王女を救出にきたアキトの眼前ではルフィとゾロが戦闘を行い、理解出来ない状況が広がっていた。
2人の傍にいる水色の髪の彼女も困惑している。
水色の髪にカルガモを引き連れている女性、彼女が王女だろう。
見覚えがあると思えば彼女は双子岬でラブーンの腹に穴を開けようとしていた謎の2人組の片割れではないだろうか。
どうやら犯罪者から王女にジョブチェンジしたようである。
アキトはルフィとゾロの2人の戦いを止めるよりも先に王女の確保を優先するべく上空から眼下に降り立った。
「貴方が王女で合っているか?」
「あっ…貴方は!?」
彼女は双子岬で鯨の捕鯨を妨害したアキトの突然の登場に狼狽える。
空からアキトが現れたことにも驚いているのだろう。
「警戒する必要はない。イガラムさんからあんたを守るように頼まれている」
「イガラムが……」
未だ警戒心を解いてはくれないが、一応話は聞いてくれるようだ。
イガラムの名前を出したことでアキトに対する警戒心を薄めてくれたのだろう。
「ああ。それで貴方が王女で間違いないか?」
「……ええ、そうよ。私が王女ビビよ」
彼女は躊躇いながらも自身が王女だと肯定する。
名前はビビというらしい。
やはり彼女が王女で間違いないようだ。
これで一応自分の任務は達成である。
しかし、まだ事態は収束したわけではない。
「ルフィとゾロの2人は何故、戦っているんだ?」
アキトは当初から気になっていたことをビビに尋ねる。
「えっと、確か飯を食わせてくれたこの町の人達をMr.ブシドーが斬ったからって彼は言ってたわ。その後、問答無用でMr.ブシドーを攻撃して……。ただ、彼らのおかけで
「Mr.ブシドーというのはゾロのことか?」
「ええ、貴方の仲間の剣士のことよ」
アキトは嘆息し、空を見上げる。
彼女の話しを聞くに恐らくゾロの言い分をまともに聞かずにルフィは感情の赴くままゾロに飛びかかったのだろう。
ゾロとは違いルフィは宴の後も爆睡していたためこの町の人達の正体を知らないということもあるのだろうが
ルフィには少しぐらい人の話を真面目に聞いてほしいものである。
今なお眼前ではルフィとゾロが拳と剣による応戦を続けている。
2人からは手加減というものが一切感じられなかった。
辺りを見渡せば組織の追っ手である2人も倒れていた。
彼らは酷い有様であり、何故か焦げている。
ついでとばかりにルフィとゾロに吹き飛ばされたのだろう。
アキトは彼らに敵とはいえ同情せずにはいられなかった。
事態の収束を図るべくアキトはまず眼前で今なお続く無謀な戦いを止めることを決意する。
「まだまだ動けるだろ、ルフィー!!」
「おおォ!決着をつけるぞ、ゾロー!!」
決着をつけるべく同時に駆け出す2人
両者は雌雄を決するべく互いの必殺の一撃を打ち出した。
「"鬼"…切ッ!?」
「ゴムゴムのーっ!?"バズッ…!?」
2人の間に突如上空から降り立つアキト
「アキト!?」
「おい、アキト!危ねェぞ!?」
アキトへ忠告するルフィとゾロであったが、アキトは動じることなく対処する。
勢いよく突っ込んできた2人の右手首を掴み取り、突進の勢いを殺すことなく両者を逆方向へと投げ飛ばした。
ルフィとゾロはアキトに投げ飛ばされ建物へと激突する。
建物の壁は轟音を伴い崩れ落ち、瓦礫の山を積み上げた。
無論、当然その程度で止まる2人ではなく、すぐに倒壊した建物の残骸から立ち上がる。
「アキト、てめェ何しやがる!?」
「そうだぞ、アキト!何すんだ!?」
「やめなさい、あんた達!!」
「あァ!?ってナミじゃねェか?」
「んァ?おお~ナミ、どうしたんだ?」
その場に到着したナミの一喝により事態は無事収束し、ルフィとゾロの2人は互いに矛を収めた。
▽▲▽▲
無事に王女であるビビを救い出したルフィ達は彼女の話に耳を傾けていた。
ルフィとゾロはナミの拳骨の跡が残っていたが
彼女の口から語られる内容は壮絶の一言に尽きた。
彼女の祖国であるアラバスタ王国では現在革命による内乱が起きていること
加えて、裏で手を引いている
故に、ナミの要求である10億べリーは実質払うことは出来ないこと
聞けば聞くほど彼女が戦っている相手の強大さが理解せざるを得ない。
ナミは祖国のために必死で戦うビビの姿を自分と重ねて見ていた。
この世界の人間は誰しも自分の大切なもののために命を懸けている。
彼女達のそんな姿はアキトにはとても眩しいものに見えた。
「その
興味津々な様子でルフィが無邪気にビビに尋ねる。
ビビは焦った様子で動揺をあらわにする。
「
言わないどころか本名まで暴露した。
この王女しっかりとしていると思ったら全然大丈夫ではなかった。
うっかりどころの騒ぎではない。
「言ってんじゃねーか」
ゾロの当然の突っ込み
普段、仏頂面のゾロが呆れながら突っ込みを入れるレベルである。
ナミは両手で自身の体を抱きしめ、絶望していた。
そんな眼下の彼らを屋上から様子を伺っていたラッコとハゲタカはルフィ達の前から悠々と飛び去っていく。
ルフィ達はその光景を呆然と見上げることしか出来ず、辺りに静寂が広がった。
「ちょっとあれ何!?もしかして私達のことを
最初に再起動したのはナミであった。
ナミはビビに詰め寄り、首が折れそうなほどの勢いでビビを揺さぶる。
ナミは半狂乱の状態であった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ほ、本当にごめんなさい……!」
ビビはナミに謝ることしか出来ない。
「冗談じゃないわよ!
