託された力   作:lulufen

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第36話 対ヒーロー殺しのその後

 なんだこれ

 

 足元は真っ赤な血の池

 血の池に沈む2人の友人の姿

 

 なんだこれ、なんだこれ

 

 パシャ・・・パシャ・・・と背後から近づいてくる足音

 

 振り返る間もなく衝撃が走った

 そして耳元で聞こえる聞き覚えのある声

 

「残るはお前だけだ偽物」

 

 視線を下げれば胸から飛び出した刀身

 

 刀身から伝って滴り落ちた血がピチャン、ピチャンと音を立てて血の池の一部となっている

 

 う、うああああ――

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「ああああぁぁぁ・・・・・・あ?」

 

 叫びながら胸を押さえればあるはずの凶器がなかった

 目の前に広かるのは真っ赤な血の池ではなく、シミ一つない真っ白な知らない天井

 

「起きたか緑谷。うなされてたが大丈夫か?」

 

「おはよう、あれからずっと眠り続けてたから心配したよ」

 

 起き上がれば病衣(びょうい)姿の飯田君と轟君

 

「ここは?」

 

「ここは病院だよ。君は既に気を失っていたから知らないだろうが、俺達酷いけがだったからそのまま病院に搬送されたんだよ」

 

「ただでさえ出血多量でぶっ倒れたってのに、最後の最後にあんなん見せられたら気絶しても可笑しくねえよ」

 

 視線を下に向ければ、二人と同じ病衣に身を包み、そこから除く腕は包帯でぐるぐる巻きにされていた

 

「そっか、僕ら・・・生きてるんだよね・・・」

 

「ああ、奴に付けられた傷も致命傷になる様な箇所は外されてる。明らかに生かされたって感じだな・・・その点、あれだけの殺気を初めっから向けられ続けて尚立ち上がったお前はすげえよ。助けに来たつもりで逆に助けられた」

 

 轟君にすごいと言われた飯田君は目を伏せた

 

「いや、違うさ、全然違う。俺は兄さんのため、これ以上被害者を増やさないため、なんて綺麗事を口にしながらヒーロー殺しに挑んだ。結果は為す術もなく惨敗。そして助けに来てくれた君たちに対して『邪魔をするな』とさえ思ってしまった。なのに君たちはそんな身勝手な僕を助けるためにしなくてもいい戦いをした・・・それがどうしようもなく凄く腹立たしくて、どうしようもなく悔しくて・・・そして君たちが傷だらけになるのを見てるだけしかできない自分がどうしようもなく情けなかった・・・・・・結局はすべて自分の為にしたことだったんだよ・・・轟君の言った『なりたいもんちゃんと見ろ』って言葉でなんでヒーローを志したか思い出したんだ。だから立ち上がれた。折れずに済んだ。だから俺はすごくない。本当にすごいのは君たちだ」

 

「飯田君・・・」

 

「おおォ起きてるな怪我人共!」

 

「グラントリノ!」

 

「マニュアルさん!」

 

 落ち込む飯田君になんと声をかけたらいいか考えていると、ノックもなしにドアが開き、グラントリノとマニュアル、そしてスーツを来た背の大きなひ・・・犬・・・犬!?

 

「すごい・・・グチグチ言いたい・・・がその前に来客だ」

 

 物凄く顔を歪めたグラントリノが今にも口から飛び出しそうな文句をなんとか飲み込み、紹介したのは一緒に来た犬の人

 

「保須市警察署署長の面構犬嗣さんだ」

 

 警察!?

 

「い、犬のお巡りさん!」

 

 本物!

 

 迷子の子猫はいないけど、犬のお巡りさんはいた!

 

「それは警察に入りたての新米の頃だワン」

 

「署長だっつただろうが!」

 

「初対面の子は皆そう言うからね、気にしなくていいワン。ちなみに助けた迷子の子猫さんは名前も住んでいる所も言える賢い子で、今では立派な警官として私の下で働いているんだワン」

 

「おお!」

 

 迷子の子猫もいた!

