託された力   作:lulufen

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第48話 轟家の団欒と奪われたピース

 ―― 轟夏雄 ――

 

 日も陰り夜の帳が下った頃、母さんの見舞いの為に病院へ向かった

 

天使(あまつか)さん、こんばんは」

 

 面会カードを受け取るため、ナースセンターに居た長い髪を矢の形をした簪で一纏めにした妙齢の看護婦さんに話しかける

 

 そして途端に始まるマシンガントーク

 

「あら、夏君!お見舞い?偉いわね~!最近のこは何でもメールとかでやり取りして顔なんて見せないじゃない?家の子なんてメールすら面倒臭がってこっちから連絡しないと近状報告すらしないんだから!それに比べて夏君は小まめに顔だして冷さんも安心ね!それにお父さんの炎司さんなんか毎日欠かさずお見舞いに来てもうラーブラブ!」

 

「あの」

 

「見てるこっちが赤面しちゃうくらいアッツアツで新人の子なんて刺激が強すぎたのかゆでダコみたいに顔真っ赤にしちゃって!しかも冷さんは美人で優しいでしょう?だから老若男女問わず皆に好かれて、この間なんてショウちゃんが一輪のお花持って『大好き』なんて言ったものだから炎司さんがもう燃え上がちゃって!火災報知器が鳴っちゃうかと思ったくらい!」

 

「ちょっと」

 

「それから飛び出すように出ていったかと思うと一抱えもある薔薇の花束持って戻ってきて、皆の前でプロポーズまでしちゃったのよ~!『俺はこの命朽ち果て魂だけになろうとも貴女だけを愛し続ける。だからこれからもずっと一緒にいてほしい!』だなんてキリッとした顔で言っちゃったもんだから見てるこっちまで恥ずかしくなっちゃう位冷さん顔真っ赤にしちゃってね!私も旦那に言ってもらいたいわ~!」

 

「だから」

 

「そうそう!炎司さん今日も既に来てるのよ!それで夫婦二人でラーブラブでハート振り撒いてるのよ~!あんまりにもラブラブだから担当の新人ちゃんが今日も当てられちゃってね~!あらやだ!こんなおばちゃんよりくーちゃんの方がいいわよね!ちょっと待ってて今呼ぶわね!くーちゃーん!」

 

「聞いてよ!」

 

 自称:キューピットのキューちゃんこと天使(あまつか) 弓子(きゅうこ)さんは、あまりのマシンガントークの凄さと小さい体格から彼女の担当患者のミリタリーオタクさんに短機関銃(サブマシンガン)のTEC-DC9の様だと言われ、以来TEC-DC9の通称であるTEC-9にちなんでTEC-9(テックキュー)ちゃんと呼ばれる様になった

 

 そしてTEC-9ちゃんとあだ名を付けられるだけあって、サブマシンガンの如く凄い勢いでしゃべり続けて、そのまま流れるように『くーちゃん』こと薬師寺(やくしじ) 葛葉(くずは)さんを呼んだ

 

「キューちゃんさん、どうかしましたか?あら夏雄君?」

 

「こ・・・こんばんは」

 

 薬師寺葛葉さんは青い枠縁眼鏡をかけ、薄緑色の中に所々深緑の混じる艶のある髪を一房の三つ編みにまとめた女性であり、俺の想い人でもある

 

「フフフフ!後はお若い二人で!フフフフフフ!」

 

 天使(あまつか)さんは笑みを浮かべながら素早く奥へ引っ込んでいった

 

 くっ!ありがたい・・・ありがたい、けど!いつかギャフンと言わせたい!

 

 葛葉さんと話かったのは事実だけど、いつも物陰からニヤニヤ覗かれるから素直に感謝できない

 今もトレードマークの矢の簪が柱の影から見えているし ・・・

 

「またお見舞い?」

 

「ええ、最近はゼミとかバイトとかで来れてなかったですし」

 

「親御さん思いなのね」

 

「いや、まあ・・・面と向かって言われると恥ずかしいですけど」

 

 半分は違う理由だけど・・・

 

「あとお父さんはいつも通りもう来てるわよ」

 

「そういえば天使(あまつか)さんがそんなこと言ってた気がする」

 

 相変わらず熱々だこと・・・よくこれで焦凍は母さんが父さんを嫌ってるって思えたな・・・いや、二人を避けてたから気づけなかったのか

 

