メールペットな僕たち   作:水城大地

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メールペットの続きになります。
今回も、ちょっとだけ短めです。
内容的には、ウルベルトさんがかなり不幸な目に合ってます。
ご了承くださいません。


ギルド会議 2 ~騒動の始まり~

その日……ウルベルトさんは、ユグドラシルに中々ログインして来る様子が無かった。

 

いつもなら、十日に一度のギルド会議の日は、必ず早い時間帯にログインして会議の準備を色々している人だった事もあり、その違和感がギルメンたち全員に広がっていて、どこか何とも言い難い嫌な予感が漂っている。

あれで、普段からギルドの中でも【魔法職最強】としてなまじ存在感がある人だから、他のギルメンが全員揃っている状況で居ない事も、この何とも言えない違和感の原因なのだろう。

その為なのか、どうも空気がピリピリしている事を肌で感じ取ったモモンガは、ギルド長として対応するべきなのかと、色々と考えていた時である。

 

漸く、待ち人たるウルベルトさんがログインしてきたのは。

 

ログインが終了し、円卓の前に姿を見せたウルベルトさんは自分の席に座ると、無言のままぐったりとした様子でその場に突っ伏した。

普段の彼から考えると、ログインして来たらきちんと挨拶をする人だし、こんな風にあっさりとギルメンの前で弱っている所を見せるなんて、到底あり得ない姿だと言っていいだろう。

一体、どうしたものかとモモンガが考えた瞬間、ゆらりと身体を起こしたウルベルトさんは、ギルメン達への挨拶をするのを忘れたまま、かなり強張った声でこう口にした。

 

「すいません……俺は、どうやら皆さんと一緒に居られるのは今日までみたいです。

先程、強制的に会社を首になってしまったので、もう【ユグドラシル】を続ける経済的な余裕は、全くなくなってしまいました……」

 

それだけ言うと、また力なく机の上に突っ伏すウルベルトさんの様子は、もう燃え尽きた様な印象が強い。

昨日まで、そんな素振りも見せずに色々と頑張っていたのを知っているだけに、どうしてそんな事になったのかモモンガには信じられなかった。

似た様な事を、ウルベルトさんの隣に座るペロロンチーノさんも考えたのだろう。

心配する様な声音で、そっとウルベルトさんに声を掛ける。

 

「一体、どうしてそんな事になるんですか?

確か、〖 少しだけですけど役が付くかもしれない 〗って言いながら、先日まで色々と頑張ってたよね?」

 

今の、色々と弱り切っているだろう彼にそれを聞くのは、かなりデリケートな部分でもあるので色々と躊躇う気持ちが大きい。

確かに大きいのだが、どうしてそんな事態に彼が陥ったのか、その事実関係を実際に聞かなければ状況を判断する事も出来ないので、話を切り出したペロロンチーノさんに対して内心拍手を送る。

こんな風に、彼が話を切り出してくれた事によって、ウルベルトさんもただ自分が【首になったから、ユグドラシルを続けられない】と言う事だけを端的に伝えていた事に気付いたのだろう。

少しだけ迷う素振りを見せた後、どちらにせよこの場から去る身だと腹を括ったのか、ゆっくりと口を開いた。

 

「……実は、今日提出の社内コンペの書類があったんです。

ペロロンチーノさんが、先程言った様にその結果次第でほんの少し役が付く可能性がありました。

それの制作には、朱雀さんとかに教えて貰った資料を集めたりとか、デミウルゴスに色々と手伝って貰ったりして完成したものだったんです。

てすが、出社してそれを上司に提出したら、一時間後にそれを精査した工場長から呼び出され、既に俺が提出したものと丸々同じ内容のものが別の社員から三十分前に提出された後だというんです。

後から提出した俺の作成した書類は、そいつのデータを盗んで作成されたものだと勝手に決め付けられて、工場長から首を言い渡されました。

〖 これだけ綿密な書類を、小卒のお前には作成出来る筈がない。

全く同じ内容の書類を提出している、中卒の彼のデータをどうやってか盗んでそれを丸々コピーしだんだろう。

うちの工場に、そんな泥棒の真似をする人間は要らない、貴様は首だ! 〗って。

俺の話は一切聞いてくれないまま、社員が工場に入る為のパスを取り上げられて工場の外へ叩き出されてしまいました。

追い出される際に、工場長の〖お前の私物は全てこちらで処分しておく〗という声も聞こえましたし、もうどうする事も出来なくて……

間違いなく、そいつが俺のデータを盗んだと言えるだけの確証もあるのに、俺の話を聞く気はないと言わんばかりに一切の連絡が繋がらなくて、もう本当に八方塞がりなんです。」

 

