18話 十一月の空
ゼムリア大陸西部、エレボニア帝国において、国内を二分する最大規模の内戦が始まった。
第一勢力は貴族派。古き伝統をいただく帝国において健在な勢力。
第二勢力は革新派。鉄血宰相を筆頭とした平民や正規軍からなり、貴族派を打倒せんと急成長を遂げた新興勢力。
地方分権と中央集権。相容れぬ両者は十二年前から勢力争いを激化させ、そしてついにはただ一発の弾丸が帝国の運命を変えることになった。
七耀暦一二百四年十月三十日。東のクロスベル独立国を端に発した、鉄血宰相ギリアス・オズボーンの帝都での演説。そのタイミングに合わせ、
混乱に陥った帝都市民や帝国正規軍、いや演説を聞いていた帝国全土の人々。その混乱を利用し、貴族派は秘密裏に建造された巨大戦艦《パンタグリュエル》と、同じく秘密裏に量産された人型兵器《機甲兵》をもって帝都や貴族派の息のかかっていない要衝を電撃的に占領していった。
元々が、革新派が擁する帝国正規軍は大陸最大規模と言われる莫大な物量を誇る軍隊。そして、それに規模は劣るものの最新兵器をもって誉れを求める領邦軍。当初の帝都や、近郊都市の占領以降、正規軍は劣勢を強いられるものの圧倒はされず、戦線は膠着状態と化していた。
戦争開始、その初日の過激さは鳴りを潜め、今は各地域の戦線での小規模な争いが続いている状態だ。
領邦軍には、機甲兵という新兵器以外にも戦力があった。それは一兵卒には判らない《協力者》とも言える一騎当千の武人たちや、戦いを職務とする猟兵団。そして領邦軍に属するが、半年ほど前に新設された《領邦軍・四州連合機動部隊》、通称SUTAFE。
単純な勢力争いの二分だけでない。様々な思惑が渦巻く帝国内。泥沼の内戦は、さらに混沌した様相を見せ始めていった。
そして、内戦開始より約一か月後。
十一月三一日。帝国東部クロイツェン州の要衝、双竜橋。
双竜橋は川を横断する巨大な吊り橋が、列車用と導力車用二種存在している。さらに川は北から二手に分かれるため、双竜橋はその名の通り東と西に二つの橋がかかっているのだ。二つの橋の中腹には、要塞ともいえる砦がある。司令室などの設備もある。本来は正規軍の拠点なのだが、内戦開始以降は貴族連合が占領し拠点としていた。
要塞の端の訓練場では汎用型《ドラッケン》と隊長機《シュピーゲル》、二種の機甲兵が訓練を続けていた。
それなりの広さの敷地だ。動き回る戦闘訓練でもないため、六機ほどの機甲兵が忙しく指示された動作を反復している。
帝国領邦軍、四州連合機動部隊が一人、SUTAFE八班班長シオン・アクルクスは今、シュピーゲルの動きを停止させ休憩用のタープまで歩いていく。
「お疲れさん、アクルクス」
その途中、双竜橋に配属されるにあたって同じ小隊となった同僚が声をかけてきた。
「ああ、お疲れさん」
「どうした、元気がないな。連日の実践と訓練でへたったか?」
元々交易町ケルディックで商人を見ながら育った彼は社交性に長けている。トールズ士官学院に入学して軍事に限らない様々な領域の知識も吸収している。内戦以降SUTAFE兵士はもっぱら領邦軍の各部隊に生じた穴を埋める形で配属されることとなり、八班の面々も各地へばらけて職務に当たっている。
シオンは持ち前の社交性で、すぐさま同僚たちと打ち解けていた。
ただ、青年はこればかりは言葉を続けるのに苦労したのであった。
「ああ、いや、別に」
同僚は、その理由を考えて笑う。
「そうか。お前さん、無駄な殺生は嫌いだからな。この間のガレリア要塞への侵攻作戦、まだ根に持っているのか?」
「……別に」
ぶっきらぼうに否定するが、同僚の言うことは正解だった。
