メールペットな僕たち   作:水城大地

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前回の続き。
デミウルゴスからのメールの内容と、そこからの会議がどうなったのか。


ギルド会議 4  ~ メールペットたちの反乱? ~

デミウルゴスが差出人のメールを受け取ったギルメン達は、戸惑いながらもそれを開いて内容を確認する事にしたらしい。

モモンガも、慌ててメールを確認したのだが、その内容は驚くべきものだった。

 

『皆様、突然この様なメールを差し上げる事を、まずはお詫び申し上げます。

本来なら、我々メールペットから皆様に対して、この様なメールを差し上げるのも失礼かと思いました。

ですが、この度のアルベドの引き起こした一件により、我らも我慢の限界を越えた為、こうしてメールペット一同の総意をお伝えさせていただきたく存じます。

残念ながら、今のアルベドをこれ以上我々の仲間として認める事は出来ません。

我々メールペットの間で発生した問題なら、まだ彼女の行動を許容する事も出来ました。

しかし、ウルベルト様が今回の様な多大なる被害を被る行為を行い、今後も御方々に迷惑を掛ける行為をする可能性があるアルベドを、このまま放置する事など到底容認出来るものではありません。

よって、誠に勝手な事ではありますが、アルベドを我らと同じサーバーから別の仮想サーバーへ隔離させていただきました。

これは、アルベドを除くメールペットの全てが賛同した総意でもあります。

事後報告となりました事への詫びと共に、御方々にお伝え申し上げます。

 

なお、仮想サーバー内のアルベドに対しては、皆様方から一切の干渉も出来なければその存在を認識する事も出来ません。

逆に、あちらからはこちらの様子が全て確認出来る仕様になっております。

唯一の例外として、アルベドの主であるタブラ様のみ彼女に対して一方的に手紙を送る事だけは出来ますが、それに対する彼女の反応を確認出来る訳ではありません。

彼女の存在を確認する場合は、メールペットの現在位置確認の中の【個体数確認】をご利用ください。

そちらでのみ、 〖メールペットの数:一〗として表示されます。

彼女に対する最後のチャンスとして、こちら側が設定した条件をすべて満たす事が出来た場合、仮想サーバーから解放される事になっています。

ただし、それに関してのヒント等は一切与える事は出来ません。

もし、どなたかがアルベドの仮想サーバーからの解放条件に気付かれたとしても、それを彼女に教える事は厳禁とさせていただきます。

万が一、それを彼女に何らかの形で伝えた時点で、現時点で設定されている仮想サーバーからの解放条件そのものにロックが掛かり、仮想サーバーから今度こそアルベドは出られなくなる仕様です。

ご注意ください。

用件のみをお伝えする事をお許しください。

それでは、これにて失礼させていただきます。

 

メールペット一同 代表デミウルゴス』

 

メールの内容を確認し、慌てて全員でメールサーバーの状況を確認すると、確かに自分たちの使っているものに重なる様に別のサーバーが発生していた。

そして、サーバー内のメールペットの現在位置の確認をしてみれば、普段使っているメインサーバーの方に〖メールペットの数:四十〗、新しく重なる様に発生したものの方に〖メールペットの数:一〗と表示されている。

先程のメールの内容からすると、この別のサーバー内に居る一体のメールペットこそがアルベドなのだろう。

このメールを読んだ誰もが、それこそ沈痛な声を上げて頭を抱えていた。

特に、タブラさんはアルベドがここまで仲間のメールペットたちから疎まれていた事実を目の当たりにして、その場で崩れ落ち床に伏してしまっている。

そんな状況の中で、割と冷静な様子だったのは今回の騒動の発端とも言うべき、ウルベルトさんだった。

 

口元に手を当て、何かを考える様な素振りを見せているのは、アルベドの事が問題になった際の会議の時に話していた様に、内容そのものは教えて貰えていなくても、メールペット側で何らかの行動をしている事を、彼が事前に知っていたからだろうか?

 

どちらにせよ、現状ではモモンガたちにはこのメールに書かれている内容に関して、出来る事は何もない。

これが、まだメールの中に書かれていたシステムの使用前だったとしたら、彼らに対して説得するなりなんなりと言う手段もあり得ただろう。

だが、既にシステム発動をした後でその旨を事後報告されている状況では、この手の事に一番詳しいだろうヘロヘロさんでも、多分これを打開するのは容易ではない筈だ。

 

「……それにしても、まさかこんな手段を考えていたとは思わなかったな……」

 

改めてメールを読み返しつつ、困惑した様に呟くウルベルトさんに対して、 自然と集まっていく周囲の視線は、割と鋭いものだった。

今の呟きによって、ウルベルトさんが事前に【メールペットたちが、何かをしている事を知っていた】事を、彼らも理解してしまったからだ。

まるで全員を代表する様に、ウルベルトさんに対して出来るだけ静かな口調を心掛けながら質問したのは、メールペットたちのメイン開発者であるヘロヘロさんだった。

 

「……もしかして、ウルベルトさんは今回の彼らの行動に関して、何かを知っていたんですか?

