夕暮れに滴る朱   作:古闇

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二三話.不安

 

 

 

 十一月の上旬。巴は久々にいつもの幼馴染達とゲームセンターに来ていた。ひまりが筆頭にプリクラを撮ろうとなり、狭い筐体の中、五人で詰めて撮影をする。

 

 その後、大画面のガンシューティングを発見し、最大二人プレイなので二人一組ですることになったのだが、最初に始めた巴は途中で倒れる。相方のつぐみはまだまだ余裕だ。

 

 巴は後ろで待機しているモカと交代する。ただ、その先で誰ともしれない仲の良い姉妹を見かけ、、ついあこの様子がよぎり、眉をひそめてしまった。

 

 

「あれ、巴、そんなに悔しかった?」

 

 

 と、ひまり。巴がガンコンを渡してすぐ、口惜しいともとれる表情だったために勘違いをする。

 

 

「いや、あこのことを思い出して、ちょっとな」

 

「ふーん、姉妹喧嘩でもしたの?」

 

 

 と、蘭。幼少の頃からの宇田川姉妹を見ているゆえに、珍しいと言葉を漏らす。

 

 

「喧嘩じゃなくってさ。この頃、昔みたいにちょっと甘えん坊になってきたから、あこのことを考えるとつい心配にな」

 

「え? それってあこちゃんの傍にいなくていいの?」

 

 

 と、つぐみ。姉に依存する妹を肯定するように聞こえるが、宇田川姉妹の大変な時期を知っているゆえの言葉だ。なお、大画面から眼を離しているけれども敵を倒す動作は淀みない。

 

 

「あいつも成長しているからさ、信頼したいんだ」

 

「なんて言いつつもー、心配でたまらない姉であったー」

 

 

 と、モカ。まったくその通りだと巴は肯定する。モカもモカで、つぐみと同様に大画面から目を離している。狙いは定まらず弾は反れ、自身は次々に敵の攻撃が被弾した。つぐみのサポートを得て、どうにか態勢を立て直して挽回しようとするが、ボスステージの波状攻撃に為すすべもなくモカは倒された。

 

 つぐちんみたいにいかないなーと呟き、蘭にすすすと近寄ってガンコンを渡そうとする。けれど、私はやらないと言って断られる。モカはよよよーと嘆きながら、リーダーにお任せしまーすと言い、無理矢理ガンコンを握らせた。

 

 ひまりは巴の話が気になるんだけどー!と主張するが、モカは「まあまあ、慌てなさんなー」とひまりの背中を押す。それから、モカはリーダーのカッコイイ姿が見たいでーすと軽くお願いすると、ひまりはまんざらでもなさそうに仕方ないなぁと画面の前に立った。

 

 しかし、ひまりが小銭を機械に入れようとした丁度その時。つぐみが遠く離れたボスを撃破し終える。ひまりは小銭を入れようとした姿勢のまま呆気にとられた。

 

 

「つぐみ、お疲れ様」

 

 

 蘭がつぐみに労いの言葉を掛ける。

 

 

「私の出番はーっ!?」

 

 

 一方で、せっかくやる気になったのに出鼻を挫かれ叫ぶひまりの姿があった。

 

 ちなみに、このガンシューティング。銃の射出速度や着弾までの距離感がリアリティがあり人気で、敵の一部に距離が軽く1kmを超えた場所から狙う敵がいる。大抵の人はそこで一度倒れるそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――

 

 

気づけば、カーテンを閉きった一室にいた。

 

 湿気った重い空気に、ろうそくの火がゆらゆらと揺れ薄暗い部屋を灯している。他にも、お呪いや黒魔術に用いられそうなオドロオドロシイ物が壁や部屋の隅に置かれていた。天井に電気家具はなく、床には紅い太い線で逆五芒星が描かれてある。

 

 あこの知るはずもない部屋だ。なのに、今の場所は以前夢で見た葬式をしていた家だと確信した。

 

 前のように不気味な人間がいるかもしれない。なにせ最近リアルで怪物を目撃している。絶対いないのだと否定できない。家の者に気づかれないよう、静かに足を運んで物音に気をつける。

 

 部屋の唯一の出入り口扉の前に差し掛かったところで、目の前の天井を突き破って人が落ちてきた。不意を受けたあこは悲鳴を漏らす。

 

 天井から降ってきた人は破砕音と共に木片を撒き散らすと、床に触れることなく足が宙吊りになり、てるてるぼうずのように首に縄を巻いた様で垂れ下がった。以前、夢で見た土気色の男性だ。墓地で出会った格好と変わりない。手には受話器を握っている。

 

 部屋の出入り口を首吊り死体が阻んでしまった。完全に出入り口を塞いでないとはいえ、男性の片腕で扉が届く距離だ。行動を起こすのに勇気が必要だった。

 

 あこは一旦、通路の出入り口を諦めてカーテンの方へ移動することにする。首吊り死体から目を離さぬよう、少しずつ後ろに下がった。

 

 後ろに下がっていると背中に何かが触れた。想定より早くカーテンに辿り着いたと思い、振り返って、首吊り死体からカーテンの方角へと視線を向ける。

 

 

――とすっ

 

 

 とても軽い音が体から響く。違和感を感じて胸に視線を下ろせば、出刃包丁が刺さっていた。手下人は首を裂かれ出血している女性。あこはこふっと軽く咳き込む。一方で、あこを刺した女性は行為と反対な愛おしさを浮かべていた。よくよく見れば、あこと似た面影がある。母か年の離れた姉と言えるほど似ていた。

 

 

『また、一つの家族が不幸になったわね。これで何度目かしら?』

 

 

 他の家庭も不幸にしたというような口ぶり。あこは視線で疑問を投げかけるが、女性は呆れた様子で胸から包丁を抜く。不思議なくらいに全身に力が入らず床に転がった。

 

 

『螳?伐蟾晏ョカ縺ッ縺?▽縺九@繧峨??』

 

 

 続く言葉はノイズの入った聞いてはいけない何か。自身を刺した女性を見上げることもできず、次第に視界が朦朧とし、意識を手放した。

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 薄暗い室内であこは目が覚める。横に目を向ければ同じベッドで寝た姉がおり、おぼつかない思考の中、今の時間を確認すると三時三十三分であった。

 

 

 


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