託された力   作:lulufen

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第41話 知らぬ間の邂逅、偶然の再開

 ―― 木椰区ショッピングモール ――

 

 ちょっと早く来すぎたかな

 

 携帯電話で時間を確認すれば集合時間どころか、店の開店時間の一時間前

 どの店もまだ開店準備中で開いてない

 

 なぜ一人で開店前の店を眺めているかというと、皆で買い物をするため皆が集合するまで待っているのだ

 

 期末試験の合否発表では、筆記は全員合格したが演習試験をクリアできなかった上鳴君・芦戸さんペア、切島君・砂藤君ペアの4人+(プラス)クリアはしたが合格点を貰えなかった瀬呂君の五人が期末試験で赤点を出してしまった。

 それによって5人、特に芦戸さんは自分達の分まで楽しんでくれと悲しそうにしていたが、相澤先生の「赤点関係なく全員林間合宿参加します」の一言に一気にハイテンションになり、そのテンションのままに合宿に持っていくものを買いに行こうと週末の今日、ここ木椰区ショッピングモールに皆で買い物に来ることになった訳だ

 

 そして集合時間は午前9時30、現時刻は午前7時20分

 

 楽しみすぎて30分前どころか2時間前に来てしまうというまるで遠足当日の小学生の様な真似をしてしまった

 

 だが、コレは仕方ないことなんだ。だって鬼哭道場に入門してからこれまで、一度たりとも友達と買い物に出かけるというイベントをやっていないんだから

 

 だから楽しみで楽しみで仕方なかった

 

 別に友達がいなかった訳じゃない。両手で数えられるくらいはいた。以前のかっちゃんとの決闘擬きの一件が原因で小学校では浮いて、中学ではその噂が尾ひれを着けて広まり、先生以外に話しかけてくるのは噂なんて気にしないという人だけだった。しかも、どうにか【個性】を制御しようと四苦八苦しながら道場で毎日体を鍛える日々だったこともあり一緒に買い物に出かけることがなかった

 

 だから2時間も早く来てしまっても仕方ないことなんだ!

 

「って誰に言い訳してるんだ僕は・・・」

 

 客観的にみるとあまりにも寂しい奴に思えて居もしない誰かに対して言い訳をしてしまった

 

「こんにちは」

 

「?・・・っ!!こ、こん、に、ちは!」

 

 ベンチに座りながら居もしない誰かに言い訳をしていると声を掛けられた。

 振り向けばドアップで髑髏が視界一杯に広がり、心臓が跳ね上がる。

 どうにか挨拶を返したが動揺してしまって声が途切れ途切れになってしまった

 

「驚かせてすまないね。君は緑谷君だろう?ちょっと話をしないかい?待ち合わせより早く来てしまってね。連れが来るまで手持ちぶさたなんだ」

 

「いいですよ。実は僕も待ち合わせ時間よりも早く来てしまって」

 

 バクバクなる心音が聞こえない事を祈りつつ話しかけてきた人を見れば、ビシッと着こなした黒いスーツと真っ先に目に入った頭をスッポリ覆うリアルな髑髏の被り物

 声と体格から男性と判る

 

 あまりにもリアルだったものだから、目の部分が塞がってなければ本物の白骨だと思ったほどだ

 一言でいえばヤバい人

 

「それは丁度良かった。あ、マスクをしたままですまないが、数年前に大怪我を負ってしまってね。これがないとまともに出歩けやしないんだ」

 

 男性は首辺りの部分から伸びている管のようなものを指差しながら言う

 

 なんらかの維持装置ってヤツかな?にしても不気味だ

 

「いえ、人にはそれぞれ事情がありますから」

 

 内心すごくビックリしたけどどうにか顔に出さなかった。誰だって初対面で驚かれたら気分悪いもん・・・・・・出てないよな?

