―― 食堂 ――
期末テストまで残り一週間、僕は轟君、飯田君、麗日さん、葉隠さん、梅雨ちゃんの6人で食事をとりながら期末試験について話し合っていた
「普通科目は授業範囲内からで復習さえしっかりしてれば問題ないけど、演習試験がなぁ」
「突飛なことはしないと思いたいが、今までの流れから何か一癖ありそうだな」
「相澤先生のヒントも『一学期でやったことの総合的内容』だもの」
「戦闘訓練と救助訓練、あとはほぼ基礎トレだよね」
「試験強化に加えて体力方面でも万全に・・・!」
[
「っ!!お、おっと、ごめん頭大きいから当たってしまった」
あー・・・当たったのは肘か
「えっと、肘大丈夫?」
頭に何か触れた時、咄嗟に[
「な、何のことか分からないなぁ!」
「あ!君はB組の!えっと・・・その、あれだ・・・そう!真似の人!」
「物間だ!・・・は!ん゙ん゙・・・そうそう、君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね?」
彼を見た麗日さんが思い出そうと考えた末に結局名前が出てこず、すかさず物間君が叫けぶように名乗る。直後何かに気付くと咳ばらいを一つして話を変えた
「体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくよねA組って。ただその注目ってトラブルを引き付ける的な悪い意味だよね?あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなぁ!ああこわっ・・・」
「シャレにならん。飯田の件知らないの?」
何処で息継ぎしてるのかと疑問に思うくらいの長文を一息に、やや芝居がかった身振りと共に喋っている物間君を黙らせったのは、同じB組の拳藤さんだった
拳藤さんの一撃を喰らった物間君は、意識こそ保っているモノの体に力が入らないようでぐったりして襟を拳藤さんに掴まれている
「ごめんなA組、こいつちょっと心がアレなんだよ」
心がアレ・・・
「お詫びと言っちゃなんだけど、さっき期末の演習試験不透明だって言ってたね?入試ん時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ」
「え!?本当!?何で知ってんの!!??」
「私、先輩に知り合いがいるからさ。聞いた。ちょっとズルだけど」
「ズルじゃないよ。情報収集だって重要なテクだよ。そうか先生は立場上教えてくれないのは解ってたけど先輩ならその制限がないのか!」
盲点だった、経験者から情報を仕入れればよかったんだ!
「バカなのかい拳藤、折角の情報アドバンテージを」
「バカはアンタでしょ・・・私はただ正々堂々じゃないとすっきりしないだけだよ。ほら行くよ」
「あ、待って!」
引きずるようにして物間君を連れていく拳藤さんを慌てて引き留める
「ん?」
「ちょっと物間君に用があって」
「こいつに?」
「うん」
[
でもB組と関わることって意外と少ないし、何度か足を運んだけどどうも彼早々に帰ってたりするんだよね
ちょうど目の前に居るからここで済ませておきたい
両手で物間君の顔を挟むように掴む
同性相手にコレは過去に見せられたBL本が思い浮かぶから嫌なんだよな・・・
「僕に恐れをなしてここで潰そうって魂胆かい?まて、まさか身の毛もよだつ悍ましい趣味じゃないだろうな!」
「そういうこと言わない!」
「あ」
「っ!」
ゆっくり額を合わせようとしていた処に、拳藤さんに後頭部を叩かれた物間君に頭突きをされる形で【個性】を覚えた
「ごめん!大丈夫?」
「うん、僕は問題ないけど」
「コッチは大丈夫じゃないんですけど!?なんだその石頭は!?かち割れるかと思ったじゃないか!」
「あーはいはい。緑谷だっけ?ごめんね邪魔して。はい、こいつのことは気にせず用事を済ませちゃってよ」
「えっと、ありがとう。もう用は済んだよ。引き留めてごめんね!」
今だ騒ぐ物間君を猫か何かの様に差し出す拳藤さんに礼を言って物間君を押し返す
よし!これで前提条件クリア!
