託された力   作:lulufen

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第42話 魔獣の森走破

「警察署の者です。通してください。通してください」

 

 野次馬をかき分けて警察署の方がやってきた

 

「すまないが、君が通報してくれた麗日さんかな?」

 

「はい、あの、緑谷君が!それで(ヴィラン)が、あの!あっちで!」

 

「落ち着いて、焦らないでいいから、まずは深呼吸をしようか。はい吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー」

 

 突然の事態からの混乱から上手く話せない麗日さんを警察が深呼吸で落ち着かせている

 

「スーハー、スーハー」

 

「落ち着いたかな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「じゃあ何があったのか話してごらん?まずはどうしてここに来たのかな?」

 

「えっと、今度学校の合宿があって、それで皆で買い物行こうってことになったんです。それで皆で買い物に来たんですけど、皆買うものがバラバラだったから集合場所と時間決めて解散したんです」

 

「ふんふんそれで?」

 

「私はデク君、緑谷君と一緒だったんですが、途中で別れて、でもやっぱ一緒に買い物しようと思って戻ったら」

 

「その緑谷君が(ヴィラン)に襲われてたと?」

 

「初めは(ヴィラン)だって気付かなかったんです。ただ知らない人に首を捕まれてて、でもデク君凄く強いのに全然抵抗とかしてなくて、私が手を放してって話しかけたら直ぐに離れたんですけど、デク君がその人(ヴィラン)だって・・・」

 

「なるほど」

 

「緑谷君!」

 

「緑谷!大丈夫かよ!?」

 

「皆!」

 

 遠くから声を張り上げながら飯田君達がやってきた

 

「彼らが一緒に来ていたお友達かな?」

 

「はい」

 

「じゃあ、悪いけど皆一度署まで来てもらって良いかな?」

 

「わかりました」

 

「あれ?緑谷君?」

 

 警察の方の指示にしたがってパトカーまで向かう途中で見知った人に声をかけられた

 

「塚内さん?」

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

 雄英襲撃に保須事件と派手に暴れている(ヴィラン)連合に対し、既に警察は特別捜査本部を設置し、捜査にあったっているらしく、その捜査に加わっている塚内さんに主犯の死柄木弔の人相や会話内容を伝えた

 

「なるほど、皆で買い物に出掛けたら運悪く(ヴィラン)に遭遇。(ヴィラン)の発言から民間人を危険に曝す恐れがあったため無抵抗でされるがままになっていたところ、偶然友人の麗日少女が戻ってきたため(ヴィラン)は君を解放して去っていったと」

 

「はい」

 

「ふむ・・・聞く限り連中も一枚岩じゃないみたいだな。オールマイト打倒も変わらず・・・といったところかな・・・・・・うん、よし。とりあえずありがとう緑谷君」

 

「あ、いえ僕が引き留められていればよかったんですけど・・・それに本来なら見知らぬ相手が間合いを詰めてきたら警戒して然るべきってお爺ちゃん、師匠達にも口を酸っぱくして言われてたんですが、有名になったって内心舞い上がってた所もあって・・・一人目が(ヴィラン)じゃなくて良かったです」

 

「一人目?」

 

「実は集合時間よりも2時間も前に木椰区ショッピングモールにいたんです。そこで同じく待ち合わせ時間より早く来たって言う髑髏の被り物した人とあって30分位話をしてたんです」

 

「名前は聞いたかい?」

 

「すみません」

 

 塚内さんの眉がピクリと動いた

 

 やっぱ名前は聞いとくべきだった・・・

 

「あ、いや、責めているわけではないんだ。職業柄気になってしまってね・・・どんな人物でどんな話をしたか聞いても?」

 

「えっと、スーツをビシッと着こなしたガタイの良い男性で、数年前に大けがを負って以来被り物がないと出歩けないそうです。たぶん何らかの維持装置だと思います、首元に何本か管が伸びてましたから。あと目もその大けがで不自由だそうで、【個性】で周りを把握してるって言ってました」

 

「数年前に大けが・・・」

 