ナミは目に涙を浮かべ、その場に泣き崩れ、右手の甲で涙を拭っている。
ナミはマジ泣きをしていた。
そんなに七武海が嫌なのだろうか。いや嫌か
「……ナミ?」
ナミは突如、アキトの手を掴みこの場から離れ始めた。
この手は絶対に離さないとばかりに強く握られている。
「ここから今すぐにでも逃げるのよ!七武海なんて冗談じゃないわ!!アキトなら空を飛べるでしょ!?私を抱えて2人で誰にも見つからない場所に逃げるのよ!!!」
それは新手の告白だろうか?
アキトは不覚にもときめいてしまった。
だが、ナミの顔はマジである。
「何処に逃げるつもりだ、ナミ?」
「どこでもいいわよ!まずは一刻も早くこの場から離れ……!?」
ナミが突然、立ち止まる。
どうしたのかとアキトが前方を見れば、謎の生物2匹が自分達の歩みを阻むように前方に立っていた。
ラッコとハゲタカだろうか。
2匹ともサングラスをかけている。
ラッコに関しては二足歩行であり、もはや意味不明である。
呆然とするナミの前でラッコはペンを走らせ、この場にいるナミを含めた全員分の似顔絵を描き始めた。
どうやらラッコは画家でもあり、会心の出来とも呼ぶべき似顔絵を完成させた。
ラッコとハゲタカはアキトと未だに呆然とするナミの前から悠々と飛び去っていった。
「これで逃げ場もないってわけね!!」
ナミは逃げ切ることを諦めたようだ。
もはや彼女からは投げやりな気持ちが感じられた。
しかし、アキトはここで彼らを逃がすつもりは毛頭なかった。
「待て」
アキトが声を発した途端、ラッコとハゲタカは空中で不自然に停止した。
否、正確には自分達の体がアキトの方に
ラッコとハゲタカは空中でアキトの能力から逃れようとジタバタするが無駄無駄ァである。
その程度の力ではアキトの引力の力を打ち消すことは出来ない。
アキトはラッコから似顔絵を奪い取り、ラッコとハゲタカの首根っこを引っ掴む。
そして、足元の地面を足で陥没させ脅しをかけた。
「もしお前達の
アキトの脅しに全力で首を縦に振る2匹
見ていて可哀想になるほど彼らはアキトに怯え、冷や汗をダラダラ流していた。
その後、アキトはすんなりと彼らを解放し、ラッコとハゲタカは逃げるように飛び去っていく。
一仕事を終えたアキトが背後を振り返るれば、ウルウルと涙を浮かべたナミが両手を胸の前で握り締めながら立っていた。
「やっぱり、私の味方はアキトだけ!!」
ナミは感極まった様子で手を広げ、力の限り抱擁する。
ナミのたわわに実った果実が自分の胸に当たっている。
うむ、ベリーグッド
無論、アキトは表情にはおくびにも出すことなく、アキトはナミを優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「そう言えば七武海はその地位を得る前に懸けられていた懸賞金が剥奪されると聞いているが、クロコダイルの元懸賞金はいくらなんだ?」
アキトは純粋な疑問をビビに投げかける。
「えっと、確かクロコダイルの元懸賞金は8000万ベリーって聞いているわ」
「8千万ってアーロンの4倍じゃない!!」
叫び声を上げることしか出来ないナミ
しかも元懸賞金額があのアーロンの4倍であり、驚くなというのが無理な話であった。
「それはあくまで七武海に加入した当時の懸賞金の数値だ。現時点では更に跳ね上がる可能性があるな」
アキトは冷静に分析し、現実を叩きつける。
この男、以外と容赦のない男であった。
「尚更笑えないわよ!」
ナミはもはや冷静ではいられなかった。
ム〇クの叫びのごとく両手を頬に当て泣き叫んでいる。
「じ…ゴホッ!マ~ママ~♪心配なさらずとも大丈夫です」
「イガラム!?無事だったのね、良かった!」
「うおおーっ!おっさんその恰好面白いなー!」
「え、イガラムさん?」
嘘ぉ……。この女装している人がイガラムさん?
