―― 仮眠室 ――
「失礼します」
「掛けたまえ」
部屋にはいるとそのまま対面の席へ座るように言われ、着席したところでオールマイトが話始めた
「色々大変だったな。近くにいてやれずすまなかった」
「そんな、オールマイトが謝ることじゃないですよ。それより、[
「以前、[
「えっと、『力をストックする【個性】』と『【個性】を受け渡す【個性】』が合わさったもので『受け渡すには受け渡す意思を持ってDNAを取り込ませる必要がある』・・・ですよね?」
「その通りだ」
「それが何か?」
「一つ君に言っていない事があってね。確かに[
「え?」
「ある一つの【個性】から派生した【個性】なんだ」
「派生した【個性】・・・」
「オール・フォー・ワン、『他者から【個性】を「奪い」
「
「これは超常黎明期、社会がまだ変化に対応しきれていない頃の話になる。かつて突如として『人間』という規格が崩れ去った・・・たったそれだけで法は意味を失い文明が歩みを止めた・・・まさに荒廃」
「たしか、「超常が起きなければ今頃人類は恒星間旅行を楽しんでただろう」って昔の偉い人も言ってましたよね?」
「そう、そんな混沌の時代にあって一早く人々をまとめ上げた人物がいた・・・君も聞いたことがあるハズだ。彼は人々から【個性】を奪い、圧倒的な力によってその勢力を広げていった。計画的に人を動かし、思うままに悪行を積んでいった彼は瞬く間に”悪”の支配者として日本に君臨した」
「ネットとかでは噂話をよく見ますけど、創作とか与太話じゃないんですか?教科書にも載ってないですし・・・」
「歴史の専門書や研究者の論文ならいざ知らず、
「その話が[
その悪の親玉の話が何の関係があるのだろうか・・・
「オール・フォー・ワンは「与える」【個性】でもあると言ったろ?彼は与えることで信頼、あるいは屈服させていったんだ。ただ・・・与えられた人の中にはその負荷に耐えられず物言わぬ人形のようになってしまう者も多かったそうだ・・・ちょうど脳無のように・・・ね」
― 適性が低い【個性】はたった一つでも拒絶反応が現れる ―
適性外の【個性】を与えられた反動・・・
「一方与えられたことで【個性】が変異し混ざり合うというケースもあったそうだ。彼には【無個性】の弟がいた。弟は体も小さくひ弱だったが、正義感の強い男だった・・・兄の所業に心を痛め抗い続ける男だった。そんな弟に彼は『力をストックする』という【個性】を無理やり与えた。それが優しさ故か、はたまた屈服させる為かは今となってはわからない」
― 両親から受け継ぎ自然に出来たものではないんだよ ―
ふと頭に先ほどのオールマイトの言葉が蘇る
「まさか・・・」
「うん・・・【無個性】だと思われていた彼にも一応は宿っていたのさ。自身も周りも気付きようがない【個性】を「与えるだけ」という意味のない【個性】が!!そして『力をストックする【個性】』と『与える【個性】』が混ざりあった!これが、[
「!!」
「この力は悪から生まれ、悪を倒すために受け継がれてきた力なんだ。皮肉な話さ、正義はいつも悪より生まれ出ずる」
「[
「【個性】を奪える人間だぜ?何でもアリさ、成長を止める【個性】・・・そういう類を奪い取ったんだろう。半永久的に生き続ける悪の象徴・・・覆しようのない戦力差と当時の社会情勢・・・敗北を喫した弟は後世に託すことにしたんだ。今は敵わずとも少しずつその力を培って、いつか奴を止めうる力となってくれ・・・と・・・そうして私の代で遂に奴を討ち取った!!・・・ハズだったのだが・・・奴は生き延び『
「・・・・・・」
「もう一つ、君は奴に狙われている」
「え!?」
「正確には君の持つ[
「大丈夫ですよオールマイト!まだヒヨコ・・・いや殻も破ってない卵ですけど、貴方の頼み、何が何でも応えます!あなたがいてくれるだけで何だって出来る・・・出来そうな感じなんですから!」
「!!・・・・・・・・・・・・ありがとう」
