ガンダムビルドファイターズプレジデント   作:級長

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 ガンプラのミキシング

 近年のガンプラは関節の画一化により、手足を交換するのが容易になっている。が、それは全てのガンプラで同じ規格を使っているというわけではない。
 例えばバックパック。ユニバーサル企画と呼ばれる三ミリ二つ穴、ストライカー対応の一つ穴があるが、これに加えてガンダムフレームの幅の違う二つ穴などがある。
 手足も軸ジョイントとボールジョイントで規格が異なる。キャンペーンパーツなどで互換性を持たせることも出来るが、やはり一工夫必要だ。
 今回登場するガンプラのストライクリペアードはボールジョイント接続対応の胴体にノーネイムの軸ジョイント対応腕を装備しているが、これはキャンペーンパーツのジョイントで互換性を持たせたことで可能になったカスタムである。


6.飛行機だけは勘弁な!

「それで、俺に頼みたいこととは?」

 継人の自宅で響が継人への依頼を話す。ピンクのパジャマに同色の上着を着こみ、その裾からは両手の義手が覗いている。髪はさすがに纏めたが、それでも男子だということが信じられないくらいの可憐さである。

 立ち話もなんだからと、リビングでお茶を淹れて話すことになった。意外なことにこの家、客人をもてなす用意が整っている。

「つ、継人くんは飛行機に乗ってもどんな事故が起きても死者を出さずに生還する奇跡の人と聞きました」

「ああ、航空業界でそんな伝説になってたな俺」

「そうなの?」

 一緒にいた詩乃は驚愕する。前から運の無い奴だとは思っていたが、流石に周囲へ不幸をばらまく様な真似はしないらしい。ショウキもその伝説を証言した。

「ああ、アメリカにダンス留学行ったときにこいつと同じ飛行機になってな。同じバンシィ使い同士で盛り上がったのも束の間……思い出したくねぇ」

 よっぽどな目に遭ったらしく、青ざめていた。が、響は強い意志を込めた目で継人を見る。

「お願いします! ボクと一緒に飛行機で北海道まで行ってくれませんか?」

「え?」

 継人は困惑する。一体如何なる事情で飛行機で北海道なのか。頼みは請け負う前提だったが、そこが気になった。

「ボクは一年前……飛行機の事故で両親と両腕を失いました。それで進学予定だった黒曜の高等部進学も無くなり。姪である奏さんの家で静養してました」

「はーん、年上なのねお前」

 事情を説明するも、一言ひとことを絞り出す様にいう響に継人は無関係な話で空気を軽くする。プリントなどを届けているクラスメイトなので年上であることは当に知れたこと。

「へぇ、そうなんだ」

 ただし詩乃は知らなかった。入学式から一日も顔を出さないクラスメイトのことなど知る由もない。

「あ、そうだ。霞は? バイトから帰ってると思うけど」

「なんか思い付いたらしくて部屋でガンプラ作ってる」

 ついでに霞の動向を聞くとそういうことらしい。おもちゃ屋なので、なにかヒントを得たのだろう。幸い、試行錯誤に必要なガンプラは山と積まれた家だ。

「それで……実家のある北海道に帰らないといけないんです」

「ん? だったら飛行機じゃなくて電車でよくない?」

 詩乃はそう提案する。飛行機事故で傷心の響をわざわざ飛行機に乗せず、新幹線なりで輸送してもいいわけだ。というか本来そうすべきである。

「それが、両親の遺産分与について話し合う家族会議が行われると今日連絡がありました。そしてそれが行われるのは明後日のことなのです」

「うっそ、間に合わないじゃん!」

 詩乃はその無茶ぶりに驚く。電車では絶対に間に合わない日程。心身共に衰弱している響には例え飛行機でも強行軍は負担だ。

「俺も電車で行けるルートを模索したが、無理だった」

 ショウキはダンス関係で様々なところへ出かけているのでそういう知識が豊富だったが、それでも無理という結論しかでない。無理やりやれば行けなくもないかもしれないが、響への負担が大きすぎる。心を病んでなくても両腕の無い障碍者、足回りのバリアフリーは進んでいるがそれ以外は案外おざなりなのだ。

 精巧に作られた様に見えるプラスフキー義肢だが、その実感覚がないという欠点がある。重ねて入れろだの無茶を言う切符の取り扱いに難が出ることは想定に難くない。感覚を持たせようという案もあるが、それはアシムレイトと繋がっていて危険なので研究自体論外という状況。

