ではない。

 奴らは幾度も下賤な視線を私に向け、私を襲おうとしてきた。

 

 自分の容姿が整っているのは自覚している。

 

 メリハリのついた肢体に、服越しにでも伺える女性の象徴である豊かな胸。

 スカートから覗く太股は男の劣情を誘うことは明白であり、自身の象徴でもある鮮やかなオレンジの髪は綺麗に切り揃えられている。

 顔も正に美少女と呼ぶのに相応しい端正な顔付きをしている。

 

何故、自分がこんなに苦労しなければならないのか?

何故、海軍は助けに来てくれないのか?

 

 いや。分かっていた。

 海軍は助けに来ないのではない、助けに来れないのだと。

 

 無意味だと分かりながらも幾度もこの無意味な問答を繰り返してきた。

 

 だがその苦労も漸く実を結ぶ。

 アーロンは外道で屑だが金銭面での約束事は必ず守る男だ。

 1億ベリーを集め終えた後はただ奴の前に差し出せば良い。

 

 

 

あともう少しだよ、ベルメールさん、ノジコ、ゲンさん……

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 麦わら帽子を被った海賊と出会った。

 そいつは麦わら帽子を自身の宝なのだと言う。

 本当に変わった奴だ。

 

 そいつはどこまで行っても海賊らしくなく、こんな私を受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良い奴らだったなぁ

 

また仲間に入れてくれるかな

 

早く自由になりたいよ、ベルメールさん…

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 くそっ!

 

 くそっ…!!

 

 アーロン!

 

 アーロン!!

 

 アーロン!!!

 

 

 裏で内通していたあのネズミ大佐と呼ばれるネズミ野郎がお金を強奪しようと襲撃してきた。

 

 何故、あのネズミ野郎が1億ベリーという正確な金額を知っていたのか。

 

 何故、1億ベリーがもう少しで揃うこの時期にいまごろ私の前に現れたのか。

 

 答えは明白だ。

 

 全てっ!

 

 全てっ!!

 

 最初からアーロンの奴はあのネズミ野郎と繋がっていたのだ!

 

 海軍が海賊と手を組む、許されない事態だ。

 

 アーロンパークでアーロンを問い詰めたが、奴は素知らぬ態度でぬけぬけとのたまいやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が約束(・・・・)をいつ破った?』

 

 

『海軍に金を盗まれた…?そりゃぁ不運(・・)だったなぁ。』

 

 

『まあたかだか1億ベリーだ。また集めればいいじゃねぇか。』

 

 

『また1億ベリーを集め終えた時に村を返してやるよ。俺は(・・)約束を守る男だからな。』

 

 

 

 畜生っ!

 

 畜生ォ!!

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 ゲンさんを含む村の皆がアーロンに反旗を翻すことを決意した。

 

 駄目だ。

 アーロンに歯向かえば死んでしまう。

 

 

 

『知っていたよ、全て。ナミ…、お前が私達のためにアーロン一味に入り、お金を集めていたことも。』

 

 

 嘘……

 

 ゲンさんは全てを知っていたのだ。

 見ればココヤシ村の全員がゲンさんの言葉に強く頷いている。

 どうやらノジコが全て話していたようだ。

 

 呆然とする私の前で村の皆は武器を持ち、アーロンの元へ向かおうとしている。

 

 そんな皆を止める術を私は持ち得ていなかった。

 

 

 駄目だ。

 

 例え村の皆が総出で挑んでも結果は見えている。

 

 

 

 どうすればっ!

 

 一体どうすればっ!?