「キューちゃんさん、いつもは分かりやすく話してくれるんだけど、噂話とか恋愛系になるとね。はい、面会カードと『例のアレ』」

 

 苦笑を浮かべた葛葉さんから面会カードと共に折り畳まれた一枚の紙を受け取る

 

「あー、アレですか・・・」

 

「そうアレ」

 

「分かりました。釘刺しときます」

 

「お願いね?それと分かってると思うけど面会時間は10時までだからね?」

 

「そんな長居しませんから大丈夫です」

 

「なら大丈夫ね。そうそう、今度の休みにデートでもしましょう?」

 

「デート・・・ですか?」

 

 ・・・まじで?・・・実った?まじで!?

 

「あら?お姉さんからのデートのお誘いは嬉しくないの?これでも勇気出したんだけどな・・・悲しくて涙がでちゃう」

 

 葛葉さんが芝居がかった仕草で目元を拭う

 もちろん涙なんて出てない

 

「う、嬉しいですよ?飛び上がって今すぐにでもキスしたいくらいに」

 

 実際にする勇気はないけどさ・・・

 

「あら嬉しい。でもファーストキスはもっとロマンチックな雰囲気が良いな~」

 

 何かを期待する様にチラチラ見てくる葛葉さん

 

 ロマンチックって・・・どんなのだ?

夜景の見えるレストランでシャンパングラス鳴らすとか?

 でも俺未成年だから酒飲めないし、夜景の見えるレストランとか俺のバイト代じゃ無理だ

 

 冬姉に相談しようかな・・・

 

「上手くエスコートできるか解りませんよ?」

 

「そこは夏雄君を信じてるから」

 

 これも惚れた弱味ってやつか・・・

 

「頑張ります」

 

「フフ、楽しみにしてます ♪」

 

 葛葉さんからのウインクで心臓が高鳴り、顔が熱くなる

 

「顔が赤いけど大丈夫?」

 

「大丈夫です!」

 

 葛葉さんのニヤニヤ顔を受けて恥ずかしくなり顔を背けた

 

 このウインクには何度も赤面されているからもうばれているだろうけど、せめてもの意地だ

 

「例のアレとデート、よろしくね~!」

 

 葛葉さんの声を背に受けながらその場から離れた

 

 母さんの見舞いも半分葛葉さんに会いに来てる様なものだから、父さんのことあんまり言えないかも・・・

 

 そうして葛葉さんと別れてから目的地まで向かうと一番端の病室から光が漏れていた

 

「フフ、貴方ったら」

 

「お前は美人で器量がいいのは事実だからな。こうして俺の物だ分かるようにしておかなければ、いつ変な虫が着くか分かったもんじゃない」

 

「もう、恥ずかしいわ」

 

 中から感じる甘ったるい雰囲気に入室していいものか迷い足が止まる

 

 まあ、用事があるから入るんだが・・・

 

 コンコンコン

 

「はーい」

 

「入ってもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

 了承を得て扉を開けて真っ先に目には言ったのは、ベッドに腰掛ける父さんと、父さんの膝の上に抱えられるように横向きに座る母さんの姿

 

「あら、いらっしゃい。時間はいいの?未来のお巡りさん」

 

「・・・」

 

「夏雄?」

 

「・・・あ!いや、レポートも終わったし今日はバイトじゃないからね!」

 

 寄り添っているとは思っていたが、まさかそれ以上の姿を見せられるとは思わず思考が一瞬真っ白になった

 誤魔化すのにここが病院であることも忘れ声を張ってしまった

 

「これから冷と《二人っきり》で過ごす予定だ。伝えていたはずだが?」

 

「・・・そういや明日は非番だから母さんと過ごすって言ってたっけ・・・相変わらずラブラブなこって」

 

「ラブラブだなんて、フフ」

 

 明らかに自分を邪魔者として扱う父さんを見て遠慮はいらないと『例のアレ』を懐から取り出す

 

「あー・・・警官志望の息子から父親であるNo.2ヒーロー、エンデヴァーへお知らせがあります」

 

「む?知らせだと?」

 

「何かしらね?」

 

「ここの病院の関係者から要望というかクレーム」

 

「なに?」

 

「クレーム?」

 

『例のアレ』ことクレームの書かれた紙を読み上げる

 

「えーっとまず、主治医の治野田(ちのだ)さんから──」

 

「治野田先生から?何かしら」

 