だとしたら、どうしてもっと前に我々に対して……いえ、せめて私に対して、あなたが知っている事を教えてくだされば良かったんです。

もし、この事に関してそれと無く教えてくださっていたら、もっと前に対策だって取れたでしょうに。

それとも、デミウルゴスが影で動いていた事だから、ウルベルトさんは彼を守る為に黙っていたという事ですか?」

 

今回ばかりは、内容が内容だけにヘロヘロさんの声も自然と固くなっている。

ヘロヘロさんが、ウルベルトさんに対して問い掛ける内容を聞いて、周囲の視線はますます鋭くなった。

先程のウィルス騒ぎと変わらない位、ウルベルトさんの事を疑いの目で見ている様な気がする。

多分、ヘロヘロさんが質問した事に対して、困った様な顔をしていながら中々ウルベルトさんが返事をしない事も、周囲の視線が鋭い理由なのだろう。

この状況を、モモンガは黙って見てなどいられなかった。

一応、モモンガもウルベルトさんから「うちのデミウルゴスをアドバイザーにして、色々とアルベドの被害に遭ったメールペットたちが集まって何かやっている事位しか知りませんよ」と言う事を聞いていた身として、口を挟むべきだろう。

そう思い、慌てて周囲に対して声を掛けようとした時だった。

 

今回の会議で、普段の【ギルド一の問題児】とは全く違う一面を見せるかの様に、色々と鋭い所を突いて来ていたるし☆ふぁーさんが、呆れた様な声を上げたのは。

 

「あのさぁ……なんで、そんな風にウルベルトさんに対して非難する態度を取れる訳?

そりゃ、こんなメールを貰った事に関して言えば、驚いたと言えば驚いたけど、さ。

別に、ウルベルトさんの事をそんな風に責める前に、自分のメールペットがどんな事を考えて何かしているか、それをきちんと把握していなかった自分達の事を、先ず反省するべきじゃね?

だって、ウルベルトさんが今回の事をざっくりとでも察知していたんだとしたら、それはデミウルゴスとの円滑なコミュニケーションが取れていたって事でしょ?

自分達が、メールペットの事を把握出来ていなかった事を棚に上げて、ウルベルトさんを責めるのはお門違いも良いとこでしょうに。

正直、この際だから言うけどさ。

俺はね、アルベドが今までしていた問題行動にだけ言うなら、メールペットたちがいずれはこんな風に爆発するんじゃないかなって、ずっと思ってたよ?

むしろ、彼女の被害に遭っていたメールペット達の話を小まめに聞いていた俺からすれば、〖ここまで良くも健気に耐えたよなぁ〗って思う位だし。

確かに、今回のウルベルトさんの一件がメールペット達の不満が爆発した切っ掛けだったし、彼らの意見を取りまとめただろうデミウルゴスが、メールの差出人としてメールペットたちの代表を名乗っているけど、この仮想サーバーを最初に作ったのは多分デミウルゴスじゃないと思うな。」

 

軽く片手を振りながら、つらつらとそう自分の推測を展開していくるし☆ふぁーさん。

その主張に、思わず誰もがグッと声に詰まる。

言われてみれば、数回前にタブラさんへの苦情申し立てをした後は、誰も特に何も言っていない。

もちろん、色々とタブラさん側に事情があった事等が考慮されたのと、建御雷さんが間に入って執り成しをしてきたからでもある。

だが、それはあくまでも自分達に対してであり、メールペットときちんと話をしてアルベドの件に関してのフォローをしていたのかと問われたら、多分そこまでしていなかったんじゃないだろうか?

るし☆ふぁーさんの主張に対して、彼がそんな風に言い切った理由が気になったのか、質問を口にしたのはぷにっと萌えさんだ。

 

「……どうして、そう思うんでしょう?

