託された力   作:lulufen

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第33話 職場体験

 職場体験当日

 

戦闘服(コスチューム)持ったな?本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」

 

「はーい!!」

 

「伸ばすな『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」

 

 相澤先生の号令の下、各自目的地行きの電車まで向かっていった

 そんな中で僕は飯田君に声をかけた

 

「飯田君!」

 

「うん?」

 

「『ヒーローは力を使うときは誰かの為でなくてはならない』以前インゲニウムがインタビューで答えた言葉だ。僕はまだ大切に思う人を傷付けられた事がないから、君の気持ちは分かるだとか中身のないことは言わない。でもこれだけは約束して・・・どうしようもなくなったら言ってね?友達だろ?」

 

「・・・ああ」

 

 飯田君は、事件以来見せるようになった、何処か無理しているようなそんな表情で笑うと手を振って電車へ向かった

 そんな飯田君を見送った後、僕も目的地へ向かった

 

 ――――――――――

 新幹線で45分

 

「グラントリノ・・・聞いたことない名前だけど、すごい人に違いない。すごい人に違い・・・違うかな?」

 

 スマートフォンの地図アプリを頼りに目的地に向かうと、綺麗な建物に囲まれるように廃墟のような建物が立っていた。住所を間違えたかと思い、何度も住所を確認しても目的地はこの廃墟・・・のような家

 

「雄英高校から来ました。緑谷出久です・・・よろしくお願いしま・・・ああああああし、死んでる!」

 

 不安に駆られながらノックし、中を覗けば内臓が飛び出し、血まみれの老人が倒れていた

 

「生きとる」

 

「生きてる!!」

 

 い、生きてた・・・じゃあ、あの赤い血と内臓のようなものは一体・・・

 

「いやぁあ切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケたぁ~!・・・そこの棚の救急箱から軟膏とって?」

 

「あ、はい」

 

 救急箱、救急箱、あ、あった、で軟膏は・・・これか

 

「はい、どうぞ」

 

「おお!誰だ君は!?」

 

 聞こえてなかったのか・・・

 

「雄英からきた緑谷出久です!」

 

「何て?」

 

 ・・・・・・

 

「緑谷出久です!」

 

「・・・・・・誰だ君は!」

 

 や、やべえ・・・オールマイトの先生だからご老体なのは覚悟してたがコレは想像以上だ・・・

 

「飯が食いたい!」

 

「め、飯!?」

 

 その場でケチャップまみれのソーセージの上に座り込み、飯を要求してきた

 

「俊典!!」

 

「違います!!」

 

 これは鍛えて貰う処か老人介護だよ・・・

 

「す、すみません、ちょっと電話してきますね」

 

 オールマイトに報告して、最悪は別のところに・・・

 

「撃ってきなさいよ![受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]!」

 

「!?」

 

 振り返れば僕のアタッシュケースを漁り、戦闘服(コスチューム)を取り出している

 

「どの程度扱えるのか知っときたい!」

 

 え?急に様子が・・・

 

「良い戦闘服(コスチューム)じゃん!ホレ着て!撃て!・・・誰だ君は!?」

 

「うわああ!」

 

 やっぱダメじゃん!もしかしたらと思ったけどやっぱダメじゃん!!

 

「強く、強くならないといけないんです!オールマイトにはもう時間が残されてないから、それに・・・」

 

 アダムさんにも誓ったんだ、少しでも早く二人のようにならないと・・・

 

「だからおじいさんに付き合ってられる時間はないんです!ごめんなさい」

 

 いいんだ、これで・・・

 

「だったら尚更撃ってこいや受精卵小僧!!!」

 

「!?」

 

 複数の破裂音が背後から聞こえたと思うと、ドアの上の梁に腕の力だけで張り付く様にして先ほどの老人、グラントリノが現れた

 

「体育祭での力の使い方・・・菱形の力に振り回され、[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]は端っこをかじった程度の使い方、なってねえ、全然なってねえ・・・あの正義バカオールマイトは「教育」に関しちゃ素人以下だぁな」

 

 この人、鬼哭道場のおじいちゃん達と同じだ!