 

「そういってくれると助かるよ。このマスク格好いいだろ?気に入っているんだ」

 

 返答に困る質問はやめて欲しい。格好いいかだって?すごく・・・不気味です。言わないけど、絶対

 

「ええ、そうですね・・・それにしてもよく僕が緑谷だってわかりましたね。そんな目立つ顔してないと思うんですが・・・」

 

「見た目じゃなくて雰囲気で判断したといった方がいいかな?ご覧の通り・・・といっても分からないかもしれないが目が不自由なんだ。だから【個性】で周囲の状況を把握しているんだ。そして知り合いから聞き及んでいた緑谷君らしき人物を感じてね。有名人と話せる機会なんて早々あるもんじゃない。だから思いきって話しかけてみようと思ったんだよ」

 

「そうだったんですか。なんだか照れますね」

 

 お世辞でも持ち上げられるのは嬉しいな

 

 それから数分程「学校は楽しいか」とか、「勉強は大変じゃないか」とかたわいない話をしていたら、マスクの男性は先ほどまでとは打って変わって急に黙りこくってしまった

 

「どうしたんですか?」

 

「ああ、いや、昔を思い出してしまってね・・・」

 

「昔・・・ですか?」

 

「もう、かれこれ45年位前になるかな。そのころ、ある施設で責任者兼先生として暮らしていたんだが、その時もこんな風に笑っていたなと思ってね・・・・・・あの時は所用があって施設を少しの間空けていたんだ。そしてその間に、ヒーロー(悪い奴ら)がやって来てね。職員と子供達が応戦したんだ」

 

「え!?」

 

「その時の後遺症で子供達は皆廃人同然の上に、職員含めて皆連れてかれてしまった」

 

「酷い・・・そんな奴らは捕まえなきゃ!」

 

「はは、怒ってくれてありがとう。施設に戻ったときは唖然としたよ、皆居なくなっていたのだから。だからこそ、僕の煮えくり返った(はらわた)はそう簡単には治まらなくてね」

 

「ど、どう、したんですか?」

 

淡々と語っているのに、その声にチリチリとひりつくような怒気を感じた

 

「復讐した」

 

「ふ、復讐!?」

 

「そう、復讐。居場所を突き止めて一人ずつね・・・主犯格に手を下すことができなかったのが心残りだよ」

 

「復讐なんて・・・」

 

「君も彼らの様に『復讐は何も生まない』なんて言うかい?もしそうならその考えは間違っている。少なくとも復讐者からしたら心の安定を得るために必要なプロセスだよ」

 

「そ、そんな」

 

「心配しなくても命()奪っていないし怪我らしい怪我もさせてない、勿論法に裁かれる様なヘマはしない(こともない)から安心していいよ」

 

「そうですか・・・」

 

 納得は行かないけど、もう済んでしまったことを今から言っても仕方ない

 飯田君の時もそうだったけど、言って止められるほど簡単な話じゃない

 止められるならそもそも復讐なんて起こさないだろうし・・・

 

「・・・ただし二度とヒーロー活動は出来なくなってもらったがね・・・」

 

「え?すみません、最後何か言いました?聞き取れなくて」

 

 呟く様にぼそっと言われた言葉は、彼の被る首から上をスッポリ覆うマスクに(こも)って聞き取れなかった

 

「いや何でもないよ。まあ僕の復讐についてはどうでもいいんだ。その後皆の所在を探したら、一人を除いて居場所がわかったがどうしてもその一人が見つからなかった」

 

「見つからなかった一人って・・・」

 

「078AーAと言う子供だ」

 

「それが名前ですか?」

 

 どう考えても型番とか何かの記号・・・だよな

 

「正確には第78期生のアダム、識別番号Aだ」

 

 マジで名前!?・・・ってアダム?

 

「私の教え子達は生まれが特殊でね、名前が無いんだ。だから始まりの人類であるアダムの名前を全員に与えた」

 

 じゃあ、アダムさんもこの人の教え子?

 

「ただ、そうすると『人を識別する意味での名前』がなくなってしまったので苦肉の策で識別番号をつけたのさ。まあ、そんな名付けをしたせいか懐いてくれる子は少なかったがね」

 

「きっと態度に出さなかっただけで懐いてくれていますよ!」

 

 落ち込んだ男性を励まそうとどうにか搾り出した言葉は月並みな言葉だった

 

「ありがとう。そんなでも私にとっては大切な子供たちが奪われてからは少々荒れていたよ・・・でもね、実は足取りの掴めなかった子とも、24年位前だったかな?会うことができてね、神父の下で暮らしていたよ」

 

「それは良かったですね」

 

 会えたんだ、良かった・・・

 

「でもね、一緒に暮らさないかって誘ってみたんだが、神父様と共にいたいと拒絶されてしまってね」

 

「それは・・・」

 

「何年か後にまた会いに行ったんだが些細なことで喧嘩してしまって・・・それっきり会わないでいたら、7年前にぱったりと消息を絶ってしまったんだ」

 

「え?」

 

 7年前?

