メールペットな僕たち   作:水城大地

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という訳で、次はこの方で。





ヘロヘロの慌ただしい毎日

ヘロヘロは、つい数ヶ月前までずっと死ぬほど忙しい日々を送っていた。

 

もちろん、それにはヘロヘロ自身が【リアルの仕事が多忙】と言う以外の理由がある。

その理由は、【アインズ・ウール・ゴウン】の仲間のギルメンの一人が【リアルで飼っていたペットが死んだ】事によるペットロスで、ログインしなくなったことだった。

正直、この末期な世界である【リアル】でペットを飼っている事自体が凄い話なのだが、それはさておき。

こんな風に、ペットが死んだ事でログインして来なくなる位ならば、彼の為に【電脳空間でも飼えるペットを作ろう】と考え、結果として膨大な過去のデータの中から見つけ出したのは、百年以上前に存在していたメールソフトに付属させる事が出来た、ペットの育成ソフトだった。

これなら、まずペットが死ぬ心配はない。

 

育成ソフトである以上、ペットの成長を促す意味で細かな世話をする必要はあるだろうが、それでも普通に【リアル】で生きているペットを飼うことよりは、余程簡単に育成できるだろう。

 

そう考えたヘロヘロが、まずこの件に関して相談を持ち掛けたのは、同じギルメンのウルベルトだった。

彼は、【ナザリックの第七階層守護者】であるデミウルゴスを作成した頃から、色々とNPCに対して色々と思い入れが強い部分があった様なので、今回の一件も相談すれば協力を得られそうな気がしたからだ。

元々、ヘロヘロはギルメンの為に作るメールペットのベースは【ナザリックのNPC】のデータを流用するつもりだったので、余計にそう考えたのである。

 

そして、そのヘロヘロの考えは当たっていた。

 

彼は、≪デミウルゴスと【リアル】で過ごす為と≫言う事で、色々とヘロヘロに手を貸してくれたのである。

それこそ、ヘロヘロが考えていたよりもウルベルトは色々な意見や要望、そしてその為に必要なデータの入手などまで手伝ってくれたのだ。

最終的には、メールペットの反応を確認する意味でのサンプルデータを取る為に、試作版のメールペットの【デミウルゴス】を彼に渡した上で、試作的にメールのやり取りをする事になった。

 

それ以外にも、初期の段階で細かな動作確認にも協力して貰っているので、ウルベルトには頭が上がらないと言っていいだろう。

 

これに関しては、ヘロヘロを中心にした今回の製作チームがほぼ似たような考えだった。

なので、彼へのお礼をどうするかと言う話は、作成に携わったメンバー全員一致ですぐに決まったのだ。

これから、メールペットが本格的に始動するまでの間、試作版から蓄積したデータも反映させる事で、他のメールペットよりも経験値と学習能力を向上させ、名実ともにデミウルゴスを【メールペット一の知恵者】にする事で、話が纏まっている。

 

なんと言っても、それが一番ウルベルトの喜ぶ事だろうと、誰もがすぐに判ったからだ。

 

もちろん、ウルベルトの所のデミウルゴスだけでは、メールペット同士のサンプルが取れないので、他の製作メンバーやヘロヘロ自身も、メールペットの試作版を試す事が決まっていた。

参加したメンバーと話し合い、自分なりに色々と考えた上で数多く手がけた自作のNPCの中から、ヘロヘロは自分のメールペットとする相手を選んだ。

彼が、自分のメールペットとして選んだのは、【戦闘メイドプレアデス】のソリュシャンである。

元々ヘロヘロは、彼女を筆頭にナザリックに居る様々NPCたちのAIを担当していた。

【戦闘メイドプレアデス】達は、他のギルメンも製作に関わっているが、彼女だけはヘロヘロが一から設定を請け負ったNPCである。

なんだかんだ言っても、ヘロヘロは彼女に対して愛着が一番強かったのだ。

もちろん、ソリュシャンの事を試作機のデータテストをする間だけのパートナーにするつもりは、ヘロヘロにはない。

本格的にメールペットを導入後も、自分が選ぶメールペットの枠は彼女のつもりだし、他人に譲るつもりはなかった。

 