「えっと、話は以上でしょうか?」
「ああ、時間を取らせたね」
「いえ、あとオールマイトに言伝てとコレを預かってます」
「言伝て?コレはなんだい?」
「砂時計でした」
「砂時計?」
「アダムさんがオールマイトの為に用意したもので、詳しくは一緒に入っているホログラフィーを見て欲しいそうです。職場体験の時にグラントリノに無理言ってアダムさんの家?教会?を訪ねたんです。その時に墓守の方に渡されました」
「アダムが・・・」
「それじゃあ、僕はこれで失礼します」
「ああ、気をつけて帰るんだよ?」
「はい、失礼します」
――
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「・・・さて、何が出てくるのやら」
机の上に置いたホログラフィーを起動させた
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久しいなオールマイト
顔も見ずに長話もなんだから、単刀直入に言う。
これからそう遠くない未来、君は大切なものを守るため 悪の親玉と直接拳を交わすだろう。
その時になったら今手元にあるだろう砂時計、名を【逆巻きの砂時計】という。
それを握り潰してくれ。私ができる最大限の付加がなされている。
制限時間は1分、その間だけ君の肉体は全盛期まで巻き戻る。
ただし、制限時間が過ぎれば半日間は反動として治癒能力を含む身体能力は半減し、害のあるなし関係なくあらゆる【個性】を弾く。
使うのは1分以内に止めを刺せるときにしてくれ
君なら1分もあれば十分だろう?
奴は必ず現れる。私の代わりに・・・いや、何でもない。すまないが今言ったことは忘れてくれ。
健闘を祈る。
少年を頼んだ
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―― 教室 ――
オールマイトとの話が終わり、教室に戻ると、桃色の甘ったるい雰囲気の新生カップルとかっちゃんや轟君の様にわいわいと騒ぐことを好まない人を除いたグループに別れていた
「どうしたの?皆集まって・・・」
砂糖を吐きそうな二人と『さわるな危険』のかっちゃんを避けて切島君を中心としたグループに近づいた
「お!緑谷!良いところに!」
「うん??どうしたの?」
「前に『使えるのは38』だって言ってたろ?」
「38?・・・【個性】のこと?」
「そう!で、今丁度その話してた処だったんだよ」
「へぇ~」
「んでよ、ズバリ聞くが、お前、他にどんな【個性】が使えんの?」
「うーん、まとめると使いたくないのと制御できないの、あと上位互換があるから使わなくなったの、使い道があんまりないのの4つかな」
「最低でも4つは確定か・・・でどんなのがあるんだ?教えてくれよ」
「えと、使いたくない【個性】の代表は[
「えぐ!」
「普通科の心操よりも強力じゃんか・・・」
「やっぱ洗脳系は抵抗あるよな」
「いや、別に奴隷化する訳じゃないから場合によっては有効なんだよ。二度と犯罪に手を染めるなって言えば再犯は防げるし」
「じゃあ何で使いたくないんだ?」
「発動条件が・・・その・・・キスなんだよ、それもディープの方」
「緑谷テメエ合法的に美女とキッスできるなんてずりぃぞ!」
「峰田君はちょっと静かにしてよう」
「もが!?」
僕の言葉に憤慨する峰田君の後ろから口をふさぐ飯田君
「なぜ美女に限定したのかは聞かないけど、好きでもない人とキスしないといけないんだよ?下手したら同性とも・・・よしんば好みの異性だったとして、相応の理由か相手からの承認がないとあっという間に
「あー、そりゃそうだ」
「ムームー!」
納得いってないみたいだな・・・
「峰田君、考えてもみなよ。君は同性とそういうことしたいと思う?具体的には今朝見せた筋骨隆々の男の人達とか」
「・・・・・・」
みるみる顔が青ざめ、押さえている飯田君ごとガタガタと震え始めた
