夕暮れに滴る朱   作:古闇

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パスパレ探検隊~無人島を征くアイドル~を元にした捏造改変です。原作ネタバレも含まれるので嫌な人はBack。やりたい放題。



二八話.パスパレ探検隊~島に踏み入れたアイドル~

 

 

 

 九月下旬、怪奇現象や悪夢はまだ見ていない、花音から貰った魔除けのネックレスが効いているのかもしれない。

 悪夢の原因はわかっていないけど、キッカケは兄さんがいなくなってからように思う。

 

 そんなことを思っている日、芸能事務所に「大事な話がある」とパスパレ一同は急に集められる。

 理由はテレビ特集と同時に新曲の発売をする知らせで、特集の内容は無人島にて番組企画で用意されたミッションをクリアするというもの。

 

 期間は日帰りで知らされた日から三日後に収録の日程だ。もしかすると他の芸能人達が用事か何かで断られ急遽こちらに回された番組かもしれない。

 

 収録当日。早朝の船で航行中に日菜ちゃんが不安気味になり突如濃霧に襲われるトラブルはあったものの、無事に霧をぬける。

 スタッフ達の相談後取材は続行。無人島の付近で私達は私物は各自一つのみのルールで手荷物などを預けた。

 

 魔除けについては鍵付きの化粧箱に入れて手荷物と共に船へと預ける、テレビに映るためだ。

 

 数人のスタッフと共に無人島の砂浜に集まると、麻弥ちゃんの提案で無人島の規模を知るために島を一周することになる。

 

 スタッフ達は出題のミッションを先回りされて驚き、陰で麻弥ちゃんを褒めていた。

 けれど島を一周し終えるとまだ何かある様子のスタッフの一人がひっそりと電話を持って姿を消し、何気ない様子で戻ってきて他のスタッフと小声で話している。

 

 また何かしらのトラブルだろうか、前例があるので不安に駆られた。

 

 島の内側を調べると窓ガラスのある山小屋があり特番のために用意したのかと思うほどに真新しく、内装もなかなかに綺麗にしてあり防犯のためか閂もある。

 スタッフの一人が若干考える素振りを見せていたけれど、リーダーシップを見せる麻弥ちゃんの発言に割り込んで食べ物探しのお題を出すとその表情は消えてしまった。

 

 私と彩ちゃんは小屋に残り日菜ちゃんとイヴちゃん、麻弥ちゃんは食べ物を探しに出かける。

 しばらくして、季節外れの果実があったと彩ちゃんが持ってきた図鑑を見せながら三人は嬉しそうに戻ってきた

 

 食事を終えるとスタッフから次は「この島にある、幻の花畑を探せ!」のお題を出されヒントを貰う。

 方位の方角を知りたかったけれど太陽が真上に昇っていて私達は困るも、麻弥ちゃんの機転で方位がわかって皆で麻弥ちゃんを褒め、麻弥ちゃんは照れた。

 

 

(最初は船でのトラブルでどうなるかと思ったわ。でも島に着いてからはスムーズにいきすぎて、テレビ的にはちょっと心配だけど……ルールは破ってないし、そこまで気にしなくてもいいわよね)

 

 

 私達が麻弥ちゃんを褒める中、スタッフが動揺していることからも正解だとわかり、ヒントを活かし山小屋を出発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩いてからどのくらい経ったのだろうか、だいぶ登ってきたけれどまだ幻の花畑は見えない。

 みんなの口数がだんだん少なくなり、じっとりと暑さが身体に纏わりつき吹き出る汗を手で拭う。

 

 霧が出てきて撮影を一時中断と声が掛かった。

 

 スタッフはそれぞれ機器を使いはじめたが騒然となる、どうやら電話やネットが繋がらないそうだ。

 

 私達はスタッフ達に謝られる、以前下調べをした際にはこれほどまで道のりは長くなかった上に霧も出てくる場所ではなかったと。

 そうこうしている内に空の霧だけがどんどん深くなり太陽が見えなくなった。この場の全員が強い危機感を持つ。

 

