託された力   作:lulufen

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15分ほど前に第29話も投稿しましたので読み飛ばしにご注意を


第30話 決勝戦 VS轟

『さァいよいよラスト!!雄英の1年の頂点がここで決まる!!今年の体育祭、両者トップクラスの成績!!ついでだ、マスメディア!きっちり記録しとけ!?轟は何を隠そう燃焼系ヒーローにしてNo2ヒーロー、エンデヴァーの息子!クールな顔して心の中はメッラメラに違いねえ!対する緑谷は武闘派ヒーローなら一度は聞いた事がある鬼哭道場宗家の弟子だ!聞いた話じゃ捕縛のついでに(ヴィラン)を練習台にするようなクレイジーな爺ちゃんに稽古着けてもらったらしいぜ!!』

 

 恐らく轟君は瀬呂君の時のように氷塊で僕の動きを封じるか場外に押し出すつもりだろう。僕は予選に騎馬戦とあれだけ暴れたんだ、開始してから様子見なんてしない。速攻で氷結が来る!

 

『決勝戦!!緑谷出久 (バーサス)  轟焦凍!!ready――――START!!』

 

 予想通り合図と共に轟君は巨大な氷を作り出してきた

 

[炭素硬化(ハードクロム)]

[(パワー)]

[金剛石]

[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]

 

 それに対して体に負担が掛からない程度に【個性】で強化した拳で真っ向から叩き砕いた。衝撃で粉々になった氷がダイヤモンドダストの様にキラキラと宙を舞い、幻想的な風景を作り出していた

 

 そこからの展開は轟君が氷のみで攻撃を繰り出し、それを僕が砕いていくだけとなった。

 氷の壁ができる度に、氷の波が押し寄せる度に殴って殴って殴り砕いていく。

 

『轟の波状攻撃も難なく対応していく!しかぁし対応に追われて反撃も出来てねえぞ!!』

 

 ――

 ―――――

 ――――――――

 ―――――――――――

 

 何度目だろうか、只管氷を砕いていると轟君の動きが鈍くなってきた。よく見れば微かに震えている

 

「震えてるよ?轟君・・・【個性】だって身体能力の一つだ。君自身冷気に耐えられる限度があるんじゃない?」

 

「だからどうだってんだ」

 

「それって左側の熱を使えば解決出来るもんなんじゃないのか?」

 

「俺は母さんの力(右側)だけしかつかわねえ」

 

 ああ、イライラする・・・

 

「本気で言ってるの?皆本気で勝って、そして目標に近付く為に、一番になる為に全力で戦ってるんだよ?それをつまらないことを理由に半分の力で勝つ?フザけてんじゃないよ‼全力でかかって来いよ!!」

 

「何のつもりだ・・・全力?クソ親父に金でも握らされたか?・・・イラつくな!!」

 

「ふざけんな!そんな下らないことで本気を出せなんて言うか!!」

 

「くだらない・・・だと?」

 

「ああ、くだらないね!君の境遇も、君の決心も知ったことか!それでも!全力も出さないで一番になって完全否定なんてフザけんな!!!」

 

 もしあの時アダムさんに出会わなかったら【個性】()なんてない【無個性(無力)】な僕が居るだけだ。

 僕がいくら望んでも手に入らない、いくら覚えても、いくら元となった人の【個性】より性能で上回ったとしてもそれは「覚えた【個性】(誰かの力)」であって「発現した【個性】(僕だけの力)」じゃない。でも、君は生まれもっての【個性】()があるじゃないか!

 借り物じゃない【個性】()、僕がいくら渇望しても手に入らない、いくら覚えても使えない「自分だけの【個性】()」、それを否定するだって?これをふざけていると言わず何だって言うんだ!

