????「警察だ! 未成年者を監禁しているとの情報があった! 国際警察の権限において実力を行使する!」
継人「あ、あなたは警察戦隊の好感度モンスター!」
圭一郎「だれがモンスターだ。事情を説明してもらうぞ!」
継人「はいはい、じゃあ第三話で説明しますんでどうぞ!」
「おそらくは全生活史健忘でしょう。記憶が戻るかはわかりません」
「そうですか」
自宅の前にいた少女、足柄霞を市民病院に送り届けた佐天継人。付き添える人間が自分しかいないのでそのまま検査結果を聞くことになっている。記憶喪失とは厄介なものだ。ゲームならどこかのイベントで記憶が戻るんだろうが、現実にはそんなイベントのフラグなど仕込まれていない。
肝心の霞は疲れ果て、病院のベッドで眠っていた。数日間歩き通した様で、脱水症状も起こしている。最初は目的もあって外出していた様だが、その途中で記憶を失ったのだろう。
「全生活史健忘は頭部への衝撃のみならず、ストレスに晒された際も発生します。検査の結果、頭部への異常は見られませんでした」
「つーことは……」
ひとまず安心した様な、不安が強くなったような。つまり原因が絞られてしまうからだ。
「歳は16歳前後、記憶がない間学校に行かないわけにもいかないか……。戻るとも限らないし」
医師は霞のこれからについても案じてくれていた。それについては継人にも少し案があった。
「うちの学校、俺みたいな結構特殊な事情の生徒も預かってくれるから、頼んでみますよ。学費は出世払いでね」
継人や詩乃の通う白楼高校は教育の拡充に力を入れており、病気等で特殊な措置が必要な生徒にかなり融通を利かせたり、フリースクールの開設にも積極的だ。理事長がそもそも子供を教育の世界が見捨てることは損益であるという考えの持ち主。
「君の姿見てうちの患者さん数人発狂してたんだけど君、フォーリナーのサーヴァントか何かなの?」
その恩恵に自身も預かるという継人。過去にやらかしたことが原因で彼の姿を見ただけで正気を失う人があちこちの高校にいるせいで公立高校からは出禁を喰らっていたりする。一部の人にとっては歩くトラウマスイッチである。
「いやー、どうも昔結構な人のSAN値消し飛ばしたんでね」
「あ、思い出した。ウヴァル事変か……。たかがガンプラバトルでああなるもんかね普通」
医師は遊びで一生もののトラウマを抱えることになった人達に疑問を呈するも、そもそも遊びと割り切れたならそうそう大きいダメージにはならないはずだ。
霞の記憶も疑問が多いが、このプレジデントについても語るべきところは多い。
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結局、白楼に通うなら部屋も余ってるし継人の家に住むといいだろうということになり、霞は彼の家に居候となった。バイトで預かった家なので別に継人の自宅ではないが、女を連れ込んではいけないというルールを定められた覚えもない。
「うーん、あと28週間……」
土曜日の朝、ウルトラマンを録画していると早起きする必要がないので継人は朝寝坊。寝室のベッドでグースカ寝ている。前の家主は独身の金持ちだったのか、寝室がホントに寝室でベッドしかないのだ。書斎と模型部屋が別個で存在し、霞が使っているのはなぜか存在する子供部屋。用途は不明だがやけに綺麗な勉強机とベッドがあるものだからそう呼ぶしかない。
「継人、継人」
そんな彼を起こす存在があった。布団を剥ぎ取るでもなく、優しく揺すって起こしてくれる。
「ん? あれ?」
仕事で忙しい両親と学校のため別居している兄弟という家族構成なせいで一人で暮らしている様なものだった継人にとって、そんな存在はないはずである。が、今日はいるのだ。
「霞……?」
「起きて」
霞がエプロンを付けて、お玉を持って起こしにきていた。まるで新妻の様だ。若過ぎるだろうが、ショートの金髪が『学生結婚して卒業後すぐに家庭持った』感を出し過ぎである。そのあまりの神々しさに、継人は混乱を隠せない。きっと朝ごはんを作っていたのだろう。それが出汁を入れ損なって味気ないみそ汁でも、水加減を間違えて芯の残ったご飯だろうと、彼女が作ったという事実があるだけで美味しいに決まっている。
「ま、まさか朝ごはんを……? だ、駄目だ、そんなポリコネフェミニストに怒られる展開……! 絶対地上波で放送したら怒られる! 女性側の願望は例え不倫からの略奪愛でもドラマで堂々と流せるのに男性側の願望は一ミリでも出た瞬間叩かれるこの時代にそれはマズイ!」
「お手紙来たから起こしにきた。ご飯は別に作ってない」
「お手紙でござるか」
