夕暮れに滴る朱   作:古闇

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オリキャラ二名追加。



五話.茶道部

 

 

 

 お昼前の午前中、茶道部の活動が終わって片付け当番の私の含めた二人とお手伝いをしてくれる一人はまだ残っていた。

 

 床の小道具をまとめている少女に、女性が豊満な胸を押し付けるように頭の上からのしかかる。

 

「んー、部活終わったぁ。めんどーな師範が来てないからりっくんの胸のように平穏だったね」

 

「で、その無駄に大きい胸の脂肪を私に押し付けると。手伝いが邪魔してどうするのよ?」

 

 

 のんびりした口調。ショートの黒髪で瞳が青い中背より高めな、蒼鳥 萌香(あおどり もえか)ちゃん。

 二年生のときに出席日数が足りない建前で留年していて、本来なら私より年上のクォーターの人。

 

 もう片方は、ロングの桃色の髪で水色の目をした小柄な、胡桃沢 璃音(くるみざわ りのん)ちゃん。

 今年の四月からの転入生、自分を話したがらないので真面目という印象だった。

 

 

「癒やしを提供しようと思って。世の中の男性ってこうされるのが好きらしいよ」

 

「へぇ、私は男だって?」

 

「え? りっくん、まさかの男だったの? AAAは伊達ではなかったか」

 

「ち、違うよっ! もう少し胸はある……し……あー、もうっ、イヤな気分になるから離れて!」

 

「ごめんねー、今度から気をつけるよ」

 

 

 そう話しながらもますます体重をかけていく萌香ちゃんにぷるぷると耐える璃音ちゃん。

 

 璃音ちゃんは転入生で自分のことを話さないので友達が非常に少ない。

 そのせいか、何度もああやって絡んでいくうちに萌香ちゃんを邪険に扱いつつも突き放したりしなくなった。

 

 萌香ちゃんは誰とでも絡むため知り合いは多い。

 けれど、その絡みを嫌ったり、やりすぎたりして一部の女子からは蛇蝎のように嫌われている。

 

 深夜出歩いたり突然学園を休んだりで素行もいいとはいえず、部活は転々としている。

 根も葉もない噂で妊娠した姿を見たという話もあった。

 

 萌香ちゃんはじゃれている途中で数秒間動きが停止する。

 璃音ちゃんが怪訝な顔をして萌香ちゃんを見上げるけれど、それを無視して顔を私の方に向ける。

 

 

「ねー、かのちゃん」

 

「うん、どうしたのかな?」

 

「異空ちゃんと仲いいよね」

 

「……こころちゃん。一年の弦巻 こころちゃんのこと?」

 

「そー、そー」

 

 

 璃音ちゃんから離れて部屋の隅に置いてある通学鞄を手に取って中身をあさりながら、私の方へと向かってくる。

 通学鞄の中から包装紙にラッピングされた小さな箱を取り出すと、私の前に立ってプレゼントのような箱を差し出した。

 

 

「これ渡してー、お礼ものー」

 

「ふぇ!?」

 

 

 私が知っている人でこうやってこころちゃんに誕生日以外でプレセントを送ろうとする人は初めてかもしれない。

 

 

「いや、自分で渡しなさいよ」

 

「家に伺っても本人がいなくてね。りっくんも本人探しを手伝ってくれるならうれしーけど」

 

「なんで私が……にじり寄って来ても手伝わないからね!」

 

 

 プレゼント箱を持ちつつ両手を挙げてどうしようもないと頭を振ってオーバーアクション。

 

 

「異空ちゃんって財閥のお嬢様で黒服の人も連れてるし大切に扱われているよね? その娘にさ、素行の悪いわたしがプレゼントを送るでしょー。色々と調べそうだよねー」

 

 

 黒服の女性たちは願いを叶えるだけでなく、こころちゃんを見守り護衛もしている。

 

 結構過保護で、こころちゃんとの関わりが薄い人からプレゼントを送られるのは不安のようで爆発物のように取り扱われる。

 こころちゃんの屋敷でうっかり歩いていて、その現場を見た時は衝撃を受けた。

 

 

「そういう訳で、家の人に預けたら中身確認されそうだし。かのちゃん信頼できるしお願いできる? 今度お礼する」

 

「中身聞いてもいい?」

 

「ん~、秘密。開けるのはダメだけど振ってもいいよ」

 

 

 萌香ちゃんから包装された小さな箱を渡される。

 箱を揺すると軽い音がする。ヘアピンかネックレスか、小物ぽかった。

 

 

「軽い…………小物かな? うん、わかったよ」

 

「ありがとねー、これあげるよ。ちゃんとお礼もまたするね」

 

 

 次に鞄からヘアアクセサリー用のリボンを取り出し、私はそれをもらう。

 手に持ったヘアアクセサリーは私好みの見た目だった。

 

 

「あ、可愛いね。どこで買ったの?」

 

「露店かな。予備で買ってたんだけど小物増えちゃってね、使う機会減ったしあげるよ。今、なんで持っているのかって思ったでしょ? 顔に出てるよー、たまたま入れてあったってことでどうぞよろしく」

 

 

 確かになんで鞄の中に入っていたのかなとは思ったけど。

 萌香ちゃんはその場の雰囲気は読めるし状況を理解もできる。だけど、あえて口に出してくるときがあるのでちょっと慣れが必要。

 

 

「ありがとう、萌香ちゃん」

 

「どういたしまして」

 

 

 それから、茶道部の部屋を片付け清掃して扉に鍵を掛け、私達は職員室に鍵を返した。

 職員室からまっすぐに靴箱で靴を履き替え校舎を出ると、玄関付近で萌香ちゃんが璃音ちゃんの手を引く。

 

 

「寂しそうな顔しない。お昼どっか食べに行こうよ」

 

「してないから。私の顔を見てどうしたらそう思うの」

 

「じゃー、わたしの我儘に付き合ってよ。ファーストフードなら奢るからさー」

 

 

 璃音ちゃんは手を放そうとするけど、負けじと手を放さない萌香ちゃん

 手を放すのを諦めて文句を言わずに、されるがままになった。本気で嫌がるなり振りほどけば萌香ちゃんもやめるのに、なんだかんだで甘い。

 

 

「別に奢らなくてもいい。でも、仕方ないから付き合ってあげる」

 

「りっくんてばやさしー。かのちゃんはどうするー?」

 

「ごめんね、このあと用事があるんだ」

 

 

 お勉強会をする家で千聖ちゃんとお昼を一緒に食べることになっている。

 お泊りの準備はすませてあるから、一度家に帰って着替えて千聖ちゃんの家の向かう予定だ

 

 

「そっか、また今度だね」

 

 

 三人で校舎の玄関から校門まで進む。その間も璃音ちゃんは萌香ちゃんに手を引かれていた。

 

 

「流石に学園の外では手を放して」

 

 

 萌香ちゃんは璃音ちゃんの雰囲気を察してか素直に手を放した。

 

 

「花音ちゃん、さようなら」

 

 

 璃音ちゃんはそう言って先に行ってしまう。

 萌香ちゃんがしつこく絡んでいるから二人の距離は縮まったものの、他の人には素直に打ち解けないようだ。

 

 

「りっくんは照れ屋さんですなー。またね、かのちゃん」

 

「うん。またね、萌香ちゃん、璃音ちゃん」

 

 

 私達は手を振りあってから萌香ちゃんは璃音ちゃんの後を追い、私は家に歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 


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