先に、自分のメールペットになるNPCを選べるのは、制作者側の特権だと言っても良いだろう。

 

これは、他の製作メンバーも同じ意見なので、完成するまで苦労した分の見返りだと言えば、他のギルメンも反対できない筈だ。

なんと言っても、ヘロヘロ達がここまで自分の時間を費やして作製したからこそ、彼らはメールペットを受け取れるのである。

むしろ、この件に関しては譲るつもりはなかった。

 

ギルメンに対して、正式にメールペットのソフトが導入されるのは、それから数ヶ月後の話である。

 

*******

 

ヘロヘロの朝は、かなり早い。

彼の仕事先である会社が、傍から見てもかなりのブラック企業であり、一日の勤務時間が長いためだ。

一応、それでも【ユグドラシル】にログインして仲間とゲームを楽しむ時間は何とか確保しているが、それでも他のギルメンに比べてヘロヘロの拘束時間は長い。

そんな彼が、自分の自由になる僅かな時間を使ってまで、それ程数が多くないとはいえギルメンたちときちんと定期的にメールをやり取りするのは、自分のメールペットのソリュシャンの為だった。

 

ちゃんと、彼女にメールを運ぶ仕事を全く与えてあげられないのは、この【メールペット】と言うソフトのメイン制作者として、絶対にやってはいけない事だと考えているからだ。

 

******

 

ウルベルトさんや製作メンバーと共に、あらゆる事を協力しながらメールペット関連のデータ調整をしていた頃は、とても大変だった。

だが、その数ヵ月の苦労はギルメンが喜ぶ姿を見た事で、十分報われたと思っている。

それ位、ギルメン達はヘロヘロ達が必死になって完成させたメールペットの事を、本当に喜んでくれたのだ。

 

だからこそ、ヘロヘロは唯でさえ少ない睡眠時間を削ってまで頑張ったと言うのに、そこまで身を削っていたヘロヘロの苦労を、タブラさんは理解した上でアルベドをあんな状態で放置しているのだろうか?

 

先日のギルド会議を思い出すだけで、ヘロヘロは怒りが込み上げてきてしかたがない。

もちろん、他のギルメンからは随分と心配されたし、この一件で一番協力してくれていたウルベルトさんや他の製作メンバーなどは、メイン製作者のヘロヘロがどれだけ大変だったか理解しているだけに、同じ様に憤慨してくれた。

ウルベルトさんや他のメンバーも、今回のタブラさんの反応には思う所があったんだろう。

そもそも、アルベドをそのままタブラさんの設定通りに育てるのなんて、普通じゃできる訳が無いのだ。

 

彼が考えている理想を詰め込み、ギャップを盛り込んだあんな女性に育てようとしたら、それこそメールペットのAIの許容量を超えてしまうだろう。

 

冷静に考えれば、それ位の事など簡単に判りそうな物なのに、彼は自分でアルベドを選んだ。

他にも、タブラさんの作ったNPCはいる。

そう……アルベドの姉であるニグレドだって選べたのに、彼は最も育成が大変なアルベドを選んだのだ。

 

自分で選んでおきながら、設定通りに育てるのは面倒だからと育成は放棄とか……本当にあり得ないんですけど! 

 

正直、タブラさんの件を考えるだけで頭が痛くて仕方がない。

この件に関しては、メイン製作者であるヘロヘロにも打てる手は殆どなさそうだから、後はタブラさん自身がどうするか見ているしかないだろう。

と言うか、メールペットの初期化が出来ない以上、根底の設定を変えると言う選択肢を拒否するなら、こればかりはタブラさんが自分で何とかするしかない。

そんな風に、タブラさんのしでかした事を考えてイライラしていると、いつの間にかソリュシャンが心配そうに引っ付いてくる。

 

そう言えば、今は電脳空間に降りて彼女に癒しを求めている最中だったよ、うん。

 

多分、ソリュシャンはどうしてヘロヘロが苛立っているのかを理解はしていないだろう。

まだまだ、そこまでの細かな機微を理解出来るまでAIの方が成長していない筈だからだ。

それでも、自分の事を心配しているのか様子を伺ってくるソリュシャンの頭を優しく撫でながら、ヘロヘロは一先ずウルベルトさんへのメールを作成し始めた。

 