「話した内容は学校は楽しいかとか勉強は大変じゃないかとかの本当に他愛ない話と、その人が施設の責任者兼先生として子供と暮らしてた話です」

 

「施設の責任者?」

 

「なんでも生まれが特殊な子を教えていたらしいですよ」

 

「・・・もしかしてその施設はもう無くなっていたりしないかい?」

 

「ええ、45年位前に襲撃を受けたって・・・やっぱりニュースとかになったんですか?」

 

 大人も子供も連れ去られちゃったんだからニュースか新聞に取りざたされてもおかしくないよね

 

「いや・・・事が事だけに表沙汰にはなっていなかったはずだ」

 

「?」

 

 事が事だけに?

 

「その男に何かされなかったかい?」

 

「変なことですか?・・・特に何も・・・あ、強いて言えば別れ際に握手した時にこう内蔵を鷲掴みにされて捏ね繰り回される様な不快感は感じました・・・【個性】による副作用で触った相手に不快感を与えてしまうって言ってましたけど・・・」

 

 アレは気持ち悪かったなぁ・・・

 

「なっ!!・・・いや、その後何か体に変化はあったかい?例えば・・・【個性】が発動しなくなったりとか」

 

「いえ、特に問題なく発動しますけど?」

 

 右手から氷を出し、左手に雷を纏わせる

 

[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]や[PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]の存在も感じ取れるからおかしなところはないが・・・

 

「良かった・・・いいかい、よく聞くんだ。君が会ったという骸骨マスクの男だが・・・恐らくそいつはオール・フォー・ワンだ」

 

「え!?」

 

 あの人が!?

 

「オール・フォー・ワンは6年前に相打つ形でオールマイトが撃退した。オールマイトは表面上は問題なくとも体のいたる所に支障が出ているが、それは相手方も同じ。維持装置の付いたマスクはその為だろう。加えて奴は過去に違法な人体実験を繰り返し把握しているだけでも数百人は犠牲にしている」

 

「じゃあ45年前の襲撃って・・・」

 

「ヒーローが研究施設に乗り込んで潰した件だろう。そして生まれが特殊な子とは実験によって生み出された人造人間、ホムンクルスだろう」

 

 だから識別番号の様な名前・・・

 

「あれ?じゃあアダ――いえ、何でもないです」

 

 あぶない・・・アダムさんのことを知らない人に話すところだった

 

「彼もその施設出身だよ」

 

「え!?」

 

 アダムさんのこと知ってるの!?

 

「なんだいその顔は・・・僕が知らないとでも?これでもオール・フォー・ワンを追ってる身なんだ。そこら辺は調べてるさ。最も調べている最中に御上から箝口令(かんこうれい)をしかれたがね」

 

「僕に言っちゃっていいんですか?罰則とかあるんじゃ・・・」

 

「そこは君が黙っていれば大丈夫。『彼と類似する【個性】を持っている』君の存在は警察(こちら)側も把握しているが、君が彼とどのような関係かは彼と直接関わりを持った者しか知らない。僕はオールマイトから最近になって教えてもらった口だよ。君と彼の関係を知る前だったら黙っていただろうけど、知っている今なら寧ろ君には伝えた方が良いと思ってね」

 

「ありがとうございます・・・・あれ?も、もしかしていつも見られているんですか?」

 

 監視されているなら下手なことは口にだせないな・・・オールマイトとアダムさん関連は公に知られる訳にはいかない案件だし

 

「ははは、ここは監視社会じゃないんだ。精々そんな子もいるね程度だよ。彼も手段は過激だったが(ヴィラン)だったわけじゃない。君も随分ヤンチャしていたようだが法を犯してるわけじゃないだろう?」

 

「は、ははは・・・」

 

 ヤンチャ・・・鬼哭道場の(ヴィラン)退治のことだろうな

 

「まあ、いずれにしろ自分と市民の命を握られながらよく耐えたよ。普通なら恐怖でパニックになってもおかしくないんだから。犠牲者ゼロは君が冷静でいたおかげだ。さ、事情聴取はこれにて終わり!玄関まで送るよ」