「行けないと欠席裁判で両親がボクに残してくれた遺産や思い出の詰まった家を取られてしまいます! 無理を言うようですが、お願いします! あなたの分の飛行機代は出しますし、何なら北海道観光の費用も……」

「いいぜ、飛行機代で請け負った」

 響の説得に、継人は二つ返事で答える。笑顔が悪そうなので詩乃はイマイチ信用出来なかったが。

「誰かに助けを求められたら、俺は俺に出来ることをする。それが俺の大統領魂だ」

「あ、ありがとうございます!」

 響は涙ぐみながら礼を言う。一人で飛行機は不安だっただろう。それが一気に解消されただけでも安心だ。

「ああ、それと助手を一人つけていいか?」

「霞も連れてくの?」

 が、継人はある条件を付け足した。詩乃はてっきり霞のことかと思ったが、違うらしい。

「いや、響も知ってる奴だ」

 こうしてプレジデント一行北海道ツアーが組まれたのである。

「それよりポケットにしまってるのガンプラだろ? バトルするの?」

 継人は響の上着にガンプラが仕舞われているのを見逃さなかった。響が取り出すと、それは胴体と頭部、右足だけ残った緑のストライクガンダムだった。頭部もアンテナが破損してしまっている。

「これ、お父さんがくれたんだ。ストライクに乗ったパイロットは誰も死ななかったからって」

 バトル用、ではなくお守り。緑は響の瞳の色に合わせたのだろう。だが、事故で大きく損傷してしまっている。

「うちに山ほどガンプラあるからよ、修理しようぜ」

 継人はそう提案する。確かに壊れたままではあんまりだ。北海道行きの準備と並行して、響のガンプラ修理も進めることにした。

 

 翌日、朝一の飛行機に乗るため継人と響はセントレアにやってきた。何故かショウキも一緒にいる。制服姿の一団に先生なので部活の遠征にしか見えないが、実態はお家騒動ということ。

「ソメヤ先生まで来なくていいのに」

「なんかしねーと落ち着かねぇんだよ。継人と飛行機乗るのは二度と御免だったが富士川がこねーんじゃ俺が行くかねぇよなぁ?」

 なんやかんやお節介な先生であった。が、肝心の助手がまだ来ていない。霞ではなく、響もよく知った人物とのことだが、一体誰なのか。

「すまんな、遅れた」

「いよう衛士!」

 やってきたのは眼鏡をかけた男子。彼は守屋衛士。継人と同じ中学で、かつてはガンプラバトル部の処遇を巡って戦った相手だ。肩に乗っているのはプラスフキーシステムで自律稼動するガンプラ。RX零丸だ。

「衛士くん!」

「日展以来だな、響」

 そして響とも知り合い。助手に推薦したのはこういう経緯を継人が知っていたからだ。

 搭乗口に向かいながら、響は昨日直したガンプラを見る。失われた左脚と右腕はアスタロトリナシメントから、左腕はノーネイムからマントと共に移植した。双方ともに義手を模した腕だが、今の自分に重ねたくてこうしたのもある。ストライクのパーツで直してしまうのも考えたが、それでは新しい出会いも無かったことになりそうで嫌だった。

 

 飛行機は北海道に向けて飛び立つ。三人掛けの席に響を挟む形で窓際に衛士、通路側に継人がいる。通路を挟んで反対側にショウキがいた。

「あーコンソメうめー」

「そうだな」

 継人と衛士は震える響を放置してコンソメスープを飲んでいた。周囲がまったりすることによるリラックス効果を狙っていたが、響はトラウマを思い出してそれどころではない。そこをフォローするのが零丸の役割だったりする。

「心配めされるな。飛行機が事故を起こす確率は低い。二度目の不運などあるものか」

「う、うん、そうだね……」

 少し落ち着いてきたところで、響はあまり面識のない継人に聞きたいことがあった。無論、大統領魂とやらのことだ。

「ねぇ、継人くん。その……大統領魂ってなんだい?」

「ああ、俺さ、アシムレイト脳症って病気の治療でアメリカ行ってたんだ」

 それは継人が療養でアメリカに行った時のこと。彼はそこで、ある人物に出会った。

「そこで出会ったのが元アメリカ合衆国大統領のマイケル・ウィルソン氏だ。俺はその人に教えられたよ。誰かの為に自分が出来る最善を尽くす心、大統領魂をな。ウィルソンさんはたまたま自分が大統領になるのが最善だっただけで、誰にでも大統領魂はあるんだと。というか、大統領になってからその心意気に名前つけたから大統領魂なんだってさ」

