今年もよろしくお願いします。
『七試合目!!ヒーロー科A組 切島鋭児郎!!
「あ!はじまる!!」
急げ急げ!!始まっちゃうよ‼
芦戸さんとの試合が終わってから急いで観客席まで走った。残念ながら六試合目の『常闇踏影 VS 八百万百』は短期決戦で決着がついたようで観戦することは叶わなかったが、切島君の試合は観戦できそうだ
『ヒーロー科B組 鉄哲徹鐵!!』
「おお!緑谷!こっちこっち!ここ空いてるぞ!」
「ありがと!尾白君!」
観客席まで走ると僕に気付いた尾白君が手を振って空席を教えてくれた
『両者とも全身をカチコチに硬化させる【個性】ダダ被りっぷり!類似する【個性】は大体が似た戦い方をするがこいつらはどうだ!?』
「ふう・・・」
『ready――――START!!』
開始と共に両者は駆け寄り、殴り合いが始まった
両者とも【個性】で硬くした拳で殴り、同じく硬くした体で受けるその様は「小細工無用、男なら拳で語れ」と言わんばかりのガチンコ勝負
どちらが先に倒れるかの耐久戦かと思いきや、切島君は殴り殴られるタイミングに合わせて硬化させているようで、インパクトの瞬間はガギン!と硬い物同士がぶつかる音が鳴り響くが、次の瞬間には角張りのない素肌が現れる。
どうやら二週間前にアドバイスした「瞬間的な硬化によるカウンター」を実践しているようで、消耗を抑えるだけでなく一時的に展開することで硬度も飛躍的に向上させている。そのため殴られたはずなのにダメージは少なく、逆に殴った方の鉄哲君が顔をしかめている。
まだインパクトの一瞬にその部分だけ展開することはできない為か、殴られる場所周辺を事前に硬化させることで対応している
それ以外は見た目通り殴り殴られ蹴り蹴られ、どちらかが倒れるまで続く耐久戦。鉄哲君と切島君が同スペックであるなら一工夫入れている切島君に軍配が上がるだろう。
しかし、もし仮に工夫込みの切島君と同程度、又は上回る耐久性を鉄哲君が持つなら良くて引き分け、最悪一回戦敗退もあり得る。でもあの様子じゃ『もしも』はなさそうだ
恐らく勝負が決まるまでしばらく時間が掛かるだろう。
今のうちに麗日さんの様子を見に行こう。かっちゃんなら気後れなく一人で大丈夫だろう。僕が行ってもかえって邪魔になる。
でも、今日の麗日さんはどうも変だった。何というか緊張しているとは違った悩みのようなものがありそうなそんな感じだった
――――――――――
―― 選手控室2 ――
「麗日さん」
控室の扉を開けると中には麗日さんと飯田君がいた
「デクくん!アレ?試合は?」
「僕の試合は終わったよ。両者怪我なく僕の勝ち」
「へぇ・・・どうやって勝ったんだい?怪我なく勝つなんてことはそうそうできないが・・・」
「動きを封じてから場外って流れ。格好いい戦闘を思い描いてた芦戸さんには不満を言われたけどね」
さすがにあの不満には苦笑しかでない。無傷で見栄えが良い戦闘なんてドラマや特撮TVじゃない限り無理だよなぁ
「あと、常闇君と八百万さんの試合は残念ながら僕も見れてないんだけど、常闇君が勝ったみたい。今は切島君とB組の人がやってる。戦い方はどっちが倒れるまでの殴り合いだから、あのままなら切島君が勝つと思うよ」
「じゃあ・・・もう次・・・すぐ・・・」
「しかし、まぁさすがに爆豪君も女性相手に全力で爆発は――」
「するね!皆、夢の為にここまで一番になろうとしてる。かっちゃんでなくとも手加減なんて考えないよ・・・」
飯田君が「手心を加えるだろう」と言うが、即座に否定する
皆、天辺取ろうと頑張ってるんだ。手を抜く人はいない。特にかっちゃんは誰であろうと敵と判断したら容赦はしないし、そこに年齢や性別は考慮されない
「正直言うとかっちゃんに勝ってほしいって気持ちがある。かっちゃんは僕にとって幼馴染であり、兄貴分であり、ライバルだから」
「緑谷君!なにもここで――」
「でも!それと同じくらい麗日さんに勝ってほしいと思ってる」
飯田君が止めに入るが、言葉を遮るようにして続きを話す
