託された力   作:lulufen

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第32話 ヒーロー名考案

「はぁ朝から酷い目に遭った」

 

 今日の天気の様に沈んだ気持ちのまま歩いていると背後からバシャバシャと水たまりを走る音が聞こえた

 

「何、呑気に歩いているんだ!!遅刻だぞ!おはよう緑谷君!!」

 

 後ろから来ていたのは飯田君だったようで、長靴に雨合羽の姿で走ってきていた

 

「遅刻ってまだ予鈴5分前だよ?」

 

「雄英生たるもの10分前行動が基本だろう!!」

 

「あ・・・あの」

 

「兄の件なら心配ご無用だ、要らぬ心労をかけてすまなかったな」

 

 表面上は問題ないように見えるが、なんというか何処か無理しているようなそんな表情

 

 気を使うつもりが使わせちゃったか・・・

 

 少し沈んだ気持ちを振り払い、教室につくと中から早速体育祭後の変化についてワイワイと話し声が聞こえた

 

「超声かけられたよ来る途中!!」

 

「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!」

 

「俺も!」

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「いいじゃないかそれくらい」

 

 ドンマイコールが何だってんだ・・・

 

「あ、緑谷おはよう」

 

「うん、おはよう。みんなもおはよう」

 

「おはよー」

 

「いいじゃないかって緑谷は一位だからカッコいいとか女子にキャーキャー言われたんだろ?けっ!」

 

 思わず言ってしまった事に上鳴君がご機嫌斜めの様子

 

「男の嫉妬は見苦しいわよ?」

 

「うっせ!」

 

「で実際キャーキャー言われたの?」

 

「あーうん、別の意味で」

 

「別の意味?」

 

「大人の人には“かっこ良かった”とか“がんばれ”とか“応援してる”とか言われたんだけど、途中にあった小学5・6年生位の男子が“変身して”

 とか“【個性】見せて”とか騒ぐもんだからさ」

 

「いいじゃんそれくらい」

 

「まあ、それだけならよかったんだけどね?そりゃ僕だって小学生位の年なら変身したり、強い人が目の前にいたら騒ぎたくなる気持ちも分かるさ。」

 

 むず痒くはあるけど小さい子にキラキラした眼差しで見られるのは悪い気はしないからいいけど、そのあとが・・・

 

「でもだからって【個性】を使う訳にはいかないから、取り敢えずこう、ガオーってやったら、その、ね?泣いたんだよ。ガン泣き。1、2年生位の子供が。棒読みだよ?大きい声も出してないし、顔だってそのままだから迫力もないはずだ!【個性】も一個も使ってない。本当だよ!?」

 

 そのときの様子を再現するため、顔の横に指を曲げた状態の手を上げた

 

「うわぁ・・・」

 

「はぁ・・・周りの人が言うには、TVで変身直後の僕をドアップで映したらしくてね・・・子供だましにもならないガオーで鬼だ悪魔だの大騒ぎ。その場にいた大人と泣かなかった子達が(なだ)めてどうにかなったから、もう逃げるように来たよ」

 

「あー、ドンマイ」

 

「はぁ・・・」

 

 余りの酷さに不機嫌になっていた上鳴君にさえ慰めのドンマイを言われてしまった・・・

 

「でもまあ、たった一日で一気に注目の的になっちなったよ」

 

「やっぱ雄英すげぇな」

 

 ガラッ

 

「おはよう」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「相澤先生、包帯取れたのね?良かったわ」

 

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより今日は〝ヒーロー情報学〟ちょっと特別だぞ」

 

 体育祭中は冗談抜きで「ミイラ男」だった相澤先生は、傷こそ目立つもののすでに包帯を取り払い、何時も通りの眠たそうな表情で授業を始めた

 

 特別?なんだ?相澤先生が特別って言うからには・・・・・・抜き打ちテスト?