そこまで口にした所で、がっくりと肩を落としているウルベルトさんは、本当に今までの様に自信に溢れた姿しか知らないモモンガにすれば、可哀想な程に萎れていると言っていい。

どう考えても、工場長の対応は普通ではあり得ない様な代物だと思う。

だが、ウルベルトさんがどういう交友関係を持っていて、どんな風に問題の書類を作り上げたのか、プライベートに関わる事もあって、彼らは知らないのだ。

それなら、貧困層出身で学歴も小卒のウルベルトさんでは、中卒の社員より劣るのが当たり前だし同じ内容の書類が出されたのだとしたら、ウルベルトさんがその社員のデータを盗んだのだと、そう思われてしまっている可能性の方が高い。

だから、実際には相手の方がウルベルトさんからデータを盗んで提出した物を信用し、彼の方が冤罪を掛けられてしまったのだろう。

 

ざわざわと、ギルメン達からも色々な声が上がる中、一つだけあり得ない事に気付いたのはヘロヘロさんだった。

 

「……ちょっと待って下さい。

確か、ウルベルトさんの電脳サーバーは、デミウルゴスが幾重にも積み重ねたセキュリティシステムの防御壁が護りを固めてる筈ですよね?

前に一度、デミウルゴス本人から〖 ウィルス対策について、ご教授願えますか? 〗って質問を受けて、簡単にだけどそれに関して講義した事あるし、かなりかっちりした代物が構築されている筈だから、そう簡単にウィルスに侵入を許す筈がないと思うんだけど。」

 

「データを取られた事自体が、あり得ない」と、そうデミウルゴスのセキュリティシステムの強固さを知るヘロヘロさんの言葉に対して、がっくりとしたままウルベルトさんは首を振る。

その様子を見れば、そのあり得ない事が起きたのは間違いなかった。

ヘロヘロさんも、それを察したのだろう。

驚いた様に席から立ち上がると、ウルベルトさんの方へと駆け寄った。

 

「ゆっくりで良いですから、状況を整理する為にも話して下さい、ウルベルトさん。

この話は、ウルベルトさん達だけの問題じゃなくなっている可能性があります。

私たちギルメンの中で、一番強固なセキュリティシステムを持っているのは、私の所かウルベルトさんの所なのは、皆さんだってご存知でしょう?

今回の一件が、ウルベルトさんだけを付け狙ったウィルスだったとしても、その影響が他のメールペット達にまで出ないと、断言出来るだけのものがありません。

これは、【メールペットソフト】を使用している私たち共有の問題なんです。」

 

ヘロヘロさんの言った言葉を聞いて、一気に場の空気がウルベルトさんに対して険悪な物へと変わっていく。

確かに、自分たちの可愛いメールペットに影響が出る可能性があると言われたら、黙っていられないのは判る。

だが、あくまでもウルベルトさんは被害者でしかないのに、このままだとまるでウルベルトさんが悪いという感じになってしまうのではないだろうか?

そんな風に、どう考えても非があるとは思えないウルベルトさんとギルメン達が争うなんて言う状況など、とてもモモンガには耐えられなかった。

 

「ちょっと皆さん、落ち着いて下さい。

どう考えても、悪いのはそのウィルスを仕掛けてまでウルベルトさんのデータを盗んだ相手であって、ウルベルトさん本人じゃないですよね?

そんな風に、皆さんが〖 まるでウルベルトさんが悪い 〗という反応をするのは、どうかと思います。

まず、最初に私たちがウルベルトさんに確認する事があるとすれば、データを盗まれたと判明した時点で、どういう対応をしたかと言う事でしょう?

ここに、こうしてウルベルトさんが来ていると言う事は、既にきちんとウィルスチェック等が済んで安全の確認が済んでいるからじゃないかと、私は思うんです。

……違いますか?」

 

周囲を落ち着かせる様に、モモンガは周囲に対してギルド長として発言しつつ、最後にウルベルトさんに対して問う様な声を掛ける。

それを聞いて、自分たちがいつの間にか被害者であるウルベルトさんを責める様な雰囲気を醸し出していた事に気付いたギルメン達は、ちょっとだけバツが悪そうな様子で視線を逸らした。

確かに、モモンガの言う通りだと、その場にいる全員が思ったからである。

微妙だった空気が変わった事と、モモンガが掛けた言葉で少し気が落ち着いたのか、こちらの問いに同意する様にウルベルトさんは頷いた。

彼が同意を示した事で、今の時点ではきちんとウィルスへの対策済みだと判明し、場の空気も少しだけ落ち着きを見せる。

それによって、更に場が落ち着いた事で自分も落ち着いたのか、ゆっくりとウルベルトさんが口を開いた。

 

