ペロロンチーノの朝は、他のギルメンに比べて割とゆったりしている。
彼は、あらゆる年代やジャンルのエロゲ好きが高じて、気付けばエロゲ専門のシナリオライターになっていた。
もちろん、そこまで有名シナリオライターになっている訳ではない。
それこそまだ駆け出しの身ではあるのだが、それでもそれを仕事にして食べていける位には稼げている。
相変わらず、姉には仕事に絡んで苦労しているのだが。
そんなペロロンチーノの朝の日課は、端末でメールの立ち上げから始まる。
メールを立ち上げると、そこでは【ユグドラシル】において【己の嫁】と公言して憚らない可愛い可愛いシャルティアが、まだすやすやと眠っている。
なので、ペロロンチーノは彼女が目を覚ますまで見守るのを毎朝の楽しみにしていた。
特に、完全に覚醒する前の寝惚けているシャルティアは、とても可愛いからだ。
ペロロンチーノにとって、今は朝から至福の一時を過ごしている。
彼が、この至福の時間を得られたのは、ギルドメンバーの一人が、飼っていたペットが死んだ事によって、ログインしなくなった事が起因している。
そんな彼の為に、仲間たちが代わりになるようにと電脳空間で飼えるペットのような存在として作り上げたのが、このシャルティアたちメールペットなのだ。
今まで、ログインしてナザリックの第三階層の死蝋玄室まで赴かなければ、彼女に会う事は出来なかった。
だが、このメールペットは違う。
何時でも何処でも、端末などのきちんと必要なものを揃えれば、可愛いシャルティアに逢えるのだ。
ペロロンチーノにとって、これ程幸せな事は無いのだろうか?
朝のゆったりとした時間は、シャルティアの寝起きを待つ為にのんびりと過ごしているものの、ペロロンチーノが起きるのは特に遅い時間帯ではない。
自宅で仕事をするペロロンチーノは、出勤する時間がないのでそれほど早く起きる必要はないのだが、それでもそれなりに早いと言われる時間帯に起きる。
理由は、シャルティアの寝起きの姿を見る為もあるが、他にも理由があった。
わざわざこうして朝一番に起きる理由は、友達であり仲間である【アインズ・ウール・ゴウン】の面々から、ペロロンチーノへのメールが来るのが、この朝の早い出勤前の時間帯か夕方の終業後だからだ。
仕事柄、朝の時間帯は自由なペロロンチーノとは違い、彼らが起きて出勤する時間帯はかなり早い。
だからこそ、そんな彼らから来るメールを出来るだけ起きていて、彼らのメールペットを出迎えたいと思う訳で。
シャルティアも、その頃には目を覚まして身支度を終わらせているので、お出迎えには万全の態勢が出来ていた。
まず、朝一番にやって来るのが多いのは、モモンガさんの所のパンドラズ・アクターだ。
礼儀正しく、軽くノックすると扉を押し開いて軽く頭を下げると、いつものように笑顔で挨拶の言葉をのべる。
「おはようございます、ペロロンチーノ様。
朝早くからお邪魔いたします。
モモンガ様より、昨夜の件のお返事メールをお持ちいたしました。」
ペロロンチーノは、割とメールを夜のログアウト後に出すことが多く、律儀なモモンガさんはその返事を朝一番に返してくれるからだ。
だから、朝一番にメールを持ってくるのはパンドラズ・アクターが多かった。
シャルティアとも仲が良いパンドラズ・アクターは、毎朝のようにモモンガさんからのメールを持ってくると、シャルティアのリクエストがあれば、
それを見届けると、シャルティアは嬉しそうにパンドラズ・アクターと並んで座って本を読んだり、お喋りしたりしているのだ。
そんな二人の姿は、とても微笑ましい。
もちろん、変化しない日は遊ばない訳じゃない。
変化しない日は、二人でくるくると楽しそうに歌ったり踊ったりしている。
パンドラズ・アクターの姿の違いで、二人の遊び方が違う理由は教えてくれないが、まあ楽しそうだから構わないだろう。
次にメールを持ってくるのが早いのは、仲が良いウルベルトさんの所のデミウルゴスだろうか?
