「たしか俊典の弟子が来るのが今日だったな。しかし、まあ俊典が選んだ後継者は菱形の後継者でもあるとは、どんな奴が来るのやら」
菱形は生い立ちからして特殊だし、再会したときには既に規格外だったからな・・・
湯を張った鍋に、切ってないソーセージを入れながら当時を思い出す
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人が襲われてると通報を受け、同輩と共に現場の路地裏へ向かうと、四肢を投げ出し壁に寄りかかる怯える男と、上から見下ろしながら対峙する男がいた
「お、俺の体に何しやがった!」
「ん?感覚が無くなった位で騒ぐな。生きるつもりがないなら手足は要らないだろ?初めに真面目に生きるか無惨に死ぬか、好きな方を選べと言ったはずだ」
「ふ、ふざ!俺を殺したらてめえも
壁に寄りかかる男が
「お前は阿呆か?お前ら
自身が散々破ってきた法を盾にこの場から逃れようと脅しにもならないような脅しをするも、同じく自身が散々口にした言葉でもって返される
「行きますか?」
「ああ、行くぞ」
連れてきた他の事務所の同輩にどうするか聞かれたのでGOサインを出す。このまま静観してる訳にもにかない
「ひ、ひい!たす、たすけ」
「なら、バレちまった今は罪に問われるわけだな?」
「!・・・!?・・!!?」
「ん?随分と遅い到着じゃないかヒーロー諸君。私じゃなかったら今頃被害者が一人裏路地にでも転がっていたところだぞ?」
俺が話しかければ一人は必死に助けを求めて口を動かし、一人はやっと来たかと呆れた
「!!?・・・!!・・・!!!!!」
「ん?ああ、あまり騒ぐものだから声を封じさせてもらったよ」
「抵抗せずにこちらに来てもらえればこちらとしても手間が省けるんだがな」
男はこちらの通告を無視し、まるで少し待てとばかりにすっと手をこちらに向けた
「ぐ!」
突如首から下が石像になった様に動かなくなった
「何を!?」
こちらの様子など微塵も気にせず、もう片方の手を締め上げている
「止めろ!」
ドサッ・・・
「なんてことを!!」
――手をかざされた
倒れた
「その痕は!お前が『菱形』か!」
月に1度のペースで警察署に
ソレだけだったら喜ばしいことなのだが
『誰が捕まえたのか』
本来ならまずあり得ない捕まえた人物も引き渡した人物も不明というおかしな状況に、警察はヒーローに協力を要請した上で調べてみると、どういうわけか捕らわれた
賞金の受け渡し時に捕獲しようと策を練ったが、失敗
『まるで操られたように何の疑問も思わずに賞金を受け渡していた。顔は覚えていない』
とは受け渡しを担当した[記憶]の【個性】持ちの職員の言葉だ
ならばと防犯カメラで確認すると千変万化の一言
老人だったり子供だったり、女だったり男だったり、挙げ句は犬を連れた男が来たと思ったら飼い主らしき人物が
明らかに
名前も【個性】も分からず、謎に包まれた人物
唯一の特徴として全ての
そいつが今、目の前にる
「勘違いしないでもらいたいが、先に手を出してきたのはソレで私は反撃したにすぎん」
あくまで正当防衛だと倒れ伏した
「何処に命まで奪う必要があった!」
いかに相手が
「意識は奪ったが命に別状はないよ。精神は知らんが、元々いかれていたようだから構うまい」
良く見れば微かに胸が上下している
「丁度いい、警察署まで連れていってやってくれ。彼は今、手足が不自由の身でね」
そう言って倒れた
目で大丈夫と隣の同僚に伝えると、受け取った
おそらく念力の【個性】か・・・
「で、善良な一市民である私に何の用が?上空に4、そこの物陰に3、【個性】か何かで姿を隠しているのが4、目の前に2、いや今抜けたから1で12人か・・・いささか過剰過ぎないかな?」
どういう感知能力してやがんだ!
気配を稀薄にする【個性】持ちにすら気付いてやがる!