 

「さて、おふざけはここまでとして、真面目な話をしよう。君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね?ヒーロー殺しだが、火傷に骨折となかなかの重傷で現在治療中だワン」

 

 そういって署長さんが語り出したのは今回の事件の処罰についてだった

 

 ヒーローがヒーロー足りえるのは、今まで先人たちがモラルやルールを順守してきたからであり、ヒーローとしての資格未所得者の僕ら三人が保護者の指示なく【個性】を使用し、ヒーロー殺しと応戦したことは相手が誰であろうと規則違反である。故に僕ら三人とその保護者は処罰を受けなければならないそうだ

 

 当然そんなことを言われて、はいそうですか、なんて言えるはずもなく、轟君が噛みついた

 

「待ってくださいよ。飯田が動いてなきゃネイティブさんが殺されてた。緑谷が来なければ二人は殺されてたし、誰一人としてヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ?規則を守って見殺しにするべきだったって!?」

 

「結果オーライであれば規則など有耶無耶でいいと?」

 

「っ!人を助けるのがヒーローの仕事だろ」

 

「ハァ、だから君は卵だまったく・・・いい教育をしてるワンね雄英も、エンデヴァーも」

 

「っの!」

 

「やめたまえ!もっともな話だ!!」

 

 遂に手が出そうになった轟君を飯田君が羽交い締めにして止めると、グラントリノが落ち着けと制止する

 

「そう急くな、話は最後まで聞くもんだ」

 

「以上が・・・警察としての意見・・・で、処分云々はあくまで公表すればの話だ」

 

「へ?」

 

 まるでそうするつもりがないという様な言葉に思わず変な声が出た

 

「公表すれば君たちは脚光を浴び、褒め称えられるだろうが処罰は免れない。そして何よりそれを見て触発された者達が僕も私もと第二第三の君たちとなってしまう恐れがある。それでは先人たちが長きに渡り築き上げた『平和』が黎明期以前の混沌とした世の中に戻ってしまう」

 

 そんな・・・僕らのせいでそんなことが・・・・・・

 

「一方で汚い話だが公表しない場合は、ヒーロー殺しの火傷痕からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者は極めて限られているのでこの違反はここで握り潰せるんだワン。だが、そうすると君たちの英断と功績も誰に知られることはない。どっちがいい!?杓子定規の正しい選択か、汚い大人のズルか。一人の人間としては前途ある若者の『偉大なる過ち』にケチをつけさせたくないんだワン」

 

「えっと、つまり?」

 

 混乱した頭では上手く理解できずもグラントリノに視線で助けを求める

 

「要はお前らの行いは『正しくはないが間違っていなかった』『公表はできないが胸を張れ』ってことだよ。ここは黙ってお願いしとけ」

 

 視線を向ければ二人とも同じ答えの様でコクリと頷いた

 

「よろしく・・・お願いします」

 

「大人たちの勝手な都合で君たちが受ける称賛の声はなくなってしまうが・・・せめて共に平和を守る人間として・・・ありがとう!」

 

 署長さんは僕達に深く頭を下げた後、パンッと手を叩き話題を変えた

 

「さて本題が済んだところで個人的な約束事を果たすワン」

 

「個人的な約束?」

 

「ええと、『保須市の病院卵が三つ、赤白(あかしろ)卵に眼鏡の卵、二つは無視してもう一つ、モジャ毛の卵に手紙を渡せ』」

 

 懐から古びた紙と一通の手紙を取り出したあと、古びた紙の方にに視線を落としながら歌う様に読み上げた

 

「は?なんですそれ?」

 

 皆同じ事を考えていたのか、赤白卵で轟君、メガネの卵で飯田君、そしてモジャ毛の卵で僕を見た

 

「ああ、いや、渡す相手と一緒にいるであろう人物の特徴を紙に書いて貰っていたんだワン。何しろ頼まれたのが8年も前だったものでね。頼むなら特徴を書けといったらこれを渡されたのだワン」

 

「8年前なのに今の状況が指定されてるのか?そんなバカな」

 

「そういうことができる人物からの手紙だよ赤白卵君」

 

「歌う必要はなかったのでは?」

 

 やはり恥ずかしかったのか、飯田君の質問に頬を赤くしながら、咳払いでその質問を誤魔化して僕へ手紙を差し出す署長さん

 

