託された力   作:lulufen

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[壁]_・)

((;・-・)こそこそ
         ___
(ノ・Д・)ノ ⌒ .、ノ__ノ 

ヾ(・□・;;)ノ≡3≡3




第50話 争奪戦の勝者は・・・

 加勢に来たプッシイの二人を尻目に息を整えながら周りを見渡す

 

 大量の短剣を寄せ集めた大剣を振り回すトカゲ(ヴィラン)に対して、虎は右へ左へと避けながらカウンターで打撃を加えている。

 また、大きな鉄塊を担いだオカマ(ヴィラン)はマンダレイのヒット&ウェイに翻弄されて有効打が決まらず、逆にマンダレイは着実に攻撃を加えている

 プロが順調なのに対して雄英生徒組は逆に押されている

 

 女子高生(ヴィラン)は麗日さんがガンヘッド仕込みの格闘術で攻め、梅雨ちゃんがそのサポートとなっての2対1で押さえ込んでいるが、武装済みの(ヴィラン)相手に無手で戦闘服なし、しかも相手は戦闘経験が豊富となるとあまりにも分が悪い

 メインアタッカーの麗日さんに大きな外傷こそ見えないが小さな切り傷が目立ち、サポートとしてで中距離で牽制していた梅雨ちゃんに至っては左肩から血を流して青い顔をしている

 

 また、轟君の兄弟らしき炎(ヴィラン)は障子君と常闇君、轟君が対峙しているが、肉弾戦がメインの障子君は与えるダメージよりも炎による被弾が目立っている。

 光源が弱点の常闇君は黒影(ダークシャドウ)が怯んで攻勢に出れず、放心状態からは回復したものの動きがぎこちなく、何時もなら回避できたであろう攻撃も避けられない轟君のカバーに回るはめになっているので押され気味である

 

 そんな中、脳無はどういうわけか微動だにせず棒立ちで、その肩に奇術師(ヴィラン)が座ってジャラジャラと音を立てながらガラス玉を玩び、全身タイツの(ヴィラン)はその(かたわ)らで騒いでいる

 

『今すぐあのふざけた仮面野郎に拳を叩き込んでかっちゃんを奪還すべきだ!』という考えと『まず各個撃破して形勢建て直すべきだ』という考えがせめぎ合っているが、焦る気持ちを押し込めて『まず各個撃破して形勢建て直し』を選択する

 

 自分自身もターゲットである以上無闇矢鱈に挑んでもリスクだけが上がるだけで意味がない

 まずは味方の援護に周り、劣勢を強いられている味方の立て直しを図るべきだ

 

 [怪力]

 [剛力]

 [剛腕]

 [鉄腕]

 [筋力増強(パンプアップ)]

 [筋繊維強靭化(ビルドアップ)]

 [炭素硬化(ハードクロム)]

 [(パワー)]

 [金剛石]

 [脚力強化]

 [鬼]×3

 [ズーム]

 [筋繊維超増強(ハイマッスルボディー)]

 [自己治癒(セルフヒール)]

 

近接戦闘(タイプ:マーシャル)

 

 下半身は足、特に脹脛(ふくらはぎ)から太ももを中心に[筋繊維超増強(ハイマッスルボディー)]で増やした筋肉を纏わせ、上半身はアシストスーツの要領で関節部を中心に張り巡らせ、通常よりも弱く薄く[自己治癒(セルフヒール)]を発動させ可能な限り継続戦闘能力を向上させる

 

 前方に跳躍し、虎に襲いかかっているトカゲ(ヴィラン)目掛けて[ジェット]による加速と体重を乗せた踵落としを叩き込み、接触と同時に[雷]で感電させ、地面に倒れたところで[操土]で茨の様に幾重にも返しの付いた槍で四肢を貫くようにして(はりつけ)にする

 

