『30分後に授与式すっからそれまで休憩な!四位までの奴は遅れないように早めに表彰台に立っとけよ?』
30分か・・・保健室に行ってみよう
「緑谷君・・・」
「どうしたの飯田君?」
「突然だが――」
――――――――――
―― 保健室 ――
「失礼します。かっちゃ――爆豪君と轟君の様子を見にきました」
「爆豪の坊やは時間になったら気付け薬で起こすからまだ寝かせといてやんな。轟の坊やはそこにいるよ」
「ありがとうございます」
リカバリーガールに教えてもらったベッドの仕切りカーテンを開ければボーっと天井を見上げる轟君がベッドに寝ていた
「緑谷か・・・」
「ボロボロにした僕が言うのも何だけど大丈夫?」
「問題ねえよ、リカバリーガールが治してくれた。それにお前最後の方手ぇ抜いたろ?リカバリーガールが言ってたぜ?見た目ほど傷が酷くないってな」
上体を起こして少し恨めし気に睨んできた
「誤解だよ、手は抜いてない。実は肉体ダメージを精神ダメージに置き換える【個性】を少しだけ発動させてたんだ。だから食らった攻撃の半分くらいは精神ダメージに置き換わってて見た目ほど傷は多くないんだ。その代わりすごくダルくない?」
「体は確かにダルいな。表彰式に出なくていいってんならそのまま寝てたい気分だ」
そういうとボフンと起こしていた上半身をベッドへ沈めた
「気持ちは分かるよ、僕もだよ」
「お前大したダメージ喰らってねえだろ、ヒョイヒョイ躱しやがって・・・」
「主に反動だね。何個も【個性】を同時発動させるのって神経使うし、轟君の時に使った技なんて改善が山ほど必要な未完成だから使い終わった後の反動きついんだからね?自己治癒の【個性】で肉体の反動はどうにかしてるけど、その分体力削るし、疲れまでは回復できないからね・・・」
「なるほどな」
「あと、左を使う決心付いた?煽りに煽って無理に使わせた感が凄かったからちょっと気になって・・・」
「あの時はお前に勝ちたいって思いだけだったから
「そっか」
「ありがとな」
「え?」
「理由はどうあれお前に煽られて左使って、それでも勝てずに負けた。お前じゃなかったら今も右だけで戦ってた。そんで何時か取り返しがつかない所で負けてたと思う」
轟君は何処か吹っ切れたようなそんな顔で僕を見た
「考えすぎだよ。でもきっかけ位にはなれたみたいで良かったよ」
「一年後の体育祭でまた勝負だ。」
「なら早く君なりのケジメって奴を付けてよ?」
「ああ」
「あと先行ってるから早めに会場に来てね?」
「ああ、しばらくしたら行く」
――――――――――
「おォいたいた。探したよ」
「え、エンデヴァー!?何でこんなとこに!?」
保健室を後にし、会場行きの通路を歩いていると背後からエンデヴァーに声を掛けられた
「お礼をいっておこうと思ってね」
「お礼?」
エンデヴァー関係でお礼を言われることってあったっけ?