双竜橋の周辺は、西にケルディック、南にバリアハート、東にガレリア要塞という位置関係にある。前者二ヶ所は共にアルバレア公爵、つまり貴族連合の統治下にある。そしてガレリア要塞はクロスベル独立国の大量破壊兵器によって廃墟と化しているが、現在はその跡地に正規軍の第四機甲師団が陣を展開し拠点としていた。
先日双竜橋に詰めている貴族連合により行われたのは、その第四機甲師団への侵攻作戦だった。
シオンも
第四機甲師団とは帝国五本指にも入る猛将《赤毛のクレイグ》ことオーラフ・クレイグ中将が指揮する、正規軍最強とも謳われる師団だ。その評価は決して薄氷の上のものでない。実際に彼らは他の機甲師団から地理的に孤立した窮地の中でも堪え忍んでいる。さらに内戦開始からの一ヶ月で《対機甲兵戦術》を編み出し、蹂躙され防戦一方だった戦線を少しずつ押し返してきているのだ。
故に、ここ数日の作戦は両陣営どちらにも苛烈なものとなってきている。少なからず死傷者も出始めており、この内戦が改めて誉れを得るものでなく、ただの殺し合いに過ぎない現実をまざまざと見せつけてきた。
だが、少なくとも貴族連合側の現場指揮者はどこか楽観的だった。第四機甲師団が孤立してみるみる物資が不足しているのに対し、貴族連合は双竜橋南のバリアハートから潤沢な補給を得られている。そうした背景もあり侵攻作戦は電撃戦でなく小規模な小競り合いが続いて入るが、個人でなく組織としての効率が重視される以上、多少の負傷が考慮されないのは当然のことだった。
作戦として、シオンは大反対をしているわけではない。貴族連合そのものに感じる欺瞞、それをシオンは少なくとも表面上押し殺してこの一ヶ月を過ごすことができている。
それでも文句を垂れてしまうのは、指揮官の態度に対してだ。
休憩用タープの下で姿勢を休め、シオンは毒づいた。
「相手は帝国最強の師団だ。精神力、練度、団結力……どれをとっても貴族連合を上回る。油断なんて到底できない」
今の戦況を見て、露骨に勝利を疑わない兵士もいる。ああいった人間から負傷する可能性が高いことを、シオンはよく知っていた。
そんなシオンに対し、同僚は
「けど、俺たちにはこの機甲兵がある。だからこそ、ここ数年で徐々に力を高めてきた革新派を、もう一度突き放すことができたんだろう」
二人が見上げる鉄の巨人は、冬の太陽を受けて鈍色の輝きをみせた。
「機甲兵はあくまで戦線の一要素だ。神格化はできないだろう?」
「逆に、第四にこの戦線を覆す要素があるってのか? それこそ教えてもらいたいね」
「……」
この同僚は現在の態度が冷ややかな目に写られやすいシオンにとって、双竜橋で見つけた数少ない、文句を垂れても気にしない人間だった。だがその彼ですら、基本的にこの状況を楽観視していることに変わりはない。
シオンはもう一度考える。貴族連合側、双竜橋の指揮官は物量にものを言わせて大筋の戦略を変更していない。
だが、相手は第四。それも窮地に立たされた餓えた獣だ。なにをするかわかったものではない。
例えば、彼らがガレリア要塞を放棄して捨て身にかかるか、あるいは別の戦線に移ったら? 地理的に山々がある以上移動が困難でもだ。ガレリア要塞はもはや廃墟の上、その後方には絶対的な力を持つも無言を貫くクロスベル独立国。第四そのものを壊滅させる以外、貴族連合にこの作戦のメリットはない。
例えば、各地に紛れている師団や鉄道憲兵隊が双竜橋を強襲したら? 機甲兵を除けば貴族連合は今までと変わらない通常の軍隊だ。内部から白兵戦に持ち込まれたら、この戦線は磐石とは言えない。
あるいは、貴族連合と同じように、第四機甲師団に第三の
机上の空論ではない。リーヴスのSUTAFE本部で憎たらしいエラルドと兵棋演習をしていた頃が懐かしい。あの戦線は今、別の形で現実になっている。
