なかなか続きが思い付かずスランプ状態のまま仕事が忙しくなる時期を迎え、今月こそは!と気合いだけ入れてズルズルと・・・大変申し訳ない!
「うう、まだヅキヅキする・・・」
「誠に遺憾ながら君の【個性】はアチキには判断できないので、イレイザーから聞いた君の戦闘方法から虎の下でボロボロになってもらいます!全く!君みたいな子は初めてだよ!」
「そんなこと言われても・・・いたた・・・」
今だ頭痛は治まらないが動けるまでに回復したので、ラグドールに文句を言われつつ【個性】の限界突破訓練に遅れて参加する
「待ってたぞ少年。そして喜べ!君だけスペシャルメニューだ」
言われたとおりに虎の元へ向かうと、そこには何処か嬉しそうな仁王立ちした虎とその後ろで奇妙な踊りを踊る二人のB組の姿があった
「そしてさらに喜べ!ラグドールから君にプレゼントとしてこれを着けて我と特訓だ」
そう言って差し出された物は期末試験でオールマイトが付けていたあのゴツイ重いリング×10
「特訓3倍コース!嬉しいだろう?」
「それって・・・」
振り向けば未だ頬を膨らませてプリプリ怒るラグドールの姿
― 今なら特訓3倍で許してあげるから ―
再び前を向けば獰猛な笑顔を向ける虎の姿
あー・・・コレは逃げられない奴だ
気のせいか頭痛が酷くなった気がする
「これから手足にこの重りを着け、使用できる増強系の【個性】を全て発動させてブートキャンプを行ってもらう」
「全て・・・ですか?」
「そうだ。大体の【個性】には何らかの制限や条件が存在し、増強系の多くは肉体的な制限が多い。加えて君は多くの【個性】が使える反面、体に馴染んでいないように見える」
「馴染む・・・」
そう言えば初期に覚えた[
「一つを極めるのも至難であるのにも関わらず、君はアレもコレもと手を出すものだから体が対応出来ていない。故に常時【個性】を発動させておくことで体を慣らし、その限界値を上げてもらう。また、君は肉弾戦を好む傾向にあるようだから今回は増強系を主軸に限界突破をしてもらう。それと自身限定ではあるが治癒系の【個性】も使えると聞いた。それも常時発動させておけ。疲労により筋肉が断裂する端から回復することで肉体面でも通常の何倍も成果が得られる」
「いや、アレ結構体力使うんですが・・・直ぐばてて動けなくなるし・・・」
その方法ってお爺ちゃん達との稽古で思い付いてやったけど、直ぐにスタミナ切れになって動けなくなるからやめたんだけどな・・・
思い付いた時は稽古の真最中にも関わらず「もしかして僕は天才か?」なんて口にして舞い上がったが、ものの数分で指一本動かせなくなってお爺ちゃん達にずっと笑われたんだよ・・・
「ならば加減して発動させればよかろう。無茶をしろと言っているんじゃない。ただ無理をしろと言っているんだ。PlusUltraするんだろ?」
虎はズズイと顔を寄せて凄んでくる
「え、いや、あの」
「ああん?しろよ!Ultra!」
「うお!」
突然振りぬかれた拳を仰け反る様にどうにか躱すが、バランスを崩し尻餅を付いた
「お前に拒否権はない!これから口に出していい言葉はイエスとサーのみだ!」
「えぇ・・・」
「返事ぃ!」
「イ、イエッサー!」
「では早速我ーズブートキャンプを始める!」
鬼哭道場ではお馴染みの「拒否権のない強制強化訓練」が始まった
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PM4:00
特訓が終われば夕食となるのだが、初日に「面倒を見るのは今日だけ」と宣言された通り夕食は用意されていなかった
代わりに食材と調理器具が用意されていて、それらを見るにどうやら飯盒炊飯とカレーを作るようだ
「轟ー!こっち火ぃ頂戴!」
「ああ」
「こっちにもー!」
「そっちは僕が付けるよ」
「お!緑谷サンキュー!」
「爆豪、爆破で火ィつけれね?無理なら別に──」
「つけれるわクソが!」
「お、おう・・・」
「元気だなぁお前ら・・・」
「切島君鍋は~?」
「おう、今持ってく!・・・はぁ」
「野菜切り終わったー」
「じゃあ鍋に入れてこっち持ってきてー」
ギシギシと軋む体に顔をしかめながら夕食の準備を進めること十数分、僕らはがっつく様にカレーを食べ始めた
