夕暮れに滴る朱   作:古闇

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八話.学園近くの教会

 

 

 

 花音がこころに頼み事をされた日の翌日。授業の日程が終わって放課後になり、友人達へさよならの挨拶を済ませると、目的の場所へと歩みを進める。

 学園の外に出て、道端の落ち葉を踏みながら一〇年ほど前に建てられた敷地面積の広い教会を目指した。

 

 距離は近く、花咲川学園付近にあるショッピングモール裏、少し離れた森や林が林立しているところに教会がある。問題なく徒歩で歩いていける所だ。

 学園を出た大通りの歩道を真っ直ぐ歩き、ショッピングモールの横にある道路に曲がり、少し先を歩いて目的地に到着する。

 

 協会の前は花音の背丈より高い両扉の開いた鉄格子の門に、周りはレンガの土台でその上に鉄柵が刺さっている。

 門の先は面積のある土地が広がっており、教会へ続く道はレンガで舗装されていて教会はモダンな造りで小さな学校ほどの大きさがあった。花壇もあり白い花々が咲いていた。

 

 花音は門から一歩足を踏み入れ、敷地内を歩き教会の扉の前に立つ。扉の横には”日本妖精教団支部”と書かれた看板があった。それを一瞥すると扉を押し中へと入る。

 

 中はよくある教会内部と対して変わらない、出入り口の横にウッド製の机の上があり三角イーゼルに置かれている。ボードには「受付は横の部屋」と書かれていた。

 

 花音はボードの誘導に従い、出入り口からすぐよこにある開かれた両扉をくぐる。扉をくぐった先には細長い通路があり、手前に事務所と書かれた立て看板があった。

 

 事務所の前に立った花音は学園などによく見かけるガラス戸の付いた受付部屋にて机の上にある電子式の呼び鈴を鳴らす。

 すると、開いたガラス戸の扉越しから見える女の子が反応して受付へ立った。この教会のシスターなのだろう、女の子は修道着を着ている。

 

 

「はーい、どのようなごようむきでしょうかー?」

 

「え、えっと、松原花音といいます。弦巻こころちゃんに言われて、こちらに伺ったのですが何か聞いていますでしょうか……」

 

「はい、きいてます~。しょうしょうおまちくださいなー」

 

 

 シスターの女の子は花音との会話を終えると受付横の机の上にある受話器を取り、どこかへと通話を入れる。相手からの反応があったのか「まつばらかのんさまがきました」と話して受話器を置く。受話器を置いた女の子は「いましばらくおまちください」と言って部屋の奥へと引っ込んだ。

 

 それからしばらくして、事務所から少し離れた位置にある一室の扉が開き花音の知っている人物が現れた。その人物は急ぎ足で花音の下へと歩き、挨拶し花音と対面する。

 

 

「上原ひまりです! 松原さん、お待ちしてました~!」 

 

 

 ひまりは学校帰りのようで薫と同じ羽川女子学園の制服を着ていた。

 

 

「え……? う、上原さん……?」

 

「あ、私のことはひまりでいいですよ。さ、立ち話もシスターに悪いですし部屋に入りましょう」

 

 

 ひまりは花音の手を掴むと、ぐいぐいと引っ張って元入ってきた扉へと連れて行く。

 

 仕掛けのある通路を通り地下一階へと降りた花音達は役所のような窓口のあるフロアを横切って一つの個室を借りる。その個室にはテーブルと対面する椅子があり、二人は向かい合うようにして座った。

 

 

「なんだか、ここの教会って女の人ばかりだね。男の人っていないのかな?」

 

 

 花音は地下に入ってから何か既視感を覚えたがそれが何なのかわからず、とりあえず思ったことを口にする。

 

 

「いたりはするんですけど、この地下って女の人かつ信者の人しか入れないんです」

 

 

 信者、とうからにはこの教会が信仰をしている偶像だろう。しかし、花音はこの教会に洗礼を受けたこともなければ信仰を捧げたこともない。

 

 

「……それって私は入れないような……?」

 