何てインパクトのある姿をしているのだろうか。
少し王女様を助けるために彼から目を離していた僅かな時間に女装してきたらしい。
何の意図で女装したのだろうか。
アキトは思わず息を呑む。
見れば周りのゾロ達も言葉には出さないが引いていた。
ルフィだけは見当違いのことを述べていたが
「ところでビビ様をアラバスタまで送り届けてくださる話は了承してくださいましたか?」
「ん、ああそういう話だったのか。いいぞ」
「ちょっと待って!!何気軽に了承してるのよ、ルフィ!?」
ルフィは事情を深く考えることなく即決する。
ナミは当然抗議したが、涙を浮かべていたこともあり迫力が余り感じられない。
「10億ベリーの取引の話はいいのか、ナミ?」
「もうそんな話はどうでもいいわよ!!」
守銭奴のナミといえどお金よりも自身の身の安全と命の方が大切らしい。
「それでは、ビビ様。確かにアラバスタ行きの
「ええ、貴方も道中、気を付けて、イガラム」
「ちょっとそこ!何勝手に話を進めてるのよ!?」
あちらではビビとイガラムさんが今後の方針を話し合っていた。
もはやビビをアラバスタ王国に送り届けることは確定してしまっているらしい。
ナミはアキトの言葉を聞き悲し気に肩を落とし、ガックシと両手を地面につけ崩れ落ちた。
ナミからは諦めの哀愁が漂っている。
「わ、分かったわよぉ。……ところでイガラムさん
「
如何なる場所でも他の磁力の影響を受けずに記録した島の方向を指し示し続けるものらしい。
それでは今、彼がビビからアラバスタ王国の
「囮役はもちろん私が行きます。貴方はこれからのアラバスタ王国を守っていくのに必要な存在です。ビビ様は祖国の意志を胸にどうかアラバスタ王国を救ってください!!」
つまり、ビビ王女を少しでもアラバスタ王国に安全に辿り着く確率を上げるための囮役をイガラムさんは自ら危険な役を買って出るつもりのようだ。
自らが囮となり、
「分かったわ、イガラム。無事祖国で会いましょう」
「ええ、必ず」
その後、船場でイガラムさんと別れたルフィ達はメリー号へと足を進めた。
イガラムさんは既に別の船でウイスキーピークから出航している。
「行くわよ、あんた達!!」
「ああ、行く…!?」
途端、爆炎と轟音が巻き上がった。
後方では
「船が……!?」
「そんな、イガラム……!」
「まさか、もう
「行くぞ、お前ら!!」
「アキトさん!?」
「ここで立ち止まるな!イガラムさんの思いを無駄にするつもりか!!」
「「「「……!!」」」」
アキトの言葉で目を見開くルフィ達
「アキトの言う通りよ!一刻も早くこの島から脱出しましょう!!」
「「おう!!」」
「イガラム……っ!ええ、分かったわ!!」
ルフィ達は急ぎ足でメリー号に乗り込み、ナミの指示の下ウイスキーピークから出航した。
▽▲▽▲
ウイスキーピークから無事出発したルフィ達は新たな仲間であるビビとカルーを乗せ、メリー号の舵を切る。
宴で潰れていたサンジとウソップは適当にルフィが引きずりながらメリー号へと連れ込んだ。
イガラムさんの安否は未だに不明であるが、今は前に進むしか道はないのだ。
次なる目的地の名前は"リトルガーデン"
ウイスキーピークから出航後、
現在、ルフィ達は本来のルートであるリトルガーデンへと船を進めている。
「見えたぞ~!あれがリトルガーデンか~!!」
「うん、間違いない、
ルフィ達の
その島は巨大な山が雲を貫き、ジャングルが生い茂っている。
正にここから
ルフィ達の次の目的地である"リトルガーデン"は太古の生物が蔓延る弱肉強食の孤島
──その島に何が待ち受けているのかはまだ誰にも分からない。
To be continued...
ビビってFateの遠阪凛に似ていると思うんですよね。うっかりしてるところが
あと、アキトさんは基本、敵に敬語は遣いません