閃の軌跡~翡翠の幻影~   作:迷えるウリボー

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2話 帝都西郊へ

 

 

 七耀歴千二百四年、三月三日。正午。

 クロイツェン領邦軍に所属()()()()シオン・アクルクス准尉は、椅子に腰かけ流れる外の景色を訝しげに眺めていた。

 といっても、別に外の景色はおかしなところ何もない。春に近づいた大穀倉地帯は金色に輝き、僅かに窓から吹く風は清々しい気持ちにさせてくれる。

 何より近年になって急速に発達した列車の中なら、せめて気分だけは旅行気分になれるかと思っていたのだが。

 導力鉄道車内、それが現在シオンがいる場所だった。

 鉄道網は帝国全土に敷かれている。帝国の中心たる帝都ヘイムダルから、各州都市、地方都市、果てはカルバード共和国まで繋がる、現代における西ゼムリアの経済の要でもある。

「あーあ、どうなってんだか全く……」

 様々な動物が活動的になるこの時間帯では人間も例に漏れず、列車の中は老若男女様々な人がいる。しかしシオンのように一人でぼーっとしている人は珍しく、シオンは微妙な気持ちになる。

 といっても、別に旅行目的でこうして列車を使っているわけではない。だから二人以上で和気あいあいと過ごしている家族や恋人たちの様子など、本来は羨ましくもなんともないはずなのだが、唇を甘く噛んでしまうのはどうしてだろうか

 発端は、先日のジェイク大隊長からの通達が原因だった。シオンが聞いたこともない組織の名を出した隊長は、一つの封筒をぶっきらぼうに青年に渡して言ったのだ。

『貴様には、二日後にこの場所へ向かってもらう。服は私服で構わんとのことだ』

『はぁ……って、そもそもSUTAFEってなんですかっ? 四州連合機動部隊って、お言葉ですが自分には理解しかねま』

『質問は受け付けん。ああ、当日の移動は軍務として許可されている。心配はするな。以上だ』

『ちょ、ちょっと隊長!?』

 先日のジェイク大隊長との会話はこれだけだった。ただ唐突に謎の部署への配属を命じられたのみだった。

「この場所もなあ、クロイツェン州ってわけでもないのによ……」

 当然ながら雑に渡され、部屋を追い出された時点で封筒の中身は確認している。その内容は次の事を指示していた。

『三月三日、十三時より領邦軍・四州連合機動部隊、通称SUTAFE の設立に関する説明会集会を執り行う。関係者においては、(これ)への参加を命ずる。近郊都市リーブスまで来られたし』

 この内容の他、現地についてからの集合場所も載っている。

 書類の正当性を証明する印は、アルバレア公爵家のものだった。

 字面を見ただけでは場所すらわからなかったのでアクトに聞いてみると、物知りな彼は期待通りの説明をしてくれた。

 リーブスとは帝都西郊に存在する風光明媚な地方都市のことだ。西側というので帝国西部ラマール州なのかと疑ったが、どうやら違うらしい。元は男爵位の帝国貴族が治めていた場所なのだが、その男爵が没落した後は暫定的に皇帝家の直轄領扱いとなっていたのだとか。

 そもそもの話、何故クロイツェン領邦軍の人間であるシオンが、この場所へ招かれるのか判らない。そもそも、歓迎されるのかも怪しいけれど。

 そして皇帝家の領地に行くことについて、アルバレア公爵家の印が捺されている理由も判らない。

 果たして自分は本当にクビという扱いなのか。シオンには、列車が帝都に到着しても考えがまとまらなかった。

 列車はオーロックス砦からバリアハートへ向かい、クロイツェン本線を用いてケルディック経由で帝都ヘイムダルへと辿り着く。そこでリーブスへ向かうための路線へ乗り替えるのだが、ここへ来てようやく、シオンの顔に数日ぶりの笑顔が浮かんだ。

「ようシオン! 久しぶりだなぁ!」

 急に声をかけられて両肩が跳ねる。しかし耳に辿り着いた声から想起されたのは自分を馬鹿にする隊長殿より親しみやすく、アクトやリュカという同じ部隊の同僚よりも気の置けない友人だった。