メールの内容を見る限り、ここまでの事を出来るメールペットがいるとしたら、ウルベルトさんの所のデミウルゴス位だと思うのですが……

そう言うからには、何らかの根拠があるんですよね、るし☆ふぁーさん。」

 

そんな風に、思わずるし☆ふぁーさんが主張する根拠を聞いてしまう位には、ぷにっと萌えさんも現在の状況に動揺しているのだろう。

るし☆ふぁーさんの主張は、確かに誰もが声を詰まらせてしまう位に、痛い部分だと思う。

アルベドの事に関して言えば、あの会議の後に多少の改善が見られた事によって、後は時間が解決する部分も多いと見守る姿勢を取っていた。

だけど、こうして改めて言われてみれば、自分達が取った対応は余りにも良くない。

ぶっちゃけ、パンドラズ・アクターを始めとした被害に遭っていたメールペットたちに対して、

 

「あちらにも色々と問題があったみたいだし、その点をある程度改善したから彼女もこの先変わると思う。

だから、環境の変化によって彼女の態度が改善されるまで、お前たちはそのまま我慢してくれ。」

 

と言ったのと同じ事なんだろう。

一応、モモンガはパンドラズ・アクターときちんと話をしていたし、出来る限り注意深く様子を窺っていた事によって、ウルベルトさんの言う通り何かを彼らがしていた事だけは把握していた。

流石に、内容までは「みんなとのお約束なので内緒です」と話して貰えなかったものの、それでも何か彼らなりに考えていた事を知っていたのだ。

もし、ギルメン達がウルベルトさんの事を責めるのなら、るし☆ふぁーさんの様に事情を知る側だと自分も名乗り出て、一緒に責められるべきだろう。

 

と言うより、これは本当に事情をある程度把握していた自分たちが、他のギルメン達から責められるべき案件なんだろうか?

 

つい、モモンガがそんな事を考えている間にも、飄々とした態度のるし☆ふぁーさんは周囲の顔を見渡し、軽く頷いて確認している。

そして、ゆっくりとした仕種で全員の顔を見終えた所で、何かを確信したらしい。

漸くぷにっと萌えさんの質問に答えるべく、利き手の人差し指を立てながら口を開いた。

 

「もちろん、根拠はちゃんとあるに決まってるでしょ。

まず、一つ目。

ぷにっと萌えさんが言う様に、ウルベルトさんの所のデミウルゴスは、確かにメールペットの中で一番能力が高いのは否定しないよ?

だけど、うちの恐怖公だってかなりの能力を持たさせてあるし、ヘロヘロさんの所のソリュシャンだってデミウルゴスと同時期に起動している上に、普段から彼の手伝いをしているそうだから、かなりの能力の保持者だ。

後は、モモンガさんの所のパンドラズ・アクターだって、なんだかんだ言っても元々のNPCの設定の頭が良い事になってるから、それに見合うだけの学習能力があると考えても良いんじゃないかな。

そう言う意味では、この三人だって今回のシステム作成の候補に挙げるべきだよね?

て言うかさ、俺の恐怖公とウルベルトさんの所のデミウルゴスは、本来ならこの件に関しては除外対象じゃない?

だって、今まで一度もアルベドの被害にはあってない訳だし。

そう考えると、むしろアルベドの行動で迷惑を被ったメールペットたちが協力し合って、このシステムを構築したと考えた方が余程あり得ると思うね。」

 

まるで、立て板に水の如く言葉を連ねていくるし☆ふぁーさんの主張は、それこそ筋が通っている内容だった。

言われてみれば、数時間前に起きたウルベルトさんの一件が無ければ、デミウルゴスがアルベドに対して隔意を持つ理由が無い。

もちろん、同じメールペットの仲間が迷惑を被ってはいるものの、迷惑を掛けているアルベドもまたメールペットの仲間である。

むしろ、まだパンドラズ・アクターたち頭の良いメールペットが協力し合って開発したと考えた方が、余程あり得る事だと言って良かった。

そう納得するモモンガを他所に、るし☆ふぁーさんがそう推測していた根拠の説明は、まだまだ続くらしい。

 

「二つ目の理由を挙げるなら、時間的な問題かな?

幾らデミウルゴスでも、これだけのシステムをウルベルトさんのサーバーのウィルスチェックやその他必要な処理をしながら一から短時間で構築するのは、流石に無理なんじゃないかなと思う訳よ。

もしやるとしたら、既に基本となるシステムが完成していた状態に手を加える位かなぁと。

ただ……他人が作った物をそのまま使うより、ちょっとだけ手を加えてアルベドに対する意趣返しもしてそうな気がするんだよね、デミウルゴスなら。

そう言う意味なら、確かにデミウルゴスは無関係じゃないと思うよ、うん。」

 

人差し指に続いて中指を立てる事で、指折り数える仕種を見せる、るし☆ふぁーさん。

彼の推測は、現状では誰もが納得する内容らしく、幾つもの唸り声が上がるものの誰も邪魔する事はない。

すると、るし☆ふぁーさんは薬指を立てながらもう一つ推測を追加した。

 

「三つ目の理由は、俺が割と小まめにメールをやり取りしてた人たちから聞いてた、メールペットの近況から考えた結果、って言えばいいのかな。

例えば、一月半前に貰った弐式さんからのメールには、ナーベラルがデミウルゴスの所に弟子入りしてる事が割と詳しく書いてあったよね?