 

「いくら探しても見つからなくてね。なんとなくもう会えない気がするんだ」

 

 アダムという名前、7年前、消息を絶つ・・・それってやっぱり・・・

 

「喧嘩なんてしなければ良かったと後悔したよ・・・まさかあの程度の事で怒るとは思わなかった・・・」

 

「何て言ったらいいか・・・」

 

 たぶん、そのアダムさんは、僕に託してくれたアダムさんのことだ・・・この人がアダムさんと会えなくなっちゃたのもきっと僕の・・・

 

「心配しなくても大丈夫だよ。あの子にはもう会えないと思うが、最近ではまた一人の子供に勉強を教えはじめてね、荒れてた心が晴れるようだよ。もし、君が会うことがあったらよろしく頼むよ」

 

「わたりました。その子もアダムさん?」

 

「違うよ。アダムを名乗らせるのは名前のない子だけだ。っと僕の話ばかりですまないね」

 

「いえ」

 

「今度は君の話を聞かせて欲しいな」

 

「僕の話ですか?」

 

「学校生活・・・については聞いたから・・・そうだな、なんでヒーローを目指したのかとか?」

 

「なんでヒーローを目指したか、ですか・・・憧れと責任・・・ですかね」

 

「ほう、憧れと責任ね。どうしてだい」

 

「憧れたのは格好良かったから・・・自分じゃどうしようもない時、颯爽と現れて助けてくれるヒーロー。小さい頃、僕もああなりたいってヒーローが活躍する番組をテレビに噛り付いて見てました。特にオールマイトの」

 

 大火災の中、血を流しながら何人もの人を救出した動画は何度見てもワクワクしてたな

 

「では責任とは?失礼だが君はまだプロではない。責任を負うことなんてないんじゃないかい?」

 

「そりゃヒーローとしてはまだ卵で責任を負うことなんてそうありませんが、それとは違うんです」

 

「というと?」

 

「何言ってんだって思われるかもしれませんが・・・託されたんです」

 

 アダムさんとオールマイトに・・・

 

「託された?」

 

「辛い現実にぶち当たって、親に心配かけまいと顔では笑って、でも心で泣いていた僕に、君ならできると言ってくれたんです」

 

「その人が?」

 

「人達ですね・・・二人いるんです。一人は今の僕よりも何倍も早く、何十倍も多くの人が救えるのに、泣いていた僕に『君ならできる』って、『私の代わりに』ってバトンを託してくれたんです。もう一人は頑張ってる僕を見てやっぱり『君ならできる』って託してくれた。僕じゃなくてもっと条件のいい人はいくらでも要るのに、僕を選んでくれた。僕はその期待に答えたい。だから僕がヒーローを目指した理由は憧れと責任なんです」

 

「そうか、では頑張らねばならないね」

 

「はい!」

 

 今はまだ卵だけど、いつか平和と最強の象徴として「僕が来た!」って胸を張って言えるように

 

「お?そろそろ連れが来る頃かな?聞いておいてすまないね」

 

 時計が見えるわけではないのに、何故か正確に時間を把握している男性はベンチから腰をあげた

 

「いえ、そういえば生徒さんの名前は何て言うんですか?」

 

「ん?そういえば言ってなかったね。その子の名前はしがーーおっと噂をすればなんとやら、連れが来たようだ。年寄りの話に付き合わせて済まなかったね」

 

 男性が顔を向けた方に目を向けると、タキシードに黒いフルフェイスヘルメットを被った人が立っていた

 

「あ、いえ」

 

「そうだ、記念に握手してくれないかな?」

 

「いいですよ」

 

「ありがとう」

 

 差し出された手を握ったとたん、内蔵を直接鷲掴みにされてこね回され、そのまま引きずり出される様な異様な気持ち悪さと言い様のない悪寒がした

 

 気付けば男性の手を振り払っていた

 

「あ、すみません!」

 

 無意識とはいえ握手した手を振り払うなんて失礼なことをしてしまった

 