「かっちゃんの戦闘面での才能はずば抜けて高い。無策で突っ込んでも返り打ちになるのが落ちだ。だからさ、麗日さんの【個性】でかっちゃんに対抗する策、つけ焼き刃だけど考えてきた!」
「おお!麗日さんやったじゃないか!!」
「ありがとうデク君・・・でも、いい」
麗日さんは、どうにか作ったと言わんばかりのぎこちない笑顔で礼をいい、その上で受け取れないと断ってきた
「え・・・どうして」
「デク君は凄い!どんな不利な立場になっても涼しい顔して勝ち上がっていく。騎馬戦の時、仲良い人と組んだ方がやりやすいって思ってたけど、今思えばデク君に頼ろうとしてたんかもしれない。だから飯田君が『挑戦する!』って言ってて本当はちょっと恥ずかしくなった」
「麗日さん・・・」
そんな風に思い詰めてたなんて気付かなかった・・・
「だからいい!皆未来に向けて頑張ってる!そんな皆ライバルなんだよね・・・だから、決勝で会おうぜ!」
「まって!」
「ん?」
「頼りっきりなのは駄目かもしれないけど、たまに頼るくらいならいいんじゃない?」
そのまま出て行こうとする麗日さんを急ぎ呼び止め、諭すように話しかける
「緑谷君、それはどういうことだい?」
「運も実力の内って言葉もあるけどさ、僕が麗日さんの力になりたいって対かっちゃん用の対策を立ててきたように、人脈だって実力だ。だからさ、はい」
「これ・・・」
「さっき言った対策が書いてあるよ!っていっても簡易だからあくまで参考程度にしてくれればいいよ」
戸惑う麗日さんに押し付けるようにして対策を書き込んだノートを渡すと、遠慮がちに受け取ってくれた
「デク君・・・うん!ありがと!見せてもらうよ!」
「うん」
「折角かっこよく決めたのに・・・デク君のせいだよ?」
「うぇぇええ!?」
頬を膨らませて非難してくる麗日さんに思わず声を上げて戸惑ってしまった
「冗談だよ冗談、本当にありがとう」
「どういたしまして。応援してるからね!飯田君、行こう?」
「ああ、麗日さん頑張ってくれ」
麗日さんに声援を送ってから飯田君と一緒に控室を出て急ぎ観客席へ向かう
――――――――――
『さぁ【個性】ダダ被り組!ガチンコ勝負を制したのは切島!!切島は硬化する時間を短くすることで硬度を上げた・・・んだよなイレイザー?』
『ああ、普通なら硬化を維持したまま殴り合うところをインパクトの瞬間だけ硬化させることで受けるダメージを減らし、与えるダメージを増やした。その工夫の差が勝敗を分けたんだ』
『ほうほう、殴るだけの脳筋野郎じゃあなかったってことだな!』
ちょうど切島君の試合が終わったところか・・・予想通り切島君が勝利したみたいだ
『そんじゃあ続いては八試合目!!一回戦最後の組だな・・・どう見ても堅気の顔じゃねえ!!ヒーロー科 爆豪勝己!!
両者共にステージに立ち向き合う
『ready――――START!!』
開始早々にダッシュで接近する麗日さん
直接戦闘ではバトルセンスのずば抜けているかっちゃん相手は分が悪い。麗日さんがかっちゃんに勝つには何とかして浮かせて場外に押し出すしかない
逆に、故意であろうとなかろうと触れられれば浮かされてしまうから、かっちゃん的には間合いを詰めさせないために回避ではなく迎撃を選択する
初撃さえ回避出来れば爆破によって発生する爆煙を煙幕代わりに接近できるはず
『上着を浮かせて這わせたのかぁ、よー咄嗟に出来たな!』
予想通りかっちゃんは麗日さんを迎撃し爆煙を発生させた。麗日さんは爆煙を隠れ蓑にした上で上着を【個性】で浮かせ、変わり身とすることで注意を反らし死角から攻撃を仕掛けた。成功かと喜んだのも束の間、死角から襲い掛かる麗日さんにかっちゃんは即座に対応し反撃する
かっちゃんの反応速度を侮ってた!あんなに早く反応されるんじゃ死角からの攻撃も効果は薄い。それに一度でも使った技をそう何度も喰らうとも思えない
麗日さんの友人として、かっちゃんの幼馴染として、どちらも勝ってほしい・・・でも叶うなら「両親の為に」と頑張る麗日さんに勝ってほしい
何か・・・何かあるはずだ。どうすれば麗日さんは勝てる・・・・・・あれは!!?
