託された力   作:lulufen

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20分前に33話を投稿しましたので読みのがしにご注意下さい


第34話 グラントリノとアダムの邂逅

「たしか俊典の弟子が来るのが今日だったな。しかし、まあ俊典が選んだ後継者は菱形の後継者でもあるとは、どんな奴が来るのやら」

 

 菱形は生い立ちからして特殊だし、再会したときには既に規格外だったからな・・・

 

 湯を張った鍋に、切ってないソーセージを入れながら当時を思い出す

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

 人が襲われてると通報を受け、同輩と共に現場の路地裏へ向かうと、四肢を投げ出し壁に寄りかかる怯える男と、上から見下ろしながら対峙する男がいた

 

「お、俺の体に何しやがった!」

 

「ん?感覚が無くなった位で騒ぐな。生きるつもりがないなら手足は要らないだろ?初めに真面目に生きるか無惨に死ぬか、好きな方を選べと言ったはずだ」

 

「ふ、ふざ!俺を殺したらてめえも(ヴィラン)認定されんだぞ!」

 

壁に寄りかかる男が(ヴィラン)か・・・じゃあ対峙する男は誰だ?

 

「お前は阿呆か?お前ら(ヴィラン)が大好きな言葉があるじゃないか。『バレなければ罪じゃない』」

 

 自身が散々破ってきた法を盾にこの場から逃れようと脅しにもならないような脅しをするも、同じく自身が散々口にした言葉でもって返される

 

「行きますか?」

 

「ああ、行くぞ」

 

 連れてきた他の事務所の同輩にどうするか聞かれたのでGOサインを出す。このまま静観してる訳にもにかない

 

「ひ、ひい!たす、たすけ」

 

「なら、バレちまった今は罪に問われるわけだな?」

 

「!・・・!?・・!!?」

 

「ん?随分と遅い到着じゃないかヒーロー諸君。私じゃなかったら今頃被害者が一人裏路地にでも転がっていたところだぞ?」

 

 俺が話しかければ一人は必死に助けを求めて口を動かし、一人はやっと来たかと呆れた

 

「!!?・・・!!・・・!!!!!」

 

「ん?ああ、あまり騒ぐものだから声を封じさせてもらったよ」

 

「抵抗せずにこちらに来てもらえればこちらとしても手間が省けるんだがな」

 

 男はこちらの通告を無視し、まるで少し待てとばかりにすっと手をこちらに向けた

 

「ぐ!」

 

 突如首から下が石像になった様に動かなくなった

 

「何を!?」

 

 こちらの様子など微塵も気にせず、もう片方の手を締め上げている(ヴィラン)に向け――

 

「止めろ!」

 

 ドサッ・・・

 

「なんてことを!!」

 

 ――手をかざされた(ヴィラン)は糸の切れた人形のように倒れ伏してしまった

 倒れた(ヴィラン)の額にはくっきりと『菱形の痕』があった

 

「その痕は!お前が『菱形』か!」

 

 月に1度のペースで警察署に(ヴィラン)が無力化されて届けられ初めて5年、その中には賞金が懸けられた(ヴィラン)までいた

 

 ソレだけだったら喜ばしいことなのだが

 

『誰が捕まえたのか』

 

 本来ならまずあり得ない捕まえた人物も引き渡した人物も不明というおかしな状況に、警察はヒーローに協力を要請した上で調べてみると、どういうわけか捕らわれた(ヴィラン)は顔を認識できておらず、朧気に『額に青い結晶のあった』ことしか覚えていなかった

 

 賞金の受け渡し時に捕獲しようと策を練ったが、失敗

 

『まるで操られたように何の疑問も思わずに賞金を受け渡していた。顔は覚えていない』

 とは受け渡しを担当した[記憶]の【個性】持ちの職員の言葉だ

 

 ならばと防犯カメラで確認すると千変万化の一言

 

 老人だったり子供だったり、女だったり男だったり、挙げ句は犬を連れた男が来たと思ったら飼い主らしき人物が(ヴィラン)で、犬が賞金を受け取って咥えていったなんてのもあった

 

 明らかに(ヴィラン)退治なんぞできそうにない人物が引き渡しに来ても職員はおろか、その場にいたベテランのヒーローですら何の疑問も抱かず受け渡しに応じる始末

 