 

「うるせえ・・・」

 

 パキパキと轟君の体に霜が降り始める

 

「親父の――」

 

「君はエンデヴァーじゃない!その力は他でもない君の力じゃないか!!なぜ受け入れない!なぜ拒絶する!君が!生まれた時から持つ君の力だろう!!」

 

 ――――――――――

 ―― 轟 ――

 

「君が!生まれた時から持つ君の力だろう!!」

 

 この左は親父の――

 

 ― 焦凍は焦凍よ、同じだからって気にしなくてもいいのよ ―

 

 でも俺の、俺のせいで母さんは――

 

 ― いいのよ、おまえは血に囚われることなんかない ―

 

 でも――

 

 ― なりたい自分になっていいんだよ ―

 

 なりたい自分・・・

 

 ― ヒーローになりたいんでしょう? ―

 

 なりたい、なりたいよ!俺もヒーローに!

 

 ――――――――――

 ―― 緑谷 ――

 

 メラッ

 

「ちくしょう・・・ちくしょう!ちくしょう!!ちくしょう!!!」

 

 ゴオ!!

 

 視界が赤く染まり熱風が肌を叩く

 

「ちくしょう・・・敵に塩送るなんてどっちがフザけてるって話だ・・・俺だって、俺だってヒーローに!!」

 

 轟君は覚悟を決めた様に左から炎を吹き出した

 その顔は先ほどまでの苦い顔ではなく、何か吹っ切れたような闘争心が剥き出しになった貌だった

 

「何時まで俺に合わせているつもりだ・・・俺に左使わせたんだ、お前も本気出せよ」

 

「ああ、いいよ、でも手加減しないよ?これでも轟君に対して結構イライラしてるんだ」

 

「上等だ、てめえに勝って俺は一位になる」

 

「そう上手くは行かせないよ。天辺を獲るのは僕だ」

 

 いつものように【個性】を多重発動させていく

 

[怪力]

[剛力]

[剛腕]

[鉄腕]

[筋力増強(パンプアップ)]

[筋繊維強靭化(ビルドアップ)]

[炭素硬化(ハードクロム)]

[(パワー)]

[金剛石]

[翼]

[複製腕]×2

[硬化]

[鬼]

 

「鬼哭流:裏奥義・鬼降ろし!」

 

 バキバキメキゴキ!

 

 肌は黒く輝き、鱗のように細かく鋭い突起が現れ、関節や指先などの角や先端に該当する部分は鋭く尖ってる

 モサモサした髪が撫で付けた様なオールバックとなったことで白毫が露わとなり光を反射し輝いている

 額の両端には2つのコブができ、下顎から小さな犬歯が覗いている

 全身の筋肉がギチギチと軋む音を立てながら膨れ上がる

 

 ― ケケケ、アイツガ羨マシインダロ?妬マシインダロ?自分ニナイモノ持ッテルノニ『イラナイ』ッテ言ウカラ、ムカツイテ、ムカツイテ、シカタナインダヨナア? ―

 

 ああ!羨ましいさ!妬ましいさ!僕が欲しくて欲しくて堪らなかったモノを持ってる轟君が。ムカつきもするさ!生まれ持った【個性】( ソ レ )をいらないって言うんだから!

 

 バサッ!ズルリ!

 

 背中からは全長3mはありそうな蝙蝠の様な翼が広がり、肩からは倍の長さはある2対4本の腕が新たに生えた。

 新たに生えた腕と元からある腕の間には被膜のようなものがあり、広げると第二の翼にも見える

 如何に伸縮性の高い素材で出来ていても、肌がヤスリ状となったことで至る所が破けてボロボロとなり、膨張した筋肉により限界まで伸びたことで体操服は悲鳴を上げている。特に上半身は下半身に比べ筋肉の盛り上がりが強かったために耐えきれず、遂には布きれへと姿を変え緑谷の上半身を露わにする

 

 いくら腕や翼が生えて肌が黒くなろうとも、大部分が【緑谷出久】という人間であると一目で分かる程度の変化である。彼を知るものはそこまで驚きはしないだろう

 

 ――だが、変化はそこで終わらなかった

 

[鬼]

 

 額にあるコブがメキメキと音を立てて皮膚を突き破り、二本の太く長い三日月の様に反った角が突き出した

 耳が尖り、覗く程度の小さな犬歯は鋭く尖った大きな牙となった

 

 ― ケケケケ、ナラ俺に任セロ、俺ニ任セレバ代ワリニブッ飛バシテヤルヨ ―

 

 ふざけんな!だからってお前に体を明け渡す理由にはならない!(お前)は出てくるな!僕は僕の力で勝つんだ!

