「まぁハッキリ言って、出来の悪い生徒でしたよ。授業態度は真面目で分からないところは聞きにくるのに、成績は下位でした。運動や芸術もパッとした特徴がありませんでしたし、クラス替えの時はどこに配置しても困るくらいでしたね。
ただ、ガンプラバトル部の創設者としての功績は誰しも評価するでしょう。それがあんなことになるなんて……。いや、これのことは思い出させないで下さい! 私も直に戦ってはいませんが、あれが時々、脳裏をちらついて……。一生あれの影に怯えることになるなら、教育委員会の提案なんて……。
(ここでテープに騒音が入る)
ほら、あの話なんかするから……今も立ち直れていない生徒が……」
―仙堂中学の教員が語る
「どーいうこと!?」
継人の自宅に駆け込んできたのは詩乃である。何かというと、継人から救援を求めるラインが届いたのである。『明日作り方教えるよ』とか言いつつ学校を欠席し、その放課後にこれである。
「簡単に説明するとだな、記憶喪失の女の子が俺んちの前にいたというわけだ」
「結構な豪邸だね。家族は?」
「バイトで管理してんだよ。家族は実家か職場かな」
継人の自宅に上げられ、あまりの豪邸ぶりに詩乃は辺りを見渡す。が、豪邸にありがちな調度品の類はあまりなく、代わりにガンプラが飾られていた。
「これ継人が作ったの?」
「いや、しまいこまれてたから出して飾った。前の家主の持ち物だ」
リビングに行くと、件の女の子がソファで眠っていた。毛布を掛けられ、静かに寝息を立てる。ショートの金髪は少し濡れており、整った顔に張り付いていた。
「疲れてたみたいだから寝かしておいたけど、持ち物に身分証が無くてな。誰なのか手掛かりがない」
継人は彼女に許可を得て持ち物を調べており、手掛かりを探していた。
「スマホは?」
「無い。電子機器の類は全くな。代わりにこれだ」
女の子の持っていたリュックから、継人はあるものを見つけていた。いくつかの箱、ガンプラやスケールモデルだ。
「え? ガンプラ?」
「道具の購入は無いな。ということは道具を買う様な初心者じゃないってことだ。それか専用の道具すら知らない初心者か」
手掛かりになりそうなのはこのくらい。身分証も電子機器も無いのでは、手掛かりなど無いも同然だ。
「何かわからないの?」
「後はだな、髪は染めたもんだろう。根本がまだ黒いし、天然なら年齢にしては鮮やか過ぎる。あと身につけているものが妙に新しい。財布も持ってるが、これも新しいしあまり現金が入っていない。使い切ったのか、元々手持ちがないのか判然としないがな」
ただここまでわかっても身元に繋がる情報は一つも無い。
「この歳なら、まぁ大抵は捜索願いとか出るだろう」
「病院連れてった方がいいんじゃない?」
詩乃は何よりその一点が気になった。記憶喪失となれば、何か異常が無いか診てもらうべきである。
「ああ、それならもう急患扱いで無理言って診てもらったよ。予想通り、突然記憶が無くなる『全生活史健忘』ってやつみたいだ。やっぱ頭打ってるかもしれないと危ないからな。アレルギーの有無も診てもらったよ。メシも一安心だ」
「あ、それテレビでたまに聞くやつ」
継人はとっくに検査をしてもらっていた。今日学校を休んでいたのはそのためだ。
「やっぱ結構疲れたみたいでさ、ベッドまで持たなかったよ。昨日もシャワー浴びてすぐ寝たんだが、昼まで起きなくてさ」
「まぁ当然よね。突然自分のことがわからなくなっちゃうんだもん」
色々話していると、女の子が目を覚ます。
「ん……」
瞳の色は僅かに明るい茶色。もしかしたら顔立ちといいハーフなのかもしれない。表情は乏しいが、なかなかの美少女である。
「つぎ……と?」
「あ、悪りぃ、起こしちまったか?」
起き上がった彼女の服装を見て、詩乃は少し驚く。継人のものとみられる白いワイシャツを一枚着ているだけだ。ソファから立ち上がると、健康的な太ももが露わになる。