「ケイルス! 元気そうだな、この野郎め!」

 その存在を認識するなり乱暴に肩を組み、酒場から上機嫌で帰宅する親父たちのように和やかになる。

 優等生のように揃えられた黒の髪、しかし少年のようなはつらつさが見える茶色の瞳。シオンより五リジュほど背丈の低いこの青年の名は、ケイルス・ラグバレッジ。共に二年の青春を過ごし、同時期に領邦軍へと入隊した友人だ。

「どうだよ、ケイルス。ケルディックは?」

「んああ、言われた通り、ライ麦ビールが最高だったぞ」

「俺は詰所の隊長殿について聞いているんだよ!」

「ん? まあ、相変わらずだよ。税が増えて調子ものり始めてるし」

「そうか……」

 残念だったのは、入隊二年目から二人の配属先が別れてしまったことだ。以来時々二人で会っては様々なものに対する愚痴を語り合うのが通例となってしまっている。

 それはそうと気になることが一つ。タイミングよくケイルスが口を開く。

「それでシオン、何だってこの路線の前で会うんだ?」

「そりゃ、大方お前と同じ理由じゃないのか」

「あ、やっぱり貰ったのか。件の謎文書」

 席に座ってから、示し合わせたかのように互いの封筒を渡す。封筒の宛先がシオン・アクルクスかケイルス・ラグバレッジかの違いだけで、文書の中身は全く同じものだったのだ。

 つまりケイルスはシオンと同じく、四州連合機動部隊なる組織へ配属されるために集められたということだ。

 上司からの通達、つまりケルディック部隊の隊長からの連絡も似たようなものだったらしい。殆ど核心部分の説明を省いたものたったとか。

 説明を受ける際に違うこともあった。オーロックス砦でこの封筒を受け取ったのがシオン一人であるのに対し、ケルディック部隊ではケイルスを含め五人ほどの人間が頭を抱えることになったらしい。

「それと、こっちのジェイク隊長殿みたいにぶっきらぼうではなかっただろうな。偉そうなのは変わらないだろうけど」

「ははは、上司に嫌われることに関してシオンの右に出る同期はいないだろうからな」

「ほっとけ」

 久しぶりに出会う友人ともなれば、何を考えずとも言葉は産まれてくる。今回の経緯の考察含め、昔話含め、二人はリーブスに到着するまで絶えず口を開き声を上げ続けた。

 列車は一時間もせずに目的地へ辿り着いた。

 西郊都市リーブス。男爵家の領地であった街だが、思いの外広い街だ。見ていて飽きることのない風情ある街並み。帝国北部にある温泉郷ユミルや、クロイツェン州の南に存在する湖畔街レグラムと比べると色落ちするかもしれないが、観光でなく別荘を建てたりするならこちらのほうがピッタリかもしれない。

 件の男爵家が没落した理由は判らないが、その後も皇帝家が直轄しているだけあって安定したコミュニティが作られているのだろう。

「んで? 俺たちの集合場所は?」

「んー、そう遠くないな。ってか、ここから見えるあれじゃないのか?」

 シオンは街の奥、とある一点を指差した。やたらと大きな鉄製の建物が林の向こうに見え隠れしている。

「って、お前はいいかもしれないけれど俺には見えないんだよ!」

「あ、そうだな。そりゃ背が低くてお子様なケイルス君には見えないか」

 気の抜けるような小競り合いをしながら尚も歩く。三十分ほど余裕を持った到着だったが、この後に起こるであろう波乱の説明会を考えると思考の整理をしておきたかったのだ。早めに建物に入って、待っておいてやろうと考える。

 街から少しばかり離れた郊外に、その施設は存在していた。

 その建物はお世辞にも生活感に溢れているとは言えなかった。それは新築のような真新しさがあり、同時に軍人が守る関所のように無機質であったからだ。

「シオン、これ……」

「ああ。明らかに俺たち(軍人)向けの施設だよな」

 趣は正に関所、クロイツェン州にある双竜橋そのものだ。百アージュ弱四辺か、その敷地の中にあるのは二辺を占めるL字型の建物。高さは三階建てに屋上もある。シオンたちが歩いてきた入り口と、そこから見た左側に建物はない。