 続けてマンダレイと対峙しているオカマ(ヴィラン)に急接近して顎目掛けて右の掌底を放つが寸前で手首を捕まれ止められてしまった。

 だが右はフェイントで本命は左だ。

 余程訓練していなければ人は視覚で得た情報で判断する。それが咄嗟の判断を要する場合、その他へ割いていた意識が一旦途切れる

 掌底を防ぎ、余裕の笑みを浮かべているオカマの太腿へ左手の硬化させた五指を突き刺し、右掌から特大の[爆破]を発生させてから左腕で振り回す様に数度地面に叩きつけてから跳躍し、トカゲ(ヴィラン)を叩き潰すように上からオカマ(ヴィラン)を投げつける

 

 着地と同時に追加でトカゲ(ヴィラン)と同じく[操土]で四肢を串刺しにして地面に(はりつけ)にした

 

 仮に動ける様になったとしても両腕両足がズタズタになっているはずだから再び参戦するのは難しいだろう

 

 次いで周囲に目を走らせれば麗日さんが女子高生(ヴィラン)から距離を空けたのを確認したので、[(スピード)]で即座に接近して[雷]で帯電した状態で頭部を掴んで感電させて体の自由を奪い、更に接近時の勢いのまま木に叩きつけて意識を刈り取る。そして頭を掴んだまま地面に叩きつけてトカゲ(ヴィラン)達と同じように地面に(はりつけ)にする

 

 丁度、真正面に炎(ヴィラン)が居たので地面を砕く勢いで踏み込み跳躍、常闇君を焼こうとしている炎(ヴィラン)に飛び膝蹴りを叩き込み、同時に[仮初めの贈り物(トランジェント・ギフト)]で[氷]を付加して炎の封印を図る

 

 噴き出していた黒と蒼が交じり合った炎が一瞬鎮火したが、直ぐに勢いを増して噴き出した特大の黒炎で反撃されて炎に包まれ肌がチリチリと焦げる

 

 クソ!蒼と黒の炎は別かよ!!

 

「っ!」

 

「ネホヒャン!」

 

 黒炎で視界が塞がれている中、悪寒を感じて反射的に高く飛び上がると棒立ちだったはずの脳無が背中から触手と共にチェーンソーやのこぎりなどを生やし、今まで僕がいた場所を切り払っていた

 

 即座に[鎌鼬]を乱雑に放って触手を切り刻み、着地と同時に再生し始めた触手と共に両腕と両足を切り飛ばし[操土]で地中に引きずり込んで圧縮

 

「うおおおぉぉおおお!!」

 

 いざ奇術師(ヴィラン)へ向かおうとしたところで突如横から巨大な岩が現れ、[反射]で弾くがその陰からもう一つの岩が現れた

 一つ目を無理な姿勢で弾いたため即座に二つ目を弾ける姿勢になく、別の方法で破壊するか又は回避するかを判断する前に間に割り込んだ虎が雄叫びと共に受け止めてくれた

 

 虎が岩を抑えている間に[ジェット]と[爆破]による立体軌道で奇術師(ヴィラン)からの攻撃を交わしつつ接近し、顔面を掴んで[雷]で感電させる

 

 奇術師(ヴィラン)の懐からかっちゃんを取り戻そうと腕を伸ばしたところで嫌な予感がし、咄嗟に目を瞑ると奇術師(ヴィラン)が突然膨張し、閃光と鉄片を撒き散らしながら爆発した

 

 複製体だったか!!

 

 背後から聞こえる甲高い音に[ジェット]で上空へ飛び上がるが脹脛(ふくらはぎ)付近の[筋繊維超増強(ハイマッスルボディー)]が削り取られバランスを崩した

 

 慌てて視線を向ければ、地中に引きずり込み且つ周囲を高圧縮したにも係らず、当たり前の様に抜け出した脳無が再生した触手から凶器を生やし振り回していた

 

「虎さん!」

 

「セイヤァ!!」

 

「ホヒャ!!?」

 