「ピキュッ……」
詩乃は咄嗟に継人を締め上げる。腕を使った見事な絞め落としだ。背後から密着する形なのに、継人は背中にあるはずの詩乃の温もりを感じられない。相手に僅かなラッキーも許さない見事な姿勢制御だ。そこそこあるはずなのに詩乃の胸が継人の背中に当たらない。
「な、なんすか山城さん……」
「級長あんた記憶喪失の女の子になんて格好……」
「いや趣味嗜好が分かれば手掛かりになると思って複数着替え用意したんですよ? その中に冗談でワイシャツ入れたんですよ? そしたらまさか着るとは思ってなかったんですよ?」
なかなか落ちない継人も大したものである。結構本気で締めているのに。状況がわからず、女の子は首を傾げている。それに詩乃も気づいた。
「あ、ごめん今倒すから!」
「隙ありぃ!」
すると、継人は詩乃の締めを抜け出す。本当にスルリと、技をかけている詩乃にも解かれた感覚がなかった。
「なに? 私のサブミッションを抜けた?」
「はっはー! この程度どうってことないぜ!」
少し色素の薄くなった継人を睨む詩乃。が、女の子は何故か床を見ていた。詩乃もそれに釣られて床を見る。
「ん? あ、級長! 下、下?」
「下? うわ! なんか軽いと思ったら!」
床には継人の肉体が転がっていた。そう、今詩乃と話しているのは彼女のサブミッションで出てしまった継人の霊魂だ。落ちてるどころか死にかけている。
「戻して戻して!」
空中をバタバタ泳いで肉体に復帰する継人。何だか小慣れているように見える。
「あんた本当どうなってんのよ?」
「復活!」
そんなドタバタ劇だが、女の子は特に動じる様子も無い。
「この格好、快適だよ? 締め付けないから」
「そうね、でも女の子が男の前でそんな格好しちゃダメなのよ……」
こればかりは止めないと継人の為にならないと、詩乃は行動に出る。女の子は少し眉を顰める。何か気に触ることでもあったのか。
「えー……」
「えっー!」
「あんたねぇ……」
女の子は嫌そうだが、継人はその何倍も嫌そうだった。これには詩乃の呆れフェイス。
「俺は霞がしたいようにすればいいと思うけど。もしかしたら記憶が戻る鍵になるかもしれないし」
「霞? 名前わからないんじゃなかったの?」
継人は女の子を霞と呼ぶ。どうやら既に仮称を決めてあったらしい。
「ああ、名前わからないんでいくつか候補を挙げて選んでもらった。持ってた軍艦のスケモから足柄霞、だ。さすがに自分の苗字を付けるのは憚られたがな」
「それやったら脚折るからね。膝を曲がらない方に曲げて」
「ヒィッ!」
突然のバイオレンス発言に継人も肝を冷やす。あまり詩乃の前でふざけない方が賢明だ。
「とにかく、風邪引いちゃうから暖かい格好しようね。と、これでいいかな。それとあんたはこっち来る」
「はい……」
詩乃は適当に洗濯してあった継人のスエットを渡し、継人を連行する。玄関まで来て、話を再開する。
「いい? あの子今、大分あんたに頼り切りみたい。いいこと? 弱みに付け込んでなんかしようものなら……」
「しない! しないさ、一つ屋根の下でも大分ご褒美みたいなもんだからな」
心配なのは継人とのこと。霞はかなり継人にべったりだ。頼れる人物が彼しかいないからだろう。
「記憶ってのは戻るかどうかわからん。もう富士川先生に話して学校にも通える様にしてもらってるよ」
「ならよし」
そこは継人も考えてはいた。記憶がこのまま戻らない場合、彼女は足柄霞として生きることになる。その際、学歴も無いのでは自立出来ないので白楼高校がそこを支援してくれるのだ。それを聞いて詩乃は一安心する。
「ああ、山城さん。頼むんだがあんたからも霞を気にかけてやってくれ。頼める女子がいないんだ」
「うん、いいよ。でもちょっと協力してね」
「んん?」