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「緑谷少年!塚内君!」

 

「お、いいタイミング」

 

「オールマイト!何で・・・」

 

 塚内さんに連れ添われて玄関を出たところでオールマイトの出迎えがあった

 

「個人的な話があってね」

 

「助けてやれなくてすまなかったな・・・」

 

「いえ・・・」

 

 ― 救えなかった人間などいなかったかのようにヘラヘラ笑っているからだよなあ ―

 

 僕の頭をポンポンと撫でるオールマイトの顔を見て死柄木の言っていた言葉を思い出す

 

「オールマイトも助けられなかったことはあるんですか?」

 

「・・・あるよ、たくさん。今でもこの世界のどこかで誰かが傷付き倒れているかもしれない・・・私はヒーローだ。でも架空(理想)正義の味方(ヒーロー)じゃない。悔しいが私も人だ。どんなに手を伸ばしても限度はある。手の届かない場所の人間は救えないのさ・・・だからこそ笑って立つ。正義の象徴が、人々の、ヒーローたちの、悪人たちの、心に常に灯せるようにね」

 

「死柄木の発言を気にしているんだね?たぶん逆恨みか何かさ。彼が現場に来て救えなかった人間は今まで一人もいない」

 

「はい」

 

 そうだよね。誰にだって限界はある。だから出来る限り救おうと足掻くんだ

 

「さァ遅くなってしまったがお出迎えだ」

 

 塚内さんが玄関を向きながらそう言うとお母さんが出てきた

 

「お母さん!」

 

「出久・・もうやだよ・・・お母さん心臓もたないよ・・・」

 

「ごめんね。大丈夫だよ、なんともないから泣かないでよ・・・ヒーローと警察がしっかり守ってくれてるよ」

 

「でも、でもぉ・・・」

 

 どうしよう・・・あ!

 

「あ、あのさ、カツ丼作ってよ!今日とっても疲れちゃったからお母さんのカツ丼が食べたいなぁ!!」

 

 話題を変える為におどける様にお母さんにカツ丼を強請る

 

 泣き止んでくれるかな・・・

 

「出久・・・ひっく、もう、しょうがないわね。とっても美味しいの、作ってあげるわよ」

 

 よし!

 

「じゃあ急いでスーパーに寄ってかなきゃね!」

 

「荷物持ちお願いね?」

 

「任せてよ!」

 

「三茶、悪いが彼らを送る手配を」

 

「ハッ」

 

「お世話になりました」

 

「気をつけて帰るんだよ」

 

「はい!」

 

 ――――――――――

 

「オールマイト。今回は偶然の遭遇だった様だが、今後彼・・・ひいては生徒が狙われている可能性は低くないぞ。もちろん引き続き警戒態勢は敷くが学校側も思い切った方が良いよ。雄英を離れることも視野に入れておいた方が良い」

 

「教師生活まだ三ヶ月とちょっとだぜ」

 

「だから前に言ったろ。向いてないって・・・・・・あと、先ほど入った情報だが・・・・・・オール・フォー・ワンが緑谷君に接触した」

 

「っ!?どういうことだ!」

 

「緑谷君が(ヴィラン)連合の主犯と思われる死柄木弔と接触する2時間ほど前、髑髏マスクを被ったスーツ姿のガタイの良い男に会ったそうだ。そしてその男は数年前の大けがで目が見えず、生命維持装置のようなものが手放せない。加えて45年前にとある施設で責任者の立場にあったが襲撃により施設がなくなったと聞いたそうだ。極め付けは別れ際に握手をした際に内蔵を鷲掴みにされて捏ね繰り回される様な不快感を感じたそうだ。目と生命維持装置は君との戦いの後遺症、45年前の施設襲撃はグラントリノも関わった神子創造事件のこと、最後は恐らく彼特有の【個性】によるもの・・・ここまで来れば確定だろう」

 

「な!それじゃ緑谷少年はもう【個性】が・・・」

 

「それは大丈夫。本人にも確認したが問題なく使えるようだ」

 

