夕暮れに滴る朱   作:古闇

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 お嬢様らしいこころのイメージは

この「こころ」のイラスト好きなんだが詳細が分からない・・・

 のイラストから参考にしています。



一六話.儚い……

 

 

 

 

 九月の上旬を過ぎようとする金曜日の学園の放課後。

 

 

「すいません、花音さん。今日も練習に参加することができなさそうです、三馬鹿をお願いします、もし無理そうなら電話下さい」

 

 

 学生が部活に行ったり帰宅する中、美咲ちゃんが私の教室を訪ねてきて今日もバンドの練習ができなくて申し訳なさそうに頭を下げて謝る。

 疲労が溜まっているみたいで髪の艶が悪く、肌荒れも見られた。

 

 

「うん。それはいいけど、私が渡したこころちゃんの鼻歌の動画やメモ用紙を、お家で解析して曲を書き起こしているよね。部活も大変そうだし今日くらいやめよう?」

 

「いや、大丈夫です。こころの鼻歌の動画を見ているとなぜかぶっ倒れますけどぐっすり眠れるし頭に残ってますから。睡眠学習ですかね? 案がまとまったら相談するんで、その時はお願いします」

 

「ほ、ほどほどにね?」

 

 

 言えない。こころちゃんが美咲ちゃんのために快眠できるよう不思議な力が篭っているなんて。睡眠学習効果があるのは撮影の際に気絶しちゃったから知っている。

 私を守ってくれるという指輪は鎖を通して首にかけていたけど、こころちゃんの声を直接聞いてしまったから意識を失ってしまったみたい。薫さんやはぐみちゃんも意識を失った。

 

 みんなが起きた後、はぐみちゃんに対して薫さんがこころちゃんのフォローっぽいことをしていた。

 

 そんな薫さんとはお互いに裏話をしてない。

 今はまだ普通に日常を過ごしていてとこころちゃんに止められているからだった。

 

 美咲ちゃんの後ろにゆっくりと近づく同級生がいた。その同級生も美咲ちゃんと同様に健康状態が悪そうに見える。

 

 

「おーっと、奥沢ちゃん発見。松原さんに助けて貰おうだなんてそうは問屋が卸さないわ……さぁ、今日もあたし達と一緒に地獄の特訓いきましょうか。うへへ」

 

「大丈夫ですって、行きます、行きますってばっ! 肩掴むのやめて……!」

 

 

 低い怨嗟の声をあげる黒髪猫目の私の同級生に美咲ちゃんは後ろから肩を掴まれ引きづられて行った。

 

 

「なんだか大変そう……」

 

 

 あの様子だと今日もテニス部の活動はめいいっぱい続くと思う。

 私は心の中で美咲ちゃんの無事を祈った。

 

 アンナさんの出来事が終わってからハロハピの活動が増えていった。

 今日もCiRCLEのスタジオに集まる日で美咲ちゃんはいないけどそれぞれ個人でも練習できる。

 

 校舎を出ようと鞄を持って教室を出る。歩みを進めた下駄箱付近で顔色の悪い千聖ちゃんと出会した。

 

 

「あの、千聖ちゃん。顔色が悪いけど歩いて平気なの?」

 

「……そうね、少し辛いの。でも、保健室で休んだおかげで多少楽になったわ。今日は打ち合わせがあってマネージャを駐車場で待たせているのだけど、よければ校門まで一緒に行きましょう?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 女優で事務所に所属している千聖ちゃんの忙しさは相変わらずだ。靴箱を出て千聖ちゃんと一緒に校門に向かう。

 体調の悪い千聖ちゃんの歩みは緩やかで、私は歩調を合わせて歩いた。

 

 

「ねぇ、花音。オカルトを信じたことはあるかしら?」

 

「オカルト……前はそうでもなかったけど今はちょっぴり信じちゃうかな。役のお仕事を貰ったの?」

 

 

 千聖ちゃんにちょっぴりどころか現在進行系でオカルト体験してます、なんて話したら私の身辺を心配されそう。

 

 

「配役を貰ったのではないのだけど、心霊スポットでドラマの撮影をするときが稀にあるのよ。そういったときお守りがあると心強いじゃない、何かいいものでもあるかしら?」

 