メールの内容を、個人的な事に触れない様にざっくり言うと、〖ナーベラル以外にもシャルティアとか、色々なメールペットがデミウルゴスに師事したりいろいろ相談したりしてる〗って書いてあったし、ナーベラルは割と恐怖公とかとも上手くやってて色々な事を学習しようとしてる事も、俺は知ってたりする訳だ。

他にも、たっちさんの所のセバスの場合だったら、一緒に過ごす事が多い娘さんがまだ小さいから、彼女の為にセバスが自主的に学ぶ事を望んで、デミウルゴスと恐怖公に色々な事を聞いていたりする事とかさ。

もし……そうやって同じ様な事をしているメールペットが沢山いたのなら、それこそ彼らなりにアルベドへの対策とか相談し合ってたとしても、おかしくないかなぁって思うんだけど……俺の推測、どこかおかしい点はあったかな?」

 

笑顔のアイコンを頭上の上に浮かべながら、そう逆にぷにっと萌えさんを筆頭にギルメンたちに対して尋ねて来るるし☆ふぁーさんの推測に、誰も反論する事は出来なかった。

確かに、お互いにやり取りしているメールペットの話題の中には、〖デミウルゴスに弟子入りしてるみたい〗とか〖何かデミウルゴスとこっそり話し合ってるけど、内容を教えてくれない〗と言う内容が、それこそ当たり前の様に何度も出てきていたからだ。

今回、るし☆ふぁーさんが指折り数えながら言った事は、どれも間違ってなどいない。

間違っていない処か、ちゃんと今までの事をみんながちゃんと考えていれば、ギルメン全員が誰でもすぐに気付けた事だと言っていいだろう。

 

「いえ……あなたの推論は、多分どれも間違っていませんよ、るし☆ふぁーさん。

確かに、私とした事が今回の事に関して言えば、かなり短慮が過ぎましたね。

普段、あれだけ冷静に物事を考える様に口にしていながら、実際にリアルが絡んだ事で少しばかり冷静さを欠いていた様です。

言われてみれば、その可能性を視野に入れていなかった自分が恥ずかしいです。」

 

ぷにっと萌えさんが、素直に自分の非を認めると、るし☆ふぁーさんは改めてぐるりと周囲を見渡した。

多分、自分の推測に対して反論がないか、確認をしているのだろう。

このタイミング以外、自分の事を話す機会が無いだろうと感じたモモンガは、急いでそれを説明するべく片手を挙げた。

 

「……すいません、皆さん。

実は、ウルベルトさんだけではなく、私もざっくりとですがパンドラたちが何かをしている事を知ってました。

ただし、それがどんな内容までは聞いても教えて貰えませんでしたが。

それでも、メールペット達がお互いに協力し合って、何か秘密を持っているという事だけなら、確かに私は知っていました。

ですが、ここまでの大事だと思いませんでしたので、わざわざ皆さんには話してませんでした、すいません。

私が、最初にそれに気付いた切っ掛けこそ、以前の会議でアルベドの事が問題になった時に、ウルベルトさんが帰り際に漏らした『嵐が来るな』と言う言葉を聞いて、その場で彼に理由を確認した後、その日のうちにパンドラに確認したからでした。

ですが、その切っ掛けが無かったとしても、多分ちゃんとメールペットたちの様子を確認して把握していれば、皆さん気付けたと思います。

むしろ、毎回の定例会議であれだけご自分のメールペットたちに関して語る事が出来る皆さんなら、ちゃんとメールペットたちの心境を分かっていると、そう思っていましたので。」

 

最初に、今までこの事を黙っていた事を詫びつつ、そこからモモンガが問い掛ける様に語る内容を聞いて、誰もがバツが悪そうな様子で視線を逸らす。

ギルドの中で、色々と問題児と認識されているるし☆ふぁーさんだけではなく、モモンガからも同じ様な事を言われてしまった事で、自分達がどれだけ溺愛している筈のメールペットの変化を見落としているのか、それを指摘された事に気付いたからだろう。

