病院の片隅で受話器を取る老人
「俺の盟友でありお前の師・・・『先代ワン・フォー・オール所有者、志村』を殺し、お前の腹に穴をあけた男『オール・フォー・ワン』が再び動き始めたと見ていい」
『あの怪我でよもや生きていたとは・・・信じたくない事実です』
「もう一つ、悪い知らせだ」
『これ以上の悪い知らせが?』
「一時期アダム・アークライトが狂った様に敵をふんじばってた時があったろ?」
「ええ、警察や我々が駆け付けた時には破壊し尽くされたアジトとそこに転がるボロ雑巾の様になった敵達、そして悠々と立ち去る赤い外套の彼を幾度となく見ましたし、何度問い詰めてもはぐらかされ、強行手段で捕まえようとしても返り討ちか逃げられていましたから。何故かヒーローを名乗ることに躊躇いがあったようですが、少なくともあの様なことをする人間じゃなかったと思ったのですが・・・・・・何が彼にあそこまでさせたのか」
「それは奴が目の前で父親を奪われたからだ。奴は抗うにはもっと力が必要だと言っていた」
『それは・・・あ、いや、それと今回の悪い知らせは何の関係もないのでは?』
友人の暴走した理由を聞かされて言葉を詰まらせたが、それがオール・フォー・ワンと何の関係があるのかが解らなかった様だ
「奪った犯人がオール・フォー・ワンだとしてもか?」
『!?』
受話器の向こう側で息を呑む音がした
「そしてアダムの養父、アークライト神父を殺害してまで奴はアダムを欲していた。もう気付いているはずだ、アダムの後継者が誰かってことも・・・」
『・・・』
「小僧はまだ未熟でお前とアダムの期待に応えようと足掻く卵だ。外から強い負荷が掛かればひび割れ潰れちまう様な弱い存在で俺達大人が守ってやらにゃならん存在だ。アダムの様に全てを奪われ、復讐に身を焦がすようなことに成らないように折を見てしっかりと話しといた方がいいぞ。お前達とワン・フォー・オールにまつわる全てを」
『ええ・・・・・・・・それにしても、やはり先生は彼と、アダムともお知り合いだったのですね?』
「知り合いも何も奴は俺の教え子だ。知らされてなかった様だが、奴は菱形左天の名でお前と同級生やってたぞ?」
『え!?佐天君!?』
「話はそんだけだ、じゃあな」
『あ、ちょっ!お待ち‐‐』
ガチャンと受話器を下ろす
‐‐グラントリノ、どう足掻いても私では歴史の流れを変えられないらしい。だから彼に託そうと思う。彼は幾重もの壁に当たり挫折し、しかし、必ず立ち上がりその壁を乗り越える
「たくよぉ、面倒なもの残して逝きやがって・・・・・・安心しろよ、お前の様には絶対させねえから」
老人‐‐グラントリノの呟きは、誰もいない通路を抜けて闇に消えていった
――――――――――
「短い間でしたがお世話になりました」
「世話なんてしてねえよ。4日位はしたかもしれんが、5日目はあれだし、6日目は入院、昨日は説教とお前の希望で菱形んとこの教会を案内して終わりだ」
「いえ、グラントリノがいなければ教会の場所も解らなかったですし、発想のご教授と欠点を補うための組手のお陰でヒーロー殺し相手に何とか動けました」
「勘違いするな!本気じゃないヒーロー殺し相手にだ!第一、近接系の相手に同じ土俵で戦ってどうする!無駄に【個性】があるんだから弱点付け、弱点を!何の為に分類別に別けさせたと思ってる!そもそも俺の言うこと聞いてりゃこんなことにならなかったってのに!」
「すみません・・・」
お礼を言ったら地雷を踏んでしまった様でグラントリノが烈火のごとく怒った
「はぁ・・・お前はオールマイトのような『最高の
「はい」
「その上菱形・・・世間にゃあまり知られてないが、『独立自警員』『許可持ち
「ええ」
次世代のオールマイトとアダム・アークライト
平和の象徴にして最強のヒーロー
「ならもっと足掻け!世の中のバカ共は安易に『最強』を名乗りやがるが、最強ってのは生まれついての天才が足掻いて足掻いて足掻いて、もうこれ以上はって思った数段先のそのまた先に居る連中を軒並み叩き潰した先にあるもんだ。理由はどうあれ奴はそうだった。お前にそんな才能はないことはお前自身が良く判ってるはずだ。それでも奴にお膳立てされてんだ、簡単とは言わねえし、いつ成れるかも判らねえがお前ならできるさ」
「はい!」
今はまだ『平和の象徴』や『最強』に手が届くどころか視線すら届かない遥か下に居るけれど、いつか必ず成るんだ!・・・っとそうだ、これは聞いておかないと
「あの!最後に一ついいですか!?」
「あん?」
「失礼ながら、オールマイトとアダムさんの恩師と言うことだったんで調べさせてもらいました。でもほとんど情報なし、グラントリノは世間じゃほぼ無名です。何か訳があるんじゃないでしょうか?」
「当たり前だろ、俺は元来ヒーロー活動に興味がない」
「へ!?」
興味がない!?なんで!?
