メールペットな僕たち   作:水城大地

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この話は、格好良いウルベルトさんはいません。


ウルベルト・アレイン・オードルと理想の悪魔の穏やかな毎日

 

ウルベルト・アレイン・オードルの毎日は、己が細部にまで拘り手塩に掛けて作り上げた、【理想の悪魔】の端正な声で始まる。

 

彼の、至福とも言うべき環境が作られた背景には、彼にとって大切な仲間達が関わっていた。

アインズ・ウール・ゴウンの仲間であるギルメンのペットロスから始まった、ナザリックの僕をメールペットにする計画。

その計画に、ウルベルトは最初の段階から賛成し、協力していた一人である。

あまりにも、ウルベルトの賛同が素早かった事に対して、意外に思う者も居た。

だが、ウルベルトからすればむしろもっと早い段階で、この計画が持ち上がればよかったのにと、今でも本気で思っている。

 

何故なら、このメールペットの積み重ねた経験は、そのままナザリックのNPCにも反映可能な設定だと、ウルベルトは計画を聞いた時点で気付いていたからだ。

 

もちろん、それは自分達が住む【リアル】の世界の情報がNPC達に伝わる訳ではなく、メールをやり取りする為のサーバー内などの限定空間での経験に関してのみだが、それだけでも別に構わなかった。

ウルベルトなどの、NPCに深い愛情を注ぐ者にとっては、どんな形ででも己の愛するNPCに、【リアルの世界】でも同じ様に愛情を注げて、それが彼らに伝わる可能性があると言うことが、何よりも大切なのだから。

どんなものでも、ちゃんと大切にして愛情を注いでやれば、それに相応しいだけの愛情を返してくれるものだ。

 

現に、うちのデミウルゴスはその通りだからな。

 

毎朝の始まりだってそうだ。

そう……ウルベルトの朝は、メールサーバーの中にいるデミウルゴスからの、モーニングコールで始まる。

自分の理想の粋を集めた、文字通り最高傑作とも言うべきデミウルゴスの端正な声で、毎朝緩やかに目覚めを促されるのがどれだけ幸せな事なのか、実感出来ているのは自分だけだろう。

そう思うだけで、ウルベルトはひどく満たされた気持ちになるのだ。

 

まぁ、当然だろう。

自分にとって自慢の息子に、毎朝丁寧に起こされているようなものなのだから。

 

******

 

ウルベルトが、デミウルゴスからのモーニングコールを受ける状況に至るまで、実はそれなりに紆余曲折があった。

 

デミウルゴスが自分の元へやって来て、ウルベルトが最初に行ったのは、メールペットの彼に対する細かな設定だ。

基本設定として、与えられたメールサーバー内のデミウルゴスの部屋は、真っ先に改装しておく。

育成ソフトの人格は、普通の人間と同じ様に環境に影響されるからな。

自分の理想の結晶とも言うべきデミウルゴスに、粗末な環境で過ごさせたくはない。

 

可能な限り、使用できる素材をふんだんに使い、デミウルゴスにふさわしいへやをつくりだしたと言う自負がある。

 

次にしたのは、俺がデミウルゴスと共に暮らすために必要なこと。

元々、このメールペットソフトの機能には、メールが来ていることを知らせる為のコール音が有るのだが、俺は音声設定時にデミウルゴス声を選択した。

【リアル】で、擬似的な意識を持つあいつに呼び掛けられたら、それは幸せな気分になれそうな気がしたからだ。

そして、その俺の選択は間違いじゃなかったらしい。

 

ウルベルトの元にメールが来る度に、デミウルゴスからの声が聞こえてくると思うだけで、仲間とのメールのやり取りが今まで以上に楽しくなったのだから。

 

正直言って、こんな幸せな環境を得られた事に関して、仲間たちへの感謝の念が絶えない。

流石に、ここまでの機能を持ったデミウルゴスを【リアル】で再現するのは、幾ら望んだとしてもウルベルト一人では叶えらない案件だっただろう。

なので、それを叶える切っ掛けをくれた仲間に対して、それはもう丁寧にお礼をしたのは、ウルベルトとその仲間との秘密だったりする。

 

それはさておき。

本来なら、メールペットとしての限られた機能しか持たない筈のデミウルゴスが、どうしてモーニングコールまでしてくれるようになったのかと言うと、そこに至るまでには本当に色々とあったのだ。

 

主に、ウルベルトの身の危険と言う意味で。

 