しかし継人の興奮に反して、霞の用事は宅配便。勝手に開けたりしない辺り律儀なのかなんなのか。お手紙、という語感がこれほど可愛らしく聞こえたのは彼にとっても初めてのことであった。
「よかった、ポリコネに叩かれるプレジデントはいなかったんだね……」
何やかんやいってアマゾンから荷物を受け取り、朝食の準備をする。
結局継人が作るならなぜ霞はエプロンとお玉を装備していたのか、とても似合っているがそれが気になる。
「で、そのお玉は……」
「何故か持ってた」
「ふむふむ」
継人はそんな霞の些細な挙動もメモする。今は少しでも手がかりが欲しい。
「朝食はパン派? それともご飯派?」
「どっちだったんだろう?」
「まぁ今はコーンフレークしかないけど」
朝食はコーンフレーク。なんでも毎朝山盛り二杯食べれば継人みたいに死にかけて霊体が抜けても戻れるくらいには強くなるとのことだ。
「そうだ、お手紙お手紙」
朝食を食べ終わったところで継人は封筒を確認する。簡易書留でもない、普通の封筒である。特に重要そうには見えないが、『節テレビ』と有名な局の名前が封筒に印字されている。
「中身は……これは?」
内容はテレビの出演依頼だった。どこからともなく情報を聞きつけ、行方不明者を探す特番へ出てくれという話になっていた。
「あっれー、確かにSNSで呟いた様な気がするけど……どこで情報漏れたんだ?」
ともかくこれは後回し。少しでも情報が欲しいのだが、霞を見世物にする気はさらさらない。加えて、全生活史健忘はストレスでも誘発される。霞の生活が記憶を捨ててまで逃げ出すほどにストレスフルだった可能性も捨てきれない。特に身分を証明するものの破棄が意図的なものだった場合、彼女を元の生活に戻すのは憚られる。
「継人、どうしたの?」
「いや、テレビ出る? ってはなし」
霞に手紙を渡す。すると彼女は軽く読んでゴミ箱に入れてしまった。
「いいのか? 手掛かりが掴めるかもしれんぞ?」
「うん、なんだか……」
せっかくの手掛かり、しかし霞は乗り気ではない。たしかに、今は記憶のない自分との折り合いや新生活への対応もある。あまり派手な行動は負担にしかならないだろう。
「ま、いっか。また落ち着いてから考えようぜ」
「……うん。ごめん」
霞は記憶を取り戻すチャンスを棒に振ったと謝る。だが、継人は気にしていなかった。
「気にすんなって。俺もお前を視聴率稼ぎの見世物にしたくはなかったんだ」
記憶を取り戻すためには情報を広く募る方がいいだろう。だが、それは多くの衆目へ彼女を晒すことになる。今は霞に平穏を与えてやりたい。それが継人の考えであった。
朝食を終え、二人は今日の用事に取り掛かる。
「さて、そろそろ出かけるか」
「うん」
この休みで、月曜日から霞が学校へ通う準備をすることになっていた。買い物となると車くらい欲しいところだが、継人は免許など持っていない。なのでアッシー君を手配してある。
「お、きたきた」
継人はエンジン音を聞きつけ、玄関に出る。そこには一台の赤いポルシェが停車していた。運転席にはどう見ても免許の無さそうな女の子が座っている。
「やー、久しぶり」
「レイモンドさん、今日は警察に捕まらなかったですね」
女の子は赤毛に青い瞳で外国人と思われる。継人は霞にこの女の子を紹介した。
「紹介しよう。彼女は2代目レイモンド・ポーン氏。執事連盟から如月家に派遣された執事だが、お嬢様が一人暮らし中なので今回呼べました」
「こう見えても30代だよ」
級長メイドのビルドファイターズを愛する諸君なら覚えているだろうか。彼女は暁中学にガンプラバトル部をもたらした如月葉月の専属メイドである。事実は継人が説明した通りだが、彼の出身は仙堂中。学校も違うのに手を借りられたのには訳がある。
「どうも、ご迷惑をおかけします」
霞は丁寧に礼をする。基本、礼儀正しい人物であることが継人にもわかってきた。だからこそレイモンドを呼んだということだ。
「気を抜かないでよねー。私はお嬢様に頼まれて君の監視も兼ねているんだからさ」
「へいへい。そういうわけで互いに寝首を掻く関係だから容赦なくこき使ってくれや」
レイモンドを呼んだのは都合がいいだけでなく、霞にとって気兼ねなく手を借りられるだろうことを想定してのこと。この通り、霞も継人達の世話になることを結構気にしている。継人と敵対関係にある人物なら少しはそれが和らぐだろうという配慮だ。
車は早速買い物に出発する。ポルシェの乗り心地は中々だ。
「あのワゴンどうしたんです?」
「えー君が破壊したんじゃん」
「そうでした」
そんな霞が二期から見始めたアニメで一期の内容に触れられたみたいた反応しか出来ない会話をしつつ、買い物に出陣した。