思わず天を仰げば空に無数に点在する何か。それはかっちゃんが麗日さんを迎撃するごとに数を増やしていく。麗日さんに目を向ければ諦めた様子もなく我武者羅にかっちゃんに挑み続けている
麗日さんは諦めてない!諦めてなんかいなかったんだ!!だからかっちゃんも手を止めずに迎撃し続けてるんだ!
『休むことなく突撃を続けるが・・・これは・・・』
「頑張れ、頑張るんだ!」
大丈夫!このままいけば大丈夫だ!
「おい!!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」
「そーだそーだ!」
麗日さんを応援していると突如怒声が上がった
『一部からブーイングが!』
いたぶって遊んでる?
「どうした緑谷?立ったりして・・・まさかお前も爆豪にブーイングするとか言うなよ?」
急に立ち上がった僕に尾白君が問いかけてくる
「皆、ちょっと耳を塞いでもらえる?五月蠅くなるから」
「え?」
[複製腕]×2
[大声]
驚く皆をそのままに、二重で[複製腕]を発動し、4つの先端全てを口に変えて【個性】の[大声]も合わせて全力で声を出した
「「「「「黙れぇ!!!!!!」」」」」
ブーイングで騒がしくなった会場が一瞬にして静まり返る
「「「「「2人は本気で!真剣に戦ってんだ!何も知らない外野がとやかく言うな!!」」」」」
我慢ならなかった。かっちゃんがただいたぶる為に戦闘を長引かせているかのように語ることが。幼いころはそうだったかもしれない、幼くして強力な力が宿ればそうもなるだろう。でも今は違う!言動こそヒーローらしくはないがその性根は真っ直ぐだ。
なにより、麗日さんに対し「お前に勝機は欠片もない」と決めつけ宣言するその根性が気に入らない!
「「「「「あんた達の好き嫌いで戦ってんじゃないんだ!!!自分の為、譲れない何かの為に戦ってんだ!!!文句があるなら全部終わってから言いやがれ!!!」」」」」
「んだと!!」
「テメェ何様のつもりだ!」
『おいそこのバカ、さっき遊んでるっつった奴だ。』
「あ?」
子供である僕に反論されたことが気に食わないのか、ブーイングをしていた大人たちが突っかかってくる。一触即発の雰囲気の中、解説席から相澤先生の声がかかった
『お前プロか?何年目だ?シラフでいってんならもう見る意味ねぇから帰れ、帰って転職サイトでも見てろ。ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう。そこで叫んだ奴の言う通りだ。こいつらは真剣に戦ってんだ。本気で勝とうとしてるからこそ手加減も油断もできねえんだろうが。それも分からねえ節穴に口を出す資格はねぇ。周りで同調した奴もだ。とっとと帰れ、不愉快だ』
さすがにプロヒーローである相澤先生から非難が浴びせられたためか押し黙る
そんな外野を余所に、あれだけ走り回り、かっちゃんに迎撃され続けていた麗日さんの足が止まった。次の瞬間、上空に無数に点在していた『何か』が一斉に降り注いだ
地上に近付くにつれその正体がハッキリと見えるようになった。
『流星群ー!!!』
このまま何もしなければかっちゃんの敗北は必至であろう。しかしそうはならなかった。かっちゃんが左手を襲い掛かる流星群へ向け、大爆発を起こすことでその全てを破壊してしまったからだ
『会心の爆撃!!麗日の秘策を堂々正面突破!!』
爆風により麗日さんは吹き飛ばされ、どうにか立ち上がるも電池が切れた様に倒れてしまった
すぐさま審判のミッドナイトが確認に駆け寄り、下された判決は――
「麗日さん・・・行動不能、二回戦進出爆豪くん」
――麗日さんの行動不能・・・敗退だった
『ああ麗日・・・ウン、爆豪一回戦突破・・・』
「私情すげぇな・・・・・・」
『さァ気を取り直して一回戦一通り終わった!!小休憩挟んだら早速次行くぞー!』
麗日さん大丈夫だろうか・・・
麗日さんの容体が気になり、僕はそのまま保健室へ向かった