「白楼高校? ああ、部活、偏差値どれをとってもパッとしない私立高校さ。私立なら綺麗な校舎にエアコン完備、そんで業者が掃除してくれる。ところがこの学校はそうじゃない。古ぼけた校舎にギリギリまで付かないエアコン、掃除は生徒の手で、だ。トイレが綺麗なのはいいがね。
ま、何よりはその居心地の良さだ。特色はねぇが居心地はいい、そういう学校が一つくらいあってもいいんじゃねぇか?」
ー卒業生が語るところによると
私立白楼高校、それが継人の通う学校だ。私立高校といえば綺麗で、エアコン完備というイメージがまとわりつく。だが白楼はそうでもない。
廊下のタイルは割れ、継人は何度かそこに躓いて転びかけたことがある。エレベーターはあるが、必要な生徒しか動かせない様に鍵が付いている。ただ、トイレが綺麗なのはまだ救いである。白楼高校は煌びやかな私立のイメージからはかけ離れた存在であった。
「掃除にも気合が入りますよっと」
割れ窓理論ではないが、洋式がズラッと完備されている綺麗なトイレというのは掃除する気になる。初めから汚いとやる気も失せるというものだ。
洗面台の鏡もピカピカで、制服のブレザーを着込んだ自分の姿がよく見える。
「だいたいこういうとこって目立つとこにこそお金かけそうじゃん? トイレって必然的に後回し感強いし、ここにしてよかった」
「そりゃどうも。天上はトイレ微妙だったしな」
一緒にトイレ掃除をする男性教諭は以前の勤務先のトイレを思い浮かべる。彼は継人のクラス担任、富士川海士先生。メガネを掛けて常に白衣を着ている典型的な理科教師だ。
「しかしお前、トイレ掃除のクジ初めてからここまでフルヒットって! どんだけ運無いんだよ……」
「入学式の翌日から今日が4月の16日だから、10連くらいか?」
話をしながら慣れた手つきで継人はトイレを掃除する。もうあまりにやり過ぎて道具が自分の使いやすいものに切り替わっていた。
「いや良いものですよスクラビングバブルのトイレブラシ。ブラシに雑菌が増殖するならブラシ使い捨てればいいですもんね」
「まぁ確かに楽だけどさ」
富士川は最近、校長に自分の持ち場のトイレが綺麗なことを褒められて困っていた。事の真相が生徒の持ち込んだアイテムだからである。まさかあんまりにもトイレ掃除のクジに当たるから自前の道具持ち出したとかとても言えない。
三白眼の悪人面、ガンダムオタクである富士川が例えに出すなら黒髪のフォン・スパークみたいな顔立ちだったのでどんなやつかと思ってみれば、運がない真面目君だった。笑い方も普通で、顔だけ悪人っぽいのはなんだかかわいそうな気がした。
「さて掃除終わり、帰ろっと」
見事な手際でトイレ掃除を終え、継人は帰り仕度をしに教室へ戻る。大体の生徒は部活に行ったか帰ったかのどちらかであるが、一人だけ教室に残っている生徒がいた。
「あ、級長」
継人はこのクラスの学級長である。彼をそう呼んだのは、セミロングの女の子。頬杖ついた手の指に、休日でしていただろうネイルがほんのり残っているのを継人は見逃さなかった。案外、ラメの粒子とか爪の隙間とか残るのである。
「んん?」
「なんだ、山城、いたのか」
継人は彼女の名前が出て来なかったが、富士川のおかげで思い出す。が、下の名前はまだ出て来ない。
「あー、そうそう。級長、暇?」
「俺はいつでも暇だが? スケジュール帳に何か書いてくれるのか?」
「ていうか今、私の名前分からなかったでしょ?」
カッコいい言い回しで誤魔化そうとしたが、名前のことはバレていた。
「私は山城詩乃。覚えておいて。ついでにインスタグラム登録しといて」
「俺インスタやってねーんだよ」
女子の名前は山城詩乃。継人は忘れない様に念を押して覚えた。要件は不明だが自分を誘ってくれた女子だ。他とはやはり違う。
「聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
「自己紹介の時にさ、ガンプラしてるって言ったよね?」
「言ったな」
「聞いたな」
詩乃は自己紹介での情報を確認した。継人は確かにそう言った。富士川も確かにそう聞いた。
「これの作り方を教えてほしいんだけど」
詩乃が取り出したのは、『HGIBO グレイズ改弐(流星号)』のキットである。半額の値札が貼られている。
「流星号? 半額とかお得じゃねーか」
「そう。買ったはいいけど作り方分からなくて」
「ベアッガイとかじゃなくて流星号なんだ」
だいたい女子が買って作り方に困るのはベアッガイの役割である。が、詩乃は流星号を選んでいる。
「ふぅむ、グレイズ系はいいぞ。使える改造パーツが多い。作り方だが……」
継人としてはガンプラを新しく初めてくれる、それも女子が興味を持ったのは嬉しいことだ。だが、ここで作るとなると設備も道具も無い。
「おう、ちょうどいい場所があるぞ」
困っていると、富士川が助け船を出してくれた。
そのちょうどいい場所というのは、使われていないガンプラバトル部の部室だった。食堂や図書室のある棟の一階、暗い隅にその部屋はあった。
「ここは?」
「ガンプラバトル部の部室なんだが、俺が去年赴任してきた頃には使われてなかったんだ。設備とかガンプラが多いから他の部活にも貸せなくてな。俺が天上でバトル部してたから何とかしてくれと言われててな」
部屋の中に入ると、小さなバトルシステムや作られていないガンプラ、そして作品がたくさんあった。
「お、バトルシステムあるんだ」
継人はバトルシステムに目を向ける。そして、何かを思い付いたかの様に悪い顔をする。
「そうだ、まずこれをやってもらおうかな。楽しみ方を知ってもらおう」
バトルシステムを起動し、継人はアイデアを告げる。
「楽しみ方? プラモって作って終わりじゃないの?」
「まーそれもあるが、ガンプラはバトル出来る。つーか初めてプラモ作るとだいたい面倒になって辞める奴多いからな、モチベアップだ」
完成ではなく別にゴールを持っていくことで、投げ出す確率を減らす算段だった。
「機体はそこにあるのから選ぶといい。壮大な作品は無いから、気負う必要も無いな」
富士川は棚にあるガンプラを指し示す。確かに動かすのを躊躇う様なガンプラは無く、寧ろ戦うために簡素な作りになっている。
「これ、かな?」
詩乃は適当にガンプラを棚から選ぶ。それは『カラミティガンダム』。背中のキャノンが特徴の砲撃機だ。
「ほう、流星号を選んだ奴がそれを、ね」
富士川は意味深なチョイスにニヤけるが、ガンダムに詳しくない詩乃にはさっぱりわからない話だ。
「よし、んじゃ俺はこれだな」
継人が取り出したのは、何だか地味なガンダムである。ガンダムの特徴であるVアンテナは無く、後ろにロッドアンテナが出ているだけ。トリコロールカラーでもなく、灰色のボディは地味の一言。
「ん? それガンダム?」
「改造した機体だからな」
それをバトルシステムに置いて、バトルスタートだ。ホログラムのコンソールが出現し、詩乃は驚いて辺りを見渡す。
「な、なにこれ?」
触って見ても透けるので、背筋に寒気が走る。まるで幽霊だ。
「おおう……なにこれ?」
「黄色のボールがコントローラーだ」
説明され、その黄色ボールに触れてみる詩乃。こっちは触れてまた寒気が走る。
「なによこれ……」
本当にそれしか感想が出ない。タッチスクリーンがやっと普及したところにこういうものが出て来たら当然、こういう反応になる。
バトルのステージはデブリ漂う宇宙。
「佐天継人、ガンダムプレジデントカスタム!」
「え? なにそれ?」