「よ、よかった・・・」

 

「だが、わざわざ本丸が動いたってことは・・・」

 

「決着の日は近いってことか」

 

「ああ、今度はちゃんと捕えよう」

 

「うん、今度こそ・・・またよろしくな塚内君」

 

「おう!」

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「――とまあそんなことがあって、(ヴィラン)の動きを警戒し、例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」

 

「「えー!!」」

 

「もう親に言っちゃってるよ」

 

  相澤先生の言葉に何人かが不満の声を上げた

 

「故にですわね・・・話が誰にどう伝わっているか学校が把握できませんもの」

 

「合宿そのものが中止にならねえだけいいだろ」

 

 どこから情報が洩れるか見当がつかない以上生徒にも伏せておくのは当然の結果か・・・

 

 こうしてあまりにも濃密だった前期は幕を閉じ、夏休み、

 

 ―― 林間合宿当日 ――

 

 

「A組のバスはこっちだ!席順に並びたまえ!」

 

 飯田君の指揮の元ゾロゾロとバスに乗り込んでいく

 

「一時間後に一回止まる。その後しばらく・・・」

 

 バスの中では静かにしている者は少数で、大多数はハイテンションで騒いでいる

 

「音楽流そうぜ!夏っぽいの!」

 

「ポッキーちょうだい」

 

「瀬呂がババ引いた!」

 

「バラすなよ!」

 

「席は立つべからず!べからずなんだ皆!!」

 

「あ!飛行機雲!」

 

「どれどれ?」

 

「・・・はあ、まあいいか」

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「――君」

 

 誰かにゆすられてる気がする

 

「緑谷君」

 

 ん?

 

「座ったままってのも疲れるもんだな」

 

「トイレトイレェ・・・」

 

「緑谷君、一旦降りるようだ。起きてくれ」

 

「ふぁ・・・?」

 

「降りるそうだよ」

 

「・・・あ、パーキングか。ありがとう」

 

 いつの間にか寝ちゃってたよ・・・

 

「先に降りてるよ」

 

「うん」

 

 じゃあ、コレも持って行くか

 

「ふん~~はぁ」

 

 固まった体をほぐすように大きく伸びをしながらバスを降りると、そこには落下防止の柵があるだけの何もない崖が目に入った

 

「休憩だー・・・つかなにここ、パーキングじゃなくね?」

 

「ねえアレ?B組は?」

 

 見晴らしは良いけど、何故ここで休憩?

 

「何の目的もなくでは意味が薄いからな」

 

 先生?

 

「よーうイレイザー!!」

 

「ご無沙汰してます」

 

 あ、あの人たちは!!

 

『煌めく眼でロックオン!』

 

『キュートにキャットにスティンガー!』

 

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』

 

 掛け声と共に決めポーズをビシッと決めて登場した女性二人・・・と良く分からない子供が一人

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

「おお!連盟事務所を構える4名一チームのヒーロー集団のワイプシだ!山岳救助を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にな――」

 

「心は18!!」

 

「――ヘブ」

 

 突然口を塞がれ、グイグイと肉球を押し付けながらピクシーボブが顔を寄せてくる

 

「心は?」

 

「え・・・?」

 

「こ・こ・ろ・は?」

 

 突然の質問に戸惑っていると肉球の押しつけが強くなり、気のせいじゃなければおでこに爪が当たって刺さりそうだ

 

「じゅ、18!!」

 

「素直でよろしい」

 

 年齢を連想させる話は禁句だったか

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね・・・あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

 

「遠っ!!」

 

 マンダレイが指さす方向には木々の生い茂る森と山。よく目を凝らせばゴマ粒にも満たないほど小さな人工物らしき物が見える

 

[ズーム]

 

 アレは屋根・・・かな?