「どうしてもって言うなら朝のにキスシーンを加えたの見せるけど?」
「ん゛ん゛ん゛~!!」
「嫌でしょ?」
「ム、ムー・・・」
抵抗がなくなったため飯田君が拘束を解くと、峰田君はふらふらと壁際まで行き、壁に何度も頭突きしながらブツブツ言いだした
「違う来るなお前じゃない美女が良いんだそんな筋骨隆々の男じゃないんだよ夢と希望の詰まったぷるぷるおっぱいが良いんだよ汗と筋肉で出来たカチカチの胸板じゃないんだよやめろ来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙――」
これはちょっとヤバいな・・・浅めにかけとくか
[
「――あ・・・ふへへへへ」
「ふぅ・・・」
「あー、制御できないのは?」
切島君は峰田君のことを見なかったことにしたようだ
「ああ、うん、代表は[暴走]って【個性】、[暴走]は理性を手放す代わりに身体能力が倍近く上昇する増強系。理性がなくなったら制御できないでしょ?前にこの【個性】を使ったときは近くにいた道場のお爺ちゃん達が拳で寝かし付けてくれたからどうにかなったけどね。因みにお爺ちゃん達は『【個性】も使わないし、動きが単調過ぎて当たってやる方が難しい』って言ってたから実戦じゃ使えない【個性】なんだよね」
全身筋肉痛と打撲で起きたときは辛かったなぁ。記憶がないからパニックになったし
「闘うこと前提で理性をなくすのなら、[鬼]の【個性】に呑まれた方が断然マシかな。あれは僕の代わりに鬼が暴れてるから【個性】も使うし。敵味方の識別ができないのは変わらないけど」
「俺らの近くで暴走はしないでくれよ?」
「判ってるよ。後は[ドッカンターボ]って【個性】も制御できないかな」
「ドッカンターボ?加速系かい?」
「そう、移動時に強力な加速を付加するんだけど、飯田君のエンジンと違って発動してから10秒経過するまでのどこかで加速して、大体5秒位加速しっぱなし。しかも段階を経ての加速じゃなくていきなりトップギアだからね。いつ点火するかわからないしジェットブースターを背中に背負ってる感じ」
「それは・・・発動までランダムじゃ使いづらいな」
「他には出力が高すぎて危ないから下手に使えないのもあるね。[鎌鼬]って【個性】なんだけど、振った手の放射線状に不可視の風の刃を形成して、10m先までの進路上の物体を切り裂くんだ。調節しようとしても精々15m/sが5m/s位に減速するだけで射程も変わらないし、厚さ1㎝の鉄板を切り裂いたから余程の硬度を持ってないと問答無用で切り裂いちゃう。物は勿論人になんて怖くて使えないんだよね」
「コレまたえげつないの来たな。1cmの鉄板切っちまうなら俺も厳しいかも。試そうとは思わねえけど」
「ひぇ~!デク君恐ろしい【個性】使えんだね!」
「上位互換があるので一番多いのは電気系かな?ぱちって静電気が発生しやすくなる[静電気]、[静電気]よりちょっと強い電流の[リトルスパーク]、もっと強い[
「上鳴が聞いたら泣くな、それ」
「後は単体じゃ使えないけど、かといって使えるように複数集めても使い道が限られてるから使ってない奴。戦闘はもちろん、日常でもあんまり役立たないから使ってないんだ」
「それ見てみたい」
「いいけど・・・笑ったり、写真撮ったりしないでね?」
「おう!」
「ワクワクするね!」
「写真が撮りたくなるようなものなんでしょうか?」
「見てからのお楽しみでいいんじゃない?実演してくれるみたいだし」
[骨格変化]
ぎちぎちと骨を軋ませながら骨格を変えていく
いたたた!地味に痛いんだよなコレ
肩幅が狭まり撫で肩になり、指が細くなった
声も少し高くなった
「ふう・・・これが骨格変化って【個性】で少しだけ骨格を弄れる。ただ、地味に痛いし、限界超えると肉離れとか腱を痛めたりするから大きくは変化できないんだ」
[指筆]
[自動画家]
[早書き]