「そっか、じゃあね」
「A組!いつか必ず報いを受け――」
「だからやめなさいっての」
拳藤さんの手刀で意識を刈り取られた物間君はそのままズルズルと引きずられていった
手刀で意識を刈り取るとか達人技だな・・・あれって『下手すると意識を刈り取る前に延髄か脳が損傷して後遺症が残りかねないからダメだ』っておばあちゃん達にきつく言われてたヤツだ・・・
「珍しいね、君が進んで模倣しに行くなんて。どうしてだい?」
「え?デク君そんなんしてたん?」
拳藤さんの達人技に驚いていると、僕が【個性】を覚えたことに気付いた飯田君に何故と質問された。たぶん轟君も気付いている
「ちょっと考案中の技に彼の【個性】が必要だったからね」
「なになに?また何か凄い技でも考えたの?」
「緑谷ちゃんますます強くなっちゃうのね」
「今度機会があったら見せるよ」
どう使うかは言明せず、その後は試験対策について話しながら食事を済ませた
―― 教室 ――
「んだよロボならラクチンだぜ!」
「おまえらは対人だと【個性】の調整大変そうだからな・・・」
「ああ!ロボならぶっぱで楽勝だ!!」
「あとは勉強教えてもらって」
「「林間合宿バッチリだ!!」」
昼休みに聞いた期末の演習試験の内容を上鳴君達に伝えると、先ほどまでの不安そうな顔を一転させ今にも踊りそうな勢いで喜んでいた
そんな2人に対して苛立ったように冷や水をかけたのはかっちゃんだった
「人でもロボでもぶっ飛ばすのは同じだろ。何がラクチンだ。アホが」
「アホとは何だアホとは!!」
「うるせえな!調整なんか勝手に出来るもんだろ、アホだろ!」
「かっちゃん落ち着いて・・・あと、あんまり人のことアホアホ言うのは・・・」
「デク!!」
いつも以上にイライラしているかっちゃんを落ち着かせようとしたところ矛先がこちらに向いてしまった
「な、何?」
「次の期末なら個人成績で否が応にも優劣がつく!完膚なにまでに差ァつけて今度こそてめぇをぶち殺してやる!覚悟しとけ!」
「かっちゃん・・・」
「轟ィ・・・!てめぇもなぁ!!」
「・・・・・・」
かっちゃんは言うだけ言って壊れそうな勢いで出入口を開けると出て行った
「・・・久々にガチなバクゴーだ」
「何やらいつも以上に緑谷と轟を意識しているようだな。アレは焦燥・・・いや憎悪?」
―― 一週間後 ――
各々筆記試験は手応えがあったらしく暗い雰囲気の人はいなかった。特に上鳴君と芦戸さんなんかは八百万さんの手をとって嬉しそうにくるくる踊ってた
何度も見直ししたし、僕も自己採点で問題なく合格点を獲れていると思う
そして翌日の演習試験
「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿に行きたけりゃみっともないヘマはするなよ」
「先生多いな・・・?」
「
ロボットによる演習にしては先生の数多くないかな?いや例年通りなのか?
「諸君なら事前に情報を仕入れて何をするか薄々わかってるとは思うが・・・」
「入試みてぇなロボ無双だろ!!」
「花火!カレー!肝試――」
「残念!!諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「校長先生!」
ハイテンションの上鳴君と芦戸さんの言葉を真っ向から否定したのは相澤先生の首元から飛び出した校長先生だった
「変更って・・・」
「それはね、よっと!ふぅ・・・これからは対人戦闘・活動を見据えたより実践に近い教えを重視するのさ!」
上った木を降りるかのようにゆっくり相澤先生から降りた校長先生はそう言って僕らの前に立った
「実践に近い・・・」
「と言う訳で・・諸君らにはこれから
「先・・・生方と・・・!?」
「尚ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度・・・諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
「まず轟と・・・・・・八百万がチームで俺とだ」
轟君と八百万さんってことは推薦枠ペアか・・・相手が相澤先生なら、いかにして【個性】を無力化されないかと無力化された時どう立ち回るかが問題になるかな・・・
「次、緑谷と」
僕か!誰だ、動きの傾向とか言ってたから接近戦タイプか?いや逆に中遠距離か?まて親密度とも言ってたから――
「爆豪がチームだ」
「デ・・・!?」
「かっ・・・!?」
うっそ、かっちゃん!?お世辞にも相性は良くないぞ!?しかもこの間宣戦布告まで受けたってのに、そのかっちゃんと連携して先生と戦えっての!?