 

「え?じゃあ何でこんな半端なとこに・・・」

 

「いやいや・・・まじ?」

 

「バス・・・戻ろうか・・・な?早く・・・」

 

 皆考えることは同じだったのかジリジリとバスの方へ後退し始めた

 

「今はAM9:30・・・早ければぁ・・・12時前後かしらん」

 

「ダメだ・・・おい・・・」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ!!早く!!」

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

「わるいね諸君」

 

 突然地面が波打ち始め、急ぎバスに駆け込もうとしていた皆を巻き込むほど大きな土石流が発生した

 

「合宿はもう始まっている」

 

[操土]

 

「うあああああぁぁぁぁぁ・・・・・!!!!」

 

「ちょ!落ちるぅぅ・・・う?」

 

「なんか止まった?」

 

「あら?ピクシーボブ?どうしたの?」

 

「いや、なんかビクともしないんだけど・・・干渉されてる?」

 

「皆無事!?」

 

「緑谷が助けてくれたのか!」

 

「峰田の奴が落っこった!他は無事っぽい」

 

 急いで止めたけど間に合わなかったか・・・

 

「峰田君が落ちちゃったか・・・取り敢えず今降ろすから動かないでね!」

 

「分かった!」

 

「またお前か緑谷・・・」

 

 ふと嫌な予感がして相澤先生に目を向ければ、苛ついた表情と共に髪が逆立ち始めていた

 

 げっ!相澤先生!?髪が逆立ってるってことは!!

 

 思った通り土砂への干渉が出来なくなっていて徐々に崩れ始めている

 

「うおわ!ちょ!緑谷!?もうちょいゆっくり!」

 

「皆ごめん!やっぱ落下する!」

 

「え!?わ、分かった!」

 

「マジかよ!」

 

「お?干渉が消えた!えい!」

 

「やっぱこうなるのかよぉぉぉぉ!」

 

 どうにか食い止めていた土砂が再び動きだし、僕らを飲み込んだ

 

「私有地に付き【個性】の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!」

 

 土に塗れながら落下していく僕らにマンダレイが叫ぶようにして言う

 

「この魔獣の森を抜けて!!」

 

 ――――――――――

 

「ぺっぺっ!口ん中砂入った・・・」

 

「ごめん皆、結局落とされた」

 

「気にすんな!いきなり落とされるより、判ってて落とされる方が精神的にまだマシだ」

 

「・・・それにしても魔獣の森?」

 

 見当たす限り木、木、木・・・森ではあるけど魔獣?

 

「なんだそのドラクエめいた名称は・・・」

 

「マンダレイが魔獣の森だって言ってたんだよ・・・何で魔獣?」

 

「マジで魔獣がいたりしてな!」

 

「んなことよりリミット三時間だろ?早いとこ行かなきゃ飯抜きだ」

 

 不意にガサガサと草を掻き分けるような音がして全員がそちらに目を向ければ、どう見ても普通の生き物じゃない生物が姿を現していた

 

「「マジュウだぁぁぁぁぁ!!!」」

 

『静まりなさい獣よ!下がるのです』

 

 すぐに口田君が【個性】で魔獣を制御しようとしたが全く通用した様子はない

 

 口田君の【個性】が効かないってことは非生物か会話が通じないか・・・

 

 魔獣の正体について誰何(すいか)している内に魔獣はボロボロと土くれをまき散らしながら太い前足で口田君を叩き潰そうとした

 

 マズイ!ってアレは土くれ!?ならアレは非生物!?

 

高速戦闘(タイプスピード)!うらぁ!」

 

 口田君を抱え、振り上げられていた前足を蹴り砕き、その反動で距離を開ける

 着地した僕が反撃に移るよりも早く、脇をすり抜ける様によろめいた魔獣へ轟君、かっちゃん、飯田君が追撃を加えて止めを刺していた

 

「無事か!?」

 

()るなら一撃で()りやがれ!」

 

「ごめん、ありがとう!」

 

 ――――――――――

 

「しかし無茶苦茶なスケジュールだねイレイザー」

 

「まァ通常2年前期から修得予定の物を前倒しで取らせるつもりで来たのでどうしても無茶は出ます。『緊急時における【個性】行使の限定許可証:ヒーロー活動認定資格』その〝仮免〟・・・(ヴィラン)が活性化し始めた今、1年生(かれら)にも自衛の術が必要だ」