「「「「いただきまーす!」」」」
「あぁウメー!」
「強くなる為とはいえ二日目からキチ―な・・・」
「いや初日からきつかったって・・・」
「しっかし、今一強くなった実感ってものがないんだが、オレの【個性】強くなってるのかねぇ・・・」
上に掲げた手を[硬化]させながら切島君がぼやく
「一日片時で強くなるなら先生方が態々強化合宿をカリキュラムとして組む必要はありません。不安に思うあまり強化合宿に身が入らなければそれは
「いちじつへんじ?さたさいげつ?・・・ヘイ飯田!いちじつへんじとさたさいげつってなに?」
「僕を検索エンジンの様に呼ぶのはやめたまえ!」
まるで携帯の音声認識で調べものをするように飯田君に呼び掛ける切島君に飯田君が憤る
「ワリィちょっと言ってみたくて・・・」
「はぁ、まったく・・・で、一日片時と
「いいえ、その通りですわ」
「流石ヤオモモと飯田!難しい言葉知ってんのな!」
ワイワイガヤガヤと騒ぎながら食事を摂ること数分
「・・・ん?あそこに居るのは・・・」
皆の輪から離れたところに小さな人影──洸汰君を見つけた
「何が【個性】だ・・・本当下らん!!」
「洸汰君?」
カレーを食べる様子もなく一人山の方へ歩いて行ってしまった
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── 洸汰side ──
雄英高校の奴らから離れ、一人秘密基地まで来て夕日を眺める
「ちっ!何がヒーローだ・・・」
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「はい・・・はい・・・分かりました。直ぐに向かいます・・・・あなた、ちょっと・・・」
「ん?どうした?準備は出来てるから何時でも行けるぞ?」
「実は・・・」
「ママ?どうしたの?早く行こうよ」
いくら待ってもパパもママも玄関から出てこず、アリの行列も見飽きたので玄関を開けで二人を呼ぶ
「・・・ごめんね洸汰、街中で
「何でよ!今日はお仕事休みだって言ったじゃんか!三人で遊園地行って美味しいもの食べようって約束したじゃんか!」
パパとママが珍しく休みがとれそうだから皆で遊園地に行こうと前から決めていたのに
「ごめんな、近くに他のヒーローがいないからパパ達が行かなきゃ行けないんだ。じゃないと沢山の人が危ない目にあってしまう。遊園地は来週に連れてってやるから、今日は我慢してくれ」
パパがゴツゴツした大きな手で諭すように頭を撫でてくる
「出来るだけ早く帰ってくるから。そしたらママが腕によりをかけて美味しいもの沢山作ってあげるから。ね?」
「いつもそうだ!ヒーローヒーローって!僕との約束よりヒーローのお仕事の方が大事なんだ!嘘つきのパパとママなんか大っ嫌いだ!どっか行っちゃえ!」
頭にのせられていたパパの手を乱暴に払い除け、僕は部屋に戻って布団を頭からかぶった
「洸汰! 」
「行こう。出来るだけ早く帰ってきてゆっくり話そう」
「・・・わかったわ」
「洸汰!いくらお前がパパ達を嫌ってもパパ達はお前のこと愛してるからな!
「・・・」
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―――――
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──ポーン・・・・・・ピンポーン!
ん・・・んん?・・・そっかママ達いないんだった・・・・・・帰ってきたら謝らないと
「いつの間にか眠っちゃった」
窓から入って来る夕日が眩しい
もう夕方か・・・
寝起きでボーっとする頭でママもパパもお仕事でいない事を思い出し、玄関まで向かう
ピンポーン
「はーい。今行きまーす」
カチャ・・・ガチャリ
「だれで──あれ?叔母さん?どうしたの?パパもママもいないよ」
「その事で洸汰に言わなきゃ行けないことがあるの」
「?・・・帰りが遅くなるとか?」
たしか
「いいえ、違うわ・・・その、落ち着いて聞いてね・・・・・・あいつ・・・パパとママが亡くなったわ」
「え・・・」
「死んじゃったの」
叔母さんが何を言ったのか理解できない。シンジャッタ?