「お守りを買ったことはないからわからないけど、薫さんとかどうかな? 色々な演劇をしているからもしかすると知っているかも」

 

「……薫ね、少し考えておくわ」

 

 

 薫さんへ相談をすることに少し不満な千聖ちゃん。普段から雑な扱いをしている薫さんに借りをつくりたくないのだと思う。

 

 私も千聖ちゃんの家での心霊体験をして一時期は購入しようか迷っていたこともあったけど、千聖ちゃんからお化けやオカルト話の話題は珍しい。

 おまじないや占いは別としてオカルト系の話題は好きそうではなかったから私もあんまり話さないのに、千聖ちゃんの家で起こったことに心当たりがあるから心配になる。

 

 

「可愛いお守りとかあると安心できるからなんとなく欲しいよね。私ってちっちゃい頃に変な人影見ちゃって怖くなったことがあったよ」

 

「子供は感受性が高いから、そういったモノが見えることがあるらしいわね。花音も見えることが続いたのなら人に相談した方がいいわ、私も話を聞くくらいはできると思うから隠さないでね」

 

「うん、そうするね」

 

 

 こころちゃんやアンナさんに相談すると解決が早そうな気がする。

 不思議な力を使えるのなら幽霊さんとか簡単に見えるかもしれない。

 

 千聖ちゃんが心配だからマネージャーさんが待つ場所まで千聖ちゃんを見送って別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調子が悪いのに仕事に向かう千聖ちゃんのことが気掛かりのまま、CiRCLEのスタジオに入る。

 集まったメンバーで演奏のパート合わせや雑談をした。

 

 練習が終わり、みんなと別れて自宅に帰る。今日はこころちゃんの家にお泊りするため、出掛ける準備をしたあと食事をとる。

 

 こころちゃんのところへのお泊りは前もってお母さんに言ってある。

 時間帯が夜になったこともあって、こころちゃんの家の人が車で送迎してくれた。

 

 車から降りると雲はなく外は満月、こころちゃんの豪邸に入りお手伝いさんにこころちゃんの寝室まで案内される。

 

 こころちゃんの部屋に入るのはこれが初めてで、どんな部屋かと楽しみだったりする。

 お手伝いさんは立ち止まり「こちらがこころ様の寝室です」と言って植物の蔓と花の模様のレリーフが彫られた白い扉を手で示した。

 

 お手伝いさんが頭を下げて去るのをなにとなく見届ける。

 他の部屋の扉よりいい意味で差別化されていて特別に大事にされているんだと感じた。

 

 こころちゃんの寝室をノックする。

 

 

「はーい」

 

 

 こころちゃんの陽気な声が小さく聞こえる、部屋が広いから声が遠く聞こえるのだと思う。 

 

 

「こころちゃん。私、花音」

 

 

 普段の声だと聞こえないと思って、大きめな声で返事をする

 

 

「入ってー」

 

 

 こころちゃんの声に促されて部屋に入る。

 

 

「ふわぁ」

 

 

 プールほどの床一面には蔦の模様した青色の絨毯が敷いてあり、温かい青い光が時間を掛けて明滅して水槽のよう。寒い季節でも温かい。

 

 そこからぷかぷかと浮かぶクラゲさんとイルカさんと貝さんの形をした私ほどの青白い半透明のシャボン玉。

 薄水色を基調とした壁にはエレガントな白家具が取り揃えられ、灰白色の枠の大きな鏡が掛かってある。

 

 中央には灰青色のソファーが白いテーブルを挟んで向かい合い、上からシャンデリアが垂れ下がるが床の淡い光のためか明かりはない。

 

 外が大きく見える二重レースでふわふわフリルのカーテン向こうには白いバルコニーに真ん丸なお月さまが見える。

 

 そこから少し離れれば蒼いレースの天蓋付きベッドにこころちゃんが水色系のロング丈のネグリジェを着て腰掛けている。

 

 要はお嬢様部屋でお嬢様なこころちゃんがいた。

 

 

「いらっしゃい、花音。ふわってなにかしらね、眠いの?」

 

 

 水色のネグリジェのせいで子供らしさは鳴りを潜め大人びた少女に変身。

 ベッドに腰と手をつけたまま首を不思議そうに傾げる仕草が可愛い、月夜の光がこころちゃんを照らしていて月の妖精にも思えた。

 

 

