ガンダムビルドファイターズプレジデント   作:級長

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 アシムレイトとは、極限ののめり込みである。ガンプラのダメージを自分のものの様に感じ、より人機一体へ近づく方法である。しかし、これは特殊な人間にしか行えず、それ以外の人間はどうあがいても到達できないフィールドである。
 ある例外を除いては。


chapter2
10.アシムレイトの秘密


「新しいポーチ買っちゃった」

「女子か」

 ガンプラバトル部の部室で継人が新しいガンプラ用のポーチを開けていた。これは基本的な工具とバトル用ガンプラを収納できるファイター必携の代物である。なんと仮想国家リヴァティーゾーンの刻印入り。一体そんなものどこで用意したというのか。

「ていうかうちのマーク入りなんて……」

「近くの用具店に在庫が5つ残ってたからさ。一つ貰ってきた。一つどうよ」

 残り在庫4つも継人の手にあり、響と衛士、霞が手を伸ばす。確かに、揃いのチームアイテムは有ってもいいかもしれない。そう考えて先代が作ったものの余りなのだろう。布性だが丈夫そうだ。一方、詩乃は興味無さそうだった。

「私は流星号仕様のがもうあるから」

「なんだ、ちょうど五個でピッタリだと思ったんだが……」

 一つ残ったケースを見て、詩乃は思う。これは何かのフラグなんじゃないかと。一つ余ったケースは明らかに新たな持ち主を待っている。他にもリバティーゾーングッズはあり、マフラータオルからTシャツ、パーカー。これは6つ残っており、詩乃も貰ってちょうど全て一個ずつ余ることになった。

「……フラグ臭い」

 それはさておき、今日の作戦である。ミッションを繰り返して資材は十分にあるので、基礎拠点を今は工事しているところだ。目指すは宇宙進出。そのためのマスドライバーとシャトルが欲しい。と、その前にやることがあったのだ。

「前から近くのバトルシステムのある店をデルタロウ連合のメンバーが占拠していると聞いてね。ボクらで掃討に行こうと思ってたんだ」

「付き合うぞ、響」

 響と衛士はリアル面でのデルタロウ連合掃討作戦を開始することにしていた。リアルでもそんな悪さをしていると聞いて、詩乃はすっかり呆れた。

「暇な連中ねー、デルタロウって」

「うちは真耶さんが見張ってるから占拠できないみたい」

 霞によるとセカンドムーンは被害なし。あの元ヤンみたいな店主を見たらそんな真似する勇気などデルタロウにはないだろう。

「姉さんの店やドルフィンも警戒してるって」

 響によるとあのピザ屋も協力してくれているらしい。要するにリアルでの練習場所を奪ってしまう作戦、これはくだらないが見過ごすわけにはいかない。

「継人はいかないの?」

「いや、今日は人を待ってる」

「そう」

 響に聞かれ、そう答える継人。そんなわけで二人は作戦に出かける。これで結構久しぶりに詩乃、霞、継人の三人だけになった。

「そういえばこの三人だけって久しぶりだよね」

「衛士と響も入ったしな」

 詩乃が感慨深そうに語っていると、響達と入れ替わりに部室へ誰かが入ってくる。富士川先生かと思って見てみると、どうも違う。継人に微妙に似た人物がそこに立っていた。継人を少し幼稚にした感じの人物、これが継人のいう待ち人なのだろうか。

「そろそろ来る頃だと思っていたよ、経」

「はーん、兄弟ってことね」 

 突然の来訪にも継人は冷静だった。この行動を読んで、ここに残ったのだ。その様子を見て、詩乃もこの二人が兄弟であることを察知する。

「兄がいつも迷惑をかけてるな」

「そう思うんならアポくらいとりなさいよ」

 継人の言いようからアポなし訪問であると読んだ詩乃はそう答えた。確かに、詩乃や他のメンバーが経の来訪を知っていた様子は一切ない。兄の継人さえ推測で動いている。

「アポというのは目上の人間に取るものだ。君らはこちらの都合通り動けばいい」

「生意気なガキね……」

 突然の上から目線に詩乃は苛立つ。あの大人しい霞も、少しムッとしていた。

「生意気な弟ですまない。人間、挫折らしい挫折がないとこうも傲慢になるもんだな」

「挫折など、俺とは最も程遠い言葉だ。俺は失敗しない。敗北もな」

 相当傲慢な性格な様で、継人も手を焼いていた。実際、バイトの度に大規模な失敗ばかりしている継人と、黒曜の制服を纏う経では育った環境も経験も異なるだろう。

「黒曜の生徒か……あんた、恥ずかしくないの? 黒曜は腕を無くしたってだけで響を退学させたんでしょ。そんな学校いたらあんたもいつか捨てられるよ?」

 詩乃は経を挑発する。しかし、彼は余裕な態度でそれを受け流す。

「そんなことに恐怖するほど脆弱な精神ではないさ。彼のことは残念だったが、理論上最も事故を起こさない乗り物で事故を引き当てる程度の運で日本を引っ張るエリートは務まるまい」

