町のおもちゃ屋もそんな危機に晒されている。が、町のおもちゃ屋には家電量販店などにはないお宝が眠っていることもある。君はそのお宝を見つけることができるか……
新宿に一つの学校が建っていた。そこは世界でも有数のエリート進学校、『黒曜学院』。初等部から大学までを有する大規模な学校だ。有名企業の幹部、官僚、政治家の子供が一堂に会する場所であり、警備も厳しい。その中に入ることが出来る部外者は、相当の社会的信用がある人物に限られる。
「いなくなった?」
絵画や骨董品の並ぶ応接間にいる男子生徒が数人いた。一人は佐天継人に微妙に似ている。
「ああ、数日前に下校してから行方がわからない。警察にも捜索願いは出しているが……」
応接間にいる男性教諭、荒屋灰音に一人の男子が食って掛かる。妙に落ち着いた態度の灰音が気にくわない様だ。
「心配じゃないんですか! それでも教師ですか!」
「心配はしている。ただ既にやるべきことはした。我々が焦ってもどうしようもないだろう? 誘拐なら身代金の電話くらいくる家柄の子だ」
確かにその通りだが、それにしては冷静過ぎる。それが男子の不満を買っていた。
「白馬、お前が心配なのもわかるが、彼女が姿を消した理由も心当たりがあるんだ。今は一人にしてやるべきかもしれん」
男子、白馬央治はそれを聞き、勢いを落とす。その辺りの事情に彼は覚えがあった。それを出されると、何も言うことが出来なくなる。
「僕は真理亜の婚約者です。彼女の身体は、僕が治す」
「おいおい、まだ婚約者候補だろう?」
今まで黙っていた男子の一人が口を開く。顔立ちは佐天継人に似ており、彼を幾分か二枚目にしたといった外見だ。それもそのはず、彼は継人の弟である佐天経なのだから。
「貴様は黙っていろ、凡俗が」
「ふん、血筋にこだわるとは小さな男だ。だから真理亜も逃げ出したのだろう」
継人のフランクな気質がまるで感じられない尊大な態度。本当に兄弟なのか疑わしくなってくるほど性格が違う。
「凡俗らしい捨て台詞だな。血筋とは一人の人生に収まらない、長い信頼の証だ」
「まぁ、なんとでも言うといい。その長い信頼とやらを君の代で失い、私が手に入れるのだからな」
「凡俗の貴様にその重責を背負えるか?」
行方不明の女の子を放置してこの中の悪さ、灰音は恩師を思い出して嘆くしかなかった。
(富士川先生、やはりあなたの策に乗ったのは正解でしたね。しかし又聞きみたいな情報でこうも的確な判断を下すとは、同じ教師になって初めてヤバさがわかるタイプの人間だ……)
灰音は教え子、来栖真理亜失踪の件を富士川に相談していた。その時されたアドバイス通り行動してみたが、見事に正解だった。
「ここで凡俗共と話していてもしょうがない。僕は独自に行動させてもらいます」
「おい、授業はどうするんだ?」
白馬は話にならないと応接室を後にしようとする。それを灰音は止めた。さすがに高校生が警察の真似事をして成果が得られるとは思えない。いくらエリートでもまだ子供に過ぎないのだから。
「それより大事なことがあるでしょう? たしか真理亜が最後に目撃されたのは岡崎市の白楼高校周辺だ。そこには彼女の親族がいた。なら、いる可能性は十分にある」
「とはいっても、その親族はもう亡くなったんじゃなかったか?」
情報は得ていたが、それも古いモノ。やはり未成年に出来る探偵ごっこはここが限界らしい。
「行ってみなければわかりませんよ? その家はまだ他人の手に渡っていないはず」
「ま、無駄足踏んで帰ってこい。明後日の給食はカレーだぞ?」
灰音は白馬をおちょくり、特に止めもしなかった。無駄足なのは事実であり、そこが外れなら彼になすすべはないのだから、大人しく学校へ戻るしかない。
「食事がのんきの摂れるほど、他人事ではないので。では」
白馬は応接室を出る。それを追って、経も部屋を出て彼にある情報をもたらす。