「ああ、気にしないでくれ、こちらこそごめんよ。【個性】で周りの状況を把握しているといったが、いかんせん触れた相手にすごい不快感を与えてしまうんだ。あまりにも楽しい時間だったのでつい忘れてしまったよ。本当に済まなかったね」

 

 この気持ち悪さは不快感とかそんな次元じゃなかったんだけど・・・

 

「では失礼するよ。さようなら」

 

「さ、さようなら・・・・・・あ!」

 

 結局生徒さんの名前聞きそびれちゃった・・・

 

 既に席を立ってヘルメットの人のところへ向かう男性の背を見送りながら、結局生徒さんの名前を聞いてないことに気づいた

 

 ――――――――――

 

「やはり無理だったか・・・」

 

「先生、余り出歩かれては困ります。今の先生は無理が効かないのですから」

 

 心配そうにいうタキシードの男を余所に髑髏の男は楽しげに笑う

 

「くくく、あの少年はやはり078AーAの後継者だ。即席の作り話にいくつかキーワードを混ぜたら直ぐに彼を思い浮かべたよ」

 

「では求め続けた【個性】は手に入れたのですか?」

 

「いや、あの【個性】はそこらの【個性】と違ってどういうわけか私でも奪えないんだよ。試しに彼なら行けるかと思ったが無理だった。無意識だったようだが手を振り払われてしまったよ」

 

「そうですか・・・しかし、そうであるならば何も先生自ら確認せずとも宜しかったのでは?」

 

「実際に見てみたかったのだよ。オールマイト(弟が足掻いた証)と僕の遺伝子を組み込んだ最高傑作(血を引いた息子)の後継を」

 

「そのために私達に[受心(じゅしん)]の【個性】持ちを探させたのですか?」

 

「直接聞いたところで警戒されるだけだからね・・・それにしてもこの【個性】は使えないね。表層しか読み取れない上に効果範囲は1mと短いし、電波があると聞き取り辛くなるから周囲の電子機器の電源を落とさないといけないなんて・・・今回の事がなければ奪う価値がないゴミだ」

 

「そのゴミの為に私は働かされたのですが?」

 

「そうむくれないでくれよ、感謝してるさ。さあ、確認したいことは出来た、帰ろうか黒霧。大事な生徒が待っている」

 

「ええ」

 

「託された・・・ね・・・緑谷出久か・・・くくくくく・・・」

 

  ―― 彼、欲しいね ――

 

 黒いモヤに二人の男が包まれると、まるで元々そこにはいなかったかのように姿を消した。

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

 髑髏マスクの男性と別れてから少しすると徐々に店が開き始め、ちらほらと買い物客の姿を見かけるようになった

 

 それをぼーっと眺めているとゾロゾロと皆がやって来た

 

「デク君早いね!」

 

「君だけいないから寝坊してるのかと思ったらここに居たのか!」

 

「早く来すぎちゃってね」

 

「早く来すぎたって・・・集合場所はここではなく駅ですわよ?」

 

「楽しみにしすぎて場所間違ったんじゃね?」

 

「あれ?集合場所ここじゃなかった!?」

 

 ヤバ、早く来すぎた上に場所間違ってた

 

「おい、マジで場所間違ってたぽいな、どんだけ楽しみだったんだよ」

 

「電話してくれればよかったのに・・・」

 

「何度もしたさ。その度に『電源が入っていないか電波の届かないところにーー』とアナウンスが帰ってきたがね。事件かなにかに巻き込まれたんじゃないかとヒヤヒヤしたぞ!」

 

「え!?・・・ごめん、電源切れてら」

 

 急いで確認すれば電源が落ちていた。

 

 おかしいな・・・来たときは電源入ってたし、充電もほぼ満タンだったから切れるわけないんだけどな・・・・・・

 

 電源を入れれば問題なく起動し、電池残量も9割以上あった

 

 なんでだ?

 

「まあ、いいじゃん!皆揃ったんだし買い物開始だー!」

 

 芦戸さんの掛け声と共に各自買いたいものを挙げていくが見事にバラバラ

 結果、切島君の提案で集合時間だけ決めて自由行動となった

 

 自由行動と決まったとたん、思い立ったが吉日と言わんばかりの行動力で各々が求める物を扱う店へスタスタと行ってしまった

 

 行動早いな皆・・・

 

「さて、僕はトレーニングに使うウエイトリストとレジャー用品買おうと思うんだけど、麗日さんはどうする?」

 

 麗日さんと二人きり・・・いや何を考えてるんだ、ただの買い物じゃないか!