安心、絶対。そんなものはあり得ない。だからこそ、シオンは本部の考えを知りたかった。この状況を作っている者たちの思惑を。
指揮官のさらに上、貴族連合本隊と主宰は何を考えているのか。
「おお、相変わらずやっとんな~」
シオンの思索を振り払ったのは、軽すぎる男の声だった。振り返ると、貴族連合兵士でない、二人の屈強な男が近づいてきた。
一人は引き締まった筋肉だが一見痩せて見えて飄々とした態度、細目にサングラスをかけた男。
もう一人は、浅黒い肌に異常とも言えるほど隆々とした筋骨が主張された、ドレットヘアーの大男。こちらもまたサングラスをかけているが、その奥の瞳はぎらついている。
金によってどんな依頼も請け負う、戦いを日常とする者たち。それは猟兵団と呼ばれている。
彼ら二人は、《西風の旅団》と呼ばれる大陸有数の猟兵団から、内戦にあたり貴族連合本隊が雇った猟兵だった。
痩せた側の男は、《罠使い》の異名で呼ばれるゼノ。
対する大男はレオニダス。《破壊獣》の異名を持つという。
隣にいた同僚が、少しめんどくさそうな態度をとる。
「……ご苦労様なことだ。今日は何をしに来た?」
そう言うと、先も言葉を発した痩せた側の男──ゼノがいった。
「今日は機甲兵訓練の指南役としてきてんねん。でも、そう気にせんと」
レオニダスが続く。彼の声は殊更に低く、地から這い出るようなものだった。
「応用操縦はともかく、基本操縦は多くの兵士がこなせている。今の我々は、そう多くを伝える必要もあるまい」
彼ら二人は単身での戦闘力において、一兵卒とはかけ離れている。シオンのような兵士が十人二十人と集まったところで、真正面からではゼノあるいはレオニダスの一人を打ち倒すことも叶わないだろう。実際に彼らような猛者と対峙したことはないが、シオンはそう思っている。
そんな彼らは要人の護衛や一騎当千の戦力として内戦に参加しているが、戦闘のプロフェッショナルであるため機甲兵操縦の指南役としての立場も持っていた。シオンは内戦開始以前に出会うことはなかったが、内戦開始以降も度々各拠点の訓練や作戦に参加しているため、こうして今邂逅を果たしている。
同僚を初め多くの兵士が二人を気にくわないのは、規律を重視しない行動指針故だろう。実際指導はともかく作戦中自由に動くことが多く、連携なんてできた試しはない。
「ほーん、そっちのアンタも納得しないん?」
今もなお、自由人そのものだ。ゼノはたまたま見かけたシオンと同僚に狙いを定めたのか、遊び道具として使ってやろうという魂胆が見え隠れしている。
なら、とシオンは口火を切ることにした。正直規律を破る二人を見て溜飲が下がる思いもあるのだが。
「なら言うが、ガレリア要塞侵攻作戦が始まって一ヶ月が経とうとしてる。第四はもう互角に戦っているんだ、応用操縦も各兵に伝達した方がいいんじゃないか?」
貴族連合本隊に雇われているという特性上、彼らは現場指揮官の命令に絶対服従という訳ではない。単純な指揮系統でないからこその、シオンの畏まらない言葉遣いだった。
「お、アンタ判っとーやん。でもムリムリ、並の兵士に応用操縦を教えたとこで混乱するだけや」
レオニダスが続ける。
「その身にそぐわない力はむしろ戦況を混乱させる。それが判らないのか?」
破壊獣の言葉はそれだけで心臓を掴まれるような恐怖を覚えるが、シオンは止まらない。
「判らないのは上層部の意向だ。リスクはあるが、攻撃の戦術を増やすべきだろう」
「ほう……?」
「帝都を電撃占領して鉄血宰相を討って、貴族連合は盛大に狼煙をあげた。そのくせに、後の戦略はどうにも