ガンダム始め、ロボットアニメでは当たり前な発信コールも詩乃は初耳だった。とりあえず、ルールなのかと思って真似してみることにする。
「え、えぇと……山城詩乃、これなに? なんか緑のやつ!」
「カラミティガンダムな」
「カラミティガンダム!」
富士川が名前を教えてコールに成功する。
「行くぞ!」
「うわ、なんか動いた!」
そのまま機体が宇宙に投げ出される。普通に動かしている継人に対し、詩乃はまずコントローラーを握ってどうするか分からずにいた。
「何? ボタン無いけどどうするの?」
適当に動かすと、カラミティが彼女の思うがままに動く。まるでコントローラーより詩乃の思念を優先しているようだ。
「え? 何これ何これ? 流星号にはモーターとか入って無かったよ?」
「そ、電源も動力もいらないんだよね」
富士川の言う通り、ガンプラ自体に何も仕掛けはない。本当にシステムだけで動いているのだ。そのためにはモーターも電池もいらない。この周囲に散布されたプラスフキー粒子さえあればいいのだ。
「何そのオバテク。なんで他に流用しないんだろうね……」
絶句する詩乃だが、バトルは始まっている。多数の反応がレーダーに映り、接近を知らせるアラートが鳴る。
「今回はタッグでコンピューター戦だ。安心しろ」
カラミティの横を地味なガンダム、プレジデントカスタムが飛ぶ。武器はマシンガン一つで盾も持たない。代わりにガントレットを両腕にしている。
「私のに比べるとやっぱ地味ね……」
「隠し球あるから」
話していると、敵が弾丸や砲弾を飛ばしてくる。まずは遠距離攻撃だ。まだ敵の姿形すら見えていない距離ではある。
「わ! なんか飛んできた!」
「マシンガンだ!」
咄嗟に盾を構える詩乃。マシンガンの威力はそこまでではなく、防ぐことが出来る。一方、プレジデントカスタムは回避をしている。
「は? それ避けられんの?」
「遠距離からのマシンガンは動けば当たらんもんだ」
色々戸惑う詩乃に富士川がアドバイスを飛ばす。同時に継人の実力も測っていく。
「詩乃、カラミティは砲撃機だ。距離がある今なら有利、ぶちかませ!」
「これかな?」
とにかく適当なスイッチを押す。背中の大砲から、胸から、盾の砲から、バズーカからビームが飛び出す。それはマシンガンの弾丸より明確に空を照らして伸びていく。
「凄い、きれー……」
デブリにぶつかり、爆発が起きる。それをただ見ていた詩乃だが、コクピットにけたたましく警報が鳴り響く。
「何、なに?」
「まだ敵は生きてるぞ!」
攻撃に反応した敵が加速を掛けて、距離を詰めてきた。継人がマシンガンを捨て、プレジデントカスタムの脚から何かを取り出す。
「あ、それってビームサーベル?」
「そそ、隠し球」
詩乃のビームサーベルくらいは知っているらしい。ガンダムにとってはビームライフル以上にガンダムを象徴する武器であり、テレビで軽くガンダムに触れる時も紹介され易い。
「って、なんか来てるよ!」
「敵はザクか」
画面に敵の姿が映り、詩乃は慌てる。縦横無尽に飛び回るその姿は羽虫を思わせ、彼女は砲撃の焦点を合わせられない。
「ちょ、当たらない!」
標準を合わせようにも、似たようなザクが大量におり、どれを自分が狙っていたのかわからなくなる。
「わっ!」
コクピットから必死に覗く画面に、ザクのモノアイが大きく輝く。その時、光が両断され爆炎に変化する。
「距離取れ、このレンジは砲撃機には不利だ。援護する!」
継人が詩乃に迫ったザクを切り捨てたのだ。彼の指示通りに詩乃はカラミティを後退させ、砲撃に有利な距離を取る。
「お、当てやすい!」
大きく動く敵にもレンジが開いていれば僅かに射角をズラせば当たる。逆に僅かな射角のズレで外れてしまうが、そこはガンプラのFCSが補正してくれる。