「何にでも例外はありますし、弦巻家から申請があった花音さんはいいんです」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 疑問を持たず花音の問いに答えるひまり、花音は弦巻家の万能さゆえか何とも言えぬ表情である。

 

 

「で、ですね、花音さんはここがどういった場所かわかりますか?」

 

 

 ひまりは二人で歩いている時に花音から許可を得たので名前の方で呼んだ。

 

 

「ごめんね、あんまりよく知らないんだ。こころちゃんから避難場所の一つって教えてもらったくらいで中に入ったのは今回が初めてだね」

 

「う~ん、そうですか……ではですね、ざっと話しますと、ここは女性のみが住まう国で生まれた宗教の支部です。で、この地下は女性の信者の方のみしか利用できなくて、ちょっとした仕事の斡旋とかもしてますね」

 

「えっ、し、仕事の斡旋……?」

 

 

 教会からイメージできない内容に花音は言葉を疑った。

 

 

「布教活動とかこの街のボランティアとかそういうのです。良いイメージを世間に喧伝しつつ布教する事がメインです」

 

「そのお仕事ってひまりちゃんも受けているのかな……?」

 

「ですです、私はここの信者で私生活に支障がない程度にやってます。私と契約して信者になってよ、みたいなこともやってます。一応一度だけ私の幼馴染に持ちかけたりもしましたし。あ、でもグループのリーダーだからって無理強いとかしません。あくまで、さり気なくです」

 

「ひまりちゃんの幼馴染ってAfterglowのメンバーの人達だよね」

 

「はい! ですけど駄目ですねー、宗教自体に距離を置きたいって感じでした。つぐは私を誘った方ですし」

 

「つぐみちゃんもなんだ」

 

「花音さんは羽沢珈琲店のお得意様ですし、つぐとはそれなりに面識がありましたよね」

 

「うん。……う? ……あれ……? ごめんね、つぐみちゃんは置いておくとしてここの宗教ってこころちゃんと何か関係があったりするのかな?」 

 

 

 一つ疑問が浮かび上がったようで首を傾げる。

 

 

「ずばりそこが大事なところなんですよ。弦巻家って昔からここの宗教と密接的な関係があったそうで弦巻家に支援も行っているんです。花音さんをサポートするミッションなんかもここの受付にあったくらいですから」

 

「私のサポート?」

 

「失礼承知でいうとですね、最近はないみたいですけど花音さんってよく迷いますし、街中を彷徨っている花音さんを見かけた場合は弦巻家に連絡っていうミッションがあったんですよ」

 

「ふ、ふぇぇ……」

 

 

 自身の知らないところで迷子に関するクエストが発行されていたことに困惑の声を漏らす。

 

 そこで、ひまりがまあまあと笑みを受けべて花音を落ち着かせた。

 

 

「さてと、弦巻家とここが密接な関係っとわかってもらえたところで、困ったことがあればこちらを頼ってもいいと思います。私でもいいですけど、こころちゃんに相談した方が解決は早いかもです」

 

「そ、そうなの?」

 

「そうなんですよ~」

 

 

 まだ先ほどの話の尾を引いているようで花音は恥ずかしそうな様子だ。

 

 それから花音はひまりが弦巻家に協力的なスタンスであっても、結局のところ基準が見えずどの程度の秘密を喋ればいいかわからない事を思い出す。

 

 

「……そうだ、ひまりちゃんがどのくらいこころちゃんや弦巻家関連のことを知っているか聞いてもいいかな?」

 

「はい、大丈夫です! ひとまずはず私の知っていることを全部話しますね。つぐやシスターもそうした方がいいって言ってましたし」

 

 

 それから花音はひまりから話を聞く。女子高生に情報の秘匿を守らせるのは難しいのではないかという内容もあったが、花音の想像よりひまりは裏方に関してしっているようだった。

 

 ほどほどにお喋りをした後、二人は電話番号の交換を行い、花音はひまりから花咲川女子生徒や羽丘女子学園の紹介をされる。知己が増え、味方が増えた花音。だが、他者に話せないことも多くなった。

 

 すべてが終わり教会から出た頃には外の景色が夕暮れに近い。

 