鞄からルーズリーフを三枚取り出し、一枚目には
「これはよく使う【個性】、指先を絵筆に変える[指筆]と手がイメージ通りに自動で絵を描いてくれる[
[
一枚目のルーズリーフから仮面を具現化する
「こんな風に自分で書いた絵を3分だけ具現化できる[
[
「私の【個性】と似てますね」
「創造系ってことならそうだね。ただまあ、紙を触媒に具現化してるから紙の大きさが具現化できる大きさの限界になるし、簡単な物しか具現化できないから八百万さんみたいに機械とか複雑なものは作れないんだ。時間制限もあるしね?だからあくまで補助的に使ってるよ」
[二十面相]
仮面を被り、[二十面相]で馴染ませる
「あと、こんな風に顔に仮面を押し付けると仮面が顔に張り付いて同化する[二十面相]、時間は掛かるけど触れた顔から仮面を複製することもできるよ」
[
二枚目のルーズリーフから櫛と手鏡を具現化させる
[
[櫛いれ]
「これは髪の毛を好きな色に変えられる[
櫛をいれて癖毛を真っ直ぐに矯正し、赤みがかった茶髪に変える
「いいなぁ、私、いくら櫛入れても真っ直ぐにならないんだよ。後で私にもやってよ!」
「いいよ」
そういえば美容師の
[ネイル]
爪を少し伸ばして鮮やかな赤にする
「爪が最大で2cm伸びて、色を変えられる[ネイル]。伸びるだけで、硬くなる訳じゃないから何かに引っ掻けると普通に爪が剥がれて洒落にならないくらい痛い。伸ばした後も縮まずそのままだから切らないといけないしね」
[声真似]
声は・・・
「ご存知の声を変える[声真似]」
[
最後に三枚目のルーズリーフからクッションを具現化し胸元に仕込めば完成っと
「女の子になっちゃった ・・・」
「綺麗な方ですね」
「過程を見てないと緑谷だってぜってえわかんねえよ」
「随分美人な方になったな」
「顔と声は知り合いのお姉さん達三人の内の二人をモデルにしてるからね。皆八頭身のモデル体型だからこの姿の何倍も美人だよ」
「いいなぁ、紹介してくれよ」
「止めといた方がいいよ。孫を邪な目で見たら必ず半生半死状態にする性格が鬼のお爺ちゃん三人と、お姉さん達の彼氏でキレたら冗談抜きで殺しに掛かってくる【個性】が[鬼]の克兄をどうにかできるなら構わないけど・・・因みに皆【個性】を使ってない素の状態で岩を砕きます」
「あー、パス。死にたくねえし、彼氏がいるんじゃ相手にされねえよ」
「克兄一筋だからね」
「にしても完全に別人だよな!緑谷だって判ってるのに、声も見た目違うから忘れそうになるな。違和感半端ねえ」
「ははは・・・見た目はこんなでも男のままだからね?」
「ところでその姿ってどう使うの?変装?」
「・・・・・・うん」
「その間は何だよ」
「不本意ながら男として嫌な使い方が知り合いのお姉さん達によって見つかったんだよね・・・」
思い出すのは女物の服を手にキャーキャーと喜ぶお姉さん達と鏡に映る頬をひきつらせた
見せなきゃ良かった・・・
「それって見せてもらえねえの?」
「・・・だ、誰に?」
頬がひきつるのを感じる
「誰にって、相手が要るのか?」
「・・・・・・色仕掛けなんだよ」
「あー、それでその姿・・・」
「色仕掛け!?見てみたい!」
「俺も俺も!」
「でも色仕掛けってどうやるんだ?・・・うっふ~ん・・・とか?」
「うわ!切島キモッ!」
内股の中腰姿勢で膝に手を置きウインクする切島君は確かに気持ち悪かった
「な!?なら芦戸はどうやると思うんだよ!」
「どうって・・・うっふ~ん?」
対する芦戸さんも切島君と同じポーズをするが、こちらは元々綺麗な女性だからか違和感はなかった
「俺と同じじゃねえか!」
「うっさいなぁ!切島がキモイことするからそれしか思いつかなくなったんだよ」
「俺が悪いってのかよ!」
「二人とも落ち着きたまえ!」
「そうだよ!そんなことよりデク君のやる色仕掛けを見ようよ!」
いやいや!なんで僕がやる方向でまとめてんの麗日さんは!?