「ある目的のために『【個性】の自由使用の許可』が必要だった。そんだけだ。詳しいことはオールマイトに聞け」
・・・何か言えない理由があるのだろうか
「・・・じゃあ以上!達者でな!」
「ありがとうございました!」
お礼を言って踵を返したところで再び声を掛けられた
「・・・小僧!」
「はい?」
「誰だお前は!?」
「ここでボケます!?」
「あ゙あ゙?」
「う・・・」
振り向いたことろからのまさかの発言でずっと言わないように気を付けていた言葉が出てしまい、グラントリノに威圧された
「で、お前は誰なんだ?」
「う、えっと、緑谷出久で‐‐」
「違うだろ?もう一度聞く、お前は誰だ?」
え?違う?・・・・・・あ!そういうことか!
「黒鬼デクです!」
「ふん!」
「ありがとうございました!」
手をひらひらと振りながら戻っていくグラントリノへ精一杯の感謝を込めて頭を下げた
こうして濃密な職場体験は幕を下ろした
――――――――――
―― 教室 ――
翌日、登校すれば教室はどこもかしこも職場体験の話で持ちきりだった
「おはよう」
「ああ」
「おはよう緑谷君!」
丁度飯田君と轟君が話していたので、挨拶と共に話に加わる
「二人とも怪我の具合はどう?僕は完治したよ」
「俺ももう問題ない」
「腕に違和感は残るがこちらも問題ない。迷惑をかけたね」
「その話はもう済んだじゃないか」
「そうだったな」
「そういえば親父も母さんも土日なら問題ないってよ。ただ母さんの外出許可が直ぐには降りないから俺と親父が見舞いに行くときに一緒に病院に行くことになるが構わないか?」
「兄さんはいつでも来いってさ。轟君に同じく会うのは病院だが聞くところによると病棟こそ違うが同じ病院らしいから皆で行くかい?」
「本当!?会えるなら問題ないよ。なら来週にでも会いに行こう!」
「わかった」
「了解した。兄さんにそう伝えとく」
よし!二人の強化もできそうだし、ヒーローのサイン帖も二枠埋まる!あ、でもインゲニウムに強請るのはダメかな・・・
「あ!おはよう」
「おはよう!」
「そういえば、お前らヒーロー殺しとやりあったんだってな!無事で良かったな!」
皆の話題は職場体験からヒーロー殺しへ話は変わり、気付けば僕らを中心に輪ができていた
「位置情報と一緒に救援求むなんて書かれたら心配するぜ」
「本当そう!あんだけ戦える緑谷が救援要請だもん!何事かと思ったよ!」
「誰でもいいから助けが欲しかったんだよ。ごめんね」
「命あって何よりだぜマジで」
そこからワイワイと話が盛上ったところで上鳴君が思わずといった感じにヒーロー殺しを格好いいと評したときは肝を冷やしたが、立ち直った飯田君はむしろその一件を糧に一層精進する構えだったので、ギスギスした雰囲気になることなかった
「緑谷?・・・緑谷、なあ、緑谷、アレ、アレやってくれよ、なあ!」
「うおっ!?な、なに!?峰田君!?」
いきなり腰にしがみつかれた上に、明らかにヤバい状態の峰田君に若干恐怖を覚える
危なく殴り払うところだった
「おい峰田!落ち着けって!」
すぐに上鳴君が羽交い締めにして峰田君を引き剥がしてくれたが、峰田君は焦点の合わない目を向けてくる
「緑谷!頼む!体育祭の時のアレを俺にやってくれ!」
「え?どういう状況これ・・・」
「いや俺らを見られても・・・」
「だよね・・・」
いきなりの事だったので思わず近くに居た飯田君と轟君を見てしまった
にしても、体育祭のアレってなにさ・・・・・・
