あれから7年いろんなことがあった
あの日、【個性】を受け取った後、帰宅して直ぐに母さんは額にある青い石の存在に気付いた
咄嗟に[覚える]【個性】が発現したと嘘をついた
お母さんは「[覚える]【個性】なんて
と疑問に思っているようだったが、突然変異とか隔離遺伝とかいって誤魔化した
それからお母さんはずっと上機嫌だった
僕が夢を諦めず追い続けているのに、母さんは諦めてしまったことを悔やんでいた。そんな時僕に【個性】が発現したと分かり尚のこと嬉しかったようだ
夕飯は僕の大好物のカツ丼やごちそうが並び、いつも帰宅が遅い父さんは早退してまで早く帰ってきてくれた
両親の優しさから涙が止まらず、その日食べたカツ丼はちょっとしょっぱかった
それから2日後には7歳から11歳位のアダムさんを『お兄ちゃん』と呼ぶ6人の
アダムさんから手紙を預かっていると渡され、読んでみると【個性】の
年上の女の子、それも美少女と顔を近づけ、更に額まで合わせるなんて僕にとっては超高難易度で慌てふためいた
恐らく顔は真っ赤だったと思う
すると彼女達から額を合わせてきて【個性】を強制的に覚えさせられた
鼻血を噴かなかったことを誰か褒めてほしい
母さんは「【個性】の次は春まで来ちゃったのね!!」なんて言って喜んでたけど、僕はバクバクなる心臓と今にも噴き出しそうな鼻血を堪えるのに必死だった
どうもアダムさんから事前に頼まれていたらしく、元々手紙を渡したら【個性】を覚えさせるつもりだったしい
何でお兄ちゃん以外とってぶつぶつ言ってた。アダムさんはよほど慕われていたみたいだ
その後帰っていったが帰り際に
曰く、孤児院にいた自分たちを引き取って美味しいものや綺麗なものをいっぱいくれた
男の子や綺麗なお姉さん達には目もくれず彼女達だけを引き取って、自身を『アダムお兄ちゃん』か『お兄ちゃん』と呼ぶように言ったらしい
曰く、どんな時も颯爽と現れて守ってくれる
男の子に意地悪された時、突如見事な飛び蹴りで男の子を吹き飛ばして現れ、もう意地悪しないように
曰く、どんなに忙しい時でも彼女達がお願いしたら必ず来てくれる
お遊戯会や発表会はビデオカメラ3台、一眼レフカメラ5台、
曰く、家にいる時はいつも一緒にいてくれる
一緒にお風呂に入ったり同じベッドで寝たりするらしく、特に大きな手で頭を洗ってもらったり撫でてもらうのが気持ちいらしい
曰く、いつもきれいな服をくれる
デザイン、採寸、縫合、手直し、着せ替えまで全部
曰く、挨拶は一人一人にやってくれる
ちょっと恥ずかしいけど、おはようとお休みのチューとハグを欠かさずしてくれるらしい
曰く、曰く、曰く、曰く・・・・・・
想像していた『格好良い』や『優しい』とは大分違ったけど、良く分かった
アダムさんはロ――じゃなくて、とっても格好良くて優しいロリ――お兄さんみたいだ
羨ましいと思ったこの気持ちは気が動転したせいだ
僕は
学校ではかっちゃんにやり返した
初めはかっちゃんやクラスメートから「ただの【無個性】のくせに」「ヒーローなんて無理だ」という言葉に「もう【無個性】じゃない」「ヒーローにだってなれる」と言い返しただけだった
でも、今まで見下してきた僕に反抗されたのが気に入らなかったのか怒りだした
その上、強い【個性】が発現したとどこからか――恐らく母さんが大げさに言ってから小母さん経由で――聞いたのか僕が反抗したのも含めて更に怒った
「【個性】を使ってみろ!!」
と叫びながら手をボンボンと爆発させ飛び掛ってくるかっちゃんに咄嗟に【個性】を使った