詩乃に近づく敵は継人が倒すため、砲撃に集中し易いのもあった。が、初心者には動く的を落とすのが難しい。
「動く敵は難しいなぁ……」
「敵の動きを見て、進行方向に標準置いてみろ」
継人はプレジデントでバズーカを構え、スコープの画面を詩乃のコクピットに転送する。
「こんな風にして、着弾のタイムラグを考慮してスコープに被る手前でな」
ザクがスコープに入る前に継人はバズーカの引き金を引く。バズーカの弾頭はビームより遅く敵に向かって飛んでいき、ザクへ命中する。
「なるほどね」
画面もあったおかげで詩乃にも理解出来た。徐々に砲撃の感覚を掴み、命中率も上がる。
「数が減ったな」
「これでラスト!」
あれだけいたザクはすっかり減り、残るは真紅の一機。
「シャアザクかな? かなり早いね?」
「ジョニーだろあれは」
他の機体より速いザクだが、だいぶ慣れてきたのか詩乃は相手の動きを予想して標準を置いて待ち構える。
「あの短時間で移動する的を射抜く基本を習得したか」
これには富士川も驚くばかり。しかもFCSによる補正が強いライフルではなく反動も大きく補正の少ない砲撃だ。素養でいえば継人を軽く超えている。
「ん? これなんか動きが違う!」
最後の1機、ジョニーライデンのザクは詩乃の指摘した通り動き方がコンピューターのそれではなかった。詩乃の砲撃を確実に回避し、反撃にビームバズを放ってくる。
一直線のビームがカラミティを襲う。
「うわっ!」
反射的にシールドを構える詩乃だが、武器の出来栄えが違うのかシールドはビームの照射で徐々に焼かれていく。
「シールド外せ! パージだ!」
継人が詩乃のカラミティを引っ張り、攻撃を回避させる。シールドを外したカラミティは左腕を失うだけで済んだ。
「なにあれ……」
「俺に任せとけ」
コンピューターと実力が違うと考え、継人がプレジデントカスタムを前に出す。接近しつつビームサーベルを振るうが、ジョニーザクはそれを僅かな挙動で回避する。
「サーベルの間合いが図れるだと?」
最小の動きによる回避、つまり即座に反撃へ移れるのだ。ジョニーザクはすぐビームバズーカを放つが、継人もプレジデントの肩スラスターを爆発的に加速させて避ける。
「危な!」
そしてそのまま機体を前に動かす。行き当たりばったりな挙動にもプレジデントカスタムは追従する。
「またか!」
2度目の反撃もジョニーザクは回避。ビームサーベルの間合いは読まれていると見ていい。
「ならよぉ!」
継人はビームサーベルを上段で大きく振りかぶる。ジョニーザクはそこを好機とサーベルの間合い外に出てビームバズをプレジデントカスタムに向けた。
「級長!」
これは詩乃も危険だと感じた。今サーベルを振り下ろしても、ザクには当たらない。一方的にやられるだけだ。
「そぉい!」
サーベルが振り下ろされ、同時にジョニーザクがビームバズの引き金を引く。プレジデントカスタムのビームサーベルは突如伸び、ジョニーザクへ届いたのである。
「ビームジャベリンか!」
富士川は武器の正体に気づいた。初代ガンダムのビームサーベルは原点にして特殊。リミッターを解除することでジャベリンへ変化するのだ。初代ガンダムの型落ちパーツから作られた陸戦型のビームサーベルにも同様の機能があるはず、と継人が付け足しておいたのである。
「セイヤーッ!」
ビームジャベリンの刃がジョニーザクを切り裂き、決着となる。
『battle ended!』
「やった! 勝った!」
バトルシステムが停止し、フィールドが消え去る。他のザクはホログラムだったため姿が無いのだが、ジョニーザクだけはバトルシステムの上に存在している。
「このザクは……」
富士川はジョニーザクに心当たりがあった様だ。そのザクをよく見ると、バーニアにメタルパーツが使われていたりしている。
