託された力   作:lulufen

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第37話 とある転生者の一生

 生命は死を迎えると時間と共に魂が抜けていく

 そして、徐々に浄化され、その過程で魂から記憶が剥がれていく

 

 剥がれた記憶は消えていくが、自我を持つ動物の中には希に強い未練が核となって記憶が集まり、擬似的な霊魂として現れることがある

 

 所謂(いわゆる)地縛霊や浮遊霊と呼ばれる存在だ

 

 その中でも進化の過程で特に我欲が強くなった人間の魂の中には、強過ぎる未練で浄化の過程で魂から記憶が剥がれることがなく、そのまま天に登り輪廻の環に加わろうとする魂がある

 輪廻の環は浄化された無垢な魂が密集した所のため、この未練のある魂が加わるとたちまち染め上げられ、天変地異として世界に多大な影響を及ぼす

 

 それを防ぐため、未練のある魂が輪廻の環に加わる前に無垢な魂と隔離し、浄化処理するのが世界の管理者、所謂(いわゆる)『神』という

 

 なぜそんなことを知っているかというと、目の前にいる妙に認識し辛く、何とか人形(ひとがた)であることは判る『神』に説明されたからだ

 

 その『神』が言うには、何でも私は強い未練で記憶が剥がれなかった魂なのだそうだ

 ただ、厄介なことに強いのは未練だけではなく、魂の強度も強いらしく通常の処理では浄化されず、輪廻の環に加えることが出来ないんだとか

 

 これも私だけが特別というわけではなく、未練も魂の強度も強い者は希にではあるがいるらしい

 

 ではどうするかというと、自然に未練がなくなるように擬似的な転生を行うそうだ

 転生先は所謂(いわゆる)箱庭の様な所で、転生者の望む世界を作り出し行う

 そして、箱庭の世界故に特殊な能力を与えることも可能なのだとか

 

 そのため、実際の世界では在り得ない、魔物が跋扈し、魔法が飛び交う世界で一騎当千の活躍もできるそうだ

 ただし選ぶことができるのは物語の存在する世界だけらしい

 

 理由としては、無からの世界創造は簡単ではなく、既にある世界への影響を計算し、調整、生命体を生み出し、そこから更に世界の影響を計算し・・・と、ひたすら手間が掛かり、それに伴いとてつもない年月が必要で作り上げるのは容易ではない

 だから、箱庭という隔離された世界にすることでこの問題を解消し、更に既にある物語をベースに作り上げることで簡単且つ矛盾の少ない世界が出来上がるのだとか

 

 そこでどのような場所に行きたいかと問われ、『僕のヒーローアカデミア』の世界に『NEEDLES(ニードレス)』の『PFーZERO』を持って転生したいと答えた

 

 小さな理由がファンタジーの世界への憧れから

 大きな理由は今度こそ家族を守れる力が欲しいという渇望から

 

 その願いは叶えられ、[PFーZERO]を核として擬似的な転生を行う運びとなった

 

 ただし転生以前の、つまり前世の記憶は転生を行う前に処置して大半を消去、残りも徐々に消えていくようにするそうだ

 

 何でもこの擬似転生を行い始めた頃は、記憶を消さずにいたことで未練をなくすどころか、前世に対する未練が日増しに強くなり発狂、強靭な魂ですら強くなった未練に耐えられなくなり破裂して存在ごと消えてしまう事例が多発したので、その処置として記憶の消去を行うのだとか

 

 そして、世界を選択した者には物語の行く末、つまり原作知識を残したまま、或いは与えた上で、且つ特殊な能力に関する知識を持った状態で転生させてくれるそうだ

 これは一重に長く生きてもらうため。

 

 その代わり、余りにも物語から逸脱する行為は控え、物語に沿うように生きること約束させられた

 

 何度理由を聞いても微笑むだけで『神』が何か言うことはなかった

 

 答えるつもりはないようだ

 

 その後、私は諸々の処理を施され、箱庭の世界へ転生することとなった

 

 ――――――――――

 

 どれくらいだろうか、真っ暗な中を落ちていくような感覚を味わい続けていると妙な浮遊感と何か暖かいものに包まれる感覚を覚えた

 

 どうやら上手くいったらしいが・・・ここは何処だ?