「ふふ、君を葉月から引き離したのには理由がある」
「何?」
「フハハハハ!」
馴れ合いっぽいながらも敵対オーラを添えて。
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休み明け、2日ぶりに会う継人の様子に詩乃は困惑していた。朝早くの教室は転入生、霞の噂で持ちきりになっていた。詩乃、継人両名ともそんな話は一ミリも耳に入らない状態だ。
「どうしたの?」
「いや……ちょっとね」
明らかにやつれている。彼女は記憶喪失な上知らない男と暮らす気苦労のある霞を心配していたが、結果は真逆になった。ノーマークの継人が死にかけている。
「なによ」
「一から十まで話したら俺を殺すだろ?」
「殺さないから言ってみてよ」
怒らないから正直に言いなさいと言って怒らなかった例は古今東西存在しない。エジプトの壁画や古事記、徒然草にも記されていたことだ。例外なのは木を切ったワシントンくらい。ワシントンは大統領、すなわちプレジデントである継人は大丈夫と考えて話すことにした。
「それがな、霞の奴、風呂上がりにバスタオル巻いただけで動き回ったり、朝起こしに来てそのまま布団に潜り込んで寝たり、ソファでテレビ見てると俺に寄りかかって寝たり、嬉しいやら気苦労やら……」
継人が正直に話すと、詩乃は手にした拳銃を突きつける。殺さないっていったのに。やはりワシントンが怒られなかったのはその手に斧という武器があったからなのか。
「や、やっぱ殺すんかい!」
「落ち着け!」
突然のことに、他のクラスメイトも止めに入る。一応拳銃の発射口はオレンジ色で明らかにおもちゃだが、殺意が本物だ。
「殺す! こいつはここで殺さないとダメだ!」
「姉か妹の話だろ? 俺にも覚えがある!」
姉妹に関する話だと思われている様だったので、詩乃はここで爆弾を投入する。
「これから来る転入生に関わりのある話よ。寿命が伸びたね」
「こえーよ俺どーなんのさ」
転入生という言葉にクラスがざわつく。姉妹ではなく転入生。つまりどういうことなのか。
「んー、どうしたのこれ?」
「おめーは普通に遅刻だな」
そこへ副学級長の女子が現れる。彼女は柚木ミナミ。継人とは級長コンビとしてクラスで認知されている。
「何故か俺が詩乃に殺されそうになっている」
「あ、それって転入生の件? たしか今一緒に暮らしているっていう」
そこでミナミはウッカリと情報を漏らしてしまう。継人は気軽に話せる関係。霞についても頼んでいたのだ。
「それって女子?」
「可愛い?」
「うん可愛いよ。クーデレ……いや、素直クールって感じで」
「あああああああ!」
男子に詳細を聞かれ、ミナミは全て明かしてしまう。これが男子の逆鱗に触れた。何処からともなくビルドドライバーとハザードトリガーを男子達が用意し、詩乃に渡す。
『ハザードオン!』
「ヤメルルォ! それはシャレにならん!」
詩乃がビルドドライバーで変身する。禁断の引き金が引かれ、誰かが消滅する! 継人は必死に止めるも、まるで言うとこを聞かない。
『ラビット! タンク! スーパーベストマッチ!』
ベルトに赤いウサギと青い戦車の絵が浮かび上がり、それが激しくシェイクされた。様に見える。
『ドンテンカンドンテンカン! ドンテンカンドンテンカン!』
『ガタガタゴットンズッタンズッタン! ガタガタゴットンズッタンズッタン!』
ベルトから伸びた黒い線が、黒に所々警戒色の虎柄を散りばめた機械を生成した。様に見える。
『Are you rady?』
「変身!」
『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード! ヤベーイ!』
その静止も虚しく、詩乃はイメージだけで変身を完了した。黒い機械にたい焼きみたく挟まれ、出てきた詩乃は黒塗りのビルドになっていた。様に見える。
逃げようとする継人の頭を詩乃は手掴みで抑え、そのまま無慈悲な必殺技に繋がる。既に怒りで荒ぶる段階を超え、非情な兵器としての振る舞いにシフトしていた。
『マックス、ハザードオン!』
『ガタガタゴットンズッタンズッタン!』
『オーバーフロー! ヤベーイ!』
まずはオーバーフローで装甲を剥がす。実際には詩乃のゴリラみたいな握力で頭部を握りつぶされているだけなので見た目より痛い。
『ガタガタゴットンズッタンズッタン!』
『レディーゴー!』
『ハザードフィニッシュ!』
継人の首に必殺キックをかまし、トドメを刺す。本編では装甲を剥がして実質生身にライダーキックだったが、現実は生身に詩乃のライダーキックが刺さる形になる。そう、ライダーキックの部分だけ変わらないのである!