 そして敷地の中心部には演習場のような空間。ここには、最も目を引く四機の軍用飛行艇があった。

「ラインフォルト社製、けど新型の一代前の機体だ。なんだってこれがこんな所にあるんだよ?」

 意外と機械オタクなケイルスが呟く。

「しかも随分と使い古されてる奴みたいだ」

 近づいてみたその機体は、雨風に晒されたような裂傷や油の臭いが感じられた。明らかにどこかで使われている機体だ。やはり、いまいち自分の置かれている状況が理解できない。

 二人して黙考していると、突然声をかけられた。

「貴様ら……領邦軍の者か?」

 人一倍厳かな声。飛行艇の向こう、建物の入口からだった。

 軍服、しかしクロイツェン領邦軍の青色ではない。緑、しかし白や青を混ぜ込んだ『翡翠』と呼んだ方が正しいか。外套として纏えるデザインは素人目に見ても位の高い位置にいる人間であることが判る。

 顔は強面に尽きる。髪は金髪だが、まるでかの有名な『赤毛のクレイグ』のようだ。

 予想外の重鎮ぶりな人間の出現で、私服にもかかわらず青年二人は即座に敬礼せざるを得なかった。

「はっ。クロイツェン領邦軍オーロックス砦所属、第二分隊のシオン・アクルクスであります」

「同じくクロイツェン領邦軍ケルディック部隊所属、第一小隊のケイルス・ラグバレッジです」

 軍服の男性は、その手に資料の束を持っている。それを脈絡もなく捲り、少々思案をした後に言ってきた。

「ふむ……ならば、早く中へと入れ。物見遊山でなくあくまで軍務としてきた自覚があるのならばな」

「はっ!」

 それ以上何かを言われてしまうのも怖くて、青年二人は早々に建物の中へと進んだ。人の気配を求めて建物の中を散策する。男性の姿が完全に見えなくなってからケイルスが聞いてきた。

「今の、どこの軍服だよ? 国外か?」

「|俺たち≪クロイツェン≫は青だし、ノルティアは黄、ラマールは白だったはずだ。サザーラントは……何色だったかな?」

「正規軍も紫やら灰色やらだしなあ」

 やはり腑に落ちない。ここは、一体何のための施設だ?

 答えを得ることのないまま、目的地であろう場所に辿り着いた。

 そこは中々の広さがある講堂で、百人以上は余裕で収容できそうだ。その数に見合うだけの長机と椅子も用意されており、正面と思える場所には超大型の黒板。ご丁寧に、上下に稼働するタイプのものだ。

 その講堂に入る時に扉を開けたものだから、既に中にいた数十人の人間が一斉にこちらを向いてきた。

「うっ」

「これはまあ、何とも……」

 敵意とか好奇心とか、そんな居たたまれない視線ではない。これはどちらかといえば自分たちと同じもの――心配げな表情。それが余計にこちらの不安を煽って来る。

「ま、取り敢えず座ろうぜ」

 シオンは辺りを見回す。こんな時によくあるような、席を指定する一覧表はないらしい。まだ沢山人がいるというわけでもなさそうなので、取り敢えず目立たぬよう前後中間の端に座っておいた。

 数分後、辺りのざわめきに耐えられなくなったケイルスが聞いてくる。

「なあ、これってなんの集会なんだ?」

「さあな……ただ、ここにいる俺ら以外の奴らのことは何となく察しがついたけどな」

「ほ、本当か?」

「ああ」

 オーロックス砦にて例の通達を受けたのは自分一人、そしてケルディック部隊ではケイルス含め五人。数にばらつきはあるが、クロイツェン領邦軍の各配属先から数人ずつ人間を集めたって、これほどの人数にはならないはずだ。自分たち二人がこの講堂へ入った後も人数は増えており、もう六十人は超えた。

 それと、配属されるらしい部隊の名前。これを考えると――

「お、ラグバレッジ!!」

 思考が逸れた。顔を見上げると、友人の名を呼んだらしい何人かの青年たち。意外なことに、別部隊にいた時の同僚もいた。

 ケイルスが楽しげに声を上げた。どうやら彼らがケルディック部隊の同僚たちらしい。

 久しぶりの再会、ケイルスにとっては数少ない知り合いとの再会でもある。シオンは、少しばかりの安心感に身を寄せることになった。

 彼らの後にも何人か人の出入りがあり、人間の数はとうとう九十人を超えた。ここまで来ると、統率のない人間たちのざわめきは激しくなる。人間多数になると不思議と強気になるもので、ここまで来ると誰もが知り合いとの談話に花を咲かせていた。