 ただ、僕に攻撃している隙を麗日さん達が突いて無重力としたことで、空中にプカプカと浮きながらジタバタともがくように暴れている

 更に虎が下から掬い上げるように拳を叩きつけて上空へ打ち上げた

 いくら強力な再生能力と凄まじい膂力を持っていても宙に浮いたままでは意味がないだろう

 

 [筋繊維超増強《ハイマッスルボディー》]で増えた筋肉に痛覚がないことに加え[金剛石]で硬くなっていたことが幸いして自前の筋肉にはダメージはないが、時間経過と共に形勢は不利になっていく一方

 トカゲ(ヴィラン)とオカマ(ヴィラン)、女子高生(ヴィラン)は戦闘不能。

 特に四肢を串刺しにしたから意識が戻っても戦線復帰は不可能

 炎(ヴィラン)は無力化こそできなかったが弱体化しているはず

 知能こそないが再生能力と怪力が厄介な脳無は麗日さんが封じてくれている

 全身タイツ(ヴィラン)は戦闘らしい戦闘はしていない為【個性】は不明だが、複製体が幾度となく現れたので、恐らく[増殖]や[複製]と言った数を増やす類の【個性】だと思う

 これで複製可能上限や複製条件が難しければいいが、B組の物間君や心操君の様に発動条件が容易だった場合は最悪だ

 そして奇術師(ヴィラン)は相変わらず無傷でこちらを挑発するようにジャラジャラとガラス玉を鳴らしている

 

 対するこちら側は、弱体化しても未だ強力な炎を操る炎(ヴィラン)に対し劣勢を強いられている障子君・常闇君・轟君

 そして早々に撃破したオカマ(ヴィラン)とトカゲ(ヴィラン)を相手取っていたプッシイの二人は劣勢の障子君たちに加勢しているが、基本的に攻撃手段が近接の為なかなか決定打を放てない

 麗日さんと梅雨ちゃんは女子高生(ヴィラン)が戦闘不能になってからは、麗日さんは脳無の無力化に回り、梅雨ちゃんはその護衛に回っている

 ただ、麗日さんの【個性】は長時間の使用は厳しかったはずだし、梅雨ちゃんは刺し傷からの出血が心配だ

 

 残る(ヴィラン)は奇術師と全身タイツ

 複製体で疑似的に増援を作られる前に全身タイツ的を無力化しなければならないが、予想が正しければ(ヴィラン)が撤退するときはUSJ襲撃の際にいたワープゲートのモヤモヤ(ヴィラン)が現れるはずだ

 

 奇術師(ヴィラン)が連絡を取ってから時間も経っているからいつ来ても不思議じゃない

 

 つまり早急に奇術師(ヴィラン)を無力化しなければならない

 

 再び状況の確認をしていると奇術師(ヴィラン)が無数のガラス玉を無造作に投げつけてきた

 

 ピキッ

 

「っぎ!!?」

 

 投げられたガラス玉が砕けて現れた降り注ぐ氷塊を避けるべく足に力を入れた途端、耐え難い激痛が走りその場に倒れ込んだ

 

「グォォォオオオ!」

 

「大丈夫か!緑谷!」

 

 あわや直撃かというところで常闇君が間に割り込み庇ってくれた

 

「ごめん、ありがとう!」

 

「ソンナノ効クモンピャア!炎ハ反則ダヨ・・・」

 

 黒影(ダークシャドウ)が防いでくれている間に常闇君に肩を借りて木の陰に移動すが、その間にも足のみならず腕や肩等徐々に悲鳴を上げる箇所が増えてきている

 

 発動していた[自己治癒(セルフヒール)]を強めて回復を図るが、完治するまで悠長に休んでいられない

 

 筋肉(ヴィラン)と対峙したときに無理したのが今になって祟ってきた

 元々限界以上の強化による自壊を疲労と引き換えに[自己治癒(セルフヒール)]で軽減しているだけで、時間経過とともに蓄積された負債により体にガタが来る『一時的平和の英雄化(リミッテッド・ピースヒーロー)』を短時間とはいえ使用し、その後も休む間もなく戦闘が続いているため想像より早くガタが来ていたようだ

 

 これ以上の戦闘は避けるべきだが、(すなわ)ち奇術師(ヴィラン)からかっちゃんを奪還することなく取り逃がすことになる

 

 加えて奪還するにしても何時ワープゲートの(ヴィラン)が現れて逃げられるか判らないという時間がない中どうにかしなければならない

 

 このままかっちゃんが連れ去られるのを眺める羽目になる位なら一か八か行動不能になる前提で突っ込むっきゃない!