「頼む!アレがなきゃ・・・俺は、俺は!」
「いや、だから何なの?」
「あー緑谷・・・峰田の奴、Mtレディのとこでなんか見たらしくて今おかしくなってんだよ」
「それがコレ?」
上鳴君の言葉に再度峰田君を見るが、峰田君は未だに「アレをやってくれ」と僕に懇願してくる
まるで僕がヤバい薬でも持ってるみたいな表現は止めて欲しいんだけど・・・
「頼む!あの世界は俺の理想郷そのものだった!この世の女がMtレディみたいな奴ばかりじゃないと証明したいんだ!」
「・・・もしかして[
体育祭関連で峰田君が理想郷なんていうのは、口を塞ぐため半分八つ当たり気味に使った[
あの時の[
「やってみなきゃ判んないだろ!プルスウルトラだよ!俺の澄んだ瞳を見てくれ!わかるだろう!?」
「瞳孔開いて、細かく揺れてる。まともな精神状態じゃねえな」
「すごく濁った目だ。充血もしてるし寝不足だろう。睡眠はきっちり摂らないと体に悪いぞ!」
「ほら大人しく戻ろうぜ?緑谷だって困ってんじゃん」
僕が口を開く前に轟君と飯田君が峰田君の状態をそう評価し、上鳴君が諭すように言う
「保健室で休んできたら?きっといい夢見れるよ?」
「そんなことはどうでもいいんだ!アレさえあれば!俺は、俺は!・・・うへへ・・・」
三人の言葉に続いて保健室を進めたが拒否された上、既に半ば妄想の世界に旅立ちつつある
結局何を言っても引き下がらない峰田君に負けて、予礼が鳴るまでの10分だけという事と時間が来たら無理矢理でも起こすという条件付きで峰田君に[
「うへ、うへへへへ」
体を痙攣させながら床に伏した峰田君の顔は、それはそれは幸せそうな寝顔だった
これは寝過ごす予感・・・
普通に起こしても起きなかったら、[
―― 10分後 ――
「ヒッ、ヒック、ヒック、うう、ヒック、みど、ヒッ、りやなんて、ヒッ、き、きらい、だぁ、ヒック」
「うんうんそうだな、緑谷酷いよな」
峰田君を慰める上鳴君からはもちろんのこと、事情を聞いた皆からの視線も痛かった
「なんだお前ら?時間だ席着け、ホームルーム始めんぞ」
――――――――――
―― 運動場
「ハイ私が来た!ってな感じにやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね!久し振りだ少年少女!元気か!?」
余りにもあっさりとした口上からのスタートに皆口々に心配の声をあげる
「久し振りなのにヌルッと来たな・・・ネタ切れか?」
「毎度違うことしてれば尽きるだろ」
「テンション低め?」
「尽きてないっての!無尽蔵だっての!テンションだってめっちゃ高いよ!・・・ゴホン、職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた救助訓練レースだ!!」
「救助訓練ならUSJでやるべきではないですか!?」
飯田君が手を挙げて質問をしたところ、オールマイトは「ノンノン」と言いながら指を左右に振った
「あそこは災害時の訓練になるからな!さっき私は何て言ったかな?」
「テンションだってめっちゃ高い?」
「もっと後!」
「遊びの要素?」
「もう一声!」
となると
「えっと、救助訓練レース?」
「そう!レースだ!!ここは運動場
「こっち指さしてんじゃねえ!」
前回があれだったからか、オールマイトに指を刺されたかっちゃんは不機嫌そうに突き出された指を払う
「おっと!ああ、あと緑谷少年は空を飛ぶのはなしだ」