 シオンは席に座りつつも向きを変えた。一人ごちてため息を着くようにして、さり気なく辺り一帯を眺めてみる。

 男性が殆どだが、僅かに女性もいた。歳は全体としては若いものが多いか。ほぼ全員が二十代のようだ。私服で構わないという通達が幸いしたか、これもわずかだが貴族がいるようだ。

 今度は本当にため息を着く。

(ここまで来ると予想も正解か。本格的に面倒だなあ)

 向きを正して正面を向く。ちょうど視界の端から、新しい人間が入ってくるのも見て取れた。

(ほーら今来たのも確実に貴族の坊ちゃんよ。ご丁寧に舎弟を連れてるし――ておいおい)

 その貴族の坊ちゃんが、一目散へこちらに近づいてくる。案の定、自分の周囲で騒いでいるケイルスの同僚に向かって言い放った。

「そこをどくがいい。矮小な平民たちよ」

 気障。それが一息でわかる声だ。しかしそれに反して流したような金髪と赤い瞳、端正な顔つきと高い身長は、その鼻に着く喋り方を相乗させるような貴公子ぶり。豪奢な服装も遅れて貴族だということを知られてくる。

「聞こえなかったのか? 平民よ」

 二回目の呼びかけで、ケイルスと同僚たちもそれが自分たちに向かれていることに気づいた。何人かが怖気づく中、同僚の一人が苦しくも反論する。

「な、何を言っているんだ? 残りの席はまだ空いているんだ、そこに座ればいいだろう」

 彼の言う通り、一人一人ではあるが疎らに席は残っている。

 しかし目の前の貴族様とその取り巻き四名はそれが気に入らないらしい。しかしどうして自分たちのグループに干渉したのか。つくづく今日は運のない日なのだと、シオンは表情を変えずに嘆息する。

「さすがに雑多な声が目立ったのでな。貴様らが個々と散った方がこの会のためとなるだろう」

 気づけば、辺りは静寂と密やかな声に包まれていた。それは明らかに目の前の青年が原因だ。彼の存在に同僚たちと同じように畏怖する者と、畏怖しつつも対岸の火事を見るような様子の者たち。

 自分たちのグループがそれなりに騒がしかったことは判っているが、少しばかり貴族様の言い方も鼻についた。こんな誰がいるのか何をするのか判らない場所で喧嘩をするのも面倒だ。

 見かねたシオンが、立ち上がって両者の間に入った。

「はいはいお二人さん、そこまで」

 落ち着いた声で、それでも大きく。控えめな手振り、それでも挙動は大袈裟に。同僚をかばう形となったシオンは、金髪の青年と正面から対峙した。

「ふむ、それは私に言っているのか? 平民よ」

 特に怒っているわけではないらしく、眉間にしわがあるわけでもない。二十代後半、自分よりもいくらか年上か。

 シオンは返す。

「どちらかといえばお互いにね。俺たちがうるさかったのは確かだし、ここは譲るよ。けど、アンタも焚きつけてほしくないんだけどな」

 あくまで平和的な語り掛けだが、それでも平民から対等な扱いを受けるというのは少なからず意外なことなのだろう。青年はわずかに目を見開く。

 加えて、少しばかり追い打ちをかけてみる。

「そもそもこんななりだけど、別に平民だとは言ってないのに決めつけられるのも困るな」

「貴様のような者が社交界にいれば、すぐさま笑い話の種となるだろう。見破られる嘘はつかぬというのが、賢い生き方だな」

 これは失敗したか。貴族は社交界で一通りの関係を築いているのだから、シオンなんていう貴族などいないのはすぐに判る。

「ははは、御忠告はありがたく受け取っておくよ。いこうか、皆」

 ケルディックの同僚たちに声をかけた。彼らはまばらな動きで席を立ち、そしてシオンも自分の荷物を席から引き取る。

 最後に、シオンは右手を差し出した。

「俺はシオン・アクルクス。アンタは?」

 これまた、貴族に対する平民の所業ではないのだろう。辺りが再びざわついた。居心地が良いような悪いような感覚を覚えつつ、青年の返答を待つ。

 青年は同じく右手を差し出しかけて――そしてシオンの手を弾いた。大した感傷もなくシオンがいた席に座り、静かに口を開く。

「エラルド・ローレンスだ。覚えておいてもらおうか、アクルクス」

 三度目のざわつきは、一際大きなものとなった。

 

