「洸汰君、もうすぐだからね」
「兄ちゃん、あれ!」
「ん?」
洸汰君が落ちないように[複製腕]で支えながらマンダレイ居るであろう方角へ飛んでいると、洸汰君が何かを見つけたようだ
「あそこ!」
洸汰君が指差す方向には合宿で使用した建物とその近くを走る相澤先生の姿があった
直ぐ様急降下すると相澤先生の前に着地した
「先生!」
「緑谷・・・お前戦ったな?」
相澤先生は突然現れた僕に驚いた
「すみません、
「え?兄ちゃんは?」
「やらないといけないことがあるからここで一端お別れだ。大丈夫、やることやったらまた会いに来るから」
「本当?」
「大丈夫だって。先生の言うことをよく聞いてね?」
「・・・うん」
不安そうな顔で僕を見る洸汰君を安心させる様に頭を撫でながら問題ないと諭す
「おい」
「先生、僕が戦闘を行った
「なに!?」
相澤先生は
「これから僕はマンダレイに洸汰君の無事を知らせて、可能ならかっちゃん達の所へ行こうと思います」
「待て」
「標的である僕が戦闘に加わるなんて言語道断だってことは解ってます!でも行かせてください」
「待てと言ってるだろう!」
制止を振り切って飛び出そうとしたところ、腕を捕まれ【個性】も封じられてしまった
「でも!」
「止めはしない。だから彼女にこう伝えろ」
────
sideマンダレイ
スピナーと名乗った蜥蜴
「チッ!」
まただ、また見えない何かに押される様に体が押し出された
「いい加減しつこっ──」
「──い・・・のはお前だ偽物!!とっとと粛清
されちま──!!」
不味い避けられない!
意識外からの妨害に、目の前の
「ふべぁ!?」
左腕を犠牲にすることを覚悟して防御姿勢をとった瞬間、ドン!!と言う音と共にスピナーを弾き飛ばして頭髪を篝火の如く煌々と燃え盛らせた全身が黒く染まった《鬼》が現れた
新手か!?
突如乱入してきた《鬼》は一瞬だけ視線をこちらに向け、まるで私達を守る様に背を向け
「マンダレイ、洸汰君は合宿所付近にいた相澤先生に保護をお願いしています」
「その声、緑谷君?」
「相澤先生からの伝言です!テレパスで伝えてください。A組B組総員プロヒーロー、イレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する!」
いいんだね?イレイザー・・・
『A組B組総員戦闘を許可する!』
「もう一つお願いします。
緑谷君は、言うだけ言うと頭部の炎を蒼炎に変えるとマグネへと飛びかかった
マグネは虎を緑谷君の方へ蹴り飛ばしたが、バシュッ!という音と共に緑谷君は空中で鋭角な軌道を描いて避け、一瞬で両肘から先を氷で覆って
だめ!そこじゃ届かない!!
マグネと緑谷君との間は約3m程の距離が空いていて、いくら巨大な刃が1mを超える物であっても届かないほど
にもかかわらず空中で氷の刃を振ったため、その場にいた誰もが斬れる訳がないと思った
「そんな離れてちゃ当た──」
スパッ ・・・ズズーン
しかし、離れた位置で繰り出された一撃を当たる訳がないとマグネが嘲笑った直後、触れてもいないのに担いでいた鉄塊ごと左腕の肘から先が輪切りに斬り飛ばされ
「嘘!?」
斬った!?どうやって!?
マグネの足元の地面には透明な刃物で斬られたかのように一本の線が走っていた
不可視の刃でもあるっての!?
緑谷君は振り抜いた刃の慣性と遠心力を利用して空中で回転し、背中から3mは下るまいと言う長い腕を生やすと両腕と同様に氷で巨大な刃を形成し、先程まであった間合いを一瞬でゼロにして唖然としているマグネ目掛けて叩きつける様に刃を振り下ろした
マグネは左腕を切り落とされた激痛に顔をしかめつつも、振り下ろされる刃を避けるべく飛び退き、凶刃から逃れてしまった
肌を掠める様に通りすぎた刃は空振りに終わる
──はずだった
瞬間、轟音が響いた
振り下ろされた刃から直線上にあった木々が地面諸とも縦に真っ二つに裂け、ヤスリをかけたように滑らかな断面をしていた
当然、刃と切断された木々の間にあったマグネも斬り裂かれ、右腕がボトリと地面に落ちた
またしても当たらなかったはずなのに斬られ、両腕を失ったマグネは唖然としていた
緑谷君は追撃とばかりに驚愕を顔に張り付けたマグネに一瞬で近付くと腕を一閃し、両足を切断した
いくらなんでもやり過ぎだわ!
助けられていることは判ってはいる
手加減できる相手じゃないってことも判ってる
それでも、なぶり殺す様に切り刻んでいく行動に眉間に皺が寄る
「マグ姉!」
声のする方に視線を向ければ先程、森へと弾き飛ばされたスピナーが戻って来ていた
スピナーの視線の先で、ドロリと輪郭を崩して消え去るマグネは、最後に一際大きく口を開くと勢いよく閉じた
次の瞬間マグネは内部から爆発した
自爆!?