「おーい、ホームルーム始めるぞ。あれ? 継人は?」
富士川が教室に入ると、継人の席には紫色のヒヤシンスが置かれていた。許してヒヤシンスってか? 貴様は絶対に許さん!
「まぁしばらくしたら生えてくるだろ。それよりなんで詩乃以外お通夜ムードなんだ?」
「ニチアサのトラウマを掘り返したからです」
「俺は……取り返しのつかないことを……」
男子は自分らで詩乃をけしかけといてこれである。これなら霞も落ち着いて自己紹介できるな、と富士川は話を進めた。
「みんなも聞いていると思うが、今日からうちのクラスに転入生が入ってくる。紹介しよう」
教室の扉を開け、一人の少女が教室を覗く。そろっと入ってきて、教卓の前に立って自己紹介をする。
「足柄霞です。今日からお世話になります」
そして継人の事は忘れて一気に色めき立った。ミステリアスな雰囲気の美少女だ。これで興奮しない男はおるまい。
「兄がいつもお世話になっています」
「兄?」
霞の挨拶に富士川が戸惑う。義理の兄どころか自分の記憶すら無いはずである。事情を知らない富士川に霞がわけを耳打ちする。
「継人が、『記憶喪失って言うと色々面倒だから俺の義理の妹ってことにしとけ』って」
「はーん、なるほど」
この作戦は詩乃も承認済みである。継人の義理の妹という設定には不満があったが、彼と暮らしている状況に一番説明が着くので仕方なく認めた。
「え? 誰?」
「俺じゃねぇぞ?」
クラスメイトもざわつく。果たして義理の兄とは一体……!
「あー、参った。まさか冥界がクリスマスイベント真っ最中だとは。何回周回したよ俺」
義理の兄がひょっこり復活。本当になんの前触れもなく、席に生えてきた。
「あ、お兄ちゃん」
『お兄ちゃん?』
復活した継人を霞が見かけ、当初の計画通りお兄ちゃんと呼ぶ。継人自身は『あ、もうそこまで話し進んだんだ』くらいにしか思ってなかったが、周りの男子からの殺気が凄まじい。
「あ、ああ。義理の妹なんだ。うちで預かっている」
「嘘つけ! 似てないぞ!」
「この悪人面からギャルゲの攻略対象みたいな娘がどうやって!」
「第一、妹なら同い年なのおかしいだろ!」
詰め寄る男子達。まるで国会の野党の様だ。どこ向けなのか『その関係性を許さない』と書かれたプラカードを持っている男子までいた。
「そら義理だからなぁ。同じ親からなら双子じゃないと無理だろうが、義理なら可能ってわけよ」
継人もそのくらいの探りは計算済み。設定も細かく組んであった。
「義理のって、どういうこと?」
「ああ、ひい爺さんの兄貴のとこの子だ。随分遠縁だったからな。年子でかなり可愛がっていたんだがそのご両親が亡くなられてさ。全然その筋とは交流無かったけど爺さんの葬儀に誰呼ぼうかって家系図見てひい爺さんの兄貴の筋を辿ってたら見つけたんだ」
完璧な受け答えである。両親の死をチラつかせて追求し難くした上、本当に奇跡的な発見というスタイルにしておく。
これなら親戚同士だがあったばかり、ということになり、下手に付き合いの古い親戚ということにした際に起きる『幼い頃の思い出を探られる』危険も減った。
「よくもまぁそんなデタラメがペラペラと」
詩乃はすっかり呆れていたが、周りは納得と嫉妬の渦になっていた。結構不自然にならない設定を考えたつもりでも、何処と無くエロゲ臭くてしょうがない。
そんなわけで継人の妹、霞はクラスの注目を浴びることになった。
「霞ちゃん、お昼一緒に食べない?」
「……」
他の女子に誘われるが、霞は継人の後ろに隠れてしまう。結構な人見知りみたいだ。そこに詩乃が割って入る。
「私もいるから、どう?」
「……うん」
そこでようやく了承した。継人は詩乃に面通ししておいてよかったと心の底から思ったという。
「継人は?」
「俺はいいや。女子だけで行ってきな」
そして少しでも自分への依存度を下げるため、敢えて突き放す。霞は何度も継人を振り返りながら、女子との昼食会へ向かった。
「……心配だ」
突き放したのはいいが、やっぱり心配。そこでガンプラを取り出し、GPベースを起動する。
「お願い、プレジデントカスタム! 霞の様子を見てきて!」