「……あっ、ううん、眠くないよ。ちょっと驚ちゃっただけだから」

 

 

 何となく予想していたけど実際にこころちゃんの寝室を見ると自分の部屋との違いにカルチャーショック。

 改めてこころちゃんはお嬢様なんだなと思った。

 

 

「そうなの! 花音に驚いて貰って嬉しいわ。お気に入りの部屋だから」

 

 

 嬉しそうに笑う、笑い顔はいつものこころちゃん。

 でもどこか違うようにも感じるのはきっとこの部屋のせい。

 

 私に床の上をぷかぷかと浮いて近づいてきた半透明のイルカを押し返す。

 でも、本物のイルカさんをを触ったときとは違いひんやりせず、暖かな弾力の触感を感じた。

 

 身体には綺麗な曲線の丸みがあり、いい縮れた足がある。

 本物のクラゲのようにゆらりゆらりと漂うあのクラゲさんって、もしかすると、もしかするのだろうか。

 

 

「ね、ねぇ。こころちゃん」

 

「どうしたの? 花音」

 

 

 クラゲさんに近づいて震える両手で抱えるべたつかないし弾力ある柔らかさ、強く押しても押し返される。本物のクラゲさんとは違うけれどこれはこれで私が求める感触だ。

 

 離すとまたゆっくりと移動する……これならいけるかもしれない。

 

 

「……もしかして、このクラゲって乗れるかな?」

 

 

 私は真顔でそう言った。

 

 

「もちろんよ、そこの頭は凹むから座るのに丁度いいわ! でも、気をつけてね?」

 

 

 心の中で勝利のポーズ。浦島太郎の亀さんみたいにクラゲさんにいつの日か乗ってみたかった。

 

 イルカさんと違ってクラゲさんの方が挙動が大きくゆったりしている。

 クラゲさんの動きを真似ているからだろう。ますます胸が弾む。

 

 宙を漂うクラゲさんの動きを停めて腰より下げて乗ろうとするけど上手くいかない。

 焦れてクラゲさんにのしかかり、クラゲさんの頭はふんにゃり曲がるが私ごとゆっくり浮き移動しはじめた。

 

 のしかかったまま降りずにクラゲさんを堪能する。これは素晴らしいモノだ。

 

 

「ふ、ふぇぇ……クラゲさんに乗ってるよぉ! 夢みたい……」

 

「花音が楽しそうで何よりよ」

 

 

 水槽のような幻想的の部屋で理想の一つのクラゲに乗る、この至福と引き換えなら子供扱いされてたっていい。

 

 

「もうしばらくこのまま~」

 

 

 クラゲさんにのしかかったままでいるとこころちゃんが乗り方を教えてくれて、クラゲさんから降りて抱えられる。

 するとクラゲさんが高度を上げて私を抱えたまま移動した。

 

 クラゲさんは私を抱えてゆらゆら揺れる、飽きずにクラゲさんに乗り続けていた私は眠くなってきた。

 

 こころちゃんは私から視線を外してバルコニーに顔を向ける。

 部屋の隅に移動した私には何を見ているかわからない。

 

 今日は満月だし月を眺めているのだろう。

 

 月に照らされたこころちゃんは静かに歌いはじめた。

 私達が創った陽気な歌とは違う、詩を詠じるような静かな歌。日本語や英語の発音とは違う。

 

 言葉の意味はわからないけど目を細めて歌うこころちゃんは綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

――――

 

 

――――――のん、花音。

 

 

 こころちゃんの声に意識がぼんやりと浮かび上がる。

 いつの間にか私は眠ってしまったようだった。

 

 

「あ、ごめんね、ちょっと寝ちゃった……はれ、こころちゃんの顔が目の前にいる」

 

 

 起きたばかりかちょっと舌足らずの私はこころちゃんの顔を見上げていた。

 

 頭には人肌のような柔らかい温かさに背中にはクラゲさんと違って沈む感触。

 手で確認すると布のような触感だった、靴は脱がされたのか足に開放感がある。

 

 たぶんこころちゃんに膝枕をされている、少し恥ずかしい。

 

 

「そのまま寝てしまうんだもの、クラゲさんとのお遊戯はおしまいね」

 

 