ゆっくりと流れる時間の中で、地面にキラリと光る物を視界に捉えた
それが爆風と共に全方位に放たれた金属片の一部だと瞬時に察した
そして地面に刺さらなかった残りが自らに降り注ごうとしていることも
回避 ── 無理
間に合わない。金属片が飛来する方が早い
防御 ── 無理
範囲が広すぎる。急所のみに絞っても庇い切れない
一巻の終わりかと思った時、隣にいた虎が覆い被さってきた
ダメよ虎!それじゃ貴女が!!
思考だけが加速する中、自らを盾にして私を守ろうとする親友をただ見てることしかできず、時間切れとなった
思わず目をつぶったが、虎の苦しそうな声も、金属片が当たったであろう衝撃もなく、代わりに金属同士がぶつかる甲高い音が聞こえ、不思議に思って目を開ければ、コウモリの様な大きな翼を拡げた緑谷君が何時の間にか現れて全ての金属片を受けきっていた
「マグ姉の仇だ!」
呆ける私達を余所に、スピナーは大量の短剣を括り付けて作った大剣の柄を弄り、鎖やベルトを乱雑に剥ぎ取ると野球のバットの様に振り抜いた
括り付けられていた短剣が拘束から解放され、遠心力によって散弾の様に緑谷君目掛けてばら撒かれた
危ない!
対する緑谷君は避ける素振りすら見せず、依然と翼を拡げたまま立っていた
・・・!?まさか私たちが背後にいるから避けないの!?
プロヒーローが仮免すら持たない学生の足手まといとなっている事実に少なからずヒーローとしてのプライドが傷ついた
そして突き刺さると思われた短剣はキンッ!という音を何度も発てて緑谷君の黒い肌や拡げたままの翼に全て弾かれた
さっきの金属片もこうやって弾いたの?
短剣を飛ばしたスピナーは、大剣だった時の名残で
スピナーがたった20mの距離を詰める間に緑谷君は連続して様々な物を放った
しかし、スピナーは手にした長刀で飛来する氷の礫を弾き、姿勢を低くして炎を掻い潜り、落ちている短剣を避雷針代わりに投げて襲い来る電流を逸らし、地面から突き出す土槍を跳んで躱した
そうして全ての攻撃を躱したスピナーは全体重を乗せた斬り落としを緑谷君へ放った
しかし、渾身の一撃は短剣同様にその黒い肌によって防がれ、唯一残った武器は柄を残して砕けた
バックステップで距離を開けようとしたスピナーを緑谷君は強大な手で叩き落すと、地面から生やした夥しい数の針で四肢を地面へ縫い付けた
そして全ての針が一斉に外側へ動いてスピナーの四肢をズタズタに斬り裂いた
四肢から大量の血を撒き散らしたスピナーはマグネ同様に大きく開けた口を勢いよく閉じて自爆した
しかし撒き散らされた金属片は緑谷君にかすり傷一つ付けることなく地面に転がった
一瞬の出来事だった
人が苦戦していた
戦闘というよりは蹂躙に近い戦い方にあり得ないと頭では判っていても、そのままこちらに襲いかかってきそうな不安がある
蹂躙を終えた緑谷君は両腕の刃を溶かし、見る間に黒を肌色に変えながら何時もの少年へと変化した
「マンダレイ、虎、あの
「む!?」
「どうゆうこと!?」
「ラグドールから模倣した【個性】で調べたとき二人とも複製体って見えたんです。だから消える間際に仕込んでいた爆弾で自爆して巻き込もうとした」
だから緑谷君は容赦しなかったし
「
「わかったわ」
「僕はこれからかっちゃんの所に行きます」
・・・は?
一瞬何を言われたか解らなかった
「何言ってるの!標的には貴方も含まれてるんでしょ!?」
「それでも行かなきゃいけないんです!」
「待ちなさい!・・・ああもう!後で説教だからね!」
制止の声も聞かずに言うだけ言って走り去る緑谷君へせめてもの意趣返しに声を張り上げた
「マンダレイ、今はイレイザーと合流するのが先決だ。洸汰のことも心配だろう。本人は否定するだろうが、あの男の後継者でほぼ間違いはない。余程の事がない限り不幸な事にはならないだろう」
「・・・そうね。洸汰のこともあるし、ラグドールと連絡がとれないのも心配だわ。一先ずイレイザーの元へ行きましょう」
洸汰、皆、無事でいてよね・・・!
私達は未だ意識を失ったままのピクシーボブを担いでイレイザーの元へ向かった
スピナー及びマグネの複製体が体内に爆弾を仕込んでいたのは
遊人様の
【千年ロットに選ばれた無個性少年】
を参考にさせていただきました
また起爆方法は【某世界的大怪盗三世】が使ったことがある手法
奥歯に仕込んだスイッチを噛んで起動する方法を使いました