「最善を尽くす心、大統領魂……」

 響はその言葉が胸にしかと響いた。その心意気を胸に継人は自分に力を貸してくれている。だったら、きっと今回は大丈夫だ。その大統領魂は、ショウキや衛士にも宿っているのだろう。

「ところでソメヤ先生、あんたの隣にいるのはもしや……」

 響が感動しているのを打ち消す様に、継人はショウキの隣に座る大柄な外国人を見た。一人はガタイこそいいが歳を重ねた老人、もう一人は若いクールそうな人だった。

「おお、継人くんじゃないか! 旅行か?」

「ジョースターさん……」

「羨ましいな、あいにく休暇とは無縁の職場でね」

「レオンさん……」

 継人の知り合いであるジョセフ・ジョースターとレオン・S・ケネディであった。これを見た継人は響に一言詫びる。

「すまん響、この飛行機は諦めてくれ」

「ええ?」

 それにはジョセフとレオンも反発する。

「いや、漫画じゃあるまいしそう儂も何度も飛行機落とさんぞ?」

「俺はそういうイメージか、泣けるぜ」

 北海道まであとわずか。流石に国内線は時間が短い。何もないことを祈りながら、響は前後の扉が乱暴に開かれるのを聞いた。

「金を出せ! この飛行機は乗っ取らせてもらう!」

「どなたかお医者様はいらっしゃいませんか? 機長と副機長の意識が!」

 同時多発的に起きたトラブルに、継人とジョセフ、レオンは言い合いになる。

「えー、ジョセフさん。申し開きは?」

「儂のせい? これ儂のせいなの?」

「今回はどう考えても当日券で乗った継人くんが原因だと思うぞ?」

 英語と日本語で行われる漫才に、ハイジャック犯は苛立っていた。

「大人しくしろ!」

 が、相手は米国エージェント含むこういう事態に慣れた連中。言い合いもそこそこに役割分担を行う。

「じゃあテロリストはレオンさんが、飛行機の運転はジョセフさん、機長と副機長はソメヤ先生が診てください」

「おうよ」

 速攻で散開して仕事を片付け始めた一同に衛士は呆れるしかなかったという。

「慣れって、こわいね」

 しばらくしてハイジャック犯はあっという間にレオンが鎮圧、飛行機も安定して飛んでいた。が、継人が慌てて響のところに戻ってくる。慌てている割にはいつものことというか、さもレジが込んできた店員くらいのノリでしかない。

「もうすぐ着陸なんだけどさぁ」

「はい?」

「ランディングギア出ねーから一回宙返りするってジョースターさんが」

「はぁああ?」

 そしてそのまま運転席近くにいくとDJくらいの気安さで機内放送を掛ける。

『えー、ご搭乗のお客様にご案内いたします。当機は着陸のためランディングギアが出ないトラブルに見舞われたため一度宙返りいたします。シートベルトを締めていただかないと、死にます』

 軽く言ってのける辺り慣れを感じる。乗客はランディングギアって何などと言いつつシートベルトを締めていた。

「そっかー、ランディングギアって一般名詞じゃないのかー」

「衛士くん! それどころじゃないって、宙返りって……」

 響はすっかり取り乱していた。事態は最悪なのに対処している人間が冷静過ぎてイマイチ状況が分からない。

「昨日メーデーで見たけどさ、着陸に使うタイヤ、出ない時は宙返りしてその勢いで無理やり出すんだよね」

「飛行機乗る前に見る番組ですかそれ?」

 飛行機事故を扱った番組から得た知識を披露する衛士。あの継人と長く友達をやっているだけあってこの人も大概おかしい。

 そうこう言っているうちに飛行機は宙返りを始めた。身体を押しつぶされる感覚が響達を襲う。この状況でシートベルトをしていないのは機長たちと座席に固定してるショウキと継人だけだ。ボコられたハイジャック犯とボコったレオンすらシートベルトをして座っている。