 

「あららぁ~あたしの土魔獣がもうやられちゃったわ」

 

「では引き続き頼みます『ピクシーボブ』」

 

「くぅーお任せ!逆立ってきたぁ!さァ何匹土魔獣が倒せるかニャン?」

 

 ――――――――――

 

「あわわわわわ!」

 

 土くれの魔獣を粉砕し一安心と思っていると、腰を抜かした峰田君がアワアワと茂みを指差し、その先には今さっき撃破した土くれ魔獣が何体も集まり団体でやってくるのが見えた

 

 もしかして撃破しながらの走破・・・?

 

「うそだろぉ・・・」

 

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「うりゃ!っと」

 

「・・・今何体目だ?」

 

「わかんね」

 

「腹減った・・・」

 

「言うな、余計腹へるだろ・・・」

 

「緑谷~悪いけどまた水くれ・・・」

 

「俺にも」

 

「いいな、私達にもちょうだい」

 

[氷]

[鉄腕]

[炎]

[操水]

 

 大きめの氷を作り頂点部分を砕いて炎で溶かし、[操水]で空中に保持して切島君達に差し出す

 

「はい」

 

「サンキュー!」

 

「水だぁ!」

 

 皆大分限界に近いな

 

 スマホで確認すれば12時を過ぎた辺り

 

[跳躍(ジャンプ)]

[翼]

 

 皆が飲み終わったのを確認してから、空からマンダレイ達に落とされた崖と目的地であろう米粒程に見える人工物らしき物の位置を確認すれば、現在地はあと少しで半分を過ぎる辺り

 

「緑谷君、施設見えたかい?」

 

「人工物っぽい物はあった」

 

「あとどれくらいで到着できそうだい?」

 

「このまままっすぐ進んで後3/5位は進まないと着かないと思うよ」

 

「そんなにあるのぉ・・・」

 

「麗日君大丈夫かい?」

 

 飯田君の質問に答えると、一緒に聞いていた麗日さんは思ったほど進めていなかったためかその場でペタリと座り込んでしまった

 

 どう頑張ってもあと30分じゃたどり着かない。ちょうど開けた場所にいるし一旦休憩を挟んだ方が良さそうだ

 

 僕はポケットから直径が3cm位のタブレットが入ったケースを取り出し中身を確認した

 

 ケースには三十枚ある。で一枚コップ一杯だから・・・一人に付き大きめのカップ一杯分にはなるかな?いや、量を少なくすればこの後にも飲めるから分けた方が良いか?・・・あ!しまった、コップ持ってないよ・・・[簡易創造(インスタントクリエイト)]のコップじゃ飲み切る前に無くなって火傷しそうだし、それに紙はメモ帳があるけどサイズ的にお猪口サイズじゃ使えないし・・・かと言って直飲みなんかできないし・・・

 

「なにそれ?」

 

「インスタントスープの素にちょっと手を加えてタブレット状にした物だよ」

 

 お爺ちゃん達の伝手で会えた元レスキュー隊の人に『助けた人の不安が安らぐ物とは何か』と聞いたところ、『暖かくて旨い物、持ち運びの面からスープが最適』と言われたので、それから作り始めていた

 

 作り方は豆腐、ワカメ、溶き卵、蒸かしたジャガイモとニンジンを乾燥させて粉末にした物と細かくしたジャーキー、片栗粉、市販の粉末スープ(コンソメ味)を混ぜ、[簡易創造(インスタントクリエイト)]で作り出した水を粉末に対して少し湿る程度加えて練る。それを鉄製の型に詰めて加圧して成型し、[簡易創造(インスタントクリエイト)]の水が時間制限で消えたあとに型から外せばタブレット型のインスタントスープの素の完成

 

 そしてコレは自作インスタントスープの試作品の中でお母さんがGOサインをくれたもの

 

 他は材料費が(かさ)んだり、不味かったりでダメだったんだよなぁ・・・非常時に飲むならカロリーが高い方が良いだろうとアボカドと牛脂を加えた時はどの粉末スープにいれても胸焼けがするほど油っぽかったっけ

 

 ちなみに成型にはカル爺が作ってくれた万力型の成型機を使っている

 

「ただ容器をどう用意しようかと思――」

 

 そうだ八百万さんに頼めばいいんだ!

