三日目
続・限界突破訓練
「うぎぎぎぃ・・・」
「ほら補習組、動きが止まってるぞ」
「オッス・・・!!」
「すみませんちょっと・・・眠くて・・・」
「だからキツイって言ったろ」
相澤先生は各々が何故その特訓方法をしているかを説明し、且つ原点を忘れるなと念を押すように言った
「原点か・・・あ、そう言えば相澤先生、もう三日目ですが今回オールマイト・・・他の先生方って来ないんですか?あ、いや、別に皆さんが頼りないとかそんなんじゃなくて、えと」
「落ち着け。誰もお前がそんなこと思ってるとは思っちゃいないよ。合宿前に言った通り
うわぁ・・・悪くもの割合がでかそう・・・
「ねこねこねこ・・・小難しい話は置いといて、今日の晩はねぇ・・・ニシシ!クラス対抗肝試しを決行するよ!しっかり訓練した後はしっかり楽しい事がある!ザ・飴と鞭!」
「ああ・・・そう言えばあったっけ・・・」
「肝を試すより睡眠を取りたいぃぃ・・・」
「というわけで今は全力で励むのだぁ!!」
「「「イエッサァ!!!」」」
――
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『馬鹿みたいにヒーローだ
「・・・」
力をひけらかす・・・か・・・
「緑谷」
「うぇっ?」
声を掛けられ振り向くと水を張った鍋を持った轟君がいた
「そこでぼうっとされると邪魔なんだが」
「ああ!ごめん!!」
急いで抱えていた薪を所定の所に置きながら轟君に「ねえ」と声をかけ、洸汰君に何て言ってあげれば良かったのか聞いてみた
「洸汰君、マンダレイ達と一緒にいた子がさ、【個性】ありきの超人社会そのものを嫌っててさ、あんまりにも思い詰めて何もかもダメだって否定してるようだったからそれじゃ君が辛いよって言ったんだ。それで逆に怒らせちゃってさ・・・なんて言ってあげればよかったのかな」
「・・・」
「もしオールマイトがそこに居たら何て言ったんだろうって考えちゃってさ・・・轟君なら何て言う?」
「・・・時と場合による」
「そりゃそうだけど・・・!」
至極全うな意見だが、求めているのはそういうことじゃなくて・・・
「赤の他人に正論吐かれたってウルセェって思うだけだし、他人に言われて動くならそいつの思いや考えはそれだけの重さしかない軽いものだったってだけで・・・大事なのは何を成し、何をしている人間に言われるかだ」
「何を成し何をしているか・・・」
「例えば、そうだな・・・相手を思いやれって言葉でも飯田に言われんのと爆豪に言われんのじゃ説得力が違うだろ?」
確かに、もしかっちゃんにそんなこと言われたら真っ先に偽者か脳の異常を疑う
「言葉には常に行動が伴う・・・と思う」
「そっか・・・確かに通りすがりが何言ってんだって感じだ」
「あと、お前は何とかしてあげたいって思っての行動だと思うが、デリケートな話にあんまり土足でズケズケと踏み込んで踏み荒らすのはやめた方が良いぞ」
「うっ!」
「俺は逆に上手くいった口だが、下手すりゃ余計こじれる」
「・・・なんかすみません・・・」
「そこの2人!!手が止まっているぞ!皆で最高の肉じゃがを作るんだ!!」
「さ、ちゃっちゃか準備しちまおう。飯田が五月蠅い」
「そうだね」
飯田君に咎められた僕達は止めていた手を動かした
「轟君!」
「ん?」
「相談乗ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
――
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―――――――――――
「さて腹もふくれたし皿も洗った!お次は・・・」
「肝を試す時間だ!ヤフー!!!」
「あー、大変心苦しいが補習連中はこれから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!?」
