夕暮れに滴る朱   作:古闇

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二九話.パスパレ探検隊~地下探検1~

 

 

 

「……ん」

 

 

 肌寒さを感じて目を覚ました。

 

 状況を確認しようと辺りを見回すと天上のライトで照らされて部屋全体が明るい。大きな牢屋の一室のようで目の前には鉄格子がはまっていて、扉は大きく開いていた。

その向こうには大型のテレビモニターが壁に埋め込まれている。

 

 私はベッドに寝かされていたようで横には同じようにベットに寝かされている皆の姿が見えた。近くにいる彩ちゃんを起こそうと近寄る。

 

 

「……う~……千聖、ちゃん……」

 

「え、私? ふふっ、何の夢を見ているのかしら」

 

 

 友人の寝言に私の名前が出てくるのは何となく嬉しいものね。

 

 

「……意外に……子供体型…………」

 

「起きなさい」

 

 

 寝言とは言え失礼な、身長が低いのは自覚あるけれど子供はないのではないか。

 仕返しに頬を軽く引っ張る、結構もちもちしていて楽しい。

 

 

「むぃ~? あ……おはよう千聖ちゃん、あれ? ここ何処……」

 

「ようやく起きたのね、彩ちゃん皆を起こすの手伝って」

 

「う、うん。わかった……?」

 

 

 頬に違和感を感じたのか不思議そうに頬を撫でる。彩ちゃんと手分けして全員を起こした。

 

 この牢屋から出る前にミーティングをすることになり、薫のことや怪奇現象の関連性、この島について話し合いなどをして牢屋を出る。

 とりあえずは、薫が他の人も見ていると言っていたし撮影であることも考慮して行動することになった。

 

 牢屋の外は石でできた造りで、全員が牢屋を出るとテレビモニターに映像が映る。私達を眠らせた薫がそこにいた。

 

 

<おはよう、お嬢さん方。お目覚めはいかがかな?

 早速だが君達にはゲームをしてもらう。ルールは簡単、それぞれの部屋ごとのミッションをクリアすればいい。

 

 全てをクリアしたならば君達をここから無事に出そう。それに併せてそちらの関係者と君達から回収した荷物も返す。まずはこの室内から出てくれ、以上だ>

 

 

 口上中に話しかけても返答はなく、一方的にそう言ってテレビの映像が消えた。

 

 私達はこの部屋に何か目ぼしい物はないか探索した後、鉄製の両扉を開いて牢屋のある部屋を出る。

 

 牢屋を出た隣の部屋は木製の造りで中央に私達の名前が刻まれ錠の掛かった五つの木製ロッカー。壁の側面には仕切りのある試着室のような着替え部屋があった。

 天井から板が左右に開きテレビモニターが降りて静止すると映像が映る。

 

 

<やぁ、お嬢さん方。目覚めた部屋から出るのに時間が掛かったね。

 こちらの女性の者が君達を服を用意したんだ。ネームプレートごとに君達の名前が振り別けられている。探検に向かない格好では危ないからな。

 

 横に仕切りを設けておいた、好きに使ってくれ。

 着替えた衣類は置いていけ、大事な物もだ……無くしたくないだろう?

 

 それらは、こちらの女性が回収し後に返却しよう。嫌なら持っていけばいいだろう。 

 そうそう、君達の他にも探索者がいてね、合流できたのなら協力して貰っても構わない、以上だ>

 

 

 男が手で示した先にズボンはスカートに変わっているけれど男と同じような格好と仮面をした中背くらいの黒髪の女性が気の抜けた声で返事をした。

 テレビモニターが天井の奥へ引っ込むと箱のようなものが落ちてきて軽い音と共に床に転がって天井の板が閉じる。

 

 他の探索者……薫関係でこの規模の施設を用意できるとしたら弦巻さん以外に思いつかない。

 弦巻さん以外だとしてもお金の掛かるような設備もあるようで、この島が普通でないことだけは解った。

 