 

全身(オーバー)・・・過剰強化(フルブースト)・・・」

 

 全身に力が漲り始めるが比例して至る所に激痛が走る

 

[痛覚鈍化(アドレナリンドープ)]

 

 絶え間なく全身を襲っていた痛みが感じなくなっていき、比例して周囲の音が小さくなり代わりに心音だけが耳元で響いている

 

一時的平和の英雄化(リミッテッド・ピースヒーロー)!!」

 

 こちらが攻勢に出たのを察してか先ほど掌で弄んでいたガラス玉をばら撒くと様々な姿の脳無が数十体現れた

 

 脳無相手にあまり時間を割けない為、一撃必殺ならぬ一撃必倒で撃破していくが、脳無に掛かり切りになっている隙を突いて死角から脳無を巻き込みながら黒炎が迫ってきたり、氷塊や岩が脳無の影から襲ってきたりと余りにもこちら側の手数が足りない

 

 視界の端に黒影(ダークシャドウ)を従えた常闇君を捉え、彼の【個性】に[鬼]を混ぜれば即戦力となるのではと即座に[氷]と[操土]で脳無との間に壁を作り出すと急いで常闇君の元へ向かう

 

「君の【個性】を貰うよ」

 

「え?」

 

 突然の目の前に来た僕に戸惑う常闇君を余所に、常闇君の頭を引き寄せ額を会わせた

 勢い余って頭突きになってしまった気がする

 

 ー 覚えた ー

 

 [黒影]

 [鬼]×3

 

 影世鬼形誕(えいせきけいたん)

 

 独りでに影が波打ち、のっぺりとした平面だった影が形を変えながら立体になり、大きな角を携えて赤い眼を明滅させながら僕の横に現れた

 

 差し詰め[影ノ鬼(シャドーオーガ)]といったところか

 

 [影ノ鬼(シャドーオーガ)]は明滅させていた赤い眼を一際強く輝かせると三日月の様に歪ませ、わらわらと湧き出るように追加される脳無へと躍りかかった

 

 嬉々として暴れだす[影ノ鬼(シャドーオーガ)]と共に脳無を撃破していく

 

「お待たせしました」

 

「お!グットタイミング!」

 

 しかし最後の脳無を撃破したところでワープゲートの(ヴィラン)が現れてしまった

 

「行かせるか!!」

 

 逃亡を阻止するべく氷塊に土槍、雷撃、鎌鼬に影の鬼と手当たり次第に放ち、自身も幾度となく襲い掛かる

 

「どうする?サブは捕まっ!えたけど!メインっ!は!暴走してて手が出せないけど!?」

 

「仕方ありません。彼だけで我慢しましょう・・・皆さん撤収です」

 

「おいおい良いのかよメインがまだだぜ?早く帰ろうぜ!」

 

「仕方ありません。これ以上長居してはヒーローの増援が来てしまいますからね」

 

「あいよっと、人質バリア!」

 

 逃がしてなるものかと攻勢を強めようとした時、首を掴まれたかっちゃんが奇術師(ヴィラン)の手に現れ盾とされた

 

「かっ・・・!!」

 

 このまま放てば盾にされているかっちゃんに直撃すると氷塊や雷撃を放つのを止めたが、こちらの制御を振り切って構わず襲い掛かる[影ノ鬼(シャドーオーガ)]対して強引に干渉して無理やり攻撃を中止させる

 