「相手は――」
バスの陰から教師陣のだれよりも大柄な男性が現れ僕らの前に立った
「――私がする!・・・協力して勝ちに来いよお二人さん!!」
相手はオールマイト!?
「それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間が勿体ない。速やかに乗れ」
―― バス車内 ――
・・・・・・どうする・・・オールマイト相手に単独で突っ込んでも一蹴されて終わりだ。何とかしてかっちゃんと手を組む必要がある。でもあのかっちゃんが手を組もうって言われて素直に頷くか?その場でブチギレて終わりそうな気もするし・・・いや、まず本人に行ってみない事にはタラレバでしかない。
「・・・・・・しりとりとかする・・・?」
よし!ここは頷いてくれることを前提としてどうやってオールマイトを倒すかを考えて見るか・・・まてよ?そもそもルール説明を受けていないから勝利条件がハッキリしてないじゃないか・・・とするとここで考えていても意味がない・・・?いや何パターンか考えてルールを聞いてからそのどれかを使うって方法で行くか・・・
「・・・・・・」
ふとかっちゃんとオールマイト(の背中)を見るが二人とも一言もしゃべることもなく沈黙を貫いている
オールマイトもかっちゃんも何もしゃべらないみたいだし、ここは黙ってステージに着くまで待つしかないか・・・よし!やっぱり作戦を練っておこう!まずは――
―― 演習試験 試験会場 ――
「さて、ここが我々の戦うステージだ」
「あの、戦いって、まさかオールマイトを倒すとかですか?だとしたら大分きついものがあるんですが」
バスの中でどうすれば勝てるか策を練り続けたが、どの策をどう使っても勝率は2割位。可能なら倒さなくても合格点がもらえる採点方式がいいんだが・・・
「消極的なせっかちさんめ!ルールを説明するから落ち着きたまえ。まず制限時間は30分、君たちは私が
「戦って勝つか、逃げて勝つか・・・」
確実に勝つなら逃げ一択だけど・・・たぶんそれだけじゃ不合格。今までの演習でも結果以外に過程も重要視されてたから、今回も最低限が勝利で、そこに勝つまでの過程で追加点を加えたのが僕らの評価になりそうな気がする
「そう!この試験では君らの判断力が試される!・・・けど、それじゃあ逃げの一択じゃね!?って思っちゃいますよね?そこで私達サポート科にこんなの作ってもらいました!ジャンジャジャーン!超圧縮おーもーりー!!」
そう言って取り出したのはごついリング
「体重の約半分の重量を装着する!ハンデってやつさ!古典だが動き辛いし体力は削られる!あ、ヤバ思ったより重・・・」
オールマイトは重りについて説明しつつカチャカチャと手足に取り付けた
ハンデありならいけるかな・・・?
「俺達じゃ本気はいらねぇってか、ナメてんな。後悔させてやる」
「させてみな有精卵君?」
ハンデが気に入らないかっちゃんがオールマイトに噛み付くが、オールマイトは
――――
教師陣はゴール方面からスタートで僕ら生徒陣は中央スタート・・・挑むにしても逃げるにしても必ずオールマイトに一度は当たるって訳か・・・
『皆位置についたね、それじゃあ今から雄英高校1年期末テストを始めるよ!レディー・・・ゴォ!!!』
「かっちゃんはどうする?逃げる?戦う?」
「ブッ倒した方が良いに決まってんだろが!!終盤まで翻弄して疲弊したところを俺がぶっ潰す。逃げたきゃ勝手に逃げろ」
かっちゃんは予想道理戦闘一択、どうか頷いてくれますように・・・!
「かっちゃん、その、嫌かもしれないけど、手を組もう」
「あ゙?」
「相手はあのオールマイトだ。バラバラに動いたんじゃ倒せない。ただ殴り合うだけなら僕でも1分位は持つかも知れないけど、素直に殴り合いに応じてくれるとは思えない・・・だから・・・」
言い終わる前にかっちゃんがゆっくりと動いた
やっぱ駄目か!!