 日菜ちゃんが箱を拾い軽く揺らして封をしてあるテープを剥がすと中は私達の名前が刻まれたタグ付きの鍵が入っていた。これで木製のロッカーを開けということだろう

 鍵を外して、木製のロッカーの中を確認。

 黄緑色の自分の名前の英語の頭文字のイニシャルが入った片紋章付きの上着に濃い色のシャツ、膝上のパンツ、帽子やベージュ色のブーツや黄色の靴下に小物と衣装が揃っていた。

 

 各自、仕切りがある個室で着替える。相手が薫だということもあり日菜ちゃん以外は大切なものを置いていった。

 それから皆が集まったところで次に向かう。

 

 洞窟のような巨大な部屋の中央に大きな空洞があり岬のような先の方にに綱の太い古びた長い吊橋が掛かっていた。その向こうには鉄製の両扉がある。

 天井から手の届かない高さまでテレビモニターが降りてきて仮面の男が映った。こちらの話は聞かないだろうと黙って見守る。

 

 

<ここからが本番だ、お嬢さん方。

 次は、その橋を板の初めから終わりまで時間内に渡りきってくれ。二人以上で渡ると切れる可能性があるから注意だ。

 

 時間が過ぎると面白いことが起こる。安全には配慮しているからその気があるなら時間まで吊橋にいるといい、以上だ>

 

 

 古びた吊橋は綱こそ太いものの木製の板が古く、板が無い部分があって歩きにくそうだ。1:30.00と表示されたタイマー機器が吊橋の近くに設置されていた。

 洞窟の地下空洞から冷たい風が吹く。下は真っ暗で何も見えなく奈落の底のようだ。何処か外の出口へと繋がっているかもしれないが降りたら最後戻ってこれないだろう。

 

 予想以上に本格的で安全対策はどうなっているのか……正直甘く見ていた。

 

 

「えぇ!? こんな橋を渡るの!!」

 

「吊橋を指定時間内って、あのモニターのことよね」

 

「30m程の吊橋を90秒以内ですか。補強されなさそうな見た目だけでなく、板と板の隙間は広く板が抜けているところもありますね。意図的に抜いたのでしょうか。普通に歩くなら問題のない時間ですが……」

 

「下から風が吹きあげてますね。髪が乱れます…………ゴクリ」

 

「わあ~、いいじゃんいいじゃん! すっごく楽しそー! 先に行ってるねー!」

 

 

 彩ちゃん、私、麻弥ちゃん、イヴちゃんの順に感想を述べる中、日菜ちゃんはこの吊橋に向かって一人走っていった。

 日菜ちゃんが楽しいと思えるのなら危険は薄いのかもしれない。

 

 

「日菜ちゃん、走ったら危ないよ!」

 

「あはははは~! この橋、ちょっと飛び跳ねるだけで、こんなに揺れるよー♪」

 

 

 彩ちゃんの静止を振り切って、橋の見た目にも構わずに中間地点まで走ってその場で跳ねて遊び、吊橋全体が揺れる。

 吊橋の一歩目を進んだあたりでタイマーの起動が始まっている。

 

 

「きゃー! 壊れそうだからやーめーてーー!」

 

「そ~れ、ギュイーン♪」

 

 

 怖いものしらずか、古びた吊橋をブランコの要領で動かし始めた。

 見ているこっちも心配になる。なかなか無茶をする、吊橋が軋んでいるけれど大丈夫なのだろうか。

 

 

「日菜ちゃん時間~~!!」

 

「わかってるよー♪」

 

 

 時間ギリギリで最後の橋の板を跳んで渡りきると吊橋の板の片方が突如外れ垂下がったあと元の位置に戻った。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 日菜ちゃん以外絶句した。

 

 

「絶対、無理!」

 

「ちょっと、これは知りたくなかったわね……」

 

「歩く速度でも十二分に時間の余裕はあるんです。大丈夫ですよ……」

 

「む、無念無想の境地で渡れば怖くありません!」

 

 

 面白いことというのは吊橋から落ちるということ。理解したくないけれど理解した。

 