「白楼といえば、この学校からドロップアウトした奴がいたなぁ?」
「キミの兄なら二部の入試を受ける資格すら得られなかったはずだが?」
兄弟の話かと思えば、経の嘲笑うかの様な反応からすると違うらしい。白楼にまだ何かあるというのか。まるで自分を利用しようとしている経の態度が白馬は気にらなかった。
「違う。初等部から第一部のトップを走ってきた人間がいる。グロウデューク【
「下らん。君の私闘なぞ、それこそ兄に頼めばいいだろう?」
思った通り、白馬を利用するどころか平然と命令して邪魔者の排除を狙う経。兄には頼めない事情がやはり存在し、だから白馬を焚きつけたのだ。
「あいつにやれると思うか? それこそ巻き込まれた事故にまた巻き込むくらいしかできん」
「自分でやれ。グロウデューク同士は同格でしかない」
白馬はそう言うと、部屋を去った。
@
「しまった……」
継人は通帳を見て愕然とする。バイトをしているのに貯金が減っているのだ。バイトというのは今住んでいる豪邸の管理なのだが、それでも足りていない。住み込みのバイトなので結構もらっているはずなのだ。
「何が原因なんだ……?」
心当たりはあった。だがこの通帳を霞に見られるわけにはいかない。彼女がこれを知れば、自分が継人に経済的負担をかけていると負い目を感じるだろう。事実はどうあれだ。とにかく、この事実を隠し通さねばならない。絶対に。
「何見てるの?」
そんな継人の決意を無視して、詩乃が通帳を覗き込む。霞の様子を見るために、継人の自宅へ来ているのだ。そして驚いた様子で通帳を取り上げ、中身を見る。
「何これ? 残高27円?」
「あー! バカバカ!」
そして読み上げる。完全に目論見が外れてしまった。霞もやってきて、通帳を覗く。残酷なまでに残高は27円。給料日まで僅か且つ食糧の余剰は十分あるとはいえ、非常に危機的状況である。
「やっぱり……私が来たから……」
継人の予想通りしょぼくれる霞。詩乃は彼女が継人と暮らしているのを快くは思っていないようで追い打ちをかけようとする。
「ねぇ、継人。やっぱり高校生が高校生を養うのは無理よ」
「いや、この残高の原因は霞じゃない。学費は白楼が出してくれてるし、案外食費とかもなんとかなってる。NHKも払ってないしな」
観念した継人は真の原因を明かすことにした。ダイニングテーブルを差すと、そこには大量のロボットのおもちゃが並べられていた。
「なにこれ?」
詩乃はただ驚愕する。自分の持っているガンプラ以上のサイズの機体がちらほらあり、数も多い。
「2001年に放映されたテレビアニメ、電脳冒険記ウェブダイバー。タカラから発売されたウェブナイトシリーズ全機だ」
「他社製品だし……」
さすがに詩乃も頭を抱える有様。これは残高が消えて当然だ。
「これしか買ってないのに残高が無くなるなんて不思議だなー」
「当たり前よこの物欲魔人。昔のおもちゃなんてプレミアモノじゃない」
「定価で買ったんだけど……あ!」
継人が床に落ちている何かを見つけ、急いで拾おうとする。それを感知した詩乃が高速で追いついて拾い上げた。
「なにこれ?」
「ひぃ!」
ウェブマネーのカードだった。詩乃は自分もびっくりするくらい低い声を出していた。
「あ、アークスキャッシュです……ファンタシースターオンラインの」
「いくら使ったの?」
「ゴールドスクラッチ20連だから1万くらい……」
「また他社製品だし、ここに座りなさい。正座」
継人は庭に連れていかれ、正座させられる。防犯用の砂利が敷き詰められ、さながら御白州だ。詩乃はベランダ部分で座椅子に座ってお沙汰を始める。
「あの、正座は体罰って世界的に言われてるんですが……」
「あぁん?」
「す、すいませんでした……」
口答えも許さぬ絶対的権力。これはかなりヤベーイ!