 

 もしやこれが母親の胎内の感じなのだろうか

 

 そう思いながら四肢に意識を向ければ特に手間取ることなく動かすことができた

 

 赤ん坊にしては不自然なほど動く・・・何故だ?

 

 今度はゆっくりと目を開けると、焦点の上手く合わない若干ボヤけた緑色の視界の中で、白衣を着た一人の男性と目があった気がした

 

 どうやら今世はまともな生まれじゃないらしい

 

 母親の胎内と思っていたのは、緑色の液体の入った何かの機械だったようだ

 

 目の合った白衣を着たその男は私に何かする事なく走り去ってしまった

 

 徐々に鮮明になってく視界で、狭い機械の中から周囲を確認していると、白衣の男が一人の男を連れてきた

 

 白衣の男は連れてきた男に(しき)りに頭を下げていることからその男は上司なのだろう

 

 なんとなく二人のやり取りを眺めていると、私の浮かんでいた液体が減っていく

 

 どうやら白衣の男が機械を操作し、緑色の液体を抜いたらしい

 

 楽観出来たのは液体が私の鼻を下回るまでだった

 ついさっきまで呼吸をせずとも肺を満たす液体から酸素を取り入れていたのに、急になくなったものだから、溺れたような錯覚と共に液体を吐き出し、狭い機械の中でもがく

 

 もがくと言っても、膝を抱えた格好のため、精々が機械のガラス部分を叩き、男達に助けを求めるくらいしかできない

 

 転生して直ぐに死を覚悟するとは思わなかった

 

 そして液体のなくなった機械の中から出されると、白衣の男の上司が私の頭に手を置いた

 

 直後、何か得たいの知れないものが入ったり出たりを繰り返し、その度に男達の顔は歓喜に彩られていき、私は困惑と共に恐らく【個性】であろう『力』を覚えていった

 

 私を余所に二人はなにかを話しているようだが、まだ上手く聞き取ることができず、ただ見ているしかなかった

 

 もう少しで上司の男の【個性】を理解できそうな時、傍観を止めた

 

 先ほどまでと違った、入ったものが出ていくのではなく、私から何かを引き抜こうとしている感覚と、何かが引き裂かれそうになる激痛が私を襲ったからだ

 

 私は激痛から逃れるためがむしゃらに暴れた

 気付けば白衣の男が立っていた場所は深い穴が開いて白衣の男の姿がなく、その隣には上司の男が目を見開いて立っていた

 そして私のいる回りは抉れ、溶け、ひび割れとひどい有り様だった

 

 その後は部屋に入れられ、先ほどから「ここがお前の部屋だ」と言われている事をやっと聞こえるようになった耳で理解した

 

 それからは様々な実験をされ、研究員の目を盗んで様々な【個性】を覚えながら過ごしていた

 名前も『アダム』と付けられた

 

 偶然にしては出来すぎかと思ったが、容姿も『力』も彼と同じならこの名前がしっくり来るかと納得した

 

 そして様々な実験の過程で、私の後に続くように自我のない兄弟も多く生まれた

 

 兄弟達は研究員以上に役立ちそうな【個性】を持っていたので、これも研究員の目を盗んで覚えていった

 

 施設で暮らしながら色々と情報を集めたところ、私は『始めから全ての【個性】が使える生命体』として創造されたが、『あらゆる【個性】に親和性を持つ生命体』として誕生した事

 

 兄弟達と思っていたのは、私のクローンに他の遺伝子を混ぜた改良型人造人間(ホムンクルス)らしい事

 

 私が白衣の男の上司と呼んでいる男はこの施設の責任者兼出資者である事

 

 そして、どうやら私はたまに来る責任者の男以外には『【個性】が存在しない個体』と認識されている事

 

 当然そんな私に対する待遇は良くない

 

 責任者の男が私の所に来なくなった時が、私が破棄個体の仲間入りする時だろう

 