 残念ながら下山することになる。

 

 スタッフから貰った水は空にして緊急時の飲料と携帯食を貰う。

 

 来た道を戻ろうと、そこから三分たらずで平たい場所に出て真新しい山小屋の前に着いた。全員が絶句する。

 登山中には無かった山小屋で平たい場所はこのあたりでは見かけなかったはずだ。

 

 何か思い立ったように、麻弥ちゃんはあちらこちらの木々を忙しなく探し、何かを見つけたのか一点を注視して動きが止まる。

 

 

「……たはは、乾いた笑いしか出ませんね」

 

「ま、麻弥ちゃん、何を見つけたの?」

 

「ジブン達が食べ終えてまとめて捨てた果実を見つけてしまったんですよ。この果実、ジブン達が見つけてきたものですよね」

 

 

 彩ちゃんは不安気に話しかけ、麻弥ちゃんは苦い顔をし自身の両腕をさすっている。

 麻弥ちゃんが注視していた場所には私達が果実の食べられない部分を残し木の横に廃棄した果物の残骸があった。なぜこんな所にあるのだろう。

 

 

「……み、見間違えじゃないかな……他の動物が食べて捨てたかもしれないよ?」

 

「彩さん、これほど綺麗に種を避けまとめて捨てると言うのは残念ですが動物というのは考え難いです。恐らくは出発した小屋に戻ってきてしまいました」

 

 

 彩ちゃんはその残骸をみて動揺し、視線を逸らす。

 この無人島に猿のような動物はいないと聞いている、小鳥や猪だとしても人為的にまとめて捨てないと私も思う。

 

 

「そんなのありえないよ……だって小屋を戻るの来た道の十分の一も歩いてないのに辿りつけるはず……ないよ…………」

 

「ねぇ、麻弥ちゃん、彩ちゃん、今は小屋の中で話をした方がいいと思うな……あそこの森の中から誰かに見られている気がする。なんとなくだけど」

 

 

 彩ちゃんの言っていることは事実だけどありえない話。体は震え、目尻に涙を溜めて今にも泣きそうになっている。

 そこに日菜ちゃんが二人に近づき森を指差した。

 

 

「みられっ……こんな時にやめてよ日菜ちゃん!」

 

「あそこにいるんですね! アヤさん任せてください、私が守ります!」

 

 

 イヴちゃんが三人を守るように威勢よく前に出て日菜ちゃん指差した方向に木刀を構えた。

 

 

「駄目、あたし達じゃ無理! すっごく怖い事が起こりそうだからやめて!」

 

「離してくださいヒナさん! 例え負けてもブシの心は負けません! ブシドーです!」

 

 

 木刀を構えるイヴちゃんを止めようと日菜ちゃんが腕を掴む。

 

 

「うわぁっ!?」

 

「スタッフさん、いきなり大きな声をあげないで下さい!」

 

 

 全員がスタッフの一人に視線が集中する。

 カメラを持っている男性スタッフの一人がいきなり大きな声をあげたので私はその行為を咎めた。

 

 

「ひ、氷川ちゃんが指差した方角がオーブだらけなんだよ! 早く山小屋に隠れろ!!」

 

「こんな状況なのにまだカメラを回していたんですか!?」

 

 

 この状況でまだカメラを回していたことに驚いて非難した、職業病かもしれないけれど状況や場所を考えて欲しい。

 

 

「違う! カメラが勝手についたから怖くて消そうと思ったんだ! ちくしょう、このカメラ電源切っても消えやしねぇ!!」

 

 

 カメラを持った男性スタッフはこちらにカメラの映像を見せながら稼働しているカメラの電源のボタンをカチカチと必死に鳴らす。だんだん苛立ってきたのか、恐れたのか、カメラを投げ捨てるかのように大きく振りかぶる。

 

 

「スタッフさん、カメラを捨てないで下さい! そこだけにオーブが映っているのなら相手の方角が解りますから!」

 