「すまんな、日中の訓練が思ったより疎かになった。
「うわああ勘弁してくれ!!!」
「肝を!肝を試させてくれェ!!」
「あぁぁああ!!!響香との【『キャッ怖い!』『大丈夫俺が付いてるZ☆E☆』計画】がぁぁああ!!!」
「誰がそんなのするか!!!」
補習組の悲痛な叫びも必死の抵抗も無視して相澤先生は皆をズルズルと引き摺っていく
「はい、というわけで脅かす側は先行B組、A組は二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いた札があるからそれを持って帰ること!」
簡単なルール説明後にペアを組むことになった訳だが・・・
クラスの人数は20人で相澤先生に引き摺られていった補習組は5人
20人 - 5人 = 15人
ペアで割ると7組出来るが一人余る訳で・・・
「・・・」
手に握られた8と書かれたクジを
「あー、くじ引きだから・・・必ず誰かがこうなる運命だから・・・」
解ってる。別に意図してハブられた訳じゃないし・・・
尾白君の慰めの言葉に返事せず無言でクジを見つめ続ける
「・・・」
「だから・・・な?」
「・・・」
一人・・・
12分後
「じゃ5組目・・・ケロケロキティとウララカキティGO!」
5組目の梅雨ちゃんと麗日さんと見送る
「悲鳴を聞きながら待たされるとドキドキしますね」
「君は最後の上一人だものね」
「ハ、ハハ・・・ん?アレって何かの演出ですか?」
森の方から黒煙が上がり、焼け焦げた臭いが鼻につく
「いや、そんなの計画してないし、森林火災を起こしかねない火なんて使わないわ」
「じゃあアレは・・・」
「飼い猫ちゃんは邪魔ね」
「っ!?」
突然ピクシーボブが何かに引っ張られる様に真横に飛ぶとゴン!という音と共に地に伏せた
「何で・・・!万全期したハズじゃあ・・・!!何で・・・何で
「ピクシーボブ!!」
「落ち着け!」
突然の
「ヤバい・・・!」
USJと同じ奇襲!?・・・!!
「ご機嫌よろしゅう雄英高校の諸君!!我ら
「
「あんなのと一緒にされるのは心外だわぁ・・・この子の頭、潰しちゃおうかしら?・・・ねぇ?」
僕の言葉が
「貴様!!」
「待て待て早まるなマグ姉!虎もだ!ステイ!」
一触即発の中の何故かもう一人の
「生殺与奪は全てステイン仰る主張に沿うか否か!!」
「ステインだと!?あてられた連中か!」
ステインという言葉に飯田君がいち早く反応すると我が意を得たりとばかりにニヤリと笑うと自己紹介を始めた
「保須市にて終焉招いた人物・・・申し遅れた、俺はスピナー」
背負っていた武器の柄を持つと勢いよく振り抜いた
「彼の夢を紡ぐ者だ!」
ガシャン!!
巻かれていた布がシュルシュルとほどけると、一本の大きな剣と思っていた武器は血や錆びがこびりついた数えるのも億劫な程のソードブレイカーやサバイバルナイフを鎖やベルトで無理やり一つにまとめた歪な武器だった
「阿呆が誰に陶酔しようが、んなことはどうでもいい。その倒れてる女・・・ピクシーボブは最近婚期を気にし始めててなぁ。女の幸せってのを掴もうって頑張ってんだよ・・・そんな女の顔キズモノにして男がヘラヘラ笑ってんじゃあないよ!!!」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」
「虎!!『指示』は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せよう!私ら二人でここを抑える!!」
スピナーを名乗る
その横顔は
「マンダレイ!!僕、知ってます!」
「っ!!お願い!」
「はい!」
――
―――――
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―――――――――――