プレジデントカスタムの目が赤く光り、継人の手を離れて霞を追いかける。ガンプラの動作テストモードで、GPベースやガンプラの粒子貯蔵用クリアパーツに貯めた粒子でバトルシステムを使わなくても動かせるのだ。今のプレジデントカスタムは陸ガン由来の武装パックにありったけクリアパーツが詰まっている。
「やっぱり心配なんだ」
「家ならいくらでも甘えさせてやれるんだが……」
GPベースでガンプラを操作しながら、継人はミナミに答える。そんなわけでこちらも昼食である。
「心配っていったらあいつ、結構食べないことなんだけど」
継人はジャータイプの弁当箱からご飯、みそ汁、おかずを出して言う。ミナミはガンプラからの映像で様子を見つつ指摘した。
「それは……ね」
継人の量がおかしいだけである。心配いらない量は食べている。
@
女子達は屋上で昼食を摂っていた。周囲が金網に囲まれ、生徒にも開放されているがあまり人が来ない。
「へぇ、そういうことだったの」
「うん」
霞は継人の描いたシナリオ通りに話を進めていた。霞は数日前までの記憶がない。そのため小学校や中学校の話を振られても対応できない。なので『身体が弱く老親の下で静かに暮らしており、学校にはあまり行っていない』ということにしてある。
「結構静かな山奥でね、あんまりこういう街中は慣れてないかも」
詩乃が上手いこと話を合わせてくれる。継人のことはどうでもいいが、霞のためだ。
「詩乃は知ってたんだ」
「うん、ちょっとね」
継人がいない状況に落ち着かない霞、その視線にふと、見慣れたガンプラが現れる。プレジデントカスタムだ。それを見た霞は安堵の表情を浮かべる。継人はガンプラだけでも付いてきてくれるのだ。
「霞? ……あー、あいつ」
それには詩乃も気づいていた。呆れた様な心配していることが分かったような。プレジデントカスタムを見て、詩乃は今の自分も流星号とGPベースを持っていることを思い出す。GPベースはバトルをしようと継人から借りていたものだ。
「そんなに心配ならついてくればいいのに……」
保護者への愚痴を詩乃が零した時、その保護者の分身が何者かに撃ち抜かれた。
「継人!」
「え?」
霞が突如、それに反応したため他の女子もガンプラに気づいた。プレジデントカスタムを撃ったのは、三機のガンダムであった。青と赤の機体は似ているが、装備が微妙に違う。そして両肩にキャノンを背負ったガンダムが後ろに控える。
「何あれ? おもちゃ?」
「ガンプラ! でもなんでバトルシステムの外で?」
システム外で動く機体に詩乃も驚きを隠せない。彼女はバトル自体知っていても、テストモードまでは知らなかったのだ。
『陸戦型ガンダムか、設定を破りよって……』
『これは何機目のつもりでしょうかねぇ』
『ともかく、白楼で我々以外にガンプラを使う者がいるとは』
三機のガンプラはプレジデントカスタムを囲んで話す。明らかに異様な雰囲気だ。人が操縦していることには間違いないが、あまり好感は持てない。それこそ、詩乃にとっての継人以上に。
加えて、さっきまでプレジデントカスタムを見て安心していた霞が怯え出した。こんなアクシデントで学校になじめなかったら全て台無しだ。
「あんたら……」
三機に対する詩乃の怒りを受けて、呼応するように流星号が飛び出した。四機のガンプラの放つ粒子が詩乃の感情を受けて活性化したのだ。そのおかげで、特別な操作なしで流星号はテストモードに入った。立ち上がった詩乃の周囲に操縦用のコンソールが出現する。バトルスタートだ。
『おや、ここにもビルダー』
『鉄血の機体ですか』
『どうせ、キャラ萌えの腐女子でしょう。軽くもんであげましょう』
ごちゃごちゃと三機がしゃべっている間に、流星号はブースターを吹かして接近する。三機のガンプラは防御体制を取り、攻撃に備えた。この三機に取り付けられたメタルパーツがどこか見覚えがあった詩乃だったが、そんなこと今はどうでもよかった。
『素組のガンプラでこの装甲は抜けませんよ』
『というか、あんなに吹かしては粒子が持ちません』
が、三機の予想に反して流星号は乱射したライフルの雨霰で装甲をゴリゴリ削っていった。粒子のエフェクトにも関わらず、ガンプラの表面に傷ができる。