「くそっ! わ、解った!」

 

 

 大きな声の指摘にカメラを持ったスタッフはかろうじてカメラを叩きつけるのを止める。

 麻弥ちゃんはその光景を見て胸に手を当て安心した様子を見せる。

 

 

「君達は早く小屋の中に入って! こうなった責任は私達だ、確認してくる!」「そうだ、君達は気にするな、子供は早く入れ!!」「危険がないか小屋を見てきます!」

 

 

 他のスタッフの方々も撮影器具や携帯器などで確認、山小屋を指差しなどをして隠れるように促す。

 森を悲壮な顔で睨みつけ歩みをはじめ、女性スタッフが沢山の荷物を持って山小屋の中を確認するため走りだした。

 

 

「ほら、イヴちゃん、早く行くよ! 麻弥ちゃん手伝って!」

 

「すいませんイヴさん、行きましょう……」

 

「うう、皆さんゴメンナサイ」 

 

 

 日菜ちゃんはイヴちゃんの片腕をがっしりと捕まえ、もう片方を麻弥ちゃんがしっかり掴みイヴちゃんは顔だけスタッフの方々に向け謝り引きづられるように小屋に向かって走った。

 

 突然の事態に呆然となっていた彩ちゃんは小屋に向かって走っていく三人に慌てて追いつこうと転びそうになりながらも走る。

 

 

「あ、待って! 私達を置いて行かないで! 千聖ちゃんも早く!」 

 

(なんなのよ、これは……っ!)

 

 

 私も頷き山小屋に向かう前に後ろを振り返る。森に入っていくスタッフ達が目に入り、どうしようもない状況に心の中で悲鳴を叫んだ。

 魔除けのネックレスは船の中、後悔先に立たずとはこの事だろう。

 

 先に到着していた女性スタッフが危険がないかを確認した後に小屋の中に非常食や撮影用のカメラを一台置いたらしい。

 私達全員が山小屋に到着すると「閂を掛けて絶対に扉を開けないで!」と言い放って扉を閉めた。最後に入った私は女性スタッフに言われるがまま扉に閂を掛ける。

 

 山小屋の中で体を寄せ合い身を潜めていると小屋の外から女性の短い悲鳴が聴こえ、私達は恐怖で身を竦ませた。

 

 騒がしかった外は静かになる。

 

 突如、電源のついたカメラが明滅したかと思うと電池残量が残っている表記が有ったにもかかわらずカメラの電源が落ち沈黙する。

 

 小屋の中の気温が下がり、閂を掛けた扉や何も誰もいない窓を叩く音が鳴り震える。

 彩ちゃんが目を閉じ耳を塞ぎ「来ないで!」と悲鳴をあげるも扉や窓を叩く音は止まらなかった。しばらくすると何十回叩いたのかわからないが扉や窓の叩く音は止んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も話さない静寂の中、再びカメラが明滅して起動した。

 

 麻弥ちゃんは体を寄せ合う私達から離れテーブルに置いてあったカメラ持ち上げ機材を確認。

 辺りを見回して窓の方角で悲鳴を飲み込みながらカメラを落としそうになる。

 

 ガラス窓の向こうには、スラリとした黒髪の男性がこちらを見ていた。

 しかし、黒い帽子と金の装飾をされた黒い軍服に身を包み、灰色の仮面で顔を隠して、腰には剣を覗かせている。

 

 仮面の男性は、扉の方に向かって手袋をした手で指差し「開けろ」と機械音が混じった声で話して姿を消した。

 

 日菜ちゃんは人が消えてもなお、仮面の男がいた場所を見続け麻弥ちゃんに謝ってカメラを取り上げて覗く。

 

 扉をノックする音と同時に「なんで無いの」とポツリ、涙目の日菜ちゃんが呟き皆の視線が集中する。

 

 

「日菜さんどうしたんですか?」

 

「まだ窓から視線を感じるのに何も無いの……」

 

 