 

[鬼]の【個性】を複数発動させることで心の中で鬼が囁いてくるようになる。時には甘言で惑わし、時には無理やり体の主導権を奪おうとして来る。だから耳を傾けないように気を張り続けるか、ねじ伏せるしかない。

 

[鬼]

 

 まるで血溜まりに写る満月の様に眼は紅く、虹彩は金色となり瞳孔は蛇のように縦に割れた

 

 ― クケケ、サア、明ケ渡セ ―

 

 落ち着け、熱くなったら思う壺だ、奴の言う事に耳を傾けちゃだめだ。気を落ち着けるんだ。道場での特訓を思い出せ・・・

 

 ― ケケ  ケ ケ  ―

 

 徐々に喧しかった鬼の声が小さくなっていく

 

[受け継がれし力(ワン・フォー・オール)]

 

 剥き出しになった黒い肌を左胸―心臓部―を中心に這うように赤い線が走り、その様子は血管が浮き出たように見える

 

「鬼哭流:黒鬼(こくき)混成怪鬼(キメラ・オーガ)

 

 大丈夫、上手く行った・・・

 

 ― ケケケケケケケ!!サア、ソノ体ヲ明ケ渡セ!ケケケケケ!! ―

 

 な!?ヤバい、いつもより抵抗が強――

 

 気を静めることで鬼を抑え込めたと安堵し油断した時、まるで引いた波が大きくなって戻ってくるような想像以上の抵抗に僕の意識は呑まれ、水底へと沈んでいった

 

「グルルゥゥガアァァァアアアア!!」

 

 ズガァァァアアン!!!!

 

 理性があるとは思えない獣のような声を天に向かって叫び、長い4本の腕をフィールドに叩きつけた

 

 叩きつけられたフィールドは大きく窪んでクレーターができ、四方に亀裂が走った

 

 ――――――――――

 ―― 解説室 ――

 

「おいおい、轟がクールボーイからクール&ファイヤーボーイにジョブチェンジしたと思ったら緑谷は恐ろしい悪鬼羅刹か?何が憎くてそんな恐ろしい顔してんのか知らんが、仮にもヒーロー目指してんだ、もっとマイルドに行こうぜ?全国のちびっこも見てんだし・・・無視かよ」

 

 解説室からプレゼントマイクが話しかけるも無視するかの如く床を殴っている

 

「セメントス、ミッドナイト、準備しとけ、あれは拙い」

 

『了解』

『わかったわ』

 

 そんなプレゼントマイクを余所に相澤は無線でセメントスとミッドナイトに指示を出していた

 

「おいおい、まだ始まったばかりだぜ?」

 

「奴は今、暴走一歩手前状態だ。場合によっては俺も出る」

 

 相澤のその真剣な眼差しにプレゼントマイクの額に汗が垂れた

 

「マジかよ・・・さすが出所不明の金塊、面倒なことしてくれるぜ」

 

 ――――――――

 ―― 轟 ――

 

「シュルルルルル・・・」

 

 睨み付けてくる緑谷の口からは立ち上るように青白い炎が漏れ出し空間を歪めている

 

 確かに本気を出せと言ったがここまで姿が変わるとは思わなかった

 面影なんて殆どない怪物へと姿を変えたクラスメートであり対戦相手の緑谷出久を前に足が止まった

 

「グルルルルルアアアア!!」

 

 ガンガンガンガンガンガンガン!!!!