『な、何ぃ!』
『これはどうしたことか!』
『どうしたもこうしたもあるか』
その時、沈黙していたはずのプレジデントカスタムから紫の濃い霧が生まれた。まだこの機体は生きている。
『強い感情で粒子を活性化ね、その発想はなかったぞ、山城さん』
「なんだ、生きてたんだ」
『勝手に殺すな』
予想外のことに三機は取り乱す。この濃い霧が粒子に何かしているのは間違いないが、それをどうすることも彼らにはできない。
『う、うろたえるな! 集中砲火で……』
『やらせると思ってんのか? アシムレイト……!』
キャノンを背負ったガンダムが詩乃の流星号を狙った瞬間、爆発が起きて三機は吹き飛ばされた。爆発の中心にいたプレジデントカスタムは瞳を紫に燃やして立ち上がる。
『今だ! 一機くらいもってけ!』
「言われなくたって!」
敵が分散した。詩乃は赤いガンダムを狙い、流星号を走らせる。赤いガンダムはガトリングを持っていたが、粒子量を考えるとまるで使えない。赤いガンダムのファイターが躊躇った一瞬にライフルを叩き込みながら、斧の届く距離へ接近する。
『させるか!』
『援護しますよ』
他のガンダムが銃器を向けたが、それは命中することはなかった。後ろからプレジデントカスタムが迫っていたからだ。
『何!』
『うちの子を怖がらせやがって……。今の俺は、ヤベーイぞ!』
キャノンのガンダムにアッパーを食らわせると、プレジデントカスタムは浮き上がったガンダムに拳を連撃で叩き込む。そして最後のストレート一閃。これを受けたガンダムは吹っ飛び、金網を突き破って屋上から弾き出される。そのまま吹き飛び、運動場のフェンスに激突してようやく止まる。
「これで終わりだ!」
詩乃の流星号も赤いガンダムのコクピットに斧を叩き込み、機能を停止させた。
『こ、こんなバカな……』
残った青いガンダムは仲間の機体を回収せずにそのまま逃亡する。声が震えており、遊びで感じるはずのない恐怖を覚えている様であった。
@
「おう、緊急任務ご苦労」
教室に戻った詩乃と霞を待っていたのは、富士川だった。教室には継人の姿はなかった。霞は親を探す子猫の様に、辺りを見渡して継人を探す。すっかり縮んで心細そうだ。
「継人?」
「すまんな。あいつは早退だ」
富士川が語ったのは、衝撃の事実。あの頑丈な継人が早退とは、先ほどの力と何か関係があるのか。
「え? 何かあったんですか?」
「まぁな。お前らも見たろ? アシムレイト。あいつはあれを本来使えるはずはないが、そのせいでダメージもある」
「継人……」
ダメージと聞き、霞はますます不安になっていた。それを見て、富士川が宥めた。詩乃はアシムレイトが何なのか気になりはしたものの、霞の方が心配でそれどころではない。
「心配すんなって。歩いて帰れる程度だからな。なんかで集中力上がっちまうとまた暴走状態入るから、俺が帰しただけで本人はぶー垂れてたぞ。お前が心配で」
ふと継人の席を見ると、何故か見知らぬ人物が座っていた。黒いマントに黒い仮面。明らかに怪しい人物だ。しかし富士川はこれを継人だと断定する。
「お前……帰ったんじゃ……」
「なんのことかな。私はプレジデントの秘書だ」
これ以上ふざけて本当に容体が悪化したら霞が心配なので、詩乃は彼を力づくで追い返すことにした。その手には大型の武器、のおもちゃが握られていた。
「フルボトルバスター!」
「冗談はよせ」
おもちゃなどで攻撃はできない。それは継人もわかっていた。ベルト巻いてライダーキック(物理)でもなければ脅威などない。
『タンク! ガトリング! ジャストマッチでーす!』
殺意の塊みたいなアイテム選択にも怯まない。だっておもちゃだからね。
『ロケット! ミラクルマッチでーす!』
『ロボット! アルティメットマッチでーす!』
アイテムが最大まで入ったが、継人は動じない。だっておもちゃだからね。
『アルティメットマッチブレイク!』
が、あろうことか詩乃はおもちゃを振り上げて継人の脳天に振り下ろそうとした。これにはさすがに彼も動揺する。
「まてまてまて! あっはい帰ります!」