 名前も【個性】も分からず、謎に包まれた人物

 唯一の特徴として全ての(ヴィラン)に共通して額に菱形の痕が強く残っていることから『菱形』と呼ばれるようになった人物

 

 そいつが今、目の前にる

 

「勘違いしないでもらいたいが、先に手を出してきたのはソレで私は反撃したにすぎん」

 

 あくまで正当防衛だと倒れ伏した(ヴィラン)を顎で指す

 

「何処に命まで奪う必要があった!」

 

 いかに相手が(ヴィラン)であっても命を奪うことの理由にはならない

 

「意識は奪ったが命に別状はないよ。精神は知らんが、元々いかれていたようだから構うまい」

 

 良く見れば微かに胸が上下している

 

「丁度いい、警察署まで連れていってやってくれ。彼は今、手足が不自由の身でね」

 

 そう言って倒れた(ヴィラン)を何らかの【個性】で浮かせて此方まで動かした

 

 目で大丈夫と隣の同僚に伝えると、受け取った(ヴィラン)に命に別状がないことを確かめ、担いでその場から離れた

 

 おそらく念力の【個性】か・・・

 

「で、善良な一市民である私に何の用が?上空に4、そこの物陰に3、【個性】か何かで姿を隠しているのが4、目の前に2、いや今抜けたから1で12人か・・・いささか過剰過ぎないかな?」

 

 どういう感知能力してやがんだ!

 気配を稀薄にする【個性】持ちにすら気付いてやがる!

 

「人が襲われてるっつう通報受けたんだよ。妙に胸騒ぎがするから、ちいとばかし同僚を引っ張ってきたが、菱形に逢うとは俺の勘も捨てたもんじゃないな。でだ菱形、お前さんが何を考えて(ヴィラン)を襲ってるか聞きたい。その返答次第ではお前も捕らえねばならない」

 

「その前に、その『菱形』と言うのは何かな?私の名前にそのような言葉は含まれてはいない」

 

「通り名だ、通り名。お前さんが豚箱にぶち込んだ(ヴィラン)の額には全て菱形の痕がくっきり付いてんだよ。さっきのにもくっきり菱形がくっついてんだ。まさか人違いなんて言わねえだろ?」

 

「なるほど、ならば名乗らせてもらおう。アダム。アダム・アークライトだ」

 

 アダムだと?そんなまさか・・・いやそんなはずがない

 

 背後に立つヒーローに目で問いかける

 そいつは頷いた後、数秒目を閉じて首を横に振る

 

 こいつは[検索]という電波さえ受信できれば電子機器といった触媒なしにネット情報を閲覧できる【個性】を持っている

 そいつが『菱形』の名乗ったアダム・アークライトの名を検索し、該当者が1名いたが明らかに目の前の男と年齢が一致しないという

 

「・・・やはり偽名か」

 

「心外だな。歴とした本名だよ」

 

 ならコイツがそうなのか?いやしかし・・・

 

 アダム

 

 名前だけなら旧約聖書の最初の人間『アダムとイブ』を思い浮かべるが、ある事件に関わった者の間では別の生命を指す

 

 新人類創成計画関係者一斉捕縛作戦

 通称:神子(かみこ)創造事件

 

 俺も事件解決に参加したので、資料と実体験で事件の内容は知っている

 

 今から60年近く前、一人の男により計画され、率いられた組織が、『あらゆる【個性】を扱う完全な人類の創造』という思想の元、様々な非人道的な人体実験が繰り返された

 老若男女関係なく何人もの人を(さら)い、時には生きたまま脳を弄くり回し、時には薬物で脳を強制的に覚醒状態にし、時には体を継ぎ接ぎして名前のない怪物(フランケンシュタイン)の様にもしたが全て失敗、良くて廃人、そもそも大半は生命活動すらしていない無惨な死体となった

 

 数多くの死体(失敗作)を作り出した後、この手法では成功はあり得ないと悟り、異なるアプローチをかけることとなった

 

 既にある実験体(もの)を改良するのではなく、新たに設計し(遺伝子操作により)作り出す事にしたのだ

 

 膨大な量のサンプルから遺伝子を取り出して配合・培養した

 