「なあなあ、さっきからお前ら集まってどうした?」
僕らがやいのやいのと騒いでいると、二人で桃色空間を形成していた上鳴君と耳郎さんが現実世界に帰還し、騒がしい僕らの元へ顔を出した
「あれ?その子誰?随分とカワイコちゃんじゃん。そんな子、他クラスにもいたっけ?」
上鳴君、相変わらずチャラいな・・・そして後ろを見なよ
「おい・・・」
「ん?・・・あ!いやっ!響香の方が万倍もかわいいから!」
「べ、別にそんな事・・・」
「・・・あのリア充にやってくれねえか?」
「やったら耳郎さんに睨まれそうなんだけど。それにイタズラとはいえ焚き付けた僕が早々に破局の原因になるのはちょっと・・・それに色仕掛けはやりたくないよ」
「大丈夫、睨まれるのは上鳴だけだ。俺らの前でイチャ付きやがって」
いや、話聞いて?やりたくないんだってば・・・
「ちょっと、人の恋路にちょっかい出しちゃダメだよ。そういうのは男らしくないよ」
又しても上鳴君と耳郎さんが甘々な空間を形成している間に、皆が周りに集まりコソコソとどうするかを話し出した
「ぐ!んなこといったってよぉ芦戸、あのチャラ男がだぜ?惚れてた耳郎と付き合ったからって美少女・・・少女?」
「少年です!」
二度見した上になぜ疑問系で少女と言った!僕だって知ってるだろ!
「まあいいや、とにかく言い寄られて我慢できるか気になんのよ」
「そりゃ気になるけどさ・・・」
「いい機会だし試してみたら?」
「葉隠ちゃんまで・・・」
「なびく様ならボコボコにしなきゃ!ガンヘットさんに習ったアーツが冴えるよ!」
「二度と耳郎ちゃんに近づけないよう徹底的にね!」
「麗日君も葉隠君も落ち着きたまえ!まだなびくと決まった訳じゃないだろう !?落ち着くんだ!」
「耳郎さんのフォローは私達が行いますので、緑谷さんは遠慮なくやっちゃってください」
一点の曇りのない目でGOサインを出す八百万さんと僕が行かなければならない場の雰囲気
やるのか!?強制的に覚えさせられたアレをやらなきゃいけないのか!?・・・くっ!ええい、ままよ!
「・・・はぁ、判ったよ。じゃあ皆フォローは頼んだよ?」
もう一度お面とクッションを書いて具現化し、着用し直す
さて、逝きますか!
京香姉さん直伝(強制)!男を落とす方法その一!
「電気様!」
「え?」
未だ耳郎さんとピンク色のフィールドを形成している上鳴君に声をかけ、強制的に意識を僕に向けさせる
「私、みどりって言います。あ、あの、ずっと前から貴方のことが好きでした!付き合ってください!」
「え!?」
うわぁ、背中がすごくゾワゾワする・・・っと、次は混乱が解けない内に抱き付くんだっけ
胸(クッション)を押し当てるように抱きつく
「ウェイ!?」
上鳴君の肩越しに目が合った耳郎さんが般若の表情で睨み付けてくる
いつイヤホンジャックが飛んできてもおかしくない
怖いわぁ・・・
いつでも離脱できるように意識しながら上鳴君とその背後にいる耳郎さんの様子を伺う
[涙]
「だめ・・・ですか?」
少し離れてからだめ押しの目を潤ませながらの上目遣い
「お、俺には彼女が、響香がいるから!だからごめん!」
おお!あのチャラ男の上鳴君が耐えた!・・・彼女が出来て硬派になった?