 扉が強めにノックされと、座り込んで動かないままの彩ちゃんはあたふたと慌てる。

 

 

「ど、どうしよう、扉を開けた方がいいかな!?」

 

「私が扉を開けます!」

 

 

 イブちゃんがその様子を見て立ち上がったが、私はイブちゃんの腕を掴んで静止する。

 

 

「イヴちゃん待って。相手は剣を所持しているし危険よ、扉越しで失礼ですけどスタッフの方々を知らないか聞いてからでも遅くはないと思うの」

 

 

 どこの誰かもわからない男性が腰に剣を下げている。真剣だったらと思うと気軽に開けても良いものか。

 

 次から次へと危険な状況に立たされている。

 

 全員で開けるかどうするか話し合っていると、扉の方からキンッと何か切ったような音が鳴った。

 

 次の瞬間木製の閂がゴトリと真っ二つに床に落ちて扉が静かに開く。

 その光景を見て全員が扉からなるべく離れようと距離を取った。

 

 男性が真剣を持っていることが確定した。木製とはいえ、太さのある閂を扉越しに真っ二つにする技術は見事だけれど、それを向けれられば容易く私は絶命しそうだ。

 

 

「こんにちは、お嬢さん方。俺の名前は時風 翔(ときかぜ しょう)、こちらの手を煩わせないでくれないか」

 

 

 ブーツの音を鳴らし室内に軍服の仮面の男が入って来た。機械音の混じった落ち着いた若い声の男性は片手を軽くあげ、ポーズを作り話す姿は気障っぽい。

 少しの間が空いて麻弥ちゃんが恐る恐る手を挙げて慎重に前に出た。

 

 

「あの……すいません。質問してもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、いいぞ。手短にな」

 

 

 男性は片手を剣に添えてもう片手は下におろし、いつでも帯剣を抜ける姿勢。

 話ができる人物らしいが敵か味方かはわからない。麻弥ちゃんは若干怯えている。

 

 

「ジブンは大和麻弥っていいます。ジブン達はこの無人島に番組撮影で来たのですが、島の内部を探索中に遭難してしまい、何者かに襲われたので助けが欲しいんです」

 

「撮影? 無人島? そんな話は聞いたことがないな。そんなことよりゲームをしよう。この島には滅多に人が来なくてね、退屈していたんだ」

 

 

 何の話か解らないようで人が襲われているのに興味のない様子。それどころか遊びを始めようと言い出す始末に頭が痛くなる。まともな人ではないらしい。

 こうして存在するはずのない人もいる、私達が来たのは無人島ではないのか。

 

 

「すいません、説明足らずでした。何者かに襲われ成人男女数名の者がいなくなったんです」

 

「ああ、それなら悪戯されなければ五体満足で生きているんじゃないか……そう悪戯なければ、な」

 

 

 青い顔で説明を付け加える麻弥ちゃんに、愉快そうな声で男性は対応。

 

 

「スタッフさん達に何かしたんですかっ!」

 

 

 イヴちゃんは怒り、無言でイヴちゃんを止める日菜ちゃんはいつものような余裕がない。 

 

 

「おぉ、怖い怖い……EASYで、とのオーダーもある、安心するためのネタばらしだ、俺以外の人に見られていると考えてくれ」

 

 

 そう言って仮面の男は仮面を外した。

 

 

「「「「「薫(さん)!」」」」」

 

「やぁ、子猫。若い男声の私はどうだったかな? 会得するにも結構苦労したんだよ……このことは麻弥ちゃんも知らなかったね」

 

 

 知っている人の顔を見て私たちは脱力した。

 薫は脱力した私達を見て、仮面を付け直す。

 

 

「さて、ゲームに強制参加だ、歓迎しよう盛大にな……ではお休みお嬢さん方」

 

 

 懐から楕円形の球体を取り出してピンを抜くと私たちの足元に転がし、それから煙が撒き散らされる。

 

 薫と碌な会話もできず、私達は睡魔に襲われ目の前が暗くなった。

 

 

 

 


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