「ゴホン!で、モジャ毛の君が緑谷君だね?君宛だワン」

 

 驚く轟君を尻目に手紙を受けとる

 

「ありがとうございます」

 

「さて、私もなにかと忙しい身でね?ここで失礼させてもらうよ」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

「では、ご協力感謝します!」

 

 署長さんは、ビシッと格好いい敬礼をして去っていった

 

「小僧!」

 

「は、はい!」

 

 突然呼ばれ、背筋が延びる

 

「言いたいことは山ほどあるが、今日は勘弁してやる。ぐっすり寝て傷を癒せ。ただし・・・・・・明日は説教だ!」

 

「は、はぃ・・・」

 

 明日の説教、長くなりそう・・・

 

「飯田君、君もだよ?」

 

「ご迷惑をお掛けしました」

 

「自身の勝手は他人の迷惑!分かったら二度とするなよ!!」

 

「はい」

 

 横では飯田君がマニュアルにしかられていた

 

「じゃあ俺らも戻る。他のは知らんが、小僧は一日あれば治んだろ。暇だろうがなんだろうが寝てろよ」

 

「はい」

 

 署長に続くようにグラントリノとマニュアルが退室し、静寂が戻ってくる

 

「間違ってなかったてさ」

 

「俺らを守ってくれるんなら先に言って欲しかったぜ」

 

「だよね」

 

「事が事だけに叱らない訳にはいかなかったのだろう」

 

 一番署長さんに噛み付いていた轟君は愚痴をこぼし、「仕方ない」と飯田君がフォローを入れた

 

「親父の機嫌が悪くなりそうだけどな、『人の功績を奪うなど!』って」

 

「しょうがないよ。そうしてもらわないと僕らも困るし。それにしても仲直りしてから変わったね。前だったらエンデヴァーの名前すら口に出さなそうだったのに・・・」

 

「誤解が解けて他より少し厳しいだけの父親だって分かったんだ。別に名前を呼ぶ位いいだろ」

 

「頬が赤いよ?」

 

「うるせえ!」

 

「二人共、改めてすまない。そしてありがとう」

 

「んな気にするな」

 

「そうだよ!どうしても気になるなら、僕らが困ったとき助けてよ」

 

「必ず!」

 

「所でよ、誰からの手紙だ?」

 

「ん?ちょっと待ってね・・・あ、やっぱりアダムさんからだ」

 

 未来を知ってて僕の知り合いってアダムさん位しか知らないしね

 

「アダム?旧約聖書の?」

 

「偽名じゃないか?」

 

「違う違う、本名だし僕の恩人だよ。えっと、なになに・・・」

 

 飯田君と轟君からの問い掛けに答えつつ手紙を開いた

 

 ~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 

 緑谷少年へ

 

 まず始めに、君はアダムという名に聞き覚えはあるかい?

 

 「知らない、誰だそいつ、旧約聖書の?」などと思ったのならそのまま手紙を破り捨ててくれ

 

 残念ながら君とは縁がなかったようだ

 

 もし違うというなら破り捨てずに読んでほしい

 

 

 

 

 

 

 

 破られずに済んでよかったよ

 

 では、改めて久しぶりだね、緑谷少年

 

 この手紙を読んでいるということは、君は職場体験でグラントリノの下へ行き、友の為にヒーロー殺しと対峙して辛くも勝利したが、そのまま入院しているのだろう

 

 そして、君はヒーロー殺しとの戦いの中で[(フレグランス)]の【個性】を使用した

 

 そして無力化されて反撃を受けた

 

 君は今「何故そんなことが分かるんだ」と思っているだろう

 

 簡単に分かるさ

 

 誰かを守り、助ける為ならば平気で自身の命すらもチップとしてしまうような性格をしている君が、対(ヴィラン)で最も有効な【個性】である[(フレグランス)]を使わないわけがない

 

 それを見越して事前に[(フレグランス)]が無力化されるように手を打っておいた

 

 理由は君の成長の妨げになるからだ

 

 (ヴィラン)と一言に行っても強弱の他、個人か組織か、信念があるかないかなど様々

 

 そんな中でヒーロー殺しであるステインは、一種の狂信染みた信念と、それを貫き通すための技量を持った人物だ

 