モモンガの言葉に、ハッと何かに気付いた様にペロロンチーノさんが片手を口元に手を当てると、そのままゆっくりと下を向いていく。

何かを思い出そうと言うのか、もう一方の手で額を覆う仮面に軽く触れると、そのまま指先をコツコツと小さな音を立てて打ち付けていた。

暫くそうしていたのだが、突然何かに思い至ったと言わんばかりに頭をがりがり乱雑に掻き回したかと思うと、小さく低く唸り出して。

ペロロンチーノさんの突然の行動に、その様子に気付いた者から何事かと視線を向ければ、ドンッと頭をテーブルに打ち付けたのである。

余りに様子がおかしいペロロンチーノさんに、姉のぶくぶく茶釜さんが声を掛けようとした途端、そのままの姿勢でペロロンチーノさんは呻く様な声を上げながら話し始めた。

 

「……俺、確かに、るし☆ふぁーさんやモモンガさんの言う様に、シャルティアの出すサインを見落としてた……

と言うより、多分……俺のシャルティアが今回の仮想サーバーの基本形態を作った張本人だと思うんだ。

ちょっと前に、凄く嬉しそうな顔をしていたシャルティアが居て、どうしたんだって聞いたら〖とっても良いものが、漸く作れたんでありんす!〗って言って事があって。

それがどんなものか聞いたんですけど、〖これだけは、申し訳ありんせんけどペロロンチーノ様にもお教え出来ないでありんす〗って言われちゃって、『俺にも内緒だなんて!』って凄くがっくりした記憶があるから、間違いないんじゃないと思う……」

 

どうも、まだ自分の中でぐちゃぐちゃになっている感情が整理出来ていないのか、どこか呆然とした口調でそう告げるペロロンチーノさんに、誰もが驚いた様に視線を向けた。

だが、それも当然の反応だと言っていいだろう。

何故なら、ペロロンチーノさんの所のシャルティアは、【ユグドラシルのNPC】をベースにしているだけに、シャルティアと同様に脳筋に近いタイプだからだ。

正確に言うなら、第一から第三階層の守護者として戦闘方面に特化している分、他の所はペロロンチーノさんの趣味もあって色々と残念な美少女である【ユグドラシルのNPC】のシャルティアと比べて、メールペットのシャルティアは色々なメールペットたちとの交流などによって本来の性格から大分変化した個体だと言っていいだろう。

それでも、やはり脳筋よりだと思われる彼女の手で、アルベドの事を隔離する為のシステムを作れるとは、到底思えなかったからだ。

周囲から、かなり疑わしそうな視線を受けているのだが、ペロロンチーノさんはシャルティアに関しての記憶は間違いないと自信があるらしく、がっくりとした様子のままそれを訂正する様子はない。

それを肯定する様に、ウルベルトさんも「あー……」と声を漏らした。

どうやら、その辺りに関して何か心当たりがあるらしい。

 

「そう言えば……確かに、最近のシャルティアとデミウルゴスはコソコソと端末を覗き込んで何かを話している……と言うのか、何かをシャルティアがデミウルゴスに相談している事が多くて、前の様に俺の前でも平気でSAN値をごりごり削る様な会話をしなくなってましたね。

その辺りから、シャルティアが自分の端末でもデミウルゴスのアドバイスを書き込んでいる姿を何度も見てますし、何かを教えて貰っていた事は間違いありません。

たまに、モモンガさんの所のパンドラも合流して、三人で一緒に何か討論をしている雰囲気だったんですけど、俺が近付くとすぐに端末を片付けちゃうんで、内容までは確認出来てませんでしたよ、えぇ……」

 

ペロロンチーノさんの言葉が間違いない事を証明するかの様に、ウルベルトさんが自分の所に来ていた時の様子を語ったのだが、そこにモモンガのパンドラズ・アクターが一緒に居た事も加えられ、ちょっとだけ驚く。

だが、あの三人が集まって何かやっている姿を想像すると、ある意味モモンガ達と同じ位仲が良く遊んでいる姿が想像出来てしまって、ちょっとだけほっこりとしてしまった。

アルベドの事が問題になる前、こっそりパンドラズ・アクターの日記を三人で読んだ時の様な、そんな感じで集まっている姿が簡単に思い描けてしまう。

 

これは、多分ウルベルトさんやペロロンチーノさんも同じ感想なんじゃないだろうか?