「なんであの人達は立ってられるんですか?」

「ほら、スペースコロニーって遠心力で重力作るって話だし」

 衛士も諦めのリアクション。あの辺だけ人間卒業していると言われても納得できる。ショウキはダンスやってるからな。継人は知らん。

「おい継人!左後輪だけ出ないぞ!」

「あ、そんじゃ残り仕舞って胴体着陸ですね!」

 トラブルに次ぐトラブル。にも拘わらず業務連絡の様なやり取りをするジョセフと継人。一体どんな星の下に生まれたらこんなことに慣れるまで巻き込まれるのか。

「間に合わん!」

「ウッソだお前、リスク背負った挙句難易度上げるとか」

 ジョセフの宣告に爆笑で答える継人。この人の心臓には毛でも生えているのか。片輪だけ無い状態での胴体着陸は素直な胴体着陸よりもバランスを崩しやすい分危険だ。

『エー皆さん、細かい説明は抜き! 総員耐ショック姿勢!』

 継人は完全にこの状況を楽しんでいる有様。

 衝撃が走り、飛行機は不完全な形で地面へ擦り付けられる。地面と飛行機が擦れる不快な音が響き、窓際に眩い火花が散る。

「いかん! ブレーキが利かん! このままだと空港の建物に突っ込むぞ!」

 ジョセフはさすがに緊迫した様子で状況を伝える。その時、継人とショウキが立ち上がり、共にガンプラを出す。プラスフキー粒子でガンプラを動かせるのは、何もバトルシステムの中だけではない。そうでなければプラスフキー義肢など成立しない。

「だったら俺は、ガンダムで行く!」

 継人は外にプレジデントカスタムを放つ。そしてプレジデントは、飛行機を受け止めた。

「行くぞ継人、この光は俺たちだけが出しているものじゃない!」

 ショウキのバンシィも飛行機を支える。プラスフキー粒子は人の祈りを力とする。飛行機の乗客が生きたいと思うほどプレジデントとバンシィの力は増す。バンシィはサイコフレームを緑に輝かせ、オーロラで飛行機を包んだ。

「チぃ!」

「足りねぇか!」

 だが、飛行機は建物に向かって真っすぐ突き進む。流石に二機の力だけでは飛行機を止めることはできない。

「ど、どうしよう……また……」

 響の脳裏に、あの時の光景が蘇る。熱い、痛い、重い、人々の泣き叫ぶ声とサイレンだけが聞こえる。あの事故光景が。また、ああなってしまうのか。今度は友達を失ってしまうのか。

 その時、独りでにストライクが動き出した。そして、開いた扉から外へ出る。そうだ。出来ることをしよう。例え無駄でも、何もしないよりはずっといい。

「ストライクリペアード!」

 響は愛機の名前を叫ぶ。呼応する様にストライクは紅い瞳を滾らせる。マントが変形し、ビームガンへと変貌する。そしてそのまま、出っ張った前輪と後輪を撃ち抜いて収納させる。ガクンと飛行機全体に振動が伝わる。が、地面に接する部分が増えたことでブレーキになった。

「まだだ! まだやれる!」

 そして、そのまま背中へマントが動き、Xコネクトモード。左の義手をそのまま振り回し、飛行機の鼻先をぶん殴る。すると飛行機は大きく減速し、建物の目の前で止まった。

「やった!」

「生きてる! 俺たち生きてる!」

 人々の歓声が聞こえた様な気がしたが、響の意識は深く闇に落ちていった。

 

 響が目を覚ますと、空港のベンチに寝かされていた。どうやら気力を使い果たしたらしい。

「よ、起きたか? なんか飲む」

 ショウキが真っ先に声を掛ける。日差しからして、時間はそれほど経っていないようだ。三人のガンプラもテーブルに置かれており、無事が伺える。

「飛行機は?」

「乗員乗客全員無事だ。よかったな」

 飛行機の方はなんとかなったみたいだ。だが、響にとってはここからが戦いなのだ。両親の遺産を取り戻さないといけない。だが、悪夢を乗り越えたこのガンプラとなら、どんな困難も乗り越えられる気がしていた。

 響はようやく、時間を進めることが出来た。

 




響「次回、『結成、ガンプラバトル部』。おかげで助かりました。なので今度はボクが助ける番ですね。なにやら厄介な問題もありそうですし」

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