「……すいません、色々と重なり過ぎてテンパってました。

まずは、ウィルスに関してはモモンガさんがおっしゃった様に、既に対処済みです。

工場から叩き出されてすぐ……それこそデータを盗まれたと考えた時点で、手持ちの端末からデミウルゴスに連絡を取り、俺のサーバー内全部をチェックして貰いましたし、俺自身も自宅に戻った後で出来る限りの処置を取りましたから、まず問題ないでしょう。

元々、俺の電脳空間に侵入したウィルスは、一番新しく登録してある大容量のデータを盗んだら、証拠隠滅の為に消滅するタイプだったと、最初に電脳空間をチェックしたデミウルゴスからも報告が上がっています。

なので、皆さんのメールペット達にも影響は出ません。

それに関しては、間違いないと断言出来ます。

実は、俺とデミウルゴスでそれぞれ三回目のウィルスチェックが済んでほぼ安全が確保出来た所で、丁度るし☆ふぁーさんのメールを運んで来てくれていた恐怖公が、ちょっとした裏技で再度チェックしてくれまして。

それで、一切のウィルスが検索される事はなく安全だと確定してますし、心配ないでしょう。

……出来れば、私のサーバーの中でアレが展開される様は見たくなかったですけど、今回ばかりは背に腹は代えられないので諦めて受け入れました。

あくまでも、恐怖公は好意から申し出てくれた訳ですし、ね……」

 

最初の方は普通に話していたのに、恐怖公が来た事を話し始めた辺りから、どこか声が虚ろになるウルベルトさんに対して、それは楽しそうな笑みを浮かべたるし☆ふぁーさん。

その二人の様子を見ているだけで、どう考えても嫌な予感しかしないのだが、一応何があったのか確認しておくべきだろう。

大きく深呼吸した後、モモンガはあまりその辺りを詳しく話したがらないウルベルトさんではなく、恐怖公の主であるるし☆ふぁーさんに視線を向けた。

 

「……どう考えても、ウルベルトさんが精神的に更に消耗している気がするんですけど、恐怖公に一体何を仕込んでいたんですか?」

 

何となく、この問いに対してるし☆ふぁーさんが口にする答えは予想出来てしまうし、出来ればそれが事実ではあって欲しくはないと思うものの、きちんと彼からどんな事なのか確認しておかないと、後々問題になりそうな案件だとモモンガは思う。

だからこそ、こうしてあまり聞きたくない事を尋ねたのだが、それに対して楽しそうに笑っていたるし☆ふぁーさんは、仕方がないなぁと言わんばかりに口を開いた。

 

「えー……その状況なら、恐怖公がウルベルトさんの所でしたのは、多分【眷属召喚】かな?

どうせなら、ナザリックのNPCの能力の再現に近い事がメールペットにも出来ないかと思って、試しにウィルスチェック用の【恐怖公の眷属】を作ってみたんだ。

何もない状態なら、ごく普通の恐怖公の眷属で済むんだけど、もしウィルスと思われる様な存在を半径五十センチ以内に感知したら、その場で点滅する様にしておいたんだよね。

その能力を使って、恐怖公がウィルスチェックして大丈夫だったら、まず今のウルベルトさんの所でのウィルス感染とかは心配しなくて大丈夫だと思うよ?」

 

ニコニコと、笑いながら説明するるし☆ふぁーさんに、恐怖公が苦手なギルメン達から一気に血の気が引く。

想像するのも嫌だが、実際にそれを体験させられたウルベルトさんが居る以上、本当に恐怖公が持つ能力なのだろう。

そう理解した瞬間、またぐったりと机に突っ伏したウルベルトさん以外のギルメン達は、そんな能力を恐怖公に付けたるし☆ふぁーさんに対して思い切りドン引いていた。

 

どう考えても、ウィルスチェックと言う名を借りた、ナザリックの第二階層にある【黒棺】の再現である。

 

流石に、どんな名目を付けていても、それはない。

恐怖公単独なら、それほど気にせず平気に相手が出来るモモンガでも、【黒棺】だけは用もなく自分から行ってみようとは思わない。

それを、自分の電脳空間で再現されたりなんてしたら、暫く電脳空間に降りる際にそれを思い出してしまいそうな位には、立派な恐怖体験なんじゃないだろうか?

状況的に、今回ばかりは仕方がなかったと言う事が判っていても、自分の電脳空間内全域で【黒棺】の再現を展開されると言う状況を、実際に体験してしまっただろうウルベルトさんに対して、一気にギルメン達から同情的な空気が湧いていた。

 

 




という訳で、メールペットの続きになります。

ですが、今後の話の展開的な理由で、一旦ここで切らせていただきます。
ウルベルトさんは、このまま不幸になる予定ではないので、ご安心ください。
それだと、このシリーズの最終目標である〖モモンガさんにとって円満な世界〗にはならないので。


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