デミウルゴスも、パンドラズ・アクターと一緒で礼儀正しいと思う。
丁寧に頭を下げながら、訪問の挨拶を皮切りにご機嫌伺いまで、それこそ流れるように述べる姿をウルベルトさんが見たら、【流石は俺のデミウルゴスだ!】と、諸手を上げて喜びそうな気がする。
あの人、メールペットを含めて【デミウルゴス】に関しては、正直言ってかなり親バカだし。
シャルティアは、デミウルゴスがメールをもって来ると、何やら図鑑を片手に持って嬉々として出迎える事が多い。
ペロロンチーノは、そんなものを与えた記憶が無いのだが、いつの間にかシャルティアの所持品として、部屋の中にあった図鑑だ。
一体、どこから入手してきたのか良く判らないものの、それを処分する事は出来ない。
何故なら、それを広げてデミウルゴスと一緒に見ている姿は楽しそうだからだ。
その図鑑が、【世界の拷問大百科】と銘打たれているのは、俺の見間違いだと思いたいけど、間違いじゃないんだろうな……
他にも、何人かメールを持ってくると、朝の受け取り分は終わるので、今度は既に用意しておいた別の相手のメールのお使いを、シャルティアに頼む。
この時間帯にお使いを頼むのは、ホワイトブリムさんとか、死獣天朱雀さんなどの割と時間帯を問わずに忙しい人たち相手だ。
忙しいからこそ、この時間帯にメールを送ると、時間の合間を見てメールを読んで返事をくれるので、わざとこの時間帯にしている。
他にも、メールを出す時間帯を選ぶ人は何人かいるので、それなりに気を付けるのは手間が掛かるが、可愛いシャルティアの為だと思えば気にならなかった。
そう、メールを受取人であるギルメン達に直接渡す事が出来ず、手紙を置いて悲しそうに帰ってくるシャルティアの姿を見るくらいなら、この程度の手間など惜しくないからだ。
端から見て、呆れるくらいに俺はシャルティアを溺愛している自覚は、幾らでもある。
だって、可愛くて堪らない理想の嫁を更に自分の手で育成出来るんだぞ?
何か気になる事があった時に首を傾げる姿も、俺が教えた間違いだらけの郭言葉を使う姿も、俺を慕って顔を見せるとまずギュウギュウと甘えるように抱き着いてくる姿も、全部可愛くて愛しいんだから仕方がないだろ!
可愛いシャルティアには、いつも笑顔で居て欲しいんだから、その為の手間は惜しんじゃ駄目だよな。
夕方の時間帯が近付くと、今度は武御雷さんの所のコキュートスが良くやって来る。
これは、武御雷さんの仕事の終わり時間の都合らしい。
ログイン前に、俺にその日のクエストの協力を頼みたい事がある時に来る場合が多いから、彼の訪れはその前触れとして認識している。
コキュートスとシャルティアは、俺のメールサーバー内に設置した一番広い部屋で簡単な手合わせをしている事が多いから、お互いに手合わせ相手として認識しているんだろう。
意外に、時間帯を問わずに短いメールを持ってくるのは、姉ちゃんの所のアウラとマーレだ。
姉ちゃんの仕事も、それこそ分刻みの場合が多いから、俺に対して罵声に近い内容のショートメールばかり送り付けてくるのは、ストレスを発散しているんだと思う。
なんと言っても、姉ちゃんの仕事は人気商売だし、対人関係のストレスは半端ないのは知ってるから、それ位の事は甘んじて受け入れてる。
もちろん、俺は姉ちゃんに直接それを言うつもりはないし、姉ちゃんの方も俺に何も言ってこない。
こればかりは、姉弟ならではのやり取りだからな。
まぁ、それはさておき。
姉ちゃんと俺の付き合いはそんな感じだから、アウラとマーレとシャルティアも周囲が思うよりも割と仲が良い。