 

 八つ当たりするかのように腕を振り上げ床に叩きつけること7回。叩きつけるたびに小さくない揺れが起きるほど強く叩かれたステージの床には大きく深いクレーターとそれを横切るように大きな亀裂出来ていた

 

『変身して理性を失いましたってかぁ?あんまり酷いと失格にすんぞコラ!』

 

「っ!?」

 

 暴れ狂う緑谷が一瞬俺を見た。その目は怒りと狂気、そして僅かばかりの理性がありゾクリと背筋が凍るような悪寒が走った

 そんな俺を余所に緑谷が自ら開けたその亀裂に長腕を差し込んだ直後、凄まじい爆発と共に粉塵が舞い視界を遮る

 

『おいおい、なんも見えねえな、おい!』

 

 ガガガガガガガガガガ!!!

 

 連続して何か硬い物が別の硬い物を貫くような音が周囲から聞こえる

 いつ何が起きてもいい様にと警戒していると、視界を遮っていた粉塵が風によって徐々に流され、完全に晴れた時には檻の中にいた

 

「なに!?」

 

 よく見ればそれは土の柱で出来ていて、先ほどの音はこれが突き出た音だったのだろう。檻は場外線の内側に半身になればギリギリ通れそうな間隔で並び、鳥籠のように上部は緩いカーブを描いて中央で接合されている。緑谷が作った亀裂もクレーターも土で埋められて、土色であることを除けば元通りになっていた

 

『おお!?なんか良く分からん内に場外禁止のデスマッチ戦に変わってんぞ!って緑谷の奴予選の次は本選でまで勝手に会場作り変えやがったな!!』

 

「ふう、危なかった・・・一瞬飲まれかけたよ」

 

「緑谷・・・・・・」

 

 正面を向けば先ほどまで理性なんてない正真正銘の『化け物』だったのに、今はその目に理性が宿っている緑谷の姿があった。ただの『化け物』だったらまだやりようがあったが、理性ある怪物相手は厳しい

 

「で、これが僕の『本気』だ・・・・・・行くよ?」

 

「っ!来い!!」

 

 宣言と共に走り出す緑谷の足元へ氷を走らせ、同時に全力で炎を出す

 

 ゴオオオオオオオ!!!!

 ドゴン!ガイィィィン!

 

 炎により空間が過熱され凄まじい爆発が起き、視界が白一色に染まる。直後、頭、背中の順に強烈な痛みが走った

 頭突きを喰らい、吹き飛ばされたと理解したのは衝撃で軋む体に眉をひそめ、背後で音叉の様に鳴り響く檻を見てからだった

 

『何今の・・・おまえのクラス何なの・・・・・・』

 

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱せられ膨張したんだ』

 

『それでこの爆風て、どんだけ高熱だよ!ったく何もみえねー・・・オイこれ勝敗はどうなって・・・』

 

 額から流れる血を体操着の袖で拭いながら霧の向こう側にいるであろう緑谷を睨みつけていると――

 

『無傷!やべえぞ、おい!お前のクラスやべえよ!特に緑谷やべえよ!』

 

 ――霧の中から無傷の緑谷が現れた

 

「――えた」

 

 ?いまなんか呟いたか?

 

「・・・今、なんか言ったか?」

 

「ん?ああ、気にしないで口癖のようなものさ・・・・で、轟君、まだ戦える?」

 

 呟きに対して問い掛けても、そもそも答える気がないのか「なんでもない」と躱され、あまつさえ対戦相手である俺の心配までしてくる

 

 こっちは良いの貰っちまったってのに怪我どころか息一つ乱してねえ・・・でもまだいける、こんなところで負ける訳にはいかないんだ!