継人は詩乃に協力を要請したが、彼女もまた頼みがあるらしい。取り出したのは今日出された数学の宿題。
「宿題手伝って!」
「学生候だな……。連絡で内容聞いてたし、俺の分は病院で待ってる間にもうやってあるよ」
詩乃は学生の邪魔者、宿題の協力を取り付けた。これでwin-winの関係だ。
とりあえず霞の下に戻ると、彼女は詩乃が渡したスエットに着替えていた。少しサイズが大きい様だ。
「で、早速宿題なんだけど……」
「これだな、中学の時にやった英語の復習だ」
「ドリルなら答え写しちゃえばいいんだけど、こればかりはね」
契約内容の確認をしつつ、リビングで宿題を見せ合う継人と詩乃。彼女は普段、宿題を答え見て書き写すだけで済ませているらしい。
「それ宿題の意味あんのか?」
「肝心な時にやればいいの。そんな毎日頑張ってたら疲れちゃうよ」
と、まぁ詩乃の人となりがわかる様な処理方法である。が、今回の様な調べ物はそれが通用しない。
霞は二人の様子を見ながら、寝起きで喉が渇いたのか水をゆっくり飲んでいる。
肝心の宿題は英単語の意味や綴り調べてくる復習だが、詩乃は一目であることに気付いた。
「何これ、全然違うじゃない」
「え? マジ? 電子辞書で調べたぜ?」
勉強に力を入れない詩乃が一目で間違いに気づく有様だった。英単語の綴りがどれも微妙に違う。
「ほら、代名詞の『she』とかどうやったら間違えるのよ」
「えー? 俺こう見えて療養でアメリカにいたから英語喋れるんだけど?」
「本当に? フィーリングで喋ってない?」
継人は英語を喋れると主張するが、言語というのはライティングのテストと異なり喋る場合に限ってはフィーリングやニュアンスで何とかなるものだ。その癖がモロに出て、書き写しにも影響したのか。
「うん……何となく、わかる」
いつの間にか、霞は詩乃の宿題を進めていた。調べる事無く、難しい英単語を書いている。
「うわ、スゲェ」
「わかるんだ、これ。先生がこっそり大学入試レベルの単語混ぜたって言ってたけど」
詩乃がそう言うにも関わらず、霞はサラサラと母国語を書く様に進めていく。
「全部あってるよ。やるなぁ」
継人が調べると、どれも正解らしい。というわけで宿題はサクッと終わってしまった。彼は詩乃と霞を見比べてため息を吐く。片方は頭も良くてかわいい。もう片方は頭と外見そこそこ、サブミッション女。
「可愛い上に頭いいとか、神様は平等に人を作りたもうた……ってことは無さそうだ」
「なんで私を見て言うのよ」
これには詩乃もご立腹。これ以上やるとまた関節技が飛んで来そうなのでやめよう。
「……二人は恋人?」
しかし霞の投下した爆弾で二人が魂ごとの勢いで吹き出した。恋人どころか会って数日の関係だ。そして関節技で霊魂をぶっこ抜かれる関係でもある。
「か、勘弁してくれ! こんな出会って数日の相手に容赦なくサブミッション放つ女!」
継人はもう冷や汗だらだらで否定した。そんな間違いされた日には詩乃からパワーボムでも飛ぶんじゃないかという恐怖で。
「普通ならやりませんー! あんたが霞の記憶喪失をいいことに色々したんじゃないかって思ってやっただけですー!」
詩乃だって普通、人に関節技を掛けるような女ではない。相手の行いにもよりけりなり。
「違うのに抱き合ってた……?」
「あ、これ関節技の概念がないパータンか?」
霞はどうやらさっきの関節技を抱擁と思っていたらしい。継人にとっては胸も当たらないラッキー皆無な密着だったわけだが。
「さっきのはデビルスリーパーって言ってね、関節技の一つなの」
「関節技」
「あんたの恰好を見た時、継人があんたの記憶喪失をいいことに乱暴してないか心配になってね」
「されてない」
詩乃は霞に一から説明する羽目になったのである。どうやら彼女は関節技を記憶無くす前から知らなかったと思われる。
「んじゃ、ガンプラ作るか」
「そうね」
