託された力   作:lulufen

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第13話 それぞれの秘密

 キーンコーンカーンコーン

 チャイムを合図に授業は終わった

 

「はい、じゃあこれにてお終い。お前ら気ぃ着けて帰れよ~」

 

 先生の微塵も心配していない声での言葉を聞き流して席を立つ

 

 そろそろかっちゃんも起きてるだろうし、あの人にも謝らなきゃ・・・まだいるかな?

 

「デク君!一緒に帰えろ~」

 

「あ、麗日さん!ごめん、保健室に用があるから一緒に帰れないや」

 

 出入り口に向かう途中で麗日さんに声を掛けられた

 

「保健室ってことは爆豪君?」

 

「うん、そろそろ起きる頃かなって。大丈夫だと思うけど一応ね?」

 

「そっか!デク君は優しいね!」

 

「誘ってくれたのにごめんね?」

 

「ううん、気にしないで。じゃあまた明日!バイバイ!」

 

「うん、また明日!」

 

 ガラガラ

 

「あ!いた!緑谷少年!!ちょっと一緒に来てもらえないかな?」

 

「えっ?」

 

 麗日さんと別れ、その足で保健室に向かおうと教室から出ると、廊下でオールマイトに呼び止められて空き室まで連れていかれた

 

 ―― 空き教室 ――

 

 ガチャン

 

 オールマイトは周囲を確認してから入り口のカギを閉めこちらに振り向いた

 白い歯を輝かせているいつもとは違いどこか緊張した表情だった

 

 そんな張り詰めるような空気の中オールマイトは口を開いた

 

「あのことは秘密にしてほしい」

 

 あのこと?あのことってなに?

 

 疑問に思っていると突如オールマイトが体から煙を吹き出し姿を変えた

 

 ファッ!!??

 

「この姿のことはばれる訳にはいかないんだよ」

 

 ・・・え?しぼんだ?いや変身?あれ?でもオールマイトって増強系じゃ・・・んん?この人保健室の?んん??でもさっきまでオールマイト・・・ん?偽物?え?どうゆうこと?ん?ばれる訳には?えっと?つまりこの人は・・・オールマイト?・・・・・・え゛!!??なんで!?

 

 段々と理解が追い付いて来たが言葉が出てこない

 

 口を魚のようにパクパクさせて驚いていると、そんな僕を見てオールマイトは首を傾げた

 

「もしかして・・・・・・やらかした?」

 

 その一言が切っ掛けで、せき止められていたダムが決壊した

 

「エエエエエエェェェェェ!!!!!なななんで!?なんでぇぇぇぇ!?」

 

「わわわっ!ストップ!しー!しー!静ゲボォッ!!!」

 

「ギャー!血ぃ吐いたぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ―― 4分後 ――

 

「はぁはぁはぁはぁ」

 

「ぜぇぜぇぜぇぜぇゴホッゴホッ・・・はぁ・・・気付かれていたと思ったら勘違いだったとは・・・まあいい、いや良くはないが、兎に角この姿のことは他言無用で頼む」

 

「え?」

 

 いきなりのことにビックリして聞こえてなかった

 

「だから、このことは他言無用に頼むよ?」

 

「あ!はい!」

 

「ばれたついでた、重ねて言うが他言無用でな?」

 

 そういうとオールマイトは戦闘服(コスチューム)をまくり上げた

 そこには痛々しい手術痕が残っていた

 

「6年前・・・敵の襲撃で負った傷だ。呼吸器官半壊、胃袋全摘、度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね、私のヒーローとしての活動限界は今や一日約三時間程度なのさ」

 

「三時間ってそれじゃあ・・・」

 

「ああ、ヒーローとして活躍できる時間はそう多くない」

 

「なら無理をしないで休んだら――」

 

「そうはいかないんだよ。人々を笑顔で救い出す〝平和の象徴〟は決して悪に屈してはいけないんだ」

 

 僕が休んだ方が良いんじゃないかと言おうとするのに対し被せるように否定してきた

 

「オールマイト・・・」

 

「それにしても、どうして保健室で私だと分かったんだい?この姿でオールマイトだと言い当てられたことはなかったのに・・・」

 

「え?ああ、あれは、すみません。オールマイトの戦闘服(コスチューム)着てたんで生命反応を【個性】でつい調べちゃったんです。それでオールマイトと同じ〝何人もの反応を重ね合わせたような特殊な反応〟だったんで、ついオールマイトって言っちゃたんです。そのことを謝ろうと思ってたんですが、その、えーと、あの・・・」