「君のお陰で息子が左を使った」
左・・・轟君がかたくなに使いたがらなかったエンデヴァーと同じ炎の【個性】・・・
「そんなに嬉しいですか?轟君が左を使って」
「当たり前だろう!アイツにはいずれオールマイトを越えてもらわねばならん!」
「轟君はエンデヴァーさんの代わりじゃありませんよ?」
たとえ同じ【個性】であろうが、扱う人まで同じわけない。轟君は轟君で、エンデヴァーじゃない
「ん?当たり前だろう」
「そう、当たり前です。なのに貴方は轟君がオールマイトを越えないといけないと言った。何故です?」
「フン、ヒーローになりたいと言った。上の兄達はヒーローは嫌だと言うのに焦凍はなりたいと言った。オールマイトの様にと後に続いたのがしゃくだが、なりたいと言うなら鍛えてやるのが親の勤め」
「それが幼少期からの特訓ですか?」
「ああ、アイツが目指したものは腹立たしいが俺の更に上のオールマイトだ。生半可な鍛練では到底たどり着けん。幸い私と妻の両方の【個性】を宿している。早い内から鍛えておくに越したことはない」
「嫌われることになっても?」
「どの業界でも後発の者は良くも悪くも比べられるのが常。親と同じ道を進む
轟君の話す父親像と、目の前にいて訳を話すエンデヴァーとになにかズレのようなものを感じる
「貴方のせいでお母さんが心を病んで轟君に熱湯をかけたって、そして貴方は理由も聞かずにお母さんを病院に隔離したって」
「焦凍がそれを?」
「はい」
「あれは私のミスだ」
「ミス?」
つまり、轟君が言っていたことは・・・
「ああ、私に恨みのある
ん?轟君のお母さんに対して愛情がないみたいなことを言ってたはずだけど?それにやましい理由じゃないなら入院した理由を伝えてもおかしくないはず・・・
「どうして轟君に教えてあげてないんですか?」
「
すれ違い?
「最後に一ついいですか?」
「なんだ」
「個性婚って本当ですか?」
「なに?」
「【個性】の為にお金で轟君のお母さんの実家を丸め込んで無理矢理結婚したって」
「個性婚とは【個性】の相性、もしくは次世代が強くなるかだけで結婚を決める人権を無視した行為だ。私はそんなことはしていない。妻の氷が私の炎と合わされば強い【個性】が生まれると考えなかった訳ではないが、そんなのついでだ。ただ、惚れた女性が実家の借金で辛そうだったから肩代わりし、妻にしたいと思ったから2年かけて口説き落としたにすぎん。」
「つまり奥さんとは相思相愛?」
「当たり前だろう」
相思相愛だとしたら、もしかして・・・
「じゃ、じゃあ轟君のお兄さん達は【個性】が弱かったから期待されていなかった訳じゃない?」
「誰がそんなことを言った!いや、流れからして焦凍だろうが、それはない。ヒーローと一括りに行っても、戦闘、救助、サポートに防犯など多岐にわたる。例え弱い【個性】であろうが使い方次第で対
「でも、お兄さん達を失敗作だって、轟君は成功例だって言われたって言ってましたよ?轟君はエンデヴァーが自分の代わりにオールマイトを越えさせるために何人も子供を作ったって」
「はぁ、それも誤解だ。失敗、成功と言ったことは事実だが、それは自分と同じヒーローに憧れるように教育したのに逆に
ため息と共に轟君の言葉を否定した
「じゃあ全部轟君の誤解?」
「嫌われてるとは思っていたが、その理由が誤解だらけではないか・・・これは一度じっくり話さねばならないか」
目を覆って天を見上げたエンデヴァーは心なしか少し老けたように見えた
じゃあ何か?一方的な嫌悪から誤解が誤解を生んで憎悪に変わったと?