 そして、君が思い描くヒーロー像と彼が求めるヒーロー像は同じで、君が死にかける心配はあっても殺される心配のないという数少ない相手だ

 

 これから先、ステイン以上に強く、且つ組織立って動く者達と戦い続けることになる

 

 だから君としては有難迷惑かもしれないが、(ヴィラン)の卵と愉快な雑魚共の襲撃ではなく、一つ本物の(ヴィラン)との戦闘を経験してほしかった

 

 その為に事前にステインに会って細工し、「細工が作動したら作動させた少年を死なない程度に殺しにかかってくれ」と頼んでおいた

 

 今回の戦いで色々と成長しただろう

 

 これからも正道を歩み続けて欲しい

 

 

 まあ、ここまでは君の戦いに介入した理由だ

 

 本題はここから

 

 君は [PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]を私から受け取ってから様々な【個性】を覚え続けているだろう

 

 そこで、そろそろ [PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]を使った周囲の人間の強化方法を教えようと思う

 

 この強化法を、私は[贈り物(ギフト)]と名付けた

 

 方法は二つ

 

 一つ目は[コピー]と[譲渡]の【個性】を使用した方法

 

 [コピー]は君の通う雄英高校のB組に物間という少年が居るはずだ

 

 [譲渡]については私が住んでいた廃教会の裏手に一人の墓守が居る

 

 その墓守が[譲渡]という与える【個性】を持っている

 

 場所についてはグラントリノに聞くといい

 

 やり方は簡単、覚えている【個性】を[コピー]し、[コピー]した【個性】を[譲渡]で与えるだけだ

 

 [コピー]しないで直接与えたらいいんじゃないかと思ったかもしれないが、これには訳がある

 

 まず、覚えた【個性】は通常の【個性】と違って、 [PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]の能力の一つとしてカウントされるため、並みの【個性】で干渉することはできない

 

 だが、覚えた【個性】は同じ枠組みの覚えた【個性】に干渉することができる

 

 だから、覚えた[コピー]で覚えた【個性】をコピーすることで [PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]とは別枠の【個性】とし、[譲渡]で与えることができるようになる

 

 こちらの方法は[仮初めの贈り物(トランジェント・ギフト)]と呼ぶことにした

 

 利点は

 ・手で触れるだけで与えることができる

 

 難点は

 ・与えた【個性】は、系統が合わなければ一度使えば消えてしまう使い捨ての【個性】になってしまうこと

 

 ・真逆の【個性】を与えると打ち消し合って本来の【個性】すら使えなくなってしまうこと

 

 ・与えられるのは能力か耐性どちらか一つだけということ

 

 ・元となった人物に本人の【個性】を与えても意味がないこと

 

 ・何かしらの性能が劣化すること

 

 例えば、君の近くにいるであろう轟少年に[(パワー)]の【個性】を与えたとしよう

 

 その場合、一時的に絶大なパワーを得るが永続的に使えるように定着することはない

 長くとも半日、短ければ一瞬で使えなくなる

 

 彼は発動系、その中で自然系の【個性】の持ち主だ

 増強系の中で名前の通り純粋な力が宿る[(パワー)]とでは方向性が違う

 

 では、[炎]の【個性】を与えるとどうなるかというと、自前の[炎]はそのままに[氷]が一切使えなくなってしまう

 

 例え同じ発動系で自然系であったとしても、与えた[炎]の【個性】が元からある[氷]の【個性】を打ち消してしまうからだ

 

 与えるなら[炎][氷]以外の自然系の【個性】だ

 

 次に[(フレグランス)]やステインの[凝血]などの相手の肉体、又は精神に作用する『覚えることで耐性がつく』【個性】の場合、与える際に《実際に発動できる能力》か《その能力に対する耐性》かを選ばねばならない

 

 今回、ステインに[(フレグランス)]が効かなかったのは、事前に私が[(フレグランス)]の耐性を与えていたからだ

 

 [洗脳]を覚えていたら思惑が外れているだろうが、この世界は大筋が逸れるのを嫌うらしい

 

 その場合はなんらかの偶然で使用しないだろう

 