「ちょ!先生!そりゃ緑谷はすげえけど、一人だけハンデとか男らしくねえよ!」
オールマイトの言葉にすかさず切島君が抗議の声を上げる
「こらこら、ちゃんと理由があるから慌てちゃいかんよ?ご存知の通り、公共の場で【個性】を使うには免許が必要だろ?それ以外にも一定以上の上空や深度の海中にもその中で活動する許可が必要なんだ。【個性】の使用許可があるからって好き勝手に空を飛ばれたり、海中を泳がれたら飛行機とか船を操縦する人が迷惑するだろう?所定の審査を通って許可証を得るか、ヒーロー免許証があれば問題ないが、残念ながらまだ緑谷少年はどちらも持ってない。もちろんこの運動場でその規定に触れることはないが、現実じゃヒーローや救助ヘリが現場に向かって飛んでたり、それとは関係ない飛行機やヘリが飛んでることだってある。ハンデと言えばハンデなんだが、いつなんどきでも飛べる訳じゃないってことを踏まえて、今回は何らかの理由で飛行が出来ないと仮定してレースに望んで欲しくてね?だから空を飛んじゃダメっ訳さ」
「そうだったんすか。すんません早とちりして」
「HAHAHAHA!謝る必要なんかないさ、自分の有利を喜ぶより相手の不利に憤るなんて格好いいじゃないか!」
「へへへ!あ、でもそれだとやっぱり緑谷だけ不利過ぎないっすか?」
切島君はオールマイトに褒められて嬉しそうに笑ったが、ふと僕が不利なことに変わりないと気付き再度質問をした
「いい質問だ!勿論この運動場
「なんか変則的な障害物競争みたいだ」
「まあ簡単には言うとその通り!・・・で、空飛ばれちゃうと折角のギミックが無駄になるという大人の事情が有ったり無かったり・・・ハッ!いやいや何でもないよ!うん!と言う訳ですまないが飛ぶのはなしだぞ?緑谷少年!」
「はい」
「じゃあ、この箱からくじを引いて班決めをしてくれ!」
途中でぼそっと本音が聞こえた気がするけど、建前の理由も一理あるから問題はない。
しかし、飛ばずに行くなら[
「デク君!」
・・・とすると足場が不安だからあまり飛ばすと滑落の恐れがあるから、ここは・・・いや、地上を行きながら随時場所の把握を・・・でもそうすると――
「おーいデク君!デク君てば!」
「うぇ?な、何?」
「何?じゃないよ!まだくじ引いてないのデク君だけだよ?」
「あ!ごめんすぐ引く!」
考え込むと周りが見えなくなるのは悪い癖だな
「班決めが終わったら各自位置についてくれ!救難信号が出たらスタートだからね?」
「えっと・・・一班だから初めか」
他に誰がと周りを見ると、第一走者は僕の他に瀬呂君、飯田君、芦戸さん、尾白君の5人
さて、どうやって攻略するか・・・
「あ、オールマイト!質問が一個、飛んじゃダメってことなんですが――」
――――――――――
―― 観客席 ――
「飯田の奴まだ完治してないんだろ?見学してりゃいいのに・・・」
「クラスでも機動力良い奴が固まったな」
「なあなあ!お前ら誰がトップ獲ると思う?俺は瀬呂!」
「緑谷超優勢かと思ったけど飛べないんなら尾白もあるぜ?」
「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげえぞ」
「ケガのハンデはあっても飯田君な気がするな」
「チッ・・・・・・クソデク・・・」
「ん?爆豪なんか言ったか?」
「言ってねえよ!黙れアホ面!」
「ア、アホ面・・・」