── side洸汰 ──
『洸汰聞いてた!?すぐ施設に戻って!私、ごめんね、知らないの。あなたがいつもどこへ行ってるか・・・ごめん洸汰!!助けに行けない!すぐ戻って!!』
戻れって?無茶言うなよ叔母さん
目の前に居る大男からジリジリと後ずさりながら距離を開ける
「見晴らしの良いとこを探してみればどうも資料になかった顔だ」
全身をすっぽり被うマントに顔に被ったお面と怪しさの塊の様な人物
こんな格好のヒーローは知らないし、この状況で消火活動にも加わっていない。更に叔母さんの話を合わせると、目の前の大男は
喉が異様に渇き、手足が震える
「ところでセンスの良い帽子だな。俺のこのダセエマスクと交換してくれよ。新参は納期がどうとかってこんなオモチャ着けられてんの」
「うぁ・・・」
「あ、オイ」
恐怖に耐えきれず大男に背を向けて走り出すも一瞬で回り込まれた
「景気づけに一杯やらせろよ」
仮面を外し、移動した拍子に現れた顔にママ達の葬儀の後に見たニュースを思い出した
ー 「ウォーターホース」・・・素晴らしいヒーロー達でした。しかし二人の輝かしい人生は一人の心ない犯罪者によって断たれてしまいました。犯人は現在も逃走を続けており警察とヒーローが行方を追っております ー
「おまえ・・・!」
ー 【個性】は単純な増強型で非常に危険です ー
僕を殴るためにマントから出した腕に剥き出しの筋肉がまとわりつき肥大化していく
ー この顔を見かけたらすぐに110番及びヒーローに通報を・・・尚現在左目にウォーターホースに受けた傷が残ってると思われ・・・ ー
テレビの指名手配写真にはなかった
「パパッ、ママッ!!」
助けて!!
パァアアァァァアン!!
「ぬお!?」
え・・・
『死ぬ』
そう思ったのに気付けば目の前に大きな手が僕を庇うように差し出されていた
「あっぶないな!当たったらどうすんだ!」
「兄ちゃん・・・?」
大きな手の持ち主は叔母さん達を除けば唯一僕のことを気にかけてくれた緑谷の兄ちゃんだった
「大丈夫、必ず
――――――――――
── side緑谷 ──
洸汰君を避難させるために急いで来てみればピンポイントで
皆にはここを知らせないで来たし、多分応援要請してもこの状況じゃ増援は期待できない
「良いとこなんだから邪魔すんなよ・・・にしても必ず
吹き飛ばした
攻撃を反射したはずなのに全く効いた様子がない
「それならアシダカグモって言って欲しいな。どこにでも現れて悪さする
「言うじゃねえか・・・緑谷って奴だろお前?可能なら捕縛、無理なら殺せってお達しでな・・・捕縛は無理でしたってことで・・・ついうっかり殺しちまうから血反吐吐いて俺を楽しませろや!!」
そう言うや否や飛びかかってくる
[怪力]
[剛力]
[剛腕]
[鉄腕]
[
[
[
[
[金剛石]
[脚力強化]
[鬼]×3
[ズーム]
「
[反射]
ドゴン!!
振り抜かれた
向きを変えられた
そしてがら空きの背中に拳を叩き込む
「ッ!」
しかし、突然現れた剥き出しの筋繊維によって防がれ、巻き込むように腕を拘束されてしまった
[硬化]
即座に腕を更に硬化させて絡まる筋繊維を斬りながら引き抜く
「ドーン!」
「ぐ!」
拘束から逃れるための一瞬が隙となり、体勢を直した
「そうそう、爆豪ってガキはどこにいるか知ってるか?仕事なんでー」
「!?」
かっちゃん!?
「ーな!」
咄嗟に爆発を起こして岩ごと
目的はかっちゃん!?何でだ?
「おうおう、流石クモって言うだけあってすばしっこいのな・・・で」
またしても一瞬で目の前に現れると掬い上げるように上空へ僕を殴り飛ばした
咄嗟に腕を交差させて耐えた
「答えは知らないでいいよな?よし決定!遊びの続きだ!!」
[ジェット]
[巨大化:拳]
「ッ!」
追撃のため飛び上がってきた
ドゴン!!