 私を覗いているためか顔に髪がかからないように自身の髪を抑えて、やわらかい微笑をたたえるこころちゃんは大人の女性に見えた。

 

 

「……こころちゃんが大人にみえる」

 

「おかしな花音、あたしはあたしよ? 子供になったり大人になったりしないわよ」

 

 

 こころちゃんはころころと笑う。そういえば私より年上なんだっけ。

 

 

「えぇ~、そんなこと、もがっ」

 

「お口閉じて。お話、しにきたんでしょ」

 

 

 髪を抑えている方とは別の手で私の口を塞ぐこころちゃん。

 お姉さんのような振る舞いをされると自分が年下だと実感できる。気恥ずかしくなって、頬に熱を持ち顔から視線を逸らす。

 

 

(やっぱり大人っぽい)

 

 

 ベットから降りようとしたけれど、こころちゃんは私の両肩を抑えて許してくれず攻防が続き疲れてしまう。

 締まらないけれど膝枕されたままの体勢でお話をすることにした。

 

 

「こころちゃん、私って何をしたらいいんだろう、何を頑張ればいいのかな……」

 

 

 素直に自分の心境を伝える。

 

 こころちゃんは私達を守るような活動をしていることはわかるけど、協力してもいいと認めてくれたのだからそろそろ返答が欲しかった。

 

 

「いつも通りにみんなでバンドやって、いつも通りにみんなを幸せにする活動! って言っても以前の繰り返しよね。花音はそれで我慢するだけで心の中では納得しないでしょうし」

 

「……うん、ごめんね」

 

 

 どうしようかしらと思案顔になるこころちゃんの望んでいることはわかっている。

 けれど、私には黙って見ていることができなくて引けないことだった。

 

 

「いいのよ、花音が現状に不満を持つのはあたしの落ち度だわ」

 

 

 私よりも事情を知っている薫さんは、こころちゃんの願い通りに危険なことに関わらず日常生活を送っているだけなのかもしれない。

 だからこそ、こころちゃんから情報を貰っているのかもしれない。

 

 事情を知っているアンナさんは自分を抑えることができず、こころちゃんを止めるために危険な行為をした。その行いでこころちゃんを止めることができると信じていた。

 結局は負けてしまって、アンナさんは療養中。

 

 私は事情を知らず自分を抑えることができず指示を待つだけ。こころちゃん個人の強さは十分見てわかっている。

 死ぬかもしれないという話はアンナさんが先走っただけで本当は危険は低いのかもしれない。

 

 それでも、何も知らずに今の日々を過ごすよりずっと良かった。

 

 

「……そんなことないよ、私が望んだことだもん」

 

「くふふっ」

 

 

 口に手を当て、意地悪な魔女みたいな笑いをするこころちゃん。天真爛漫とは違った笑い方。

 

 

「うぅ~っ、その笑い方は好きじゃないよ」

 

 

 少し気に障って私は眉をうぬぬと寄せる。

 

 真剣にお話をしているんだから笑わなくてもいいじゃない。

 

 

「ふふ……ごめんなさい。だって、いつもと逆だもの。いつもなら、あたし、薫、はぐみが好きなことやって花音や美咲が止めるのよ?」

 

「自覚あったんだ。それなのに……むー、大変なんだよ?」

 

 

 日常から無邪気に思える振る舞いをするこころちゃん。

 私と美咲ちゃんが苦労していることに気づいているなら、もう少し大人しくしてくれてもいいのに。今のこころちゃんは意地悪だ。

 

 

「もう、ベットから降ります」

 

「あら、敬語、拗ねちゃった。でも駄目よ」

 

 

 ムスッとする私を困った娘だと窘める。

 

 

「おーりーるーかーらー」

 

「いーやーよー」

 

 

 膝枕から逃れようとするとがっちり肩を抑えて逃がさない。

 

 私より年上とはいえ膝枕から抜け出したい。

 それなのに、寝かしつけてくることで膝枕を意識して恥ずかしさが戻ってくるから、開放して欲しかった。

 

 お姉さんといえばいいのか、大人といえばいいのか。今のこころちゃんを見て一つの考えがよぎった。

 

 

「……そう、美咲ちゃん。こころちゃんってミッシェルの中身は美咲ちゃんだってわかるよね」

 

 

 私と美咲ちゃんが苦労していることに気づいているなら、美咲ちゃんがミッシェルだって気づいてもいいと思う。

 