「そ、そうですよね!ごめんなさい!」
もう少し押したらどうなるか気になる処ではあるが、これ以上は僕の精神的にも、上鳴君の後ろから刺さる視線的にも限界だ
「コッチこそごめんな!」
「ハァ・・・切島君、コレで満足?・・・これ、男として性別を偽るのはちょっとってことで使いたくないんだよ」
さっと上鳴君から距離を取って【個性】を解除していく
「え?・・・緑谷?」
「耳郎ちゃん!俺の彼女宣言でちゃったね」
「緑谷あざといよ」
「どこでそんな技を覚えたんだよ」
「ちょっとグッと来ちまった」
「私にはちょっと無理かな、恥ずかしくて」
「み、自ら異性に抱き着くなんてハ、ハレンチですわ!」
「え?」
「あー、ごめんね上鳴君、本日二度目のイタズラだよ」
「え?」
今だ混乱状態から抜け出せていない上鳴君をそのままに耳郎さんの方を向く
「耳郎さん、ごめんなさい!切島君がやれって・・・」
「ちょ!緑谷!?」
「緑谷の色仕掛けに耐えた、か、彼氏に免じて許してやる」
切島君を生贄に捧げて謝ると、先ほどまでの般若はどこえやら、リンゴの様に真っ赤な顔で俯き、女子に囲まれた耳郎さんがクッソ甘いセリフを言っていた
・・・・・・うわぁ、砂糖吐きそう
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―――――――――――
「えー・・・そろそろ夏休みも近いが、もちろん君たちに30日間、一カ月休める道理はない」
「まさか・・・!!」
「夏休み、林間合宿やるぞ」
「知ってたよー!やったー!」
相澤先生の林間合宿の言葉に一気に教室は騒がしくなり、肝試しや花火、カレー作りなど合宿の定番が口々に挙げられていく
「ただし!その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は学校で補習地獄だ」
「みんな頑張ろーぜ!!」
楽しい事へ思いを馳せる僕らに放った相澤先生の一言で焦る者、頭を抱える者、動じない者と個々それぞれの反応をしていた
あ、そういえばオールマイトに『私』について聞いてなかったな・・・今度聞きに行ってみるかな
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―― 国立総合病院 ――
週末の日曜日、
「はじめまして、飯田君と轟君のクラスメイトの緑谷出久と言います。皆からは緑谷かデクって呼ばれてます」
「はい、はじめまして。私は焦凍の母の轟
「同じく焦凍の父の
「俺は天哉の兄の
「判りました。それと本日はお忙しい中、僕のわがままに付き合っていただきありがとうございます」
「そんなかしこまらなくてもいいですよ?それにわがままなんてことありません。最近になってやっと会いに来てくれるようになったどこかの誰かさんが「友達を会わせたい」なんて言うんですもの、ずっと楽しみにしてましたよ」
フフフと笑う冷さんの言葉と視線に居心地悪げに目を反らす轟君
何年もの間、会いに来なかったことをチクチク刺されてるっぽい
「そうだよ。それに聞いたよ?天哉がやられそうになったところを助けてくれたんだろ?そりゃ世間一般にゃ
「そういって頂けるとありがたいです・・・・・・本題に入る前に、ご存知の通り僕らは先日ヒーロー殺しと戦いました。それも本気を出していないヒーロー殺し相手に3人がかりで戦ってどうにか勝ちを拾えた状態。この先もそんな幸運が続くなんてあり得ない」
「だろうな。最後に発したあの気迫・・・私ですら一瞬呑まれた。アレを初めから受けていたのなら戦いにすらならなかっただろう」
「ええ、だから、強くなる必要があるんです」
あの時は冗談や比喩ではなく本気で『死』を覚悟した
「それは判ったが、それと俺達と会うことに何の関係が?そりゃ家族として天哉の事は応援しているが、
「危険を回避するために危険に飛び込むなんてことはしませんよ。それはこれからお話する内容を聞いていただければわかります。ただし、このことは他言無用でお願いします」