そもそも、この話がギルメン全員に対して伝わる前から、この件に関わり開発チームにテスターとして協力していたウルベルトは、見返りにある事をして貰っていた。

何を頼んだのかと言うと、メールペットとしてデータの吸出しなど、様々なテスト段階から協力する代わりに、デミウルゴスの学習能力をそのフレーバーテキストに合った、高めのものに設定して貰ったのである。

その高い学習能力で、デミウルゴスが興味を持つだろう様々な知識を得られるように。

 

やはり、デミウルゴスは頭が一番良く在って欲しいからな。

 

その結果として、デミウルゴスはウルベルトの予想通り、様々な事を学習していってくれたらしい。

メールのやり取りだけではなく、自分が存在している場所に関する知識や、サーバー内からの【リアル】のメールソフトの起動方法まで、その知識は多彩なものだ。

一応、情報の収集先をウルベルトの個人端末の中に登録されたもので済ませていたので、そこまで【リアルに纏わる詳報】は伝わっていない筈だ。

ただし、確実にウルベルトの【リアルの姿】を覚えてしまったようだが、それはそれで問題ないと判断している。

そうして、ある程度の知識を蓄えた所で、デミウルゴスが最初に実践し始めたのは、ウルベルトへのモーニングコールだった。

 

初め、ウルベルトはそれが偶然だと思っていたのだ。

 

たまたま、端末の電源を落とし忘れていた為に、メールが届いた事で機能が立ち上がり、デミウルゴスの声がしたのだと。

ウルベルトも、非課金同盟の同士だったペロロンチーノと同じで、ゲームをログアウトした後でメールを送る事が多かったからだ。

だが……そんなウルベルトの考えを、すぐに打ち消す様な一件が、起きたのである。

 

深夜遅く、ゲームを終えて寝る準備をしていたウルベルトの部屋に、侵入しようとしていた不審者がいたのだが……その存在をメールペットでしかないデミウルゴスが気付き、警告ボイスで報せてくれたのだ。

 

そのお陰で、ウルベルトは侵入した不審者に襲われる事なく、寝室に備え付けてあった自前の防犯グッズで、きっちり返り討ちにする事が出来たのである。

もっとも、ウルベルトが撃退した不審者はそれなりに場数を踏んでいたらしい。

こちらが自衛手段を持っていると理解した途端、すぐにその場から逃げ出したので、流石に不審者を自分の手で取り押さえるのは出来なかった。

何せ、この末期の世界とも言うべき【リアル】では、デミウルゴスの警告で怪我もなく、盗られたものもない状況では、警察になにか言っても無駄な地域にウルベルトは住んでいる。

運良く、翌日が休みだったウルベルトは、その場で簡単に解除出来ない電子錠をネットで購入し、即配達して貰った。

 

鍵は、力任せに壊されたのではなく、少しの手間を掛けて開けられたらしい。

 

やはり、ウルベルトの部屋に侵入した不審者は、この手の行動に手慣れていたようだ。

そこまで確認した所で、注文した電子錠が届いたので、即受け取って取り付ける事にしたのだが……

そこで、またメールソフトのデミウルゴスから、痛烈な警告が発せられた。

わざわざ、デミウルゴスがメールソフト内から警告音を出しているからには、何か言いたい事があるのだろう。

そう考えて、携帯用端末を玄関先まで持ってくると、デミウルゴスはウルベルトの取り付けたばかりの電子錠の動作を、丁寧に確認し始めたのである。

 

いつの間に、そんなスキルを身に付けたのか、本音を言えばとても気にはなった。

 

だが、デミウルゴスが俺の役に立ちたいと思って発露した能力なら、それに文句を言うつもりはない。

可愛い一人息子のようなデミウルゴスが、【ウルベルトの為】と考え頑張って色々と学習しているのに、それを根底から否定するつもりなど、ウルベルトには欠片もないからだ。

それよりも、もっと出来る事が増えれば、もっとデミウルゴスとこの【リアル】で一緒に楽しく過ごす事が出来る。

そう考えた途端、ウルベルトは今までのように自重する事を止めた。

 

より正確に言うなら、色々な事を学習していくデミウルゴスに、自重を促すことを止めたのだ。

 