 

「そんなことないわ、花音。ミッシェルはミッシェルで、美咲は美咲よ?」

 

 

 まだそんなことを言う。

 なぜそうしてまで美咲ちゃんのことを気づかないふりをするのか。

 

 

「だって、ミッシェルの中から美咲ちゃん出てきたの見てるよね」

 

 

 現実的思考寄りの今のこころちゃんなら、キグルミと人の区別ができるんじゃないだろうか。

 

 

「そうね、キグルミから美咲が出てきているわね。でも、ミッシェルはミッシェルだわ」

 

 

 それがどうかしたの、と言わんばかりの表情で答えるこころちゃん。やっぱり区別はついていた。

 

 

「どうして気づかない振りをするの? 美咲ちゃんはこころちゃん達にミッシェルだってわかって欲しいと思っているよ?」

 

 

 美咲ちゃんはピンクの熊のキグルミに入ってハロハピのDJだけでなく、こころちゃんの鼻歌を意味が伝わるように作詞作曲を書き起こしている頑張り屋さんだ。

 

 こころちゃんが私をじっと見つめる、何を考えているのかわからない表情で少し怖い。

 

 

「ねぇ、今のあたしって花音から見てどう思うかしら? 人間か、それ以外か。もう一度言うわ、ミッシェルはミッシェルで、中の美咲は中の美咲なのよ」

 

 

 こころちゃんが目を細めて笑う。この遠回しに伝えようとする方法は最近でもあった。

 

 

「わからないよ、こころちゃんの意地悪、アンナさんみたい」

 

「嬉しいこというのね。だってあたしはアンナの姉、だもの」

 

 

 私だって色々考えてこうしてここにいるのに、ここにはいないアンナさん関連でとても嬉しがっているから負けたように感じて少し悔しさがあった。

 

 

「む~、ヒント欲しいよ」

 

「じゃあ、ヒント。意地悪な魔女は不思議な人や物が見えるわ、それが幽霊でもよ」

 

 

 ”幽霊”の言葉を強めて言うのだから幽霊がヒントなのだろう。

 ミッシェルのことをキグルミだと理解しているのなら、単純に考えてミッシェルは幽霊なのかな。もしかしてミッシェルは守護霊かもしれない。

 

 他のことも考えて頭を悩ませていると頭をマッサージするように撫でられる。いい力加減でまた眠くなってきた、もう答えてしまおう。

 

 

「わかったよ、こころちゃん」

 

 

 私を撫でる手が止まった、少し名残惜しい。

 

 

「ええ、答えを聞かせて」

 

 

 いつものような天真爛漫な笑顔のこころちゃん。意地悪な笑い顔より、見慣れたこの笑顔の方が好き。

 

 

「ミッシェルって守護霊なのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それについては私がお答えしよう!!!

 

 

 バルコニーから声が聞こえてそちらを向くと薫さんが歩いて登場。

 

 

「ふぇ? えっ……き、きゃあああああああああ――むーっ! むーっ!!」

 

「はーい、お口閉じてー」

 

 

 私服姿の薫さんがそこにいた。

 

 こころちゃんに膝枕されているのを見られ、私は驚きと恥ずかしさのあまり叫ぶもこころちゃんに口を塞がれてしまう。

 

 もう叫ばないとこころちゃんに目線を投げると口を塞いだ手を離す。

 それから、離した手でわたしの肩を抑える、なんてことをするんだろう。

 

 

「ぷぁっ! こ、こころちゃん、やめて! は、恥ずかしいから! か、か、か、薫さん! いつからいたの!?」

 

 

 いつからいたんだろう、本当にいつからいたんだろう。

 

 

「ごきげんよう、こころ。ごきげんよう、子猫ちゃん。さて子猫ちゃん、普段舞台に立っている役者でも出番の前には裏方にいるね。そう、だからつまり……そういうこと、さ。クラゲと戯れる、なんて儚い……!」

 

 

 つまりそういうことらしい、なんということでしょう。

 

 

「あああぁぁぁぁぁあああっ!!!」

 

 

 顔から火が吹き出ると思うくらい恥ずかしい。

 両手で顔を隠し、奇声をあげながらこころちゃんの膝で身悶えた。

 

 

 

 


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