 [影ノ鬼(シャドーオーガ)]を止めているその僅かな隙を突いてワープゲートに奇術師(ヴィラン)が飛び込もうとした時、横から光線が放たれ奇術師(ヴィラン)に直撃した

 

 これによってかっちゃんは解放されたが、直ぐに別のワープゲートの中から現れた炎(ヴィラン)によって捕らえられしまった

 

脳みそがむき出しで異形の姿にされたかっちゃんが虚ろな表情で立ってる姿が脳裏をかすめた

 

「デク!来るな!」

 

「痛ってぇなぁ・・・くそ!」

 

「最後の最後にへま踏んでんじゃねえよ」

 

 捕らえられたかっちゃんが炎(ヴィラン)から奇術師(ヴィラン)の手に再び渡ろうとする前に全力で奇術師(ヴィラン)へ[鎌鼬]を無数に放った

 

「轟君!」

 

 直線上の木々や地面を細切れに切り裂きながら突き進む無数の真空の刃は、直前に避けられたことで奇術師(ヴィラン)へ傷を負わせることはなかったが、先ほどとはややずれた位置から放たれた光線が炎(ヴィラン)を背後から襲い、かっちゃんが再び宙へ放り投げられた

 三度奪取される前に飛び上がり、かっちゃんの奪還に成功した

 

 しかし無理に無理を重ねてボロボロなのに更に無理やり動いた反動で全身に力が入らなくなり、このままでは敵陣のど真ん中に倒れ込む形になってしまう

 

「ごめん!」

 

 このままでは奪還したかっちゃん諸共捕まってしまうと掴んだかっちゃんを[爆破]で轟君達の方へ吹き飛ばす

 

「後は頼ん――」

 

「デ――!!」

 

「メインゲット!撤収!撤収!」

 

 周囲の空間が歪み、体が縮む様な感覚と共に意識を失った

 

 ―—――――――

 

『やあ、お帰り』

 

 開闢行動隊がアジトに戻ると古びたブラウン管テレビから声がした

 

「ただいま戻りました」

 

「ふぅー!体がバッキバキで超体が軽い!」

 

「テメェは殆ど動いてねえだろ」

 

「あーあー!そんなこと言っちゃう!?止まってたし!ものすごく静かに止まってたし!」

 

「五月蠅いです」

 

「お!トガッチ目ぇ覚めた?」

 

「なぁなぁ、マグ姉達を医務室に連れてったらもう帰っていい?飛んで跳ねてもうクタクタよ」

 

「ええ、構いませんよ。マグネ達の治療はこちらで手配しますので今日はゆっくり休んでください。こちらの準備が出来次第またお呼びします」

 

『なら地下のメディカルポットを使うといい』

 

「アイアイサー!あ、忘れないうちに。ほいよ、メインターゲットのもじゃもじゃ君だ」

 

 コンプレスが指を鳴らすと掌に乗せたガラス玉が割れ、意識を失った緑谷が現れた

 

 念のためにと意識を失ったままの緑谷の四肢を縛り上げ黒霧へ渡す

 

「一丁上がりってね」

 

「ありがとうございます」

 

「ねぇねぇ!その子ってやっぱ仲間になるの?なるの?真っ赤で傷だらけでとっても素敵!もっと血だらけにしたらもっと素敵になると思うの!浅く斬って滲み出る血を舐めるのもいいし、ザクって斬ってドクドク溢れ出す血を啜るのももいいし・・・あぁ、イイ・・・素敵・・・」

 

 コンプレスの手元に緑谷が出現した途端、先程まで気だるげだった渡我がトゥワイスの背中から乗り出す様にして緑谷の額から垂れる血を触ろうと手を伸ばしている

 渡我が動く度に緑谷によって着けられた四肢の傷口から血が溢れ出し、トゥワイスの背とアジトの床を赤く染めていくが当の本人は気にした様子もなく恍惚とした顔で緑谷を見つめている

 

「ちょ!トガッチ!重症何だから動いちゃマズイって!俺の一張羅が真っ青に染まっちゃう!」

 