 

「ああ、うん、分かった、分かったから・・・それ以上は何も言わないでくれ・・・・・・実は保健室の一件で君にこの姿の時にオールマイトと言われてばれたと思ったんだ、だから急いで口止めしようとしたんだが・・・それにしても〝重ね合わせた反応〟ね」

 

「オールマイト?」

 

「いや、そうだな、君は[覚える]【個性】だったね?」

 

「はい」

 

【個性】届けにもそう書いてあるんだから知っていて当然か

 

「それは彼に、アダムに託された【個性】だね?」

 

「!!!!」

 

 なんで!?アダムさんの関係者以外知らないはずなのに!

 

「君は7年前のあの少年だろ?」

 

「ッ!!いつから!いや、それよりも覚えていたんですか!?」

 

「いや、思い出したんだよ。君のプロフィールを見てね?そして【無個性】だった筈なのに【個性】を、それも[覚える]【個性】を持っている」

 

「それは・・・」

 

「私が知る限りこの【個性】を持っている人物は一人しか知らない。そして彼が消息を絶った時期と君が【個性】を発現した時期がほぼ一緒なんだ。そこまで来ればあと考えられるのは一つだ」

 

「隔離遺伝とか、突然変異とかの可能性だってあり得るんじゃ・・・」

 

「いや、ないね」

 

 僕の言葉をバッサリと切るオールマイト

 

「どうしてそう言い切れるんですか?」

 

「調べた結果、君にこの【個性】が発現する可能性は0%だった。それに君の【個性】の発現時期、彼が消息を絶った時期、君と彼の【個性】が同じであること」

 

「・・・・・・」

 

 アダムさんと知り合いだったか・・・なら隠し通すのは無理そうだ

 

「額に青い石、白毫(びゃくごう)を持つ異形系で、且つ[【個性】を覚える【個性】]なんてそれこそこの世に二つとない彼の持つ【個性】[PF-ZERO]だけだ。【個性】を引き継がれた証拠だよ。」

 

[PF-ZERO(ポジティブフィードバック・ゼロ)]・・・この力の本当の名前・・・・・・

 

「それに彼が言っていたんだよ、『私の代わりに正道を歩む者にこの力を託す』とね?」

 

「アダムさん・・・・・・そうです。忘れもしない7年前、オールマイトに現実を見ろと言われたその日にアダムさんからこの力を託されました」

 

「それは・・・」

 

「ええ、分かってます。僕の質問にオールマイトが『大丈夫、君にもなれる』って言わなかった理由、『【無個性】はヒーローに成れない』ってことは良く。夢だけでやっていけるほどこの世界(ヒーロー)は甘くないことは。でも、当時は何ができる訳でもないのに諦められなくて、貴方にしがみ付くなんて無茶をやらかすほど追い詰められてたんです。そして現実を知って絶望した。オールマイトすら周りと同じなんだと」

 

「緑谷少年・・・・・・」

 

「そんな顔しないでください。」

 

「しかし、君がそんなに追い詰められていたとは・・・ははっ、とんだニセ筋野郎だ、笑顔で救い出すといいながら一人の少年に絶望を与えていたとは・・・気付かなくてすまなかった」

 

 オールマイトはそう言って頭を下げた

 

「いえ、もう済んだことですし、あの後フェイク・アダムさんにあってこの力を託されましたから。おかげでこうして『正道』を歩けています」

 

「そうか・・・ん?フェイク・アダム?なぜフェイクなんて・・・」

 

「アダムさんの本当の名前をご存じなのですか!?僕にあったときは自分は偽物だ。だからフェイク・アダムだと名乗ったので本当の名前を知らないんです」

 

 あの時は聞き返す間もなくいなくなってしまったし、アダムさんの義妹達は「お兄ちゃんが言ってないなら私たちも言わない」と教えてくれなかった

 

「そうだったのか、彼が何を思ってそう名乗ったかは知らないが、君には後継者として知る権利があるね。彼の名前はアダム・アークライト。同じ夢をもった同士であり、私が何時か越えたいと思った好敵手(ライバル)でもある」

 

「アダム・アークライト・・・・・・これが本当の名前」

 

「緑谷少年」

 

「はい?なんでしょう?」

 