そんなわけでガンプラ作りを始めることにした。詩乃はグレイズ改弐、流星号を作りたくて継人に声をかけたのだ。
「霞も、もしかしたら記憶に引っかかるかもしれない」
「うん、やってみる」
詩乃に教える予定だったが、ここは霞も誘ってみる。ガンプラを持っていたことがやはり手掛かりになるだろうか。
霞のガンプラは『ガンダムAGE1ノーマル』。主役機といえ現行ではなくシンプルな機体。渋いチョイスだ。
「あ、ガンダムっぽいガンダムだ」
詩乃もそう思うくらいガンダムしているガンダムである。プレジデントカスタムはガンダムっぽさが詩乃的に薄いのか。
「まず必要な工具だが……ニッパーだ。パーツをこのランナーから切るのに使う」
継人は自分もガンプラを手に説明する。パーツが一綴りになっている板の様なもの、これがランナー。これからパーツを切り離して組み上げるのだ。
「手じゃダメなの?」
「タッチゲートならいいが、綺麗に切れないしグリグリやるのって結構手を痛めるんだ」
詩乃は昔作った理科の教材の記憶を基に発言する。爪切りなんかで切ることもあるが、刃物は専用の物を使わないと悪くなってしまう。
「相場は大体、600円から1000円。これ以上高いモデルだと切れ味はいいがデリケートになって使い方を気をつけないといけない。入門に1000円未満のもの買って、続けるつもりが出たら1000円台のもの買うといいぞ。安いモデルは切れ味こそあんまりだが無茶の効く耐久性がある。高いニッパーを買っても太いプラ棒を切るなど応用できるぞ」
継人が二人に貸したニッパーは百均とかでよくみるような形状のもの。だが切れ味はプラモデルに最適で、百均とはモノが違う。
「へぇ、なるほど」
「慣れるまでは説明書の手順に従うんだ。パーツを切る時は、少しパーツから離れたところを切る。そして余ったところを切る。二度切りが有効だ」
「なんか違うの?」
詩乃の質問に、継人は実践を交えて答える。わざと二度切りせずに、パーツの付近へニッパーを入れる。すると、切り取られたパーツは白く変色していた。
「ほれ、プラに負荷が掛かると『白化』という現象が起きる。これを避けるために二度切りして負荷を減らすんだ」
「はー、なるほど」
HGなだけあり、組み立てはサクサク。パーツ数は一見多目だが、パーツの合わせが良好でそもそも組み立て難度が低い。
「シールを貼る時はピンセットを使おう。手で貼ると、手の油分で粘着力が弱まる。ピンセットは100均で十分だ」
シールを貼るにも注意が必要。別に手でも構わないが、そちらの方が長持ちする。そもそも最近のガンプラはシールが少なめだ。
「ポリキャップの挟み忘れには注意するんだぞ。うっかり忘れたら、デザインナイフなんかでパーツのスキマをテコの原理で慎重に持ち上げよう。接着剤を買っておけば、もしこの作業でピンが折れても組み立てを続行できるな」
これまた最近は少ないが、パーツを挟み込んで作る場合もあるので注意だ。
「できたー!」
「出来た……」
あっという間にガンプラが完成。流石に早い。あれだけあったパーツが18センチちょっとの人型に収まる姿は圧巻でもある。ガンダムAGE1も流星号も、非常によくできている。
「お、出来たな」
「何か思い出す?」
そういえば霞の記憶の為にもやっていたのだと詩乃は思い出す。霞はというと、特に何も思い出せない様子だった。
「わからない……でも、楽しい」
「ならいいか」
彼女は少しだけはにかんだ。継人にとってはそれだけで十分。記憶を無くして検査続きで疲れた霞が、少しでも安らげば。加えて、プラモデルはスタートで挫折しやすい趣味なのだ。
「ただ組み立てるだけだと疲れるけど、あのバトルのためだって思うとモチベ上がるねぇ」
詩乃も先にバトルをやったおかげか、組み立てに苦痛は感じていなかった。目的があるというのはやはりいい。
「これでひと段落だな」