様々な事を覚えて、少しでもウルベルトの役に立てると考え、それは嬉しそうにしているデミウルゴスの姿を見たら、自重を促せる訳がないのである。

デミウルゴスの努力は、全部ウルベルトの為なのだ。

そのことを理解していながら、今更【止めろ】なんて言える筈がないだろう。

それこそ、その言葉を告げた途端、心の底からショックを受けて愕然とした後、悄々と青菜に塩を振ったかのように落ち込む姿が、手に取るように想像できてしまうのだ。

そんな、かわいそうなデミウルゴスの姿など、見たくは……無いとは言わないが、かわいそう過ぎるし笑っている顔の方が見たいので、そちらを優先したのである。

聞いた話しでは、モモンガさんはたまにパンドラズ・アクターの落ち込む姿を【かわいそうで可愛い】と見ているらしいが、少し悪趣味と言うか悪い親だと思う。

まぁ、それを凌駕するくらいにパンドラズ・アクターを可愛がっているので、今の時点では何も言ってないけどな。

 

とにかく、ウルベルトはデミウルゴスが好きに学習出来るように、自重を促すことなくそのまま放置していたのだが……どうやら最近はそのデミウルゴスの行動が、一部のメールペット達に伝達されているらしい。

 

主にその影響を受けているのは、メールペットの中でも仲の良いパンドラズ・アクターとシャルティアだった。

元々、NPCとして頭の良い設定を受け継いでいるパンドラズ・アクターは、デミウルゴスとやり取りをしていれば、学習していくのは解る。

しかし、設定ではあまり頭が良い方ではないシャルティアが、デミウルゴスの影響を受けるに至ったのは、色々な理由があるのだが……その事を詳しく語るのは、またの機会にするとして。

 

とにかく、デミウルゴスと一番仲が良いメールペットは、パンドラズ・アクターとシャルティアの二人だろう。

 

頭がとても良くて、性格は穏やかでモモンガさん似のパンドラズ・アクターとは、頭を使ったゲームをすることが多いらしい。

顔の作りの関係上、表情が読み難いパンドラズ・アクターが相手だと、ポーカーなどの心理戦ゲームが楽しくて仕方がないのだと、いつか話してくれた記憶がある。

 

たまに、何やら二人でひそひそ話をしている姿も見るが、どんな話をしているのやら。

 

逆に、脳筋ビルドで頭の良さはそれほどではないが、趣味の面では気が合うシャルティアとは、俺の所に来る度にかなりディープな話題もしているらしい。

先日、ペロロンチーノからシャルティアとデミウルゴスが二人で【世界の拷問大百科】を見てたと泣き付かれたが、その程度で済んでいるなら、そう設定した親として【諦めろ】と言いたい。

 

なにせ、俺の所に来ている時は、平気でその手の研究や実験の話をしているからな。

 

本を読んでいる程度なら、本の内容を覗き込んで見なきゃ問題ないだろうが、会話に関しちゃ丸聞こえなんだぞ!

それこそ、その程度で悲鳴を上げてたら、うちでの二人の会話を聞いただけでSAN値をごりごり削られるぞ、ホントに。

と、まぁ……仲はとても良いのだが、放置して良いものか迷う面々もいるが、割穏やかな日々を過ごしている。

デミウルゴス自身は、パンドラズ・アクターとシャルティアの二人以外だと、コキュートスとも仲が良いらしい。

何やら、二人でデミウルゴスの為に気合いを入れて似合うように作ったバー施設で飲んでいる姿が、たまに見られるからな。

 

どちらかと言うと、大人の友人としての付き合いをしている感じなのだろうか?

 

それ以外のメールペット達とは、割と一定の距離感を保ってしまっているらしく、見た感じ仲はよくも悪くもないといったところだろうか?

他の場所だと、色々と問題行動を起こしているらしいアルベドだが、ここではかなりおとなしくしているからな。

やはり、頭が良くて制限されていないデミウルゴスが相手では、同じ土俵にたった状態では自分に勝ち目がないのを理解していて、無理に喧嘩を売らないのだろう。

 

下手にデミウルゴスを怒らせても、アルベドには何のメリットもないのだから。

 

そう考えると、同じ様に頭が良い筈のパンドラズ・アクターが被害に遭っている原因は、その性格がモモンガさんに似ているからかもしれない。

モモンガさんは、どちらかと言うと押しに弱いからな。

話に聞いた感じだと、アルベドはかなり肉食系女子だし、パンドラズ・アクターでは押し負けてしまうのだろう。

 

それにしても……

やはり、うちのデミウルゴスは優秀で格好いいと、最近本気で思う。

こんな優秀な息子と、比較的穏やかな毎日が過ごせる事が、幸せなんだと本当に思うウルベルトだった。




と言うわけで、第三弾はウルベルトさんとデミウルゴスでした。
ある意味、親バカ全開のウルベルト氏が居ます。
デミウルゴスの優秀さを、とにかく自慢したくて仕方がないらしいです(笑)
メールペット組の無課金同盟も、どこに行っても仲良しさんです。

誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきました!

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