本編の仮面ライダービルドにはない殺意を感じ、継人はさっさと帰った。いくらいくら安全のために短くなって刃のパーツには軟質素材が使われているとおもちゃでも詩乃のゴリラモンド腕力で振り下ろされたら命に係わる。それはもう脱兎の如く。早回しの映像でも見ているかの様な勢いだった。
「なんだか嫁の尻に敷かれる旦那みたいだ」
富士川はしみじみ言った。だが相手が悪く、武器を突き付けられる結果となる。
『フルフルマッチでーす!』
「あ、はい。何も言ってません」
ふざけたアイテム音声がここまで恐怖になるとは、バレ画像を見た時には思いもしなかった富士川であった。
「ともかく、お前らを襲った犯人は見当が付いてる。今頃各クラスの担任にこってり絞られているところだろうな」
「富士川先生。その犯人は一体誰なんです?」
話を逸らす為に犯人を言おうとした富士川だったが、必殺技待機音のまま武器を詩乃に向け続けられる。このまま犯人言ったらひと騒動ありそうな気がして、つい口が堅くなる。
「まぁまぁ。そこは先生を信用しろ」
「見つけたぞ。犯人は『ガンプラバトル部』の三年生三人だ」
しかし、それはクラスメイトの男子によって明かされてしまう。ガンプラバトル部、その名称に詩乃は聞き覚えがあった。継人にガンプラバトルを教えてもらった日、富士川が言っていたのだ。
『ガンプラバトル部の部室なんだが、俺が去年赴任してきた頃には使われてなかったんだ。設備とかガンプラが多いから他の部活にも貸せなくてな。俺が天上でバトル部してたから何とかしてくれと言われててな』
「もしかして、あの部室の持ち主?」
「勘がいいな。そうだ」
富士川は仕方なく答えを教える。
「お前が戦ったあの赤いガンダムはガンダム五号機、継人に吹っ飛ばされたのはガンダム六号機マドロック、そして逃げた青いガンダムはガンダム四号機。この三機でチームを組む白楼のバトルチーム『トロイア』。お前が初めてバトルした日に出てきたジョニーザクもあいつらの差し金だ」
犯人のチーム名はさておき、詩乃は一瞬で混乱した。ガンダム四号機から五号機の部分だ。
「待って! ガンダムってそんな何個もいるの?」
「いる」
「いるな」
継人から英才教育を受けたらしい霞、元々詳しい富士川はごく当たり前のことみたいな反応を示した。
「ん? ガンダムバルバトスやガンダムグシオンがいるのと違って、同じガンダムが複数?」
情報をもたらした男子、圭太郎も首を傾げる。ガンダムを知ってはいるものの、それでも理解が追い付かないらしい。
「そうだな。所謂ファーストガンダム、よくテレビで見る白いやつの系譜というか兄弟みたいなもんだと思ってくれ」
富士川が教員らしくわかりやすい例えを出す。
「ファーストガンダム、RX78は7機いてな。一号機はプロトタイプガンダム、試作機だ。んで、二号機がアムロでお馴染みのアレ。テレビアニメに出てくるのはこの二号機だけ。三号機がG3っていって、こいつは媒体によってどんな扱いなのかは違う」
ここまでが三機。ここから先が例の三人組が使ったガンダムである。
「で、四号機。メガビームランチャーってすっごいビーム砲持ってるんだが、今回の戦闘では粒子の都合使わなかったな。五号機は詩乃が倒したあの赤いやつ。こっちも本当はガトリング持ってたんだが、粒子の都合で使わなかったな。この二機は宇宙向けの改修がされてて、今回みたいな地上戦は元々向いてないんだ」
全空域に対応したグレイズ、流星号を用いた詩乃の勝利は即ち必然だったということだ。ここについても富士川は触れる。
「詩乃、今回のバトルはどの戦場にも対応できるグレイズ改弐にはすっごい有利な状態で進められたんだ。フィールドに合わせて機体を選ぶことが重要なんだってことさ。そこもガンプラバトルのうちだ」
「そ、そうなんだ……」
機体特性とかはよくわからないが、ともかく流星号がいい機体なのは間違いなかった。
「で、ガンダム六号機マドロック。こいつはキャノンを装備した機体だ。一応ガンダムだし堅いんだが、それを素手でぶっ壊す継人はなぁ……」
富士川があの苛烈な戦いを見て思い出す。詩乃も継人のプレジデントカスタムが気になった。あれもガンダムのはずである。