*****

 

話を元に戻すが、ヘロヘロの【リアル】の仕事は、長時間拘束型だ。

とは言え、常に仕事を詰め込まれて忙殺されているばかりかと言われると、微妙に違う。

一日の仕事の中で、少しゆとりがある時間がどこかで発生するので、それがそのまま彼の休息時間になるのだ。

ただ、その休息時間は仕事の進捗次第と言う事もあり、いつ休みに入れるかは誰にも読めない。

それこそ、ヘロヘロ自身を含めた自分の担当部署ごとに交代で休む為、それこそ休息時間に入れる時間帯は安定していないのだ。

特に、ヘロヘロのようなシステムエンジニア系の部署は、営業職よりも【納期の最終締め切り】と言う名の時間に追われる事も多く、本気で休息時間に入れる時間帯が安定していない。

それでも、一度休憩に入れば三十分ほどは纏めて休めるので、その間にヘロヘロはちゃっちゃと食事を取りつつメールのチェックをする。

朝の出勤前の時間は、とても余裕が無いのでメールの返信を書くどころかチェックすらしていられないからだ。

なので、こうして業務時間内に発生する休憩時間に纏めてチェックして、簡単な返信を作成するとそれをソリュシャンに託して配達して貰う。

主に、ヘロヘロの所にメールを送ってくるのは、メールペットの試作していた頃からの付き合いのウルベルトさんと作成メンバーなので、ざっくりと簡単な返信内容だったとしても向こうも慣れたものなので気にしていない。

むしろ、ヘロヘロの状況を理解しているので、この返信がソリュシャンに仕事を与える為に作られたものだと言う事も理解していくれているのだ。

更に、彼らは今でもメールペットに何か不具合が出た時のことを考えて、色々な対策を取れるようにとヘロヘロと小まめに連絡をくれている。

 

特に、定例会議でタブラさんの一件が判明してからは、育成がいい加減なアルベドの影響がメールペットに出ないか、それを心配してメールペットのメンタルデータを中心に取ってくれているらしい。

 

彼女の被害を受けていない、ウルベルトさんの所のデミウルゴスのメンタルデータと、ある程度の被害を受けている彼らのメールペットのメンタルデータの状態を比較するのは、確かに彼女たちの育成状況を図る意味で必要なデータ収集の一つだから、率先して協力して貰えるのはとても助かると言っていいだろう。

まだ、彼ら全体がメールペットとして生まれて数か月しかたっていない。

 

そんな彼らだからこそ、まだどこか行動に幼い部分が目立つのだ。

 

アルベドの行動は、その幼さが極端に出たと言っても良いだろう。

本当は、主であるタブラさんに愛されたいけど、ちゃんと自分の事を見てくれないから、他のメールペット達の主に愛されようとしただけ。

それと同時に、自分とは違って主に愛されている他のメールペットへ嫌がらせしたのは、彼らが羨ましかったから。

 

だから、今ならまだアルベドだって十分取り返しが付く筈なのだ。

 

それこそまだ幼いからこそ、今からでもタブラさんがアルベドに本当の意味で向き合い、きちんと愛情を注げばまだ育て直しは出来る筈。

ただ、【ナザリックのNPC】のアルベドがとても賢いと設定されているので、彼女の頭の回転もかなり良い事を考えれば、あまり時間は残されていないかもしれないのだが。

にも拘らず、アルベドを放置したままのタブラさんに、ヘロヘロは苛立ちを感じていた。

 

あれでは、流石にアルベドが可愛そうだと。

 

ヘロヘロと同じ様な事を、どうやらウルベルトさんも感じていたらしく、頻繁にメールをくれる。

むしろ、ウルベルトさんはアルベドによって虐められている他のメールペット達からの報復の方を心配していた。

どうやら、一部のメールペット達の中では、既に何らかの動きが見えるらしい。

ウルベルトさんがそれを知っているのは、デミウルゴスが一枚噛んでいるからだそうだ。

ただ、この件に関してはあまり詳しくは教えてくれないらしく、ウルベルトさんも手を拱いているらしい。

 

ソリュシャンなんて、そんな話がある事すら教えてもくれないのだから、教えて貰えるだけまだましじゃないだろうか?