『ざけんな!誰がてめぇなんかと組むか!くそが!』
そう言われた気がして思わずぎゅっと目を瞑り構えたが、一向に怒声も衝撃もやってこない
殴って来ない?
恐る恐る目を開けてかっちゃんを見ると、多少不機嫌そうではあるが想像していた憤怒の形相ではなかった
「・・・今回だけだ」
「えっと・・・良いの?」
「オールマイト相手に俺が一人で突っ込んでも戦いにすらならねえのは判ってる。だからって逃げの一手なんてクソくらえだ!!・・・だから今回だけ・・・いいか、今回だけ!・・・組んでやる」
「ありが――」
「ただし!俺の言う通り動いてもらう!」
「え?」
「シャクだがてめぇは俺より強ぇ。なのにてめぇの脳筋戦法じゃミジンコほどの役にも立たねえ。だから俺の言うとおり動け」
「えっと・・・」
「返事!」
「わかった!」
「なら、まずは――」
策を練ろうとしたところで出口方面から凄まじい衝撃波が突抜け、建物や地面をゴッソリえぐり飛ばした
「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えていると痛いめみるぞ?」
なんだこの威圧感は!!
「私は
「かっちゃん!」
「言われんでもそのつもりだ!行くぞデク!」
「うん!」
「オールマイト!」
「あ痛たタタタタタ!」
飛掛って行ったかっちゃんはオールマイトに顔を掴まれたが構わず両手から連続して爆破を繰り出した
「ガハッ!」
「そんな弱連打じゃちょい痛いだけだがな!」
しかし、オールマイトは少しも堪えた様子もなくかっちゃんを地面に叩きつけた
[怪力]
[剛力]
[剛腕]
[鉄腕]
[
[
[
[
[
[金剛石]
[
「なら強攻撃だ!隻腕・赤鬼の腕ぇ」
かっちゃんを抑えているオールマイトの脇腹目掛けて右拳を放ち、かっちゃんから引きはがす
入りが浅い!?あの一瞬で自分から飛んで威力を軽減したっていうのか!?
「ぐ!こいつはキツイな。だが・・・」
脇腹を抑えて後退したはずのオールマイトが気付けば目の前に居て、かっちゃん同様顔面を捕まれ地面に叩きつけられた
「ムグ!?」
「ちょっと威力が足りないね!」
[複製腕]
「ぬ!?」
[大声]
「「「「あ゙あ゙あ゙あぁぁぁぁ!!!!」」」」
オールマイトの耳元に動かした複製腕に口を複製し、[大声]も併用して叫ぶ
「っ!」
オールマイトが怯んだ隙に腹を足で押し出すように蹴り飛ばして距離を開け、体制を立て直す
「死ねぇ!」
「ヒーローが物騒なこと言っちゃいかんよ?」
背後から接近したかっちゃんが攻撃をしようとするが、オールマイトは腕を振りぬいた風圧で吹き飛ばし無効化
オールマイトがかっちゃんに気を取られているうちに接近し、4本の複製腕でオールマイトの両腕と両脇腹を掴み、腹を滅多打ちにする
――はずだったが、掴まれている腕を気に掛けた様子もなく動かし、まさに殴ろうとしていた両拳を掌で押さえられていた
「!?」
「不意打ちするには気配がダダ漏れだぞ?」
【個性】によりガチガチに硬くなった腹筋にオールマイトの膝がマシンガンのような打撃音と共に放たれた
衝撃により後ろに飛びそうになるが、僕を掴んだオールマイトがそれを許してくれない
ただでさえ重い一撃が連続で、それも【個性】による防御を抜いて放たれ、胃の内容物が喉元まで逆流してくる
[
「ぐふ!」
[爆破]
[
「おぇ・・・」
本当はすぐに体制を立て直して追撃すべきだが、吐き気が我慢できずその場で吐いた
「あたた・・・まさか自分を殴った上にゼロ距離で爆破を喰らうとは・・・私じゃなかったら無事じゃすまないぞ」
「はぁはぁ・・・ほぼ効き目無しとか嘘だろ・・・」