 

 鬼哭道場のおじいちゃん達は、日常時と稽古・戦闘時でまるでスイッチを切り替えるように雰囲気をガラリと変える。その様子とピタリと一致するような変わりよう

 

「見てらんねえから俺が見てやろうってんだ。さァ着ろや戦闘服(コスチューム)

 

 これが本当のオールマイトの先生・・・

 

 ――――――――――

 

「よろしくお願いします」

 

「いい、いい、挨拶なんぞしてないでーー」

 

「!?」

 

 消えた!?

 

[炭素硬化(ハードクロム)]

 

「ーーさっさと使えや!」

 

 いきなり!?

 

「ほう、咄嗟の防御は出来るようだな」

 

 咄嗟に[炭素硬化(ハードクロム)]で体を固めたが、勢いまでは殺せずたたらを踏んだ

 

「じゃあ、もうちっと速くいくぞ?」

 

[ズーム]

 

[ズーム]で捕捉して動体視力を補おうとも体の速度は変わらない。でも見ることができればどうにかなる!

 

[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]

 

 左胸―心臓部―を中心に這うように赤い線を走らせ全身を強化

 

[爆破]

 

「後・・・ろ!」

 

 片足を軸に体を回転、[爆破]を推進力そして左の裏拳を放つ

 

 避けた!?

 

 その場で上方向に直角に曲がり、天井を足場に再度背後から襲い掛かってくる

 ならばと体を捻って左手から追加の[爆破]、勢いよく体を半回転させて右アッパーを放つ

 しかし、眼前に足を出されたと思ったところで、その足底の穴から突風が噴出されて堪らずバランスを崩す

 右手を開いて[爆破]を起こして縦方向の裏拳を放つが、悪足掻きで放った裏拳はグラントリノの顔を(かす)る様に通り過ぎただけだった

 

「っ!?」

 

 すぐに体制を立て直そうとするも、崩れた体では力が上手く入らず背中から倒れる。

 

「残念、両方とも多少は扱えてるようだが、まだまだだ。チェックメイト」

 

 両腕を踏みつけられ、止めに押さえつけるように顔面を掴まれた

 

「行けたと思ったんだけどなぁ」

 

「考えは悪くないし、使い方も間違ってない。だが、お前さんは焦りすぎなんだよ。だから固いし間違える」

 

「焦り・・・」

 

「オールマイトへの憧れや責任感が足枷になっとる」

 

「足・・・枷・・・?」

 

「「早く力をつけなきゃ」「信頼に答えなきゃ」、それは結構、大いに急げ。時間も(ヴィラン)もお前が力をつけるまで待ってくれはしない。だからと言って焦るのはだめだ。早く強くなるために効率よく鍛え、力をつけていくならいいが、焦っていくつもの段階を飛ばして力を求めても手に入るのは上っ面だけだ」

 

「・・・・・・」

 

 僕は焦ってたのか・・・

 

「まあ、[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]を、オールマイトを特別に考えすぎなんだな」

 

グラントリノは僕の上からどくと杖を持って開けっ放しだった扉を潜り外へ出た

 

「つまり、どうすれば・・・」

 

「答えは自分で考えろ。ヒントくらいは出してやる。菱形の小僧・・・アダムも初めは何かに焦ってたが、次第に落ち着いて強くなってった」

 

「ア、アダムさんも!?」

 

 やっぱりこの人もアダムさんのこと知ってる!

 

「後で話してやるよ。じゃ!俺ぁ飯買ってくる。その間に頭を冷やして考えな」

 

「はい」

 

 グラントリノは食料の買い出しのため出かけると言い、歩き出した

 

「あ、部屋の掃除よろしく」

 

「ええ!?」

 

 思い出したように振り向いたかと思うと、部屋の掃除を突然言い渡された。後ろを振り返れば砕けた床に天井、グラントリノが踏んづけて壊したレンジに、突然の戦いによる余波で方々に転がった家財道具・・・

 

「まじか・・・とりあえず電子レンジから片付けるか・・・」

 

 ――――――――――

 

「よいしょ!ふう・・・あとはテーブルを拭けばOKだな」

 