その頃、覚えていたのは母さんの[物を引き寄せる]【個性】、父さんの[火を噴く]【個性】、アダムさんの義妹達の[
[
[
[
[操水]と[操土]は使えるけどその時は使い方を思いつかなかった
残る選択肢は母さんの[物を引き寄せる]【個性】か父さんの[火を噴く]【個性】
その時選んだのは父さんの【個性】だった
ただ火を噴くだけの【個性】
それでも始めてみた時は格好いいと思った、オールマイトよりもヒーローよりも早く、初めて憧れた人の【個性】
父さんは赤い火を噴いたが、僕が全力で噴いたら青い炎が出た
かっちゃんは咄嗟に横に飛び、炎を避けていて当たらなかったけど、青い炎に気を取られていて気付かなかった
5秒ほどで炎を吹き尽くし、かっちゃんを探すがそこにかっちゃんの姿はなく、右に10m位ずれた場所に居たので慌ててそちらに体を向け警戒した
しかし、いつもならすぐに恐ろしい顔で攻撃してきそうなのに、唖然とした顔でその場に立っていて一向に向かってくる様子がなく、何事かと視線の先に目を向けると炎が当たっていた地面の中心部はゴポゴポと赤いマグマが煮えたぎり周囲は硝子化していた
血の気が引いて腰が抜けた
もしこれが人に当たっていたらと思うとぞっとした
周りが唖然とする中、騒ぎを聞きつけた先生が駆けつけてきて酷く怒られ、今回の決闘もどきは有耶無耶になったけど、この件があってからはいじめは無くなった
相変わらずかっちゃんは僕を睨みつけたりするけど手を出してくることはなくなった。その内【個性】みたいに爆発しそうでちょっと怖い
それに周りからも何も言われなくなった。ただ、今まで僕を馬鹿にしたりかっちゃんと一緒にいじめてきた人は明らかに僕を避けるようになった
挨拶するだけで怯えなくても何もしないってば
休日に
かっちゃんとの決闘もどき以来、体を鍛え始めていた
あの時は近づいてくるかっちゃんが怖くて咄嗟に【個性】を使ったが、【個性】の強化具合から今後は安易に増強系以外の【個性】は使えそうにないことが分かった。それなのに、自身の貧弱な体じゃ増強系の【個性】を使っても接近戦どころか接近されたら負けちゃうか、文字通り木偶の坊みたいにやられっぱなしになっちゃう。そもそも増強系の【個性】すら体が耐えられるか分かんないし
だから、【個性】の学習・制御の練習と並行して近所にある道場のお爺ちゃん達――お父さん曰く、
そんな特訓のばかりの日常でのなかで、久々にヒーローと
いつもだったら野次馬その一で終わっていたのに、偶々最前列にいたせいか
ヒーロー――デステゴロ――と対峙していた
回避や反撃はできそうになかったのでせめて体は守らなきゃと[金剛石]の【個性】で全身をダイヤモンドに変え刃物による脅しを無効化した
事前に
アドバイス通りに[金剛石]と新たに[怪力]と[鉄腕]の【個性】を発動させ、腹部に肘を打ち込んで怯ませ拘束を解き、振り向き様に頭上にあった顎に裏拳を入れた
ただ、
「お前さんはちみっこいからのぉ、自分よりデカいのに拘束されたら肘打ちして顎を裏拳なりで殴れ、昇龍拳ならなお良いが下手すりゃ死ぬかんなぁ。あぁそれと儂の【個性】は使うなよ?お前の【個性】の特性上、お前の体か殴った相手が弾け飛ぶかんのぉ」
「顎なら
とやけに物騒なアドバイスだったので一応手加減して横から顎を打った。それでもパキョって音と共に
それと[金剛石]の
「
とこれまた物騒なアドバイスをもらっていたので殺さないように注意しつつ、怯んだ
やばっ!そういえばダイヤモンド状態のまま攻撃してた!!