「で、一気にこんなに買ったの?」
「いえ滅相もございません! 最初はちっこいロボ一体だったんです! 『セカンドムーン』で偶然見つけて」
継人も出来心だった。だが得てしてシリーズモノは仲間を呼ぶ。
「で、それ買ったらグラディオンと合体させたくなるじゃないですか? グラディオン買ったら他のも欲しくなるじゃん? 貴重なワイバリオンもあったしさ!」
「名前はわからないけど物欲に負けたと……」
詩乃はだんだん呆れてきてしまった。こんなとんとん拍子でロボットを集めるなど、女の自分には考えられなかった。
「というか、お前はどうなんだよ!」
「私?」
継人は詩乃に聞く。ロボットではないが、彼女にも物欲に負ける瞬間があるはずだ。
「インスタに上げるため、新しい服やカバンを買うがそれ以降、使ってないのではないか?」
「うっ!」
見事に痛いところを突かれた。服など流行が過ぎれば箪笥に仕舞ってそれっきりだ。それを霞にあげられたので無駄ではなかったが、霞がいなければ継人と大差ない。
「さぁ、お前の積みを数えろ! 俺は数えたぜ? 00ダイバーにビームマスター、AGE2マグナムレッドベレー! ブキヤはガールの白虎に本家の白虎と影虎、RE版のスティレットにワイバーン、轟雷スペクター輝槌グライフェンルフスだ! 制作中のエクシアの為にアメエクもアヴァランチも、デュナメスやGNアームズもあるぞ?」
形成逆転し、ノリノリの継人。実際、彼も自分の積みプラくらいは把握している。
「多いけど、全部数えているなんて……負けた」
詩乃は自分の着なくなった服など覚えていない。一方継人はこの有様。
「ある救い主が石を投げられている女性を見かけました。そして彼は聞きました。『なぜあの人は石を投げられてのですか?』と。ある人が答えました。『あの女は以前ドムを三機買ったことを忘れてまたドムを三機買ったのです』と。そこで救い主は言いました。『買ったプラモを忘れなかった者だけが石を投げなさい』と。すると石を投げる者は誰もしませんでした」
「おい立川のセイヴァーあんたも忘れてんのかい」
継人のありがたいお説教はともかく、金が無い事実は揺るがない。早急になんとかせねばならない。
「まぁそれはさておき、お金ないのは事実じゃん? あんたバイトしてんの? この家の管理以外で」
「いやさぁ。この前ピザ屋でバイトしたらピザじゃなくて店焼いちゃってさ」
詩乃がバイト状況を聞くも、継人の運ではとても期待できそうにない。以前彼女が訪れた喫茶店でも皿を全て粉砕したという話ではないか。お洒落な皿をインスタに上げるつもりで行ったら皿が全滅していると聞いてショックを受けたものだ。
「いいバイト紹介しようか?」
「わーい、やったー!」
そこで詩乃は自分の知っているバイトを教えることにした。分厚い書類を継人の前に叩きつける。顔写真とかが記載されているようだが。
「このリストだ」
「何を?」
そしてまた叩きつけられる拳銃。銃口にオレンジのキャップが無い。多分、本物だ。
「やれ」
「な、何を……」
「やれ」
さすがに暗殺稼業をするわけにはいかないので、今度は継人が仕事を紹介することにした。
「ていうかあんた霞を働かせる気?」
「家と学校の往復以外にコミュニティ持たせたくて、うってつけの仕事があるんだ」
詩乃は反対していたが、霞がやる気なのでどうしようもない。
「ていうかあんたは?」
「さすがにここに迷惑かけらんないし」