 

 斜め前を進んでいる八百万さんの後ろ姿を見て解決策が浮かんだ

 

「八百万さん!」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「急で悪いんだけどカップを全員分創れる?使い終わったら燃やして灰にするから紙製が良いんだけど」

 

「それくらいなら大丈夫ですわ。でも何に使うんですの?」

 

「一度休憩をいれようと思ってね。運よく自作のインスタントスープの元を持ってるからそれを皆で飲もう。あと、三人共悪いけど補助をお願い」

 

 手に持ったケースを振りカシャカシャ慣らしてインスタントスープの元の存在をアピールし、三人に協力をお願いする

 

「ええ、任せてください」

 

「任せといて!」

 

「ああ」

 

 なら、まずは皆を呼び止めないとね

 

「皆!一旦ここで休憩しよう!スープを用意するから警戒する班と休憩する班に別れて、休憩する班の人は八百万さんか麗日さんからカップを受け取って!飯田君、班別けをお願い」

 

「了解した。皆!近くの者と組んで4人組を5班作るんだ!二つの班が警戒に当たり、他の班は休憩だ!一班目の5分後に二班目が合流し以降は10分起きに一班ずつローテーションで警戒に当たってくれ!」

 

 僕の呼び掛けに皆足を止め、続く飯田君の呼び掛けに即席の班が次々と出来上がっていく

 

 そして発案者の僕と協力者の麗日さん、八百万さん、飯田君は自動的に4人組となった

 

[操土]

 

 土を盛り上げて簡易の長椅子を作り上げ

て即席の休憩スペースを作った

 

「麗日さん、コレを被せるのを手伝ってください」

 

「ホイホイ」

 

 気を利かせた八百万さんと麗日さんが長椅子にレジャーシートの様なものを被せてくれたので座っても汚れる心配もない

 

「んじゃ俺達が先に警戒に当たるわ」

 

「二番手は俺らが警備するよ」

 

 そうこうしている内に誰が初めに警戒するか決める話となり、真っ先に切島君が名乗りをあげたことで、同じ班の瀬呂君、かっちゃん、口田君、二班目が尾白君、砂藤君、葉隠さん、梅雨ちゃんが共に最初の警戒に当たってくれる事になった

 

「悪いがよろしく頼む!」

 

「じゃあその次私らがやるよ」

 

「ならその次!」

 

 切島君達に続く様にあっという間にローテーションが組まれた

 

「じゃあ最後は僕らだね」

 

「おいおい、バカ言うなよ。緑谷達には休憩準備の仕事をやってもらうんだ。警備はやらなくてもいいんだよ」

 

「いいの?」

 

「そうだよ。その代わりあっちに着くまでにまたちょくちょく水頂戴!」

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

[氷]

[炎]

[操水]

 

 ゾロゾロと集まってくる皆に飲ませるスープを作るため、僕は氷と炎で作り出した水を[操水]で空中に保持しながらスープの元を半分、十五枚放り込み撹拌、再び炎で加熱してカップに注いでいき、それを麗日さんと八百万さん、班の振り分けが終わった飯田君も加わって配っていく

 

「うめえぇ!」

 

「染み渡るわー」

 

「ウェーイwww」

 

「ありがたいけど緑谷準備良すぎない?こんな事もあろうかとって奴?」

 

「いや、たまたまだよ。あった方が便利だと思って今までチマチマと試作品を作ってたんだ。で、パーキングで休憩する時に何人かに試飲してもらって感想を聞こうと思ってバス降りる前にズボンのポケットにいれてたんだ。そしたらコレでしょ?運が良かったよ・・・本当はもっと早く出そうとも思ったんだけど、どれ位で到着できるか分からなかったから勝手ながら温存してたんだ」