かっちゃんには1分位は持ちこたえられるって言ったけど自惚れだった。もって20秒位だ
「そこどけぇぇ!!!」
「っ!」
かっちゃんが何かを振りかぶって投げてきた、それはちょうどオールマイトと僕の間に落下した
そして、それが手榴弾だと分かり、全力で飛び退いた処で音と閃光が放たれた
「走れ!」
「かっちゃん!」
かっちゃんは僕に指示を出すと、そのままオールマイトに狙いを定めて腕に付いた
「ナニちんたらしてんだ!はよ走れボケ!」
――――
策を話し合う間もなく始まった戦闘は文字通り大人と子供のようで逃走を余儀なくされていた
「クソ!強すぎだろ!」
「かっちゃん、相談があるんだけど」
「あ?」
「実は――」
本当はオールマイトと対峙する前に伝えようとしていた策を伝える
「・・・分かった。今回は仕方ねえ・・・その策で行く」
すっごい不満顔・・・
「ありがとう」
「ならまずはその陳腐で穴だらけの作戦を練り直すぞ。まず――」
「なるほど。そうするとオールマイトは――」
「そこは俺が――」
「じゃあこうすれば――」
「それやるならこれ着けとけ。そんで・・・」
こうしてかっちゃんと顔を付き合わせて話すのはいつぶりだろうか
「オイ、聞いてんのか?」
「大丈夫聞いてるよ」
【個性】が発現する前の、あの頼もしく頼りがいのあった兄貴分の姿に嬉しく思いながら策を練り直した
――――
それから1分くらいだろうか
「デク、気付いてるか?」
「うん、明らかにゆっくり歩いてきてる」
「舐めやがって!」
[
「見えた!かっちゃんコレ」
「ああ、手筈通り行くぞ」
「うん」
[
視界に映るオールマイトは、まるで僕らが迎え撃ってくることが分かっているかのような余裕を持った足取りで向かってきている
「やあやあ、お出迎えご苦労さん。今度は逃げないのかい?ママ怖いよーってさ」
「俺達が迎え撃ってくるって判ってて言ってんだろ」
「まあね、爆豪少年はまんまイケイケの肉食だし、緑谷少年は一見臆病そうに見えて一度戦うと決めたらやっぱりイケイケになるロールキャベツ君だからね。そんなわけで君らがあのまま門を潜るとは思えなかったものでね」
「そりゃご期待に添えて光栄だよ。こっからは俺らのターンだ!行くぞ!」
「その意気だ!来い!」
―― オールマイト ――
当初想定していたほど関係は悪くなさそうだ。寧ろ爆豪少年も緑谷少年もお互いをフォローし合っている。いい傾向だが、試験官としてはPlus Ultraしてほしい訳で・・・
「先生頑張っちゃうぞ!」
「うらぁ!」
「あまいあまい!」
爆豪少年が飛掛ってきて爆破を浴びせてくるがちょっと熱いだけで大したダメージでもない。無視して殴り飛ばし、這うように死角から襲い掛かってくる緑谷少年にも拳を叩きつける
緑谷少年を迂闊に近づけるのはまずい。多様な【個性】を使う関係上、出来るだけ早く戦闘不能にしておかないとじり貧だな。かといって爆豪少年は無視して大丈夫かと問われれば彼も彼でこちらの痛いところをチクチク突いてくるし、さてどうするかな・・・
「どうしたヒーロー!そんなんじゃさっきと同じだぞ!」
懲りずに飛掛ってくる爆豪少年を迎え撃とうとした時、突如姿が消え、腹に軽い衝撃と共に爆豪少年がしがみ付いていた
緑谷少年と同じくゼロ距離からの爆破かと身構えたところ、爆豪少年が
「グッ!!っの離れろ!!」
即座に爆豪少年を引きはがし、飛び退いて距離を開ける
くそ!全身がしびれて思うように力が入らない!
「何故爆豪少年が!?」
「何でだろうな!オラァ!」
「ぐっ!」
着地の瞬間を狙われたか!って何故目の前に居るはずの爆豪少年が背後にいるんだ!?目の前に居る爆豪少・・・緑谷少年!?