自分が働くとろくなことにならないという自覚はあるようで、詩乃に継人はそう告げる。そして辿り着いたのは、『セカンドムーン』の看板を掲げたおもちゃ屋だった。中に入るとバトルシステムもあるが、結構ごちゃごちゃした空間だった。
「これは……おもちゃ屋? 前に行ったポッポみたいな?」
「そそ。ここだよ」
三人が奥に進むと、レジカウンターに一人の女性がいた。活発そうなショートカットの若い女性である。彼女は継人をみると優しく微笑んだ。
「お、佐天じゃん。いらっしゃい」
「おいっす。来ましたぜ」
そして詩乃と霞を交互に見やる。それから禁断の一言を放った。
「彼女さんか?」
「はい!」
元気よく答えた継人は思い切り後ろから詩乃に刺される。アマゾンズばりの勢いで手刀が継人を貫通した。様に見える。そのくらいの勢いでパンチを食らわせていた。
「がはっ……なぜ、だ?」
「なぜだもクソもあるか」
サラッと継人を倒しつつ、詩乃は要件を告げる。目的は霞のアルバイトである。それを忘れてはならない。
「アルバイトの募集聞いてきました。この子なんですけど」
「話は聞いてる。記憶喪失の子ね」
店主の女性には霞の事情が伝わっていた。そこも継人がこのバイトを紹介した理由だろう。結構霞のことについてしっかり考えているのだ。
「私はこのセカンドムーンのオーナー、紅真耶。ダンナの置いてったこの店を切り盛りしてんだけど、結構一人じゃハードでね。お手伝い欲しかったんだ。そいで佐天くんに探してもらったってわけ」
そんなわけで継人を通じてバイトを募ったのだ。そして真耶はカウンターの下から大きな箱を一つ取り出す。
「そうそう、佐天くん。あの話聞いてから探したんだけどあったよ。これ」
「おお! それはダイガンダー!」
継人は復活してその商品を眺める。どうやら破産の原因とは別の番組のロボットみたいだ。そもそもデザインラインがかなり異なる。ウェブダイバーの主役の機関車はパープルとメインロボには珍しい色使いだったが、こちらは白基調に赤や青の差し色という王道なデザイン。
「何それ?」
「ウェブダイバーの後番組『爆闘宣言ダイガンダー』の主役ロボだよ。見てみ? この合体方式どこかで見たことと思うじゃろ? なんとウェブダイバーのダイタリオンと互換性があってな、コアロボが交換できるんだよ」
お、おうとしか反応の出来ない豆知識を披露する継人。その話で名前が挙がり、真耶が倉庫から引っ張り出したのだ。
「そうそう。プレミアとか考えなくていいから、箱も傷あるし安くするよ? 買う?」
「はい! 買いま……」
継人が決めるや否や、詩乃はダブルタップで確実に仕留める。所謂パンパンパンという奴だ。だんだん火星のルールに詩乃も染まってきた。
「金が無いって言ってるでしょーが」
「はは、なんか夫婦みたいだな。ダンナの無駄遣い止める奥さんみたいでさ」
そして真耶は怖いモノ知らずなことを言う。しかし詩乃はバイオレンスに訴えず、顔を赤くして否定するのみ。
「違います! こいつの無駄遣いで霞まで干上がったら大変なんです!」
「そうかそうか。そうだ、あんたもここで働いてかない?」
その言い訳は完全に子供を案じる妻。詩乃を気に入ったのか、勧誘を掛ける真耶。しかし彼女は丁重に断った。
「すみません。バイトはもう決まってまして」
「そうか。先約入りか」
残念そうながら、真耶はスッと手を引く。結構サバサバした人物である。
@
「で、私の店は今重大な問題を抱えている」
「なにかな?」
真耶はひとまず、店の置かれた状況を説明する。継人も復活し、それを聞いた。