 

「まだだ・・・っ!」

 

 走り出そうとしたところで両足が動かず、目を向ければ氷が纏わりついていた。まさかと緑谷に目を向ければいつの間にか左半身から冷気が地を這うように広がり、対称に右半身から青い炎が吹き出し空間を歪めながら熱気を立ち昇らせている

 

「てめえ、それは!」

 

 俺の【個性】じゃないか!

 

「模倣、させてもらったよ?」

 

『おおっと!緑谷もクール&ファイヤーボーイにジョブチェンジかあ!?』

 

 ゴウッ!

 

 左の炎で纏わりつく氷を溶かすが、徐々に炎で溶かすよりも凍り付く速度が速くなり身動きが取れなくなっていく

 溶かしても溶かしても凍り付き、ついには左半身まで凍てついた

 

「くおぉぉぉぉ!!!!」

 

 いくらもがいても、まとわりついく氷にヒビ一つ入れることもできない

 

「降参する気は?って聞いても意味なさそうだね・・・」

 

「当たり前だ!!」

 

 緑谷が目の前から消えたと思った時、体に纏わりついた氷ごと蹴られ、左の脇腹に激痛が走った。次いで鐘を打つような音が響き、嫌な予感がして咄嗟に氷の壁を背後に作ると同時に砕かれ、振り返ると防がれると思っていなかったのか右腕を突き出した状態で目を見開いて驚く緑谷がいた。反撃のチャンスだと炎を吹き出すも霞のように消え去り、背中に蹴りを喰らって手を着く暇もなく顔面を床に強か打ち付ける

 

「っ!!」

 

 ゾクリと背筋に悪寒が走り、痛む顔もそのままに転がるようにしてその場から動くと、ガゴン!!というコンクリートが砕ける音と共に先ほどまでいた場所に緑谷の拳があった。余りの威力に床が砕け、破片が俺の顔に当たる

 

 急ぎ立ち上がり身構えるもすでに緑谷の姿はそこにはなく、代わりに四方から音が聞こえる。目を向ければ緑谷が檻を足場に跳ねまわっていて、その様子はまるで床や壁を跳ねまわるスーパーボールの様だった。緑谷が檻を足場にするたびに鐘を打った様なけたたましい音が鳴り響き、徐々に速度が上昇している

 

『緑谷!速い、速い速い速ーい!目にも留まらぬ速さで跳ねまわる!そしてガンガンうるせえな!おい!』

 

『檻という壁を作り出すことでそれを足場に立体戦を仕掛ける。あれだけ高速で動き回れば相手に捕捉されることはないだろう。ただし、自らも相手を見失うリスクと空中では直線軌道になってしまうのでカウンターを受けるリスクもある。しかしあの様子じゃ一つ目はクリア済みってところか・・・』

 

『ほうほう、つまりあれだな!攻撃しかけられたときにカウンター決めるしか手はねえってことか!』

 

『いや、そうでもない』

 

 アイツが攻撃してくるまで手を(こまね)いて待っているなんて時間の無駄だ

 

 狙えないなら――

 

 ブワッ!カキーーン!!

 

 ――狙わなければいい!

 

 おおよその場所を決め掬い上げるような動作で巨大な氷塊を作り出し檻ごと緑谷を凍らせる

 

『ああして広範囲に対する攻撃手段があれば届く』

 

『おおっと!轟!点がダメなら面でと言わんばかりに強大な氷で攻撃だあ!』

 

 ジュワッ!

 

 これでどうだと上空を睨みつけると一瞬で氷が溶かされ、水滴が雨のように降ってくる

 

『緑谷一瞬で溶かして氷漬けを回避‼』

 

「ちっ!」

 

 思った結果が得られなかったことに舌打ちをして、次に何が来るか身構えると身体に水が纏わりつき動きを封じられる

 

 今度は水か!!