 

「なんにせよありがとな!」

 

「どういたしまして、一応もう一回分はあるからまた途中で休憩挟むときに飲もうね」

 

「マジか!楽しみだわ!」

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

 休憩後、時には庇い、時には庇われ、不意に襲い掛かってくる魔獣を撃破しながら走り続けた僕らが、へとへとになりながらもマンダレイ達の元に着いたのは青かった空に少し赤が混じり始めた頃だった

 

「つ、着い、た・・・」

 

「やーっと来たにゃん!・・・取りあえずお昼抜くまでもなかったわねぇ」

 

「何が三時間ですか・・・途中休憩抜きで走っても七時間以上かかるじゃないですか・・・」

 

 出発は9時30分で現在5時30分・・・ちょこちょこ挟んだ休憩で大体一時間位だから走ったのは約七時間か・・・

 

「腹減った・・・緑谷のスープがなかったらマジ死んでた」

 

「悪いわね、私たちならって意味アレ」

 

「実力差自慢の為か・・・やらしいな・・・」

 

「じゃあ、あの土くれ魔獣はなんですか・・・」

 

「ああ、アレね。アレは私が作ってけしかけた奴。まあ人生山あり谷ありだ。それに強化合宿だよ?ただ走るだけなんて無駄な時間はないのだ!ニャハハハハ!」

 

「だからって団体で来られると辛いんですけど・・・」

 

 疲れ切ってるところに四方向からの挟撃とかもうダメかと思ったよ

 

「め、飯・・・腹が減った・・・」

 

「ウェ・・・ィ・・・」

 

「にしてもそこの君達!」

 

「?」

 

「襲いかかる魔獣を率先して撃破する躊躇の無さは経験値によるものかしらん?」

 

「特にそこのモサモサ君!」

 

「僕?」

 

「周りの様子を見て自ら休憩を呼び掛けるとは大したもんだ!普通は時間制限を設けられたら兎に角走り続けるもんだけどねぇ~」

 

「皆大分疲れてたし目的地までまだ当分走らないといけなそうでしたから」

 

「ところで君、年上のお姉さんに興味はない?」

 

「へ?」

 

 行き成り顔を寄せられて思わず仰け反る

 

「ほらほら歳の差婚って流行ってるじゃない?どうどう?」

 

「え、いや・・・その・・・」

 

「ふふふふ・・・!3年後が楽しみだわ!今のうちに唾つけとこー!」

 

「わわわ!」

 

「マンダレイ・・・あの人あんなでしたっけ?」

 

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

「ところでずっと気になってたんですけど、その子はどなたかのお子さんですか?」

 

「ああ違う、この子は私の従甥だよ。洸汰!ホラ挨拶しな一週間一緒に過ごすんだから・・・」

 

 事情は良く分からないけど一週間一緒に過ごすなら自己紹介はしっかりしとかなきゃね

 

「雄英高校ヒーロー科の緑谷って言います。よろしッ!?いきなり何を!?」

 

 不意打ちで僕の股目掛けて振りぬかれた拳を間一髪で掴み防いだ

 

 あぶな!狙いどころが危険なんですけど!?

 

「くっ放しやがれ!俺はヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえ!」

 

「つるむ!?いくつだ君!!」

 

 飯田君の質問に答えることなく洸汰君は僕の腕を振りほどくと肩を怒らせながら施設内へ行ってしまった

 

 キレ方といい口の悪さといい・・・

 

「なんか、かっちゃんみたい」

 

「あ゙あ゙?てめ、クソデクが!あんなマセガキと俺を一緒にしてんじゃねえぞ!」

 

 あ、口に出しちゃった上に聞かれちゃったよ・・・

 

「いや、似てると思うぞ」

 

「似てねえよ!舐めプ野郎は黙ってろ!」

 

「悪い」

 

「茶番はいい。バスから荷物降ろせ。部屋に荷物運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」

 

「「「「はい!」」」」

 

 各人荷物を持ち、男女別の部屋に運び込みそのまま食堂へ向かった

 


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