託された力   作:lulufen

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前回の短編を加筆修正したものです



第2話 ー覚えたー

「少年、力が、【個性】が欲しくはないかね?」

 

「え、あ、あの、貴方は誰ですか?」

 

 整った顔の半分を隠す白髪に赤い目、赤いスーツとその上からでもわかる鍛えられた体、金属でできた首輪、腹の底に響くようなハスキーがかった声

 

 声を掛けられた少年は困惑していた、知り合いにこんな人はいない

 

「私?私はそうだな……ある人物の皮を被った偽物さ。さしずめフェイク・アダムとでも名乗っておこうか」

 

 え?皮を被った偽物?フェイク・アダム?

 

 こちらが混乱しているのを察してか話を進めた

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。君は【無個性】( 無 力 )だと【個性持ち】(力ある者)に貶され、【個性】()があればと自身の【無個性】( 無 力 )を嘆きながらも諦めずに(下を向かず)ヒーローを目指している(前を向いている)【無個性】( 無 力 )は嫌なのだろう?この手を取りたまえ、そうすれば【個性】()が手に入る。」

 

 男はそういいながら手を差し出してきた

 

「もう一度聞く」

 

 ―― 力が欲しくないかね? ――

 

 

 まるで悪魔の囁きだ。【個性】()が欲しいかだって?そりゃ欲しい。欲しいに決まってる。

 

 颯爽と現れ敵を倒し、味方に希望を与え去っていく。

 そんなヒーローになりたいと憧れ自分もいつかヒーローにと幾度となく夢を見たが、現実は残酷だ。

 あの日、僕は楽しみだった。どんな【個性】()が僕にあるのか。

 ヒーローになるための第一歩は[判定結果:【無個性】](現実という名の事実)により踏み出せなくなった。

 母さんは泣いて謝ってきた。そんな母さんを見たくなくて泣きたいのを我慢して「大丈夫」と強がりを言った。

 

 それからは地獄だ。【個性】がない。ただそれだけで周りは僕を蔑み、夢を哂った。

 それでも諦められず最も憧れたヒーロー(たった一つの希望)に縋りついた。

 「【無個性】でも、【個性】がなくてもヒーローになれる」そう言って欲しかった。

 でも憧れの人(希望)の口から出たのは非情なまでの現実(絶望)だった。

 

 【個性】()があれば、母さんが悲しむことだってなかった。

 

 ――     い ――

 

 【個性】()があれば、【無個性】と蔑まれることはなかった。

 

 ――    しい ――

 

 【個性】()があれば、抱いた夢を哂われることもなかった。

 

 ――   欲しい ――

 

 【個性】()があれば、こんな現実を突きつけられる(絶望する)ことはなかった。

 

 ――  が欲しい ――

 

 【個性】()があれば、【個性】()さえあれば!!

 

 ―― 【個性】()が欲しい!!!! ――

 

 少年は心の中の激情を叫んでいた

 

「ククク、ならば渡そう、この【個性】()と私の全てを」

 

 男の声と共にふと疑問が浮かぶ

 

「どうして、どうして僕に【個性】()をくれるんですか?」

 

 知り合いだったわけでもなく、接点があったわけでもない

 しかし、目の前の人は自身の境遇を知っている

 なぜ自分なのか。なぜ知っているのか。なぜ全てを渡そうとするのか

 先ほどまでの激情も忘れるほど疑問が頭を埋め尽くす

 

「なに、全て私の都合さ。

 

 友と共に戦う【個性】を覚えていた(力があった)

 

 家族を救う【個性】を覚えていた(術があった)

 

 周りを守る【個性】を覚えていた(能力があった)

 

 なのに原作(己の知る未来)が変わることを恐れ何もしなかった

 

 皮を被ってまで力を得て、友を、家族を、自身の周りすべてを、己の手で守るために【個性】を覚え(力を集め)続けたのに

 

 自身という存在がすでに未来を変えているとも気付かずに変化を恐れ、己の手で守ると誓っておきながらその手で全てを捨て去っていた。

 

 残ったものは[自身の選択]( 後  悔 )[捨ててしまったという事実]( 絶   望 )

 

 私はね、もう終わりにしたいのだよ。ただ、どうせ未来は変わっているのだから最後位、己が思うがままにこの力を使いたい。

 そしてその結果が君への力の譲渡さ。

 

 君なら多くを救ってくれるだろう、守ってくれるだろう。私が間違った選択も君なら正しい正解を選ぶだろう。何せこの世界の主人公(ヒーロー)なのだから」

 

 そう言いながら髪をかき上げ額を露わにした

 そこには綺麗な青い石があった

 

 ―― さぁ受け取れ、あらゆる【個性】()を覚え。その全てを強化する。最強の力を ――

 

 男はゆっくりと少年と額を合わせた。

 

 ―― 君の未来に幸多からんことを ――

 

 最後にそう言い残し男は霞のように消えた。

 

 

 残された少年は額に青い石をつけ(・・・・・・・・)誰にも聞こえないような小さな声で呟いた

 

 

 ――――― 覚えた ――――――

 

 

 


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