継人は作品を見て、ひとまず役目が終わったことを実感する。しかし先は長い。霞の記憶はこのまま戻るだろうか。もしかしたら戻らないかもしれない。
「そうだ。級長、この家バイトで預かってんだって?」
「そうだけど?」
ふと、詩乃があることを思い出す。それは、霞が発見された時の状況だ。
「もしかしたらこの家、霞と関係あるんじゃない?」
「ああ、なるほど」
霞はこの家の前にいた。偶然、という可能性の方がもちろん大きい。しかし記憶を無くした彼女が深層の何かに従ってここに来た可能性は否定できない。
「とりあえず家の情報を整理するか」
継人はこの家についてまとめることにした。
「まずこの家は前の持ち主がわからない」
「え?」
この断言に詩乃は驚く。前の持ち主はバイトの依頼主の家族だろうとばかり思っていたからだ。
「だってバイトで……」
「バイトも中学の先生が持ってきたしな。詳しく家の事詮索しないって条件でな」
なんだかいろいろ詩乃の常識を超越した経緯でのバイト紹介だった。内容が内容だし、当然といえば当然だろうが。
「もしかしてここ、事故物件? 数か月住むとそれ買う人に言わなくていいとか……」
「いや、そうではなくてな。前の持ち主が病気で亡くなったかららしいんだ」
詩乃は事故物件を想像した。近くで霞がお化けみたいなポーズをひそかに取っている。だが、そうではないんだとか。
「ていうか中学の先生が仕事紹介したんだ」
詩乃として気になるのはそこであった。教師がバイトを紹介するなんて聞いたことがない。
「日本の法律だと中卒から働けるし、仕事のコネを教師が持ってるに越したことはないな。俺だとちゃんと職に付けるか怪しいもんだってな」
「随分と失礼ね」
結構失礼な理由での紹介だったが、継人は特に不満無さげである。
「いや、俺の両親もそう思ったらしくてな。だが俺はあの先生が言うんなら間違いねぇと思うよ。実際、新聞配達したら自転車燃えるし、喫茶店のバイトやったら正しく使ってんのにコーヒーメーカー壊すし」
「あ、まさかこの前新聞が届かなかったのと喫茶店閉まってたのあんたが原因なのね!」
詩乃も個人的に何かの糸が繋がった。この通り、継人は運の無さと能力の低さがベストマッチして惨劇を引き起こすことがまぁある。どんなに真面目でもこれのせいで職探しに困るだろうと踏んだ先生がこの屋敷のバイトを見つけてきたのだ。
「継人、料理上手い。失敗するとは思えない」
霞の感想も確かだが、家でやるのと仕事でするのは勝手が随分違う。
「うーん、なんというか設備がでかくなるとダメというか。マック何件焼いたかなぁ。ポテトは鬼門だ……」
「何があった」
「ポテト揚げたら出火」
こればかりは本人に原因がわからない。本当に運の問題なのだ。
「で、家なんだけど書斎と模型部屋、シアタールーム、そんで寝室が二つだな。一つは本当に寝室って感じだが……」
家の話に戻すと、この邸宅は二階建てでそうした部屋がある。二つある寝室の内、一つはベッドがあるだけの部屋だ。
「もう一つは机とかもあって、子供部屋っぽいんだ。そこを霞に貸してる」
「子供と二人暮らし?」
「かもな」
詩乃は親子二人暮らしを予想したが、謎はまだある。継人はそこを詰めていく。
「シアタールームには歴代ガンダムのブルーレイ、模型部屋にはプレバン含め大量の積みプラ。そんでロフトとか棚の後ろの隠し部屋とか、まだ把握してないところも多い」
なにせ間取り図を渡されていないので、未だ全てを把握できていないのだ。
「謎が謎を呼ぶね」
霞と同様、謎の多いこの家。詩乃は不謹慎ながらワクワクしていた。果たして、霞の正体とは。そしてこの邸宅との関係はいかに。
次回予告
富士川「次回、『ドキドキ? 共同生活』。男女二人、一つ屋根の下。なにか間違いがないといいがね。あいつが真面目でも、二人きりってのは魔力があるんだ。邪魔されない空間で、ってね」