『診察の度に不義を疑うのは止めて下さい。私は妻一筋ですので』

 

「──だそうです」

 

「しかしアイツは毎回冷に触れるんだぞ!」

 

「触診で触れるなとか無茶を言う・・・」

 

「しかし!!」

 

『世界で二番目に綺麗だからと言って患者であり人妻に気想(けそう)などあり得ない。世界一美しい美の女神たる妻がいるのに余所見などしません』

 

「──とも書いてあります」

 

「ふざけるな!世界一美しい女神は冷だ!」

 

「しー!ここ病院、しかも夜」

 

「ぬ、すまん・・・」

 

「恥ずかしいことを大きな声で言わないで下さいな・・・」

 

 廊下に響き渡るような大声で母を女神だと言い切る父をなだめ、言葉とは裏腹に頬を染めて満更でもなさそうな母を見て『相変わらずゲロ甘な夫婦だ』と予め購入しておいたコーヒー(微糖)のプルタブを開けて一口啜る

 

「あ~次行きますよ~・・・チビッ子達のママさん達から──」

 

『子供の戯れ言位笑って流して下さい。子供が好きだと言ったからって本気にしないで下さい』

 

「──とのことです。子供にまで嫉妬するなよ」

 

「例え子供であろうと男だ。冷に言い寄った時点で排除すべき悪い虫だ」

 

 声を潜めながら叫ぶという無駄に高度な技術を披露する父親にため息が出る

 

「だからってLoveとLikeの違いも判ってないチミッ子相手に本気で威嚇するなよ。躾のなってない番犬じゃあるまいし・・・他にも入院患者のお爺ちゃん達からもあるよ」

 

『ちょいと孫娘のように可愛がっただけで威嚇するとは玉の小さい奴だ。あまり束縛すると逃げられるぞ?』

 

「──だって」

 

「ば、馬鹿なことを言うな!現実に起きたらどうしてくれる!」

 

 慌てるってことは束縛してる自覚はあるんだ・・・あ、ヤバいかも・・・

 

「夏雄、その手紙を渡しなさい」

 

「イエスマム・・・」

 

 夜は比較的涼しいとは言え夏真っ盛りで熱帯夜が多いこの季節

 

 涼しいを超えて寒いと感じるのは空調が効きすぎているからではなく母の機嫌の悪化に伴い冷気が発生しているからだろう

 

「あなた?これはどうゆうことかしら?」

 

「あ、いや、ちょっと虫をだな・・・」

 

 クレームの書かれた手紙を片手にニコリと笑みを浮かべながら父に詰め寄る母

 

 しかし、その目は一切笑っていなかった

 

「ん?」

 

 父さんの怒りに反応して燃えていた髭が、母さんからの物理的にも冷たい視線でちょび髭サイズまで縮小する様を見ると、あれが世間で『俺様何様エンデヴァー様』で通る威風堂々・唯我独尊のNo.2ヒーローの姿とは思えない

 

「・・・すまなかった。以後気を付ける」

 

「よろしい」

 

 父からの謝罪が切欠で母から漏れ出ていた冷気が止まった

 

「やっぱり母さんと一緒の時に伝えて正解だった」

 

「ぬぅ・・・」

 

「そんな恨めしそうな目で見ないでくれよ。じゃあ母さん、俺は帰るよ。夫婦二人で存分にイチャイチャしてくれ」

 

「イチャイチャだなんてしてません!」

 

「その台詞はちょっと説得力がないね。鏡見てみなよ・・・首の所」

 

「鏡?・・・!?こ、これは!その・・・」

 

「首筋だけを集中して刺すなんて変わった虫もいるもんだ」

 

 鏡を見た母さんは、ポツポツと赤い吸い痕が無数に残る首筋を慌てて手で隠し、顔を真赤に染めて俯いた

 

「虫刺されではない。これはキスマ──」

 

「貴方!」

 

「・・・なんでもない」

 

 折角遠まわしに伝えたのに、吸い痕付けた本人が暴露しようとしてどうするのさ・・・

 

コンコンコン

 

「ん?どうぞ」

 

「こんばんはお母さん。お父さん夏君も」

 

「あらあら、冬美も来たの?」

 

「うん、夏休み前に溜まっちゃった書類とかもやっと片付け終わったからね」

 

「先生は大変ね」

 

「でも遣り甲斐があって楽しいよ?子供達も可愛いし」

 