 (ひしゃ)げたレンジを一つに纏めて入口の邪魔にならない所に置いて、転がった家財道具を端に寄せて床を掃き、元の位置に戻した

 

「使い方は間違ってないって言ってた。なら全身に纏わせる方法はあってる。でも焦ってるから間違えるとも言ってた・・・出力を上げる?いや無理だ、あれ以上あげたら体がもたない」

 

 テーブルを拭きながらグラントリノが言っていたことを思い出しながらいろいろと考える

 

「じゃあ使い方以外で間違えてる?どこだ?・・・固い?逆は柔らかい、柔軟?・・・柔軟な・・・思考?考え方?・・・【個性】とは・・・」

 

 4歳の時に発言するもの、体の一部、変化・発動・異形の三種がある、あとは・・・ん?体の一部?

 

 体育祭での皆の様子が頭に次々と浮かぶ

 

「つまり【個性】に対する考え方のことか!かっちゃん達もみんなも息をするように扱ってた!」

 

 しかし、そうすると意識せずに無意識に使えるようになれってことか?

 

「とりあえず全部・・・は無理だから絞らないといけないか。絞ったら反復運動して・・・」

 

「帰ったぞー!」

 

「あ、お帰りなさい」

 

「まずは飯だ飯!食い終わったら約束通りヒントやるよ」

 

「はい」

 

 ――――――――――

 

「ふう、食った食った!で、ヒント・・・の前に聞きたいことあんだろ?」

 

「え、あ、その、3つ程・・・」

 

「なんだ?」

 

「アダムさんとはどこで知り合ったんですか?オールマイトはヒーローとして活動してから知り合ったって言ってたので。まるでオールマイトと同じく指導したみたいなこと言ってましたけど・・・」

 

「あ?菱形の奴、俊典に明かしてなかったんか?指導も何も俊典と菱形は同じクラスだぞ」

 

「は?え?オールマイトはそんなこと一言もいってませんでしたが・・・そもそもアダムさんが貴方に会ったことがあることもわからないって・・・」

 

 え?オールマイト話が違うよ?

 

「かぁー、あの野郎、マジで俊典に正体明かしてなかったのか!」

 

「ど、どういうことですか!?」

 

「どういうことかもなにも、奴は俺の推薦で入学し、きっちり卒業してんだよ。常時姿を変え、名前も変え、使用する【個性】も制限して別人として雄英高校をな。ただし、俊典には正体を明かすように伝えたってのに・・・菱形(ひしがた) 左天(さてん)って偽名だったはずだ。今度聞いてみな。この名前なら知ってるはずだ」

 

「今度聞いてみます」

 

「ん。で、あと2つは?」

 

「その、アダムさんと僕の関係についてと、オールマイトとはどんな特訓をしてたのかなって・・・」

 

「後継者だろ?奴が直接言ってきたからな。「オールマイトの後継者に【個性】を受け渡す。いつか鍛えてやってくれ」ってな。アイツ最後までタメ口で話しやがって」

 

「それで」

 

 アダムさん、いろんな人に根回し済みだったんですか・・・

 

「オールマイトは体だけは出来上がってたから、只管実戦訓練でゲロ吐かせたったわ」

 

 ・・・それだけ?特訓の名の下に実験台にしたり、腕が折れた時にこれ幸いと上手な骨のつなぎ方を教えたり、病院送りにしたりとかは・・・

 

「他には?」

 

「い、いえ」

 

「そか、ならヒントっつうかアドバイスだ」

 

「はい!」

 

「体育祭を見たが、お前さんのスタイルは肉を切らせて骨を断つなんて言えば聞こえはいいが、ただの行き当たりばったりの後出しジャンケンだ。パーを出されたからチョキを出し、グーを出されたからパーを出す。相手の出方を見てから有効な手を出してるから先制攻撃をくらっちまう。一撃当てればいい系の攻撃でも喰らおうものならその時点でお仕舞いだぞ?考えることは悪い事ではないが、お前さんは考えすぎるきらいがある。決勝で使ったあれも御大層な名前着けて、ありゃ合成どころかただの寄せ集めだ。見るからに近接格闘向きのガタイになって立体高速戦闘だと?ものにはそれぞれ適切な形っつうもんがあんだよ!まあ聞くところによると脳筋三人衆の元で鍛えられたらしいから近接に片寄るのも解らなくはないが」