一生懸命、俺の所まで毎日何度も往復させているのは、ちょっとだけかわいそうな気もするけど、頑張って運んでくる二人の姿は可愛いので、つい頭を撫でちゃうのは仕方がないよな。
すると、シャルティアがやきもちを妬いて拗ねちゃうんだけど、これはお仕事頑張っている二人へのご褒美だから諦めて欲しい。
多分、同じことを姉ちゃんもシャルティアにしているだろうし。
どうも、俺が電脳空間に降りて居る前だと、設定を重視して仲が悪い振りをするみたいだ。
でも、実際に仲が悪い訳じゃない。
俺が電脳空間に降りなかったり、シナリオライターの仕事中で忙しかったりして、俺のメールサーバー内で三人だけの状態になると、姉弟みたいに仲良くわちゃわちゃとお茶会をしているんだ。
こっそり、そんな彼女たちの様子を覗いて見ていると、本当に仲が良くて三人とも可愛くて仕方がない。
三人が仲良くしている姿を、姉ちゃんも同じ様にこっそり見てるのかな?
さて……こんな風に仲が良いメールペット達なんだけど、ここで一人問題児が居るんだ。
多分、ギルメン全員のメールペットが何らかの被害を受けているだろう、問題児の名前はアルベドと言う。
彼女は、タブラさんの所のメールペットなんだけど、彼女の元になった【ナザリック】のNPCが創造主であるタブラさんの趣味に凝り固まった設定を文字数限界までの細かな部分まで書き込まれているせいで、色々とそれに振り回されているんだ。
いや、違うか。
彼女が振り回されているのは、タブラさんが設定文の中につけた最後の一文だ。
あの一文のせいで、彼女は周囲の迷惑や注意をものともせず、メールペットの役目としてギルメンたちにメールを届ける度に、届け先のギルメンに自分への愛を求め、こそこそと彼らのメールペットに地味な嫌がらせをして泣かせているらしい。
うちのシャルティアとは、正面切っていつも喧嘩してるけどな。
いつも、俺に抱き着いてくるアルベドを排除しようと頑張るシャルティアは、滅茶苦茶可愛い!
「ペロロンチーノ様に抱き付くなぁ!!」
って、必死に俺からアルベドを引き剥がそうとするシャルティアの姿を見たら、嬉しくて身悶えるね。
ただ、そこから暫くの間続く二人の喧嘩は、正直言っていただけない。
だけど、アルベドが帰った後にまるで「消毒」だと言わんばかりに抱き付いて離れない姿を見たら、あまりシャルティアを叱れないんだよね。
だって、本気で半泣きになりながら離れないんだもん。
姉ちゃんの所のマーレも、彼女の被害に遭っているらしいし……やっぱり、タブラさんにはきちんとアルベドの言動に対して、それ相応の対策を講じて貰わないと駄目かもしれない。
夜になると、【ユグドラシル】にログインして、ギルメンの皆とクエストやら何やら楽しんだ後、【ユグドラシル】で伝え忘れた事を思い出したらメールで送る。
忘れない内に連絡しないと、お互いにうっかり忘れちゃいそうだからね。
そうして、最後のお使いから帰ってきたシャルティアを出迎えてた後、寝間着に着替えた彼女にお休みの挨拶をして、ペロロンチーノは就寝する。
おはようからお休みまで、シャルティアと一緒なんて本当に嬉しくて仕方がないよね。
そんな感じて、ペロロンチーノは至福の毎日を過ごしている。
と言う訳で、第二弾はペロロンチーノさん視点でした。
ペロロンチーノさんは、思い描いた通りに動くシャルティアと過ごせて、文字通り至福の毎日を過ごしているんですよね。
そして、何気に仲が良い非課金同盟の僕たちです。