「先生、あいつのガンダムは何号機なのさ?」
「ああ、あれはあの三機と同じ一年戦争、『機動戦士ガンダム』の時代のガンダムだが、何号機でもない。陸戦型ガンダムってやつだ』
この説明で詩乃はまた混乱した。陸戦型、ガンダム。登場する時代も同じ。ならあのガンダムのうちどれかのはずである。
「あ、そうか。七号機」
「それは違うな。陸戦型ガンダムはいわば『ガンダム作るために作ったパーツが余ったからそれでガンダム作ろう』ってやつで、冷蔵庫の余りもので一食作るようなもんだ」
「余るの?」
詩乃はまずガンダムをよく知らないため、その説明でも理解し切れない。結構ロボアニメの基本文法は独特だ。特にリアルロボット、長く続いてきたガンダムシリーズともなれば。
「そうだなぁ。まずガンダムってのが敵の新兵器に対抗するために作られたもんで、結構パーツの品質とかこだわったんだよ。そうなると規格を満たせないパーツが当然出る。でも厳しい規格だと落ちたパーツって言ってもそれなりに高い性能があったんだ。戦争中ってんで、それらをポイするわけにもいかんからな。そうした経緯で生まれたのが陸戦型ガンダム」
そこまで説明して詩乃もようやく理解できた。その陸戦型ガンダムをさらに改造したのがプレジデントカスタムだ。
「実際にはトロイアのガンダム達の方が、陸戦型ガンダムより性能は上だ。だが、ガンプラバトルでは関係ない。あれだけ自分向けのチューンをしたプレジデントカスタムなら、あのくらいの相手は手玉に取れる。作中の設定は関係なし、これがガンプラバトルの醍醐味だ」
「なるほど、私の流星号も改造すればガンダムを一捻りできちゃうわけね」
詩乃は改めて、ガンプラの奥深さを知ることになった。
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一通りの授業を終えた霞は、トボトボと家路に着く。行きは隣にいた人物がいないだけでここまで寂しいものなのか。
「あいつなら心配ないよ。見たでしょ? 魂抜けても泳いで戻ったところ」
「……うん」
詩乃が元気付けるも、どこか上の空。霞の継人にぞっこんな態度とは裏腹に、詩乃はあいつのどこがいいのだろうと疑問に思っていた。顔は悪人面、声は聞き取れる以外特筆性無し、背丈も女子の自分と同じくらい。勉強ができるでもスポーツができるでもない。
(まぁ、理屈じゃないんだろうね)
自分が誰かも分からなくなるような状況の中、ここまで見返り一つ求めずに助けてくれる存在。それならこうなっても仕方ないとは思う詩乃なのであった。
「ほら、家だよ。継人も帰ってるから。また明日ね」
「……うん。また」
霞は詩乃と別れ、自宅の玄関を開く。継人の靴もあり、帰っているのは一目瞭然。彼女は少し安心したという。しかし、彼の姿を見ない限り心配が晴れることはない。
「継人ー?」
「ほーい」
呼ばれて飛び出て何とやら。継人はキッチンから顔を出した。エプロン姿で料理をしている様子だった。
「おかえり。暇だったからちょっとピザを拵えていたところだ。いやー、大きなオーブンレンジって便利だなぁ。実家のレンジは小さい上にターンテーブルだったからパスタをレンジで茹でるやつ使うとガンガン当たってなぁ。最終的に爆発したっけはは……」
その姿を見て、霞は思わず彼に正面から抱き着いた。彼女の思いを察してか、継人もそれを引き剥がしたりしない。身長の関係か、頭というか顔が凄く近い。同じシャンプーを使っているとは思えない甘い香りが継人の鼻に届く。
(しっかし俺に対してこの依存し様。ただの記憶喪失じゃねぇな?)
医者の語った記憶喪失の原因が継人の中でリフレインしていた。頭部への衝撃若しくはストレス。そして頭部への異常は無し。
このまま彼女の記憶を取り戻すことが果たして正しいのか、継人は考えざるを得なかった。
次回予告
ミナミ「次回、ガンダムビルドファイターズプレジデント! 第四話『町のおもちゃ屋さんに行こう!』
うーん、やっぱ美少女見てると心が洗われますなー。級長のおかげで写真も手に入れ放題、いやー眼福眼福」