 次に行く場所は、羽沢つぐみがいる喫茶店だ。花音はシスターに見送られながら道路を目指して教会の敷地内を歩き、開いた門に差し掛かったところで花音は立ち止まる。

 歩道の通りにある植木の頂点を見上げれば、自身がお願いした時間帯に友達が駆けつけ待っていてくれたことを知った。

 

 

「カ、カモーーーン! ハピネスっ! ハピィーマジカルっ!」

 

 

 教会と道路の境界線で大きな声を張り上げる花音。木にてっぺんにとまっていた平和の象徴が友の期待に応えるため宙を舞う。別な場所で待機していた同類も同じく宙を舞った。

 

 計九羽ものギンバトが花音の前に並んで待機する。鳥類を従える少女の絵ずらの完成だ。

 

 花音なりにこころの要望に応えた訳だが、もしも美咲がこの場にいたなら頭を抱えていただろう。

 

 花音はギンバトにお願いをし、ギンバトを連れ立ってつぐみの家へと歩き出す。ギンバトは花音を守るように周囲に展開をはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花音が教会を出発した頃、美咲はミッシェルを着てショッピングモール前でバイトに励んでいた。

 

 

(あー、涼しくなってきたとはいえ、やっぱりミッシェルの中は暑いなー。でも他のキグルミよりマシなんだよね。それとなぜか不思議と軽くなったり涼しくなるときがあるけどなんでだろ、仕掛けは見当たらないんだよねぇ?)

 

 

 ”ラッキーセットに新しい仲間がきたよ!”の商品のPRをしながら一人心の中で呟く美咲。

 賑わい活気のあるショッピングモール周辺の歩道、その遠目に日常では見かけない存在を見つけた。

 

 

(白いハト……? 夕日で赤みを帯びてるけどあれは白だよね、珍しいなー)

 

 

 商品のPRをしているのでそちらばかりを注視できないが、美咲は一羽のハトが空を少しずつ前進しながら一定カ所を円を描いて飛んでいることがわかった。

 

 少しずつ移動しているとはいえ、周囲かその下に何かあるのだろうかと気になって地上へ視線を移す。

 

 そして白いハト、ギンバトが空を旋回している理由を理解した。

 

 遠目でもわかる。顔を合わせ、バンドでも一緒に演奏する一つ年上の先輩が肩にギンバドを乗せ道をあるいているからだ。一つ年上の先輩の上空を旋回し飼い主と思われる光景なのだから間違いはないだろう。

 

 美咲は一度首を振って先輩の姿を確認するがやはり見知っている姿は変わらない。更には別のギンバトが周囲に展開していることにも気づいた。

 

 

(おーい、なんで公共の街中で沢山の鳩を連れ回してあるいてんのかな! ペットはくらげだけだって言ってたじゃん!?)

 

 

 花音の肩に乗るギンバトが片翼を美咲の方へ伸ばす。すると花音はミッシェルを着て仕事をしている美咲に気づき手を振り、美咲も内心苦笑いをしながら手を振り返した。

 

 

(あたしの知らない間に花音さんが鳥使いになってる……この間も道端の動物と話してたし言葉がわかるとか? ……ないない、ニュアンスでわかるって程度でしょ……)

 

 

 再び花音の肩に乗るギンバトが反対側の歩道へ片翼を広げる。花音が手を振ることを止め、美咲へお仕事頑張っての応援のポーズをし、ギンバトが片翼を広げる方向へと駆けていった。

 

 美咲はその様子を目で追いかける。

 

 

(……うっわ、遠くてわからないけど誰かの上でハトがぐるぐる飛び回ってる。以前の機敏な動きといい、走る速力といい、今の花音さんにロックオンされたら逃げれる気しないわ…………もう以前のあなたが懐かしいですよ、花音さん)

 

 

 美咲は頭を掻きむしりたい衝動に駆られるが大衆の面前であるため我慢をする。

 

 日が落ちてきて時刻も遅くなってきたこともあってか、スタッフにこの場を撤収しようと掛けられる。この後花音がどうするのか気になりつつも、花音達を背に現場から離れた。

 

 

 


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