託された力   作:lulufen

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連続投稿です
前話の読み飛ばしにご注意ください


第14話 砕ける心

 俺がいっちゃん強い!

 

 そう確信したのは4歳の時

 

 俺は運動も勉強も得意だった

 周りは「かっちゃんスゲー」だの「カッケー」だの言っていたが、そんなん言われなくても分かってる。でも悪い気はしなかった

 

 そんな周りの中でもデクはおどおどしながら俺の後をくっついてくる弱虫だった

「ヒーローになりたい」とか「かっちゃんみたいにカッコよくなりたい」とか言っていたが、正直無理だと思った

 

 オバサンは物を引っ張る【個性】でオジサンは火を吹く【個性】

 例え両方の【個性】がデクにあっても敵にボコボコにされて泣きわめくのが落ちだ

 

「はん!俺がいっちゃん強いんだ!(ヴィラン)なんて目じゃねぇ!心配すんな、もしもの時はテメーごとモブ共全部助けてやんよ、俺はお前らの兄貴分だ!例え【没個性】でも俺が守ってやる!」

 

 なんたって兄貴分だからな!

 

 4歳になり俺は[爆破]の【個性】が発現した

 周りの連中は【没個性】ばかりで、その中で【強個性】だった俺は更に周りから持ち上げられた

 

 俺がすげーんだ、皆俺よりすごくない!

 そう思った

 

 対称にデクには【個性】が発現しなかった。つまり【無個性】って奴だ

 焦点の合わない目を地面に向け落ち込んでいた

 

 それを見て

 デクがいっちゃんすごくない

 そう思った

 

 それからはデクに何か言われるのが気に入らなくなった

【無個性】のくせにヒーローを諦めず、真似事で俺の邪魔をしてくる

 

 初めの頃は口だけだったが、その内我慢ができなくて手を出した

 

 そうすると涙を流して「やめて!」と繰り返し言うだけの木偶人形になった

 

「【無個性】の分際で俺に盾突いてんじゃねーぞ!デク!!」

 

 それからは気に入らない事があるたびにぶん殴った

 

 それが一転したのが8歳の時

 

 デクの奴が口答えしてきやがった

【無個性】じゃない?ヒーローに成れる?ぼけた事抜かしてんじゃねえぞ!

 

 母親が言っていた、デクが【個性】を発言したと、【個性】はもれなく4歳までに発現する

 

 今更デクに使えるわけがない、どうせショボすぎて気付かなかったんだろ

 

「【個性】を使ってみろ!!」

 

 その場でデクに飛掛った

 最初こそ俺に驚いていたが、すぐさま息を吸って炎を吐いてきた

 

「ちっ!」

 

 舌打ちと共に咄嗟に左に避けた

 

 正直なめてた

 はっきり言ってオジサンもオバサンも【没個性】だ。それを木偶の坊が使うんだ、大した事ねえと

 

 なのにデクは青い炎を吹きやがった

 

 下手に近づくとヤバそうだ

 

 そう様子を見ていると、炎を吐き尽くしデクが俺を探してキョロキョロ見渡し、警戒していた

 いつもならすぐに飛び掛ってぶん殴っていただろうが、俺はさっきまでいた場所から目が離せなかった

 

 地面が真っ赤に溶け、その周りは硝子状になっていた

 

 たった数秒で地面が溶けるほどの高温の炎

 こんなの喰らったら一瞬で死ぬ

 

 それを俺に使った?あのデクが?

 

 驚きで真っ白になった頭の中が急速に赤く染まっていく

 

 俺がデクなんかに怖気づいただと!

 

「貴方たち何やってるの!!」

 

 ちっ!誰かチクリやがったな!!

 

 声を張り上げながら仲裁に入る先公がきた

 そのせいでデクとの決着は有耶無耶になった、そして母親にも今回の件がバレたせいで酷く叱られた

 

 それからは何かあるたびにデクの上を行くように努力した

 

 俺がいっちゃんスゲーんだ!!デクなんかに負けるか!