「最近、この辺りに綺羅鋼ハンターなる者が出ているらしい。それがうちにもやってきてな。綺羅鋼を売れってうるさくて」
「綺羅鋼?」
詩乃と霞は聴き慣れない単語に首を傾げる。継人もこれは実際に見た方が早いと踏んだ様で、ある場所へ歩いていく。
「SDガンダムに使われていた技術の一つだ。あんまりにも精巧さを求める故、採算が取れなくて工場がやめたんで現在はもうロストテクノロジーってやつだ」
店のショーケースに置かれた一体のSDガンダム。その翼に注目させる。クリアパーツにまるで塗装かホイルシールでも貼ってあるかの様な色分け。しかしよく見ると、なんと多色のメッキだ。クリアの上、そのごく一部に複数色のメッキが施されている。
「なにこれ? 凄い!」
「これって、コンピューターの基盤作る技術?」
ただ驚嘆する詩乃に対し、霞は明確にその系譜を認識していた。
「その若さでこの綺羅鋼の素晴らしさに気づくとは、見込みがある!」
綺羅鋼に見入っていると、一人の男が店に入ってくる。バックパッカーのようだが、そんなアウトドア全開の男が何の用か。
「綺羅鋼ハンターか。あいにく、ここの綺羅鋼は売れないよ」
「こいつか」
真耶は答えの変わらないことを伝える。この人物が綺羅鋼ハンターというのか。
「まぁまぁ。交渉は後にしてお土産でも」
「これはご丁寧にどうも」
綺羅鋼ハンターはまず紙袋に入ったお土産を手渡す。いいとこのお菓子屋で買ったらしい、見るからにおいしそうなお菓子だ。
「私は世界中の綺羅鋼を集め、後世に残す活動をしております。そして、私の最終的な目標は集めたサンプルを元手に綺羅鋼を復活させることです」
目的を最初に伝える辺り、ただ野蛮な収集家というわけではなさそうだ。
「そして、貴女にも譲っていただけるように、今回は以前提示した買取価格の十倍を用意しました! さぁ、これでどうですか?」
「いや、売る気無いんだけど……」
十倍出されても売る気なし。これは互いに本気というわけだ。綺羅鋼ハンターは押してダメなら退いてみることにした。
「交渉はただ買取価格を上げればいいわけではない。でしたら、ここからは布教のターンとさせていただきます」
「布教?」
綺羅鋼ハンターがバックから取り出したのは、一体のSDガンダム。どうやらベースこそ何の変哲もないクリア版の紅武者アメイジングに見えるが、ホイルシールになっているべきところが綺羅鋼と同じ技術でメッキだ。
「凄い! 綺麗!」
先ほどみた綺羅鋼に勝るとも劣らない美しさ、詩乃は驚嘆するばかりであった。
「さらにもう一体もあります! 私の作った綺羅鋼試作一号とバトルして、その素晴らしさを知っていただきましょう!」
@
セカンドムーンにはバトルシステムも置かれている。そこに綺羅鋼ハンターと継人が立ち、バトルを始めようとしていた。
「ふふふ、綺羅鋼の素晴らしさを知る人間が増えればこの交渉、目的こそ果たせずとも無駄足ではない。優れた営業マンは一年以上を掛けて大口契約を得るのだ」
「おっさん、脱サラ勢か……」
ところどころに元々ビジネスマンだったらしき名残があり、継人はそれを見逃さなかった。
「黒曜学院とかいうとこの卒業生がトップに立ってから随分と会社が働きづらくなってね、思い切って好きなことしようと思ったのさ」
「ま、それはいいとしてさっさと始めようぜ」
システムにガンプラをセットし、バトルスタート。ガンダムプレジデントカスタムはいつものマシンガンを装備した姿でフィールドに飛び出した。今回のフィールドは荒野。陸ガンベースのプレジデントには有利だろう。一方の綺羅鋼ハンターはオリジナルと思われる二刀流の武者タイプのSDを出してきた。背負った槍は先ほど見た綺羅鋼と同じ技術で模様がついている。