 

 

 瞳は涙で溢れ、視界はままならない。

 足は震え、体に力が入らない。

 

 

 

 

 

 そんな時であった。

 

 私がアキトと出会ったのは。

 

 

 

 

 

『少し待ってくれませんか?』

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 魚人であるアーロン達が蹂躙されている。

 

 アキトと名乗る謎の少年の手により一方的にだ。

 

 

 最初は部外者である奴が何を言っているのかと憤慨した。

 

 当然だ。

 今日偶然この島に来たような奴が『俺に任せてくれませんか』など何を言っているのか。

 

 文句を言ってやろうと目の前の少年を射抜いた途端、そんな私の気持ちは霧散した。

 

 件の少年、アキトが今にも怒りが爆発しそうな程内心を煮えたぎらせているのを理解したからだ。

 

 見れば彼の右手は血が滴りそうな程強く握りしめられ、紅き瞳はまるでマグマの様に燃え上がっている。

 体からは殺気とも呼べる闘気を放ち、ゲンさん達を気圧している。

 

 そんな雰囲気の中アキトは静かにゲンさんにこう述べた。

 

 

 

 

 

『…アーロンパークへ案内してくれませんか?』

 

 

 

 

 

 アーロンパークへと辿り着いた私達はアキトが先頭になる形でその場に佇んでいた。

 

 門をまるで家のノック感覚で吹き飛ばし、アーロンパークへと侵入するアキト。

 

 その場の誰もがその衝撃的な出来事に驚かされたことは記憶に新しい。

 

 

 

 その後はトントン拍子に事が進んだ。

 

 モームは謎の衝撃波で島の沿岸まで無残にも吹き飛ばされ、周囲の魚人達は難無く撃沈される。

 

 そう、たった一人の人間であるアキトの手によって。

 

 幹部の一人であるハチは6本の刀を粉々に破壊された後島の沿岸まで勢い良く吹き飛ばされ、クロオビはその場から一歩も動くこともなく地に沈められた。

 最後の幹部であるチュウはただ手をかざすだけで再起不能に陥られる。

 

 この時点でアーロンパークは崩壊寸前であり、残りはアーロンただ一人となる。

 

 そして並外れた実力を持つはずのアーロンさえもアキトに為す術もなく掌底を撃ち込まれ、ボロボロの状態へと早変わりした。

 

 魚人特有の怪力も体格も、自慢の長ッ鼻さえもアキトには通じなかったのである。

 

 私の目にはアーロンの姿が酷く哀れで、滑稽に見えた。

 正に井の中の蛙。

 

 最弱の海である東の海(イーストブルー)で大将を張っていたアーロンの実力など偉大なる航路(グランドライン)から来たアキトにとって相手にはならなかったのだ。

 

 魚人族が至高の種族であると豪語していたにも関わらず鍛錬と研鑚を怠った者の成れの果ての姿である。

 

 8年前、私達に行った力の暴力をその身を持ってアーロン自身が受けている。

 正に因果応報、その言葉の意味をアーロンは身を持って味わっていた。

 

 その後、アーロンの必殺の一撃でさえもアキトには通じず、まるで赤子の手を捻るように一蹴されアーロンパークと共に崩れていった。

 

 

 8年にも渡る支配が瞬く間に終わりを迎えた瞬間である。

 

 

 初めの内は眼前の事実に狼狽え、信じることができなかった。

 だがそれが現実なのだと理解すると万感の思いが胸の内に広がる。

 

 そんな私を見かねたアキトは優しく抱きしめてくれた。

 

 遂に耐え切れなくなった私は皆の前でみっともなく泣き、アキトを抱きしめ返すことになる。

 これまで溜め込んできたもの全て吐き出すように。

 

 アキトは服が濡れるのも構わず優しく私の背中に手を回してくれた。

 アキトの胸の中は暖かく、冷めた私を心身共に癒してくれた。

 

 まるで遥か年上の男性に抱きしめられているような感じであった。

 

 今思い返すだけでも恥ずかしい。

 出会って間もない男の胸元で号泣し、その光景をノジコ達に見られてしまうなんて。

 

  

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 アーロンの8年に及ぶココヤシ村の支配は実質上の終わりを迎えた。

 

 突然この島を訪れたアキトという名の少年1人の力によって。

 