「おいおい、お前ら考えて見ろよ?尾白と芦戸もそりゃ機動力はすげえが、あん中じゃ飯田が断トツで足が速い。それでもこの運動場は迷宮みたいになってるらしいし、ギミックもあんだろうからそんなに速度出して突っ走れると思えねえ。緑谷は飛んじゃダメだってんだから走るしかねえ。てことは飯田と同じくギミックが邪魔して早くは走れねえだろ?その点瀬呂は足こそ飯田に劣るが、最短ルートの上を突っ切れるし、テープの巻きで加速する。流石にギミックがあんのは地上部だけだろうから、瀬呂が1位候補だろ」
「そう言われると、うーん」
「なら瀬呂がトップか?」
「そうとは限りませんわよ?」
第一走者を見て各自がそれぞれ誰が勝つかを話し合い、最後に切島の意見で瀬呂トップで話が纏り掛けた処で、八百万が異論を唱え話に入ってきた
「お?ヤオモモは他になんかありそうだと?」
「ええ、私は緑谷さんを推します。皆さんそうそうに緑谷さんが首位脱落とお考えの様ですが、彼の【個性】は[模倣]、つまり今まで見せたものが全てではなく、まだまだ多くの【個性】がある可能性があります。それを抜きにしても今までの緑谷さんを見るに飛行が禁止されても何とかしてしまいそうな気がするのです。体育祭がいい例じゃありませんか?気づけばトップ、触れずに勝利、目で捉えられないほどの高速戦闘等々、挙げればいくらでも出るじゃありませんか」
「あーそれもそうか」
「俺、前に緑谷にいくつ使えるか聞いた時は『現状で使えるのは38』って言ってから使えないのも合わせたらもっとあるんだろうし、あれから確実に増えてるだろうから確かにわかんねえな・・」
「38って化物かよ・・・」
「ケロッ、始まるみたいよ」
蛙吹の言葉で全員が各員を映し出した画面に目を向ける
ピ――
『START!!』
合図と共にそれぞれが一斉に走り出した
「お!飯田の奴飛ばすなぁ!・・・うお、あぶねえ!マジ飛び出してきやがったぞ!」
「おお!ホラ見ろ、予想通り瀬呂の奴上を行くつもりだ!こんなごちゃついたとこは上行くのが定石だよな!そのまま突っ走れー!」
画面に映る瀬呂がテープを伸ばして上に上るのを見てを興奮したように切島が叫ぶ
「芦戸の奴も壁を溶かして上ってんぜ!やっぱ上の方がいいのか?」
「尾白は・・・アイツ尻尾器用に使って上ってやがる!」
「地上を行ってるの飯田君だけなん?」
「そりゃ上行った方が早いし、障害物がないならそっち行くだろ?」
「嘘だろ!?上にも障害物出んのかよ!?瀬呂!立て直せ!」
「切島熱くなってんなぁ・・・ん?は?オールマイト?ってことはマジ!?緑谷の奴もうゴール直前まで言ってんだけど・・・」
「え?早くね?」
5分割された画面にはそれぞれの走者が映し出され、緑谷の画面には緑谷以外にオールマイトが小さく映っている
「あの感じ・・・・・・障子と爆豪足して2で割った感じ?」
「爆発してるのは時々だから他の【個性】も併用してるのかも」
「ヤオモモの言う通りだ・・・緑谷の奴飛べないことがハンデになってねえ・・・」
緑谷はパイプや給水タンクの上を足場に跳ねる様にして駆け抜け、突然の障害物を避ける時は、あらかじめ生やしていた複数の腕からの爆発や足裏からのジェット噴射で回避していた
「おい、切島・・・緑谷へのハンデもっと多くした方がよかったんじゃね?」
「かもしんねえ・・・あ、いや、アイツだけハンデはやっぱダメだ!それでいい勝負になっても嬉しくねえし、納得いかねえ!」
「まあ、そうかも」
ピー!