ノルド高原の第三機甲師団相手にも、通信妨害はしてもその後は攻めあぐねていると聞いている。ここガレリア要塞だって兵糧攻め。威風堂々と先手を切ったなら、あんたらみたいな外部組織でも頼って対機甲兵戦術が組まれる前にとっととケリをつければよかっただろ?」
俺はそんな自己犠牲なんてごめんだけどな、そう思いながら、シオンは息を大きく吸い込んだ。マシンガンのごとく捲し立てたせいで軽い酸欠になってしまった。
そう、どうにも貴族連合本隊の意向がちぐはぐなのが気にかかっている。四大名門の派閥争いや各領邦軍の手柄争いで内輪揉めがあるのかとも思ったが、それにしたって電撃的に事を進めた方が英雄視はされるはずだ。少なくとも、まだ貴族連合は優位を保っているのだから。
作戦としての保守傾向は、多くの陣地を抱えて守る対象が増えた攻撃側が、次に取る手として正当ではある。だがそれはあくまで個々の戦線おけるミクロな視点だ。
マクロな視点、全体の戦況や貴族連合が勝利した後の統治。それに帝国全体の疲弊を考えるなら、最初の時点で勝利しておくべきだった。
当然正規軍もやられてばかりではないのでこちらの計算外も往々にして起こるだろう。
だからどうしても気になってしまう。貴族連合を束ねる総主宰や、指揮をとる総参謀の意向というものを。
二人もそう思わないかと、暗に疑問を呈した言葉に対して、ゼノは興味深いようにこちらを見てくる。
「ほうほう。アンタ、面白いところに気づくやん。名前、なんていうの?」
完全に興味を持たれた。悲しいかな、同僚はいつの間にか逃げていてこの場にいない。
「シオン・アクルクス、SUTAFE所属だ。というか罠使い、あんたに関しては帝都制圧の時に一緒の隊だっただろう」
と、シオンはささやかな悪態をついた。自分がトールズに向かうよう指揮したのが、他ならぬゼノだったのだ。こんな珍しい訛りはそうそういないので忘れない。
言われたゼノは細目を丸くしてシオンを見る。そして盛大に驚いた。
「ああ! アンタあの時の真面目君やんか! どーりで聞き覚えのある声やと思ったわー!」
「ふむ、貴様がゼノが言っていた兵士か」
ところがレオニダスの予想外の言葉に戦慄した。
え、何? なんで俺この化け物たちに噂されてんの? と背中に冷たいものが走る。
「益々もって、面白いところに気づくなーと思うわ」
「なら……先程の返答とともに、こちらからも聞かせてもらおうか」
「え?」
「アンタが今ここにいる理由や」
急に、先ほどまでの飄々とした雰囲気が失せた。
殺気ではないため動けなくなる、なんてことはないが、彼らが自分を気にかける理由がわからなさすぎて、シオンは混乱する。
「なんだよもったいぶって……あんたらなら戦況を変えるのも余裕だろ?」
それはシオンの戦況に対する認識、本気で勝つなら化け物じみた力を持つ協力者や機甲兵の大部隊を用いるべきだった、ということの再確認。
だが。レオニダスとゼノが次々に答える。
「その問いには、否と答えさせてもらおう」
「そりゃま、俺らと比較したら、アンタの実力は弱すぎて話にならん。でもな」
戸惑うシオン。
「戦場で必要なのはなにも実力だけではない。生きる意志、何かをなそうとする原動力が必要だ」
猟兵。常に命の危険がつきまとう日常に身をおく彼らだからこそ、その言葉に重みが増してくる。
そして、ゼノはシオンに決定的な真実を突きつける。
「アンタにはその原動力がない。帝都制圧の時も、今もそうや。『憎むべき敵』として正規軍を倒そうという意志も、仕事として役割を果たそうという分別もない」
「……」
「なあアンタ、何のためにここにいるんや?」
さすがは一流、と言うべきか。
シオンも自覚している心の迷いを、ほんの少し対面しただけで見抜かれてしまった。