 トライ&エラーを繰り返し、何百、何千という失敗を重ねて遂に望んでいた生命が誕生した

 

 当初予定していた『始めから全ての【個性】が使える生命体』ではなかったが、『あらゆる【個性】に親和性を持つ生命体』として人造人間(ホムンクルス)が誕生した

 

 個体には『始まりの人類(アダム)』と名付けられた

 

 更にその個体を素体として改良が進められ、≪アダムシリーズ≫と呼ばれる作品が生まれた

 

 結果だけを見れば素晴らしいものだが、過程が余りにも血塗れ過ぎた

 

 実験が開始されてから約50年、半世紀が過ぎて遂にヒーローに発見され、組織の構成員は(ヴィラン)として捕まった

 

 捕縛作戦は困難を極めた

 

 施設内には幻惑、即死、毒ガス、何でもござれとトラップがこれでもかと仕掛けられ、死者こそ出なかったが、一人二人と幾人かの脱落者が出ていた

 どうにかトラップを乗り越えて中心部まで辿り着けば、戦闘員は勿論の事、非戦闘員の科学者共すらクローニングで増やした劣化アダムと言うべき人造人間(ホムンクルス)達を使い応戦してきた

 

 少してこずったが、幸い敵側(あいて)に大した【個性】がいなかったのと、ヒーロー側(こちら)の数に物を言わせた物量戦で制圧できたのだが、人造人間(ホムンクルス)の中には爆弾を仕込まれていた奴が居て、どうにか捕縛した人造人間(ホムンクルス)が目の前で爆散してPTSDを発症しちまった奴もいた

 

 しかし、無事に捕らえた人造人間(ホムンクルス)達は、薬物により体を弄られ過ぎて最早私生活どころか人としてすら生きることができいない状態だった

 更に指導者たる男が闘争のどさくさに紛れて逃亡、行方知れずとなった

 

 そんな中でただ一体、いや一人だけ戦闘にも参加せずに安全な場所でこちらを見る人造人間(ホムンクルス)がいた

 

 捕らえた研究者の一人に問いただせば、彼は最初期のアダムシリーズで、『全ての【個性】の親和性』を除けば他に【個性】らしい【個性】を持たない個体だから破棄予定の人造人間(ホムンクルス)の一体だった

 

他の破棄予定の人造人間(ホムンクルス)は薬物の過剰投与で【個性】を強化して戦闘に使ったが、この人造人間(ホムンクルス)は強化したところで意味がないと放置されていたようだ

 

 取り敢えず、その薄汚れた貫頭衣(かんとうい)を着た4・5歳位の人造人間(ホムンクルス)に話しかけることにした

 

「坊主、言葉は解るか?」

 

「解るよ。おじさん達はヒーロー?」

 

 話しかければ驚くほどはっきりと言葉を返した

 締め上げていた研究者が目を見開く様からこいつらが教えた訳じゃなさそうだ

 

「ああそうだ、俺はグラントリノって者だ。一緒に来てもらえるか?」

 

「うん、いいよ。僕はアダム。シリーズ(ゼロ)型、シリアルナンバー078A-Aだよ」

 

 取り敢えず保護し、精神鑑定などを行った後問題なしと判断されたので、彼は警察関係者やヒーローから人格者であると評判の老神父ーーアークライト神父ーーの元へ預けられることになった

 

 後味の悪い事件となったが、たった一人でも命が救えただけまだマシだった

 

 そんな事件の生き残りの人造人間(ホムンクルス)と同じ名前とアークライト神父の姓を名乗っている

 

 本物だとしても当時の見た目年齢からして今の人造人間(ホムンクルス)の年齢は10から15歳の間、どう見ても目の前の『菱形』は20代後半

 

偽名と考えるのが妥当だが・・・

 

「こちらが名乗ったのだから、今度はそちらの番だろう?」

 

「ち、ヒーロー名グラントリノだ」

 

「グラントリノ・・・ということは・・・道理で見覚えがあるはずだ・・・ふむ」

 

 こちらの名乗りに何か引っかかることでもあるのか今までの余裕のある顔を一転、真剣な表情で何かを呟いた

 

「名乗ったんだ、何を考えているかを聞かせてもらおうか」

 