 

「脳筋って・・・もしかして鬼哭道場のおじいちゃん達ですか?なら、技とか対処法とか色々教えてくれますから脳筋って訳じゃな・・・」

 

「その教えもどうせ『ヤられる前にぶん殴る』の速攻か『ダメージガン無視のカウンター』の特攻二択だろ」

 

「・・・」

 

 確かにそうだけど

 

「なら始めに教えんのは二つ、一つは遠距離、中距離、近距離、まあ何でもいいから、いくつかの用途別に【個性】を割り振れ。【個性】が一つや二つなら全てに適応できるように仕込むつもりだったが、後からいくらでも増えてくってんなら分類分けした方が楽ってもんだ。近接格闘するなら硬化系や身体能力向上系の【個性】、高速戦闘なら速度系と動体視力向上系の【個性】ってな具合に振れ。振り分けたなら、発動するときはその分類毎【個性】全部使え」

 

「全部!?」

 

「まあ全部じゃなくてもいいが、要は完成形を作っといて、その都度用途にあったものを選べばいい。そうだなぁ、プラモデルのロボットを思い浮かべてみろ」

 

「プラモ?」

 

「お前さんはその場にあった装備をあれこれ選んで組み立てて、終わったらバラすを繰り返す。毎回選んで組み立ててたんじゃ相手や場所に有利な装備でも、準備に時間がかかる。一個一個選んでたんじゃ隙がでかくなるだけだ。なら始めっから出来上がったもんを複数持っといて、あとは相手や場所に合わせた【個性】を付け足せばいい。出し惜しみして被害が出んのは自分だけだと思うな、守らにゃならんものまで危険にさらすことになる」

 

「はい」

 

「もう一つはさっきの固くなる【個性】」

 

「[炭素硬化(ハードクロム)]ですか?」

 

「名前は何でもいいが、それを反射で使えるようにしろ」

 

「反射?」

 

「おう、反射だ。意識的に固くなったんじゃどうしても初撃をくらっちまうが、無意識に固くなんなら気付いた時には防いでたってのができるようになる。来たときに試した感じだと半分くらいは反射的に出来てた。それを完全に反射で使えるようにしろってこった」

 

「無意識に・・・」

 

「言われて無意識に出来るようになる訳ねえからこれから一週間、気を抜いた時に不意打ちかますから、それでどうにかしろ」

 

「はい」

 

「とりあえずは【個性】の振り分けして、ある程度形にしとけ。フェーズ1!実践訓練だ!30分後に始めっからな」

 

「はい!」

 

 それから30分で覚えている【個性】を分類別けし、実戦訓練をしながら修正していった

 

 ――――――――――

 

 フェーズ1から2に移行したのは職場体験3日目の午後5時だった

 

「ある程度修正できたところで、フェーズ2へ行く」

 

「フェーズ2?」

 

「そ、同じ奴と戦うと変なクセがつく・・・すでにどこぞの三馬鹿のせいで脳筋に染まりかけてんだしこれ以上はよろしくない。職場体験だ!つーわけでいざ(ヴィラン)退治だ!ちと遠出するぞ。へい、タクシー!」

 

 (ヴィラン)退治か・・・ヒット&ランはダメだよね・・・よし!頑張ろう!

 

「で、どこでやるんですか?」

 

「ここいらは過疎化で人口密度が低いから犯罪率も低い、逆に言や渋谷あたりの人口密度の高い場所は小さいイザコザが盛り沢山で訓練にもってこいなわけだ」

 

「渋谷!?この格好で!?」

 

「いつかは人前で着るんだ、最高の舞台で披露できるのを喜びんさい!」

 

 呼び止めたタクシーに乗り込むところで目的地が渋谷と判明

 

「てなると・・・甲府から新宿行き新幹線ですか?」

 

 ルート次第では・・・

 

「うん」

 

 保須市横切るな・・・飯田君大丈夫だろうか、後で連絡してみよう・・・

 

 この後まさかあんな事があるなんて考えもしないまま駅までタクシーで向かった

 


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