『ガンプラとは』
ガンプラとは、テレビアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するメカニックをプラスチックモデルにした玩具の総称である。ガンプラが発売された当時、ロボットの組み立てキットはアニメに無かった遊べるギミックを足すことが多かったが、ガンプラは徹底して設定通りのスタイル再現にこだわった。
静岡の工場で国内生産され、そのコンテンツ力を頼みに大量生産販売することで価格を抑え、接着剤も塗料も使わずに設定通りの姿を組み立てるだけで手に出来る。
近年はプラスフキー粒子を用いたシステムでバトルするという楽しみもある。
プロローグ 運命の交差点
今日は休日である。岡崎市内のデパートには多くの家族連れがいる。特にオモチャ売り場は顕著で、玩具野郎が見たら鼻で笑う様な品揃えでも人がごった返す。
「あー、ツイて無いなぁ」
棚の一角を見て、ため息を吐く人物がいた。そこは今噂のハンドスピナーコーナーであるが、商品がすっからかんである。そもそもコーナーという表現すらおこがましい、申し訳程度のスペースである。他の売り場に前年の仮面ライダーのオモチャが定価で置かれている時点でデパートのやる気は推して知るべし。
「届いてない新聞自分で取りに行く羽目になるし、喫茶店はなんか休業だし、ハンドスピナーは無いし……」
10代前半の女の子がスマホを弄りながら棚を見ている。背中まで伸ばした髪は黒で、薄茶のキャスケットがその上に乗っている。デニムのスカートにロング丈のアウターとオシャレに気を使っているらしい。
「参ったなぁ……」
スマホを掴む手指はラメの入ったピンクのネイルに飾られている。その人差し指が画面を叩き、今の心情をネットの海に投げ込む。
「何処かに無いかなぁ? 多箇所展開ってよく聞くし」
女の子は他の売り場を探した。とはいえ、猫の額より狭いスペースしか与えられていないハンドスピナーにそんな業界用語は許されておらず、やはりない。
「ん?」
その時、彼女はワゴンに目が止まった。ちゃんと管理されていないのか、一時流行った様な缶バッチメーカーが箱も色褪せて放置されている。妖怪メダルもいくつか無造作に突っ込まれていた。
その中に比較的新しい箱が混じっていた。多くは車のオモチャやヒーローのプラモデルらしいが、異彩を放つものが一つあった。
「なにこれ? ロボット?」
それはピンクのロボットである。運びからしてプラモデルの様だ。ロボットである、が頭部にらまるで何かのキャラクターめいて目が描かれている。
「グレイズ……流星号?」
パイロットと思わしき人物の顔と、機体の名前も箱に記載がある。それはともかく、とにかく『ビビッと来た』のである。
「え? なにこれ可愛い!」
半額になっており、定価にしても買おうとしていたハンドスピナー以下。ちょうど喫茶店にも行かず、お金は余っていた。
女の子はそれを迷わずレジへ持っていく。家で箱を開けて後悔することになるのだが、この流星号が彼女を波乱ながら楽しげな運命に巻き込むのであった。
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「えー、新聞配達をしていたら突然自転車が燃えた、と?」
住宅街は騒然としていた。原因は焼け焦げた自転車。そこには多数の新聞が散らばり、今も燃えている。
「ええ、配達の人が消火器借りに飛び込んで来て。消火器代もくれないし、最近新聞も日付すら間違えるし、取るの止めようかしら。ガス系の消火器高いんですよ!」
「それは新聞屋に言ってください」
警官に事情を聞かれている主婦はそうボヤくが、それは警察の管轄外。そして配達の人も他の警官に話を聞かれている。
「あ、君は……」
三白眼の悪人面を見て、警官は声を上げる。そう、やけに見覚えがあるからだ。
「この前のコンビニ強盗とバスジャックの……」
「あ、こないだとこないだはどうも」
「終わりました……あ! 君はこの前のマックの火事の……」
主婦から話を聞き終えた警官もやってきて、見知った人物である事に驚く。
「知ってるのか?」
「先輩こそ!」
配達の人物は警官の中でも有名な様で、偶然やってきた警官二人が彼を知っていた。
「佐天継人くんだね。確認のため身分証見せてくれるかな?」