 

だからこそ、つい彼らの行動をウルベルトさんも【仲が良いもんだ】と見逃してしまった様な、そんな気がモモンガにはして仕方がない。

モモンガ達が、三人でちょっとだけ納得した様な顔をしていると、ペロロンチーノさんやウルベルトさんの言葉を聞いて、少し考える素振りを見せたのはヘロヘロさんだった。

まるで何かを思い出す様に、手を動かしながら周囲に聞き取れない様な声で呟いていたかと思うと、どうやらその答えに思い当たったらしく、ペシンッと軽く頭を叩く。

 

「あー……実は、私も一つ思い当たる事がありますね。

メールペットのサーバーですが、今メインで使っているもの以外にも、予備で使えるものをミラーサーバーに準備したものがあったんですよ。

予想より、メインサーバーが安定していたので、そのままそちらは放置に近い状態にしてありました。

多分、それを上手く利用して今回の様な隔離する為の仮想サーバーを考案したんじゃないかと思います。

その方法なら、多分手間を掛ければシャルティアでも何とか完成出来るだけの方法を、デミウルゴスなら思い付くと思いますし。

ミラーサーバーの事を、ここの所の多忙さで私自身がすっかり忘れていましたから、この件に関して私も非があると言うべきでしょうねぇ。

そもそも、るし☆ふぁーさんの主張は正しいと私も思います。

正直、我々は実際にアルベドの傍若無人な行動による被害に遭った彼らの事を思いやる様で、実際には〖もう少し様子を見て欲しい〗と我慢を強いるなど、少々蔑ろにしていた部分があるんじゃないでしょうか?

うちのソリュシャンは、殆ど私と一緒の時にしかアルベドが訪ねて来ませんでしたから、彼女の被害に遭ったのも一回だけでしたし、その時にきちんと精神的なケアをしてあると思っていた分、余計に油断していた様な気もします。

こんな事になるなら、彼女たちがどんな風にアルベドの取った行動を受け取っていたのか、我々も、もっとちゃんと向き合った上でしっかり話すべきでしたね。」

 

溜息交じりにそう言うヘロヘロに、お互いにバツが悪そうな感じで顔を見合わせるギルメン達。

今までのやり取りを聞いていれば、タブラさん側の事情を考慮して情状酌量と言う形で、アルベドの行動をそこまで咎めたりしなかった事がそもそもの問題なのだと、理解出来てしまったからだろう。

これに関しては、もちろんタブラさん自身からの謝罪をきちんと受けた事と、間に立った建御雷さんの顔を立ててと言う理由があるが、それでももう少しメールペットたちの事を考えるべきだったのだ。

ここで、今まで黙っていたたっちさんが周囲を見渡し、ゆっくりと片手を挙げた。

どうやら、彼もまたこの場で言いたい事があるのだろう。

他に誰も意見がある様ではなかったので、モモンガは頷いて見せる事で了承すると、たっちさんの話を聞く事にした。

 

「今回の事ですが、確かにウルベルトさんの一件が引き金になったと考えて、まず間違いないでしょう。

だからと言って、今までメールペットたちが被害を受けていただろう、アルベドの行動に関しても問題がない訳ではないと思います。

幸か不幸か、私のセバスは被害の対象外でした。

なので、この件に関して被害者側でも加害者側でもなく意見が言えると思います。

まず、皆さんに確認したい事があるのですが、宜しいでしょうか?

一つは、皆さんは自分のメールペットたちに対して、〖アルベドの行動をどう説明したのか?〗と言う点です。

彼らが納得出来るだけの理由を、ちゃんと皆さんは彼らに対して話していましたか?

皆さんは、忘れがちなので言わせて貰いますけど、それぞれが人格と個性を与えられた交流育成型の電脳空間に存在するメールペット、つまり我々にとって小さな子供の様な存在です。

ナザリックのNPCとは違い、彼らは自分の意思で考えたり動いたり出来る事を、皆さん忘れていませんか?

逆にタブラさんは、アルベドに行動を改める様に注意しましたか?

彼女が、思い違いをして変な行動をしていたとしたら、それはタブラさん自身が対応を間違えていたと考えるべきでしょう。

今の二つに対する答えによっては、彼らの行動は仕方がないと考えるべきかもしれません。」

 

冷静に、確認を取る様にギルメン全員の顔へと視線を向ける。

真っ直ぐに見るたっちさんの視線を、多くのギルメンが受け止められない様に視線を反らしている様子から、彼らは説明が不足していたのが予想出来た。

それだけで、ある程度の状況を察したたっちさんは溜め息を吐く。

 

「……そもそも、 あなた達は今回の事をどう対応するつもりだったんですか?

全ての責任を、ウルベルトさんと彼の所のデミウルゴスに押し付けて、〖自分たちは勝手にサーバーを弄られただけだから関係ない〗、自分たちのメールペットも〖デミウルゴスの怒りに飲まれただけで関係ない〗、という風にするつもりだったんですか?