 耐性に関しては、一度だけ無力化できるものと思ってくれ

 

 また、能力を与えて、後からもう一度耐性を与えようとしても上書きされるだけで共存することはない

 

 これは、一人につき一つの能力か耐性どちらかしか与えることは出来ないためだ

 

 強化を施したいなら耐性か、一時的な能力かを選ぶ必要がある

 

 なら、本人と同じ【個性】ならと考えただろうが、これは意味がない行為だ

 

 同じ【個性】を持つ他人から覚えた【個性】なら可能だが、本人の【個性】では元々ある【個性】に弾かれ、強化されることはない

 

 何回もの実験の末に出した結果なので覆ることはないと思ってくれ

 

 例を挙げれば、轟少年の他に近くにいるであろう飯田少年

 

 彼の兄、インゲニウムの【個性】を与えれば、彼の【個性】である[エンジン]は飛躍的に強化される

 

 ただ、覚えた【個性】である以上、変化・発動系となるため、この場合は意識すると上腕部から排気筒が出現するような形になるだろう

 

 本人が望むなら名前と共に兄の【個性】も引き継げるようにしてあげてくれ

 

 ただし、与えるのなら[仮初めの贈り物(トランジェント・ギフト)]ではなく、(のち)()すもう一つの方法で与えてあげて欲しい

 

 性能の劣化については、どうやら[コピー]、[譲渡]とステップを踏む影響で性能が低下しているようだ

 

 ただ、一応は[PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]によって強化された上での劣化なので、本物より多少劣る程度ですんでいる

 

 

 もう一つは、[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]と [PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]の会わせ技、覚えている【個性】を[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]で受け渡す方法だ

 

 先程並みの【個性】では干渉できないと言ったが、[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]は並みの【個性】ではない

 

 何せ、与える対象が無数にある[譲渡]と違い、混ざり合う前は『【個性】を与える』ことに特化した【個性】だったのだから渡せないことはない

 

 こちらは[真実の贈り物(ジェニュイン・ギフト)]と呼ぶことにした

 

 利点は

 

 ・複数の【個性】も与えられること

 

 ・強化された状態の【個性】を与えられる

 

 ・同じ【個性】の血縁者が居れば、【個性】を強化し続けられること

 

 難点は

 ・[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]の仕様上、血や髪といった自分の一部を摂取してもらわねばならず、直ぐには効果が現れないこと

 

 ・与えた後、覚えていた【個性】は忘れてしまうこと

 

 ・適性に沿わない【個性】を与えると、最悪死に至ること

 

 適性についてはその人物の可能性と言い換えてもいい

 

 君ならば母親の血筋から『物を動かす』【個性】、父親の血筋から『火を扱う』【個性】を発現する可能性があった

 

 故に君には『物を動かす』適正と『火を扱う』適正がある

 

 轟少年も[炎]と[氷]の適性があり、両親の【個性】を与えることで強化できる

 

 ただし、注意点が一つ

 

 与える時は『同時に』だ

 

 轟少年は[炎]と[氷]という相反する【個性】を持っているのでバランスが大事なんだ

 

 要は天秤に同量の重りがあると思えばいい

 

 どちらか片方だけを与えた場合は釣り合いがとれていた【個性】の均衡が崩れ、もう片方の【個性】が天秤から転がり落ちてしまう

 

 だから与えるなら『同時に』だ

 

 そして、適性が沢山あるからといっていくつでも与えられるわけではない

 

 受け入れられる【個性】の数は個々によって様々

 

 自身の【個性】と同系統、又は血縁が近い程適性が高くなり、受け入れられる【個性】の限界数も上がる。

 

 それでも【個性】を三つ与えた辺りから体調を崩しやすくなり、五つを超えると記憶障害の症状が見られたので、分け与えて問題ないのは最大でも二つまで

 

 例外的に血縁者にまったく同じ【個性】があり、それを与えた場合は元からある【個性】に吸収統合されるので与えた数にカウントされない

 

 理論上は際限なく強化することができる

 

 飯田少年の場合は、彼の兄がこれに該当する

 

 また、適性が低い【個性】はたった一つでも拒絶反応が現れる

 