「時間を取らせて済まなかったな。お礼を言うだけのはずが長々と話してしまった。改めてお礼を言わせてくれ。君のお陰で焦凍は左を使った。そして何故焦凍があんなに私を目の敵にするかも知れた。」
「いえ、別にそんなつもりじゃなくて、ただ轟君が余りにもエンデヴァーのこと嫌っていたのでエンデヴァーはどう思ってるのか気になっただけで」
「その気になったお陰で訳を知れたんだ。感謝する」
そう言ってエンデヴァーは頭を下げた
「長々と拘束した私が言うのもなんだが、時間は大丈夫かね?一位なんだ、表彰式に遅れないように行きなさい」
「え、あ!」
携帯を取り出して時間を確認すると授与式までそろそろ5分を切るところだった
「失礼します!」
――――――――――
―― 会場 ――
「それではこれより!表彰式に移ります!三位には爆豪君ともう一人飯田君がいるんだけどちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな」
ミッドナイトがメディアを意識しながらも進行していく
《突然だが僕は早退させてもらう・・・兄が・・・
・・・・・・無事でいてくれ・・・
「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
ミッドナイトが指し示す先には人影があり、掛け声と共に表彰台まで飛んできた――
「私がメダルを持って来――」
「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」
「――た・・・」
――が、ミッドナイトの言葉が現れた人物――オールマイトの言葉に被さってしまった
ああ、オールマイトもタイミングが悪い・・・派手に登場するなら打ち合わせ位してそうだけど・・・
着地姿勢のままプルプルと震え、ミッドナイトに謝罪された後、気を取り直してメダル授与へと移った
「爆豪少年おめでとう!」
「めでたくねえ!!俺は!ここで!一位になって!一位のメダルが手に入んなきゃ意味ねえんだよ‼二位以下のゴミメダルなんざ要らねえ!!」
「うむ、今の地位に満足せず常に上を目指すその姿勢、とても立派だ。受けとっとけよ!君が意味がないと言ったこのメダルを〝傷〟として、次へのバネとして」
「要らねえっつってんだろが!!」
オールマイトがメダルを掛けようとするも必死に抵抗するかっちゃん。最終的にはオールマイトが首ではなく口に引っ掛けることでメダル授与とした
「轟少年おめでとう」
「あなたがこいつを気にかけるのも少し分かった気がします。緑谷が人の抱えてるもん全部吹き飛ばしたおかげでなんだか吹っ切れた気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ、俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃダメだと思った。ケジメを付けなきゃ、清算しなきゃならないモノがまだある」
「・・・顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」
「さて緑谷少年!!」
「オールマイト、僕やりましたよ!」
「ああ、伏線回収見事だった。この場でもう一つの伏線も回収と行こうじゃないか」
「もう一つ?」
僕にメダルを掛けながら「もう一つの伏線回収」を要求してきた
「確か、『表彰台で師匠達や今は亡き恩人に宣言します。僕を選んだことは間違いじゃなかったと』だったかな?さあ、どうぞ!」
「それって!」
オールマイトは事前に用意してあったのか、僕にマイクを手渡してきた
「さぁ胸を張って大声で!さぁ!」
『あ、あーと、ん゙ん゙、僕は今日こうしてこの表彰台に立てているのは今は亡き恩人と僕を鍛えてくれた師匠達のおかげです。僕は【個性】の発現が遅かった。幼馴染は【強個性】で他の友人知人は強弱の差はあれど皆【個性】が発現していた。でも僕は発現していなくて【無個性】だと嗤われ、蔑まれた。そんな中で僕にも力があると言ってくれた恩人が居た。力を扱うために鍛えてくれた師匠達がいた。君ならできると、大丈夫と認めてくれたヒーローが居た。だからこうして夢を諦めずに追いかけることができている。訳あって名前は言いません、あの人も嫌がるだろうから。でもこれだけは言いたい!これから多くを救っていきます!守っていきます!後悔のない道を選びます!何せこの世界の、未来のヒーローですから!僕を選んだことは間違いじゃないと人生を掛けて証明して見せます!だから、どうか見守ってください』
―― アダムさん・・・
「うん、頑張りなさい」
「はい!」
「――さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にも
「「「「プル――」」」」
「お疲れさまでした!!!」
「「「「――スウルト・・・え?」」」」
「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」
「ああいや・・・疲れたろうなと思って・・・」
さっきまでの感動や一体感は吹っ飛んでブーイングの嵐にやらかしたオールマイトが凄くおろおろしていた
しまらないなぁオールマイト・・・
――――――――――
―― 教室 ――
「おつかれっつうことで明日明後日は休校だ。プロからの指名等はこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ。んじゃ解散」
「デク君帰ろう?」
「うん」
「疲れたねえ」
「そうだね、今ならどこでも眠れそうだ」
「先生来るまでの時間で船漕いでたもんね」
「う、恥ずかしいところ見られちゃったなぁ」
こうして体育祭を無事終えた僕らは疲れた体に鞭打って帰路に付いた