「はぁ・・・一応は仲間にする予定です。これ以上傷つけるのはだめですし、貴女の方が血だらけ傷だらけですよ」

 

「ちぇー」

 

「では解散してください」

 

 そして開闢行動隊のメンバーが次々と立ち去っていく中、黒霧一人はその場に残る

 

「所で先生、いくら時間が経過したからと言ってメインターゲットの彼を放っておけなど、何故です?・・・結果的にはこうして捉えることができましたが・・・」

 

 誰も居なくなったアジトで一人、古びたテレビに話しかける

 

『大丈夫。捕まえることができなかったとしても必ず大切な幼馴染の為に向こうからやって来たさ。何せ彼はヒーローらしくなければならない(・・・・・・・・・・・・・・・)からからね。友を見捨てるなんてヒーローらしくないことは選択しないだろう』

 

「ならなければならない?まるで本人の意思とは無関係にヒーローを目指しているように言いますね」

 

『全くの無関係ではないだろうけどね。絶望の中にいる最中(さなか)に手を差し伸べられた場合、その絶望の深さに比例して人はより依存する。特に彼は周囲から否定され続けた(のち)アダムに肯定され【個性】を譲り受けた。アダムが去り際に何を言ったのかは定かではないが、彼と話した感じだと『汝、英雄たれ』といったところだろう。世間から諦めさせられた夢を肯定され、実現の為にお膳立てまでされた。加えて現役のNo1ヒーローのオールマイトにまで似たようなことを言われたのなら自己評価の低い彼は恩義に報いる為と『彼らの為にヒーローにならなくてはならない』と思い込み自身の存在意義(レゾンデートル)としかねない。過去読み取った彼の思考は『アダムさんの代わりに』だの『オールマイトの為に』だの自身の意思よりも他人の意思が占めていた。表層にすら浮かぶくらいだ、もはや強迫観念の域だね。故に無意識に自己犠牲の道を歩もうとする』

 

「それはまた随分と(いびつ)ですね」

 

「でも、その強迫観念をキレイに取り除いてヴィラン(こちら)側のすばらしさを教えてあげればきっと弔の優秀な右・・・いや右は君が(もう)居たね。まぁ左腕になってくれるだろう。それが無理なら時間をかけて【個性】を奪い取るのもまた一興かな』

 

「なるほど、だから放置して撤収しろと指示出したわけですか・・・あまり手を出すと拗ねますよ?」

 

『飛び立つ為の翼は授けた。そろそろ巣立ちの時だ。親として盛大に祝うための下準備というわけだよ。それに僕もそろそろ決着もつけないといけないからね』

 

「・・・・・・そうですか、あまり無理なさらないでくださいね」

 

『善処しよう』

 

「ではサブターゲットの彼は放置ですか?それとも機を見て再チャレンジですか?」

 

『いや、放置で構わない。どちらも手元に回収できるに越したことはないが、あくまでサブだ。【個性】や気性の荒さから引き込めるかもしれないとサブに位置付けたが、彼と比べればなくても問題ない』

 

「そうですか。では先生がご執心の彼はどうしますか?」

 

 今回の襲撃で捕らえた緑谷について尋ねる

 

『ふむ、暫くは眠っていて貰おうか。望みは薄いだろうが仲間になるかもしれない大切な人員だ。暴れられて怪我でもされたら大変だからね。それに君も今日は忙しかったから休みたいだろう?準備ができてから起こしてあげよう。勧誘もその時でも構わない』

 

「ええ、では地下牢にでも入れておきます」

 

『どうせなら彼の部屋に連れて行ってくれないか?彼も話し相手が居ると喜ぶだろうからね。仲良くなれば説得もしやすくなる』

 

「彼というと ――― ですか?」

 

『そう、 ――― も彼に興味を持っているようだったからね』

 

「了解しました」

 

 黒霧が立ち去り、テレビの電源が落ちたアジトにはコチコチと古時計が時を刻む音だけが木霊(こだま)していた

 


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