 アダムさんの本当の名前を知れたことに喜びを感じているとオールマイトに呼ばれた

 

「もう一つ、力を託される気はあるかい?」

 

「・・・・・・は?」

 

 そして問いかけられた言葉は理解できなかった

 

 何を言ってるんだ?オールマイトは

 

「先も述べたように私がヒーローとして活動できる時間は少ない」

 

「ええ、そう言ってましたね」

 

「だから君に託したい」

 

「託すってそんな、出来る訳・・・」

 

「ないなんてことはないさ!現に君は託されている。実は私の【個性】も託された物なのさ」

 

「え!?」

 

 まさかの衝撃の事実に驚きを隠せなかった

 

「この【個性】は聖火の如く脈々と受け継がれてきた力だ。【個性】()を〝譲渡する〟【個性】()、冠された名は『ワン・フォー・オール』、これが私の力の正体さ」

 

「ワン・フォー・・・・・・オール・・・・・・」

 

 それがオールマイトの力

 

「どうして・・・」

 

「ん?」

 

「どうして僕に託そうとするんですか?」

 

 アダムさんは僕のことを知っていた。その上で『この世界のヒーロー』だと『正道を歩む者』だと。だから託すと。じゃあオールマイトは?

 

「冷静沈着でありながらその実激情家の彼は、秘密を抱えて感情を押し殺した結果、後悔にまみれた人生を送っていた。そんな彼が〝正道を歩む者〟と君を称し、自らの力を託すに値すると判断した。それに元々後継は探していたのだ。君は去年の実技試験時、皆が逃げる中で麗日少女を救わんとだた一人で飛び出し守りぬいた。聞いたよ、『考えるより先に体が動いていた』と。そんな君にならこの力を託すに値すると思ったのさ。」

 

『君なら多くを救ってくれるだろう、守ってくれるだろう。私が間違った選択も君なら正しい正解を選ぶだろう。何せこの世界のヒーローなのだから』

 

 一緒だ、アダムさんもオールマイトも僕なら出来ると、大丈夫だと。なら答えは一つだ

 

「そのお話、お受けします」

 

「そうか!ありがとう!」

 

 僕はまだ未熟だ。

 アダムさんは覚えた【個性】は一度で自分のものにしていたというが、僕は使うので精一杯で使いこなせているのは一部と、もともとが弱い【個性】と言われていたもののみだ

 そんな僕がこれからはオールマイトの[ワン・フォー・オール]も受け継いで行かないといけない、今まで以上に鍛えないと押しつぶされそうだ

 

「ならさっそく授与式だ」

 

「はい」

 

 またおでこをくっつけるのかな?それとも、こう不思議パワーが湧き出る感じなのかな?

 

「食え」

 

「へあ!?」

 

 そういってオールマイトから差し出されたのは額でも手でもなく髪の毛

 

「え?いや、え?」

 

「別にDNAを取り込めるなら何でもいいんだけどさ、ささ一息に」

 

「あ、あの、【個性】で覚えちゃだめですか?」

 

「[PF-ZERO]でかい?あれは《覚えた》【個性】だから受け継ごうにも[PF-ZERO]以外は継承できないんだよ?じゃなきゃ君は彼の覚えた【個性】が全て使えているはずだ。それなら君のよく使う増強系の【個性】の中に[ワン・フォー・オール]がないのはおかしい。何せ彼は[ワン・フォー・オール]を覚えているからね」

 

「よくご存じですね?」

 

「そりゃそうさ、彼本人から聞いたことだ。『彼は一人でも立って歩けるだろう。しかしこの力は単純でありながら複雑だ。[覚える]力しか託せないし、託した後私は消えさるだろう。簡単な説明は妹達に頼むつもりだが、詳しい説明は君が代わりに伝えてくれ。本人に会えば君も気にいるだろう。本来の先代』とね?」

 

 僕のことを案じてくれていたんだ・・・

 

「彼は秘密が多いようでね?会ったこともない君のことを知っていたり、私のことを本来の先代と呼んだりと恐らく[未来視]の【個性】でも覚えていたんじゃないかな?」

 

『己の知る未来が変わることを恐れ何もしなかった』

 

 未来を知っていたのかな・・・

 

「というわけで・・・食え!」

 

「わ、分か・・りました」

 

 うう、なんか酸っぱいんだけど・・・

 

 こうして僕はまた『託された』


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