「彼氏なんかは──」

 

「それはその・・・じ、実は──」

 

「・・・そうだ父さん」

 

 何やら父さんが怒り狂いそうなガールズトークを繰り広げ出した冬姉と母さんを尻目に父さんに声をかけ、小声で用事を告げた

 

「ん?」

 

「『計良(けいら)教授が炎の【個性】に関するレポートが出来たから読んで欲しい』ってさ」

 

「!・・・判った」

 

「それじゃ外で待ってるから」

 

 さて、『本命の用事』を済ませますかね~

 

 ――――――――――

 

 ―― 轟炎司 ――

 

「もう、母さんまでそんなこと言うんだから!」

 

「だって・・・ねえ?」

 

「冷」

 

「ん?何かしら?」 

 

「少し夏雄と話してくる。冷は冬美と話しててくれ。冬美、母さんを頼んだぞ」

 

「わかったわ」

 

「夏雄が居たときに話せばよかったではないですか?」

 

「ハハハ、男だけじゃないと話せない事もあるんだよ」

 

「そうね、判ったわ。行ってらっしゃい」

 

「ああ、直ぐ戻る。それと冬美、彼氏については今度ここに呼べ。見極めてやる」

 

「げ、聞こえてた?」

 

「では行ってくる」

 

 急く気持ちを押さえつけてゆっくりと夏雄の後を追う

 

 夏雄が言ったあの言葉(暗号)

 

『計良教授が炎の【個性】に関するレポートが出来たから読んで欲しい』

 

『計良教授』とは警察官の計良(けいら)法治(ほうじ)警部

『炎の【個性】』とは捜し人

『レポート』とは調査報告

 そして

『出来た』とは進展があり

『読んで欲しい』とは自分が預かっているということ

 

 つまり

『計良警部から捜し人についての進展とその調査報告書を預かっている』

 と夏雄は言ったのだ

 

「夏雄」

 

 少し離れた所で壁に背を預けて待っている夏雄の所まで向かう

 

「・・・見つかったか?」

 

「・・・あっちの仮眠室で。許可は取ってある」

 

 周囲に人影がないのを確認してから仮眠室へ移動する

 

「・・・進展はあった」

 

「では!」

 

「でも見つけたわけじゃない。影も形もない状態から影がチラチラ見え始めたって所」

 

「・・・」

 

 そう上手くは行かないか

 

「ただ、その影がある場所がアッチ側っぽいんだよね・・・」

 

「やはり・・・」

 

「警察も父さんの頼みだから仕方なくって感じだったみたいだけど、今回判った情報で形振り構っていられなくなったみたい。本格的に動いてくれてるって」

 

「そうか・・・有難い」

 

 ヒーローは(ヴィラン)の打倒や災害時の人命救出といった突発的な事件や災害に対処する事に重きを置いている

 また、(ヴィラン)に関する情報は共有されても、その他の依頼については個々の裁量にまかせられることが多く要請がなければ情報開示はしていない

 

 警察にも縄張り意識があるそうだが、同じく組織である以上個々で活動するヒーローよりも情報共有力は高い

 

 個人事務所が多いことによるフットワークの軽さがヒーローの強みであるが、腰を据えての調査や捜索は一つの組織として動いている警察が何枚も上手だな

 

「これがそうかもっていう人物。完全に当人かどうかはまだはっきりしてないけど、類似点が多数あることから覚悟はしておいた方が良いと思う」

 

 夏雄が懐から取り出した折り畳まれた一枚の資料を受け取り目を通した

 

「・・・」

 

 気付けば両手でクシャリと手紙を握りつぶしていた

 

「・・・父さん」

 

「引き続き何か進展があったと知らせが来たら教えてくれ」

 

「わかってる。にしても世間に知られる訳にはいかないとは言え父さんも面倒なことするね、俺を通して警察とやり取りするなんて。今まで通りサイドキックの人にお願いしておけば職場でも直ぐに情報が判るのに」

 

 私を気遣ってか少しお道化(どけ)る様に話す息子に笑みが零れた

 

 誤魔化すように夏雄の頭をワシャワシャと撫でると振り払われてしまった

 

「出来ることなら警察の方に直接頭を下げてお願いしたいが、これでもNo.2ヒーローだ。隙を見せればどんな輩が出てくるか解らない。それに彼らサイドキックは大切な仲間ではあるが家族ではない。いつまでも使いっ走りには出来まい。だから将来の為の社会見学という名目でお前に間に入ってもらっているんだ。お前なら無闇に話したりはしないだろう」