 

 そうして拘束された俺の前に緑谷が現れた

 

「解けた氷は有効活用させてもらったよ」

 

「また拘束か・・・!!」

 

「もう一度聞くよ?降参する気ない?」

 

「はっ!寝言は寝て言え」

 

 凍らせることで脆くして砕き、力ずくで拘束から抜け出した

 

「じゃあ力ずくでねじ伏せるよ」

 

 そう言うと共にまた霞のように姿を消し、けたたましい鐘の音と共に四方八方から攻撃が始まった。攻撃の瞬間だけは止まるようで緑谷を捉える度に氷と炎で反撃するが、それを嘲笑うかのようにまったく別の方から攻撃が来る

 

『怒涛の攻撃に轟必死に反撃するも防戦一方だあ!緑谷超優勢!このまま押し切れるかあ!!』

 

 前と思えば左、右と思えば上と幾度となく攻撃を喰らう度に切り傷、擦り傷、打撲と体中が傷だらけになり、喰らった数が20を超えた辺りから身体に限界が訪れ、視界が歪む。

 それでも倒れまいと死に体に鞭打って反撃を続ける。倒れたくない、負けたくない、無様だと言われようが倒れる訳には行かない

 

「はっ」

 

 気合、根性

 

 そんな暑苦しいものとは無縁だと思っていたのに、最後に縋るものがこれかと思わず笑ってしまう

 もう緑谷がどこにいるかも把握できず全方位にがむしゃらに【個性】を放っていると顎に衝撃が走り、体が宙に浮いた

 

 俺は敗北を悟った。

 

 もう指一本動かねえ。いや、例え動いてもこの状態から挽回は出来そうにねえな・・・

 

「僕の勝ちだ。お休み轟君」

 

 何故か布団の様に柔らかい床にボフリと落ちた俺の薄れゆく意識の中で緑谷の勝利宣言がやけにはっきりと聞こえた

 

 ああ、くやしいなぁ・・・

 

 俺は眠る様に意識を手放した

 

 ――――――

 ―― 緑谷 ――

 

「・・・・・・轟君行動不能!よって――緑谷君の勝ち!!」

 

『以上で全ての競技が終了!!今年度雄英体育祭1年優勝は―――A組緑谷出久!!!』

 

「ふう」

 

 試合終了の合図と共に【個性】の発動をやめる

 

 髪こそオールバックのままだが、それ以外は試合開始前と変わらない。頭をぐしゃぐしゃと解し、元の髪形に治す

 

 数秒とはいえ鬼に意識を飲まれた・・・どうにか主導権を取り戻したけど、やっぱ裏奥義(この技)を実戦で使うには鍛錬が必要だな・・・[ズーム]で補足して空間を[壁]で仕切れば[(スピード)]で加速した状態でも立体戦が可能なのは確認できたしトントンかな?いや、[爆破]で軌道変更すれば十分使えるし、轟君の【個性】を覚えられたからプラスだな

 

 ちなみに発目さんの[ズーム]は頼んでみたらあっさり覚えさせてくれた。なんでも「一位通過したから注目が集まったし、本選でも最大限アピールできましたから!そのお礼です」だそうだ。《注目を浴びて実力を示す》って体育祭の主旨とは言葉こそ同じでも若干ニュアンスが違うけど、飯田君との試合を見た感じだと発目さんはバッチリ達成してた。利用された飯田君が哀れになるくらいバッチリ・・・

 

「緑谷君」

 

「あ、はい、セメントス先生」

 

「これ、君が作ったのでしょ?土で出来てるんじゃ私じゃどうにもできないから元に戻してくれる?救護者を運べやしない」

 

 試合について考えていると場外からセメントス先生に呼ばれ、顔を向けるとが困った様子でフィールドに出来た『檻』を指さしている

 

「あ、すいません、すぐに戻します」

 

「土さえどかしてくれれば後は私の方で直すから」

 

「は、はい、すみませんでした」

 

 その後、僕が[操土]でフィールド上に出した土を元の地下に戻したところで救護班が轟君を運び、セメントスが【個性】でセメントを操作して表彰台を作っていた

 

 こうして体育祭は宣言通り僕の優勝で幕を下ろした


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