そんな勝手な話が、この状況で通用する訳が無いでしょう。

まず、このメールの差出人ですが、【メールペット代表】と書いてあります。

最終的に、この騒動のきっかけを作ったと言う意味も込められている事から、差出人こそデミウルゴスの名前が代表者に上がっていますが、これはメールに書かれていた様にメールペット全員の総意と受け止めるべきでしょう。

そう考えると、現時点でちゃんと彼らの事を納得させた上で事を収めるのは、かなり難しいと思いますよ。

と言うより、既に仮想サーバーの起動を実行してしまっている以上、これをお互いに遺恨を残す事なく解除するのは、多分アルベドが解放条件を自分でクリアするのが一番ではないかと、そう私は推察します。」

 

そこで言葉を切ると、たっちさんは円卓をゆっくりと見渡して全員の反応を見た。

多分、ここまでの自分の意見に対して、反論があるならそれを聞くつもりだったのだろう。

けれど、誰からも反論する言葉が出てこなかった。

もしかしたら、たっちさんの言う様に全部の責任をウルベルトさんとデミウルゴスに押し付けて、それで終わりにしようと考えていた人も中には居たかもしれない。

だが、それで話が収まる状況ではないのだと、改めて現実を突き付けられた事で、そんな逃げが通用しなくなったからこそ、誰も反論しなかったのだ。

暫く待って、誰からも反論が無い事を確認したたっちさんは、更に話を続けるべく口を開く。

 

「今までの事や今回の事情を踏まえた上で、彼らの取った行動には多くの問題があるのは間違いありません。

ですが……そこまでの事を彼らにさせる決意をさせたのも、先程から何度も出ている事ですが、今まで我々の方が彼らに我慢をさせていた結果です。

それこそ、簡単にアルベドを許してしまう事が出来ない位には、彼らの側には我慢も限界に来ていた事は間違いないでしょう。

多分、こちらがこの状況すら無視して彼女の行動を許してしまえば、ますます彼らの中にあるアルベドへの不満は募るでしょうし、もしかしたらその不満が我々に対しての不信へと変わるかもしれない。

それともあなた達は、この行動を取った事に対して彼らに責任を問う為にも、今いるメールペット達を全消去するとでも言いたいんですか?

定例会議の度に、それぞれ持ち時間が足りないと言わんばかりに自分のメールペットの事を話していたあなたたちに、そんな事が本当に出来ますか?

それとも、あれだけ自分の愛情を注いだ存在を、ちょっとした問題を起こした程度で消してしまいますか?

むしろ、あれだけアルベドが起こした行動に関しては見逃しておきながら、彼らの行動に関しては許さないと言うつもりなんですか?

少なくとも、彼らがあそこまでの行動を起こしてしまう程、アルベドに対して不満を溜め込んでいたという訳ですよね?

多分、今回の行動を起こすまでにはモモンガさんやペロロンチーノさんの言った様に、何らかの合図を出していた筈です。

そんな彼らの合図を見逃しておきながら、今回の様な自分たちの思い通りにならない行動をしただけで、彼らの事を消してしまうんですか?

あなたたちは、そんなにあっさり……彼らの事を消せてしまうんですか、本当に?

先に言っておきますが、私はそんな決議を出されたら反対しますからね。

私の娘にとって、メールペットたちは電脳空間で出来た大切なお友達ですし、セバスは家族の様な存在です。

そんな娘に、メールペットの全消去なんて真似をして、彼らが簡単に消されてしまう存在だと言うトラウマを植え付けるつもりですか?

更に言うなら、私にとってセバスは大切な息子です。

あなたたちの都合で、私にとって大切な息子や娘の大切なお友達を消されるなんて、冗談ではありません。」

 

つらつらと自分の考えを連ねるたっちさんを、誰も止められなかった。

確かに、最終的にどうするかと言う問題を話し合うなら、たっちさんが口にした内容はどれも考えるべき事だったからだ。

多分、誰もそこまでは考えていなかったんだと、モモンガは周囲の様子を見てすぐに理解する。

と言うより、もしかしたら考えない様にしていた、と言うべきなのかもしれなかった。

 

たっちさんが言う様に、この中に居る誰もが自分のメールペットを消すなんて判断が下せる程、メールペットに対しての思い入れが少ない訳ではないのだから。

 

「あのさぁ……そこまで深刻に考えなくても、別にいいと俺は思うけどなぁ。」

 

たっちさんの言葉によって、現実を突き付けられて誰もが押し黙ってしまったのを見ながら、「仕方がないなぁ」と言わんばかりに声を上げたのは、やっぱりるし☆ふぁーさんだった。

軽く手を振りながら、先ずはたっちさんの顔を見た。

彼もまた、アルベドの被害を直接受けていないメールペットの主として、たっちさんの様に自分の意見を口にするつもりなんだろう。

最初にたっちさんを見たのは、多分「言い過ぎだ」と言いたかったんじゃないだろうか?