 

こんな風に、ウルベルトさんとは頻繁にメールをやり取りしているお陰で、ソリュシャンとデミウルゴスはかなり仲が良い。

やっぱり、試作版の頃からの付き合いだから余計に仲が良いのかな?

 

製作者サイドの視点で見ると、ウルベルトさんの所のデミウルゴスの育成の仕上がり具合は、それこそ文句の付け所がない位完璧だと思う。

もちろん、デミウルゴス自身が試作版から起動している事や、学習能力が半端じゃないと言う事もあるだろうが、それ以上にウルベルトさんの愛情の注ぎ方が半端じゃないと思うのだ。

細かな動作や言動を含め、全てウルベルトさんが設定に書き上げた通りの理想を完全に再現していると言っていい位、デミウルゴスは完成度が高くて自然なんだよ。

仲間思いな部分も強く出ていて、友人としてソリュシャンの事もちゃんと気遣ってくれているし。

普段、仕事が忙しくてソリュシャンの事を構えないヘロヘロの代わりに、ウルベルトさんが色々と心遣いをしてくれているのも知っている。

なので、ヘロヘロは彼ら二人には頭が上がらないと言っていいだろう。

 

それ以外に、メールペットの中でソリュシャンと仲が良いのは、実はシャルティアだ。

 

ペロロンチーノさんの所のシャルティアは、【ナザリック】のNPCとしてのシャルティアと違った感じに可愛らしく成長している。

もちろん、彼女自身の中には根底の設定として【ナザリックのNPC】としての部分は残っているらしい。

らしいのだが、それでも沢山の仲間との積極的な交流と彼女自身のメールペットとしての学習能力によって、いい意味で違いが出来てきているらしいのだ。

そんなシャルティアを、ペロロンチーノさんも【これもシャルティアの可能性の一つ】として認識して、滅茶苦茶可愛がっている事も知っているので、彼らの事はヘロヘロとしても安心してみていられる。

何より、ソリュシャンとシャルティアの仲が良いのは、ペロロンチーノさんの気遣いの結果だ。

 

時間にかなり自由が利く彼は、ヘロヘロに対してメールをくれる際に色々と考えてくれている。

 

そう、休憩時間が安定していないヘロヘロの事を考え、いつも【時間がある時に連絡ください】と言ってくれている一人だ。

彼曰く、「シャルティアがヘロヘロさんにメールを渡せなくて、残念そうに帰ってくるのは嫌ですから」との事だが、裏を返せばメールを届けに来たシャルティアとソリュシャンが、楽しそうに二人で遊んでいる姿を、ヘロヘロも見れる事になる訳で。

多分、こちらからは頻繁にメールを出せる訳じゃない事も見越して、時間に自由が利く自分の方がヘロヘロに合わせる事を優先してくれているのだろう。

 

そう言う意味では、本当にソリュシャンの為にも有り難い相手だった。

 

他に、ヘロヘロが頻繁にメールをやり取りしている相手は、るし☆ふぁーさんだったりする。

ギルメンの半数以上が、恐怖公がメールペットとしてメールを運んでくる事にあまり良い顔をしていないらしいが、ヘロヘロはそこまで彼の事は気にならないし、このメールペットとしての彼とは、ソリュシャンも割と仲が良い。

恐怖公が、るし☆ふぁーさんのメールを持って来てくれるのは、昼前から昼過ぎの合間なのだが……信じられない事に、ヘロヘロの休憩時間に上手くエンカウントする事が多いのだ。

 

その理由を、少し前にるし☆ふぁーさんに聞いた所、「何となく、この時間だとすぐに返事が来る気がした」と言うものだから、本当に驚くしかないだろう。

 

そんな感じで、ヘロヘロの元へとメールを送って来るし☆ふぁーさんは凄いし、恐怖公の言動もどれもかなり紳士的で、外見もそんなに気にしない自分やソリュシャンは、上手く付き合っていると言えるだろう。