 嘔吐や発熱、意識を失って痙攣するなどは軽い部類で長くとも半日で収まる

 

 重いものは記憶障害や失語症、自我の喪失など

 

 最悪は死に至る

 

 確認方法については言えないが、これも当人の【個性】が弾かれることと同様、覆ることはないと思ってくれ

 

 それから、オールマイトに関しては、長年[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]を使用した影響で増強系の【個性】なら大半の適性があるようだ

 

 個人的な理由で与えた【個性】は全て削除済みだが、望むなら君から色々と与えて欲しい

 

 ちなみに、与えたこともそれを削除したこともオールマイトは知らないので本人に聞いても無駄だ

 

 これらの方法をフル活用すると、一人の人間が最大三つ、一時的も含めれば四つの【個性】が使用できるようになる

 

 最後に、これらの強化法を施す相手は信頼のおける人物だけにしてほしい

 

 誰もが君の様に与えられた力を誰かの為に使える訳ではない

 

 むしろ大多数の人間が自分の為に使うだろう

 

 特に降って湧いた力程その傾向が強い

 

 その事を忘れないでほしい

 

    君の未来に幸多からんことを

       アダム・アークライトより

 

 ~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 

「なんだって?」

 

「轟君、余り詮索するのは・・・」

 

「いいよ別に、2割が今回の戦いで色々と成長しただろうって事と、残り8割が新しい【個性】の使い方についてだね」

 

「新しい【個性】の使い方?」

 

「うん、僕の【個性】とアダムさんの【個性】って似てるところがあるから、今ならこれくらいできるだろうってさ」

 

 コンコン

 

「飯田さん、轟さん、緑谷さん、診察のお時間ですので診察室までお越し下さい」

 

「はい!行こっか」

 

 看護婦さんに呼ばれ僕らは診察室に向かった

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「驚くほどの回復力だな。運び込まれたときは二週間は包帯がとれないと思ってたんだが、これなら直ぐにでも退院できるね」

 

「その、ごめんなさい、実は治癒系の【個性】でちょこちょこ治してたんです」

 

「道理で、あの怪我なら使いたくなるのも頷ける。しかし、次からは僕らに一声かけてくれ。今回はなかったが、そのまま治したら後遺症が残る傷があるかもしれないからね」

 

「はい」

 

「取り敢えずはぐっすり寝て体を休めなさい。戻っていいよ」

 

「ありがとうございました」

 

「安静にね」

 

 怪我の様子を見るだけで特にレントゲンとかも撮らなかったから早く終わったな・・・

 

「そうだ、みんなに無事だって伝えとかないと」

 

 フロントまで移動し、スマートフォンのSNSで皆に無事を伝えた所、間髪いれずに麗日さんから着信があった

 

「もしもし、麗日さん?」

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「うん、大丈夫だよ。うん・・・うん、じゃあまた学校で、うん、じゃあ」

 

 う、麗日さんの声が耳元で!

 

 バクバクと鳴り響く心音を落ち着かせながら病室に戻るとすでに二人の姿があった

 

「あ、二人共終わってたんだね!どう――」

 

「緑谷」

 

「うん?」

 

「飯田、今診察終わったところなんだが・・・」

 

 なんだが?

 

「左手、後遺症が残るそうだ。手指の動かし辛さと多少の痺れ程度のもので、手術で神経を移植すれば治る可能性があるそうだ」

 

「じゃあ、これから手術を」

 

「いや、受けない」

 

「な、なんで!?治るんでしょ?」

 

「ヒーロー殺しを見つけた時、頭の中が真っ白になって飛び出してた。まずマニュアルさんに伝えるべきだったのに。奴は憎いが、奴の言葉は事実だった。だから、俺が本物のヒーローになれるまでこの左手は残そうと思う」

 

「飯田・・・絶対ヒーローになろうね」

 

「ああ」

 

「仲間外れか?俺も仲間にいれろよ」

 

 飯田君と盛り上がっていると仲間外れにされていると思った轟君がやや不機嫌そうに話に入ってきた

 

「何言ってんだよ、もちろんさ!皆でヒーローになろうね!」

 

 こうして最後は大人に助けてもらってヒーロー殺しの事件は解決した


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