 日菜ちゃんが吊橋の耐久性を確かめてくれたので、それぞれのペースで橋を渡る。

 イヴちゃん、私と無事に渡りきり、彩ちゃんの番になる。麻弥ちゃんは最後だ。

 

 

「よ、よーし! 心の準備はできたし頑張れ、丸山さん!」

 

 

 彩ちゃんが頑張るぞと気合を入れる。

 

 時間は掛かったけれど皆が固唾を呑んで見守った。

 ゆっくりだが一歩ずつ順調に吊橋を進んでいく、しかし中間地点のあたりで突然強い風が吹いた。

 

 

「きゃあああああ! い、今、すごい強い風が……ゆ~れ~て~るうう!」

 

「彩さんっ!」

 

 

 吊橋が揺られて彩ちゃんは目尻に涙を溜め悲鳴をあげて吊橋の中間地点の綱にしがみついて動けなくなった。

 それを見兼ねた麻弥ちゃんが吊橋へ一歩踏み出すと綱が悲鳴をあげるように軋む。 

 

 

「ひ、ひぃっ!? 麻弥ちゃんこっち来ちゃ駄目ぇ! いま綱がピシピシって鳴ったぁ!!」

 

「わっとっ、すいません! ですが、このままだと時間がっ!!」

 

 

 誰かが助けに行くには彩ちゃんに駆け寄らなければならず、人がいる状態でもう一人が走るには綱が耐えられそうになかった。

 何か思いつかないのがもどかしい、そして助けにいけば犠牲者が増えるだけ。そして落ちる時間になる。

 

 

「み、皆……今まで仲よくしてくれて……きゃあああああ~~~~~!!!」

 

 

 彩ちゃんは涙を一筋流し、吊橋から落ちた。

 

 そして何かに埋まる。二人分ほどの高さまで落ちるとその下にクッション材でもあったのか、地面に埋まり上半身だけ覗かせる。

 

 

「………………えっ? ふわふわしてる……」

 

 

 無事だったことに私達はそれぞれ胸を撫で下ろした。

 

 

<なんだ落ちたのか、知っての通り下は浅く柔らかいスポンジ製のクッションだ。風は大型エアコン。マジックアートで地面を誤魔化し遠近距離を錯覚させている。二番煎じはつまらん。そこの大和麻弥。どちらでもいい空洞の境界線の側面に寄って壁に手をつきながら渡れ。解らないだろうが向かい側の道として普通に通れる。丸山彩はそこから動くな、以上だ>

 

 

 モニター映像はなく声は相変わらず若い男性のようだけど薫だろう。放送だけで話は終わった。

 

 

「うぅ、怖かったよぉ……」

 

 

 彩ちゃんが落ちたところで嘆いていると突然吊橋が麻弥ちゃんが移動している反対方向の側面に移動した。

 

 

 ちゃちゃちゃちゃちゃーらちゃ~らちゃ……

 

 

 それから、何処かで聞いたことがあるBGMとともに何処かで見たことがある二本の爪先が窪んでいる巨大なアーム機が降りていく。

 とてもわかり易いけれど普通に引き上げるなり助けるなりできなかったのだろうか。

 

 彩ちゃんを器用に爪先の窪みに入れて掴むと戸惑う彩ちゃんがゆっくり持ち上げられて静止、アームが横に揺れると彩ちゃんも一緒に揺れる。

 ポカンとした顔の彩ちゃんが私達の近くにゆっくり降ろされ、麻弥ちゃんもこちらに駆けてきて合流した。

 

 クレーンは天井に戻る際に彩ちゃんの目の前に紙袋を落として去っていく。

 

 

「はうっ!?」

 

 

 彩ちゃんは突然落ちてきたものに驚いた。

 落ちた紙袋を拾い開けると”景品”と書かれたカードと両耳に白いリボンをしたピンクのプードル人形が入っていた。

 

 

「あ、可愛い」

 

 

 そう言ってピンクのプードル人形を両手で抱きしめた。気に入ったのらしい。

 

 

 

 


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