警官はそういいながら、とても初見では書けないだろう彼の名前を書類に書き込む。読むのも難解だろうが、それも間違えずフリガナに記載する。
「自分が犯罪やってないのに警察に覚えられるって相当だよ?」
「あんまりにも事件に巻き込まれるんで、実は通りすがりの仮面ライダーとかまだ合流出来てない戦隊の六人目なんじゃないかって署では噂だよ」
「そうですか」
配達の人、継人は慣れた様子で高校の生徒手帳を見せる。オフでも高校生にとって唯一の身分証を持ち歩く辺り、本当に慣れている様だ。
「えっーと……」
継人は何かを指折り数えている。
「あいつら何人いたんだ? 少なくとも六人目じゃねぇな……」
「ん? どうした?」
「いえ、何でも」
何だか不穏な物を感じたが、警官は管轄外だとスルーを決め込む。
「でも消火器借りた家、現場から随分遠いね」
警官は自転車と主婦の自宅を見てそう呟いた。それについては継人にも考えがあった。
「ええ、配達用の自転車が電動なので。それに発火元が購読の返礼に付けてる電池式の電気ヒーターかもしれなかったので水系の消火器だと感電するかもしれなかったんですよ。粉末系でもいいんですけど、消火器借りる時に中身確認できないんでガス系探した方が早いというか」
警官は常軌を逸した返礼品に苦言を呈する。
「電気ヒーター? そんなもん返礼にしてたのか、タオルとかじゃないんだ」
それが発火元となれば、下手すれば各家庭のポストで発火していた恐れもある。これは実際テロでは? 警官は訝しんだ。
「最近、購読数落ちて必死なんですよ。ま、タオルより豪華だぞーってするためのハリボテなんで事故は起こるべくして、ですかね。自転車の点検も不足の様でしたし」
「よくガス系の消火器がある家探したね」
「ほら、電線見てると何となくあの家違う感じしたんで、なんか家に普通無い様な精密機器あるんでしょうねって」
継人がドヤ顔で説明しているが、警官はある事に気付いた。
「バッテリー式でここまで燃えたらもうそれは通電してないから感電の可能性はないのでは?」
「あ」
そう、バッテリーまで黒焦げレベルで燃えたらもう電気は通ってないのである。なのでバッテリーそのものの爆発という危険こそあれ水系消火器でも感電しないのではないだろうか。そもそも消火器で感電する可能性はかなり低い。
「そうそう、君。この前コンビニ強盗の拳銃に『本物の拳銃にゲート跡があるか』とか言って撃退したよね?」
「ええ」
「あの拳銃本物だったよ」
「えー……」
今回といい、前回といいイマイチ決まらない継人。頭を抱えていると、ふと視界の隅に金髪の女の子が映った。
彼女はぼんやりした様子でそのまま現場を通り過ぎる。継人はただ、不思議な子だなと思ってそれを忘れた。
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気付いたら、自分が誰なのかわからなくなっていた。
名前が思い出せない。自分はどんな名前だっただろうか。苗字も出て来ない。一文字も、自分の名前が頭に浮かばない。
何処から来たのか分からない。ここが何処なのかは分かる。岡崎市内。だが自分がここに住んでいたのか、なぜ知っているのか分からない。
自分が誰なのか、全く分からない。何故こんな大荷物を持ってここにいたのか、見当が付かない。
世界が五分前に誕生したという哲学がある。それと同じで自分が五分前に突如、ここへ沸いたと言われても信じられる様な気がした。
知っているかもしれない道を宛てもなく歩く。なんで知っているのか分からない道、本当は知っているかさえも怪しい道だ。
自転車が黒焦げになっている光景も、異様な物に見えなかった。この町ではこれが日常だと言われればすんなり信じられそうだった。
「私は、誰だ?」
そのまま歩き続ける。既に自分の運命とすれ違っている事にも気づくことなく。
マテリアル:2
開放条件:プロローグのクリア
『ガンプラバトル』
ガンプラ同士を戦わせる次世代のホビー。それがガンプラバトル。ガンプラ自体に動力があるわけではなく、人の想いを叶えるプラスフキー粒子によって動いている。そのためバトル用にガンプラを改造するのは容易。しかし完成度が高くないと自分の思った様な性能にはならない。
世界大会が開かれ、日本では学生大会も開催されている。