 初めの内は信じられなかった。

 目の目に広がる光景が嘘ではないのかと何度も自問自答した。

 

 だが眼前の出来事は紛れもない事実であり、あのアーロン一味がたった一人の人間の手によって壊滅させられたのだ。

 

 アーロンパークの崩壊後にあのネズミ野郎が空気を読まずに横入りしてきたがアキトの手によって無事ボコボコにされた。

 村の皆は歓声の嵐をアキトに上げ、軽いお祭り騒ぎになっていた。

 

 かくいう私もネズミ大佐を海にかっ飛ばしている。

 

 一発目は打たれたノジコの分。

 二発目はベルメールさんの畑を滅茶苦茶にしてくれたお礼参り。

 三発目は私のお金を強奪してくれたお礼。

 

 非常にスッキリするものであった。

 無論、まだまだやり足りないが。

 

 奴らの処遇をどうすべきかは迷ったがどうやらアキトは海軍本部にコネを持っているようなのでアキトに一任した。

 

 その後風の噂でネズミ大佐を含む海軍共が処罰を受けたことを耳にした。

 奴らはこれから厳しい罰を受けることになるだろう。

 敢えて言おう、ざまぁ。

 

 これまでココヤシ村の救いの声に蔑ろにしてきたのだ。

 当然の報いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして私の8年の頑張りは無駄になってしまったがココヤシ村が再び自由を取り戻した。

 文字通り本物の自由を得たのだ。

 

 だからこれで良かったのだ。

 

 今、ココヤシ村ではアーロンの支配からの解放を祝う宴が行われている。

 

 皆が笑い、肩を組み、心からの自由を謳歌している。

 何故かルフィ達もちゃっかり参加しているが、まあそこには突っ込まないでおこうと思う。

 

 気付けば私はアキトを誘い、ベルメール母さんのお墓へと案内していた。

 どうやら私は今回の騒動の結果に理解はしていたが納得はしていなかったらしい。

 

 正直な話アーロンを撃退したことを交渉材料にアキトが私の体を要求してくるのではないかと一抹の不安を抱いていた。

 

 だが彼、アキトは私にそんな要求を突き付けてくることはなかった。

 ただ純粋に私の頑張りを踏みにじったアーロンを許せなかったからだと口にしたのだ。

 

 

 

『─許せなかったからだ。ナミの8年にも続く頑張りを否定した、アーロンが許せなかった。』

 

 

『─初めはこの村の事情には部外者である自分は関わるべきではないと考えていた。だけどナミの頑張りは無常にもアーロンよって踏みにじられ、この村の希望は潰えた。』

 

 

『─言ってしまえば今回の件に手を出したのは俺のエゴだ。ナミを助けたい、ナミの願いを叶えたい。─まあ、つまり俺は自分の意志のもと行動しただけだ。だからナミは今回のことに対して俺に恩義を感じる必要も、何か必要以上に考え込む必要はないんだ。』

 

 だから自分に恩を感じる必要はないのだと。

 そうアキトは言ったのだ。

 

 

『あったさ。…意味ならあった。ナミの必死に頑張る姿はきっとこの村の人たちにとって希望だったはずだ。最後は俺が解決してしまったけど村の人々はナミの頑張る姿を見て今日のこの日まで耐え忍ぶことができたんだと思う…。それにお金を集めるために海を渡っていなければルフィたちには出会えていないだろ?』

 

 加えて私に励ましの言葉を掛けてくれたのだ。

 この瞬間私はアキトという少年の本質を理解したような気がした。

 

 一応気持ちの整理が付いた私はアキトを酒の席に誘った。

 やはり親睦を深めるには酒と相場が決まっている。

 

 

 

 

 

 その後私はノジコ達の声援を背に受けながらココヤシ村を後にした。

 私の夢を叶えるために。

 

 

 

行ってきます、ベルメールさん、ノジコ、ゲンさん、皆。

 

 

 

To be continued...




やっぱりナミの心理描写も大切ですよね

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