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」」」」

 

「というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2・3年から・・・つまり今回きた“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までに興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある。」

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね?」

 

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 相澤先生はカツカツとチョークで音を立てながら黒板に集計結果を書き出していく

 

 緑谷 5648

 

 轟  4123

 

 爆豪 3556

 

 常闇  360

 

 飯田  301

 

 上鳴  272

 

 八百万 108

 

 切島  68

 

 麗日  20

 

 瀬呂  14

 

 5648・・・偶然だよね?

 

「だーー白黒ついた!」

 

「見る目ないよねプロ」

 

 数字という分かりやすい基準で人気順を見せ付けられて落胆する者、憤慨する者と様々

 

「見事なまでに表彰順じゃね?」

 

「てか緑谷の注目度物騒だな」

 

「なにが?」

 

「いや5648って殺し屋だぜ?ヒーロー目指してんのに」

 

 ぐっ・・・言われると思った

 

「偶然だよ!偶然!」

 

「そこ、うるさい。でだ、これを踏まえ・・・指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。おまえらは一足先に経験しちまったがプロの活動を実際に体験してより実りのある訓練をしようってこった」

 

「それでヒーロー名か!」

 

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

「まァ仮ではあるが適当なもんは――」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が!世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」

 

「ミッドナイト!!」

 

「――まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトに査定してもらう。俺はそういうのできん。将来、自分がどうなるのか名前を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」

 

 相澤先生は言い終わるとゴソゴソと取り出した寝袋に入り寝始めた

 本当にミッドナイトに丸投げするようだ

 

 名前・・・か・・・

 

 ――――

 

 15分後

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」

 

「!!!」

 

「発表形式かよ!!?」

 

「え~これはなかなか度胸が・・・!お前先行けよ!」

 

 まさかの発表形式にざわめいた

 

 先頭切って発表したのは青山君だった

 

「行くよ『輝きヒーロー“I can not stop twinkling”』」

 

「「「短文!!!」」」

 

「そこは I を取ってcan'tに省略した方が呼びやすい」

 

「それねマドモアゼル☆」

 

 いやいやいや、そう言う問題じゃなくて!

 

「じゃあ次アタシね!『エイリアンクイーン』!!」

 

「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

 

 まずいぞ!ツートップでギャグみたいなの来たせいで大喜利っぽい空気になったじゃないか!!

 

 青山君の短文、ついで芦戸さんのエイリアンクイーンで教室は大喜利のような雰囲気に染まった

 

「じゃあ次私いいかしら」

 

 場の雰囲気に呑まれ誰も手を上げようとしない中で梅雨ちゃんが名乗りを上げた

 梅雨ちゃんのその手には『梅雨入りヒーロー“FROPPY”』のフリップ

 

「小学生の時から決めてたの、『フロッピー』」

 

「皆から愛されるお手本のようなネーミングね」

 

 この梅雨ちゃんの『フロッピー』のお蔭で教室内の空気が大喜利から通常の真面目な雰囲気へと回復した

 その偉業によりフロッピーコールが起こったほどだ

 

「んじゃ俺!!烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

 

 切島君のヒーロー名は、憧れであり目指すヒーローである紅頼雄斗(クリムゾンライオット)(もじ)って烈怒頼雄斗(レッドライオット)と付けていた

 

 ミッドナイトから憧れを背負うのは相応の重圧があることを指摘されても、怯むことなく「覚悟の上」と言い切っていた

 

 かっこいいな切島君は・・・

 

 憧れ、目指すべき目標・・・アダムさんに出会うまではオールマイトの名前を、アダムさんと出会ってからはアダムさんの名前を捩ってニヤケていられたけれど、鬼哭道場で揉まれながら鍛えるほど、この強力すぎる【個性】を自覚すればするほど相応しくないと感じずにはいられない

 そしてオールマイトからアダムさんの素性を教えられ、[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]を託されることではっきりとした

 

 僕に彼らの名を名乗る資格はまだない

 

 それから争うようにして次々と発表されていき

 

「思ったよりずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪君と・・・飯田君、そして緑谷君ね」

 

 残るは飯田君、そして僕・・・・・・と却下されたかっちゃん

 

『爆殺王』

 