 そうなったら施設を破壊して脱走するつもりだ

 

 そんな暮らしを体が育つまではと続けていたが、当たり前となった日常に変化が起きた

 

 責任者が数日離れるからと、一人の研究員が私を破棄しようとし始めたのだ

 

「やっぱり適性以外何もねえのかよコイツは・・・破棄だな」

 

「勝手に破棄は不味いんじゃないか?ボスが偉く気にかけてたし・・・」

 

「一番最初に出来た人造人間(ホムンクルス)だからだろ?適性以外何もねえし、他の人造人間(ホムンクルス)は適性以外にも【個性】があんだろ?なら破棄だ破棄。正直こいつの世話は時間の無駄なんだよ」

 

 こいつに世話された覚えは欠片もないが、そろそろ頃合いか・・・覚えるものはもうなさそうだしな

 

「敵襲!敵襲 !ヒーローが攻めてきやがった!」

 

「ちっ!戦闘員は迎撃準備!出来損ない共もにありったけの薬ぶちこんで戦わせろ!今捕まるわけにはいかねえ!」

 

 さて、どうするべきかと自身の身の振り方を考えていると、丁度良くヒーローの襲撃が起きた

 

 ヒーローが来たのか・・・このまま脱走するより保護された方がいいかな

 

 私は、研究員達の認識を狂わせて戦闘に参加せず、ただ戦闘が終わるのを待った

 

 その後出会ったヒーローに連れられ、古びた教会で年老いた神父と逢った

 

「初めまして、アダムシリーズ(ゼロ)型、シリアルナンバー078A-A、アダムです」

 

「はい、初めまして。皆様の助けを借りながら神父として『神』に遣えさせていただいています。ニード・アークライトです。それと、自己紹介の仕方が違いますよ?これから私の家族となるのですから、貴方の名前はアダム・アークライトです。いいですね?」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

 今生で初めて家族ができた

 

 前世の記憶はもうないが、父親とはこんな感じなのだろうか・・・

 

 それから数年後、雄英高校の入学式が決まり、いの一番に神父様に報告しようと急いで帰宅すると、門の前にスーツ姿のどこか見覚えのある男性が立っていた

 

「やあ」

 

「その声は・・・ボス?」

 

 研究施設の責任者で皆にボスと呼ばれていた男の声だった

 

「そういえば皆は僕のことをそう呼んでいたね」

 

「どうしてここに?」

 

「随分と感情豊かになったものだ・・・勿論君を連れ戻しにだよ。まったく少し目を離した隙に居場所を突き止められ、大事な人造人間(ホムンクルス)を軒並み不良品とされた挙げ句、君まで掠め取られた時は怒り狂ったものだが、君が生き残っていてくれて良かった。君を探すのに苦労したよ・・・さあ、戻っておいで」

 

「私は・・・戻りません」

 

「どうして?」

 

「貴方が行っていた研究は非合法な上、私にはもう居場所がある」

 

「こんなボロ教会のどこがいい?吹けば消し飛ぶような廃墟じゃないか」

 

「確かに建物はそうかもしれませんが、神父様がいます。時々ではあるが礼拝者だって来ます。それで十分です」

 

「・・・考えは変わらないのかい?」

 

「ええ、研究施設で面倒を見てくださったことには感謝しています。しかし、今の私の家はここですので」

 

「そうか・・・また来るよ」

 

 そういって(きびす)を返して立ち去った

 

 立ち去るボスの背を見ながら妙なざわつきを覚えたが、その数秒後には頭の隅に追いやり、入学を神父様に報告するために教会へ走った

 

 ――――――――――

 

 未知は不安である

 

 そして私は原作知識という即知があった

 

 (ゆえ)に即知を未知に変えないように立ち回った

 

『神』から『物語に沿うように生きること』と言われたのもあるが、私自身《未知の不安》よりも《即知の安心》が良かったからだ

 

 だからこのままでは命を落とすと判っていても知らせず見殺しにした

 

 少し手を貸すだけで悲劇を回避できたのに、その術も持っていたのに見捨てた

 