 

 信用できる人間は数多く要るが、信頼できる相手は数少ない

 

 下手な人物に話せば、そこから情報が漏れ(ヴィラン)へ知られるかもしれない

 

 夏雄は口は軽いが、持ち前の洞察力で相手にとって広まって欲しくない事や秘密にしなければならない事を察しては決して外には漏らさない

 

 警察の中に計良(けいら)法治(ほうじ)警部の様に口の固い人物がいなければ警察に依頼していたかも怪しいところだ

 

「そりゃそうだけど、毎回別人に変装するのって大変なんだよ?それ系の【個性】じゃないし・・・まあ、俺もどうなってるか知りたかったし、雑用とは言え警察の手伝いが出きるのは嬉しいからいいけど」

 

 どこで身に付けてきたのか全くの別人に変わる変装技術に毎度驚かされる

 本人はいつも見破る私に対して「いつか父さんも騙しきってやる!」と意気込んでいるが、正直照れると鼻の(かしら)を掻くという癖がなければ私ですら騙されかける位上手く化けている

 

「くれぐれも冷には知られるなよ」

 

「分かってるって。心労で倒れる母さんなんてもう見たくない。同じく心配性な冬姉にも黙っとく」

 

「頼んだ」

 

「・・・もう焦凍には教えても良いんじゃない?冬姉を除けば自分と一番仲良かった人が訳もなく居なくなって落ち込んでたし」

 

「そうだな・・・もう教えても良い頃かもしれん。だがなんと伝えれば良い?冷が心労で倒れてバタバタしている間に拐われたなど」

 

 間接的に焦凍が関わっていることなだけに下手に伝えれば冷の様に病んでしまうのではなかろうか・・・

 

「なにビビってんだよ。ありのままを伝えれば良いだろ。もう15だ、なに言われたって受け止めるだろうさ。それにヒーロー目指してんならいつか出会う可能性がある。なにも知らずに出くわして唖然としてる間にやられるなんて誰も望んじゃいない」

 

「・・・そうだな」

 

「本当父さんは焦凍には不器用なのな・・・冬姉や母さんにするみたいにデレデレしろとは言わないから、俺と話すみたいに堂々と話せば良いじゃん。無理なら俺から話そうか?」

 

「いや、俺から話す」

 

 これは誰かに頼んで良い話じゃない。守れなかった私が伝えるべきことだ

 

「そうかい。じゃあ俺は帰るよ」

 

 肩越しにヒラヒラと手を降りながら帰路に付く息子を見送り、手の中でクシャクシャになっていた資料を広げてもう一度目を通した

 

 ~~~~~~

 

 調査レポート

 

 (ヴィラン)名:荼毘

 【個性】:燃焼系

 掌から炎を吹き出すように出す

 状況に応じて蒼い炎と黒い炎を使い分けてる模様

 

 黒髪で、瞳は水色

 顔の下半分から喉にかけてと手の甲から前腕にかけて焼け焦げたように皮膚が変色している

 

 対峙したヒーローの証言により、戦闘中に自身の炎で皮膚が焼けるのが目撃されている

 

 燃焼系の【個性】でありながら熱に対する耐性が低く、【個性】の反動によって火傷した可能性がある

 

 また──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ということが確認されている

 

 

 追伸

 

 ・頭髪及び瞳の色という身体的特徴と炎という【個性】

 ・加えて皮膚に火傷の跡が広範囲に多数見られることにより推測される耐火性の低さ

 ・『トドロキ』『エンジ』『ショート』『ナツオ』などのエンデヴァー及びその家族を連想させる言葉に対して反応したこと

 

 以上のことからエンデヴァーのご子息の轟燈矢である可能性は極めて高い

 

 

◯◯県警 計良法治

 

 ~~~~~~

 

「・・・燈矢、お前は今どこにいる」

 

 息子一人探し出せない無力な自分が恨めしい

 

 必ず見つけ出して見せると心に誓いながらグッと拳を握った

 

 ――――――――――

 

「何で・・・何で燈矢兄さんがそっち側にいるんだよ!」

 

「騒ぐな鬱陶しい」

 

 ――――――――――

 

 既に最悪の事態が起きているとも知らずに

 


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