 

――――

 

 

 結局シオンとケイルス、ケルディック部隊の人間たちは、バラバラの席へと座って会を迎えることになった。

「へ、あの貴族坊ちゃんめ、平民を舐めてるから痛い目に合うってんだ」

「いや、お前何も反論してないだろ」

 結局ケルディック部隊の同僚たちとはばらけてしまったのだが、幸いにもケイルスとは隣同士となることができている。その親友は何もしていないのだが、あまり貴族に対して畏怖を感じないていないのはシオンと同じなので、特別に馬鹿にしてはやらないでやることにした。

 それはそうと、たまたま隣にいた数少ない女性に、エラルド・ローレンスについて聞いてみた。この場にいる面子が一つの組織になるならまず男たちの注目の的になるであろう彼女は、自分たちと話していいのか気にはしていたらしい。それでも親切に答えてくれた。

 エラルド・ローレンス。帝国西部オルディス、ローレンス伯爵家の嫡男だ。ラマール領邦軍に所属しており、周囲の人間の中でリーダー的立ち位置に居座っているのだという。

 伯爵家ということは、帝国の中でもそれなりに高い地位にいるということだ。なるほどさっきの態度も頷ける。

 ちなみに何故彼の存在を知っているのか聞いてみると、彼女は困惑して答える。『自分の出身がラマール地方の出身だから判る』のだと。

 やはり、ここにいるのはクロイツェン領邦軍の人間だけではない。それを改めて実感したシオンだった。

(クロイツェンにラマール。この分だとノルティアにサザーラントの人間もいるんだろうな)

その後大きな騒ぎもなく、講堂内は静寂を保ってその人物たちを迎えることとなった。

 やはりというか、やって来たのは先ほど建物の外であった壮年の男性であった。加えて二人、同じ翡翠の軍服を来た男性が立っている。

 ざわめきはより大きくなり、そしてすぐに静まり返る。

「ふむ……諸君、よく来てくれた。この度領邦軍・四州連合機動部隊の副司令を勤めることとなったグレイ・アレイストだ」

 改めてみると、彼らはどこかで見たことのあるような気もした。しかしグレイを以外の二人は顔の特徴がなくて、覚えられる気もしないが。

「薄々感じている者もいるだろうが、改めてここに集めたその全容を伝える」

 グレイ以外の二人が、大きな黒板に向かい字を書き始めるそれはグレイの説明そのものでもあり、そして彼の説明を補足するものでもあった。

 書かれた文字はTerritorium army・States Union Task Force。そしてSUTAFE。

「これが、今後諸君らが所属する組織の名だ。ここには、帝国に存在する四つの領邦軍。我々も含め、各州二十五人の兵士が集まっている」

 やはり予想した通り、ここにいるのは各州に所属していた領邦軍兵士だったのだ。

「諸君らは、これまで各州の『四大名門』の貴族が運営する領邦軍に勤めていた。各名門の意向に沿いつつ、領地の安全を守り来るべき時に備え己を鍛えていただろう」

 少しばかり、グレイの声に熱が帯びる。

「しかし昨今、鉄血宰相の政策により帝国全土に鉄道網が敷かれている。誠に遺憾なことに、鉄道を利用したTMPなる組織も台頭しているのだからな」

 辺りから息を呑む音が聞こえる。

「そこで、諸君らの出番となる」

 いよいよ、自分たちがこの場に集められた理由が語られるのだ。

「諸君らはこれより各州の垣根を超え、一つの中隊として機能し――」

グレイが両手を掲げた。それが絶対の正義であるかのように。

「四機の飛空艇を駆使して、帝国全土を股にかけて帝国正規軍に対抗・領邦軍の補佐を行うのだ!」

 

 

 







サザーラント領邦軍の皆さん。
緑の服だったら被っちゃってごめんなさい。

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