轟音と共に土煙が舞うが、土煙が風に流されると全くの無傷で
「チッ!!これもダメか!」
「何だ何だ?期待してたのにちんけな技ばっか使いやがって!出し惜しみしてねえでかかってこいよ!俺達
「言われなくとも退治してやるよゴキブリ野郎」
とは言いつつもこのままじゃいたずらに時間を浪費するだけ
あのウジャウジャ湧き出る筋繊維が邪魔でコッチの攻撃は通らない
「緑谷の兄ちゃん・・・」
洸汰君の身を長時間戦場に置いとく訳にもいかない
「グズグズしてるとお前より先にお友達があの世に行っちまうかも知んねえけどな!」
「なんだと!?」
奴らは開闢行動
つまり時間をかければかけるほど皆が危険な状態に追い込まれるってことか!
「安心しろやお前も直ぐに連れてってやるから」
一度全て【個性】の発動を止める
「あんだよ、もう諦めたのかよ・・・しゃあねえなプチっと殺すとするか」
「これからお前を再起不能にする」
「あん?再起不能だぁ?面白い冗談だ。待っててやるから早く本気だせや」
[怪力]
[剛力]
[剛腕]
[鉄腕]
[
[
[
[
[金剛石]
[脚力強化]
[鬼]×3
[
鬼神殺し
「ギギギッ!」
『
限界以上の強化に耐えきれず[筋繊維強化]で強靭となった筋肉がブチブチと千切れ、その端から[
「緑谷の兄ちゃん・・・」
「大丈夫」
転げ回りたいのを我慢して、心配そうにしている洸汰君へ笑いかける
[
出力100%!
全身からバチバチとスパークが
『
「必ず助けるから」
「緑谷の兄ちゃん・・・」
「おお!やる気になったじゃねえか!なら・・・」
そしてゴソゴソとズボンからいくつもの義眼をこぼしながら一つの異様に瞳孔の開いた義眼を取り付けると両腕拡げた
「遊びはやめだ。こっからは『本気の
[複製腕]
[ジェット]
ゾワリと背筋に悪寒が走り、咄嗟に複製腕で洸汰君を掴むとその場から飛び上がった
直後、両腕と背中にしかなかった筋繊維が上半身全てを包み、倍以上に膨れ上がった
[コピー]
[譲渡]
足裏からジェット吹かして少し離れた位置に洸汰君を下ろした
「腕を突き出して自分を中心にシャボン玉が出来ているイメージをするんだ」
「え?」
「大丈夫、直ぐにやっつけて迎えにくるから」
「う、うん」
これで洸汰君が流れ玉で怪我することはなくなった
「どこ行ったアシダカ!!」
再び足裏からジェットを吹かしてその勢いのまま見失った僕ら探す
「なろ!!」
直前気付かれたが構わず拳振り抜くと一瞬の均衡の後、破裂音と共に
[
一瞬で加速すると
「がはっ!」
叩きつけた反動でバウンドする
[操土]
即座に[操土]で張り付けにするように両手足を無数の土の針で串刺しにする
恐らくもうまともに手足は機能しないだろう
「痛ってぇな・・・てめえも遊んでやがったのかよ」
「躊躇して犠牲を出すくらいなら再起不能にして非難をくらった方がマシだ」
「甘ちゃんかと思ったらテメェはコッチ側の方が向いてんじゃねえか・・・ゴホッ」
「もう会うことはないけど刑務所で大人しくしてろ」
[
右腕に蔦が這うように筋繊維が巻き付いていく
「テメェ!それはオ──」
地面へ四肢を縫い付けられて無防備な
「グッ!」
無理し過ぎたか・・・
[
洸汰君をマンダレイの元へ早く連れていってあげなきゃ・・・
――
―――――
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―――――――――――
「洸汰君」
「兄ちゃん!僕・・・僕ッ!」
洸汰君は涙を流しながら僕にしがみついてきた
「大丈夫。早いとこマンダレイのところへ行っ
て無事だよって知らせてあげよう」
「・・・うん」
[複製腕]
[翼]
[ジェット]
「ちゃんと捕まっててね」
「うん」
洸汰君を背負いマンダレイの元へ向かった