 さすがにヒーローネームに『殺』の文字は拙いと思うな

 

 飯田君は静かに教壇に立つとフリップを立てた

 

『天哉』

 

「あなたも名前ね」

 

 飯田君も轟君に続いて名前をヒーロー名にしたようだ

 

「ならやっぱり僕はこの名前だな」

 

 僕も教壇に立ちフリップを立てた

 

『黒鬼 デク』

 

「えぇ!!緑谷いいのかそれェ!?」

 

 やっぱり意外だよね

 

「うん。今まで好きじゃなかった。この[デク]って呼ばれるのが嫌だった。だって出久(いずく)の別読みじゃなく木偶の坊のデクだったから。何もできない、出来損ないで突っ立ってるだけの雑魚で木偶の坊のデク。けど、ある人に“意味”を変えられて・・・僕は結構な衝撃で、嬉しかったんだ」

 

 ―― 頑張れって感じで好きだ!私 ――

 

「だから、これが僕のヒーロー名です。あ、デクの前の黒鬼は鬼哭道場の師匠からもらった鬼名、鬼哭流の一員の証みたいなモノで、そのまま付けました」

 

 一通り名付けが終わったところでミッドナイトは相澤先生を起こしにかかった

 

 ちなみにかっちゃんは再考の末『爆殺卿』と発表して即却下され、埒が明かないからとミッドナイトに『カツキ』と名前をヒーロー名に決められて「不服ならもっとマシなものを考えて再提出するように」と言われていた

 

『爆』はまだしも、なぜ『殺』にこだわるのか・・・らしいといえばらしいが・・・

 

「ほら、イレイザー起きて。あんたの番よ」

 

「む、終わったか」

 

 そして眠っていた相澤先生は、ミッドナイトに起こされてモソモソと寝袋から這い出てバトンタッチしていた授業を再び始めた

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる、よく考えて選べよ」

 

 あ、デステゴロの事務所もある

 

 配布された124枚にも及ぶオファーのプリントに目を通しているとデステゴロの事務所を見つけた

 

 大々的に鬼哭の名前出したから、実地訓練の名のもと(ヴィラン)に突撃してた子供だってばれてるだろうな・・・

 

「今週末までに提出しろよ」

 

 今週末!?今日水曜だよ!?

 

「あと二日しかねーの!?」

 

「じゃあこれにて終わり、提出遅れんなよ」

 

 ――――――――――

 

「え?バトルヒーロー『ガンヘッド』の事務所!?ゴリッゴリの武闘派じゃん!!麗日さんがそこに!?」

 

「うん、指名来てた!」

 

「13号先生のようなヒーローの所じゃなくていいの?そういうところ目指してるかと思ってたんだけど」

 

 意外や意外、まさかの武闘派。救助系じゃないんだ

 

「最終的にはね!こないだの爆豪君戦で思ったんだ。強くなればそんだけ可能性が広がる!やりたい方だけ向いてても見聞狭まる!と!」

 

「だから『ガンヘッド』の所に・・・」

 

 進みたい道へ一直線じゃダメだって思ったってことか

 

「デク君は決めたの?指名数尋常じゃなかったけど」

 

「うーん、まだ悩んでるんだ。一応戦闘系に行こうとまでは決めてるんだけどね?【個性】の都合上、大抵の場所ならどうにか対応できちゃうから今一はっきりとした方向性は決まらなくて。目指す目標はあるんだけど、それも漠然としてるから余計に迷っちゃって。だから、とりあえず指名が来た事務所の一覧に一通り目を通してるところ」

 

 出来ることはなにかって考えても現在進行形で増えてるから多すぎて分からないし、じゃあどうなりたいかって考えても『オールマイトの様に』とか『アダムさんの様に』とか漠然とし過ぎてるし、悩むなぁ・・・

 

「そうなんだ。時間はたっぷり・・・はないけどよく考えて決めた方が良いね」

 

「うん、そうするよ」

 

「話は終わったか?」

 

「轟君?」

 

「どうしたの?」

 