 

「私は虫・・・よ・・・」

 

「その、麗日さん?」

 

 そんな見詰められると・・・

 

「何でもなーい!」

 

「あ!」

 

 止めるまもなく走り去る麗日さんを見送りながらポツンと一人佇む

 

 結局僕一人・・・

 

「取り敢えず買い物済ませよう!うん!」

 

「あー雄英の人だスゲー!サインくれよ」

 

「へ!?」

 

 気を取り直して買い物を済ませようと一歩踏み出したところでいきなり男性から声を掛けられた

 

「確か優勝して表彰台上がってた奴だよな!」

 

「え !?そ、そうですけど」

 

「んで確か保須事件の時にヒーロー殺しと遭遇したんだっけ?すげえよなあ!」

 

 男性はまるで旧知の仲であるかのように馴れ馴れしく肩を組み、話しかけてくる

 

「よくご存じで・・・」

 

「いや本当信じらんないぜ。こんなとこでまた(・・)会うとは!」

 

男性の被ったフードから顔が見えたとたん、脳無と多くの(ヴィラン)と共に雄英を襲撃した主犯格が脳裏に映った

 

「!?・・・お前はあの時の手だらけ(ヴィラン)・・・!!」

 

「おいおい、俺とお前の仲だろう?死柄木弔ってんだ、名前くらい覚えとけよ。まあ立ち話もなんだ・・・お茶でもしようか緑谷出久君?」

 

 するすると延びてきた手はしっかりと僕の首を掴む

 

「お前・・・!」

 

 首を掴まれたくらいでどうにかなるかとーー

 

「おっと、騒ぐなよ?自然に・・・旧知の友人のように振る舞うべきだ。俺はお前とただ話がしたいだけなんだ。こんな人混みの中でお前を塵にさせないでくれよ?俺の五指が全て触れたらお前は一分持たず塵だ。嫌だろう?」

 

「・・・その前に僕が君を何とかするとは考えないのか・・・!」

 

「その時はそこいらで能天気に笑ってる奴等を道連れにするだけだ。ほら見てみろよ。いつ誰が【個性】を振り回してもおかしくないってのにヘラヘラ笑ってやがる。法やルールは所詮個人のモラルが前提だ。いつでも捨てられるもんを「当たり前だ」と「するわけねえ」と思い込んでるのさ・・・さて、お前が俺をどうにかするまでに何人が塵になるだろうなぁ・・・」

 

 コイツ本気だ・・・

 

「なら相討ち覚悟で動くだけだ」

 

 生かすことを考えなければ幾らでもやりようはある

 二度とヒーローを目指せないだろうが、無駄死にしてこいつを野放しにするくらいなら・・・!

 

「おいおいバカな真似はよせよ。俺がのこのこ一人で動くと思うか?」

 

 っ!?どこかに仲間がいるのか!

 [索敵(サーチ)]も人混みのなかじゃ役に立たない。

 こいつの言う通りにするしかないか・・・

 

「ちっ!!・・・話って何だよ」

 

「ハハハ良いね、そう来なくちゃ・・・そこのベンチにでも座ってゆっくりと行こうや」

 

 首を掴んだまま僕を誘導するように一緒にベンチに腰掛けると早速とばかりに話始めた

 

「だいたい何でも気に入らないんだけど、今一番腹立つのはヒーロー殺しさ」

 

「仲間割れでもしたのか・・・」

 

「仲間?違う違う。俺は認めちゃいない。なのにドイツもコイツもヒーロー殺し、ヒーロー殺し、ヒーロー殺し・・・雄英襲撃も、保須に脳無を放ったのも・・・全部奴に喰われた。何故だ?奴だって気に入らないものをぶっ壊してるだけだろう?俺もそうさ。でも誰も俺を見ないんだよ、何故なんだ?なあ教えてくれよ。俺と何が違うと思う?緑谷」

 

「何が違うかって?・・・お前は理解も納得も出来ない・・・・・・でも、少なくともヒーロー殺しは理解できた」

 

「ほう・・・」

 

「お前はただ壊すだけ、子供の癇癪と同じだ」

 