「そうそう、何を考えているかだったな?答えは簡単。力が必要だから襲われても誰も困らない(ヴィラン)を狙っているに過ぎない。金を稼ぐのに丁度いいからついでに賞金稼ぎの真似事をしている。世話になっている教会は廃墟の様に古くてね、何かと金がかかる。かといって世話になった老神父を一人置き去りにして出掛けるのは要らぬ心配をかけることになるから、短時間で大金を得られる賞金稼ぎは意外と割がいいんだ。それに市民を襲っても何のメリットもない。諸君らヒーローが出張ってくるしね」

 

「随分とペラペラ喋ってくれるじゃないか、まあ、その力を市民に向けないのならいい・・・と言いたいが、無許可で【個性】の使用は法律で禁止されている。大人しく着いてこい。」

 

 (ヴィラン)退治は悪だとは言わないが、無許可での【個性】の使用は見逃せない

 

 それに、捕まった(ヴィラン)はいずれも凶悪犯で、『ついで』で捕まえられるほど弱くない。逆に言えばこいつは『ついで』で捕まえられるほど強いということ

 それにコイツの名乗ったアダムの名が気になる

 神父が老人であることまで 知ってやがるのも気にかかる

 

 やはりこのまま野放しにするわけにはいかなそうだな

 

「断る・・・と言ったら?」

 

 まるでこちらを挑発するように言う

 

 視線で仲間に合図を送り攻勢に乗り出す

 

「ならば捕らえさせてもらう!」

 

 足から[ジェット]を吹かして飛びかかったーー

 

「がはっ!」

 

 ーーはずだった

 

 何が?

 

 気付けば地面に倒れており、周囲には空中にいた者を含めて連れてきたヒーローが全て倒れている

 それにやけに胸が苦しい、まるで心臓を鷲掴みにされたようだ

 

「人間は案外脆い物でね、心臓が止まると一瞬で意識が飛んでしまう。ああ、安心してくれ一瞬だけだからなんの後遺症の心配もない」

 

「ゲホッゲホッ!ぐ・・・!!!」

 

 上から見えない何かに押しつぶされるように重圧が圧し掛かる

 

「グラントリノ、一つ私のお願いを聞いてはもらえないかね?そうすれば諸君らが懸念していることは解消されると思うが?」

 

「ヒーローは・・・ぐ!簡単に(ヴィラン)に屈したり・・・しねぇんだよ!!」

 

「そうか・・・できればこの様な事はしたくないのだがね?」

 

「ぐあぁぁ!」

「うぅ・・・」

 

 ギシギシと悲鳴を上げる体に鞭撃って背後を振り向けばもがき苦しむ同僚の姿

 

 自分を含めた仲間全員の命は目の前に居るこいつの指先一つで決まる

 否が応でも理解させられた

 

「さて、もう一度聞こう、一つ私のお願いを聞いてもらえないかね?ああ、安心したまえ、お仲間の記憶からはこの事は消させてもらう。退治した(ヴィラン)は実は集団で一人を除いて逃がしてしまったとでもしておけばいい」

 

 そんな状態の中で笑うこいつは悪魔か何かなのだろうか

 

 そしてその悪魔の「お願い」は――

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

「まさか本物で、15のガキで姿を偽ってたとは思わなかった。しかも自分の生徒になるとは尚の事思いもよらんかったがな」

 

ふと鍋に意識を戻せば完全に茹で上がっていた

 

「おっと、茹ですぎたか?まあいいか、あちち!とと、ケチャップケチャップ~!ひょ~!うまそうだ!ふんふ~ふん♪あっ・・・!」

 

鼻歌を歌いながら熱々のソーセージにケチャップをぶっかけ、机まで運ぼうとしたところで躓いた

 

べちゃっ

 

コンコン

 

「こんにちは、雄英高校から来ました。緑谷出久です・・・よろしくお願いしま・・・あああああし、死んでる!?」

 

「生きとる」

 

「生きてる!!」

 

 さてさて、手始めにどれくらい力が使えるか現状把握でもするか・・・失望だけはさせてくれるなよ?

 

 差し当たっては、そこの棚にある救急箱から軟膏取ってくれ。火傷した

 


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