 たった一言、そっちにいくなと言うだけで良かったのに、未知を恐れて見捨てた

 

 《原作が変わってしまう》

 

 そんな理由で救える命を捨て去った

 

 そうして見捨てた命に対し涙を流す遺族や関係者を見て罪悪感で涙を流した

 

 しかし、人間とは馴れる生き物だ

 

 何度も涙を流した(すえ)に心は渇き、何も感じなくなった

 

 私は弱きを助けるヒーローを目指しながら、弱きを見捨てる生活を続けていたのだ

 

 だからだろうか・・・(ばち)が当たった

 

 身勝手な理由で命の取捨選択をする身でヒーローを名乗ることがどうしてもできず、()りとて(ヴィラン)を前にしてなにもしないこともできず、雄英を卒業後はヒーローとして活動することなく、自警団(ヴィジランテ)の一人として、半ば賞金稼ぎの様な事をして命を見捨てたことへの罪悪感から目を逸らしながら毎日を送っていた

 

 そんな私を神父様は何も言わず、ただ黙って見守ってくれていた

  申し訳なく思うも正直ありがたかった

 

「ただいま戻りました・・・・・・?」

 

 なんだ?いつもなら神父様が返事をしてくださるのに・・・

 

 いつものように帰宅すると小さな違和感を感じた

 

 所々にひびや欠けが見当たる門をくぐり、違和感の感じる方へ目線を向けると、血溜りに倒れ付した神父の姿が目に入った

 

「神父様!?」

 

 駆け寄り抱き起こすも神父様は動かない

 いくら肩を揺すっても目を開けない

 

「・・・神父様!!目を開けてください!神父様!!・・・父さん!!」

 

 床についた膝に血が染みて生暖かい感触が広がり、比例して神父様から熱がなくなっていく

 

「父さんは私だろう、078A-A?さあ私の元に戻ってきなさい」

 

 横から声がかかる。

 そちら向けばボスの姿があった

 

「ボス!!?まさか貴方が父さんを!?・・・どうして!」

 

 ボスに対して叫ぶ様に理由を問えば、何故怒っているのか理解できないといった顔をする

 

「どうして?そこの神父のせいで君が私の元に戻ろうとしないようだから、私自ら戻りやすいように枷を外してあげたんだよ。さぁ私と帰ろうじゃないか」

 

「――ふ――――るな・・・ふざけるな!!誰が貴様の元などに戻るか!!!」

 

[サイコキネシス]で回りにある物を手当たり次第に投げつけるが、まるで立体映像の如く全てがすり抜ける

 

「ふむ、失敗したか。今の君には光の当たる道は辛かろうという親心だったのだがな・・・まあ、いずれ君も分かってくれるだろう。待ってるよ」

 

 ボスはそう言い残して影に溶け込む様に消えていった

 

「父さん・・・父さん・・・・・・ああああああーーー!!!!」

 

 ああ、原作なんて無視して助けられる命を助けていれば良かったんだ。

 そうすればこんな悲劇に見舞われることもなかった。

 

 

 ああ・・・ああ、『神』よ。

 なぜ父さんなんだ、罰を与えるなら私だろう

 父さんは信心深く貴方を敬っていたではないか

 

 これが罰というなら余りにも酷すぎる

 

 叶うなら時間を戻して欲しい

 

 ――――――――――

 

 あの日から物語を無視して数多くの命を救い、更に多くの(ヴィラン)を捕縛したが、解ったのはどう足掻いても決められた物語を大きく狂わすことはできないということ

 

 

 孤児院に居た『僕のヒーローアカデミア』の世界ではなく『NEEDLES(ニードレス)』世界にいるはずの少女達を引き取り、教育機関に通わせることはできた

 

 しかし、手を変え品を変え、姿まで変えてエンデヴァーと何度も接触することで、いずれ妻となする女性に対し恋愛感情を持たせることはできても、別の女性に興味を向けることはできなかった

 

 いずれ主人公達の前に(ヴィラン)として立ちはだかる者を何度追い詰めても必ず何らかの妨害に会い排除できず、(ヴィラン)にならないようにと志村転弧を悲劇に合う前に何度助けようともしたが、接触できなかった