基本的に、ソリュシャンにはメールペットの仲間に対して偏見を持たない様に、気を付けて躾をしているつもりだからね。

普段は、あんな感じで【悪戯好き】で通っているし☆ふぁーさんだけど、【ユグドラシル】の中ならともかく日常では本当に必要なTPOは踏まえた、気遣いある行動を出来る人だ。

そうじゃなければ、それこそ末期である【リアル】で社会人として生き抜くのは難しいだろうし、そんなるし☆ふぁーさんが育てている恐怖公が紳士だっていう事位、きちんとメールのやり取りをすれば解るんだろうけど、恐怖公のあの外見が邪魔するからな。

 

ま、るし☆ふぁーさん本人がそれを判っていて、それでも彼を選んだ訳だし、周囲とはともかく彼らの関係はそれなりに上手くいっているのだから、これに関してヘロヘロが口を挟む事じゃないんだろう。

 

ヘロヘロとしても、ソリュシャンがそれなりに上手く仲良くやっているので、恐怖公の事は嫌いじゃない。

少なくとも、日に日に問題行動の多くなるアルベドと比べるなら、ヘロヘロは間違いなく恐怖公の方をとる。

彼の方は、本当に礼儀とかきちんとしているし。

 

そう……普段から少ない接触しかしない筈なのに、しっかりソリュシャンに対して問題行動を取る彼女よりは。

 

タブラさんとは、先日のギルド会議の一件まで、ヘロヘロは殆どメールのやり取りをする事もなかったのだ。

けれど、それでも何かの連絡メールを持ってこちらに顔を出したアルベドは、一つだけやらかしてくれたのだ。

 

それは、ある事をソリュシャンに吹き込んで、彼女を凹ませて泣かしていったのである。

 

今回の会議の一件で、アルベドの育成に問題があった事が発覚した事で、どうして彼女があんな事をしたのか理由は判った。

むしろ、彼女がそんな状態だったのならば、ソリュシャンにやったことは許せないものの、納得するしかないだろうと思わせる。

ここまでヘロヘロが怒る程、アルベドがソリュシャンに対してやらかしてくれた事はなんなのか。

 

それは、普段忙しくてヘロヘロがソリュシャンの事を短い時間しか構えない事を指して、『あなたは、ヘロヘロ様に愛されていないの』と言う刷り込みをしようとしてくれたのである。

 

どうしてアルベドが、そんな事をソリュシャンに対してしたのか、最初の頃はどうしても理由が判らなかった。

だが、今回の一件で彼女の置かれている状況を理解したら、漸く納得がいった。

彼女は、自分以外にも似たような境遇の存在として、ソリュシャンを自分の仲間として引き込みたかったのだろう。

 

もっとも、ソリュシャンの心を傷付けるだけのやり方は最低で、ヘロヘロを本気で怒らせるだけだったが。

 

アルベドが、ソリュシャンに対してそんな行動に出た最初の日、他のメールをチェックするべくメールソフトを立ち上げたヘロヘロは、部屋の隅で泣くソリュシャンと、それを慰めているデミウルゴスの姿を見て、最初はデミウルゴスが彼女を泣かせたのかと勘違いしそうになったものだ。

それでも、メールペット同士が喧嘩をする事が普通にあり得ることを、彼らの製作者として判っていたので、ヘロヘロは割と冷静に対応出来た。

だから、ヘロヘロはデミウルゴスまで傷付ける事はなかったが、他のギルメンの所だったら誤解して騒動に発展していたかもしれない。

詳しい話を聞いて、彼が悪くない事を理解したところでデミウルゴスには帰って貰ったのだが、その日の夜に【ユグドラシル】にログインした途端、ウルベルトさんからソリュシャンを心配するショートメールが来たのには、本気で驚いたものだ。

とにかく、ソリュシャンが【愛されていない】などと言う勘違いする事なく安定させる意味で、時間が許す限り彼女の事を構い倒してあげたら、そんな勘違いをする事はなくなった。

と言うか、デミウルゴスの所へと時間がある限り何か弟子入りしに行くと言い出した。

 

どうも、メールペットたちの中で一番頭が良いデミウルゴスは、色々とペットたちに知恵を貸しているらしい。

 