「綺羅鋼頑駄無。さぁ、来るといい!」
「お言葉に甘えて!」
継人のプレジデントがマシンガンを乱射するが、綺羅鋼頑駄無はそれを軽やかに回避する。
「的が小さく、機動力に優れている。それがSDの強みだ」
綺羅鋼ハンターは誇らしげに語るが、継人もそれはわかっていた。なのでマシンガンを捨て、ビームサーベルを取り出して接近戦に持ち込んだ。
「知ってるよ! SD使いとは何度もやり合ってんだ! その手足の短さ、格闘戦のリーチは不利!」
そう、デフォルメの体系であるが故にリーチに大きな差があるのだ。SDの中にはリアル体系になるギミックを持った機体もいるが、この綺羅鋼頑駄無は鎧に槍とギミックの痕跡はない。
「その上、メインターゲットの都合刀剣装備の機体が多いから格闘戦を強いられる!」
ナイトガンダムや武者ガンダム、三国伝と多岐に渡るSDシリーズだが、その中でも共通の事実がある。ターゲットが年少男児のため、持っている武器が剣など格闘戦装備に偏りがちなのだ。凡百のファイターは不利なレンジへ自ら飛び込む羽目になる。
「待って継人!」
その時、珍しく霞が声を張り上げた。
「解説は死亡フラグ!」
「え?」
綺羅鋼頑駄無は二本の剣を弓に合体させ、槍を矢の様に番えている。
「その通り! 喰らえ、綺羅星撃!」
そして放たれる極大攻撃。接近していたプレジデントは自ら当たりに行っているようなものだった。
「なんだとぉ!」
案の定避けられず、撃墜という有様。これでは恰好も付かない。
「あんたねぇ……散財するわバトル強くないわ、とんだダメ男ね」
「ぐうの音も出ねぇ……」
詩乃にもこう言われる始末。そして彼女はあるビラを継人に見せる。
「ほら、あの有名な葛城研究室の新薬治験のバイト。これで稼いで来なさい」
「はーい……」
というわけで、継人はバイトに向かった。せめて稼がねばダメ男まっしぐらだ。
「どうだ! 完全にSDの強みと弱みを理解した上でのこの戦術!」
もう綺羅鋼関係なく結構強い綺羅鋼ハンター。霞は自分のAGE1を取り出すと、バトルシステムに置いた。
「継人の仇、取る」
「ふふ、いいだろう。来い!」
余裕の綺羅鋼ハンター。フィールドはさっきと同じ荒野だ。その前に、真耶はあるものを霞に渡す。
「見たところ改造してないみたいだし、武器くらい貸すよ。いいよな?」
「構わんよ」
真耶が渡したのは、炎の剣。クリアパーツにラメが入っている。彼女達は知る由もないが、これはダンボール戦記のエフェクトセットを改造したものだ。それを二本。持たせると浮いて見えるが確かに強そうだ。
「いくぞ、バトルスタートだ!」
それを霞がAGE1に持たせたところでバトル開始。霞はあろうことか、継人と同じく距離を詰めた。これには詩乃動揺する。
「ちょ……それじゃさっきと一緒じゃん!」
「そう、一緒」
それは霞も分かっていた。綺羅鋼ハンターも同様で、綺羅鋼の矢を放った。
「喰らうがいい! 綺羅星撃!」
が、霞はそれを待っていたとばかりに左手の剣を投げる。剣は炎の竜巻となり、矢と相殺された。爆風が巻き起こり、互いのカメラは砂埃で埋まる。
「まさか……突貫?」
想定外の事態に綺羅鋼ハンターは動きを止める。一方、想定通りだった霞はそのまま距離を詰めていた。炎の剣が一閃、綺羅鋼頑駄無を切り裂こうとする。
「そこか!」