そしてゼノは、いつかの黄金の羅刹と同じようなことを言う。
「そのままやと、いつか板挟みになって動けなくなるで? そういうのが近くにいるほうが、俺らにとっちゃ困るんよ」
「他の兵士たちが楽観的だと感じるのは同感だ。だが士気は高い。貴様よりは扱いやすいというものだ」
ゼノは体を反らせて伸びをする。息を吐いて、膝を屈めてあり得ない高さを跳躍する。停止している機甲兵のハッチに手をかけ、搭乗した。
その様子を見ながらレオニダスはシオンに背を向け、憮然とした態度て言う
「先程の質問。確かに我々も貴族連合の戦略に合点がいかないこともある。
だが我々は猟兵だ。雇い主の意向のまま動く。無駄な詮索はしないものだ」
そうして、レオニダスもまた遠ざかっていった。二人は指南役も飽きてきたのか、久しぶりに機甲兵という玩具で遊ぶようだ。
シオンは解放され、そしてどっと疲れが襲ってくる。
「結局、訳がわかんねぇよ……」
そのシオンの呟きは、誰にも聞かれることはなかった。
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ゼノ、そしてレオニダス。西風の旅団という猟兵団の化け物二人にひどく精神力を持っていかれた翌日。
双竜橋に詰める兵士の中シオンは再びガレリア要塞侵攻作戦の参加者として選ばれた。
シオンを擁する小隊規模の攻撃部隊は、機甲兵部隊を中心に歩兵と戦車が混成された編成となっている。
守備隊に後方の守りを任せ、彼らはガレリア間道を踏破していく。機甲兵を操る兵士を中心に、隊はやはり楽観的な雰囲気で、ガレリア要塞跡地へ向かう速度も速い。
ちなみにゼノとレオニダスも作戦についてきたが、「三者面談だ」「授業参観や」などと訳のわからぬ事を言って岩山の隙間に消えていった。消えた方角的に第四機甲師団を遊撃する場所だと思えなくもなかったのと、そもそも攻撃隊長も彼らを頭数に入れていなかったので放置しておく。
太陽が赤く染まる前に、何度目かの要塞跡地は見えてきた。
東に面するクロスベル州、そしてカルバード共和国を見据えたガレリア要塞。帝国を守護する鉄壁の要塞だったはずだが、今は無残に廃墟と化している。
「……いつ来ても驚かされるな、この風景は」
シュピーゲルのコックピット内部で、モニター越しに見える光景にシオンは寒気を覚えた。
ガレリア要塞だったものは、ただ単に列車砲のような巨大な兵器で破壊されたわけではない。どのような兵器化は噂の域を出ないが、ともかく超常的な
今、ここに第四機甲師団はいない彼らはガレリア要塞正面からさらに北に言った先の演習場に拠点を作っている。
隊は、そこに行くこととなる。普段なら後ろを警戒しつつも勇猛と突き進むのだが、今日は違う出来事があった。
『報告します。要塞奥のほうから導力反応と、熱源を感知しました』
それはシオンの指揮下にある兵士からの報告だった。シオンも言われた場所に照準を合わせ索敵を行う。詳細までは判らないが、確かに人間のいる反応だ。
『ふむ……ならば、第三・第四班。その場へと迎え』
隊長が命じる。シオンは第四班長。断ることは許されなかった。
『指揮は……そうだな。第三班長に一任する』
『了解』
様子見程度だ。シオンを含めた計六体の機甲兵が隊から離れ、目的の場所へ移動する。
フットペダルとスティックレバーを動かしながら、シオンは考える。
(なんだろう、嫌な予感がする)
根拠も何もない予感。いや、予感はあった。不安といってもいい。
盤石な貴族連合の牙城を崩す、正規軍の戦略。いや、貴族連合が予想できない万一の可能性。
(……最善を尽くすのみだ)
揺れる信念を掲げ、シオン・アクルクスは再び内戦の大地を踏みしめた。
次回、19話「幾重の邂逅」