たっちさんが、首を竦めているのを見た後、全員の事をゆっくりと視線を目がらせてから、るし☆ふぁーさんはゆっくりと溜息交じりに話し始めた。

 

「今、たっちさんが言ったみたいに、誰だって自分のメールペットが可愛くて仕方がないんだし、最初から彼らの事を罰する理由で全消去って選択肢は、まずあり得ない話だと思うよ?

それこそ、全員の今までの会議の際の様子を考えるなら、自分のメールペットに対して期間を決めてちょっとした罰を与えるのが精一杯って所じゃね?

まぁ、タブラさん所のアルベドを仮想サーバーに落としちゃったのは、色々とやり過ぎな部分は確かにあるとは思うけどね。

それだって、全く救済が無いって訳じゃないみたいなんだし、これに関しては今までメールペットの輪を乱していたアルベドへの罰って事で、今回は彼らの行動を大目に見てあげれば良いじゃないかと思うよ、俺は。」

 

サクサクッと、割り切った様な口調で言い切られ、思わず誰もがるし☆ふぁーさんの顔を注目してしまった。

周囲からの視線に対して、るし☆ふぁーさんは面倒くさそうな様子で自分の椅子の背凭れに思い切り身を預けながら、頭の上で腕を組む。

そのまま軽く椅子を揺らしつつ、まだ言い終わっていないらしい言葉を続けた。

 

「だってさぁ……考えてみたら凄く不公平でしょ?

俺たちの間で、この【メールペット】が稼働して大体五カ月になるけど、アルベドはそれまでの間ずっとメールペット全体の九割に対して何らかの迷惑を掛けておきながら、それを〖タブラさん側にも色々と事情があったから、暫く大目に見てやってくれ〗なんて、彼らからしたら言い訳にもならない理由で見逃されてたんだもん。

たった一回、それも危うくウルベルトさんの引退と死亡案件に繋がりそうな悪戯をアルベドがした事に対して、今までそんな彼女の行動を我慢していたメールペットたちが、我慢の限界を超えたってだけだよね?

そんな風に、我慢しきれなくなって立ち上がった事を理由に彼らの事をどうこうする位なら、最初から輪を乱すアルベドの方を罰するべきだったんだよ。

俺たちが、アルベドの行動に対して何もしてくれないって思ったから、彼らはこんな自衛手段をいつの間にか用意していたって事だけでしょ?

むしろ、こんなものを用意させた揚げ句に使わせてしまった事を、俺たちの方が反省すべきだと思うけどね。

今回の仮想サーバーを起動させたのは、直接主に危害を加えられたデミウルゴスかもしれない。

でもさぁ……デミウルゴスの視点から今回の一件を見たら、自分の主がアルベドの悪戯のせいで、あわや死を覚悟する様な真似をされた訳でしょ?

そんな事をされて、普通に彼は黙っていられる様なタイプじゃないし、自分がやった事に対して強烈なしっぺ返しを食らったとしても、デミウルゴスに対して手を出す時点で、それ位は最初から覚悟してたでしょ、アルベドも。

だから、〖アルベドが今回ばかりはやり過ぎたから、思い切り強烈な仕返しをされてしまった〗と言う程度で、今回の事は考えれば良いんじゃないの?」

 

「子供の喧嘩と一緒だよ」などと、単純な事の様に言い切って笑うるし☆ふぁーさんの言葉は、とてつもなく乱暴な主張の様な気がした。

だが、彼の言う様にメールペットたちの事を自分達の子供に当て嵌めて考えてみれば、確かに彼の主張が当て嵌まる部分は多い。

そう言う意味では、たっちさんやるし☆ふぁーさんが言う言葉は、漠然と状況を察していたウルベルトさん以外のギルメン全員にとって耳が痛い限りだった。

 




長くなったので、一旦ここで話を切ります。
予定では、今回の話で会議の終了までこぎつける予定でしたが、そこまで書くと長くなりすぎるので切りました。
とは言っても、今までで最長の長さですが。
今回のるし☆ふぁーさんは、ギルド最大の問題児の立場ではなく、割と真面目な言動を心掛けて貰いました。
流石に、この状況下で彼もふざけたりはしないでしょうからね。
元は頭が良いからこそ、普段はあんな風に人に悪戯を仕掛けるのが上手くて、最終的に問題児になってるんじゃないかなぁと。

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