「少年、力が、【個性】が欲しくはないかね?」
「え、あ、あの、貴方は誰ですか?」
整った顔の半分を隠す白髪に赤い目、赤いスーツとその上からでもわかる鍛えられた体、金属でできた首輪、腹の底に響くようなハスキーがかった声
声を掛けられた少年は困惑していた、知り合いにこんな人はいない
「私?私はそうだな……ある人物の皮を被った偽物さ。さしずめフェイク・アダムとでも名乗っておこうか」
え?皮を被った偽物?フェイク・アダム?
こちらが混乱しているのを察してか話を進めた
「まあ、そんなことはどうでもいい。君は
男はそういいながら手を差し出してきた
「もう一度聞く」
―― 力が欲しくないかね? ――
まるで悪魔の囁きだ。
颯爽と現れ敵を倒し、味方に希望を与え去っていく。
そんなヒーローになりたいと憧れ自分もいつかヒーローにと幾度となく夢を見たが、現実は残酷だ。
あの日、僕は楽しみだった。どんな
ヒーローになるための第一歩は
母さんは泣いて謝ってきた。そんな母さんを見たくなくて泣きたいのを我慢して「大丈夫」と強がりを言った。
それからは地獄だ。【個性】がない。ただそれだけで周りは僕を蔑み、夢を哂った。
それでも諦められず
「【無個性】でも、【個性】がなくてもヒーローになれる」そう言って欲しかった。
でも
―― い ――
―― しい ――
―― 欲しい ――
―― が欲しい ――
――
少年は心の中の激情を叫んでいた
「ククク、ならば渡そう、この
男の声と共にふと疑問が浮かぶ
「どうして、どうして僕に
知り合いだったわけでもなく、接点があったわけでもない
しかし、目の前の人は自身の境遇を知っている
なぜ自分なのか。なぜ知っているのか。なぜ全てを渡そうとするのか
先ほどまでの激情も忘れるほど疑問が頭を埋め尽くす
「なに、全て私の都合さ。
友と共に戦う
家族を救う
周りを守る
なのに
皮を被ってまで力を得て、友を、家族を、自身の周りすべてを、己の手で守るために
自身という存在がすでに未来を変えているとも気付かずに変化を恐れ、己の手で守ると誓っておきながらその手で全てを捨て去っていた。
残ったものは
私はね、もう終わりにしたいのだよ。ただ、どうせ未来は変わっているのだから最後位、己が思うがままにこの力を使いたい。
そしてその結果が君への力の譲渡さ。
君なら多くを救ってくれるだろう、守ってくれるだろう。私が間違った選択も君なら正しい正解を選ぶだろう。何せこの世界の
そう言いながら髪をかき上げ額を露わにした
そこには綺麗な青い石があった
―― さぁ受け取れ、あらゆる
男はゆっくりと少年と額を合わせた。
―― 君の未来に幸多からんことを ――
最後にそう言い残し男は霞のように消えた。
残された少年は
――――― 覚えた ――――――