 

 つまり物語上の定めを持つ者の未来はずらすことは出来ても、ねじ曲げることは出来ないのだ

 

 命を見捨ててまで順守しようとした未来

 

 父さんの死を切っ掛けに捨て去ることにした未来

 

 そしていざ捨て去ろうとしてみれば『世界』が捨てることを許さない

 

 そして物語が狂うほどのズレができると『神』の手によって世界が『切り替わる』

 

 比喩や冗談ではなく、まるで狂った場所から先を切り取り、正常なものを無理矢理繋げたかの様に一瞬で変わる

 

『その道は違うよ』

 

 聞き覚えのある誰かの声で囁かれたと思ったときには変わっているのだ

 

 目の前の(ヴィラン)が虫の息で、後数分も持たず死ぬ状態だったのにも関わらず、次の瞬間には無かったことになっていた

 

『神』は『物語に沿うように生きること』と言った

 

 そして、なぜと何度問いかけても答える事はなかった

 

『神』はただ笑っていた

 

 ()()()()()のだ

 

 何が『神』だ

 

 何が『世界の管理者』だ

 

 『神』()はそんな者ではない

 

 ただそれらしい理由で納得させた魂を入れた箱庭を眺めて楽しんでいただけだ

 

 そして私は選ばれた

 

 箱庭の持ち主を楽しませる道化として

 

 私は意図せず道化として箱庭の中で踊ったのだ

 

 

「た、助けて・・・」

 

 

 悲鳴を無視し、助けられる命を見捨てた。

 

 助ける術は幾らでもあったのに

 

 干渉すれば未来が変わるから?

 

 そもそも私という『異物』が混じっているのだ。干渉してもしなくても未来は変化する

 

 

「必ずヒーローになろうな!」

 

 

 隣で笑っていた友を、助けられたのに見殺しにした

 

 共に戦い、救うことが出来たのに

 

 『神』に原作を守れと言われたから?

 

 そもそも物語を元に作られた箱庭である以上この世界は偽物で、原作を守らずとも世界に影響はない

 

 全てを打ち明けていれば回避できたかもしれないのに

 

 拒絶されることを恐れ、罪を問われるのを恐れ、居場所を失うことを恐れた

 

「おやアダム、お早いお帰りで。学校はどうでしたか?」

 

 その結果、まともな生まれではない私を、躊躇(ためら)うことなく受け入れてくれた最愛の人を死なせた

 

 原作を守ることに意味がないなら、物語を狂わすことが出来ないなら、せめて舞台を壊せばいい

 

 しかし、道化の私では『神』()箱庭(脚本)を壊すことはできない

 

 世界からの修正とは別に『神』()からの修正が入るからだ

 

 私が『神』()と繋がっている限り、何度でも《物語の切り繋ぎ》が起きる

 

 『道化は道化らしく踊れ』と『神』()が私を介して物語を修正する

 

 ならばと踊ることを止めても、父さんの様に大切な人を殺し、私をまた踊らせる

 

 この世界は絶望しかない

 

 それでも足掻く

 

 『お前は道化だ』と『俺を楽しませろ』という『神』(脚本家)に一矢報いるために

 

 だから、この《力》を託そう

 

『神』からの修正を受ける事なく、且つ私のように命を見捨てることのない彼に・・・

 

 

 

 涙の跡を化粧で隠した道化は、作った笑顔の下で覚悟を決める

 

 

 

 

「少年、力が、【個性】が欲しくはないかね?」

 

「え、あ、あの、貴方は誰ですか?」

 

 

 

 絶望した道化は静かに舞台から去り、なにも知らぬ主役に希望を託す

 

 託された主役は一層舞台を駆け回り、観客から喝采を浴びる

 

 脚本家に悟られることなく全てを終えた道化は、主役の活躍を目にすることなく、そして誰に見送られることもなく、ただ一言残して立ち去った

 

 

 

 後は頼んだよ、主人公(ヒーロー)

 

 

 


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