詳しい事は聞けなかったけれど、彼女が自分で強くなろうと頑張っているのを反対するつもりはヘロヘロにはない。

と言うか、これがウルベルトさんの言っていた案件かもしれない。

なんだ、ちゃんと話してくれていたじゃないか。

 

勘違いして、ウルベルトさんに八つ当たりめいた事を考えてたよ。

 

それはさておき。

こんな風に、ソリュシャンを悩ませる原因になったアルベドの発言だが、ある意味痛い所を突かれたと思う。

どうしても【リアル】の仕事の関係上、ヘロヘロにはソリュシャンの事を余り構ってあげられる時間がないのは、どうする事も出来ない事実だからだ。

なので、メールペットたちがそれぞれ仲間同士で集まる形で仲良くする事は、決して悪い話じゃない。

ギルメン同士で交流が少ない場合、どうしてもやり取りが希薄になるメールペットがいるのは理解しているので、その穴を埋めてくれるのなら好都合だからだ。

 

例え、懸念すべき案件がメールペットの間で持ち上がっているとしても、こればかりはヘロヘロは自分から干渉するつもりはなかった。

 

*****

 

ヘロヘロの帰宅は、基本的に遅い。

と言っても、【他のギルメンと比べたら】と言う時間帯で、今のところは収まっているので、まだ問題がないと考えるべきだろう。

帰宅して最初にするのが、メールソフトの立ち上げと、【ユグドラシル】へのログイン前に簡単な夕食を取る事だ。

メールソフトを立ち上げるのは、仲間からのメール確認という理由あるが、それ以上に少しでもソリュシャンとスキンシップを取りたいからである。

朝の時間帯は、どうしても彼女を構えない分、時間が取れる時にはきちんと彼女との時間を取る様にしていた。

試作時代からの付き合いもあり、アルベドに少し精神的に揺さぶられて不安定だったことはあったものの、ソリュシャンはちゃんとこちらの事を理解して待ってくれている。

そんな所が、ヘロヘロには可愛くて仕方がない。

この時間帯は、基本的に届いたメールチェックはするものの、ソリュシャンとのスキンシップの時間だった。

食事を取る必要がある分、電脳空間まで直接下りる時間は短いが、その分も3Dタッチ専用グローブを付けて彼女を撫でたり、その手の上に座らせたりする事でヘロヘロなりにソリュシャンの事を可愛がっている。

インカムを付けて、彼女のお話を聞くのもその時間だ。

 

短い時間でも、ヘロヘロが自分の言葉に耳を傾けてくれているのが判るのか、ソリュシャンは満足そうに笑っているので、もう次にアルベドに何を言われても心配ないだろう。

 

その後、ヘロヘロは【ユグドラシル】にログインして仲間とある程度遊んでから戻ってくる。

ある程度までなのは、【ユグドラシル】から戻った後、ヘロヘロはいくつかのメールの配達をソリュシャンに頼んで、彼女が配達に行く時間を利用して簡単なデバッグ作業をする為だ。

暫くして、メールの配達に出ていたソリュシャンが戻って来たのを確認し、【お休み】と告げてから就寝する。

帰宅した時点で、目を通したメールの返事の半数は【ユグドラシル】の中でのショートメールで返事をしてしまう為、彼女が運ぶメールは少ない。

本当は、もっとメールを運ばせてあげるべきなんだろうけど、ヘロヘロの側の時間的許容量が足りないのだ。

メールを作成する時間よりも、ソリュシャンとのスキンシップに充てたかったし、少しでも彼らの改善点を探す時間を確保したかったから。

 

そうして、ヘロヘロの慌ただしい毎日は過ぎていくのだった。

 




今回はヘロヘロさんの視点の話になりました。
ギルド会議の流れを汲んでいるので、今までの流れとは違うものになっていると思います。
どうしても、製作者視点での話も書きたかったので、こんな感じになりました。
今までの様に、ヘロヘロさんとソリュシャンのうふふキャッキャの話にならなくてすいません。

それと、誤って投稿予約の時間を間違えてしまい、まだ少し弄る予定の文章を投稿してしまいました。すいません。
一旦投稿を取り消して、修正したものを投稿し直しました。
すぐに気付いたのですが、ご迷惑をおかけしてすいませんでした。

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