「あ、ゴールした」
「緑谷だけ動きが違ったな」
「ああ」
――
―――――
――――――――
―――――――――――
「見事緑谷少年が一番だったようだね!もっとハンデ欲しかった?」
「え、いや、これ以上何を制限するんですか・・・」
「ハハハ!苦難は乗り越えてこそだぞ!プルスウルトラだ!それに皆、入学時よりも【個性】の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストへ向け準備を始めてくれ!!」
「そっか、期末ももうすぐか」
今までの復習に力を入れないとな・・・あ、皆行っちゃった!僕も移動しないと
「少年、この授業が終わったら私の元へ来なさい」
「へ?」
移動する皆の下へ急ぎ駆け寄ろうとしたところで、オールマイトが僕にだけ聞こえるような小さい声で話かけてきた
「君に話さなければならない時がきた・・・私とワン・フォー・オールについて」
――――――――――
―― 更衣室 ――
話さなければならない事ってなんだろう・・・
「俺、機動力が課題だわ」
「情報収集あるのみだな」
「それだと後手にまわんだよな・・・緑谷までとは言わないけど、せめて早く動けるような対策考えとかなきゃキチイぜ?」
それぞれが今日の授業で見つかった弱点をどう改善するかを話す中、一人だけ別のことに心血を注ぐ者が居たーー峰田君だ
「おい!緑谷!!やべェ事が発覚した!!こっちゃ来い!」
「ん?」
突然峰田君に呼ばれて何事かと振り向くと興奮した様子で壁の一点を指さしていた
ちなみに、今朝の[
「見ろよ、この穴!ショーシャンク!!恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!!隣はそうさ!わかるだろう!?女子更衣室!!」
「峰田君やめたまえ!!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!」
「バカ!やめろよ!隣で耳郎がまだ着替えてるかもしれないんだぞ!?」
「え?上鳴君?耳郎さんのこと・・・?」
「マジ!?おい詳しく聞かせろよ!」
「え!いや、べべべ別に耳郎のことなんて綺麗だとか可愛いとか彼女に欲しいとかしか思ってねえよ!」
「上鳴君動揺しすぎ、本音がダダ漏れだよ?」
「え、あ、ちが、そ、そんなことより峰田を止め――」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!目から爆音がぁぁぁぁ!!!!」
「安心しろ、お前の大好きな耳郎ちゃんがどうにかしてくれたから、俺たちは男同士でじっくり話そうじゃないか、なあ」
「そんなんじゃねえってば!」
急遽開催された上鳴君への質問大会
あんまり大きい声で騒ぐと隣に聞こえちゃうんじゃないかな・・・お?隣から扉が開く音が聞こえた気がする
[
この近付いてくる反応は・・・ふむ・・・
ちょっとイタズラしてみる事にした
上鳴君の死角から皆に合図を送り準備する
[声真似]
「あ、あーあー」
よし!準備完了
もう一度合図を送り、質問を一時中断してもらう
「じゃあどう思ってるの?」
「ウェ!?耳郎!?なんーー」
「振り向かないで!」
「!!!」
突然の耳郎さんの声に驚き振り向こうとする上鳴君を制止し、もう一度問い掛ける
「で、どうなの?」
「それは、その、こ、こういうことは二人っきりの時にだな・・・えーと」
「じゃあ二人だけなら言ってくれる?」
「も、ももももちろん!」
答えは聞けなかったけど、
「だってよ耳郎さん」
「へ?」
『男子!隣でギャーギャー騒いでんなよ!緑谷も人の声で止めてよ!恥ずかしいだろうが!・・・アホ面は後で校舎裏に来い」
「え?・・・え?・・・え?」
「頑張ってね上鳴君!」
上鳴君は状況が飲み込めていない様で、僕と更衣室の扉を交互に見ながら唖然とした表情で立ち尽くしていた
「よーし!お前らチャチャっと着替えて撤収!ラブコメのチャラ男は
「上鳴君!応援しているぞ!頑張ってくれ!」
「上鳴がリア充一号か、意外だな」
「目の前でやられると流石にイラッと来るな」
「祝福してやろうぜ?」
「なんて?」
「リア充爆発しろ!」
「ちげえねえ!」
「目がぁぁぁ!」
「峰田もいつまでも転がってないで行こうぜ」
皆が着替え終わった所で、扉の前で待っているであろう耳郎さん対策に唖然とする上鳴君を盾にしながら扉を開け、予想通り居た耳郎さんに上鳴君を物理的に押し付けると二人して顔を真っ赤にしてフリーズしたので、皆で逃げた
逃げ際に皆が祝福の声をかけていたら、意外にも耳郎さん以外の女子達も祝福の言葉をかけていた
イタズラで吹っ掛けたのは僕だけど、大丈夫かな?・・・・・・上鳴君ガンバ!