 

 そして中学に上がってからはデクのことを極力無視するようにした

 

 雄英入んのにデクのせいで成績に傷でもついたら目も当てられない。それにどうせ雄英に行くのは俺一人だ。それまで寛大な心で見逃してやろう

 

 そうして卒業まで一年を切ったとき先公があり得ない事を言った

 

 デクも雄英に行くだと!

 

 我慢できなかった

 無意識に掌を爆発させてデクに詰め寄った

 

 そして口を開く前に顎に衝撃が走り、尻餅を付いた

 立ち上がろうとしても膝が震えて立てない

 視界も揺れている

 

 そんな俺を無視してデクは脱兎のごとく逃げ出した

 

 デクになにかされたと気付いたのは周りの奴が遠慮がちに心配してきた時だった

 

 何をされたか分からなかった

 俺は座り込んだまま唖然とした

 

 ピシッ

 何かにヒビが入る音がした

 

 それから10ヶ月、雄英の一般入試当日

 

 試験方法は雑魚をぶっ殺してその総P数を競うらしい

 

 これを利用してデクも潰してやろうかと考えたが会場が別だった

 

 勝手に寄ってくる雑魚をぶっ壊し続けれれば良いだけなんて屁でもねぇ

 デクの野郎はどうせ不合格だろ、なら記念に受けるぐらいは大目に見てやろう

 

 そう思ってたのに、思っていたのに

 

「ウチの中学から雄英進学者が二人も出るとは!いやー担任として先生も鼻が高いよ!!」

 

 何で!何でだよ!何でてめぇまで受かってんだよ!

 

 ピシピシッ

 まただ、また聞こえる

 

 それからは苛立ちが募る一方だった

 

 そして翌年の雄英高校入学式当日、【個性】把握テスト

 

 どの種目でもデクに負けたことはなかった

 

 最下位は除籍

 ならこれでデクは居なくなる、これで目障りな奴が消える

 

 なのに蓋を開けてみればデクは一位だった

 

 第一種目:50m走

 スタートの合図が鳴ったときデクはゴールしていた

 

 奴は【個性】を使っていた、じゃなきゃあんな速度は出ない

 でも火は一度たりとも吹かなかった

 なのに奴は俺の前を走った

 

 なんで違う【個性】使えんだよ!俺を騙してやがったな!

 

 その後は第七種目を除くすべての種目で俺の記録を上回った

 勝っていたのはたった一つ、それも第七種目の上体起こしだけ

 

 俺がデクに劣ってる!?そんなはずがある訳ない!デクなんかに俺が劣ってるはずがない!

 

 ピシピシピシッ

 音が大きくなっていく

 

 そして翌日の戦闘訓練

 

 授業なんか知ったことか!クソデクをぶっ潰す!

 

 それしか考えられなかった

 そして奇襲までして潰しにかかったのに奴は俺に対応しやがった

 

 最大まで溜めた特大爆破も無傷で防ぎやがった

 その上、奴は俺と同じような【個性】まで使いやがった。

 更に俺に一撃で勝つとか抜かしやがった

 

 ふざけるな!一撃!?この俺を一撃だと!?ふざけんな!!!!!!!

 

 全力で殴り掛かった

 そして奴の頬を捉えると同時に【個性】を発動させた

 

 勝った!

 

 そう思った途端、凄まじい衝撃で視界が真っ白になった

 

 気付けば保健室のベッドで寝ていた

 

 近くにいたリカバリーガール(ババア)が俺がデクにやられて保健室に担ぎ込まれたと言った

 

 俺が負けた?デクに?負けた!?

 

 パリッ

 何かが欠けた

 

 そんな俺の気など知ったことかとあの後の講評と試合を録画したものを見せられた

 

『爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断、そして先程先生も仰っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。戦闘面で光る所もありましたが、結局敗北・確保とダメなことばかり』

 

 パリッ

 また欠けた

 

 氷の奴はビル全体を凍らせた

 

『悪かったな、レベルが違いすぎた』

 

 パリパリッ

 どんどん欠けていく

 

 俺は、俺は・・・・・・

 

 

 ―― 弱い ――

 

 

 パリーン!!

 

 遂に耐えきれずに何かが砕けた

 

 

 

 

 目の前が真っ暗になった

 

 

 

 


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