 麗日さんとの話が一段落付いたところで轟君から声が掛かった

 

「ああ、緑谷に話があってな」

 

「あ、じゃあ私は席外した方が良い?」

 

「別に構わねえよ。聞かれて困るような事じゃねえし、ただ礼を言いに来ただけだ」

 

「お礼?」

 

【個性】の左側の件については保健室で済んだ話だし、それ以外で何かあったかな?今言うってことはこの間の保健室の時から今日までの間にあったことだろうけど、休校だった2日は道場に結果報告しに行った以外は家のベッドの上だったし・・・とすると表彰式から下校までの間だけど・・・何かあったっけ?

 

「デク君何かしたの?」

 

「さぁ?」

 

 轟君の言葉に首を傾げ、麗日さんからの質問にも心当たりがないので答えられない

 

「直接はしてねえが、表彰式の前に親父と話したろ」

 

「あ!もしかして!」

 

 轟君の盛大な誤解の件!

 

「ああ、あの後親父と話してな、誤解が解けた。家族会議なんて初めてやったぜ」

 

「じゃあ仲直りしたんだね」

 

「今更肩組んで笑い合えるほど嫌ってた年月は短くねぇし、そんなガラじゃねぇよ。まぁ多少ギクシャクはするがマシになったさ。母さんにも数年ぶりに会ってきた」

 

 そう話す轟君は小さく笑みを浮かべていた

 

「よかった」

 

「人が覚悟決めて過去にケリ付けようとしてた矢先にこれだもんな・・・・・・ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

「何何?何の話?」

 

「俺と親父の盛大な親子喧嘩を、こいつが裏から手ぇ回して解決したって話だ」

 

「おお!デク君さっすが~!!」

 

 置いてきぼりを喰らった麗日さんが僕らに質問すると、轟君が簡潔に答えた

 

「話はそれだけだ。時間取らせて悪かったな」

 

「ううん、全然」

 

 ―――――――――

 

 ―― 放課後 ――

 

「わわ、私が独特の姿勢で来た!!」

 

「うひゃ!」

 

 扉を開けた直後にオールマイトが前屈みの姿勢で現れ思わず変な声が出た

 

「ど・・・どうしたんですか?そんなに慌てて・・・」

 

「ちょっとおいで」

 

 廊下に出て人気のない場所まで移動すること1分程、オールマイトが話を切り出した

 

「君に指名が来てる!」

 

「え?まあ124枚にも及ぶ束を渡されましたけど・・・」

 

 まだ1/3程読み残してるんだよな

 

「それとは別にもう一件来たんだよ」

 

 わざわざそのためにオールマイト自ら?

 

「その方の名は“グラントリノ”かつて雄英で一年間だけ教師をしていた・・・私の担任だった方だ」

 

 オールマイトの担任・・・

 

「[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]の件もご存知だ。恐らく[PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]についても感づかれてると思う」

 

「じゃあアダムさんともその方は会ったことが?」

 

「それは分からないが、アダム君は取り憑かれた様に【個性】を覚えていた時期があってね。恐らくその時に会っているのだと思うよ・・・グラントリノは先代の盟友・・・とうの昔に隠居なさっていたのでカウントし忘れていたよ・・・」

 

 そして突如ガタガタと震え出したオールマイトは指名が書かれているであろう紙を差し出しながら声まで震わせて(すす)めてきた

 

「本来君を育てるのは私の責務なのだが・・・せ、折角のご指名だ・・・ぞぞぞ存分にしごかれてくるくく、るといィいィィ」

 

 オールマイトの震えようから察するに恐ろしい人なのか・・・もしかして鬼の様な人なのか?ん?鬼って考えた途端親しみが湧いてきた・・・我ながら重症だな・・・

 

「あ、それとそうだ!戦闘服(コスチューム)!要望のあった改修が終わったのが戻ってきてるぞ!次からはなるべく早く連絡が欲しいとさ」

 

「ははは・・・」

 

 やっぱ急すぎたか

 

 それから一週間、待ちに待った職場体験が始まった


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