「
「う・・・嘘だ!」
「洸汰・・・」
「あ、さてはドッキリでしょ!そうなんでしょ?」
二人が負ける訳ない。だって
「あのね、洸汰──」
「あ!僕が大っ嫌いって言っちゃったからママ達怒って僕にイタズラしてるんだ!そうに決まってる!ママもパパも出て来てよ!隠れてるのは分かってるんだからね!あの時はつい言っちゃっただけで本当は違うんだ。本当は──」
「洸汰!」
「!!」
「信じられないだろうけど本当なの」
「や、やだな・・・もうドッキリはいいよ・・・」
黙ってないで早くドッキリでしたってやってよ・・・やーい騙されたって出てきてよ・・・
「う、嘘だよ・・・ね?」
「・・・・・・」
震える声で問いかけるも沈黙が何よりの答えだった
「そ、そんなわけないよ・・・だ、だって帰ってくるって言ってたもん!来週こそ遊園地行こうって・・・・・・大嫌いって、言ってご、ごめ、んって、あや、謝って、ないもん・・・本当は大好きだって・・・う、うわああああ!!!」
その後は良く覚えてない
覚えているのは、叔母さんに手を引かれながら参加した葬式にまるでアリの行列のように真っ黒い服を着た人が沢山来て、口々に『立派な最後だった』『名誉ある死』とママ達を誉めそやした
名誉ある死って何だよ・・・立派な最後って何だよ
死んじゃったらもう会えないんだぞ!パパに頭を撫でてもらえないし肩車だってしてもらえない、ママの甘い卵焼きも食べられないし寝る前に絵本も読んでもらえない!お帰りもただいまもおはようもお休みも全部言えないんだぞ!大好きだよって言えないし言ってもらえないんだぞ!
大嫌いって言ってごめんなさいって言うことも出来ないんだぞ!
なのに・・・なんで、なんで皆誉めるんだよ!立派だなんて言うんだよ!
約束破ってまで顔も知らない人のために戦って、さよならも言わずに居なくなって・・・
立派だなんて言うなよ・・・
良くやったなんて言うなよ・・・
― パパとママなんか大っ嫌いだ!どっか行っちゃえ! ―
死んでよかったみたいじゃないか!!!
怒れば怒るほど頭の中がグチャグチャになって、もうパパもママもいないんだって意識すればするほど胸が苦しくなって、目に見えるもの全てが色褪せていく
ヒーローじゃなければ、ヒーローなんかじゃなければパパもママも居なくならなかったんだ
喧嘩して大嫌いって言うこともなかったんだ!
ヒーローなんて・・・ヒーローなんて大嫌いだ!
―――――――――――――――――――――
ジャリ
「!?」
誰!?
「あ、やっぱり居た。お腹すいたよね?これ食べなよ。おいしいよ?」
「てめぇ!何故ここが!」
音のする方に目を向ければ、手に夕食で作ったであろうカレーを持って緑谷の兄ちゃんが居た
「あ、ごめん。足跡追ってきた。あと気配。ご飯食べてないでしょ?ここに置くよ?」
確かにお腹は空いているが、かといっ食べたいとも思えなかった
「いいよ。いらねえよ。言ったろつるむ気などねえ。俺の秘密基地から出てけ」
「おお、秘密基地か!いいね!」
「うるせえよ・・・なんだよ揃いも揃って【個性】【個性】【個性】って・・・その上【個性】を伸ばすとか張り切っちゃってさ・・・気味悪い。そんなにひけらかしたいかよ"力"を!!」
力なんてなければ良いんだ
「・・・君の両親ってさ、ひょっとして水の【個性】の『ウォーターホース』だったりする?」
「マンダレイか!?」
喋ったの!?
「あー、えっと、この間の風呂場で君が気絶しちゃったときに、その・・・流れで聞いちゃって、情報的にそうかなって・・・」
「・・・」
「残念な事件だった。覚えてる。他のヒーローが出払っちゃってるときに凶暴な
「うるせえ。知った風なこと言ってんじゃねえよ。頭イカレてるよみーんな・・・馬鹿みたいにヒーローだ
「あー、その、なんて言うか」
「・・・なんだよ!もう用はないんだったら出てけよ!」
「いや、あの・・・・・・君がどんな気持ちで今ここに居るのかは会って間もない僕が判ることじゃないけど・・・その」
「なんだよハッキリ言えよ」
「何から何まで全部否定しちゃうと君が辛くなるだけだよ?」
「うるせえ!」
バシャッ!!