視線の先に居るはずの爆豪少年が背後に居ることに驚き、先ほどまでいた場所を確認すればそこにも爆豪少年の姿があった
しかし、羽織っていたマントが風化して崩れる様に無くなると、その下から緑谷少年の
しまった、あの時入れ替わっていたのか!
緑谷少年がニヤリと笑い上を指さした
すぐに上を見ると手榴弾が私目掛けて降り注いでいた
―― 緑谷 ――
かっちゃんと策を練った後、[二十面相]と[
僕が色々な【個性】を使えることは周知の事実だが、かっちゃんが[爆破]以外の【個性】を使うとは思わないはずだという考えの元、一度限りのだまし討ちとして使うことにしたのだ
その策は上手く決まり、オールマイトの機動力をそぐことに成功した
更にかっちゃんに気を取られている内にマントの下で急いで用意し、抱えるように持っていた手榴弾をオールマイトの頭上目掛けて高い山を描くように放り投げていた
「っ!またか!」
[
[指長]
手榴弾の1個や2個なら投げ返してきそうだが、僕が投げた手榴弾の数は13個。その上気付いたのはギリギリ、さすがのオールマイトも投げ返すのではなく避けようとするだろう
そうさせないために、既にオールマイトに張り付く様に爆破し続けているかっちゃんがその場に留まらせる
そして僕は投擲後すぐにオールマイトに駆け出し、すれ違い様に伸ばして硬化させた指で脇腹を浅く切りつけ、指に付着した血を舐めとる
[凝血]
「っ!?」
解除!
[凝血]で動きを止めたオールマイトの頭上を飛んでいた手榴弾は姿を消し、中に込められていた液体をオールマイト目掛けぶちまける
「かっちゃん!」
「コレは!?」
オールマイトはすぐに全身に浴びた液体の正体に気付いた様だがもう遅い
「吹っ飛べぇぇぇぇ!!」
かっちゃんが先ほどより強力な爆破を浴びせ、それによりオールマイト被った液体が誘爆を起こし爆発した
[凝血]で動けない以上防御も回避もできない
オールマイトが被った液体はかっちゃん由来のニトログリセリンだ。
掌や道具による爆破は一方向からしか衝撃波及び熱風は浴びせられない。ただでさえオールマイトの分厚い耐久力の前では効きが弱いのに、遮蔽物の陰に隠れたり、防御姿勢をとられると余計に威力が軽減するか無力化されてしまう。
その対策として、爆発物そのものを相手にかけてから爆発させればいいんじゃないかと思った訳だ
ただ、オールマイトは本当にワン・フォー・オールしか使ってないのかと問いただしたくなるくらい尽くこちらの策を跳ね返していく
だから、オールマイトが対処する前に決着をつける必要があった
そこで考えたのは、[
後は[
そこにかっちゃんが追撃の爆破を行なって起爆することで止めとした
それでも倒せているかは良くて2割、最悪はコレが効いていないで無駄骨に終わること
「デク!ぼさっとしてねぇで行くぞ!」
「うん!」
だから、どちらに転がるとしても爆破したら即座にゴール目指して走るよう作戦を組んだ
[凝血]の影響で少なくとも数分は動けないとは思うが、そこはオールマイト。敵に回ると厄介な気合だ何だと言って無力化してくる理不尽さがあるから、下手に近づいてハンドカフスを掛けるなんてリスクは犯せない。だからどうにかかっちゃんを説得して逃げの選択を飲んでもらった
「デク!」
「なぁに!」
「次こそは正面からねじ伏せるぞ!」
渋々ながらも僕の『オールマイトに一泡吹かせてから逃げて勝つ』という策に乗ってくれたかっちゃんは、本当は正面から挑んで勝ちたかったからか叫ぶように次こそは勝つと宣言していた
「ははは!」
かっちゃんらしいや!
「返事はどうした!」
そんなの聞くまでもないだろ!
「もちろん!」
『報告~~爆豪・緑谷チーム・・・条件達成!』
打倒オールマイトこそ実現できなかったが、僕らに出来る最善をオールマイトに見せつけて勝利した