その後、
「あの
と言っていた。
3人と知り合いみたいだけどどんな関係だろう
ちなみにデステゴロにお爺ちゃん達との関係を聞いたらお茶を濁され、お爺ちゃん達に聞いたら
「あの貧弱
「ほぉほぉ、あ奴も成長したということか」
「根性と負けん気だけは一丁前だった小僧がのぉ」
と経爺は笑い転げ、硬爺と岩爺は昔を懐かしんでいて、結局デステゴロとの関係は聞けなかった
そんな濃い日常を送りながらは
ただ
3回位ヒーローに捕まってお説教されたけどお爺ちゃん達との対人戦闘訓練の延長だと言い訳して逃げた
デステゴロ、ごめんなさい
稽古中に荷物から零れ落ちたヒーロー分析ノートをお爺ちゃん達に見られたのでついでに意見を聞くと
「そんなもん小僧の勝手じゃ。それに他人の戦闘を参考にするのは悪いことではない」
「そうじゃ、特に小僧のように他者の【個性】を使う場合はより参考になるだろうよ」
と硬爺と岩爺は認めてくれたので今後も続けて行こうと思う
ちなみに経爺は
「戦略なんぞいらん!!中下段攻撃から[昇龍拳]で一発じゃ!!昇"龍"拳じゃぞ!!断じて昇"竜"拳ではないぞ!!」
と良く分からない事を言っていたから聞かなかったことにした
――― 雄英高校校門前 ―――
そして入試当日、
多くのヒーローを輩出した超名門校、【無個性】だった頃なら行こうとは思わなかったであろう場所、もう誰にはばかることなく選んで進める
お爺ちゃんたちの鬼の特訓もやったんだ。大丈夫!!やってやるさ!!
さぁ
「どけデク!!」
ビクッ
振り向くと殺気だって歩いてくるかっちゃんがいた
「かっちゃん!!」
あの日、終礼での先生の何気ない「緑谷も爆豪と一緒で雄英志望だったよな」の一言でついにかっちゃんが爆発した
その時は咄嗟にかっちゃんの顎を軽くたたいて脳を揺らし、尻餅をついている間に逃げるように学校を後にした
次の日からかっちゃんは普段以上に睨む様になったけど、最近は稽古時のお爺ちゃん達の笑顔で慣れたのでそこまで怖くない
お爺ちゃんたちは例えるなら5桁は殺しをやってそうな悪鬼
それに比べたらかっちゃんは怖くない・・・うん、怖くない・・・
「お、お早う、お、おおお互いがが頑張ろうね」
かっちゃんはこちらに返事を返すことなく行ってしまった。
ごめん、やっぱ怖いです
「はぁ朝からかっちゃんに睨まれるなんて悪いことありそう・・・」
ダメだダメだ!試験前に弱気になってどうする!!気を取り直して
・・・・・・ん?地面を踏んでる感じがしない?
フワー
「大丈夫?」
疑問に思っているといきなり女の子に話しかけられた
「わっえっ!?」
えっ飛んでる?いや浮かんでる!?えっ誰!?
混乱しているとストンと地面に下ろされた。
「私の【個性】、ごめんね勝手に。でも転んじゃったら縁起悪いもんね」
か、かわいい
「緊張するよねぇ」
「え、あ、う、うん、あああり、がとう」
「どういたしまして!!お互い頑張ろうね!!」
「う、うん!!」
今日はなんていい日だ!!
――― 講堂 ―――
実技試験についての説明は大きく広い講堂で行うようでそこには沢山の受験生がいた。
ちなみにかっちゃんが隣の席なのでめっちゃ怖いです!!
横からの視線にビビりつつ試験説明が始まるのを待っていると、教壇にボイスヒーローのプレゼント・マイクが来た。
わぁ、本物だ!!さすが雄英!!講師は皆プロヒーローなんだ!!後でサイン貰えないかな?
「今日は俺のライブにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!」
ようこそ―……ってこの雰囲気で返事したらやばいかなぁ
「こいつはシヴィー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHH!!」
言いたい!!プレゼントマイクに返事したい!!ヤーって言いたい!!
「ぶつぶつうるせえ、声に出てんだよ」
「うっ!!ごめん・・・・・」
生で聞くプレゼント・マイクの声に感動しているとかっちゃんに怒られた。どうも声に出てたらしい。
恥ずかしいぃ
「最後にリスナーに我が校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!「真の英雄は人生の不幸を乗り越えていく者」と!!
――― 実技試験会場 ―――
試験会場に向かうとそこは街だった
広大な試験会場に圧倒され、続いて他の受験生を見渡すと、見覚えのある人がいた
あぁ、あの人!!同じ会場だったんだ!!
今朝、僕が転びそうなところを助けてくれた人だ!!ちょっと話しかけてこよっかなぁ?
『おい小僧!
そうだったね経爺、話しかけるのは試験が終わってからにしよう
「はい、スタートー!」
え?
いきなりプレゼント・マイクから出されたスタートの合図。
「どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?」
唖然として今だ動かない受験生をプレゼント・マイクが急かす。
え・・・ええええぇぇ!?
こうして雄英高校ヒーロー科の実技試験は始まった。