「人が襲われてるっつう通報受けたんだよ。妙に胸騒ぎがするから、ちいとばかし同僚を引っ張ってきたが、菱形に逢うとは俺の勘も捨てたもんじゃないな。でだ菱形、お前さんが何を考えて
「その前に、その『菱形』と言うのは何かな?私の名前にそのような言葉は含まれてはいない」
「通り名だ、通り名。お前さんが豚箱にぶち込んだ
「なるほど、ならば名乗らせてもらおう。アダム。アダム・アークライトだ」
アダムだと?そんなまさか・・・いやそんなはずがない
背後に立つヒーローに目で問いかける
そいつは頷いた後、数秒目を閉じて首を横に振る
こいつは[検索]という電波さえ受信できれば電子機器といった触媒なしにネット情報を閲覧できる【個性】を持っている
そいつが『菱形』の名乗ったアダム・アークライトの名を検索し、該当者が1名いたが明らかに目の前の男と年齢が一致しないという
「・・・やはり偽名か」
「心外だな。歴とした本名だよ」
ならコイツがそうなのか?いやしかし・・・
アダム
名前だけなら旧約聖書の最初の人間『アダムとイブ』を思い浮かべるが、ある事件に関わった者の間では別の生命を指す
新人類創成計画関係者一斉捕縛作戦
通称:
俺も事件解決に参加したので、資料と実体験で事件の内容は知っている
今から60年近く前、一人の男により計画され、率いられた組織が、『あらゆる【個性】を扱う完全な人類の創造』という思想の元、様々な非人道的な人体実験が繰り返された
老若男女関係なく何人もの人を
数多くの
既にある
膨大な量のサンプルから遺伝子を取り出して配合・培養した
トライ&エラーを繰り返し、何百、何千という失敗を重ねて遂に望んでいた生命が誕生した
当初予定していた『始めから全ての【個性】が使える生命体』ではなかったが、『あらゆる【個性】に親和性を持つ生命体』として
個体には『
更にその個体を素体として改良が進められ、≪アダムシリーズ≫と呼ばれる作品が生まれた
結果だけを見れば素晴らしいものだが、過程が余りにも血塗れ過ぎた
実験が開始されてから約50年、半世紀が過ぎて遂にヒーローに発見され、組織の構成員は
捕縛作戦は困難を極めた
施設内には幻惑、即死、毒ガス、何でもござれとトラップがこれでもかと仕掛けられ、死者こそ出なかったが、一人二人と幾人かの脱落者が出ていた
どうにかトラップを乗り越えて中心部まで辿り着けば、戦闘員は勿論の事、非戦闘員の科学者共すらクローニングで増やした劣化アダムと言うべき
少してこずったが、幸い
しかし、無事に捕らえた
更に指導者たる男が闘争のどさくさに紛れて逃亡、行方知れずとなった
そんな中でただ一体、いや一人だけ戦闘にも参加せずに安全な場所でこちらを見る
捕らえた研究者の一人に問いただせば、彼は最初期のアダムシリーズで、『全ての【個性】の親和性』を除けば他に【個性】らしい【個性】を持たない個体だから破棄予定の
他の破棄予定の
取り敢えず、その薄汚れた
「坊主、言葉は解るか?」
「解るよ。おじさん達はヒーロー?」
話しかければ驚くほどはっきりと言葉を返した
締め上げていた研究者が目を見開く様からこいつらが教えた訳じゃなさそうだ
「ああそうだ、俺はグラントリノって者だ。一緒に来てもらえるか?」
「うん、いいよ。僕はアダム。シリーズ
取り敢えず保護し、精神鑑定などを行った後問題なしと判断されたので、彼は警察関係者やヒーローから人格者であると評判の老神父ーーアークライト神父ーーの元へ預けられることになった
後味の悪い事件となったが、たった一人でも命が救えただけまだマシだった
そんな事件の生き残りの
本物だとしても当時の見た目年齢からして今の
偽名と考えるのが妥当だが・・・
「こちらが名乗ったのだから、今度はそちらの番だろう?」
「ち、ヒーロー名グラントリノだ」
「グラントリノ・・・ということは・・・道理で見覚えがあるはずだ・・・ふむ」
こちらの名乗りに何か引っかかることでもあるのか今までの余裕のある顔を一転、真剣な表情で何かを呟いた
「名乗ったんだ、何を考えているかを聞かせてもらおうか」
「そうそう、何を考えているかだったな?答えは簡単。力が必要だから襲われても誰も困らない
「随分とペラペラ喋ってくれるじゃないか、まあ、その力を市民に向けないのならいい・・・と言いたいが、無許可で【個性】の使用は法律で禁止されている。大人しく着いてこい。」
それに、捕まった
それにコイツの名乗ったアダムの名が気になる
神父が老人であることまで 知ってやがるのも気にかかる
やはりこのまま野放しにするわけにはいかなそうだな
「断る・・・と言ったら?」
まるでこちらを挑発するように言う
視線で仲間に合図を送り攻勢に乗り出す
「ならば捕らえさせてもらう!」
足から[ジェット]を吹かして飛びかかったーー
「がはっ!」
ーーはずだった
何が?
気付けば地面に倒れており、周囲には空中にいた者を含めて連れてきたヒーローが全て倒れている
それにやけに胸が苦しい、まるで心臓を鷲掴みにされたようだ
「人間は案外脆い物でね、心臓が止まると一瞬で意識が飛んでしまう。ああ、安心してくれ一瞬だけだからなんの後遺症の心配もない」
「ゲホッゲホッ!ぐ・・・!!!」
上から見えない何かに押しつぶされるように重圧が圧し掛かる
「グラントリノ、一つ私のお願いを聞いてはもらえないかね?そうすれば諸君らが懸念していることは解消されると思うが?」
「ヒーローは・・・ぐ!簡単に
「そうか・・・できればこの様な事はしたくないのだがね?」
「ぐあぁぁ!」
「うぅ・・・」
ギシギシと悲鳴を上げる体に鞭撃って背後を振り向けばもがき苦しむ同僚の姿
自分を含めた仲間全員の命は目の前に居るこいつの指先一つで決まる
否が応でも理解させられた
「さて、もう一度聞こう、一つ私のお願いを聞いてもらえないかね?ああ、安心したまえ、お仲間の記憶からはこの事は消させてもらう。退治した
そんな状態の中で笑うこいつは悪魔か何かなのだろうか
そしてその悪魔の「お願い」は――
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「まさか本物で、15のガキで姿を偽ってたとは思わなかった。しかも自分の生徒になるとは尚の事思いもよらんかったがな」
ふと鍋に意識を戻せば完全に茹で上がっていた
「おっと、茹ですぎたか?まあいいか、あちち!とと、ケチャップケチャップ~!ひょ~!うまそうだ!ふんふ~ふん♪あっ・・・!」
鼻歌を歌いながら熱々のソーセージにケチャップをぶっかけ、机まで運ぼうとしたところで躓いた
べちゃっ
コンコン
「こんにちは、雄英高校から来ました。緑谷出久です・・・よろしくお願いしま・・・あああああし、死んでる!?」
「生きとる」
「生きてる!!」
さてさて、手始めにどれくらい力が使えるか現状把握でもするか・・・失望だけはさせてくれるなよ?
差し当たっては、そこの棚にある救急箱から軟膏取ってくれ。火傷した