「こいつ……!」

 詩乃は拳を鳴らして牽制する。こんなのが日本を率いたら、とんでもないことになってしまうと頭のよくない詩乃にもそれだけは理解できた。ここで潰すのが一番だ。

「ふん、高校時代という貴重な三年をガンプラバトルとかいうお遊びに逃げているようでは将来が危ういぞ?」

「こいつ処す? 処す?」

 詩乃がどこぞのクソアニメばりのキレ具合で飛び掛かろうとするのを継人が制する。相手がポプちんなら数回は死んでいるだろう。

「ステイ。二十歳までに性格が直らないようなら知り合いのハートマン軍曹に頼んで根性叩き直してもらうから」

「あんたの交友関係どうなってんのよ。流石プレジデント」

 プレジデントというだけあって、その手の縁は手広い。といってもアメリカ静養で得た人脈が今は殆どであるが。

「知りたいか? 話せば長くなるが、この四年間ホワイトハウスを顔パスで通れる日本人は俺くらいなもんだぜ」

 プレジデント、そう名乗り始めたのはある人物の影響があった。その人物が今大統領をしており、メル友でもあったりする。

「あんた英語話す方めっちゃできると思ったらそういうことだったのね」

「ふん、日本の田舎者が侵略者の王を気取るか」

 そのプレジデントという呼び名が経は気に入らなかった。単純になんで日本人なのにプレジデント? という疑問もあるだろうが、残念ながらプレジデントは大統領以外にも社長などの意味も持つ。もちろん、学級長はclass presidentだ。

「立場じゃねえんだよ、大統領魂はな」

 だが、立場と大統領魂は関係ない。それは彼が常々言っていることだ。

「そんなことはどうでもいい。アシムレイト脳症の件で両親からガンプラを禁じられていただろう、お前は」

「だから? 禁止されたくらいでやめるほどやわじゃねーよ俺は」

 そういえばそんな話もあったなあと詩乃は思い出す。だが、アシムレイト脳症というのは初耳であった。

「アシムレイト脳症? ただのアシムレイトじゃなくて?」

「そうだ。アシムレイトとは選ばれた者だけが到達できるゾーン。それをこいつは侵したのだ。その結果、アメリカで脳の治療を受けることになった」

 富士川も継人がアシムレイトを発動することをあまりよく思ってなかった。それは、本来使用不能の特殊能力を無理矢理使っている弊害があるからだったのだ。

「へん、そんなアシムレイトなんざもう必要ねーっての」

「ならばここでその証拠を見せてみろ」

 経はガンプラを取り出す。ジャイアントバズに全身のヒートダガー、イフリートシュナイドである。継人もガンダムプレジデントカスタムを取り出し、フィールドに乗せる。

『please set your ganpur!』

「佐天継人、ガンダムプレジデントカスタム!」

「佐天経、イフリートシュナイド」

『battle start!』

 フィールドは両者に有利な荒野だ。フィールドに飛び出したプレジデントカスタムは手にしたビームスピアを収めると、両手にビームサーベルを構える。

「悔しいことに経は本物の天才だ」

「で、どうすんの?」

 継人は常に経と比べられて生きて来たからこそわかる。まともにやり合えば間違いなく才能の差、その一言で片づけられてしまうことに。詩乃は継人が何をしようというのかが読めなかった。

「だが、神童も二十過ぎればただの人という言葉もある。分かりやすく言えば……」

 飛んできたバズーカの弾を、プレジデントカスタムはビームサーベルを振り回してガードする。

「凡百の天才と呼ばれる存在は人より正解を嗅ぎつける嗅覚が鋭く、それを実行できるセンスがあるだけだ。だから機体さえ読めれば戦術が容易に読める」

 バズーカの弾が様々なバリエーションで飛んでくるが、それを全て継人はサーベルで叩き落とす。するとバズーカの弾が切れたのか、バズーカを捨ててヒートダガーで接近戦を仕掛けてくる。そこでプレジデントカスタムもスピアに持ち替えて応戦する。

「クソ! なぜ勝てない!」

「経験値の差だよ坊や」

 スピアとのリーチ差で、イフリートは攻めあぐねていた。片や連邦最大レンジを誇る近接装備、片や急場しのぎのジオン兵が容易した短い剣。才能の差を経験と戦術で埋めてしまったのだ。

「ガンプラバトルはよーいドンで始まるかけっこや試験じゃねーんだ。だからお前は俺に勝てない!」

 遂にイフリートの右腕が切り落とされる。が、その時プレジデントカスタムを掴む腕があった。経がなんと直接バトルフィールドに手を突っ込んでプレジデントカスタムを掴んでいたのだ。

「勝負ならくれてやる! だが、ガンプラは没収させてもらう!」

 そしてそのまま走り去ってしまう。だが継人は追いかけない。

「あんにゃろ! 待て!」

 詩乃が追いかけようとすると、継人が止める。

「待て、これでいい」

「継人?」

 ガンプラを奪われたのに、全く抵抗しない継人に流石の霞も不信感を抱く。何が狙いだというのか。

「負けそうになると盤面をひっくり返して無かったことにする。そうやって奴は挫折から逃げてきたんだ。だからこの行動も予想済みだよ。おかげで本命本元のアストレアは無事だ」

 なんと、この行動も読んだ上で敢えて継人はプレジデントカスタムを出してしたのだ。

「さて、これで面倒が片付いてくれればいいのだがね」

 継人は一応目の前の問題を片付けたものとして数えることにした。しかし、まだ強敵デルタロウ連合が目の前にそびえている。そちらとどう戦うのか、それも考えなければならない問題だった。

 




 継人「次回、『基礎拠点を守れ!』。……ってあの野郎まだ弾残してやがったのか。上等じゃねーか、やってやるよ、徹底的にな」

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