綺羅鋼ハンターも反応出来たが、リーチの差でAGE1には当てられなかった。綺羅鋼頑駄無は両断され、勝負がついた。
『BATTLE ENDED』
「へぇ、裏にネイルで使うラメ塗ったんだ」
詩乃は霞が使った炎の剣を改めて観察する。表は墨入れがしてあった。それもただの墨入れではない。リアルタッチマーカーのパーツに近い色を使っている。クリアパーツは組み立てると内部が透けるので、それも利用した表現になっている。
「別に綺羅鋼にこだわらなくても、綺麗なガンプラは出来るのさ」
真耶は綺羅鋼ハンターにそう言う。彼もそれには気づいていた。だが、退けない理由があるのだ。
「知ってたさ。もっと美しく飾る技術なんていくらでもあるってことは。だが、少年の日、心奪われたあの輝きには勝てないのだよ」
そして彼は去っていった。少年の日の思い出、それを取り戻し、次代の少年の思い出にするまで、彼の戦いは続くのだ。
@
継人と霞が出会う数か月前のこと、ここはヤジマ商事の所有する大規模なガンプラバトルの研究施設、ニールセンラボ。そこの研究主任であるヤジマ・ニルスはある問題を抱えていた。
「はぁ、全くみんなガンプラ好きなのは結構なんですけどね……」
パソコンの前で溜息を吐く褐色肌の男性がニルスだ。そこへショートカットの女性が姿を現した。彼女は星影雪奈。研究員の一人だ。
「ニルスくん、ビルドダイバーズ見て思ったんだけどね」
コーヒーを差し出しながら話を切り出す。ニルスはまたかと言わんばかりに頭を搔く。
「それですか……セイくんにもマオくんにもGBN作れないかって聞かれまして……妻のキャロラインに至っては予算出すから作れと……」
ニルスは天才だ。それ故、友人から多少の無茶を要求されることがある。GBN、ガンプラバトルネクサスオンライン。放映中のガンダムビルドダイバーズに登場するガンプラを使ったオンラインゲームのことだ。それを作って欲しいと友人達から頼まれており、辟易としているところだ。
一応、オンラインバトルは実装しているが、流石にダイブは無理だ。
「出来たよ。それっぽいの」
「え?」
「だから。出来たよ。っぽいのは」
雪奈はあっさり語る。彼女もまた、天才だ。
@
時は戻って現在、継人は新薬の治験のバイトを受けるため、葛城研究所へ向かった。普通に入って、指定された部屋に突入する簡単なお仕事だ。
「ちわー! 新薬のバイトで来た佐天継人で……」
元気よく挨拶。が、部屋の椅子に座っているのは暗い血の色を纏ったコブラの怪人。
「ぶ、ブラッドスタークだぁあああ!」
継人の驚く顔が見れたので満足と言わんばかりに、コブラの怪人、ブラッドスタークはその姿を解く。正体は明るいおじさんである。
「よく来てくれた。俺は石動惣一。葛城先生の友人だ。継人くん、そしてガンプラバトルの公式審判員でもあるんだ」
「俺の名前を……?」
継人は名前を知られていることを警戒する。相手は公式審判員。ウヴァル事変で脛に傷のある彼はいろいろ会いたくない相手だ。
「あ、さっきの変身はバトルシステムの応用でおもちゃで実際に変身できるようになる技術で、星影博士の発明だ」
「新薬の治験は受けてもらうけど、君にはもう一つ頼みたいことがあってね……」
石動はそう言うと、ある書類を差し出した。継人はそれを受け取り、ただその頼みを承諾するのであった。
真耶「次回、『王子様の探し人』。バイトも入って、バリバリやるぞー! ミニ四駆サーキットの整備にベイブレードのスタジアムも置いて……。なんだか、娘が出来たみたいで楽しいね、こういうの」