あ・・・
思わず水を浴びせてしまった
「うわっ!・・・冷たい・・・」
「う、うるせえよ!ズケズケと踏み込んでくんな!!出てけよ!!」
「ごめんね?あと、カレー食べてね?あ、ラップしてあるからゴミとかも入ってないし美味しいから」
「・・・」
「その・・・じゃあ行くね」
ボボッ
「・・・」
髪の毛をメラメラと燃える炎に変え、濡れた服から蒸気を出しながら来た道を戻っていった
『何から何まで全部否定しちゃうと君が辛くなるだけだよ?』
『洸汰、パパ達を救えなかった私らを恨むのは構わない・・・でも関係ない子達を悪く言っちゃダメだよ』
「うるさい・・・どいつもこいつも・・・判ってんだよそんなこと」
本当は判ってる
ヒーロー達は何も悪くないってことも、ママ達が死んで良かったとは思ってないことも
― 身体を張って市民を守るなんて立派じゃないか。なぁ馬鹿野郎よぉ?・・・年寄の俺より先に名誉ある死を選んでんじゃねえぞクソッタレが! ―
― 本当立派だぜ。たった二人で市民を守り切ったんだからな・・・ったく這い蹲ってでも帰って来いよ。ヒーローが自分とこのチビ泣かせたまま逝ってどうすんだよ・・・ ―
だって大の大人であるプロヒーローが『良くやった』って、『立派だ』って口では褒めてるのにすごく顔をクシャクシャにして泣いてたんだもん
そんな人達が悪者な訳がない
― すまねえ・・・本当にすまねえ・・・俺がもっと速く現場に駆けつけてれば!そうすれば坊主から父ちゃんと母ちゃんを取り上げちまうことになんかならなかったのに!すまねえ・・・すまねぇ・・・うぅ・・・ ―
― ごめん・・・私がもっとちゃんとしてれば・・・ごめん・・・ごめんね・・・ ―
恥も外聞もなく小さな子にすがり付くように泣きながら謝る人達が悪者な訳がないんだ
でもどうしようもない
どうしようもないんだ
パパとママを助けてくれなかったヒーローが嫌いだって、【個性】とか言って"力"をひけらかしてるのが悪いんだって、全部誰かの所為だって自分に言い聞かせてないと頭の中がグチャグチャになってどうにかなっちゃいそうで
本当に僕が嫌いなのは・・・僕自身
仕方ないんだって言い訳しながら、何も悪くないのにヒーロー達を悪く言って、ママ達が居なくなってから自分達も忙しいのに僕の面倒を見てくれる叔母さん達にも悪態ついて、ヒーローになろうって頑張ってる雄英高校の兄ちゃんを否定して・・・
本当は誰も悪くないって判ってるのに皆が悪いって言い続けてる自分が嫌いだ
こんな僕をみたらママはカンカンに怒って、パパは苦笑しながら怒られてる僕の頭をポンポンと叩くと思う。でももういない
「僕一人残してどうしていなくなっちゃったんだよ・・・」
僕の問い掛けに答えてくれる人は誰もいなかった
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雄英の生徒達が寝静まり、教師達が特訓内容や補習について話し合ってるころ、遠く離れた崖の上に4人の人影があった
「ああ、早く殺りてえ・・・早く行こうぜ・・・!疼いて疼いて仕方ねえよ・・・」
2mを超す巨体を仮面とマントで隠した大男がゆらゆらと落ち着きなく動きながら同行者を急かす
「まだ尚早。それに派手なことはしなくていいって言ってなかった?」
学生服に防災ヘルメットとガスマスクを着けた小柄な男が今にも飛び出しそうな大男を止めながらもう2人居る同行者の内の1人に問い掛ける
「ああ、急にボス面始めやがってな。今回はあくまで狼煙だ。うつろに塗れた英雄たちが地に堕ちる、その輝かしい未来の為のな」
「・・・ていうかこれ嫌。可愛くないです」
連れの男達が話している間ずっと口を閉ざしていた女が口を開いたかと思うと開口一番に飛び出したのは自身が着用している口と鼻を覆うタイプのマスクに対する文句だった
「裏のデザイナー・開発者が設計したんでしょ?見た目はともかく理には適ってるハズだよ」
「そんなこと聞いてないです。可愛くないって話です」
「どうでもいいから早く殺らせろ!ワクワクが止まんねえよ!」
「黙ってろイカレ野郎共・・・決行は10人揃ってからだ」
好き勝手に喋りだした同行者へ苛立ちを隠そうともせずに「待て」と言うと背後から数人の足音が聞こえてきた
「おまた~♪」
「仕事・・・仕事・・・」
「・・・」
やって来たのは、大きな包みを担いだラフな格好の男に口以外を拘束具でガチガチに縛られた男、人型の蜥蜴という表現がピッタリな異形系の男の3人
「これで7人・・・威勢だけのチンピラをいくら集めたところでリスクが増えるだけだ。やるなら
崖の上から遠く離れたヒーローの卵達の訓練施設を眺め、掌に乗せるように焼け爛れた右手を伸ばした
「まずは思い知らせろ・・・てめェらの平穏は俺達の掌の上だと言うことを」
ボッと掌から吹き出した黒炎は遠く離れた施設と重なり、未来を予知するかのように炎上していた