「このパーツなんか違うよ?」
「メタルパーツだな。金属のパーツってのがあるんだが……」
「プラモデルなのに?」
初心者の詩乃にもパーツの違いがわかった。なぜなら単にメタルのバーニアを取り付けているだけで、質感の差が浮いているのだ。
継人が言葉を濁したのもこの点だ。
「ほら、プレジデントカスタムのバーニア見てみろ。金属っぽいけどこれはプラスチックなんだ」
「あ、ホントだ。塗装剥げてる」
「メタルパーツは素材が違うから上手く塗装で馴染ませないと浮くんだ。せめてバーニアのスス汚れでもあればな……」
対戦を通じ、プラモデルの奥深さまで知る展開になってしまった。
「なんだか難しそう……」
「そんなことないぞ。これなんか説明書のまま組んであるけど、これで結構十分だ」
萎縮する詩乃に継人がある緑の機体を見せる。これは流星号の元機体、グレイズだ。本当に説明書通りに組んだだけの代物だが、アニメから出て来たかの様な姿をしている。
「最近のガンプラは説明書通りに作るだけで十分なんだよ。俺らはそこにプラスしてるけど必須じゃねぇし」
「へぇ」
ガンプラについて和気藹々と話をする継人達、だがそれを影から覗く存在がいることに彼らは気づいていなかった。富士川を除いては。
「富士川先生? 幽霊でもいるんで?」
「いや、何でもない」
その存在は、富士川に気づかれたためその場を離れていた。上履きの色からして上級生だ。
「チッ、バトルシステムが起動した連絡があったから行ってみたら、なんだあいつら……」
実は先ほどのジョニーザクは彼が動かしていたのだ。
「ただの遊び半分の野郎に俺のザクが……。あのプレジデントとかいうの、大会からドロップアウトした落ちこぼれじゃねぇか」
その落ちこぼれに負けたという事実が彼を苛立たせるのであった。ガンプラバトルの設備がある、それはかつて『ガンプラバトル部』が存在した証である。そして、今は使われていないということは……。
@
「あー、久々にバトって疲れた……」
継人はペットボトルのコーラを飲みながら家路に着いていた。イヤホンから流れる曲は最近ハマっているアイドル『マナ&サリア』のアルバムを取り込んだもの。音漏れの少ない密閉型イヤホンが没入感の秘密なのだ。
もう目の前にある大きな邸宅が、今の彼の家である。絵に描いたような豪邸ではないが、大きなガレージに3階建て、地下室付きと日本においては可能な限り豪邸である。
「ん?」
その豪邸の様子は朝と異なっていた。家の前に、金髪の女の子が立っていたのだ。髪は染めたてなのかくすみが無く、背中にも届かないくらいの短さ。服装はジーパンにチェックのシャツと髪に反してオシャレかどうか微妙なラインだった。
「もしかして前の家主に用事?」
継人はイヤホンを外し、臆することなく女の子に話しかける。前の家主、という通り、表札のあった場所にはダンボールに『佐天』と書いてガムテープで貼っただけの簡易表札が付けられている。
「ここなー、前の家主の家族に頼まれて管理してんだよ。ほら、建物って人が住まないと悪くなるだろ? 実家の正面の家もさ、息子世代の為に建てたはいいけどその息子が海外赴任みたいでさ、親がよく来て管理してるよ」
とりあえず世間話から入る。女の子はまくし立てる継人を見ず、家をじっと見ていた。
「なんか処分に困る品も結構あるらしくてな……」
「私は……」
女の子が話し始め、ようやく口を開いたか、と継人は話を打ち切る。その次の言葉は、彼の予想を軽く凌駕してはいたが。
「誰?」
「んん?」
「私は、誰?」
三人の運命が、今日から動き出したのである。
次回予告
詩乃「次回、『ガンプラを作ろう』。ねーねー、見て、今月は佐治晴香さんが表紙飾ってるよ。紫が似合う人って素敵だなぁ……。あ、私はピンクが好きかな?」