「言うじゃないか、じゃあ奴は何だ?奴も同じだ。壊したいものを壊す、何が違う?何が違うんだよ緑谷」

 

「全然違う・・・奴には信念があった・・・奴も僕と同じようにオールマイトに憧れて、その果てにああなった・・・到底容認できる方法じゃないけど、奴は理想に生きようとしていた・・・んだと思う」

 

 ゾワリ

 

 背筋が凍る

 ヒーロー殺しの殺気とは違うねばつき纏わりつくような気持ちの悪い不快感

 

「なんだ、そうか・・・そうだったのか・・・ヒーロー殺しがムカツクのもお前が鬱陶しいのも・・・全部オールマイトだ」

 

「!?」

 

 なんて顔してるんだ

 

 横目で見る顔は、子供の様な無邪気な笑顔にドロドロになるまで煮詰めた憎悪を混ぜ込んだようなそんな顔

 

 先ほどとは質の違う不快感が全身を襲う

 

「そうかあ・・・そうだよな。結局そこに辿り着くんだ。ああ何を悶々と考えていたんだろう俺は・・・!コイツらがヘラヘラ笑ってるのもあのゴミがヘラヘラ笑ってるからだ!救えなかった人間などいなかったかのようにヘラヘラ笑ってるからだよなあ!!」

 

「うぐっ!」

 

 死柄木の感情の高ぶりと共に僕の首を掴んだ手がギチギチと絞まるが、下手に動いて一般人に被害を出すわけにはいかない

 

 人混みの中でさえなければ今すぐにでも反撃できるのに!

 

「ああ、良かった!良いんだ!ありがとう緑谷!お前のお陰で心のモヤが晴れた!俺は何ら曲がることはない!」

 

「ぎぎ」

 

 まずい、このままじゃ意識が・・・

 

「デク君?・・・お友達・・・じゃないよね?」

 

「!?」

 

 ダメだこっちに来ちゃ!

 

 いつの間にか戻ってきた麗日さんが死柄木に話しかける

 

「手、放して?」

 

「うら・・・か・・・さ・・・ダメ・・・だ」

 

「連れが居たのか!ごめんごめん。水臭いじゃないか、言ってくれれば良かったのに」

 

 死柄木は、会った時のような好青年然とした演技で両手をヒラヒラと振るとそのまま僕達に背を向けて歩きだした

 

「ゲホッ、ゴホッ、ま、待て!死柄木!!・・・『オール・フォー・ワン』は何が目的だ!」

 

 世界を裏から牛耳ろうとする巨悪の根元、奴が死柄木と繋がっているなら目的を知っているはずだ

 

「・・・知らないな・・・それより気を付けとけ?次会う時は殺すと決めた・・・さっきみたいに簡単に命握られるような興醒めなことはやめてくれよ?緑谷出久君?・・・そうそう、今の俺は一人だ」

 

 それだけ言うと、そのまま死柄木は人混みに紛れるようにしてその場を去った

 

「もしもし警察ですか!?(ヴィラン)が!今っはいっえっと木椰区の・・・」

 

 その後、麗日さんが警察に通報し、ヒーローと警察が来るまでの間、荒れる呼吸を整えつつ何故死柄木がオールマイトをあんなにも憎むのか考えたが、結局答えが出ることはなかった




マスクの男性の言う45年前の襲撃というのは、以下の理由で決めました

Yhooお婆ちゃんとGoogle先生の質疑の中の回答で、

オールマイトとエンデヴァーの活動開始時期ががほぼ一緒
=年が近い

エンデヴァーが45歳でグラントリノを知らないからオールマイトとは在学時期が違う
=45 ±3
オールマイトの方が若そうだから42歳

という考察があり、それを参考に

アダムはオールマイトと同い年だから存在していれば現在42歳
アダムがグラントリノと再開したのは高校入学前だから14歳
アジト襲撃はその10年前

従って

42-(14-10)=38

襲撃は38年前となった・・・のですが、

その後、鍋豊綿喜様より「大学時代の留学と、エンデヴァーと活動開始時期が同じことを考慮するとエンデヴァーより4才は年上ではないか」とご指摘を受け、私としてもなるほど!その通りだ!と思ったので、襲撃は今から45年前としました

ちなみにマスクの男と再開した時期を10年前から24年前に変更しました。3年で検証や事前準備が終わる訳がないと今更気付いたためです

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