「判った」
「了解した」
「判りました」
「ありがとうございます。轟君達もいい?」
「ああ」
「問題ない」
全員の了承が取れたので話を進める
「実は僕はあなた方の【個性】を飯田君と轟君に与えたいと考えています」
「与える?」
「僕の【個性】は[模倣]といって、相手の【個性】を模倣して使えるようになるんです。そしてあなた方の【個性】を模倣し、それを別の【個性】で飯田君と轟君に譲渡する事で二人の【個性】を強化するんです」
「そりゃまたとんでもない【個性】だな」
「確かに周りに知られるわけにはいかん内容だな。模倣だけならまだしも、それを誰かに渡せるとなると良からぬ事を考える輩はいくらでもいるだろう」
「ええ、それもありますが、それ以上にこれには明確な欠点がありまして、本人の適性から離れた【個性】を渡すと最悪死にます」
「なに!?どう言うことだ!」
「親父、落ち着け」
「しかし!」
「貴方、まだ緑谷さん話が終わってませんよ?」
「ぬぅ・・・」
「穏やかじゃない内容だな」
真っ先に反応したエンデヴァーは比較的冷静な轟君と冷さんに宥められ、天晴さんは眉間にシワを寄せていた
「あくまで死ぬ可能性があるのは本人の適性からすごく離れていればの話・・・適性と言うのはいわば本人に発現する可能性のことで、轟君ならご両親から氷結系と燃焼系の適性を、飯田君は加速系の適性を持っています」
「つまり、俺の【個性】を天哉に渡す分には問題ないが、エンデヴァーさんとこに渡すと拒絶反応が出ると?」
「ええ、そうです」
「なんだ、そういうことは早く言いたまえ、焦ったではないか・・・」
「もう、貴方ったら!ごめんなさいね?この人すぐ熱くなっちゃうから・・・」
「いえ、それで適性についてですが、インゲ・・・天晴さんから飯田君へ、エンデヴァーさん達からは轟君へ渡すことになりますので問題ありません」
「ならやってくれ!俺はこんなザマでもうヒーローとしては活動できない。インゲニウムの名前なんて重苦しいもんまで天哉に託すことになって、正直天哉には引け目を感じていたんだ・・・そんな俺が天哉にしてやれることなんて応援してやる事だけだと思ってた矢先にコレだろ?なら断る理由がない。むしろお願いしたい。弟を頼む!」
「兄さん・・・」
まだ体を動かすのは辛いはずなのに弟の助けになるならと頭を下げる天晴さんに飯田君は言葉を詰まらせていた
「私も同じですよ。夫の様に直接焦凍に何かできるわけでもなく、会いに来てもらわなければ話すこともできないこの身で焦凍の為に何かできるなら拒む理由なんてありませんとも!ね、貴方?」
「ああ、妻の言った通り、親として子の為になるなら拒む理由などない。特に君には家族間にあった溝を埋めて貰った恩もあることだしな。そんな君なら喜んで協力しよう」
「ありがとうございます!なら早速やっちゃいますね!」
――
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「特に変わった感じはないな」
「もっとこう、体の奥に何かが!というのを想像していたんだが」
「馴染むまで時間が掛かるから、だいたい5、6時間もすれば変化があると思うよ」
「そうなのか」
僕も[
「緑谷さんはまだお時間大丈夫ですか?」
「え?あ、はい、今日は一日空いてますから」
「なら学校での焦凍の様子を教えてくれませんか?この子ったら自分の事は何も話したがらないから」
「母さん!」
「あら?聞かれちゃ困ることでもあるの?」
「そりゃ・・・ないけど」
「ならいいわね!」
そりゃ長い事病院に居て、会いに来る様になったのも最近じゃ普段の様子は気になるよね
「私も気になるな」
「親父まで!」
「俺にも天哉の様子を教えてくれ。俺より出来は良いのに変なところで堅いから上手くいってんのか心配なのよ」
「兄さん!?」
「ははは!何から話しましょうか」
こうして面会時間が過ぎ、看護師さんが来るまでワイワイと話し合った